異形の仲間たち見聞録

私が見てきた精神疾患者たち

小説『呆け茄子の花 その三』

2016年03月17日 17時07分35秒 | 小説『呆け茄子の花』

尚樹は『サラリーマン社長』の奥村に語気を強くしてこういった。

「もう半年話しているのに話が進まないじゃないですか!

奥村さん、実務的な話しをしたいんです!」と。

尚樹がなぜ社長に対して『奥村さん』というのか。

それは、奥村が常務時代に親しく話していた時の名残であった。

今はもう『親しい関係』ではない。

尚樹は奥村のことを『使いの丁稚』くらいにしか思っておらず見下していた。

それからふた月して『実質的な社長』である婿養子の大三郎から、

「話があります。」と、直属の上司から聞かされた。

尚樹は「(いよいよ、本丸攻めだな)」と、内心思った。

新築された二階建ての事務所兼詰所の一階にある『会議室』に事務員に招かれると、

5分程してから、大三郎が長身にスーツを身に纏って入ってきた。

尚樹は「(相変わらず、形から入る奴だな)」、

元々、尚樹は大三郎が好きではなく、いわゆる『KY』である大三郎は、

尚樹が毛嫌いしているのを気づかずずかずかと話しかけてくるタイプで、

尚樹の苦手なタイプであった。

大三郎は手に何も持っていなかったが、開口一番「尚樹くん、いくらならいいの?」

尚樹はこころの中で「(でた!専務の品格も何もない)・・・。」と思ったが、

即答はしなかった。

実際にいくらが相場なのか、司法書士にも弁護士にも事前に相談しなかったからだ。

それは、尚樹の頭の中に思いつかない発想だった。

なぜなら、足の切断事故以来、毎年の入院~手術でそこまで頭が回らなかったからだ。

「(さて、どうしたものか・・・)」と思いながら、本論には入らず話しをかわした。

「専務、足が無くなるということは~。」と、約30分かけて『障害を持つ身』と、

事故があった同じ場所で働かされることのプレッシャーを懇々と話した。

結局、その日は金額の答えは言わずに話し合いを終えた。




「その四」につづく





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