実体のともなわない、象徴的で、イラストチックな肖像画がある一方、性格まで具体的に表現されたリアルな肖像画というものがある。
肖像画といえば本人をモデルにして描かれるのだろうけれど、パウロやペテロといった聖人の肖像ではそうはいかない。
パウロは大きな剣を持ち、ペテロは鍵を手に持ち、ヨハネのグラスには龍がいる。身につけた衣の色にも意味がある。
3人の聖人の肖像が並んで飾られていた。ヨハネは何ともイケメンに描かれてる。
その隣にはその3枚の絵画とは趣の違うパウロの肖像画がある。
お決まりの大剣も小道具として用意されているが、連作の肖像とまるで違うのは、人物がリアルであること。
リアルパウロ。
もちろん本人ではないが、誰かモデルをおいて描いたんだろうなあと想像ができるのである。
ずっと見ていくと、同じようにリアルヤコブがあったりもする。
主役はやはり祭壇画。
紺と赤見の強い紫が印象的な絵が多いエル・グレコ。
全体的に影が濃いなあと思う。言い換えれば強く光りがあてられているということかも知れない。
深い暗闇の中に浮かびあがる人物という感じを持つ。
実際、暗闇に蝋燭の火で浮かびあがる少年を描いた作品もあるし、そうした描き方を意識していたのかも知れない。
「聖母戴冠」や「無原罪のお宿り」という作品にはたくさんの天使が描かれている。
空間からうじゃうじゃと湧き出るように、足下の衣にもさもさと纏わりつくように、たくさんの天使の頭や身体が描かれている。
それは、インパクトのある演出であり映画を見るかのようでもある。
目を閉じればこのシーンを映像化した映画の1シーンをイメージすることは難しくはない。