たわいもない話

かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂

砂電車の冒険 (21)

2009年03月05日 17時53分56秒 | 砂電車の冒険
砂電車の冒険 (2-10)

「奈美、渚、出発しよう!」
海人君は勢いよく立ちあがると砂電車に向かって走り出しました。
砂電車に乗り込んだ海人君が砂時計を見ると、時計の砂はすでに3分のⅠくらい減っていました。
海人君が再び発進レバーを引くと、砂電車は松林を通り過ぎ、弓なりに大きく突き出た岬にさしかかりました。
「あ!線路が無くなっている」
海人君が慌ててブレーキを引くと砂電車は急停止しました。
「お兄ちゃんどうしたの?」
奈美ちゃんが“びっくり”したように運転席をのぞきこみました。
「ほら、前を見てごらん。波で線路が流されているんだ!」
海人君と奈美ちゃんは砂浜に降りると、スコップやクマデを使って流された線路の復旧にかかりました。
しかし、波が高く思うように作業が進みません。ようやく直した線路もすぐに波に流されてしまいます。
二人が困り果てて砂浜の座り込んでいると、一匹の小さな石ガニが近づいてきました。
「奈美ちゃん、奈美ちゃん、どうしたの?」
カニさんがたずねました。
「砂電車の線路が波に流され、前に進むことができなくて困っているの」
奈美ちゃんは今にも泣き出しそうな顔で言いました。
するとカニさんは近くの小岩に登ると
「お~い、みんな集まれ!」
海に向かってカニさんが大声で叫ぶと、仲間のカニさんたちが“ぞろぞろ、ぞろぞろ”わき上がるように集まり、砂浜はカニさんたちでうめつくされていきました。
そして、その中でもひと際大きな親のカニさんが、奈美ちゃんに近づいて言いました。
「白兎海岸では子供を助けていただき本当にありがとうございました。私たちが線路を造りますからその上を渡ってください」
「みんな、一列に並んでー」
親のカニさんの合図で砂浜に集まっていたカニさんたちは、波に流された線路の間を一列に並びました。
「線路ができました。早く渡ってください!」
海人君は不安そうにカニさんに聞きました。
「かにさん、上に乗っても本当に大丈夫?」
「私たちの甲羅は硬いから大丈夫です。早く、早く渡ってください!」
海人君はカニさんに言われるまま甲羅の線路の上を“ゆっくり、ゆっくり”砂電車を走らせました。
「カニさんありがとう、ありがとう」
三人は窓越しに、カニさんの姿が見えなくなるまで手を振り続けました。



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