コロナ自粛で外出が極端に減ったのに加え、足も弱ったこともあって歩く距離が極端に
減った。
このままじゃ体力低下、老化のスピードがさらに加速しそうで、81歳の誕生日を目前
に迎えて空恐ろしく感じる。
下手の横好きのカメラも持ち歩くことはなくなり、もっぱら庭の花や飛んでくるチョウ
たちの写真を撮ってごまかしている。
幸い、前から読書の習慣があるので家にいても退屈することはないのが嬉しい。
本屋に行く楽しみを味わうことがなくなり淋しい限りだが、幸い読みたい本はアマゾン
で検索したらたいてい間に合うから、どんどん取り寄せている、ありがたいことだ。
最近はまっているのは武田百合子さんの名著「富士日記」(中公文庫)。
百合子さんは文豪武田泰淳夫人で、二人とも故人になって20年以上たつが、今でも
輝き続けているロングセラー。
富士山麓に山小屋を建てて、夫の泰淳氏と13年間過ごし地元人たちや山荘を訪れる
大岡昇平さんたちとの交情と、日常生活の何気ない日々を日記に記し、「正確明晰な
事物への視線、短い述懐のことばが、心に一枚一枚たまってゆく」と水上勉氏らが絶
賛する現代日記文学の記念碑的な「富士日記」を書き上げた。
前々から読みたいと気になっていたが、このほどやっと上、中、下の3冊を取り寄せ、
百合子ワールドを楽しんでいる。
同時に本棚の隅っこに放り込んでいた夫の泰淳氏の大作「富士」(中央公論社)を取り
出して併読しているが、こちらの方は戦時下の精神病院で繰り広げられる狂気と正気の
物語。
まだ3分の一程度しか読み進んでいないが、学生時代に読んだドストエフスキーの
「罪と罰」を思わせる、大変重い内容だ。
「富士日記」も「富士」も、ここでは内容に立ち入ることはしないが、コロナ自粛
でたっぷりある時間をフルに使って読書三昧に浸れることは幸せなことだ。
読書していて素敵な言葉に出会うことが多い。
その都度そのページに「しおり」を挟んで時々読み返したり、抜き出してパソコンの
「私の好きな言葉」のページに取り込んでいる。
「富士日記」にもたくさんの素敵な言葉や思わず頬が緩む楽しい記述が出てくるので、
しおりがにぎやかに挟まった。
📚心に響いた名文📚
この世の名残.夜も名残。死にゆく身を譬ふれば。あだしが原の道の霜。一足づゞに
消えて行く。夢の夢こそあはれなれ。
あれ数ふれば暁の。七つの時が六つなりて残る一つが今生の。鐘の響きの聞納め。
寂滅為楽と響くなり 近松門左衛門「曽根崎心中」