ニニギノミコトさま
天照大御神さまの孫で
神武天皇陛下の曽祖父である。
御結婚したあと
イワナガヒメの一件もありましたが、
ニニギノミコトさま
とコノハナサクヤヒメは、めでたく結婚しました。
そして“八尋殿(やひろでん)”という大きな御殿(ごてん)で、
初めて二人だけの時間を過ごしました。
しかし、夫婦としてともに過ごすことができたのはこの一夜だけでした。
一夜明けると、
ニニギノミコトさまは反乱を
くり返す人々をたおすための旅へと出かけてしまったのです。
時が過ぎ、やがて、戦いに勝ったニニギノミコトが帰ってきました。
この時
コノハナサクヤヒメのお腹(なか)の中には、
ニニギノミコトさまとの間にできた赤ちゃんがいました。
「あなたが無事に戻ってきたことと、あなたの子どもがさずかったことは、言葉にできないほどうれしく思います」
久しぶりに再会した
ニニギノミコトにコノハナサクヤヒメは言いました。しかし、ニニギノミコトから返ってきた言葉は意外なものでした。
「何をいいますか。あなたとはたった一夜だけ夫婦として過ごしただけではありませんか」
「何をおっしゃいます。いとしいあなたの子だからこそ、たった一夜でさずかったのです」
コノハナサクヤヒメは、
ニニギノミコトの帰りを
今か今かと待ち続け、
その間にお腹の中でスクスクと育つわが子の成長を喜びに感じていたのです。
だから、ニニギノミコトがいないさびしさにも耐(た)えてこられたのです。
愛するニニギノミコトから
疑(うたが)われたコノハナサクヤヒメは、とても悲しくてたまりませんでした。
そしてお腹の子が
ニニギノミコトの子であることを
明らかにするために
自分と生まれてくる子までをも危険にさらす覚悟(かくご)を決めたのでした。
「コノハナサクヤヒメ
あなたはたった一夜で子どもが
できたと言いますが、そんなはずはない。その子はきっとほかの国つ神(くにつかみ)の子だろう」
ニニギノミコトのこのひと言はコノハナサクヤヒメの心をとても傷つけました。
コノハナサクヤヒメは
「私はこれからお産の準備をします。もしあなたが言うとおり、
生まれてくる子どもがほかの国つ神の子であるなら
無事に生まれてはこないでしょう。
しかし、あなたの子であるなら
たとえ火の中でもきっと無事に生まれてくることでしょう」
こう告げると、
コノハナサクヤヒメは出口のない大きな産屋(うぶや)をつくらせました。
そして中へ入ると、
まわりを土で塗(ぬ)りふさいでこもってしまいました。
やがて出産の時が近づきました。
するとコノハナサクヤヒメは
産屋のまわりにみずから火を放ったのです。そして
燃えさかる炎の中で三人の男の子が生まれました。
三人の名は、火が燃えさかる時に
最初に生まれた子がホデリ(火照)。
次に火の勢いがより強くなった時
に生まれた子がホスセリ(火須勢理)。
最後に火がおとろえてきた時に生まれた子どもがホオリ(火遠理)です。
のちに、ホデリは海幸彦、ホオリは山幸彦と呼ばれるようになりました。
こうしてコノハナサクヤヒメは
炎の中で無事に三人の子どもを生み、
身の潔白(けっぱく)は証明されました。
ニニギノミコトさまも深く反省しました。