心のままに・・・

実体験をもとに小説仕立てでお話を書いています。
時々ひとりごとも…

想いは伝わる・・・4

2024-02-03 11:26:00 | 想いは伝わる
5年も経ったのよ

少しは大人の女になったでしょう
タカシと別れてから 
私は必死だった

仕事に没頭し
趣味を見つけ
資格も取った

悔しくて悲しくて 
子供扱いが許せなかった
絶対にいい女になってやる
手放すんじゃなかったと思わせてやる
と 思い頑張った
いつどこで会ってもいいように
自分磨きをしたつもりだった

聞きたいこと
言いたいことは沢山あった

でも
そのどれも今は聞くべきではないし
話せる状態でもない
それにしても
あなたは相変わらずいつも女づれで
その女性は、知っているのかしら
あなたのそんな女癖の悪いところを

あ この曲好き

小さくつぶやいたのが聞こえたようで
岡崎がうなづく

うん これいい曲だな 
昔よく聞いたよオレも好きだったよ
ジョージ

ジョージ・ベンソン

あ そうそう確かあいつも
と言いかけて慌てて苦笑い
オレは
何のために今日千秋を 
誘ったのかわからんな
嫌な思いさせているだけかもな
しかも偶然とはいえ

ちらっと振り向くと
タカシもこちらを見つめていた
きっとこの曲に反応したのだろう

あの頃よくドライブをした
BGMはいつもJazzやFusion
といったもので
そのころ日本のアーティストしか
知らなかった私には
とても新鮮で
Jazzなんて
なんて大人なの
などと
それだけで舞い上がってしまっていた
何もかも新鮮で
大人の男性それまでの学生のノリとは
違ったいろいろな経験

私はあなたの手で
声で
大人の女になったと言っても
いいかもしれない
甘い時を教えてくれたのも
あなただったわね

宮本高志と出会ったのは8年前
1987初秋
私はまだ大学生だったが
その頃世間はバブル景気時代
何もかもが華やかで
大学生とはいえ少しのバイトで
ブランド品などすぐ手に入る
そんな時代だった

男の子たちも羽振りが良かったし
飲み会では
お金なんて出したことがなかった

学生の仲間で飲みに行った後
ちょっと背伸びしたくて
立ち寄ったBarで
タカシと出会った

とてもスマートなナンパだった

元気をとり戻しつつあった真理子と
二人でカウンターに座り
お勧めのお酒は?
なんて
お店のひとに話しかけていたところ

奥の席に座っていたタカシたちから
お酒のプレゼント 
そんなことをされたことが
なかった私たちは唖然
そりゃそうでしょう
大学生の身で
まさか よね

大学生のノリとは全く違う大人の
それでも
一生懸命わかったふりして
平静を装っていたっけ

コースターの裏に
自分の電話番号を書いて

よかったら、またごちそうするよ
と微笑んだタカシに、
私は完全にノックアウトされていた


ほんとうは
少し敬遠というか、怖かった
だって
それまでのボーイフレンドとは
違ったタイプ
しかも 調子良さそうな大人の男
本当に電話して良いものか
どうなのか

本気にしたのか
とバカにされやしないか

いろいろ考えて結局
あの出会いから二ヶ月ほど
電話なんて 出来なかった


世間はクリスマス前で
ますます賑やかになっていた

電話をすることも忘れていたころ
偶然が起こった。

真理子に誘われて行ったBarで、
再びタカシに出会ったのだ

何か御馳走させてくれないかな
後ろで声がして
びっくりして振り向いた

そこには あの時のあの男性
コースターの裏に慣れた手つきで
番号を書き
当然のように手渡した 
ちょっと軟派な男性

あ やっぱり君だったね
あれから電話くれないから
嫌われちゃったのかと思ってたよ

この人こんなこと誰にでも言ってるの?

千秋は真面目すぎよ
いい男じゃない
面白いから
ちょっと一緒に飲みましょうよ
この間みたいに
おごってもらってそれでいいじゃない

真理子が耳元でささやく

そうね、それもいいかも

じゃあ 
なにかあなたのお勧めのお酒を
お願いしますね

そう言って
私たちはタカシとその連れの男性と
一緒に飲んだのだった

そういえば
あの時一緒にいた人が
岡崎さんよね