病院での治療を終えて自宅に戻ったOに
私は時々会いに行ったけど
Oの様子にほとんど変化は無かった。
相変わらず周囲のものに興味の無い様子で
一点を見つめるか、或いは視点を定めずに
うろうろさせたまま
かさぶたをいじったり顔の傷跡を触ったりしていた。
好きだった動物にも興味がなくなり
飼ったシーズーがじゃれつくと感慨なく手で払っていた。
見慣れた自宅やその周囲の風景などを見て
何か感じるものがあるかもしれない、という
淡い期待は立ち消える。
…K君の事を話したい。
何せ事故にあう前のOはK君の話ばかりしていたのだ。
Oは様々な記憶を失ったけど、その中の大きな部分を占めていた
K君の話題を出して、少しでも記憶を戻す手助けを出来ないのは辛い。
せめてもの抵抗としてK君の話以外、
どんな些細な思い出話もOに話した。
思い出話のほとんどにK君が絡んでいたし
それがきっかけになってK君の事を思い出してくれたらと
ありとあらゆる些細な出来事を話した。
傍目に見るとおちのない話を延々と続ける女である。
さぞかし変な光景だったろう。
だけどその些細な出来事をOが思い出した時には
俯いてかさぶたを触っているOの顔が上がり、遠くを見て笑う。
そしてほんの少しだけ私の顔を見てくれるのが嬉しかった。
射撃で手ごたえは感じるのに大きな爆弾は落とせない、
そんなじりじりした日が何週も続いた。
が、そこへ待ちに待った変化が訪れる。
K君がOに会うことを許してもらったのだ。
私はその場に立ち会った訳ではなく、
後からK君ならびにOのお母さんから事情を聞いた。
口下手なK君はうまく自分の気持ちを伝える事が出来ず、
ただただ家の前に佇んでいる事が多かった、と
のちにOのお母さんはぷりぷりしながら言った。
何や、はっきりせん子やね!と何度も怒ったという。
だけど毎日のように通いつめるK君の姿に
そのうち根負けし、仕方なく家に上げて
Oに会わせた。ところがである。
何を見ても何をしても反応しなかったOが
K君に会った途端、突然喋りだした。
自分の体調のことをぽつっと話し(ちょっと頭が痛い)、
K君の顔を見、K君の名前を口にして
随分前にしたゲームの話、買い物に行った話、
以前病院に付き添ってもらったときの話をした。
そして
今日は一体どうしたのかと聞いたのだ。
私は時々会いに行ったけど
Oの様子にほとんど変化は無かった。
相変わらず周囲のものに興味の無い様子で
一点を見つめるか、或いは視点を定めずに
うろうろさせたまま
かさぶたをいじったり顔の傷跡を触ったりしていた。
好きだった動物にも興味がなくなり
飼ったシーズーがじゃれつくと感慨なく手で払っていた。
見慣れた自宅やその周囲の風景などを見て
何か感じるものがあるかもしれない、という
淡い期待は立ち消える。
…K君の事を話したい。
何せ事故にあう前のOはK君の話ばかりしていたのだ。
Oは様々な記憶を失ったけど、その中の大きな部分を占めていた
K君の話題を出して、少しでも記憶を戻す手助けを出来ないのは辛い。
せめてもの抵抗としてK君の話以外、
どんな些細な思い出話もOに話した。
思い出話のほとんどにK君が絡んでいたし
それがきっかけになってK君の事を思い出してくれたらと
ありとあらゆる些細な出来事を話した。
傍目に見るとおちのない話を延々と続ける女である。
さぞかし変な光景だったろう。
だけどその些細な出来事をOが思い出した時には
俯いてかさぶたを触っているOの顔が上がり、遠くを見て笑う。
そしてほんの少しだけ私の顔を見てくれるのが嬉しかった。
射撃で手ごたえは感じるのに大きな爆弾は落とせない、
そんなじりじりした日が何週も続いた。
が、そこへ待ちに待った変化が訪れる。
K君がOに会うことを許してもらったのだ。
私はその場に立ち会った訳ではなく、
後からK君ならびにOのお母さんから事情を聞いた。
口下手なK君はうまく自分の気持ちを伝える事が出来ず、
ただただ家の前に佇んでいる事が多かった、と
のちにOのお母さんはぷりぷりしながら言った。
何や、はっきりせん子やね!と何度も怒ったという。
だけど毎日のように通いつめるK君の姿に
そのうち根負けし、仕方なく家に上げて
Oに会わせた。ところがである。
何を見ても何をしても反応しなかったOが
K君に会った途端、突然喋りだした。
自分の体調のことをぽつっと話し(ちょっと頭が痛い)、
K君の顔を見、K君の名前を口にして
随分前にしたゲームの話、買い物に行った話、
以前病院に付き添ってもらったときの話をした。
そして
今日は一体どうしたのかと聞いたのだ。