異形の仲間たち見聞録

私が見てきた精神疾患者たち

小説『呆け茄子の花 その一』

2016年03月16日 10時33分39秒 | 小説『呆け茄子の花』
その男は「尚樹」といった。

その特徴は、右足の膝から下が無いことだった。

原因は尚樹が努めていた頃の会社での労災事故であった。

その作業は当時誰もがなんの疑問も持たずに行っていた作業であったが、

思わぬ偶然から、右足を失ってしまったのだ。

公的には「障害者」という扱いを受けある程度は面倒を見てくれるが、

当時、努めていた会社の態度は冷淡なものであった。

事故から2年も経つというのに「保障」の話し一つ持ってこなかったのだ。

中小企業であり、今回のような大きな事故は会社にとって初めてだった。

尚樹の2年間というものは、入院当初はそれなりの扱いであったが、

退院すると、「即現場復帰」を求めた。

「イスに座れば出来るだろう」ということだった。

尚樹はその言葉を聞いて愕然とし、

内心、「この会社で努め抜くことは無理だろう」と静かに退社の決意をしていた。

そのきっかけが会社からの「保障」だったのだが、

この2年間というもの一向に来ないものだから、

1年に一度は入院、手術をしていた尚樹もしびれを切らしているところだった。




「その2」につづく








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