異形の仲間たち見聞録

私が見てきた精神疾患者たち

小説『呆け茄子の花 その六』

2016年03月25日 16時52分00秒 | 小説『呆け茄子の花』

尚樹は専務・大三郎から別の日に呼び出され、

「これ以上、会社に対して賠償を求めない」旨のただ一枚の紙切れに署名捺印した。

これの紙切れに後々になって尚樹が「後悔の念」で苦しめることになる。

しかし、この会社とのやり取りが終わったことによって、

尚樹の「腹」は決まった。

尚樹はその年の10月20日付けで退社することを決め、会社にも届けを出した。

それまでは、有給休暇を取り事実上、退社日の一ヶ月前程から会社を休んでいた。

尚樹の元に先輩から連絡があり、「送迎会をするから来てくれ」といわれた。

会社ともめたことで、断ろうかとも思ったが「立つ鳥跡を濁さず」と教えてくれた

上司の言葉が浮かび、出席することとした。

会場は尚樹が住む田舎には珍しい洒落たイタリアンで行われた。

会の始めに尚樹は一言を求められたが、

当たり障りのない言葉で12年半を締めくくった。

実は尚樹の精神は退院後、2~3ヶ月くらいから異常を来していた。