今回、どうして脳脊髄液減少症のことを書こうと思ったかと言うと、恐らく、この病気であることを気づいていないまま苦しんでいる人が、まだまだたくさんいるだろうと思ったからだ。
実は、不登校の子どもたちの中に、かなりの人数の脳脊髄液減少症の患者が隠れているんじゃないか、という話もある。実際にそういう例もあったらしいから、不登校のお子さんがいて、人間関係や勉強などの悩みもないのに、無気力になったり、朝起きられないとか、とにかく具合が悪いとか、頭が痛くて起きてられないとか、そういう症状を訴えている子がいたら、脳脊髄液減少症の可能性を考えてみてもいいかもしれない。スポーツでの衝突やケガ、ちょっとした転倒、尻餅をついただけでも脳脊髄液減少症の原因になりうるそうで、そういう知識がなければ、医者でさえ見過ごすこともある、難しい病気だということを、多くの人に知ってもらいたいと思う。
最近、ドラマ「ラジエーションハウス」で取り上げられたり、米国でアメフトの選手に脳脊髄液減少症の人が多いというような記事を見かけたり、脳脊髄液減少症が身近になったせいか、そういうものが目につくようになった。会社経営をしている若い女性で、脳脊髄液減少症のほかに複数の難病を患っている女性のドキュメンタリーも観た。
さらに、昨日の記者会見で、米倉涼子さんが、「ドクターXのドラマの中で、主人公が『医者も病気になるべきだ』というセリフがあるが、自分がこういう病気になってみて、本当にそれがよく理解できたし、医者がすぐに病気を見つけてくれることが大事だということがよくわかった」というようなことを話していて、本当にそうだよなぁと、つくづく思った。
お医者さんは、自分の専門領域については熱心だけど、自分の専門じゃないと思ったら急に熱が冷めたようになる人も多い。もっと強い言い方をするなら、とても冷淡になる。バアバが診察してもらった大学病院の先生もそうだった。色々と話を聞いて、手足の力の入り具合や感覚の有無など、脳神経領域の異常を見つけるための検査は、とても熱心にやってくれた。ところが、どうやら脳脊髄液減少症じゃないと判断した途端、「あなたはここ何年か、お孫さんが生まれたりして、生活に変化ががありましたね。良いことも、ストレスになりうるんですよ。精神的なものかもしれないから、心療内科を受診したらどうですか?」と、急に人ごとのような言い方をした。そう思うなら、大学病院なんだから、同じ院内にある精神科に回すなり、ほかの病院を紹介しましょうかと言うなり、対応があると思うけど、明らかに、「自分はもう知らない」という態度だった。
だから、ここの病院で、RI脳槽シンチグラフィをしてみていただくことはできませんか? と聞いたら、「うちではできないし、造影のMRIもルーチンではやりません。うちでできるのは、普通のMRIだけです。もしどうしてもRI脳槽シンチグラフィをしたいなら、インターネットでそういう病院を探して、行ってみたらどうですか」と言った。これは、本当にひどいセリフだなと思った。もしかしたら、この医者は、バアバのことをドクターショッピングしている変わり者で、場合によっては詐病、つまり、具合が悪いとウソをついているとでも思ってたのかもしれない。
正直、「篠永先生の本を読んでみてください、うちの母の症状に、かなり当てはまってますから」と言いたいぐらいだった。でも、先生の態度は取りつく島もない感じだったので、無駄だと思った。とりあえず普通のMRIの予約を入れて、この時はまさに意気消沈したまま引き上げることにした。
ちなみに言えば、こういうひどい出来事は、この大学病院の先生のことだけじゃない。どの病院の先生も、その症状に関係する検査をして「異常なし」と診断したら、じゃあ他にどんな可能性があるか、どんな病気が考えられるか、という話をしてくれた人はほとんどいなかった。
例えば、バアバは若い頃、喘息と診断されたことがあって、ずっと症状が出ていなかったのに、怪我をして以降、たびたびひどい咳に悩まされて、ある病院の呼吸器内科で診療を受けていた。最初に「喘息が出てしまった」と言って診察を受け、ずっと喘息の薬をもらっていたが、なかなか回復しなかった。むしろ、喘息の薬を飲むようになってからの方が、体調がどんどん悪化しているように見えた。それで、あれこれ検査をして、なんと、その咳は、逆流性食道炎が原因だとわかった。
そのことを知った呼吸器内科の先生は、「あなたが喘息だと思ったことは、私は一度もないよ」と言ったそうだ。これにも、私は本当にびっくりした。違うって分かってて、喘息の薬を出してたの? 患者が、私は喘息ですって来たから? そんなんだったら、医者なんかいらない。患者はつらいから、助けてほしくて病院に行ってるのに。
はっきり言って、こんなことは、診断が付くまでの3年間に山ほどあったと思う。「異常なし」と言われるたびに、バアバがどんなにつらかったか。だってこんなに具合が悪いのに、どうして? と、何度思ったことだろう。
医者の立場からしたら、「異常なし」というのは、あくまでも「この検査で異常は見つかりませんでした」というだけのことで、「病気じゃありません」とはイコールじゃない。これは、健康診断なんかでも気をつけていなければいけないことだ。数値に異常が出ていなくても、それは病気じゃないということじゃない。誰もそんなことを教えてくれないけど、私たちはみんな、それを知っておく必要がある。そうじゃないと、自分の身は守れないということだ。
そして、バアバのことを通して思うのは、どこの大学病院や総合病院にも、「総合診療科」が必要だということだ。
色んな症状が複合的に出てくると、「何科に行けばいいかわからない」ということは珍しいことじゃない。でも、現状だと、分からない時はとりあえず内科、となりやすい。でも、内科の先生が、本当にあらゆる領域の病気に詳しいかと言えば、決してそうじゃない。つい最近、私の同僚は、風邪でずっと内科にかかっていたけど、薬を飲んでもなかなか治らず、別の同僚の勧めで呼吸器内科を受診してみたら、なんと、喘息であることが判明した。その同僚の症状は、喘息に典型的な喘鳴がなかったらしい。CTを撮ったから分かったことだった。
ただ、現実問題として、一人の医者があらゆる病気に精通しているというのは、なかなか難しいだろうとは思う。そうなると、これからの時代で期待したいのは、AIの活用だ。自分の症状を入力したら、病気の候補を確立の高い順に挙げて、なんならオススメの医療機関や、せめて受診すべき診療科を教えてくれるようになったら、ありがたいなぁと思う。
色々思い出してたらちょっと腹が立ってきて、話がそれてしまった。次回は、どうやってバアバの病名に気づいたのか、それから、書けそうなら治療法と、治療開始後の経過について書きたいと思う。
〈続く〉