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昔っこ・伝説

2021-07-18 19:14:23 | 昔っこ・民話

ぞうり沼

天王町の大沼は、どんな日照りでも 涸れることは無かった。

昔、脇本村(男鹿市脇本)の商人の 半十郎という者が、用事のために

久保田(秋田市)へ行った帰りに、この沼の辺りを通った。とつぜん、

ザザッ・ザザッというものすごい水音がした。驚いて沼の方を見ると

沼の真ん中から大きな竜が現れ、半十郎をギラギラ光る目で にらみつけていた。

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あまりの恐ろしさに、逃げようとしても半十郎の足は、おもうように動かない。

助けを呼ぼうとしても、言葉にならない叫び声をあげるだけである。

竜は、耳までさけた真っ赤な口を開け、半十郎をひとのみにしようと、迫ってくる。

そのとき、どこからともなくひとりの男が現れ、竜に立ち向かっていった。

そして、履いたぞうりをすばやく足から取ると、男は、火でも吐くかと思われる

大きな口に投げつけた。ぞうりは、大きく開けた竜の口の奥に、うまく当たった。

 

竜は、ぞうりを飲みこんで、あわてたように沼の水底に隠れてしまった。

半十郎は、腰を抜かして、ただ目の前の出来事を、黙って見ていたが 

はっと我にかえって、あたりを見回すと、男の姿はもうどこにも無かった。

命の助かった半十郎は、涙を流して四方八方を拝んだ。

拝んでいるうちに、半十郎は日頃から 信心している牛頭天王(ごずてんのう)様が、

人の姿になってあらわれ、助けてくれたのだと思った。

 

そして、今度は牛頭天王を祭っている 東湖神社の方へ手を合わせて熱心に拝んだ。

ちょうど、そんな事があったころ、村の又兵衛の家へ ひとりの旅人が立ち寄った。

「旅の者だが、のどが乾いてたいへん難儀をしている。水を1杯飲ませてくれないだろうか」

見ると、その男はどんな働きをしてきたものか、ひどく汗を流していた。

「どうぞ、どうぞ なんぼでも飲んでくなんせ」

男はのどをならして飲み終えると、ていねいに礼を言って、又兵衛の家から立ち去った。

そして、村のはずれまで来ると、男の姿は、たちまち白いごへいに変わり、

東湖神社の方へ飛んでいった。

 

村人たちは、牛頭天王(ごずてんのう)様だと、不思議がって話していると

そこへ半十郎がやってきた。半十郎の話をきいて、人々は改めて不思議がったり

ありがたがったりした。それからは、天王祭りのたびに半十郎は、ぞうりを

東湖神社に奉納するようになり、その子孫もそれを続けた。

お祭りが終わると、そのぞうりを沼に捨てる。二度と竜が出てこないように

する為である。ぞうり沼の名は、そこからつけられた。

       ―南秋田郡天王町―    文・新田 恒美

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県内各地で語り継がれてきた伝説を集めた「秋田の伝説」

(1976年、県国語教育研究会編)の作品です。

当時の小中学校の 教諭が執筆したもので、登場する市町村名は

合併する前のままです。

 

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