現金を使わずに買い物する「キャッシュレス」。なかでもスマートフォンを使った「スマホ決済」への参入が相次いでいる。ネットのサービスでノウハウがあるIT企業や、携帯電話、流通系が開始を表明し、決済を事実上独占してきた銀行もようやく動き始めた。多額の費用を使ったキャンペーンで顧客を囲い込む動きも盛んだ。

 みずほフィナンシャルグループ(FG)は20日、新たなスマホ決済サービス「J―コインペイ」を3月1日から始めると発表した。買い物の際、店のタブレット端末などに表示されたQRコードを、客がアプリを入れたスマホで読み込んで決済する。お金はあらかじめ銀行口座からスマホにチャージ(入金)する。利用者どうしの送金や口座へのお金の戻しは無料。

 みずほFGは地方銀行約60行に声をかけ、アプリを共同利用する「銀行連合」を構成。各行に口座がある人の利用を見込む。坂井辰史社長は「他社にはないサービスだ」という。

 スマホQRコードを組み合わせた決済はLINE(ライン)やヤフー系のPayPayペイペイ)が先行。みずほFGはメガバンクでは初の参入だが、同分野では後発で出遅れは否めない。「銀行には100年の信用がある。大きなキャンペーンを打たなくてもお客は集められる」(山田大介専務執行役員)と巻き返しを図る。

 ログイン前の続きフリマアプリのメルカリは、今月からスマホ決済サービス「メルペイ」のサービスを開始し、20日には3月中旬からQRコード決済にも対応すると発表。メルカリでモノを売った売上金をコンビニや外食チェーンなどで使える。

 月間利用者1200万人の基盤に加え、売上金をそのまま決済に使える手軽さが売りだ。利用者の売上金は年約5千億円規模で、多額の決済に利用されると見込む。売上金がなくても銀行口座に接続して入金もできる。山田進太郎・会長兼最高経営責任者(CEO)は「これまでは二次流通に限定していたが、様々な店舗や商品の支払いに使えることでモノとお金の流れを変えたい」と語った。

 メルカリスマホ決済ではクレジットカードのJCBが技術協力した。JCBにとっては、本業のカード事業の売り上げに影響が出かねないが、「スマホ決済は盛り上がりを見せており、加盟店から要望もあった」(担当者)ため、標準化技術の開発に踏み切ったという。

 参入が相次ぐスマホ決済だが、QRコードなどを使うという点で大きな違いはない。各社は自社のサービスに慣れてもらい、顧客を囲い込もうとしている。そのための手段が、一定額の買い物に合わせて多額のポイントを還元するキャンペーンだ。

 ペイペイは昨年末、「ペイペイ祭」と呼ばれたポイント還元を総額100億円もかけて実施。今月12日からは第2弾の「100億円キャンペーン」も始めた。LINEペイも22~28日に決済額の20%を還元するキャンペーンをする。

 各社は店側にもお得感を打ち出す。スマホ決済の際、店側は一定の手数料をサービス提供会社に払う必要があるが、手数料を低く抑え、導入店を増やそうとしている。

 こうした競争は「ポイント目当て」の一時的な利用者ばかりを増やす結果になりかねない。調査会社MMD研究所の1月の調査では、QR決済を利用する理由(複数回答可)の1位は「ポイントがたくさんたまるから」だった。

 今後、10月の消費増税では、政府が増税対策としてキャッシュレス決済でのポイント還元への補助を予定しており、スマホ決済が大きく広がる可能性がある。

 ただ、多くの人はすでにキャッシュレス決済でクレジットカードを利用しているとみられる。一方で、日本では現金志向も根強い。MMD研究所の調査では、QR決済を利用しない理由(複数回答可)のトップは、「クレジットカードで十分」で4割超、「現金で十分」がそれに続いた。多額の費用をかけた「祭り」の後にどのスマホ決済が生き残るかは見通せない。