西野了ブログ テキトーでいいんじゃない?

日々浮かんでくる言葉をエッセイにして・・・・・・。小説は「小説を読もう 西野了」で掲載中です。

図書館は庶民の味方なのだーオペラと文楽の日々

2024-02-22 13:59:14 | Weblog
 今日は日経平均株価が史上最高値を記録したそうな・・・。「ふーん?」と思いつつ、実はわたくしは投資信託をしとるのだ。確かにこの間配当のいい銘柄もあるが、ダメなときは駄目なのだ。「NISA、NISA」とメディアはうるさいが、株や投資信託は損をする場合も当然ある。そんなことは当然メディアは言わない。小っちゃくテロップで一瞬流れるだけでズルいです。
 閑話休題、わたくしは今、オペラと文楽のDVDを某市立図書館で借りまっくている。高尚な趣味だと思わないでいただきたい。わたくしは品性下劣な人間である。他の人がどうかはしらないし・・・。
 文楽はとても人間の負の部分を描いているしーまあ何でも芸術作品は負の部分が無いと話にならないがーとても感情的な場面も多い。あんまり時代背景が分かんなくても楽しめるのだ。そして何故か文楽は生首がポンポン飛ぶし?わたくしなどはいつ生首が飛ぶのかなぁとワクワクしながら待っている趣味の悪い観客でおじゃる。
 オペラはあらすじが分かってないとほぼ分からない。イタリア語ドイツ語フランス語でニャーニャーと小太りの男女(大体体格がいいのだ、オペラ歌手は)が歌うので、さっぱりである。幸いにも日本語字幕があるので意味は分かるが、やはり説明書を事前に読んでいる方が無難である。(ヨーロッパの歴史に疎いのだ・・・)
 オペラというものは大体4幕くらいあるけど、いきなり展開が飛ぶ!みたいに思うのだよ。主役の歌手が結構長い時間同じようなことを朗々と歌う。大体「愛してる」とか「恋しい」とか「好きよ」とかその類である。ある意味しつこい!しかしこのくどさ、しつこさが中毒になる。文楽も同じように義理人情とか親子の情愛とか。恋人同士が結ばれない運命を嘆き会うとか、ともかくクドクドとこれでもかと言いまくったり叫んだりする。日常でこんなことを文楽・オペラ風に長ったらしく言っていたら、ちょっと病院に行ったほうが良いのではと心配されること必至であろう。しかし人間はオカシイことが好きなのだ。クドクドダラダラとしつこく言ったり歌ったりすることに中毒のように魅了される。ドストエフスキーの文章のように。
 勿論DVDになるくらいだから、歌手もオーケストラも人形遣いも太夫も三味線も上手いデス。これで下手だったら地獄の責め苦だけど・・・
 わたくしの利用している某市立図書館では二週間で3作まで借りることができる。1作2時間超えるので、ゆったりと楽しめます。3作でいくら掛かるかとセコく計算すると大体12000円くらいである。(「義経千本桜」はセット価格なので大体の金額を推測したで候)これでタダとは正直申し訳ない気が知るのは貧乏性だからであろうか。ちなみに某県立図書館で借りたハイデガーの「存在と時間」上下2冊は税込みで何と!14300円なり!値段が高過ぎたせいなのか、ハイデガーさんの言ってることが殆ど分かりませんが・・・・・・。(多分わたくしの知的レベル、つまり理解力の問題であろう)
 分からなくても、こんな高い本を持ってるんだぜー(ホントは借りてるけど)と鼻高々になってしまうのは、やはり貧乏性のなせる業でしょうか?
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オーボエ独奏を聴いて、何故かコルトレーンのフリー演奏を聴きたくなった

2024-02-15 22:08:35 | Weblog

 先日オーボエとハープのディオのコンサートに行きました。わたくしは意外にも某クラシックコンサート鑑賞団体の会員なのです。と言ってもクラシックに詳しいわけでもなく、せいぜいモーツァルトやベートーヴェンが好きなだけで、指揮者は誰がいいとか言うことが出来ないレベルです。(無茶苦茶、指揮者いるしピアニストもいるし)
 さてオーボエ奏者である。ハンスイェルク・シュレンベルガーというドイツの人で1948年生まれ、後期高齢者である。1980年から2001年までベルリンフィルに在籍。凄い人みたい。今76歳だけど日本に来て2時間近くのコンサートで演奏するってことは頑健な爺さんである。彼がコンサート前半、J.S.バッハの「無伴奏オーボエのためのパルティータト短調BWM1013」―(わたくしは勿論この曲は知らない)を演奏しました。オーボエソロは初めて聞きましたが10分くらいの端正な演奏でございました。「おお! 上手い人だとオーボエでも10分以上演奏できるのであるのか?」と感心した次第ですが、その時わたくしはふと「ジョン・コルトレーンのフリーもこんなふうに演奏したかったのでは?」と何故か思ったのデス⁈
 ジャズ好きの人はお分かりかと思いますが、コルトレーンのフリー演奏は地雷です!「これぞコルトレーン!」という熱烈支持派もいれば「こんなん音楽じゃねぇ!」と断固拒否派も存在する諸刃の剣でございます。わたくしはこの件に関しては「うーん」という日和見的見解でお茶を濁しておりました。しかし今回シュレンベルガー老師の演奏を聴いてコルトレーンの「ライブ・イン・ジャパン」「アセッション」を聴いてみると、なんと全部聴くことが出来たのでごじゃります!!何故にオーボエの端正な演奏を聴いたことが、あのコルトレーンのブヒブヒ、ギョエーといいう豚の悲鳴みたいな音も入る(違うかな?)壮絶なパフォーマンスを受け止めることができるようになったのか?ひょっとするとシュレンベルガー老師もコルトレーンのファンだったのか?(多分違うと思いますが・・・・・・)
 いずれにせよ、コルトレーンのフリー演奏を聴くことができるようななったことは御目出度いことでございマス。やはり現代の全ての西洋音楽の基本はクラシックにあるということでしょうか?(これも違うのかな?)それともただわたくしの脳がかなりオカシイということなのでしょうか?(これが正しいような気がします・・・・・・)

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お好み焼き屋の憂鬱

2024-02-05 09:20:14 | Weblog
「てめぇ、ぶっとばすぞ!」
「だって」
 そう言い終らないうちに、黒い制服を着た中学生が吹っ飛ばされた。彼の座っていた椅子も「ガターン!」という激しい音とともにひっくり返った。
「ムカつく!」
 カミソリのような目つきの男の子が「ダン! ダン! ダン!」と足音を故意に響かせ、そのお好み焼き屋から出て行った。
「痛ーっ」
 頬を押さえながら吹っ飛ばされた中学生が起き上がった。
「だから村井に逆らったらダメって言ったじゃん」
 同じ制服を着た小柄な男の子がお好み焼きをパクつきながら、平然と言った。
「あいつ先月もサッカーの試合で木村っちの鼻の骨を折っただろ」
 隣に座っている長身でやせぎすの少年は少し嬉しそうに話題に加わった。
「あーっ、いっててて。顔の骨は折れてないみたい。村井のバカ、俺が『だけどっ』て言っただけでキレやがって」
 殴られた中学生はブツブツ言いながらも、再びお好み焼きを食べ始めた。
 10分後、彼らはレジに向かい支払いをすませた。
「あら、あなたたち、1人分足らないわよ」
 バイトのタミちゃんが不機嫌そうに言った。
「えーっ」
「何だよ」
「あーっ、村井の分だよ。あのバカ、金払わないで帰っちまったんだよ」
 3人は殴って先に帰った男の子を「ボケ」だとか「ビンボー人」だとか「セコッ」とか言っていたが、誰も彼の分を支払おうとしなかった。
「あなたたち、友だちでしょ。1人200円ずつ出したらいいでしょう」
 タミちゃんはかなりイライラしている。
「俺、あいつと友だちじゃないもん」
「俺も」
「わたしもー」
 やせた男子が女の子のような仕草をし裏声で言った。ほかの二人はギャハハハーッと笑った。タミちゃんの右目の上の皮膚が怒りでピクピクと引きつっている。慌てて美人のママさんが彼らに優しく言った。
「あなたたち、ここはともかく彼の分を支払って、あとから彼にお金をもらったら?」
「ちぇ!」
「誰だよ、あのバカ誘ったの」
「村井が勝手について来たんだよ」
 彼らはまたも文句を言いながらも先に帰ってしまった男子分の支払いをすませて出て行った。
「もーっ」タミちゃんは深いため息をついた。
「今の中学生は、あんなもんよ」ママさんの言葉に「そうですかぁ」とタミちゃんは不思議そうに答えた。
「アハハハーッ! あんたそれでどーしたん?」
 鉄板を囲んだテーブルから女の大声が響いた。茶髪の女が携帯電話でビールを飲みながら大声で話している。隣に座っている夫は「スラムダンク」を熱心に読みながらイカ玉のお好み焼きを頬張っている。そのお好み焼きは甘口ソースがドロリと乗ってさらにマヨネーズも層をなしている。お好み焼きに乗り切れなくて鉄板に溢れ落ちたソースやマヨネーズが、ジュージューと音を立てて焦げている。二人の向かい側には女の子がケータイでメールを打ち、男の子がケータイでゲームをしている。
 ママさんはその様子を見て眉をひそめた。以前その女性にやんわりと言ったことがある。
「ソースやマヨネーズをたくさんかけなくても、美味しいですよ」
「ああ、そう」
 だがその家族が来るとマヨネーズ1本が必ず空になるのだ。
「エビ玉あがりました」
 タミちゃんの元気な声がカウンターから聞こえた。
 常連客のジョンがカウンターの奥の席に座っている。地味だが品のよいトレーナーを着ている彼はあまり喋らない。
 ジョンは目の前のエビ玉に辛口ソースを薄っすらと塗った。それから青海苔と鰹節を少しだけ散りばめた。そして丁寧にお好み焼きを切り分け食べ始めた。ときどき日本茶を美味しそうにすする。タミちゃんはジョンからこんな話を聞いたことがある。
「ロサンゼルス・ドジャーズのトーリ監督は癌を患った後から、日本茶を愛飲している。僕も日本茶が大好きです。身体がきれいになる感じがする」
 ジョンの前にいるとママさんはようやくほっと一息つくことができた。タミちゃんも嬉しそうにジョンの湯のみにお茶を入れなおした。
「ここのお好み焼きはオイシーです」
 ジョンが伏し目がちにそう言うと、タミちゃんとママさんは顔を見合わせ小さく笑った。



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タクシードライバーのボヘミアン・ラプソディ

2024-02-04 09:36:42 | Weblog
 気がつくとイタリアン・レストランの店内にいた。白いテーブルの前に座っている。ちょうど茹で上がったパスタがテーブルに置かれたところだ。しかしその瞬間、店内は暗闇に包まれた。店内に流れていたバロック音楽も聴こえなくなった。
「火事だ!」
 どこからともなく、その声は聞こえた。
 私は慌てて出口を捜す。だが闇に包まれた空間は迷路のようで、自分が今どこにいて、出口がどこにあるのかまったくわからない。暗闇の中いくつもの黒い影がうろうろと彷徨っている。
 しかし、火事だと聞こえたが火の手はいっこうに確認できないし煙の嫌な匂いもない。あるのはただ暗闇だけだ。その暗闇もまったくの暗闇ではなく、どこからか明かりが漏れているようで人が動く姿が確認できる。
 私は壁伝いに歩いていると突然駐輪場に出た。スラックスのポケットには自転車のキーと自動車のキーが入っている。私の家からこのレストランまでは相当な距離だ。自転車で来るのならば2時間以上かかってしまう。しかし目の前には確かに私の自転車がある。3年前健康のためにと妻がプレゼントしていくれた、緑色の車体だ。休日には妻とときどきサイクリングにでかけたりするのだ。けれども今の私は疲れていた。体が泥のように重い。
 私は自転車を利用することを諦めて駐車場に向かった。そこには私の愛車トヨタセリカが待っているはずだ。しかしその前を黒いスーツを着た背の高い男が立ちはだかった。髪の毛は短くサングラスをかけているが、その視線の鋭さは隠しようがない。鼻は異様に高く唇は薄い。(私はこの男を知っている!)私は本能的に体を強張らせた。
「あなた、疲れているようだから、私のタクシーでお帰りなさい」
 男は有無を言わせぬ口調で私を国道に停めてある黒いリムジンまで引き連れていった。
 予想したよりも車内は狭い印象だった。しかし目の前にはウイスキーのビンと氷が入った安物のグラスがあった。ウイスキーはサントリーレッドだった。
「家に帰るには1時間以上かかるので、音楽でもかけましょう」と運転席の男は言うとスピーカーからクイーンが流れてきた。私はこんな雰囲気の中、フレディ・マーキュリーのボーカルを聴きたくなかった。ブライアン・メイの電子工学的なギターも聴きたくなかった。この状況では無理な注文だが、チャット・ベーカーのトランペットが聞きたかった。いや50歩譲って彼のボーカルでもよかった。もちろん、そんなことは言うことができなかった。
 リムジンは音もなく夜の街を滑るように走っていく。私は落ち着かなく窓から外の景色を眺める。いつもの通勤途中に見る景色だ。
「ご安心を、あなたが帰るべきところまで、ちゃんと送り届けてさしあげますよ」
 男は抑揚のない声で言った。
「私はちゃん礼節をわきまえている人間ですからねえ」
 男は薄笑いを浮かべて楽しそうに言った。
 私はその瞬間、この男とどこで会ったのか思い出した。5年前妻と旅行をしたときに空港でひろったタクシーの運転手だ。私の人生の中でこれほど粗暴で無神経で悪意を感じる運転はなかった。家に着いたとき妻をぐったりとして吐き気さえもようしていた。
 私は怒りに震え「君の会社を訴えてやる!」と叫んだが、男は薄ら笑いを浮かべ「旅行の最後にいいスリルだったろ。チップもなしかよ、ケッ!」と捨て台詞を吐いて去っていった。
「君はあのときの、ドライバー?」
「あなたのおかげで、私は職を失いましたからねぇ」男はなぜか楽しそうに答えた。嘘だ!
私はあのとき妻の介抱で、男のことなどどうでもよかったし、実際に苦情なども男のタクシー会社に言っていない。
「私はタクシードライバーが天職でした」男はタバコを取り出し火をつけ、深々と煙を吸い込んだ。
「天職を失うと人間、哀れなもんです」男の吐き出したタバコの煙がなぜか私の座席まで流れてきた。
 クイーンが「ボヘミアン・ラプソディ」を演奏し始めた。
「そろそろ時間のようですな」男はハンドルを大きく右に切った。突然あたりは暗闇に包まれた。今度の暗闇は100パーセントの闇だった。リムジンのハイビームも一瞬で暗黒に吸い込まれている。間違いない。この男は断崖絶壁をめがけて私としのタイブを敢行しようとしているのだ。見かけよりも手抜きの安いリムジンを使って。
 いつしか山道に入りリムジンの上下動が激しくなった。エンジンの回転音も上がっていく。男はよだれを垂らしながら「どうです。最高のスリルでしょう? 今回はチップいりませんよ。あははははーっ」と狂ったように叫んでいる。崖の先まではあと僅かだ。
「・・・・・・あなた」小さく僕を呼ぶ声が聞こえた。
 死へのダイブまであと5メートル。
「あなた! あなた!」
「パパ!」
 黒いリムジンが宙を舞った。体が浮遊する感覚がした。
「あなた!」
「パパ!」
 目を開けると、白い蛍光灯の光がやけに眩しかった。僕の目に前には涙を浮かべた妻と安堵した娘の顔、それに微笑んでいる若い女性看護師の姿があった。
「意識が回復したので、とりあえずひと安心ですな」
 僕の枕元に立っていた眼鏡をかけた医師が妻と娘にそう告げた。
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坊ちゃん電車の猿

2024-02-03 18:08:37 | Weblog
 赤いバラの飾りの付いた黒い帽子をかぶった老婆は、車内に響き渡る声で喋っていた。
 彼女の顎はたるみ、瞳は黒目しかないように小さい。笑うと線を引いたように、顔中にしわが浮き出る。赤地の白玉模様のネッカチーフを首に巻きつけ、両手の中指にはくすんだ銀の指輪が食い込んでいる。コートは春の到来に合わせたのか、落ち着きのない緑色だ。  
 僕は離れた席からぼんやりと、その老婆を見ていた。ふと、その老婆と目が合った。彼女は上唇をにっと吊り上げた。黄色い汚れた牙が見えた。
「猿?」
(猿と目を合わさないでください。襲ってきますよ!)
 周防猿回しの人が言った言葉を思い出し、あわてて目をそらした。しかしその老婆の姿を真似た猿は、すでに空中を舞い1秒後には僕の首筋に食いつこうとした。僕は恐怖のあまり目をつぶり体は硬直した。
「キーキーッ!」
 僕の頭上から哀れな声が聞こえ、見上げると屈強な車掌が猿の襟首を摘んでいた。車掌は慣れた手つきで窓を開け、「ポイッ」とその猿を放り投げた。
 クルリと一回転して地面に着地した猿は、帽子とネッカチーフとコートを急いで脱ぎ、面倒くさそうに指輪もはずした。そして一直線に山に向かって駆け出した。
 車掌は僕に「坊ちゃん団子」の入った箱を渡し低い声で謝った。
「春になると猿にもおかしい奴がいるのです。そいつらがときどき、街中に出てくるのですよ。そして奴らは坊っちゃん列車が好きなのです。上手く化けるので、ほとんど気付く人はいないのですが・・・。ここはどうかひとつ穏便にお願いいたします」
 僕は、スリルと坊ちゃん団子には目がないのだ。だから分別のある表情で頷き、坊ちゃん団子をありがたくいただいた。

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街で遭遇した3つの出来事-パグ・三毛猫・黒ぶち猫

2024-02-01 09:36:43 | Weblog

 隣町から愛車のニッサンSRVで街に帰ってきたときのことである。国道を南下して市内に入ってきた。左に「TUTAYA」右に「牛角」が見える交差点で停車した。(信号が赤だから)
 右手を見ると横断歩道を渡ろうとしている老人がいた。かなり高齢のおじいさんだ。しかしグレーのスラックスは折り目がきちんとついており、辛子色のブレザーに紺色の紐タイも決まっている。帽子もイタリア製かと思われるほどお洒落で、白い口ひげは思慮深そうな印象を与えている。(なんとなく名探偵といった感じだ)
 そのおじいさんの右手には茶色いリードが握られており、その先にはパグが大人しく座っている。上品なおじいさんに賢そうなパグ──なかなか絵になる光景だ。横断歩道の信号が青になりおじいさんは歩き始めた。けれどもかなり高齢なので足元がおぼつかない。ゆっくりとしたペースで横断歩道を渡っている。しかし彼のお供のパグは賢そうなので、飼い主の歩調に合わせるだろうと僕は安心していた。
 だがその後の光景に僕は目を疑った。ナント! そのパグは飼い主のおじいさんよりも歩くのが遅いのである。よたよたと短い足を左右に揺らしながら辛うじて歩いている。おじいさんはパグの鈍足にイラついているのか、リードを無理やり引っ張っているようにも見える。意外と短気な年寄りなのだ。
 それにこれって動物虐待?
 よぼよぼのおじいさんよりもさらによぼよぼのパグ。 

 僕がよく行くレストランの日替わりランチはハンバーグ定食だった。実は僕はハンバーグが好物である。カレーライスも好きだしパスタも好きだ。こう書くと、まるで子供が好きな食べ物ばかりのようであるが、僕は味覚も感性が若々しいのだ。まあそれはいいとして、その日ハンバーグ定食を食べて満足した僕は、駐車場の愛車のドアを開けた。
 そのとき目の前の市道をおんぼろのスクーターが紫の煙を吐き出しながら横切った。ブーという間の抜けた音でとろとろ走っているのだが、運転手のおじさんはなぜかスタンディングポジションなのである。つまり立ったまま運転しているのだ。そしてその首には三毛猫が乗っている。
 なぜ? 立ったままスクーターを運転していて首に生きた猫を巻いて、はたしていいことがあるのだろうか? 普通に座って運転しているよりも重心が高いぶん、転倒しやすくなるリスクは高くなるが・・・・・・(肩には猫が乗っかっているし)。あのおじさんは危険を求めるアブナイ野郎だったのか? それにしてはスクーターのスピードが出ていなかったが。それともあの行為はドライブ好きの猫のためなのだろうか?

 時刻は午後6時半を回っている。世界はすでに夜の帳が下りている。僕は帰宅するため愛車を飛ばしている。するとそのとき右脇からなにやら白い物体が! よく見ると白黒のぶち猫である。ぶち猫は交通ルールを守らず、無断で道路を横断しようとしたが、僕の鋭い反射神経のおかげで一命をとりとめた。僕は無言でぶち猫に今度は気をつけろよと声をかけた。
 それから100メートルも車を走らせてないところでまたもや右脇から同じような物体が! またしてもぶち猫である。
(今度の猫は黒ぶち猫かどうかは定かではない)
 午後6時半を過ぎるとぶち猫は道路を横切る習性があるのだろうか? またしても僕の反射神経に救われたぶち猫に「気をつけろよ」と若干イラつきながら無言で声をかけた。
 30分後、自宅に着き愛車をガレージに入れようとすると、なにやら生き物の気配が! そこにはしばらく姿を見せなかった我が家の白猫メイの宿敵黒ぶち猫(メイのご飯を食べちゃう猫)が悠然と歩いていた。
 黒ぶち猫は、きっと僕に嫌がらせをしているのだ。

 世界は小さな謎に満ちている。

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