少数派シリーズ/政治情勢
山田孝男氏◇森元首相はなぜ不問なのか?裏金問題・五輪汚職のキーパーソンなのに
絵・五十嵐晃氏
■裏金にせよ、五輪汚職にせよ、森元首相は重要な役割を担ってきた
毎日新聞を活用しています/「森(喜朗)元首相は調査しないのか?」。岸田文雄首相は明らかに森元首相に遠慮している。裏金問題の衆院予算委では「森に聞け」と野党に責められ、ハイ、とは言えない。岸田内閣は安倍派の協力がなければできなかった。安倍派は瓦解(がかい)したが、森は、なおゴッドファーザーである。86歳。森とは2日に1度、電話で話すと、首相就任直後の岸田に聞いた記憶がある。派閥の政治資金パーティーの収入を裏金として議員に還流する――という安倍派の悪習は、森がこの派閥の会長だった20年前から始まった。安倍派の幹部が証言している。つまり、森は裏金づくりの経緯を知るキーパーソンである。ところが、岸田主導の聞き取り調査はキーパーソン抜きで行われる。それで何が解明できるか。
森への遠慮――といえば東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー契約などをめぐる汚職事件(現在公判中)で、森を調べた東京地検特捜部のアプローチも控えめだった。事件の中心人物は、総額およそ2億円の受託収賄罪で起訴されたオリ・パラ組織委員会の元理事、高橋治之(79)=元「電通」専務。一方、組織委の会長は森。2人とも、刑法上、汚職捜査の対象になる「みなし公務員」(オリ・パラ特措法28条)である。森自身に対する金銭提供の報道もあった。2022年9月1日。産経新聞(東京版)が1面トップで、贈賄側の供述として「森・元会長に200万円」と特報した。ただ、共同通信以外は追わなかった。当時を知る関係者によれば、贈賄側が「森さんに200万円渡した」と検事に説明したのは事実と思われる。だが、他に証言、証拠がない。検事が調書を取らなかった可能性も。「産経を追えば恥をかく」と、他社の記者たちをけん制した検事もいたという。興味深いのは最新の「週刊文春」(2月15日号)の高橋独占会見である。<17年7月、五輪公式スポンサー、公式ウエア受注をめざした贈賄側被告からこう聞かれた。「(肺がん治療で入院中の森の)お見舞いにいくら渡せばいいでしょうか」。そこで「オプジーボ(がんの治療薬)は1回300万円ですよ」とは言いました……>。「森に200万円」説の傍証のようでもある。
森は参考人として検察に数回聴取され、放免。高橋は逮捕・起訴された。起訴・不起訴は検察官の胸一つだが、不公正、不公平が生じぬよう、言外の基準がある。パー券事件の場合、裏金3000万円以上のケースを立件した。五輪汚職では紳士服大手の贈賄業者から5100万円もらった高橋を起訴。森の聴取は高橋の罪を立証する上での補強であり、森自身は立件を免れた。だが、釈然としない。22年度の日本新聞協会賞を受賞した読売新聞取材班の「五輪汚職」(中央公論新社)によれば、多くの企業の依頼を受けた高橋が組織委、電通に働きかけることができたのは、「元首相である森の『後ろ盾』があればこそ」だった。裏金にせよ、五輪汚職にせよ、森は重要な役割を担ってきた。司法判断がどうであれ、キーパーソンの説明が聞きたい。
山田孝男氏(毎日新聞特別編集委員)1952年生まれ。早稲田大政経学部卒。毎日新聞政治部長、編集局総務などを経て2007年から月曜朝刊コラム「風知草」を担当。
■投稿者の文章|“低人格のドン”森氏に平伏した安倍首相(当時)自民党政治から脱出を!
東京五輪汚職、そして今回の政治資金パーティー裏金キックバックという違法な仕組みを構築、どちらも森元首相の関与が疑われている。東京地検特捜部は双方とも森氏へ甘い追及に終わってしまい、国民の怒りを買っている。特捜部は一時“正義の味方”と国民から喝采を浴びたが、何のことはない忖度と権力者には見て見ない振りをする醜態を晒してしまった。森・東京五輪組織委会長時の女性蔑視発言も許されない。さて首相在任期間は2000年4月から、たった1年の01年4月まで。その間にあまりにも酷い失言、国民から右翼政治を批判されたにも関わらず、こんな人間が今日まで20年以上も「政界(自民党)のドン」として居座ったことは何とも不思議だ。自民党が森氏の意向を受けて動いてきたため、政治・経済や世の中が堕落・没落し、世界から大きく引き離れ低レベルに陥った責任は重い。当時、”森喜朗”という名をもじった曖昧模糊の「シンキロウ右翼政治」の酷い失言・失態を紹介する。
▽「日本は神の国」発言=天皇が中心で、国民はその下僕(家来)である趣旨。▽「子どもを一人もつくらない女性の面倒を、税金でみなさいというのはおかしい」発言=世界に日本がジェンダー後進国であることを発信。▽「寝ておいて」発言=選挙で自民党が勝つために、選挙民は寝ていて欲しい(投票に行くな)の民主主義否定趣旨。▽中でも不支持が高まり在任期間が短くなった原因が「実習船えひめ丸事故」=2001年2月、えひめ丸がハワイ沖で訓練中、米潜水艦艦長の悪ふざけで急浮上し、えひめ丸と衝突・沈没。生徒9名が死亡・行方不明。当時、森首相は報告を受けながらもそのままゴルフを続行、猛批判を浴びて辞任に追い込まれた。その他にも数々の暴言を放った低人格のこんな人物に、安倍首相(当時)が平伏し、自民党が牛耳られ言うままに動いたことが理解できない。結果、国民の生活まで悪影響を及ぼしている。この「森自民党右翼政治」から脱出しなければ、日本は良くならない。
山田孝男氏◇森元首相はなぜ不問なのか?裏金問題・五輪汚職のキーパーソンなのに
絵・五十嵐晃氏
■裏金にせよ、五輪汚職にせよ、森元首相は重要な役割を担ってきた
毎日新聞を活用しています/「森(喜朗)元首相は調査しないのか?」。岸田文雄首相は明らかに森元首相に遠慮している。裏金問題の衆院予算委では「森に聞け」と野党に責められ、ハイ、とは言えない。岸田内閣は安倍派の協力がなければできなかった。安倍派は瓦解(がかい)したが、森は、なおゴッドファーザーである。86歳。森とは2日に1度、電話で話すと、首相就任直後の岸田に聞いた記憶がある。派閥の政治資金パーティーの収入を裏金として議員に還流する――という安倍派の悪習は、森がこの派閥の会長だった20年前から始まった。安倍派の幹部が証言している。つまり、森は裏金づくりの経緯を知るキーパーソンである。ところが、岸田主導の聞き取り調査はキーパーソン抜きで行われる。それで何が解明できるか。
森への遠慮――といえば東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー契約などをめぐる汚職事件(現在公判中)で、森を調べた東京地検特捜部のアプローチも控えめだった。事件の中心人物は、総額およそ2億円の受託収賄罪で起訴されたオリ・パラ組織委員会の元理事、高橋治之(79)=元「電通」専務。一方、組織委の会長は森。2人とも、刑法上、汚職捜査の対象になる「みなし公務員」(オリ・パラ特措法28条)である。森自身に対する金銭提供の報道もあった。2022年9月1日。産経新聞(東京版)が1面トップで、贈賄側の供述として「森・元会長に200万円」と特報した。ただ、共同通信以外は追わなかった。当時を知る関係者によれば、贈賄側が「森さんに200万円渡した」と検事に説明したのは事実と思われる。だが、他に証言、証拠がない。検事が調書を取らなかった可能性も。「産経を追えば恥をかく」と、他社の記者たちをけん制した検事もいたという。興味深いのは最新の「週刊文春」(2月15日号)の高橋独占会見である。<17年7月、五輪公式スポンサー、公式ウエア受注をめざした贈賄側被告からこう聞かれた。「(肺がん治療で入院中の森の)お見舞いにいくら渡せばいいでしょうか」。そこで「オプジーボ(がんの治療薬)は1回300万円ですよ」とは言いました……>。「森に200万円」説の傍証のようでもある。
森は参考人として検察に数回聴取され、放免。高橋は逮捕・起訴された。起訴・不起訴は検察官の胸一つだが、不公正、不公平が生じぬよう、言外の基準がある。パー券事件の場合、裏金3000万円以上のケースを立件した。五輪汚職では紳士服大手の贈賄業者から5100万円もらった高橋を起訴。森の聴取は高橋の罪を立証する上での補強であり、森自身は立件を免れた。だが、釈然としない。22年度の日本新聞協会賞を受賞した読売新聞取材班の「五輪汚職」(中央公論新社)によれば、多くの企業の依頼を受けた高橋が組織委、電通に働きかけることができたのは、「元首相である森の『後ろ盾』があればこそ」だった。裏金にせよ、五輪汚職にせよ、森は重要な役割を担ってきた。司法判断がどうであれ、キーパーソンの説明が聞きたい。
山田孝男氏(毎日新聞特別編集委員)1952年生まれ。早稲田大政経学部卒。毎日新聞政治部長、編集局総務などを経て2007年から月曜朝刊コラム「風知草」を担当。
■投稿者の文章|“低人格のドン”森氏に平伏した安倍首相(当時)自民党政治から脱出を!
東京五輪汚職、そして今回の政治資金パーティー裏金キックバックという違法な仕組みを構築、どちらも森元首相の関与が疑われている。東京地検特捜部は双方とも森氏へ甘い追及に終わってしまい、国民の怒りを買っている。特捜部は一時“正義の味方”と国民から喝采を浴びたが、何のことはない忖度と権力者には見て見ない振りをする醜態を晒してしまった。森・東京五輪組織委会長時の女性蔑視発言も許されない。さて首相在任期間は2000年4月から、たった1年の01年4月まで。その間にあまりにも酷い失言、国民から右翼政治を批判されたにも関わらず、こんな人間が今日まで20年以上も「政界(自民党)のドン」として居座ったことは何とも不思議だ。自民党が森氏の意向を受けて動いてきたため、政治・経済や世の中が堕落・没落し、世界から大きく引き離れ低レベルに陥った責任は重い。当時、”森喜朗”という名をもじった曖昧模糊の「シンキロウ右翼政治」の酷い失言・失態を紹介する。
▽「日本は神の国」発言=天皇が中心で、国民はその下僕(家来)である趣旨。▽「子どもを一人もつくらない女性の面倒を、税金でみなさいというのはおかしい」発言=世界に日本がジェンダー後進国であることを発信。▽「寝ておいて」発言=選挙で自民党が勝つために、選挙民は寝ていて欲しい(投票に行くな)の民主主義否定趣旨。▽中でも不支持が高まり在任期間が短くなった原因が「実習船えひめ丸事故」=2001年2月、えひめ丸がハワイ沖で訓練中、米潜水艦艦長の悪ふざけで急浮上し、えひめ丸と衝突・沈没。生徒9名が死亡・行方不明。当時、森首相は報告を受けながらもそのままゴルフを続行、猛批判を浴びて辞任に追い込まれた。その他にも数々の暴言を放った低人格のこんな人物に、安倍首相(当時)が平伏し、自民党が牛耳られ言うままに動いたことが理解できない。結果、国民の生活まで悪影響を及ぼしている。この「森自民党右翼政治」から脱出しなければ、日本は良くならない。