厳しい排ガス規制で知られる米カリフォルニア州で、ハイブリッド車(HV)が肩身の狭い思いをしている。もはや最新技術とはみなされず、エコカーの定義からも外された。流れは他の州にも及んでおり、各メーカーは次世代エコカーの投入を急いでいる。

 ロサンゼルス市中心部と郊外にある空港を結ぶ高速道路。混み合う一般の車線と対照的に、エコカーがすいすいと走り抜ける車線がある。2人以上が乗った車だけが走れる「カープールレーン」。カリフォルニア州が認めたエコカーなら1人で乗っても通行できるため、事実上のエコカー優先車線になっている。

 だが、エコカーの代名詞ともいえるトヨタ自動車のHV、プリウスは、この車線でほとんど見かけない。2011年にHVがエコカーから除外され、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)などに絞られたからだ。

 「HVは、もはや最新の環境技術が使われた車ではない」。規制を担当する州大気資源局のアルバート・アラヤ副局長はそう話す。自動車メーカーに州内で売る新車の14%をエコカーにするよう義務づけているが、17年からはここからもHVを外す。「目的は、技術革新を後押しすることだ。義務がなかったら、自動車メーカーは技術開発をしようと思わないだろう」

 メーカーは義務に違反すれば1台あたり5千ドル(約60万円)の罰金を科せられる。多めにエコカーを販売した他社から「排出枠」を買い取ってしのぐこともできるが、多額の費用がかかる。「環境保護に後ろ向きな会社」というイメージも背負ってしまう。

 カリフォルニアが環境規制に熱心なのは、昔から車の数が多く大気汚染に苦しんだからだという。それにしても、エコカーの販売そのものを義務づける規制は世界でも異例で、「非現実的だ」との批判も根強い。米調査会社IHSオートモーティブのデビン・リンゼイ氏は「(充電施設などの)インフラが整っておらず、消費者から望まれていない。メーカーがついていくのは難しいのではないか」と指摘する。

 ロサンゼルス・タイムズ紙によると、フィアットクライスラー・オートモービルズ(FCA)のマルキオンネ最高経営責任者(CEO)は講演で、EVを1台売るごとに約1万ドル(約120万円)の赤字が出ることを明かしたことがある。そして、こう言った。「大々的に販売させるのは、マゾヒズムの極みだ」

■規制に不満のメーカーも開発急ぐ

 それでもカリフォルニア流の規制はじわじわと広がりそうだ。ニューヨーク州やマサチューセッツ州など7州でも今後、同様の規制がかけられる見通し。規制に不満を持つメーカーも、次世代エコカーの開発を急ぐほかにない。

 デトロイトで1月に開かれた自動車ショー。米ゼネラル・モーターズ(GM)は、新開発のEV、ボルトを披露した。走行距離を約320キロまで延ばし、価格も約360万円に抑えた。メアリー・バーラCEOは「誰もが使えるEVを追求した。従来の競争を変える」と語った。ガソリン安で売れ筋の大型車でなく、こちらを目玉に据えた。

 HVで先行してきたトヨタとホンダの2社が力を入れるのは、燃料電池車(FCV)だ。長距離移動が多い米国の消費者は燃料切れに敏感で、走行距離が長めのFCVは有利とみる。トヨタは15年秋に米国でFCVのミライを発売。ホンダも16年末までに発売し、カリフォルニア州での規制強化に間に合わせる計画だ。「規制は日本より差し迫った状況。相当厳しいが、やるしかない」。あるトヨタの幹部はぼやく。

 17年から新たに規制の対象となる独BMWと独フォルクスワーゲン(VW)は今年1月、EV用の急速充電器100基をカリフォルニア州で共同で整備することで合意。充電インフラの整備にまで乗り出し、EVの普及を急ぐ。(ロサンゼルス=大内奏)

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 〈米カリフォルニア州の環境規制〉 州内での販売台数の14%を、EV、PHV、HVなどのエコカーとするよう自動車メーカーに義務づける。対象は米GMやトヨタ、ホンダなど州内での販売台数が多い日米の大手6社。17年以降は規制が強化され、HVをエコカーから除外。独VW、BMWや韓国現代自動車マツダ三菱自動車など10社が新たに対象に加わる。