男性も惚れる「精悍」を絵に描いたような男、それは「タイフーン」でテロ首謀者チャン・ドンゴン(「ブラザー・フッド」)を全力で追いつめるイ・ジョンジェです。この映画を見る前に、韓国で100万人の大ヒットを記録した涙と感動のメロドラマ「ラストプレゼント」(2001)のイ・ジョンジェを見ていたので本当に驚きました。「チャングムの誓い」で国民的女優になったイ・ヨンエの妻役も素晴らしい演技でしたが、みすぼらしい売れないコメディアン役を演じた夫イ・ジョンジェも感動を呼ぶ名演技でした。私はイ・ヨンエを見たくて「ラスト・プレゼント」を見たのですが、イ・ジョンジェのみすぼらしい印象が残っていた矢先に「タイフーン」の彼に遭遇したのです。
俳優とはこんなにも変われるものだろうかとまさに驚愕してしまいました。しかもこんなに格好いい男を演じきれる風貌になるとはきっと誰もが驚かされるでしょう。映画「タイフーン」は国家への復讐を企てる海賊とその阻止に奔走するエリート将校の対決を壮大なスケールで描いています。
今のなお続く、冷戦の傷跡。同じ民族でありながら憎み合う北と南。日本がもし同じように分断されていて殺し合いを続けていたら、と考えると胸が苦しくなります。「シュリ」「ブラザー・フッド」「タイフーン」は隣国である韓国・北朝鮮の現代史を知る上で、欠かせない映画のように思います。朝鮮民族の不屈の魂に触れられるような超骨太映画です。
監督は韓国一の骨太映画を作り続けるクァク・キョンテク。「目には目、歯には歯」(2008)「愛 サラン」 (2007) 「トンケの蒼い空」(2003)「チャンピオン」(2002)「友へ チング」(2001)
(物語)
米軍の秘密兵器を秘かに輸送中の船舶が台湾沖で冷酷非情な男シン率いる海賊団に襲撃され、積荷を強奪されてしまう。米軍の関与が表沙汰になることを恐れるアメリカ政府は直接介入を避け、韓国政府は米国海軍将校カン・セジョン(イ・ジョンジェ)にシンの追跡を命じる。カンは海賊の首魁シンが北朝鮮から逃げ出したチェ・ミョンシン(チャン・ドンゴン)であることをつきとめる。シンには姉がいることを調べ上げ、その姉を利用してシンをおびき寄せようと計画するが、二人には胸が張り裂けそうな暗い過去があった…。
海軍から抜擢されて大統領直属機関の特殊任務につかせようとする時の上司とカンのセリフ。
「任務終了後は情報院に残ってもいいし、海軍に復帰してもいい。
社会に出たいなら職を斡旋しよう…
だが、万一の時は、母親に年金が支給される」(父も軍人で任務中に死亡)
「次に士官学校の出身者を登用する時は、そんな話は無用です。
伝えるのは、“国家の重要な任務”とだけ…」
「参考にしよう」
この二人の会話に武官と文官の差が滲み出ており、
D・H・ロレンスの詩が蘇ってくる。
『野性なるものが自らを憐れむのを私はみたことがない。
小鳥は凍え死んで枝から落ちようとも
自分を惨めだとは決して思わないもの』
海賊の首魁シンと工作員のカンが同じ車の中でにらみ合いながら激しい会話するシーンがある。
すでに大スターのドンゴン相手に格下俳優だったジョンジェが物怖じせずに、
見事な受け答えをする。
辛酸をなめてきたシンは、罵るような激しい口調でカンを熱くしようと試みるが、
軍人として冷静な態度を崩さず彼の言葉を噛み締めるように答える。
「挑戦の地で人が血を吐き、肉が裂けて死ぬザマを見届けるがいい」
「お前の人生がは不幸だ。
だからと云って他人まで不幸にしてはいけない」
ロシア唯一の不凍港ウラジオストックで、カンが文官と共にシンの姉を捜すシーンがある。
その文官がガムを噛んでカンと話して
「禁煙したばかりなんで」と云って非礼をカンに詫びる。
(女性には理解しにくい場面かもしれない)
禁煙の苛立ちをガムでごまかす現場の文官を冷ややかな目でカンは見過ごす。
(そんな意志の弱さでは、命のやりとりはできない)
命をかけて戦うことがないひ弱な文官と強靱な精神を持つ工作員との対比が
わずかなやりとりだが印象に残る。
ハードなアクションシーンと胸が詰まる姉弟愛、政治家や文官と武官との対比を見事にミックスされて、映画「タイフーン」は「シュリ」を超える感動が胸に迫ってきます。素晴らしい脚本と云えます。骨太映画が見ることができる人ならきっとお奨めの作品です。
俳優とはこんなにも変われるものだろうかとまさに驚愕してしまいました。しかもこんなに格好いい男を演じきれる風貌になるとはきっと誰もが驚かされるでしょう。映画「タイフーン」は国家への復讐を企てる海賊とその阻止に奔走するエリート将校の対決を壮大なスケールで描いています。
今のなお続く、冷戦の傷跡。同じ民族でありながら憎み合う北と南。日本がもし同じように分断されていて殺し合いを続けていたら、と考えると胸が苦しくなります。「シュリ」「ブラザー・フッド」「タイフーン」は隣国である韓国・北朝鮮の現代史を知る上で、欠かせない映画のように思います。朝鮮民族の不屈の魂に触れられるような超骨太映画です。
監督は韓国一の骨太映画を作り続けるクァク・キョンテク。「目には目、歯には歯」(2008)「愛 サラン」 (2007) 「トンケの蒼い空」(2003)「チャンピオン」(2002)「友へ チング」(2001)
(物語)
米軍の秘密兵器を秘かに輸送中の船舶が台湾沖で冷酷非情な男シン率いる海賊団に襲撃され、積荷を強奪されてしまう。米軍の関与が表沙汰になることを恐れるアメリカ政府は直接介入を避け、韓国政府は米国海軍将校カン・セジョン(イ・ジョンジェ)にシンの追跡を命じる。カンは海賊の首魁シンが北朝鮮から逃げ出したチェ・ミョンシン(チャン・ドンゴン)であることをつきとめる。シンには姉がいることを調べ上げ、その姉を利用してシンをおびき寄せようと計画するが、二人には胸が張り裂けそうな暗い過去があった…。
海軍から抜擢されて大統領直属機関の特殊任務につかせようとする時の上司とカンのセリフ。
「任務終了後は情報院に残ってもいいし、海軍に復帰してもいい。
社会に出たいなら職を斡旋しよう…
だが、万一の時は、母親に年金が支給される」(父も軍人で任務中に死亡)
「次に士官学校の出身者を登用する時は、そんな話は無用です。
伝えるのは、“国家の重要な任務”とだけ…」
「参考にしよう」
この二人の会話に武官と文官の差が滲み出ており、
D・H・ロレンスの詩が蘇ってくる。
『野性なるものが自らを憐れむのを私はみたことがない。
小鳥は凍え死んで枝から落ちようとも
自分を惨めだとは決して思わないもの』
海賊の首魁シンと工作員のカンが同じ車の中でにらみ合いながら激しい会話するシーンがある。
すでに大スターのドンゴン相手に格下俳優だったジョンジェが物怖じせずに、
見事な受け答えをする。
辛酸をなめてきたシンは、罵るような激しい口調でカンを熱くしようと試みるが、
軍人として冷静な態度を崩さず彼の言葉を噛み締めるように答える。
「挑戦の地で人が血を吐き、肉が裂けて死ぬザマを見届けるがいい」
「お前の人生がは不幸だ。
だからと云って他人まで不幸にしてはいけない」
ロシア唯一の不凍港ウラジオストックで、カンが文官と共にシンの姉を捜すシーンがある。
その文官がガムを噛んでカンと話して
「禁煙したばかりなんで」と云って非礼をカンに詫びる。
(女性には理解しにくい場面かもしれない)
禁煙の苛立ちをガムでごまかす現場の文官を冷ややかな目でカンは見過ごす。
(そんな意志の弱さでは、命のやりとりはできない)
命をかけて戦うことがないひ弱な文官と強靱な精神を持つ工作員との対比が
わずかなやりとりだが印象に残る。
ハードなアクションシーンと胸が詰まる姉弟愛、政治家や文官と武官との対比を見事にミックスされて、映画「タイフーン」は「シュリ」を超える感動が胸に迫ってきます。素晴らしい脚本と云えます。骨太映画が見ることができる人ならきっとお奨めの作品です。