レンキン

外国の写真と
それとは関係ないぼそぼそ

長いトンネル(26)

2007年03月13日 | 昔の話
 当時はK君もOのお母さんも興奮していたし
何より私自身が大興奮していたので
二人が会った時の本当に詳しい状況ではないかもしれない。
だけどはっきり覚えている事があって
それは玄関先で佇み、謝罪を口にしたK君に
「そんな事はいいからまあ上がりなよ」と
Oが言ったということ。


それまでのOからしたら劇的な変化だ。
自分から何かを話し出すような事もなく
物事に何の興味ももたず
誰かの顔を見ることもなかったOが
K君を見た途端、以前のような口調で話しかけたのだ。
行き止まりだと思っていた道の果てに突き当たってみると
もっと先まで道が伸びていた、そんな感じだ。
病院での治療が終わっても
この先はこうして回復していけるのだと思えた。


停滞に吐く息が尽きかけていたOの家族にとっても
絶望の只中にあったK君にとっても
それは眩しすぎるほどの希望だった。



私はようやく大手を振って、皆で一緒に旅行へ行った時の写真や
K君とOを二人で写した写真などを見せる事が出来た。
当時私は写真を撮るのが好きだったので
そんな写真はいくらでも持っていた。
Oの家に行く前日は持って行く写真選びに始まり、
その写真にまつわるエピソードを思い浮かべながら
気合を入れて準備し、
K君を入れた同僚や先輩と一緒に
朝早くから張り切ってOの家の門を叩いた。



この時期に私は人の様々な側面を見る。
それは当時の特殊な状況が見せたものだった。
普段では絶対に見ることが出来ない
その「人として」の部分。