GOODLUCK'S WORLD

<共感>を大切に、一人の男のスタンスをニュース・映画・本・音楽を通して綴っていきたい

「男性も惚れる男」(韓国映画「タイフーン」)

2010年09月14日 | Weblog
 男性も惚れる「精悍」を絵に描いたような男、それは「タイフーン」でテロ首謀者チャン・ドンゴン(「ブラザー・フッド」)を全力で追いつめるイ・ジョンジェです。この映画を見る前に、韓国で100万人の大ヒットを記録した涙と感動のメロドラマ「ラストプレゼント」(2001)のイ・ジョンジェを見ていたので本当に驚きました。「チャングムの誓い」で国民的女優になったイ・ヨンエの妻役も素晴らしい演技でしたが、みすぼらしい売れないコメディアン役を演じた夫イ・ジョンジェも感動を呼ぶ名演技でした。私はイ・ヨンエを見たくて「ラスト・プレゼント」を見たのですが、イ・ジョンジェのみすぼらしい印象が残っていた矢先に「タイフーン」の彼に遭遇したのです。

 俳優とはこんなにも変われるものだろうかとまさに驚愕してしまいました。しかもこんなに格好いい男を演じきれる風貌になるとはきっと誰もが驚かされるでしょう。映画「タイフーン」は国家への復讐を企てる海賊とその阻止に奔走するエリート将校の対決を壮大なスケールで描いています。

 今のなお続く、冷戦の傷跡。同じ民族でありながら憎み合う北と南。日本がもし同じように分断されていて殺し合いを続けていたら、と考えると胸が苦しくなります。「シュリ」「ブラザー・フッド」「タイフーン」は隣国である韓国・北朝鮮の現代史を知る上で、欠かせない映画のように思います。朝鮮民族の不屈の魂に触れられるような超骨太映画です。

 監督は韓国一の骨太映画を作り続けるクァク・キョンテク。「目には目、歯には歯」(2008)「愛 サラン」 (2007) 「トンケの蒼い空」(2003)「チャンピオン」(2002)「友へ チング」(2001)

(物語)
 米軍の秘密兵器を秘かに輸送中の船舶が台湾沖で冷酷非情な男シン率いる海賊団に襲撃され、積荷を強奪されてしまう。米軍の関与が表沙汰になることを恐れるアメリカ政府は直接介入を避け、韓国政府は米国海軍将校カン・セジョン(イ・ジョンジェ)にシンの追跡を命じる。カンは海賊の首魁シンが北朝鮮から逃げ出したチェ・ミョンシン(チャン・ドンゴン)であることをつきとめる。シンには姉がいることを調べ上げ、その姉を利用してシンをおびき寄せようと計画するが、二人には胸が張り裂けそうな暗い過去があった…。


海軍から抜擢されて大統領直属機関の特殊任務につかせようとする時の上司とカンのセリフ。

「任務終了後は情報院に残ってもいいし、海軍に復帰してもいい。
 社会に出たいなら職を斡旋しよう…
 
 だが、万一の時は、母親に年金が支給される」(父も軍人で任務中に死亡)

「次に士官学校の出身者を登用する時は、そんな話は無用です。
 伝えるのは、“国家の重要な任務”とだけ…」

「参考にしよう」

この二人の会話に武官と文官の差が滲み出ており、
D・H・ロレンスの詩が蘇ってくる。

  『野性なるものが自らを憐れむのを私はみたことがない。
   小鳥は凍え死んで枝から落ちようとも
   自分を惨めだとは決して思わないもの』


海賊の首魁シンと工作員のカンが同じ車の中でにらみ合いながら激しい会話するシーンがある。

すでに大スターのドンゴン相手に格下俳優だったジョンジェが物怖じせずに、
見事な受け答えをする。

 辛酸をなめてきたシンは、罵るような激しい口調でカンを熱くしようと試みるが、
軍人として冷静な態度を崩さず彼の言葉を噛み締めるように答える。

「挑戦の地で人が血を吐き、肉が裂けて死ぬザマを見届けるがいい」

「お前の人生がは不幸だ。
 だからと云って他人まで不幸にしてはいけない」


ロシア唯一の不凍港ウラジオストックで、カンが文官と共にシンの姉を捜すシーンがある。
その文官がガムを噛んでカンと話して
「禁煙したばかりなんで」と云って非礼をカンに詫びる。
(女性には理解しにくい場面かもしれない)

禁煙の苛立ちをガムでごまかす現場の文官を冷ややかな目でカンは見過ごす。
(そんな意志の弱さでは、命のやりとりはできない)
命をかけて戦うことがないひ弱な文官と強靱な精神を持つ工作員との対比が
わずかなやりとりだが印象に残る。


ハードなアクションシーンと胸が詰まる姉弟愛、政治家や文官と武官との対比を見事にミックスされて、映画「タイフーン」は「シュリ」を超える感動が胸に迫ってきます。素晴らしい脚本と云えます。骨太映画が見ることができる人ならきっとお奨めの作品です。

「お奨め映画、2本立て」

2010年09月12日 | Weblog
驚愕の映画2本をご紹介します。

 名作「シュリ」のキム・ユジン主演の良質サスペンス映画。シングルマザーの敏腕弁護士ジョンは運動会の最中、幼い娘を何者かに誘拐される。最初、警察の力を借りるが、無惨な結果に終わってしまう。ジョンは警察の目を逃れて、犯人と直接取引を行うが、犯人からの要求は翌週開かれる死刑判決確実の裁判で被告の無罪を勝ち取れというものだった。愛する娘を救うため裁判の弁護を引き受けるが、判決が覆る可能性は極めて低いものだった。

 グッドラック感動のお奨め映画でも紹介した「チェイサー」(2009)でも、韓国映画の底力を見たが、先日、朝日新聞朝刊に韓国の米国留学数が報告されていました。異常とも思える数の多さに驚く。英語力が就職に大きな力となるそうです。先日、TVでインドの企業が、英語で会議をしている場面を見ました。日本のユニクロの会議も英語になったとか。語学力が本当に必要な時代に入ったような気がします。ゴルフの世界進出も男子女子ともに韓国勢の多さに驚かされます。映画の質の高さもこの数字が後押ししているに違いありません。

2008-2009
韓国の米国留学生数  75,065人  人口 4,800万人
日本            29,264人  人口 1.3億人
インド           103,260人   人口 11.9億人
中国            98,235人  人口 13.4億人

 さて、2本目は、全世界で話題騒然となったスティーグ・ラーソンの『ミレニアム』3部作の第一作目を映画化した北欧発のミステリー巨編「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」。社会派ジャーナリストの主人公カミエルは、大物実業家の不正を告発した記事で逆に名誉毀損の有罪判決を受け窮地に陥っていた。そんな時、孤島に暮らす大企業の経営者から姪ハリエットの失踪の謎を解き明かして欲しいと依頼される。カミエルは家族から離れ単身孤島へと向かう。小柄な天才ハッカーのヒロインリズベットとの出会いや、一族を巡る血塗られた謎に迫っていくさまは、まるでエラリー・クインの古典的小説を彷彿させる展開を見せます。カットの多い見せ場ばかりの派手なハリウッド映画では絶対に見られない緻密な脚本も良くできていると思います。

 この「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」はハリウッドでリメイクが決まっています。監督はデビッド・フィッシャー、主演のカミエル役に007のダニエル・クレイグ、ヒロインのリズベット役には新人が決まったもよう。北欧スェーデンの冷たい湿った空気がうまく表現できるか、楽しみにしたいです。


 このお奨めの2本、かなりハードなシーンが多いだけに、気の弱い方には心臓に悪いかもしれません。しかし、そんなシーンだけは目をつぶって是非見て欲しいと思います。