ロウバイ、狼狽

ご婦人は、出現した瞬間から空気を歪ます力を発揮した。

昨日、日曜日のお決まりコースと化しつつある梅林公園に猫さまと花木を撮りに出かけた。
冬の間は地元の人類が球蹴りや円盤投げ、
柄の付いた網でアポロチョコのデカイのを打ち合う姿などがまばらに見られる程度だった公園は、
ドピンクな“梅祭り”のノボリが立ち、カメラを手にした観光客の姿がチョロチョロとみられる程度には賑わっていた。

そのご婦人は視界に入る前からデカい声で存在をアピールしていた。
「ち”ょっと写真撮らせてぇ～♪」と、血縁でも売買取引の間柄でも無さそうな親子に声をかけている。

遠慮、では無く、恐怖に支配された表情を浮かべながら親子は足早に逃げ去る。
…かわいそうに、ようやく回って来たブランコの順番だったのにな、女児。
他の親子やラヴァーズ、山ガールズにも次々と声をかけている。のが、凍てついた空気が移動する様子でわかる。

コミュニケーション能力が高過ぎるのも問題だな、なんてことを思いながら目の前のロウバイにレンズを向けていると、
「ア”ンタこっちから撮った方が良いよ！こっち”からだと機関車も一緒に入るからさぁ♪」との声が。
（※この公園には現役を引退した蒸気機関車が展示されている）

「振り返っちゃダメだふりかえっちゃダメだフリカエッチャダメダーっ！」という心の叫びも虚しく、
振り返ると当然のことのようにご婦人は、いた。
あいまいな笑顔を浮かべ適当な相槌をうっている合間も、
「そこからだとトイレ写っち”ゃうじゃない！こっち”から撮りなさいっ」と半ば怒りながら話しかけて来る。

…俺ってばどう見ても長～いレンズ（タムキューさん）をギリギリまで花に近づけて撮ってますよね？
被写界深度的に数メートル先のトイレとかまったく関係ないんですけど、、。
構図の指導をしてくださるご婦人ほどの方がそんなことを存じ上げない訳は無いですよね？
なんてことを思いながらご婦人が握りしめているカメラを見ると、ドピンク・メタリックのコンデジだった。

逆にどんな写真を撮っていたのかメッチャ興味が湧いたのが、
「見せて下さい」と声をかける勇気と危機管理能力の無さは持ち合わせていなかった。