心のままに・・・

実体験をもとに小説仕立てでお話を書いています。
時々ひとりごとも…

去りゆく人 2

2024-02-13 10:02:00 | 去りゆく人


真理子の家は
高級な住宅が並ぶ山の手にあった

わぁすごい 
こんな素敵なお家
住んでみたいわ
とはしゃぐ私に

ただ大きいだけで、退屈よ
と、なんだかさみしそうに
答える真理子だった

大きな門をくぐると
そこには大きな庭が広がり
玄関のドアまでは 
しばらく小道が続いていた

どうぞ
促されて足を踏み入れた 
“あっ” 
私はおもわず小さく声をあげてしまった

おかえりなさいませ
真理子さま

TVで見るようなメイドさんが二人 
真理子を出迎えていた

ただいま
無表情に言った真理子は
ずんずん2階へと階段を昇って行く
私はメイドさん達に会釈すると 
慌てて真理子の後を追った

私の家は
そのころまだ借家で 
庭はなかった 
でも2階に上がると
大好きな海が見えて
それなりにお気に入りの家だ 
庭付きの家というのは
母も私も憧れるものだった
父は
家を買う時には
小さくても庭付きを探そうな
といつも口癖のように言っていた

私はしばらくの間
部屋中を見まわし 
お姫様が眠るような大きなベッドにも
興奮して
少し苦手と思った真理子が
とても羨ましくなった

でもどうしてもいつも
翳りのある表情をしているのだろう
何不自由なさそうなのになぜ?
そんな風に悪い子ぶっているのかと
疑問に思った

しばらくすると
誰かがドアをノックした 

失礼いたします

先ほどのメイドさんのひとりが
お菓子とお茶を持ってやって来たのだ


ますますTVで見るようだわ
ニコニコしていると真理子は
もう買ったというレコードをかけながら
今回のアルバムは
曲が少ししか入ってないのよ
ちょっと残念だわ
これよりも私が好きなのは 
去年のクリスマス前に出た 
こちらのアルバム

彼がプレゼントを抱えて 
ってところが好きよ

私も大きくうなずいた 
大人になったら私にも
迎えに来てくれる素敵な人が
現れるのかしら?
とドキドキしたものだった

でも私が一番好きな曲は
グランドの外で
大好きな男の子が野球をしている姿を
そっと見守る
女の子の気持ちが
描いてあった曲だ

中学の頃好きだった男子のことを
ふと思い出した 
淡い初恋だったと思う

すると再びノックの音
と同時にこちらの返事も聞かずに
グイッとドアが大きく開いた

あっ!お客さんだったのか
と少しびっくりした表情の青年

お兄ちゃま! 
いつも言ってるでしょう? 
レディの部屋へ入ってくる時は
もっと静かに!

そして
私の返事を 
聞いてからよ
よくって!?
と、頬を膨らませながらも 
とっても嬉しそうに微笑む真理子

こんな表情 
決して学校では見たことがなかった

ふぅん 真理子が友達をね
と真理子の兄 
啓太は私を見てにっこり笑うと

ようこそおいで下さいました
どうぞごゆっくり
とだけ丁寧に言って
何か言いたそうにしながらも
早々に部屋を出て行った

真理子のお兄さんは
一つ年上だそうで
このあたりでは有名な男子校に通っている

真理子の兄の存在に私は
またしても羨ましいものを感じていた
弟がいる私にとっては
お姉さんやお兄さんのいる人が
羨ましかった
幼いころ母にわがままを言って
お兄ちゃんか
お姉ちゃんを産んで欲しい
などと困らせたものだ

そしてどちらかというと
姉よりも兄という存在に
憧れるのであった

それにしても
おにいちゃま か

さすがお嬢さまだな

うちの弟が私のことを
おねえちゃま
などと呼ぶはずもなく
あねきか
おねぇと呼ぶよな・・・
などと思いひとり苦笑いしてしまった