銅線ケーブル“悪質買取”横行…背景にある「法の抜け穴」とは?不法滞在の“外国人G”による窃盗被害1億円超か【2024年重大ニュース】
太陽光発電施設などにある銅線ケーブルが盗まれる被害が相次いだ2024年。
警察庁のトップは「不法滞在外国人の収入源になっていることが疑われ、治安上も大きな課題」と警鐘を鳴らす。
捜査幹部「異例の事件」
盗まれたケーブルは、金属買い取り業者に売りさばかれている実態があるとみられている。
警視庁は、盗品の銅線ケーブルを違法に買い取った疑いで、栃木県や茨城県の業者を一斉に家宅捜索するなど大規模な摘発に踏み切ったが、捜査幹部は「異例の事件」と振り返った。
理由は、買取業者が盗品と認識していることを立証することが困難だからだ。
その背景には、買い取りの際、売り手の身分証の提示を必要としない「法律の抜け穴」があった。
地図アプリで「太陽光発電所」検索
「犯罪に巻き込まれて地域の方にも不安な思いをさせた。壊れた同線ケーブルの修理などにかかったお金はもどってこないと思うので、本当につらいし許せない」
東京・日の出町にある太陽光発電施設を管理している「雲龍寺」の住職の男性は、銅線ケーブルの窃盗の被害に遭い、こう憤った。
男性が所有する太陽光発電施設は、山道の中に約8000平方メートルにわたり広がっている。
この発電所では5月、銅線ケーブル約840メートル(時価約190万円相当)が盗まれた。
男性によると、盗まれた銅線の修理や、施設の復旧までに得られなかった売電による収益などを含めると、3000万円ほどの損失が生じたという。
この事件などを巡り、警視庁はタイ国籍のウェイチェークー・プリチャー被告らタイ人の7人組グループを窃盗容疑で逮捕した。
ウェイチェークー被告らは、車2台で現場に訪れて施設に侵入し、銅線カッターで銅線を切断。その後、車に積み、逃走する様子の一部が防犯カメラに写っている。
犯行グループはその足で、栃木県小山市の金属買取業者「祥瑞」に盗んだ銅線を持ち込み、約60万円で売りさばいていた。
逮捕された窃盗グループは全員が“不法滞在”
窃盗を繰り返した7人は、それぞれどんな人物なのか…。
全員が不法滞在の状況で、茨城県筑西市の隣接する借家に住み、毎日のように銅線ケーブルを盗みに出かけていた。
リーダーは、元技能実習生のウェイチェークー被告で、地図アプリを見ながら太陽光発電施設がある場所を割り出し、犯行の指示を出していたという。
このグループによる窃盗の被害額は1億円を超えるとみられている。
ウェイチェークー被告はかつて、別の窃盗グループに所属し、銅線窃盗のノウハウを熟知していたとみられる。
捜査関係者は「1回の売却で、多い時には140万円を得ていた。技能実習生として安い給料で働くより、手軽に稼げると思ってしまったのだろう」と語る。
“悪質買取”横行の裏に「法の抜け穴」
こうした金属ケーブル窃盗は、急増している。
警察庁によると、2023年の金属の窃盗被害は全国で1万6276件と、2020年と比較すると3倍近い件数だ。被害金額ベースでは132億円を超えるが、このうち8割が「金属ケーブル」だという。
警察庁の露木康浩長官は5月、太陽光発電施設から銅線窃盗が相次いでいることについて、外国人グループが関与している実態を説明し「不法滞在外国人の収入源になっていることが疑われ、治安上も大きな課題だ」と危機感を募らせた。
こうした窃盗が相次ぐ理由には、近年の金属価格の高騰が挙げられる。
しかし取材を進めると、それだけではなく、犯行グループに「法の穴」をつかれている現状がある、と捜査幹部は指摘する。からくりはこうだ。
いわゆる「中古品」の買い取りについて、「古物営業法」では、買取業者に対して“売り手”の身分証提示など、本人確認をすることが義務付けられている。
しかし、切断されたケーブルは「金属くず」として扱われ、中古品にはあたらないため、「古物営業法」が適用されない。
金属ケーブルの買取業者は「身分証」確認をする必要がないのだ。
そのため、売る側は足がつくことなく、盗品を売却できる。これが、“法の抜け穴”とされる点だ。逆に言えば、買取業者側も「盗品だと知りませんでした」と言い逃れ出来る可能性もある。
「盗品と知らなかった」主張する業者を“異例の摘発”
では、悪質な「盗品ケーブル売買」に警察はお手上げ状態なのか…。
そこに捜査のメスが入ったのは、前述したタイ人窃盗グループの事件だった。
11月、盗品と知りながら銅線ケーブルを違法に買い取った疑いで、前述した事件の買取店「祥瑞」や、茨城県の買取店など計4社に家宅捜索に入り、「祥瑞」社員で中国籍の杜旭被告を逮捕した。
4社にはウェイチェークー被告らタイ人の窃盗グループによって盗まれた銅線ケーブルが100回にわたって持ち込まれ、4600万円で売却されていたという。
正規に持ち込まれる銅線と、盗品の銅線は見た目では大きな違いがなく、買取店側を「盗品としての認識があって取り引きした」と立証するのは、これまでは困難とされてきた。
今回の「祥瑞」も、「盗品と認識はなかった」と供述している。
逮捕に踏み切れた理由とは?
なぜ、今回は逮捕にまで踏み切ることができたのか。
捜査関係者によると、「祥瑞」では、4月に他県警がすでに家宅捜索に入っていて、警察から注意を受けていた。それにも関わらず、翌月には盗品の買い取りを再開していた実態が確認されていた。
また、ウェイチェークー被告らのタイ人グループが、「買取業者側も盗品の認識があった」「自分たちと同じような外国人グループが客として訪れていた」という供述も決め手となった。
また、通常、工事などで余った銅線を売りに来る人は作業着を着ていたり、作業用のワゴン車で来たりするケースがほとんどだという。
しかし、今回のタイ人グループのような窃盗団は、Tシャツにサンダル、自家用車で訪れるといい、捜査関係者は「極めてラフな格好で売却に来る。その時点で何かしらの違和感があるはずだ」と指摘する。こうした状況証拠を積み重ね、逮捕に踏み切ったという。
「身分証提示」「現金取引廃止」など対策進む
警察が摘発を強化する中、窃盗被害をなくすために対策に乗り出している自治体もある。
千葉県では2024年7月、銅線ケーブルやマンホールの「ふた」などを買い取る業者について、営業を許可制とする条例を制定した。
買取業者は、売り手の住所や名前などの確認を行うことや、取り引きの記録を3年間保管することなどを義務づけた。
千葉県のみでなく、銅線窃盗が相次いでいる茨城県でも同様の条例が制定されている。
現金取引を廃止する業者も…
買取業者側も、盗品を購入しないための取り組みを始めている。
買取業者らで構成されている「非鉄金属リサイクル全国連合会」の福田隆・理事によると、盗品を売却しようとする人は、その場での現金取引を求めるケースが多いという。そのため、現金での取引を廃止し、口座振り込みなどの取引に限定する業者も出てきているという。
福田氏は「盗品を買い取る悪質な買取業者が横行すると業界全体のイメージも悪くなってしまう。自主的に売り手の身元確認を進めるなど、業界全体の襟を正していきたい」と話す。
銅線窃盗の被害は、太陽光発電施設のみではない。
埼玉県・行田市の観光施設でも銅線が盗まれ、トイレや自動販売機が使えなくなったり、群馬県・嬬恋村ではスキー場で銅線が盗まれてリフトが動かせなくなったりするなど、私たちの生活の身近に被害が及んできている。
被害がさらに拡大しないよう、盗品が不正に流通しないために官民一体となった仕組み作りが急務となっている。
【取材・執筆:フジテレビ社会部警視庁クラブ 松崎遥】