「てめぇ、ぶっとばすぞ!」
「だって」
そう言い終らないうちに、黒い制服を着た中学生が吹っ飛ばされた。彼の座っていた椅子も「ガターン!」という激しい音とともにひっくり返った。
「ムカつく!」
カミソリのような目つきの男の子が「ダン! ダン! ダン!」と足音を故意に響かせ、そのお好み焼き屋から出て行った。
「痛ーっ」
頬を押さえながら吹っ飛ばされた中学生が起き上がった。
「だから村井に逆らったらダメって言ったじゃん」
同じ制服を着た小柄な男の子がお好み焼きをパクつきながら、平然と言った。
「あいつ先月もサッカーの試合で木村っちの鼻の骨を折っただろ」
隣に座っている長身でやせぎすの少年は少し嬉しそうに話題に加わった。
「あーっ、いっててて。顔の骨は折れてないみたい。村井のバカ、俺が『だけどっ』て言っただけでキレやがって」
殴られた中学生はブツブツ言いながらも、再びお好み焼きを食べ始めた。
10分後、彼らはレジに向かい支払いをすませた。
「あら、あなたたち、1人分足らないわよ」
バイトのタミちゃんが不機嫌そうに言った。
「えーっ」
「何だよ」
「あーっ、村井の分だよ。あのバカ、金払わないで帰っちまったんだよ」
3人は殴って先に帰った男の子を「ボケ」だとか「ビンボー人」だとか「セコッ」とか言っていたが、誰も彼の分を支払おうとしなかった。
「あなたたち、友だちでしょ。1人200円ずつ出したらいいでしょう」
タミちゃんはかなりイライラしている。
「俺、あいつと友だちじゃないもん」
「俺も」
「わたしもー」
やせた男子が女の子のような仕草をし裏声で言った。ほかの二人はギャハハハーッと笑った。タミちゃんの右目の上の皮膚が怒りでピクピクと引きつっている。慌てて美人のママさんが彼らに優しく言った。
「あなたたち、ここはともかく彼の分を支払って、あとから彼にお金をもらったら?」
「ちぇ!」
「誰だよ、あのバカ誘ったの」
「村井が勝手について来たんだよ」
彼らはまたも文句を言いながらも先に帰ってしまった男子分の支払いをすませて出て行った。
「もーっ」タミちゃんは深いため息をついた。
「今の中学生は、あんなもんよ」ママさんの言葉に「そうですかぁ」とタミちゃんは不思議そうに答えた。
「アハハハーッ! あんたそれでどーしたん?」
鉄板を囲んだテーブルから女の大声が響いた。茶髪の女が携帯電話でビールを飲みながら大声で話している。隣に座っている夫は「スラムダンク」を熱心に読みながらイカ玉のお好み焼きを頬張っている。そのお好み焼きは甘口ソースがドロリと乗ってさらにマヨネーズも層をなしている。お好み焼きに乗り切れなくて鉄板に溢れ落ちたソースやマヨネーズが、ジュージューと音を立てて焦げている。二人の向かい側には女の子がケータイでメールを打ち、男の子がケータイでゲームをしている。
ママさんはその様子を見て眉をひそめた。以前その女性にやんわりと言ったことがある。
「ソースやマヨネーズをたくさんかけなくても、美味しいですよ」
「ああ、そう」
だがその家族が来るとマヨネーズ1本が必ず空になるのだ。
「エビ玉あがりました」
タミちゃんの元気な声がカウンターから聞こえた。
常連客のジョンがカウンターの奥の席に座っている。地味だが品のよいトレーナーを着ている彼はあまり喋らない。
ジョンは目の前のエビ玉に辛口ソースを薄っすらと塗った。それから青海苔と鰹節を少しだけ散りばめた。そして丁寧にお好み焼きを切り分け食べ始めた。ときどき日本茶を美味しそうにすする。タミちゃんはジョンからこんな話を聞いたことがある。
「ロサンゼルス・ドジャーズのトーリ監督は癌を患った後から、日本茶を愛飲している。僕も日本茶が大好きです。身体がきれいになる感じがする」
ジョンの前にいるとママさんはようやくほっと一息つくことができた。タミちゃんも嬉しそうにジョンの湯のみにお茶を入れなおした。
「ここのお好み焼きはオイシーです」
ジョンが伏し目がちにそう言うと、タミちゃんとママさんは顔を見合わせ小さく笑った。
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「だって」
そう言い終らないうちに、黒い制服を着た中学生が吹っ飛ばされた。彼の座っていた椅子も「ガターン!」という激しい音とともにひっくり返った。
「ムカつく!」
カミソリのような目つきの男の子が「ダン! ダン! ダン!」と足音を故意に響かせ、そのお好み焼き屋から出て行った。
「痛ーっ」
頬を押さえながら吹っ飛ばされた中学生が起き上がった。
「だから村井に逆らったらダメって言ったじゃん」
同じ制服を着た小柄な男の子がお好み焼きをパクつきながら、平然と言った。
「あいつ先月もサッカーの試合で木村っちの鼻の骨を折っただろ」
隣に座っている長身でやせぎすの少年は少し嬉しそうに話題に加わった。
「あーっ、いっててて。顔の骨は折れてないみたい。村井のバカ、俺が『だけどっ』て言っただけでキレやがって」
殴られた中学生はブツブツ言いながらも、再びお好み焼きを食べ始めた。
10分後、彼らはレジに向かい支払いをすませた。
「あら、あなたたち、1人分足らないわよ」
バイトのタミちゃんが不機嫌そうに言った。
「えーっ」
「何だよ」
「あーっ、村井の分だよ。あのバカ、金払わないで帰っちまったんだよ」
3人は殴って先に帰った男の子を「ボケ」だとか「ビンボー人」だとか「セコッ」とか言っていたが、誰も彼の分を支払おうとしなかった。
「あなたたち、友だちでしょ。1人200円ずつ出したらいいでしょう」
タミちゃんはかなりイライラしている。
「俺、あいつと友だちじゃないもん」
「俺も」
「わたしもー」
やせた男子が女の子のような仕草をし裏声で言った。ほかの二人はギャハハハーッと笑った。タミちゃんの右目の上の皮膚が怒りでピクピクと引きつっている。慌てて美人のママさんが彼らに優しく言った。
「あなたたち、ここはともかく彼の分を支払って、あとから彼にお金をもらったら?」
「ちぇ!」
「誰だよ、あのバカ誘ったの」
「村井が勝手について来たんだよ」
彼らはまたも文句を言いながらも先に帰ってしまった男子分の支払いをすませて出て行った。
「もーっ」タミちゃんは深いため息をついた。
「今の中学生は、あんなもんよ」ママさんの言葉に「そうですかぁ」とタミちゃんは不思議そうに答えた。
「アハハハーッ! あんたそれでどーしたん?」
鉄板を囲んだテーブルから女の大声が響いた。茶髪の女が携帯電話でビールを飲みながら大声で話している。隣に座っている夫は「スラムダンク」を熱心に読みながらイカ玉のお好み焼きを頬張っている。そのお好み焼きは甘口ソースがドロリと乗ってさらにマヨネーズも層をなしている。お好み焼きに乗り切れなくて鉄板に溢れ落ちたソースやマヨネーズが、ジュージューと音を立てて焦げている。二人の向かい側には女の子がケータイでメールを打ち、男の子がケータイでゲームをしている。
ママさんはその様子を見て眉をひそめた。以前その女性にやんわりと言ったことがある。
「ソースやマヨネーズをたくさんかけなくても、美味しいですよ」
「ああ、そう」
だがその家族が来るとマヨネーズ1本が必ず空になるのだ。
「エビ玉あがりました」
タミちゃんの元気な声がカウンターから聞こえた。
常連客のジョンがカウンターの奥の席に座っている。地味だが品のよいトレーナーを着ている彼はあまり喋らない。
ジョンは目の前のエビ玉に辛口ソースを薄っすらと塗った。それから青海苔と鰹節を少しだけ散りばめた。そして丁寧にお好み焼きを切り分け食べ始めた。ときどき日本茶を美味しそうにすする。タミちゃんはジョンからこんな話を聞いたことがある。
「ロサンゼルス・ドジャーズのトーリ監督は癌を患った後から、日本茶を愛飲している。僕も日本茶が大好きです。身体がきれいになる感じがする」
ジョンの前にいるとママさんはようやくほっと一息つくことができた。タミちゃんも嬉しそうにジョンの湯のみにお茶を入れなおした。
「ここのお好み焼きはオイシーです」
ジョンが伏し目がちにそう言うと、タミちゃんとママさんは顔を見合わせ小さく笑った。
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