変化の時代④
🔹林野、落合さんが理事長に就任なさった頃の西武信金は、どういう状況でしたか。
🔸落合、理事長に就任したのは平成22年ですが、合併を二回やった後の大変な時期で、正直あまりいい金庫ではありませんでした。
不良債権が多く、1番悪い時で当期純利益が2億円くらいしかなく、業界のランクでは下のほうでした。
そこで、私は理事長になった時に第一声で、この金庫を日本一にする。
そして職員の給料も日本一にすると宣言しました。
🔹林野、金庫を日本一するとともに、職員さんの給料も日本一に。
🔸落合、私が一番問題だと思ったのは、職員に自信がなかったことです。
この金庫をよくするには、まず職員に自信を持たせなければならない。
そのためには、給料を高くしなければと思ったんです。
野球でも、ソフトバンクがなぜ強いかと言ったら、一人当たりの年収が多いからだと思うんです。
組織はやっぱり、頑張ったらたくさんもらえると強くなるものです。
🔹林野、私もその考えには賛成です。
🔸落合、ただ、月給を上げると収益が落ちたときに困りますから、
賞与のほうを上げて、人件費を固定費から変動費に変えたんです。
私が理事長になって4年間くらいは、組合の要求よりも経営陣が高い賞与を出すので、交渉になりませんでした(笑)。
とにかく優秀な人が集まる企業にしなければいけないと思って、いろんなことを考えました。
まず年齢の定年をなくして、若くても能力のある人が上がっていけるようにしました。
「年齢」というキーワードを組織の中からなくしたんです。
それから、立候補制度をつくって人事異動は自分でやりなさいと。
自分で決めると、行った先が大変でも文句を言わずに頑張るんです。
また、自己申告制度の活用を強化しました。
最初は誰もまともに受け止めなかったんですが、
50人くらい自己申告どおりに移動させたらビックリして、皆真剣に申告し始めました。
これを始めてよかったのは、リーダーが部下を大事にするようになったことです。
成績は上げていても、部下から評価の悪いリーダーも中にはいて、
その店舗から出たいと自己申告する人が3分の2もいたりする。
それでは支店が立ち行かなくなるから、支店長のほうを替えざるを得なくなるんです。
それに、自己申告で人事異動するといっても、目標が明確でないとできませんよね。
ですから、各人が自分の職場目標、夢を達成するために働くようになって、職場が非常に活性化したんです。
それから、昇格させる職員は能力的にギリギリの人を選ぶようにしました。
そうすると、自分の方が上だと思っている職員が大勢いますから、皆慌てて意識を上げるんです。
🔹林野、実に巧みに職員さんも意識を刺激してこられたのですね。
🔸落合、当時の私どもには信用はあっても、信頼はありませんでした。
例えば、私が営業に行くと、お客様が私のことをほとんど調べないでお金を預けてください。
これ、信用ですね。
しかし、お客様は会社が赤字になっても西武信金を頼ろうとはなさらなかった。
それは信頼がなかったからです。
頼ると金利を上げられたり、お金を貸してくれなくなったり、保証人を取られたり、担保を取られたりして潰される。
それまで金融実務の中でそういうことをやってきたために、信頼がなかったわけです。
ですから、私どもはこの信頼を醸成するために、
「お客様を絶対的に支援します」
という決意を、雑誌やテレビを通じてどんどん発信していきました。
マスメディアに私どもの名前がかなり出回ったことで、
「あれだけ言うんだから、守ってくれるだろう」
という信頼感が醸成されてきましてね。
貸出金を増やしにくいこの時期に、過去90年かけて計上した額の半分を、わずか8年で増やすことができたんです。
それはビジネスモデルを変え、職員とお客様の活性化を図ったからこそ実現できたことです。
🔹林野、落合さんも私も、競争相手が気づかないことを、気づいてもやらないことをやったから勝つことができたのだと思います。
多くの会社は、簡単にできることは取り入れるけれども、本当に新しいことにはなかなか挑戦しようとしません。
やるべきことに気づいている社員がいても、組織体としてはやらない。
ですから、本当に実行する人を見出して、しかるべきポジションに就けなければならないのですが、
西武信金さんでは落合さんを抜擢したことが奏功したわけですね。
🔸落合、私のやってきたことは、お客様から見ると当たり前のことだと思うんです。
私ども信用金庫は、一般の銀行が株式会社であるのと違って、協同組織です。
株式会社は、投資家保護のために利益を上げ続けて、配当を上げるか、株価を上げるか、しなければなりませんね。
しかし、私どもは協同組織だから利用者保護なんですよ。
私が取り組んできた改革も、すべて利用者保護が目的でした。
今後、成熟から衰退へと向かっていく時代に利益を上げ続けなければならない株式会社は大変です。
これからは私ども協同組織の時代だと言っているんです。
🔹林野、確かにそうかもしれません。
ドラッカーは、数字を目標にしてはいけない、利益目標を上げると利益の質が悪くなると説いていますが、そのとおりだと思います。
他のすべてを犠牲にして利益数値だけ独り歩きしたら、
質が悪くなっていくのは当たり前ですよね。
そうならないために、人事の仕組みに工夫を凝らさなければなりませんが、
落合さんのところのように、社員の意識が変わるような仕組みづくりを実現できている会社は少ないと思いますよ。
(つづく)
(「致知」2月号 落合寛司さん林野宏さん対談より)
🔹林野、落合さんが理事長に就任なさった頃の西武信金は、どういう状況でしたか。
🔸落合、理事長に就任したのは平成22年ですが、合併を二回やった後の大変な時期で、正直あまりいい金庫ではありませんでした。
不良債権が多く、1番悪い時で当期純利益が2億円くらいしかなく、業界のランクでは下のほうでした。
そこで、私は理事長になった時に第一声で、この金庫を日本一にする。
そして職員の給料も日本一にすると宣言しました。
🔹林野、金庫を日本一するとともに、職員さんの給料も日本一に。
🔸落合、私が一番問題だと思ったのは、職員に自信がなかったことです。
この金庫をよくするには、まず職員に自信を持たせなければならない。
そのためには、給料を高くしなければと思ったんです。
野球でも、ソフトバンクがなぜ強いかと言ったら、一人当たりの年収が多いからだと思うんです。
組織はやっぱり、頑張ったらたくさんもらえると強くなるものです。
🔹林野、私もその考えには賛成です。
🔸落合、ただ、月給を上げると収益が落ちたときに困りますから、
賞与のほうを上げて、人件費を固定費から変動費に変えたんです。
私が理事長になって4年間くらいは、組合の要求よりも経営陣が高い賞与を出すので、交渉になりませんでした(笑)。
とにかく優秀な人が集まる企業にしなければいけないと思って、いろんなことを考えました。
まず年齢の定年をなくして、若くても能力のある人が上がっていけるようにしました。
「年齢」というキーワードを組織の中からなくしたんです。
それから、立候補制度をつくって人事異動は自分でやりなさいと。
自分で決めると、行った先が大変でも文句を言わずに頑張るんです。
また、自己申告制度の活用を強化しました。
最初は誰もまともに受け止めなかったんですが、
50人くらい自己申告どおりに移動させたらビックリして、皆真剣に申告し始めました。
これを始めてよかったのは、リーダーが部下を大事にするようになったことです。
成績は上げていても、部下から評価の悪いリーダーも中にはいて、
その店舗から出たいと自己申告する人が3分の2もいたりする。
それでは支店が立ち行かなくなるから、支店長のほうを替えざるを得なくなるんです。
それに、自己申告で人事異動するといっても、目標が明確でないとできませんよね。
ですから、各人が自分の職場目標、夢を達成するために働くようになって、職場が非常に活性化したんです。
それから、昇格させる職員は能力的にギリギリの人を選ぶようにしました。
そうすると、自分の方が上だと思っている職員が大勢いますから、皆慌てて意識を上げるんです。
🔹林野、実に巧みに職員さんも意識を刺激してこられたのですね。
🔸落合、当時の私どもには信用はあっても、信頼はありませんでした。
例えば、私が営業に行くと、お客様が私のことをほとんど調べないでお金を預けてください。
これ、信用ですね。
しかし、お客様は会社が赤字になっても西武信金を頼ろうとはなさらなかった。
それは信頼がなかったからです。
頼ると金利を上げられたり、お金を貸してくれなくなったり、保証人を取られたり、担保を取られたりして潰される。
それまで金融実務の中でそういうことをやってきたために、信頼がなかったわけです。
ですから、私どもはこの信頼を醸成するために、
「お客様を絶対的に支援します」
という決意を、雑誌やテレビを通じてどんどん発信していきました。
マスメディアに私どもの名前がかなり出回ったことで、
「あれだけ言うんだから、守ってくれるだろう」
という信頼感が醸成されてきましてね。
貸出金を増やしにくいこの時期に、過去90年かけて計上した額の半分を、わずか8年で増やすことができたんです。
それはビジネスモデルを変え、職員とお客様の活性化を図ったからこそ実現できたことです。
🔹林野、落合さんも私も、競争相手が気づかないことを、気づいてもやらないことをやったから勝つことができたのだと思います。
多くの会社は、簡単にできることは取り入れるけれども、本当に新しいことにはなかなか挑戦しようとしません。
やるべきことに気づいている社員がいても、組織体としてはやらない。
ですから、本当に実行する人を見出して、しかるべきポジションに就けなければならないのですが、
西武信金さんでは落合さんを抜擢したことが奏功したわけですね。
🔸落合、私のやってきたことは、お客様から見ると当たり前のことだと思うんです。
私ども信用金庫は、一般の銀行が株式会社であるのと違って、協同組織です。
株式会社は、投資家保護のために利益を上げ続けて、配当を上げるか、株価を上げるか、しなければなりませんね。
しかし、私どもは協同組織だから利用者保護なんですよ。
私が取り組んできた改革も、すべて利用者保護が目的でした。
今後、成熟から衰退へと向かっていく時代に利益を上げ続けなければならない株式会社は大変です。
これからは私ども協同組織の時代だと言っているんです。
🔹林野、確かにそうかもしれません。
ドラッカーは、数字を目標にしてはいけない、利益目標を上げると利益の質が悪くなると説いていますが、そのとおりだと思います。
他のすべてを犠牲にして利益数値だけ独り歩きしたら、
質が悪くなっていくのは当たり前ですよね。
そうならないために、人事の仕組みに工夫を凝らさなければなりませんが、
落合さんのところのように、社員の意識が変わるような仕組みづくりを実現できている会社は少ないと思いますよ。
(つづく)
(「致知」2月号 落合寛司さん林野宏さん対談より)
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