低髄液圧症候群、または脳脊髄液減少症:その2

2019年10月09日 19時16分00秒 | 日記
今回、どうして脳脊髄液減少症のことを書こうと思ったかと言うと、恐らく、この病気であることを気づいていないまま苦しんでいる人が、まだまだたくさんいるだろうと思ったからだ。

実は、不登校の子どもたちの中に、かなりの人数の脳脊髄液減少症の患者が隠れているんじゃないか、という話もある。実際にそういう例もあったらしいから、不登校のお子さんがいて、人間関係や勉強などの悩みもないのに、無気力になったり、朝起きられないとか、とにかく具合が悪いとか、頭が痛くて起きてられないとか、そういう症状を訴えている子がいたら、脳脊髄液減少症の可能性を考えてみてもいいかもしれない。スポーツでの衝突やケガ、ちょっとした転倒、尻餅をついただけでも脳脊髄液減少症の原因になりうるそうで、そういう知識がなければ、医者でさえ見過ごすこともある、難しい病気だということを、多くの人に知ってもらいたいと思う。

最近、ドラマ「ラジエーションハウス」で取り上げられたり、米国でアメフトの選手に脳脊髄液減少症の人が多いというような記事を見かけたり、脳脊髄液減少症が身近になったせいか、そういうものが目につくようになった。会社経営をしている若い女性で、脳脊髄液減少症のほかに複数の難病を患っている女性のドキュメンタリーも観た。
さらに、昨日の記者会見で、米倉涼子さんが、「ドクターXのドラマの中で、主人公が『医者も病気になるべきだ』というセリフがあるが、自分がこういう病気になってみて、本当にそれがよく理解できたし、医者がすぐに病気を見つけてくれることが大事だということがよくわかった」というようなことを話していて、本当にそうだよなぁと、つくづく思った。

お医者さんは、自分の専門領域については熱心だけど、自分の専門じゃないと思ったら急に熱が冷めたようになる人も多い。もっと強い言い方をするなら、とても冷淡になる。バアバが診察してもらった大学病院の先生もそうだった。色々と話を聞いて、手足の力の入り具合や感覚の有無など、脳神経領域の異常を見つけるための検査は、とても熱心にやってくれた。ところが、どうやら脳脊髄液減少症じゃないと判断した途端、「あなたはここ何年か、お孫さんが生まれたりして、生活に変化ががありましたね。良いことも、ストレスになりうるんですよ。精神的なものかもしれないから、心療内科を受診したらどうですか?」と、急に人ごとのような言い方をした。そう思うなら、大学病院なんだから、同じ院内にある精神科に回すなり、ほかの病院を紹介しましょうかと言うなり、対応があると思うけど、明らかに、「自分はもう知らない」という態度だった。

だから、ここの病院で、RI脳槽シンチグラフィをしてみていただくことはできませんか? と聞いたら、「うちではできないし、造影のMRIもルーチンではやりません。うちでできるのは、普通のMRIだけです。もしどうしてもRI脳槽シンチグラフィをしたいなら、インターネットでそういう病院を探して、行ってみたらどうですか」と言った。これは、本当にひどいセリフだなと思った。もしかしたら、この医者は、バアバのことをドクターショッピングしている変わり者で、場合によっては詐病、つまり、具合が悪いとウソをついているとでも思ってたのかもしれない。
正直、「篠永先生の本を読んでみてください、うちの母の症状に、かなり当てはまってますから」と言いたいぐらいだった。でも、先生の態度は取りつく島もない感じだったので、無駄だと思った。とりあえず普通のMRIの予約を入れて、この時はまさに意気消沈したまま引き上げることにした。

ちなみに言えば、こういうひどい出来事は、この大学病院の先生のことだけじゃない。どの病院の先生も、その症状に関係する検査をして「異常なし」と診断したら、じゃあ他にどんな可能性があるか、どんな病気が考えられるか、という話をしてくれた人はほとんどいなかった。
例えば、バアバは若い頃、喘息と診断されたことがあって、ずっと症状が出ていなかったのに、怪我をして以降、たびたびひどい咳に悩まされて、ある病院の呼吸器内科で診療を受けていた。最初に「喘息が出てしまった」と言って診察を受け、ずっと喘息の薬をもらっていたが、なかなか回復しなかった。むしろ、喘息の薬を飲むようになってからの方が、体調がどんどん悪化しているように見えた。それで、あれこれ検査をして、なんと、その咳は、逆流性食道炎が原因だとわかった。
そのことを知った呼吸器内科の先生は、「あなたが喘息だと思ったことは、私は一度もないよ」と言ったそうだ。これにも、私は本当にびっくりした。違うって分かってて、喘息の薬を出してたの? 患者が、私は喘息ですって来たから? そんなんだったら、医者なんかいらない。患者はつらいから、助けてほしくて病院に行ってるのに。

はっきり言って、こんなことは、診断が付くまでの3年間に山ほどあったと思う。「異常なし」と言われるたびに、バアバがどんなにつらかったか。だってこんなに具合が悪いのに、どうして? と、何度思ったことだろう。

医者の立場からしたら、「異常なし」というのは、あくまでも「この検査で異常は見つかりませんでした」というだけのことで、「病気じゃありません」とはイコールじゃない。これは、健康診断なんかでも気をつけていなければいけないことだ。数値に異常が出ていなくても、それは病気じゃないということじゃない。誰もそんなことを教えてくれないけど、私たちはみんな、それを知っておく必要がある。そうじゃないと、自分の身は守れないということだ。

そして、バアバのことを通して思うのは、どこの大学病院や総合病院にも、「総合診療科」が必要だということだ。
色んな症状が複合的に出てくると、「何科に行けばいいかわからない」ということは珍しいことじゃない。でも、現状だと、分からない時はとりあえず内科、となりやすい。でも、内科の先生が、本当にあらゆる領域の病気に詳しいかと言えば、決してそうじゃない。つい最近、私の同僚は、風邪でずっと内科にかかっていたけど、薬を飲んでもなかなか治らず、別の同僚の勧めで呼吸器内科を受診してみたら、なんと、喘息であることが判明した。その同僚の症状は、喘息に典型的な喘鳴がなかったらしい。CTを撮ったから分かったことだった。

ただ、現実問題として、一人の医者があらゆる病気に精通しているというのは、なかなか難しいだろうとは思う。そうなると、これからの時代で期待したいのは、AIの活用だ。自分の症状を入力したら、病気の候補を確立の高い順に挙げて、なんならオススメの医療機関や、せめて受診すべき診療科を教えてくれるようになったら、ありがたいなぁと思う。

色々思い出してたらちょっと腹が立ってきて、話がそれてしまった。次回は、どうやってバアバの病名に気づいたのか、それから、書けそうなら治療法と、治療開始後の経過について書きたいと思う。

〈続く〉

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低髄液圧症候群、または脳脊髄液減少症:その1

2019年10月09日 08時56分00秒 | 日記
昨日のニュースで、女優の米倉涼子さんが、「低髄液圧症候群」を患っていたと告白していた。低髄液圧症候群、別名は、「脳脊髄液減少症」。バアバが5年前から患っている病気だ。

米倉涼子さんの場合、何が原因かはハッキリとニュースで報道されていなかったけど、話の流れから察するに、おそらく、病名が付いたのが早くて、すぐに治療をできたから、回復も早かったんだろうと思う。

ところが、この病気の怖いところは、診断できる医者が少なく、また、患者によって症状の出方も様々で、なかなか病名がハッキリしないことだ。バアバの場合は、発症から3年も経って、やっと正式な病名が付いた。

バアバが脳脊髄液減少症を発症した原因
は、公園でりょうちゃんの遊び相手をしている時に遊具で激しく転び、顔面を強打したことだった。病院で検査を受けて、打撲とかむち打ちのような診断で、先生は、脳に異常はないという判断だったのだと思う。でも、脳脊髄液の漏れは、普通のCTやMRIなどの画像診断では写らない。造影検査が必要で、できればRI脳槽シンチグラフィをする必要がある。バアバの場合も、もし最初の段階で脳脊髄液減少症が疑われ、適切な検査を受けられていたら、その後の経過もずいぶん違っていたかもしれない。ただし、RI脳槽シンチグラフィでも、髄液の漏れが特定できないこともあるから、ものすごく厄介な病気なのだ。実際、発症から3年後にやっと専門医にたどり着いた時も、バアバの場合は髄液が漏れている箇所は特定できなかった。でも、最終的には、生理食塩水を脊髄から注入する生食パッチをやって症状の改善が見られたことで、正式に脳脊髄液減少症の診断名が付いた。

バアバの場合、ケガの後から体調が優れず、頭痛や全身疲労のような症状、逆流性食道炎、喘息様の発作、めまい、嘔吐など、色々な症状が出て、整形外科や脳神経外科、PETでのがん検診、心臓の検査など、とにかく思いつく限りのあらゆる検査を受けた。それでも、いつも「異常なし」との診断が下され続け、それが本当にキツかった。こんなに具合が悪いのに、「異常なし」と言われてしまったら、それ以上前に進みようがない。
一方、医者が脳脊髄液減少症と気づかなかった原因として考えられるのは、バアバが、脳脊髄液減少症の典型的な症状である「起立性頭痛」を訴えなかったからだと思う。

例えば、バアバがよく訴えていた、「頭がグワーンとして起きていられない。脳が圧迫されるみたい」という症状は、最終的に診断をしてくれた赤坂の山王病院の高橋先生に言わせると、「頭痛の訴え方は人それぞれだからね」とのことで、つまり「頭がグワーン」は、今思えば起立性頭痛だったということだったんだと思う。

実は、バアバは無意識には「頭が痛い」と言っていることがよくあった。それで、それ以外の症状も含めてネットで色々調べた結果、発症から2年半くらい経った頃に、初めて脳脊髄液減少症という病名が浮かんだ。脳脊髄液減少症の名医として知られる国際医療福祉大学の篠永正道先生の本も読み、これは間違いないと確信し、バアバに本の内容を説明すると、自分と同じような症状であることが分かった。
それで、かかりつけ医にお願いし、うちから車で行かれる範囲で、ブラッドパッチ(髄液が漏れているところをふさぐ治療)をしている大学病院への紹介状を書いてもらい、そこに行くことにした。
ところが、診察の日、バアバの病院に付き添った時、症状の説明に頭痛が入っていなかったので、私が「頭が痛いんだよね?」と聞いたら、「頭は痛くない。グワーンとして、脳が圧迫されてる感じなんです」と言うので驚いた。
えっ、だって、わりとよく頭が痛いって言ってるのに。。。
そう思ったけど、バアバにしてみたら、あまりにも色んなところが具合悪いし、その時によっても一番辛い症状が違うから、うまく説明できない部分もあったんだろう。それに、いわゆる「頭痛」とは、ちょっと違っていたから、より正確に伝えようとすると「頭がグワーン」になったということなのかもしれない。

脳脊髄液減少症は、髄液が減って脳が下がるから、神経が引っ張られて色々な症状を来す。バアバの場合は頭痛などの他にも、反応が鈍かったり、呂律が怪しかったりもしていた。ただ、精神的にはかなり参っていたけど、鬱病のような症状はなくて、治ったら海外旅行に行こうとか、あれが美味しそうだから食べたいとか、色んなことにすごく前向きだった。それなのに、紹介状を書いてもらって行った大学病院では、たくさんの問診と、手足の反応や力の入り具合などを見る検査をした挙句、「ガイドラインにあるような典型的な症状がないから、脳脊髄液減少症ではない」と断言された。この時は、はっきり言って、かなり衝撃だった。篠永先生の本には、典型的な症状を来さないことは珍しくないと書いてあったし、バアバの症状は本に書かれている症状にかなり色々当てはまるのに。
それで、じゃあこの後はどうしたらいいんでしょう? と聞いたら、「精神的な病気かもしれませんね。自分で心療内科を探して行ってみたらいいんじゃないですか」と、「もう自分は関係ない」という感じのとても突き放した言い方をされて、唖然とした。

それで、これはもう、脳脊髄液減少症を専門とする先生のところに行くしかないと腹が決まり、その大学病院で紹介状を書いてもらって、山王病院に行った。脳脊髄液減少症が精神疾患(例えば鬱病)と間違われることは本当によくあることだと本で読んでいたし、無気力になったりして、実際に鬱病っぽい症状を来す人もいるのは事実だ。でも、バアバの日常の言動からは鬱病は考えられなかったし、そもそも脳脊髄液減少症を正しく理解している医者が少ないことも、事前に勉強していたので、こういうこともあるだろうと気を取り直した。

ただ、当時、バアバは30分と起きていられないくらい具合が悪かったので、どうやって都内の病院まで行けるんだろうと思ったし、実際、ジイジが付き添ったり、弟たちが車で送迎したり、診察を受けに行くこと自体がそもそも大変なことだった。

〈続く〉
コメント (4)
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