私が頸椎のリハビリに通っている近隣のクリニックには、たくさんのコミックや雑誌が置いてある。待ち時間が結構長いので最初に手に取ったのは『JIN-仁-』(村上もとか)、そして『傷追い人』(小池一夫原作・池上遼一作画)だった。次に選んだのが『MONSTER』(浦沢直樹作)だった。
『MONSTER』のテーマは、「冤罪、猟奇殺人、医療倫理、病院内での権力闘争、家族の在り方(親子愛、兄弟愛)、人間愛、児童虐待、アダルトチルドレン、トラウマ、東西冷戦構造、ベルリンの壁崩壊の以前以後のドイツ社会」などとウィキペディアに書かれていたが、グッドラック流に一言で言えば
「子供の成長は、すべて育てる大人にかかっている」(●メンター)
幼い頃からたくさんの漫画を読んできたが、こんなに良くできた漫画に出逢えたのは久しぶりだ。『風の谷のナウシカ』以来だ。クリニックの中だけでは読み足らず、「Book Off」まで行って全巻購入してきてしまった。息子が転勤を伴う会社に就職したので、家を出るときに持って行かせたいと思ったからだ。小説になっている『ANOTHER MONSTER』も同時に購入した。(これは現在読書中)
毎日のように行くリハビリでは、低周波マッサージ、首つり、マッサージの3つを行うが、どの場所にも読みかけの『MONSTER』を持って行くので、医員達は、「『JIN-仁』の次は、『MONSTER』ですか?」などど話しかけてくれる。9巻目を読んでいた時「とても良くできているね、とうとう欲しくなって「Book Off」で買ってきてしまったよ」と言うと、横でマッサージしていた医員が『デス・ノート』も良くできていますよ」と話しかけてきた。私は内容を知っていたので、思わず声を荒げ気味に「あんな漫画を書いてはいけない。あんなのがいいと言ってては幼稚過ぎる」と言い返してしまった。そして、こう付け加えた。「子供たちが読むには過激過ぎる」と。
以前職場にいた好青年のS君にどんな漫画が好きなのか尋ねてことがある。彼は『ワンピース』と『デス・ノート』の二つを挙げた。持っているというので読ませて貰った。確かに『ワンピース』はとても良く出来ていた。そこには子供達に必要な「愛と冒険心」が詰まっていた。しかし、『デス・ノート』は悪意に満ち溢れてた。大切な愛も描かれていたが、大義にはほど遠い悪意の前に、愛はひれ伏しているように私には思えた。
S君に「『デス・ノート』のような漫画はいけない」というと、
「何故ですか?」と突っ込んできたので、彼の顔をのぞき込み、目を見据えてこう言った。
「お前に子供ができて、『デス・ノート』を読ませたいか?」
彼は目を伏せて沈黙した。
かなり強引な説得だったが、「<悪意の連鎖>が人の心を蝕む」(●メンター)と付け加えた。
子供達が読む漫画や本には、<愛><冒険心><夢><希望><成長><努力><悲しみ>この7つが大切だと私は思っている。『ワンピース』や『ドラゴンボール』にはそれらが溢れている。『MONSTER』は幼い子にはかなり難しいコミックだが、「悪意」よりも「愛」が明らかに勝っている。
人の心は環境や指導方法によってコントロールできることを知った大人達は、完全無欠な指導者、情や愛に惑わされない獣のような軍人を作り上げるために様々な方法を用いて教育を行ってきた。ナチズムやそれを真似た隣国の集団思想教育、また、爆弾を抱いたまま旅客機でビルに突っ込むような人間爆弾は、幼い頃から親元から離され、愛や情が入り込んでこない環境下で、徹底した管理教育によって作り上げられる。<大義や志>のためには、愛や情、恐怖心をも払拭できるような強靱な心を作り上げるのだ。
「大義とは何なのか?」幼い子供達に分別など出来るはずがない。「これが大義だ」と幼い頃から刷り込まれてきた子供達には、自立心も生じなければ、肉親への愛でさえ、大義の前ではただのホコリにしか思えないだろう。
<大義>や<志>が薄れてきて<私>ばかりを追う連中が充満している。インターネットの急速な普及は、それを一気に押し上げたかもしれない。子供達が<愛><冒険心><夢><希望><成長><努力><悲しみ>を学ぶ前に、悪意や欲望を知ってしまいかねない。
『デス・ノート』のような呆れ果てたコミックが3,000万部も売れてしまうこの国の若い連中の事が心配でならない。杞憂であればよいのだが。
以前、このブログで書いたが、<愛>を学ぶには時間がかかる。本能ではないからだ。反対に悪意や欲望を教えるのは容易である。それらは本能に直結しているからだ。<愛>を学ぶためには<自立心・自律心>を身につけなければならないと私は思っている。自立して初めて親の愛やありがたみに気づく。だからそれには時間がかかる。親元に長く居すぎると、ますますその傾向は強くなるだろう。
とにかく、『MONSTER』、まだ読んだことがない方には是非読んで欲しい作品だ。
たまには、大人も漫画を読みふけることがあってもいいのでは?!
* 『MONSTER』
・1999年、第3回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞
・2000年、第46回小学館漫画賞青年一般部門を受賞