話しを元に戻そう。
大三郎との話を終えた尚樹はひとり心の中で
「(いくらが適正なのか・・・)」と反復し続けた。
尚樹は親にも友達にも相談すること無く、
2回目の大三郎との話し合いに着くことになる。
初めての話し合いから1ヶ月が過ぎた。
また突然に直属の上司から「専務が呼んでいる」と言われ、
尚樹は胸中に何かを秘めながら会議室へと向かった。
2回目の話し合いはすでに会議室のイスへ腰掛けていた。
尚樹は一応「専務・大三郎」を立ててドアを開けた後、
直立で深々と頭を下げたが、内心は180°違っていた。
「(この逆玉が!)」尚樹内心は結構毒持ちである。
「失礼します。」と真向かいの席に座り、
その後、大三郎が口を開けた。
「この前の話しなんですけど、決まったかな?」
尚樹は「ええ、・・・」と間を置いた。
「専務はどうお考えです?」まずは相手の手の内を知ろうというのだ。
「そうですね、私は一千万から一千五百万円と考えています。」
尚樹は、雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
一生、片足で生きていかねばならない者に対する金額ではない。
尚樹は怒りを内包しながら出来るだけ静かに絞り出すように言った。
「専務、それは本当にそうお考えですか?」
大三郎は半笑いで「尚樹くんそうですよ。」
尚樹は、怒りをぶつけようか、しまいか、選択の時間も置かず言い放った。
「専務、ひと一人の人生を変えておいて、そんな不誠実な回答は無いでしょ!!」
大三郎の「半笑い」は続いていた「じゃあ、いくらがいいの?」
尚樹は具体的な数字は出さずに「今言った額の倍以上は要るでしょ」
尚樹は内心自分のことを「(俺は金の亡者か?)」と思いつつ言ったのだ。
大三郎は「それは会社として出せないな、もう少し考えてくれないかな?」
大三郎が金額についてこの様に即答出来るのも『会社の金庫番』の役を
牛耳ってているからだ。
尚樹自身このとき既に冷静ではなく、持ち帰って考え直しても良かったのだが
反射的に口をついて金額を言った。
「では、二千万円でいかがですか?」
大三郎は間髪入れず「いいですよ、では次の話し合いまでに詳細を詰めておきますので
尚樹くんは判子を持ってきてください。」
話し合いは、30分掛からなかったが尚樹には一時間ぐらいに感じられた。
尚樹のその日の疲労感は並ではなかった。
その六につづく
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