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メルトダウン原子炉「冷却」の死角と、敵前逃亡の保安検査官

2013年03月14日 | 脱原発
10日のNHKスペシャル「メルトダウン原子炉冷却の死角」を見た。



あの事故の日から、4号機建屋が吹き飛んで、外側から放水できるようになるまでの数日間。事故にあたった東電社員、作業員の様子が再現ドラマ仕立てで放送された。

事実の重みは、どんなフィクションのホラーやサスペンスより、よほど恐ろしく、いま見ても、怖くて息ができないような苦しさを覚えた。

「何も出来ないなら、自分達がここにいる意味があるのか」と、問う若い作業員の方たちの気持ちは痛いほどわかり、私が彼らの家族なら一刻も早く逃げて欲しいと思っただろう。

「冷却の死角」タイトル通りの、想定外の状況で、冷却装置への思い違いと場当たり的な対応しかできなかったこと。この死角の教訓は、国内だけでなく世界に共有されるべきだけれど、政府や国会の事故調では触れられていなかったということもわかり、改めてNHKの取材で取り上げられて、万人知るところとなり、よかったと思った。受信料はこういうことのために生かされてほしいとつくづく思う。

死角の第一は、1号機の冷却装置であるイソコンの作動について、40年間動かしていなかったから、誰も動いているところを見たことがなかったということ。
動いてるかどうかわからないが、おそらく動いているのではないかという、漠然とした思い込みや、通称豚の鼻と呼ばれる建屋のふたつの穴から煙が出ていたことで、勘違いしてしまったようだ。(実際動いていれば、火事と間違うほどの大量の水蒸気が出るのだというが、それほどの煙ではなかったのだ・・・この日が来るまで、誰も見たことがないので、わからなかった)

死角の第二は、全電源喪失を想定していなかったことによる。
炉の冷却のために3号機の外づけのパイプから建屋内に消防車の注水をしたのだけれど、原子炉に到達するまでの長いパイプの途中で、復水器という他の場所に水が流れてしまった。電気が通っていれば、ポンプが働き、押し出す機能があったのだがそれが作動せず、本来注水すべき炉に、十分に水が流れてゆかなかった。しかし、当時はそれに気づけず、冷却できたと思ってしまった。

思ったことは、やはり原子力を人の手で管理することの難しさと怖さ。事故は想定内では起こらない。
二度とこんな事故は起こってほしくないが、同じ形の事故が起こるとは限らない。そして、一歩、間違えれば国が成り立たなくなるほどの大惨事になってしまう可能性があるもの。


  


ただ、あの状況下で、頼るものは現場の彼らしかなかったのに、国民を守らなければならない官邸側にきちんと情報を上げてこなかった、それは、大きな大きなミスだったと思う。
政府の伝言役とも言える、保安検査官4人が、事故直後に「臨界」が起こるのではないかなどの理由で現場から逃げ出してしまったこと。
カウントダウン・メルトダウン」の著者、船橋洋一氏はインタビューに、以下のように述べている。

──本の冒頭第1章では、原子力保安院の保安検査官4人が事故直後に福島第一の現場から敵前逃亡したことに触れています。こんなことが許されていたのですね。

政府事故調も報告書でやや批判的に書いたけれども、これに焦点を当てたものは一個もないのです。私はそれに非常に不満がありました。政府批判のなかで一番、批判されなくてはいけないのはここでないか、と。やはりそういう発想にならないのは、戦後の日本で、国をいったい誰が守るのか、というぎりぎりの部分、安全保障国家としての国家像が欠けているのではないか、と思いました。僕は右翼でも保守派でも何でもないけれども、率直そう思いました。

調べてみると、臨界が起きるのではないかとか、ありとあらゆる口実を言って、逃げちゃっている訳ですよ。彼らだけでなく、黙認した保安院にも責任があるし、それをまた黙認した当時の海江田(万里)経産相にも責任があるのではないか、と思います。

私が調べてみて、へぇっー、そういうことだったのかと思ったのは、保安員も含めて、オフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設)に逃げ、そこからまた、福島県庁に逃げた。

14日夜9時半ぐらいから15日の昼にかけて、政府の職員たちをみんな逃がしている。その一方で、同じ頃、菅さんは東電に乗り込んで「お前ら、死ぬ覚悟でやってくれ」と言っている。いったいこれは何なのか。これは絡んでいるのです。絡んでいることを意識していたのかどうか。どういう風に解決しようとしたかどうか、知りたかったのです。それを調べたら、気づいたんです。

保安検査官の逃走というのは、一種の規制体制、規制レジームのメルトダウンだったと思います。


──米国もこの事実を聞いてびっくりしたとのことですね。

米国のNRC(原子力規制委員会)の2人に聞きましたが、2人ともびっくりしていて、「信じられない。アメリカだったら、完全に首だし、はっきり言って監獄行きだね」と言っていました。

米国の保安検査官というのは、家族と一緒になってプラントの近くに住むのです。家族の命もかかっているから、死に物狂いで安全を守るのだと言っていました。


──これは誰か責任をとったのですか。

誰もとっていない。とっていないのです。


──保安院がなくなり、責任問題が消えてしまったのですか。

保安院がなくなったんでしょ、過去の話ですね、と言うわけですね。典型的な霞ヶ関の生存術ですよ。

トカゲの尻尾きりです。経産省がつぶされるかもしれないという瀬戸際でしたから、保安院を人身御供(ひとみごくう)にして(経産省は)逃げたということです。



  


あの状況で炉の冷却ができたのは、まさに「奇跡」だったと言える。
経産省、東電、関連企業や、原発推進の自民党、読売新聞など、原子力ムラが反省もなく、菅さん一人に罪を押し付けるがごとく知らぬ顔で原発維持に傾いているなら、・・・また同じようなことは起こってしまうだろう。


今日のニュースで、京都の風力発電の風車が折れた、と言っていた。
風車なら、これで終わりだけれど、もしこれが原発なら・・・、ここから始まる時間は、廃炉まで40年。そしてさらに10万年後までのリスク。今の一瞬のための電気に、10万年もリスクを背負うなんて誰も出来ない。
やはり、菅さんが言われるように、「一番安全な原発は脱原発」なのだと思う。
持続可能な未来を選択するには、「脱原発」それ以外の選択はない。


最後に
・・・あの状況下、現場で、命がけで対応してくださった東電の社員、消防、自衛隊、その他関係された皆様には、改めて感謝申し上げます。

そして
今もなお、危険な事故現場で働いている人たちの待遇が少しも改善されず、悪くなっていること。
優先順位を間違えているのではありませんか。
火事を収めないまま、増築に余念のないような日本の現状です。

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2 コメント

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40年対200000年 (xtc4241)
2013-03-15 15:08:21
金木犀さん、こんにちは(いま3月15日pm3:00頃です)

>今の一瞬のための電気に、10万年もリスクを背負うなんて誰も出来ない。

たった40年ですよ、原発がちゃんと動いて。
そのあと20万ですよ。管理ないしビクビクしてなけりゃいけない時間は。その差5000倍です。
人の命が100年として、最低でも2000世代に受け継いでいくのです、この悪魔のような原発を。
どうみても、安全性からも、コスト面からも、倫理の面でも許されるはずがないのに。想像力の欠如です。
でも、2000世代と書いて、僕自身びっくりしてしまった(苦笑)。

逃亡した保安員は、矜持というものが全然ない。
死ぬかもしれないとなったとき、それでもそれに立ち向かうという姿勢こそ、人間としての生き方でしょう。
それを周りの人まで求めなければならなかった菅さんの思い、それは大変なことだったと思います。
細野さんが言ってましたね「あの時菅さんでよかった」と。ほんとうにそう思いますね。
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xtc4241さんへ (金木犀)
2013-03-16 11:14:12
こんにちは、この記事にコメントありがとうございます。

原発の放射性廃棄物が無害化するのに、10万年とも20万年とも言われていますよね。
フィンランドの廃棄場所オンカロでは、10万年後は、人類が存在していないかもしれない、他の種が地球上の主になっているかもしれない、という想定もあるそうです。
そういう時、「ここに入るな」という看板は、むしろ逆効果で興味を持たさないように、看板すら立てないほうがいいのではないかとか・・・具体的なことを考えだすと、際限ない問題にまたぶち当たる。
おっしゃるとおり、「想像力の欠如」、こんなものを推進して、まったく愚かしいことです。

>逃亡した保安員は、矜持というものが全然ない。

日本を守ろうとする意識が、全くなかった。
当時、菅さんが現場を混乱させた、という論調で、各方面から、叩かれていましたが、現実、菅さんがあの時言わなかったら、どうなっていたのか。
保安員が逃げずに、現場の情報を逐一上げられたなら、あそこまで菅さんが、やらなくてもすんだこと。
逃げ出した保安員こそが、現場を混乱させた原因でもあったと思います。
菅さんが逃げるなといったのは、単に東電だけでなく、与野党の政治家を含めて、日本の中枢の人々に対しての意味も、あったと感じます。
今回、船橋洋一氏のインタビュー記事を読んで、その思いを強くしました。
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