ある日K君はOに「他の人が好きになった」と話し、
Oは次の日にその事を私に話してくれた。
Oがどこまで理解しているか分からなかったけど
Oの口調は元彼女というよりは
K君のお母さんみたいだった。
しょうがない子だよね、と。
そんな告白以降もOの態度は以前と変わらず
というか以前よりもよくK君に話しかけていた。
話の内容は他愛のないものだったけど
相手がK君でなくてもいい話がほとんどだった。
私も、周囲の人も、何よりK君が
…Oは話の内容を
よく分かっていなかったのかな、と思った。
私の最後の出社日はごくごく普通に過ぎていった。
仕事がとても忙しく、最後の最後まで駆け回っていた。
皆に早く帰れと言われて照れ笑いしながら帰った。
適当に就職先を選んだ日から随分経ち
色々あって退職の日を迎えた訳だが
それは思い描いていたような日ではなかった。
花をもらい、涙声で挨拶するような
それっぽい儀式は全くなく
会社に増えた私物をまとめるのに精一杯だった。
小学校の卒業式どころか学期末に近い。
皆に貰った寄せ書きと私物を持ってよろよろと帰った。
*****
会社を辞めてしばらく経った頃、
私の元へOから手紙が届いた。
何度目かの治療が終わったという報告だった。
多分Oのお母さんが、手紙を書きなさい
●ちゃんに報告なさいと言って
書かせたものだと思うけど
鉛筆の下書き跡が濃く残った便箋に
事故前と同じような、几帳面そうな字が並んでいた。
字は事故前と変わらなかったけど
内容は子供が書いた感想文みたいにたどたどしかった。
犬の近況報告も添えられていて
相変わらずだなあと笑って読んでいたけど
ある一節に差し掛かってどきっとした。
「辛くて、死にたいと思った事もありました」
…お母さんの前でこれが書けるだろうか。
私は一字一句お母さんが添削して書いた手紙だと思っていたけど
そうではなかったかもしれない。
Oは色々な事を全て理解していたのかもしれない。
私の話をまるで聞いていないように見えていた時も
何にも興味がないように見えた時も
もしかしたら全部分かっていたのかもしれない。
あの時、全部理解した上で
それでもK君と以前のように話がしたかったのだ。
Oは次の日にその事を私に話してくれた。
Oがどこまで理解しているか分からなかったけど
Oの口調は元彼女というよりは
K君のお母さんみたいだった。
しょうがない子だよね、と。
そんな告白以降もOの態度は以前と変わらず
というか以前よりもよくK君に話しかけていた。
話の内容は他愛のないものだったけど
相手がK君でなくてもいい話がほとんどだった。
私も、周囲の人も、何よりK君が
…Oは話の内容を
よく分かっていなかったのかな、と思った。
私の最後の出社日はごくごく普通に過ぎていった。
仕事がとても忙しく、最後の最後まで駆け回っていた。
皆に早く帰れと言われて照れ笑いしながら帰った。
適当に就職先を選んだ日から随分経ち
色々あって退職の日を迎えた訳だが
それは思い描いていたような日ではなかった。
花をもらい、涙声で挨拶するような
それっぽい儀式は全くなく
会社に増えた私物をまとめるのに精一杯だった。
小学校の卒業式どころか学期末に近い。
皆に貰った寄せ書きと私物を持ってよろよろと帰った。
*****
会社を辞めてしばらく経った頃、
私の元へOから手紙が届いた。
何度目かの治療が終わったという報告だった。
多分Oのお母さんが、手紙を書きなさい
●ちゃんに報告なさいと言って
書かせたものだと思うけど
鉛筆の下書き跡が濃く残った便箋に
事故前と同じような、几帳面そうな字が並んでいた。
字は事故前と変わらなかったけど
内容は子供が書いた感想文みたいにたどたどしかった。
犬の近況報告も添えられていて
相変わらずだなあと笑って読んでいたけど
ある一節に差し掛かってどきっとした。
「辛くて、死にたいと思った事もありました」
…お母さんの前でこれが書けるだろうか。
私は一字一句お母さんが添削して書いた手紙だと思っていたけど
そうではなかったかもしれない。
Oは色々な事を全て理解していたのかもしれない。
私の話をまるで聞いていないように見えていた時も
何にも興味がないように見えた時も
もしかしたら全部分かっていたのかもしれない。
あの時、全部理解した上で
それでもK君と以前のように話がしたかったのだ。