「白鳥」に例えられるドイツ南部の観光名所ノイシュバンシュタイン城と、日本の国宝・姫路城兵庫県姫路市、別名・白鷺〈しらさぎ〉)城)の友好協定が、今月下旬に結ばれ、「死ぬまでに行きたい城」1位と2位がタッグを組む。ラブコールを送ったのは、西洋の「白鳥」の方からだ。極東の「白鷺」はどう応えるのか。

■集客か分散か、かみ合わぬ思惑

 昨年11月、石見利勝・姫路市長がノイシュバンシュタイン城を管理する独バイエルン州を訪れ、「プレ協定」を結んだ。バイエルン州のベルント・シュライバー城管理局長は「日独の友好を深める上でも重要な協定だ」と手放しで喜ぶ。

 バイエルンが姫路に縁談を持ちかけたのは7年ほど前だ。当初、「姉妹城」としての提携をめざしたが、「格の違い」が邪魔をした。姫路城は17世紀初頭の建築で、日本の国宝・国の重要文化財ユネスコ世界文化遺産にも登録されている。かたやノイシュバンシュタイン城は、ディズニーランドのお城のモデルとも言われ、知名度こそ抜群だが、19世紀後半の築城。世界遺産にもまだ登録されていない。

 そこで姫路側が逆提案したのが、「観光振興」をテーマにした協定だ。「平成の大修理」の終了に合わせ、姫路城で3月26日に本協定を調印する。

 だが、「白鳥」と「白鷺」の協定は実現するものの、中身への思惑はいまひとつかみ合わない。

 姫路が連携を通じて互いの来場者を増やす戦略を描くのに対し、バイエルンは「来場者は十分。混雑はもうたくさん」と言うのだ。

 ノイシュバンシュタイン城の来訪者は増え続け、2013年に年間152万人を記録した。約1割が日本人。山城で部屋が手狭に設計されており、大人数で一度に入ると室内の湿度が上がり、貴重な調度品が傷む弱点がある。最大定員60人のガイド付きツアーを5分おきに組んで調整しており、夏の繁忙期は1日8千人が限度という。

 城の周辺には宮殿や庭園、湖など計100カ所近い観光資源があるが、生かし切れていないのが欠点という。バイエルンは「観光客を効率よく分散させるマネジメントを姫路城に学びたい」(シュライバー氏)と期待している。

 姫路城の来場者は年150万人超。「平成の大修理」後は、大幅増が見込まれる。待ち時間の対策として、周辺施設の割引券や城の撮影ポイント地図の配布などを検討している。市担当者は「きめ細かい日本のおもてなしの心を参考にしてもらえたら」と話している。

■「狂王」の城に世界中から観光客

 ノイシュバンシュタイン城を築いたのは、「狂王」と呼ばれたバイエルン王ルートビヒ2世(1845~86年)。騎士道に心酔し、時代遅れの山城建築と音楽家ワーグナーに入れ込んで、「精神の病」を理由に軟禁され、城の完成を見ずに近くの湖畔で変死したとされる。当時、ドイツに留学した森鷗外の小説「うたかたの記」は、この事件を題材にしているとされる。

 住宅家賃(3部屋)が月40~50マルクだった時代、17年間に600万マルク以上が城につぎ込まれたといわれる。残された巨額の借金返済にあてるため、城はすぐに有料で公開された。皮肉にも王の謎めいた死が客を呼び、割高の入場料でも盛況だったと伝えられた。

 その人気は健在だ。世界最大級の米旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」の「死ぬまでに行きたい世界の名城25」(2012年)で、ノイシュバンシュタイン城が1位になった。姫路城は2位だった。

 独南部ミュンヘンから車で約1時間半。1月中旬に記者がノイシュバンシュタイン城を訪れると、雪が深々と降るあいにくの天候だった。晴れ間なら、おとぎ話の世界から飛び出たような白亜の城が見えるはずだが、雪とかすみで何も見えない。それでも駐車場には観光バスが連なり、入場券売り場は長蛇の列。中国や韓国からの団体客が雪の中、ガイド付きツアーの順番を待っていた。

 ブラジル出身で地元に住む芸術家、ビニシウス・ソアレスさん(44)はペルーの友人を案内して4回目の来城という。「夏は長い列ができる。冬は寒いけどあまり混んでいないし、雪景色も悪くない」と話した。

 城があるシュバンガウ村のシュテファン・リンケ村長(42)は笑う。「王自身は静寂を愛して城を建てただろうに、大勢の観光客でにぎわう今の姿を見たら、激怒するかもしれない」

世界遺産への「布石」か

 ノイシュバンシュタイン城を築いたルートビヒ2世は、周辺にリンダーホーフ城とヘレンキムゼー城も建てた。バイエルン州は3城を合わせ、王の「夢」というテーマで、世界文化遺産への登録を申請している。現在、国内選考中だ。

 このため、姫路城との協定を世界遺産登録への「布石」と勘ぐる声もある。

 ドイツ世界文化遺産は現在36カ所。イタリアスペインフランスなどとともに多い方だ。「その多くは国家的な記念物や文化財だ。ノイシュバンシュタイン城は非欧州圏で人気は高いが、欧州の感覚では誰もが異論なく称賛する建築物とは言いがたい」と、独パーダーボルン大学のエバマリア・ゼンク教授は語る。

 歴史が浅いノイシュバンシュタイン城は分が悪いようだ。数多くの城がすでに登録されていることもハードルを上げているという。

 それでも地元の人々は待ち望む。15年ほど前、城の近くにゴルフ場や温泉施設を備えた豪華ホテルの建設計画が浮上した。だが、世界遺産登録をめざす住民が環境保護を訴えて反対運動を展開。結局、計画は立ち消えになった。

 地元ホテル経営者で、姫路城との友好協定にも関わったウィルヘルム・シュビッケさん(72)は「姫路城と対等になるためにも早く世界遺産に登録されることを願っている」と話す。(独南部シュバンガウ=玉川透)

■「死ぬまでに行きたい世界の名城25」(世界最大級の米旅行口コミサイト・トリップアドバイザー) ベスト5

1位 ノイシュバンシュタイン城(ドイツ

2位 姫路城(日本)

3位 紫禁城(中国)

4位 タージマハル(インドの霊廟〈れいびょう〉)

5位 ダノター城(英国)

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 〈ノイシュバンシュタイン城〉 1869年、バイエルン国王ルートビヒ2世が建造を開始。白亜の外観から白鳥に例えられる。1886年に王が死去したのに伴い、城の工事は中断され、3分の2が未完のまま一般公開されている。

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 〈姫路城〉 1609年、徳川家康の娘婿・池田輝政が完成させた。城全体が翼を広げた白鷺を思わせることから「白鷺城」の別名を持つ。1993年に法隆寺などとともに日本初の世界遺産に登録された。2009年10月からの「平成の大修理」が今年3月で終了した。総事業費は約24億円だった。