Financial and Social System of Information Security

インターネットに代表されるIT社会の影の部分に光をあて、金融詐欺・サイバー犯罪予防等に関する海外の最新情報を提供

わが国刑法の尊属重罰規定の憲法違反状態が 45年間続いた問題を始め今般の最高裁の違憲裁判の重大性の意義を再検証する

2024-07-05 08:13:06 | 日本の憲法裁判の重要課題

 

 7月3日のNHK連続ドラマ「虎に翼」の後半で以下のとおり放送された。「最高裁で尊属殺の重罰規定が議論され、15人の判事のうち13人が合憲と判断。反対を表明した判事のうちの1人が穂高(実名:穂積重遠:渋沢栄一の初孫)だった。寅子が暮らす猪爪家では、判決を報じた新聞を読んだ家族が合憲判断に対する違和感を率直に述べ、反対が2人しかいなかったことに落胆する者もいた。これに対し寅子は、判決は残るし、反対の声がいつか誰かの力になる時がきっとくると話し、絶対にあきらめないという決意を新たにした。

(The Sankei Shimbun & SANKEI DIGITAL Inc:  朝ドラ「虎に翼」7月4日第69話あらすじから抜粋   )

 ところで筆者から見ると、この部分は極めて重要な憲法違憲にかかる問題である。正確性を重視するNHKの従来のスタンスら見て、どうなるか関心をもって見ていたところ7月5日に一部放映された。筆者なりにこの問題をあらためて解説する。

 また、NHKテレビでは穂積重遠氏(ドラマでは穂高重親))は戦後民法の指導的役割をなったとあるが、後述するとおり、最高裁判事として刑法分野においても戦後憲法の民主的理解者でもあった。

 なお、同ドラマで引用されている最高裁判決は昭和25年(1995年)10月11日 大法廷・判決 :昭和25(あ)292事件: 尊属傷害致死罪(刑集4巻10号2037頁)であるが、実は最高裁は その2週間後の昭和25年(1995年)10月25日大法廷・判決 : 昭和24(れ)2105事件:刑集 第4巻10号2126頁: 尊属殺人事件で刑法第200条第2項につき改めて合憲判決を下している。

 その後、23年後の1948年4月4日最高裁大法廷( 昭和45(あ)1310)は刑法の尊属殺人罪の規定が「憲法違反」であるという判決が言い渡された。この判決がきっかけとなって尊属殺人罪の規定が削除されることになった。しかし、実際に刑法200条から第2項が削除されたのはその22年後の平成7年5月31日である。今回の旧優性保護法判決で見る通り、国会議員や法務省や厚生労働省など関係省庁における憲法遵守や人権感覚の欠落は国民のとって放置できない問題である。

 今回のブログは、これらの経緯を改めて整理する意味でまとめた。時間の関係で十分に言い尽くせない点があるが機会を改めて詳しく論じたい。

1.わが国刑法の尊属犯罪に関する特別な規定

 平成7年5月31日まで、日本の刑法(明治40年法律第45号)には200条に以下の規定が存在していた。(注)

 「自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ𠁅()ス」

  つまり、尊属殺人罪とは、自己または配偶者の直系尊属を殺害する犯罪をいう。直系尊属とは、血のつながりが直通する親族のうち、自分より前の世代の人を指し、具体的には、父母、祖父母、曾祖父母などが該当する。法律上の親族関係にある養父母も含まれる。なお、伯父・伯母などは直系ではなく傍系の親族に当たるため、尊属殺人罪の対象にはならない。

 尊属殺人罪  : 刑法第200条(平成7年削除済) 死刑または無期懲役            

  普通殺人罪   :刑法第199条  死刑または無期もしくは5年以上の懲役(平成16年改正以前の下限は3年以上)

  このように尊属殺人罪の刑罰が加重されていた理由には諸説あるが、一般的に尊属のことを尊重すべき、敬愛すべき、といった倫理観は社会生活を営む上で基本的なものであり、人間として自然に有する情愛の念でもあると考えられていたことが一つの理由であり、社会秩序を維持するためには、このような倫理観を維持する必要があり、そのために重い刑罰を設けることにより、尊属殺人を厳重に禁じたものとする説が有力であった。

  これらの理由から、平成7年(最終改正 平成七年五月十二日法律第九十一号)以前の刑法では、以下のように殺人罪以外にも尊属が被害者となった場合に刑罰を加重していた犯罪類型があった。なお、旧刑法原文を読むには国立国会図書館デジタルアーカイブ:ダウンロード可)の利用が必要である。(注)

  また、尊属犯罪の刑法特別規定には以下もあった。

 ②尊属傷害致死罪(刑法第205条第2項   : 自己又ハ配偶者ノ直系尊屬ニ對シテ犯シタルトキハ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ𠁅(処)ス

 通常の傷害致死罪(刑法第205条第1項)  : 2年以上の有期懲役  (平成16年改正後は3年以上の有期懲役)    

③尊属保護責任者遺棄罪(刑法第218条第2項(尊属遺棄罪): 自己又ハ配偶者ノ直系尊屬ニ對シテ犯シタルトキハ無期又ハ六月以上七年以下ノ懲役ニ𠁅(処)ス

 通常の保護責任者遺棄罪(刑法第218条第1項):3ヶ月以上5年以下の懲役     

   逮捕監禁罪(刑法第220条) 尊属逮捕監禁罪(刑法第220条第2項)    自己又ハ配偶者ノ直系尊屬ニ對シテ犯シタルトキハ無期又ハ六月以上七年以下ノ懲役ニ𠁅()

   通常の逮捕監禁罪(刑法第220条第1項)  : 3ヶ月以上5年以下の懲役     

 これらの尊属重罰規定も、現在では尊属殺人罪の規定とともに削除されている。

 2.穂積判事(以前は東大・明治大学教授)の最高裁判決での小数意見

 昭和25(あ)292事件での裁判官穂積重遠(NHKドラマでは穂高重親)の少数意見は以下のとおりである。(判決原文に合わせ数字は縦書き表示) 昭和24(れ)2105事件判決では穂積判事の小数意見は略されている)。(太字表示は筆者が追加)

最高裁判所大法廷判例集( 尊属傷害致死事件 刑集 第4巻10号2037頁)6頁以下を抜粋。

  裁判官穂積重遠の少数意見は左のとおりである。

 本件は刑法二〇五条に関するが、問題は同二〇〇条から出発するゆえ、両条にわたつて意見を述べる。そして先ず両法条の立法を批判したい。

 刑法二〇〇条は、同一九九条に「人ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期若クハ三年以上ノ懲役ニ𠁅(処)ス」とあるのを受けて、「自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役二𠁅(処)ス」としたのである。すなわち法定刑の上限は共に死刑であるから、もし尊属殺は極悪非道なるがゆえに極刑を以て臨まねばならぬとしても、それは、一九九条でまかない得るのであつて、特に二〇〇条を必要としない。

 そこで普通殺人と尊属殺との刑罰の差違は、各法定刑の下限に存する。すなわち前者にあつては刑を懲役三年まで下げて執行猶予の恩典に浴せしめることができ、後者は死刑にあらずんば無期懲役と限られているから、かりに法律上の減軽と酌量減軽のあらん限りを尽したとしても、懲役三年半以下に下げることができず、従つて執行猶予を与え得ない。刑法が両者の間にかような差違を設けた理由は、正に多数意見が説くとおりであろうが、普通殺人に重きは死刑にあたいし軽きは懲役三年を以て足れりとしてかつその刑の執行を猶予して可なるがごとき情状の差違あると同様、尊属殺にも重軽各様の情状があり得る。いやしくも親と名の附く者を殺すとは、憎みてもなお余りある場合が多いと同時に、親を殺しまた親が殺されるに至るのは言うに言われぬよくよくの事情で一掬の涙をそそがねばならぬ場合もまれではあるまい。刑法が旧刑法を改正してせつかく殺人罪に対する量刑のはゞを広くしたのに、尊属殺についてのみ古いワクをそのままにしたのは、立法として筋が通らず、実益がないのみならず、量刑上も不便である。

 刑法二〇五条の傷害致死罪については、普通人に対する場合は「二年以上ノ有期懲役」であるが、直系尊属に対する場合は「無期又ハ三年以上ノ懲役」となつているのであるから、法定刑の上限にも下限にも差違を設けてあり、尊属傷害致死について特別の規定をした意味がある。ところが刑法二〇八条の傷害を伴わぬ暴行罪および同二〇四条の死に至らざる傷害罪については、普通人に対するものと直系尊属に対するものとによつて刑の軽重を設けていない。もし「かりにも親のあたまに手をあげるとはげしからん」というのであるならば、そもそも暴行罪からして直系尊属に対するものを重く罰せねばならず、いわんや傷害の故意があつて傷害の結果を生ぜしめた場合はもちろんである。しかるにその暴行傷害を特に重しとせずして、未必の殺意すらないのにたまたま致死の結果が生じた本件のごとき場合になつてはじめて普通人に対する傷害致死と差別して刑を重くするのは、立法として首尾一貫せず、かつ殺意なき行為に対する無期懲役は、科刑として甚だ酷に失する。刑法二〇五条一項により有期懲役の長期たる一五年まで持つて行ければ充分であろう。

 なお遺棄罪については刑法二一八条二項に、また逮捕監禁罪については刑法二二〇条二項に、それぞれ直系尊属に対して犯された場合の刑の加重が規定されている。本件直接の関係でないゆえ一々論及しないが、殺傷の場合の議論が大体当てはまる。

 さらに注目すべきことは、刑法二〇〇条および二〇五条二項の「直系尊属」の範囲である。それは民法の規定に従うのであるが、その民法に新憲法の線にそう改正があつて、「直系尊属」の範囲が変更し、以前は直系の尊属卑属であつた継父母継子の親子関係が認められないことになつた。そこで新民法下において刑法二〇〇条および二〇五条二項を適用すると、継父母を殺しまたは死に致したのは尊属殺または尊属傷害致死ではないことになる。しかし継父母殊に継母は継子に取つて、場合によつて実母同様、少くも養母以上の恩義があり得る関係である。それゆえ殺親罪を認めながら継父母殺しを殺親罪としないことは、父母的関係においてそれよりも遠い「配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者」を殺親罪に問うのとくらべて、甚しい不釣合であつて、新憲法下に殺親罪という旧時代規定を保存した矛盾の一端がはからずもここに暴露したものというべきである。

 かくして刑法二〇〇条および同二〇五条二項は、立法としてすこぶる不合理でありかつ不要であつて、昭和二二年法律第一二四号による刑法一部改正の機会に削除せらるべきであつたと思うが、その機を逸してその規定が現存する今日、この二箇条が憲法に違反する無効のものではないだろうかということが問題になるのは、当然である。原判決は、刑法二〇五条二項を憲法一四条に違反するものであるとして、本件犯行に同条一項を適用し、当裁判所の多数意見は、検事上告を容れて、右刑法二〇五条二項は憲法違反にあらず、従つて本件犯行には右条項を適用すべきものとするのであるが、原判決も検事上告も、また当裁判所多数意見も、単に刑法二〇五条二項だけでなく、同二〇〇条をも含めて、殺親罪全体を問題としている。本裁判官は原判決を、その説明には過不及があるが、結論において正当と認めるがゆえに、以下当裁判所多数意見および上告論旨の諸論点について意見を述べたい。

 (一) 問題の焦点は憲法一四条である。多数意見は、同条は「大原則を示したものに外ならない」のであつて、「法が、国民の基本的平等の原則の範囲内において、、、、道徳、正義、合目的性等の要請により適当な具体的規定をすることを妨げるものでない」とする。しかしながら、憲法が掲げた各種の大原則については、できるだけ何のかのという「要請」によつてその範囲を狭めないように心がけてその精神を保持することが、殊に旧習改革を目指した新しい憲法の取扱い方でなくてはならないと考える。憲法一四条の「国民平等の原則」は新憲法の貴重な基本観念であるところ、実際上千差万別たり得る人生全般にわたつて随所に在来の観念との摩擦を起し、各種具体的除外要請を生じ得べく、あれに聴きこれに譲つては、ついに根本原則を骨抜きならしめるおそれがあることを、先ず以て充分に警戒しなくてはならない。上告論旨(4)は、憲法一四条は「いかなる理由があつても不平等扱を許さないとまでする趣旨ではない。…一定の合理的な理由があれば必ずしも均分的な取扱を要しないものと解すべきである。」と言うが、さような考え方の濫用は憲法一四条の自壊作用を誘起する危険がある。平等原則の合理的運用こそ望ましけれ、不平等を許容して可なりとなすべきでない。

 (二) 多数意見は、刑法の殺親罪規定は「道徳の要請にもとずく法による具体的規定に外ならない」から憲法一四条から除外されるという。しかしながら憲法一四条は、国民は「法の下に」平等だというのであつて、たとい道徳の要請からは必らずしも平等視せらるべきでない場合でも法律は何らの差別取扱をしない、と宣言したのである。多数意見は「原判決が子の親に対する道徳をとくに重視する道徳を以て封建的、反民主主義的と断定した」と非難するが、原判決は「親殺し重罰の観念」を批判したのであつて、親孝行の道徳そのものを否認したのではないと思う。多数意見が「夫婦、親子、兄弟等の関係を支配する道徳は、人倫の大本、古今東西を問わず承認せられているところの人類普遍の道徳原理」であると言うのは正にそのとおりであるが、問題は、その道徳原理をどこまで法律化するのが道徳法律の本質的限界上適当か、ということである。日本国憲法前文は、憲法の規定するところは「人類普遍の原理」に基くものであると言つているが、「人類普遍の原理」がすべて法律に規定せらるべきものとは言わない。多数意見は親子間の関係を支配する道徳は人類普遍の道徳原理なるがゆえに「すなわち学説上所謂自然法に属するもの」と言う。多数意見が自然法論を採るものであるかどうか文面上明らかでないが、まさか「道徳即法律」という考え方ではあるまいと思う。「孝ハ百行ノ基」であることは新憲法下においても不変であるが、かのナポレオン法典のごとく「子ハ年令ノ如何ニカカワラズ父母ヲ尊敬セザルベカラズ」と命じ、または問題の刑法諸条のごとく殺親罪重罰の特別規定によつて親孝行を強制せんとするがごときは、道徳に対する法律の限界を越境する法律万能思想であつて、かえつて孝行の美徳の神聖を害するものと言つてよかろう。本裁判官が殺親罪規定を非難するのは、孝を軽しとするのではなく、孝を法律の手のとゞかぬほど重いものとするのである。

 (三) 上告論旨(5)は、「尊属親関係は依然新民法の下にも是認されている」と言う。なるほど民法は七二九条、七三六条、七九三条、八八七条、八八八条、八八九条、九〇〇条、九〇一条および一〇二八条に「尊属」「卑属」という言葉を使つているが、それは単に父母の列以上の親族を「尊属」子の列以下の親族を「卑属」と名附けたゞけで、実質上何ら尊卑の意味をあらわし取扱を差別しているのではない。新憲法下においては「尊」「卑」の文字は避けるとよかつたのだが、適当な名称を思い附かなかつたので、「目上一「目下」というくらいの意味で慣用に従つたのであろう。そして直系尊属なるがゆえにこれを扶養を受ける権利者の第一順位に置いた民法旧規定は、新憲法の線にそう民法改正によつて消滅したのである。

 (四) 多数意見は「憲法一四条一項の解釈よりすれば、親子の関係は、同条項において差別待遇の理由としてかかぐる、社会的身分その他いずれの事由にも該当しない。」と言う。上告論旨(3)も同趣旨である。これらは同条項後段に着眼しての議論であるが、その議論の当否はしばらく措き、憲法一四条一項の主眼はその前段「すべて国民は法の下に平等」の一句に存し、後段はその例示的説明である。その例示が網羅的であるにしても、その例示の一に文字どおりに該当しなければ平等保障の問題にならぬというのであつては、同条平等原則の大精神は徹底されない。そして多数意見は親に対する子の殺傷行為の方面のみから観察するが、その方面から観ても、同一の行為につき相手方のいかんによつて刑罰の軽重があらかじめ法律上差別されているということは、憲法一四条一項の平等原則に絶対に違反しないとは言い得ないのである。

 (五) さらに転じて、同じ犯罪の被害者が尊属親なるがゆえにその法益を普通人よりも厚く保護されるという面から観れば、問題の刑法規定が憲法一四条の平等原則に違反することは明白である。多数意見は「立法の主眼とするところは被害者たる尊属親を保護する点には存せずして、むしろ加害者たる卑属の背倫理性がとくに考慮に入れられ、尊属親は反射的に一層強度の保護を受けることあるものと解釈するのが至当である。」と言うが、立法の主眼が果していずれにあるかは問題である。刑法二〇〇条についてはその点が明白でないが、前に述べたとおり、刑法二〇八条の暴行罪および同二〇四条の傷害罪においては、加害者が卑属なるがゆえに刑を加重せられるのではなくて、同二〇五条の傷害致死罪に至りはじめて被害者が尊属親なるによつて重刑が科せられるのであるから、立法の主眼が尊属親の法益保護にないとは言えない。そしてたとい「反射的」にせよ尊属親なるがゆえに「一層強度の保護を受けることがある」以上、正に憲法一四条一項の平等原則に違反すると言わざるを得ないのである。

 (六) 多数意見は、原判決が「個々の場合に応じて刑の量定の分野に於て考慮されることは格別」と言つたのをとらえて、もし原判示のごとくんば、親であり子であることを「情状として刑の量定の際に考慮に入れて判決することもその違憲性において変りはないことになるのである。逆にもし憲法上これを情状として考慮し得るとするならば、さらに一歩を進めてこれを法規の形式において客観化することも憲法上可能であるといわなければならない。」と逆襲する。しかし、法定刑に上限下限のひらきを設けて裁判所の情状による量刑にまかすことは現代の刑法上当然の立法であり、加害者、被害者の身分上の続がらがその情状の一であることも無論さしつかえない。たゞ「さらに一歩を進めてこれを法規の形式において客観化すること」が「法の下に平等」の憲法原則に違反し得るのである。

 (七) 上告論旨(2)は「尊属と卑属との関係は、、、如何なる人においても存するのであつて、それは必ずしも或る特殊の人に対して社会的な差別を認めたものとは考えられない。」と言う。それは結局「尊属」「卑属」の関係を憲法一四条一項の「社会的身分」に当てはめまいとした議論であるが、身分なるものは必ずしも特殊的確定的なるを要せず、時に随つて変転するものでもさしつかえない。ともかく特定の時において尊属たる身分に在りそしてその身分のゆえに卑属たる身分に在るのとは違つた待遇を受けることが法律できまつていれば、「法の下に平等」とは言い得ないのである。

 (八) 上告論旨(6)は「今後の立法問題として、かかる特別な規定を設け置く要ありゃ否やの問題と、今日現に存するこの種規定がはたして憲法に違反するかどうかの問題とは、厳に区別さるることを要」するとし、多数意見も右の論旨を是認して、原判決は「憲法論と立法論とを混同するものである」と非難する、原判決はそこまで踏込んで論じてはいないように思はれるが、なるほど憲法論と立法論とを混同すべきではあるまい。しかし前に述べたとおり、刑法二〇〇条と同二〇五条二項との小合理はかなりに著明であり、そしてそれは新憲法前の規定で、新憲法の制定とそれに伴う民法の改正とによつてその不合理が増大したのであるから、右条項は憲法一四条一項と併せて同九八条一項により、憲法施行と同時に効力を有しないことになつたのではないかとさえ考えられる。そしてこれまた前に述べたとおり、これら特別規定なくとも普通規定によつて不孝の子を懲罰するに甚しく妨げないのであるから、問題の刑法規定の違憲性を論ずるに当り立法上の不当と不要とを一論拠とするのも、必ずしも見当違いではないのである。

 以上の理由によつて本裁判官は、本件についての当裁判所裁判官多数意見に賛同し得ず、検事上告を棄却して原判決を維持するを適当と信ずるものである。

3.昭和4844日、最高裁判所で尊属殺人罪の規定が「憲法違反」であるという判決

 この判決がきっかけとなって尊属殺人罪の規定が削除されることになったが、平成7年5月31日までは、日本の刑法には第200条に以下の規定が存在していた。

(1)第二百條 自己又ハ配偶者ノ直系尊屬ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ𠁅()

 尊属殺人: 昭和48年4月4日  最高裁判所大法廷判決 昭和45(あ)1310事件:結果      破棄自判: 刑集 第27巻3号265頁

 昭和48年に、最高裁判所で尊属殺人罪の規定が「憲法違反」であるという判決が言い渡された。この判決がきっかけとなって尊属殺人罪の規定が削除されることになった。

 判決文の結論部を抜粋引用する。「刑法200条は、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限つている点において、その立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え、普通殺に関する刑法199条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法14条1項に違反して無効であるとしなければならず、したがつて、尊属殺にも刑法199条を適用するのほかはない。この見解に反する当審従来の判例はこれを変更する。

 そこで、これと見解を異にし、刑法200条は憲法に違反しないとして、被告人の本件所為に同条を適用している原判決は、憲法の解釈を誤つたものにほかならず、かつ、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、所論は結局理由がある。

 この判決原文は以下のURLで確認されたいが、この判決は、裁判官岡原昌男の補足意見、裁判官田中二郎、同下村三郎、同色川幸太郎、同大隅健一郎、同小川信雄、同坂本吉勝の各意見および裁判官下田武三の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。しかし、必ずしも多数意見には異論が多い判決であったともいえる。

(2)その後も刑法上に規定は残り続けたが、最高検察庁からの通達により適用されなくなり、事実上、この規定は死文化した。そして、平成7年から施行された改正刑法において、正式に第200条の規定が削除された。

 尊属殺人罪の規定が削除されたのかというと、通常の殺人罪と比べて刑罰が重すぎたからである。通常の殺人罪なら法定刑の下限が「5年以上の懲役」(平成16年刑法改正以前は法定刑の下限は3年以上の懲役)なので、減刑を考慮すると有罪となっても執行猶予がつくケースもある。一方、尊属殺人罪では法定刑の下限が「無期懲役」なので、最大限に減刑しても執行猶予を付けることはできない。しかし、尊属殺人の事案でも、執行猶予をつけなければ被告人にとって酷となるケースはあり得る。むしろ、親子間のしがらみを背景として、通常の殺人の事案よりも被告人に情状酌量すべきケースも少なくない。それにもかかわらず、殺害した相手が尊属だということだけで、執行猶予が認められないのは不合理だと最高裁で判断されたのである。

(3)  刑法の一部を改正する法律(平成7年法律第91号)による改正

 平成7年4月,刑法の一部を改正する法律(平成7年法律第91号)が成立し,同年6月に施行された。同法は,カタカナ漢文調の古い文体で,難解な用字用語が少なくなかった刑法について,表記の平易化(ひらがな化等)をするとともに,最高裁判所において違憲の判断がなされた尊属殺人に関する規定を始めとする尊属加重規定等を削除することなどを内容とする。

********************************************************

(注)

https://www.digital.archives.go.jp/DAS/meta/result?IS_KIND=hierarchy&IS_STYLE=default&DB_ID=G9100001EXTERNAL&GRP_ID=G9100001&IS_START=1&IS_TAG_S51=prnid&IS_KEY_S51=F2005022420570801657&IS_NUMBER=100&IS_SORT_FLD=&IS_SORT_KND=&ON_LYD=on&IS_EXTSCH=F2009121017005000405%2BF2005021820554600670%2BF2005021820554900671%2BF2005022419051401457%2BF2005022420564801654%2BF2005022420570801657&IS_ORG_ID=F2005022420570801657

国立国会図書館デジタルアーカイブ:ダウンロード可)の利用手順を以下説明する。

 

**********************************************************************************

Copyright © 2006-2024 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

WHO年次総会の感染症対策強化にかかる国際保健規則の改正、「パンデミック条約」決議の1年以内延期問題、オーストラリアで初めてH5N1型鳥インフルエンザ感染者がインドの帰国女児で発見(その2完)

2024-06-03 15:24:37 | 鳥インフルエンザ等世界の感染症対策

4.「オーストラリアで初めて鳥インフルエンザに感染した2歳女児が昨日ビクトリア州で報告され、インドでH5N1型のウイルスに感染した女児が、20243月にオーストラリアに帰国した際に発症」事案の感染症専門家の解説の仮訳

 著者であるレイナ・マッキンタイア(Raina MacIntyre)教授は、オーストラリア・国立保健医療研究評議会(National Health and Medical Research Council:NHMRC)主席研究員、カービー研究所バイオセキュリティプログラムの責任者、ニューサウスウェールズ大学のグローバルバイオセキュリティ教授である。

Raina MacIntyre 氏

 ヘイリー・ストーン(Haley Stone)氏は、レイナ・マッキンタイア教授が率いるカービー研究所のバイオセキュリティプログラムの博士課程の学生である。

 5月22日、インフルエンザに関するすべてのデータを共有する世界イニシアチブである「鳥インフルエンザ 情報 共有 国際推進機構(Global Initiative on Sharing Avian Influenza Data;GISAID)」(注11)(注12)(注13)(注14)(注15)(注16)で公開された情報によると、この子どもは2歳の女児であることが確認されている。彼女は3月初旬に陽性反応を示し、非常に具合が悪かったと報告されていたが、その後完全に回復した。

 ビクトリア州保健省によると、接触者追跡調査で新たな感染者はおらず、他者へのリスクは非常に低いとのことである。

 H5N1 に感染した人間の場合、通常、感染した家禽と密接な接触がある。H5N1 は、人から人へ簡単には広がらないが、しかし、人間の場合の致死率は約 50% である。

1.鳥インフルエンザが国内および世界中でニュースになる中、この最新の状況をどう考えるべきか?

H5N1の世界的感染状況

この子供がインドでどのように感染したか、またこの症例がインドのどこで発生したかに関する公開情報はない。しかし、インドでは現在、ケララ州、アーンドラ プラデーシュ州、マハラシュトラ州で大規模な鳥インフルエンザの発生に直面している。

 H5N1 はインフルエンザ A の系統で、さらに系統群と呼ばれる変種(variants)に分けられる。GISAID のデータによると、子供が感染したウイルスは H5N1 系統群 2.3.2.1a に属する。南アジアの系統群 2.3.2.1a は 2009 年に初めて特定され、現在もバングラデシュとインドの鳥の間で流行している。

 これは、米国で話題になっている乳牛の流行の元となった系統群 (H5N1 系統群 2.3.4.4b) とは異なる。この流行に関連する米国での ミシガン州の酪農家が2 人目のヒト感染例が報告されたばかりで、世界中で、この系統群に関連するヒト感染例は合計 14 件ある。

2.養鶏場での感染はどうか?

 H5N1 に感染した子供のニュースを聞いた同じ日に、オーストラリアのビクトリア州メレディスの卵農場で鳥インフルエンザの発生が報告された。これは別の系統、インフルエンザ A H7N3 であった。 H7 の発生はオーストラリアでは新しいものではない。オーストラリアで最初に発生した H7 は、1976 年にビクトリア州メルボルンで発生した H7N7 であった。最近の 3 件の発生は、2020 年にビクトリア州レスブリッジの放し飼いの農場での発生であった。

 鳥インフルエンザの一部の株は、軽度または目に見える病気を起こさない傾向がある (低病原性と呼ばれる)、H5N1 と H7N3 はどちらも高病原性のウイルスであり、つまり、家禽や野鳥に重篤な病気を引き起こす。

 野鳥が感染源であり、養鶏または家畜の家禽に感染する可能性がある。また、豚や馬などの動物にも感染する可能性がある。

 放し飼いの農場は屋外にあり、感染した野鳥にさらされる可能性があるため、鳥インフルエンザのリスクがある。しかし、全体として、オーストラリアの家禽における高病原性の鳥インフルエンザの発生は非常に少ない。

3.オーストラリア国内で家禽類に高病原性鳥インフルエンザが発生

 ヨーロッパとアメリカ大陸で優勢な(strains)株であるH5N1系統2.3.4.4bは、2020年に始まり、世界中に広がり、300種以上の鳥類と40種の哺乳類に感染した。

 これは、他のどの鳥インフルエンザウイルスよりも広範囲に広がっているため、最も心配な系統である。哺乳類と鳥類では重度の呼吸器疾患を引き起こすが、脳にも影響を及ぼす。

4.オーストラリアにとっての朗報

 現在までに、オーストラリアの鳥類ではH5N1は検出されていない。養鶏場での発生がH5N1ではなくH7N3であることは朗報といえる。女児の無関係なH5N1感染では、拡散の証拠は見られず、女児は回復した。

 オーストラリアは歴史的に、高病原性鳥インフルエンザから守られてきた。これは、アジアから渡ってくるアヒル、ガチョウ、白鳥(水鳥として知られる)によって広がるためであるが、それらの飛来経路はオーストラリアを迂回している。

 しかし、南極を含むさまざまな野鳥が現在 H5N1 系統 2.3.4.4b に感染しており、ウイルスがオーストラリアに侵入する可能性のある新しい渡り鳥のルートが存在する可能性がある。

 鶏卵農場での発生は、感染した鳥を駆除することで迅速に抑制する必要がある。家禽用のワクチンはあるが、効果は部分的にしかなく、発生を隠す可能性があるため、あまり使用されない傾向がある。農場で H5N1 の発生が広範に及んでいるフランスでは、最近家禽へのワクチン接種を開始したが、発生は続いている。

5.今、関係者は何をすべきか?

 オーストラリアでは、過去のH7型インフルエンザの発生は急速に抑えられているが、警戒を怠ってはならない。一方、西オーストラリア州の養鶏場で、低病原性鳥インフルエンザウイルスH9N2の発生が5月23日報告され、状況は厳重に監視されている。

鳥インフルエンザのデータの報告と共有には遅れが生じることがよくある。ビクトリア州の子供に関する情報は、発生からほぼ3か月後に報告されたが、これは備えとしては理想的ではない。

 当大学が運営するEPIWATCHプラットフォーム(注17)は、公開されているデータと情報を使用したオープンソースの監視は、国際報告データベースの更新が遅れる可能性がある場合に、より迅速な情報を提供できるものである。

 鳥インフルエンザは世界的な懸念事項であるため、動物、鳥、人間に対する監視を強化し、タイムリーに行うことが重要である。また、世界的なデータ共有も重要である。鳥インフルエンザが農業と経済に与える影響は大きいが、さらに人間へのパンデミックの発生も懸念されている。

 H5N1は現在、世界中に広く蔓延しており、人間間で感染できるレベルまで変異する可能性がかつてないほど高まっている。

********************************************************

(注11) GISAIDのHPの任務の解説仮訳

1.流行およびパンデミックウイルスデータへの迅速かつオープンなアクセスの実現

GISAIDデータサイエンス・イニシアチブは、インフルエンザ、CoV-19、RSウイルス(respiratory syncytial virus (RSV)(注12)、ヒトサル痘(human monkeypox :hMpxV(注13)、チクングニア熱(chikungunya)(注14)、デング熱(dengue)(注15)、ジカ熱(zika)(注16)などのアルボウイルスなどの優先病原体からのデータの迅速な共有を促進する。これには、ヒトウイルスに関連する遺伝子配列と関連する臨床および疫学的データ、および鳥類およびその他の動物ウイルスに関連する地理的および種固有のデータが含まれており、研究者が流行およびパンデミック中にウイルスがどのように進化し、広がるかを理解するのに役立つ。

GISAIDは、正式な公開前にウイルスデータの共有を妨げたりする阻害的なハードルや制限を克服することでこれを実現します。

このイニシアチブは、身元を明らかにすることに同意し、データベースアクセス契約によって管理されるGISAID共有メカニズムを遵守することに同意したすべての個人に、GISAIDのデータへのオープンアクセスが無料で提供されることを保証する。

GISAIDアクセス認証を持つすべての正当なユーザーは、標本を提供する発信研究室と配列やその他のメタデータを生成する提出研究室を認め、データから得られた結果の公正な利用を確保することで、科学的エチケットを遵守するという基本前提に同意し、すべてのユーザーは、データのオープンな共有とすべての権利と利益の尊重に基づいて研究者間の協力を促進するために、GISAIDに提出されたデータにいかなる制限も加えられないことに同意する。

2.教育プログラムを通じたエンパワーメントと能力開発

GISAID は、教育プログラムの一環として、世界中のパートナー機関と連携して、協力ネットワークの能力開発を支援するさまざまなトレーニング ワークショップを開催している。GISAID データベース技術グループのメンバーは、通常、知識を共有する。

(注12) RSウイルス感染症(Respiratory syncytial virus(RSV))は年齢を問わず、生涯にわたり顕性感染を起こすが、特に乳 幼児期において非常に重要な病原体であり、母体からの移行抗体が存在するにもかかわらず、 生後数週から数カ月の期間にもっとも重症な症状を引き起こす。また、低出生体重児や、あるいは心肺系に基礎疾患があったり、免疫不全のある場合には重症化のリスクが高く、臨床上、 公衆衛生上のインパクトは大きい。(国立感染症研究所感染症研究所解説から抜粋)

(注13) ヒトサル痘(human monkeypox:hMPX)という疾患は、ヒトにおけるサル痘ウイルス(Monkeypox virus:MPXV)による感染症のことである1-3)。MPXVは痘瘡ウイルスと同様ポックスウイルス科オルソポックス属に分類される。痘瘡(天然痘)患者では水疱性・膿疱性皮膚病変が出現するが、hMPX患者においても同様の皮膚病変が出現する。(西條 政幸「2022年サル痘ウイルス感染症の世界的大規模流行の背景と対策」から抜粋)

(注14) ネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカによって媒介されるチクングニアウイルスの感染症である。チクングニアウイルスはトガウイルス科アルファウイルス属のウイルスである。通常は非致死性の発疹性熱性疾患である。(国立感染症研究所感染症研究所解説から抜粋)

(注15) デング熱(Dengue Fever)とはデング熱(Dengue Fever)とはデングウイルスによる感染症でネッタイシマカやヒトスジシマカによって感染する。感染症法の4類感染症に分類されている。

どうやってうつる?

ウイルスを持っているネッタイシマカやヒトスジシマカなどに刺されることで感染する。ヒトスジシマカは、ヤブ蚊とも呼ばれ、日本にも生息している。デングウイルスに感染した人の血を吸った蚊は、生涯にわたってウイルスを伝染する可能性がある。性行為による感染の報告はありますが、稀であると考えられている。(国立感染症研究所感染症研究所解説から抜粋)

(注16) ジカウイルス感染症/ジカ熱とは蚊に刺されてなる感染症のひとつ。 日本国内では流行をしていない感染症であるが、流行地に観光や仕事などででかけた方が現地で蚊に刺されて感染し、帰国してから発症する場合がある。 潜伏期間は2日から7日(~12日)。(国際感染症センター解説から抜粋)

(注17) EPIWATCH は、AI 主導のデータ収集を通じて、ニュース番組、ソーシャル プラットフォーム、医療報道など、現在 41 のグローバル言語を使用して世界中で生成されるさまざまなデータを 24 時間 365 日監視する迅速な伝染病情報および早期警告観測所である。現在、41 のグローバル言語を使用しており、さらに追加される予定である。コミュニティの懸念や議論を捉えた、ソーシャル メディアやニュース レポートなどの、キュレーションされていない膨大なオープンソースのグローバル データをマイニングする。EPIWATCH は、アルゴリズム、機械学習、AI 技術を使用して、このデータを理解し、保健当局による公式検出前に、伝染病の潜在的な初期兆候を明らかにする。

********************************************************

Copyright © 2006-2024 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

WHO年次総会の感染症対策強化にかかる国際保健規則の改正、「パンデミック条約」の決議の1年以内延期問題、オーストラリアで初めてH5N1型鳥インフルエンザの感染者がインドから帰国女児の発見(その1)

2024-06-03 14:33:48 | 鳥インフルエンザ等世界の感染症対策

 NHK等は世界保健機関(WHO)(194加盟国)の年次総会で行われていた感染症対策を世界的に強化するための「パンデミック条約(Pandemic Agreement)」をめぐる協議は、6月1日、最終日を迎えたが、各国の間で意見の隔たりが埋まらず、交渉期間を最大1年、延長することになった旨報じた。

 スイスのジュネーブで5月27日に始まったWHOの年次総会は6月1日の最終日を迎え、感染症対策を世界的に強化するための「パンデミック条約」をめぐる協議の行方が焦点となった。

 この条約は、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大した際、先進国と途上国の間で対策に格差が生じた教訓を踏まえ、途上国への支援策などを盛り込んだ国際条約で、今回の総会での採択を目指して事前の調整が行われたものの、ワクチンの分配などをめぐって折り合えずにいた。

 このため総会に入っても、各国の間で協議が重ねられましたが、意見の隔たりが埋まらず、今回の総会での採択は見送って、交渉期間を最大1年、延長する決議を全会一致で採択したというものである。

 しかし、以上のような解説からは今回の総会決議の成果につき全体像は浮かび上がってこない。

 今回のブログは、まず、(1)WHOのサイト年次総会の解説、(2)欧州連合理事会サイトでみる「パンデミック条約合意」の意義や目的、(3)オーストラリアでは、ビクトリア州にインドから帰省中の2歳女児からH5N1型鳥インフルエンザが検出され、鳥インフルエンザの特定の株による初のヒト感染例が記録されたとする報道が流れたが、この問題をオーストラリアのメデイアではなく、(4)ニューサウスウェールズ大学感染症専門家の解説にもとづき仮訳する。

今回のブログは2回に分けて掲載する。

1.WHO年次総会のリリース

 WHOのリリース文仮訳する。

 世界保健機関の194加盟国による年次総会は、歴史的な展開として、6月1日、国際保健規則(2005年)(IHR(注1)重要な改正案(第3版)で合意(注2)し、遅くとも1年以内に世界的パンデミック協定の交渉を完了するという具体的な約束をした。これらの重要な措置は、すべての国で包括的かつ強固なシステムを導入し、あらゆる場所のすべての人々の健康と安全を将来の流行やパンデミックのリスクから守るために実施された。

 これらの決定は、第77回世界保健総会の最終日に各国が同時に行った2つの重要な措置であり、COVID-19パンデミックを含むいくつかの世界的な健康上の緊急事態から学んだ教訓を基にしたものである。規則の改正案(注3)は、パンデミックを含む公衆衛生上の緊急事態に対する世界的な準備、監視、対応を強化する。

2.欧州連合理事会サイトからパンデミック合意の意義や目的などの解説

 欧州連合理事会サイトからパンデミック合意の意義や目的、メリット等につき解説文仮訳する。

(1)パンデミックに関する国際協定の目的は何か?

 COVID-19パンデミックは世界的な課題であり、単一国の政府や機関が将来のパンデミックの脅威だけに対処することはできない。

 条約、合意、またはその他の国際的な文書は 国際法に基づく法的拘束力。世界保健機関(WHO)の下で採択されたパンデミックの予防、準備、対応に関する合意により、世界中の国々が国、地域、世界の能力と将来のパンデミックに対する回復力を強化できるようになる。

 パンデミックの防止、準備、対応に関する国際的な文書の提案は、公平性包括性透明性の原則に基づいた集団的連帯の精神に基づいている。

 個々の加盟国政府もグローバルコミュニティも、パンデミックを完全に防ぐことはできない。しかし、国際社会は はるかに良い準備 そして 可能な将来のパンデミックへの対応においてより適切に調整 検出、アラーム、対処のサイクル全体を必要とするため、本文書は、パンデミックと戦うために必要な集団行動を構築するために、目的と基本原則を定める。

〇パンデミックに関する国際条約、合意、またはその他の国際的な文書は、以下をサポートし、焦点を当てる。

早期発見 とパンデミックの早期拡大防止(early detection and prevention of pandemics)措置

②将来のパンデミックへ回復力強化(resilience to future pandemics)

対処 特に確実にすることにより、将来のパンデミックに 普遍的で公平なアクセス ワクチン、医薬品、診断などの医療ソリューションの強化(response to any future pandemics, in particular by ensuring universal and equitable access to medical solutions, such as vaccines, medicines and diagnostics)

④WHOを世界の健康問題に関する調整機関としてより強力な国際保健の枠組み (a stronger international health framework with the WHO as the coordinating authority on global health matters)

⑤“One Health”プローチ, 人間、動物、そして私たちの地球の健康をつなぐ(the "One Health" approach, connecting the health of humans, animals and our planet)(注4)

 より具体的には、そのような手段は、監視、警告、対応などの多くの優先分野における国際協力を強化することができるが、さらに国際保健システムへの一般的な信頼も強化できる。

(2)パンデミック国際協定の主な潜在的なインセンティブとメリットは何か?

A.パンデミックリスクのより良い監視

 リスクの監視、特に動物から人間に広がる新しい感染症に関する知識共有は、将来のパンデミックの防止に不可欠である。

 これは、次の方法で実現できる。

①すべての国で動物の病気を特定するために必要な検査能力と監視能力の向上

②世界中の研究センター間のコラボレーションを強化

③IHRが規定する「コア・キャパシティー」(注5)のための国際資金のより良い調整

B.より良い警告システム

 健康上の脅威の程度に見合ったレベルのアラートを導入すると、公衆衛生上の脅威に関するコミュニケーションの正確さが向上します。これは、制限的または健康関連の措置の透明性と正当性を高めるであろう。

 データの収集と共有のためのデジタルテクノロジーと革新的なツール、および予測分析は、リアルタイムのコミュニケーションと早期警告をサポートできるため、より迅速な対応が引き出される。

C.パンデミックへのより良い対処

①健康用品と医療サービスの確実なサプライ、保持、備蓄

 COVID-19パンデミック中に実証されたように、グローバル・サプライチェーンとロジスティクス・システム(注6)は、グローバルな健康の脅威に対処するためにより弾力性を持つ必要がある。すべての国が、世界中のどこからでも必要な物資、医薬品、機器に途切れることなくアクセスできる必要がある。

  効果的な備蓄のためのグローバルな調整も、パンデミックへの対応を容易にするかもしれない。医療機器や高度なスキルを持つ国際医療チームを現場に配備する能力も、世界の健康安全における一歩前進となるであろう。

②パンデミック対策の研究と革新

 COVID-19パンデミックは、科学界が迅速に動員し、業界が製造能力を迅速に拡大できることがいかに重要であるかを示した。

 ワクチン、医薬品、診断、保護具などの効果的で安全な医療ソリューションを発見、開発、提供するためのグローバルに調整されたアプローチは、集団の健康安全に役立つ。

 病原体、生物学的サンプル、ゲノムデータの共有、およびタイムリーな医療ソリューション(ワクチン、治療、診断)の開発は、世界的なパンデミックの準備を強化するために不可欠である。

D.より良い対応メカニズム

 ワクチン、医薬品、診断へのアクセスの不平等は、パンデミックを長引かせ、人命と健康、そして我々の社会と経済により深刻な犠牲を払う恐れがある。

 この合意は、将来のパンデミックにおいて、グローバルなニーズにより公平に取り組むため、COVID-19パンデミックの開始以降に開発されたCOVID-19ツールアクセラレータ(ACT-A)(注7)、COVAX(注8)(注9)、およびその他の集合機器へのアクセスの経験に基づいて教訓を引き出す。

E.より良い公衆衛生システムの実装(Better implementation)

 加盟国の公衆衛生システムの回復力は、パンデミックと戦うための重要な要素である。パンデミックの発生に効果的に対応するために、加盟国は公衆衛生システムに依存できる必要がある。これは、より堅牢な国別報告メカニズム、および共同外部評価のより広範な使用とより良いフォローアップを通じて達成できるものである。

F.国際的保健システムへの信頼の回復

 この合意により、国際システムにおける透明性、説明責任、責任の共有が強化される。さらに、市民へのより良いコミュニケーションと情報の基盤を設定する。SNS等で誤った噂誤報は国民の信頼を脅かし、公衆衛生への対応を損なうリスクを発生させる。市民の信頼を償還するには、信頼できる正確な情報の流れを改善し、誤った情報にグローバルに取り組むための具体的な対策を予測する必要がある。

 3.2024.5.22 ABC news「オーストラリアで初めてH5N1型鳥インフルエンザの感染者がインドから帰国した子供から発見される」記事の仮訳

 【要約】

①海外から帰国したビクトリア州の子供からH5N1型鳥インフルエンザ(bird flu ; avian influenza)(注10)が検出された。

②現在、鳥や動物の感染性ウイルス性疾患が世界的に発生している。

③次は何が起こるのか?ビクトリア州保健省は、同州で新たな感染の証拠はないと述べた。

 オーストラリアでは、ビクトリア州に帰省中の子供からH5N1型鳥インフルエンザが検出され、鳥インフルエンザの特定の株による初のヒト感染例が記録された。

 ビクトリア州保健省は、帰国した2歳の子供(女児)が2024年3月に体調を崩し、その後、鳥インフルエンザ(鳥インフルエンザとも呼ばれる)の検査で陽性反応が出たことを確認した。

 広報担当者は「子供は重度の感染症にかかったが、体調はもう悪くなく、完全に回復した。」とは述べた。

「接触者追跡調査では、この症例に関連する鳥インフルエンザの症例は確認されていない」。鳥インフルエンザは人から人へは簡単には広まらない」と述べた。

 保健省は、追加のヒト感染例の可能性は「非常に低い」とコミュニティに安心させた。

   鶏卵農場の感染とは関連がない

 鳥インフルエンザは鳥の感染性ウイルス性疾患で、人間にはあまり見られない。

 鳥インフルエンザには多くの株(strains)があり、保健省は「そのほとんどは人間には感染しない」と述べた。

「H5N1を含むいくつかの亜型(subtypes)は、家禽に病気や死を引き起こす可能性が高い」と広報担当者は述べた。

 オーストラリア保健省は、これはH5N1株の最初の症例だが、他の株によるヒトへの感染は以前にも報告されていると述べた。

 「2010年3月、オーストラリアの養鶏場で低病原性鳥インフルエンザA(H10N7)の感染が発生した」と広報担当者は述べた。

 「農場から臨床的に正常な鳥を処理した後、屠殺場の作業員7人が結膜炎と軽度の上気道症状を報告した。」

 インフルエンザウイルスA亜型H10感染が作業員2人に検出された。

 現在、米国の乳牛を含む世界各地で H5N1 型ウイルスの流行が発生している。

 最近、米国の酪農従事者 1 人がウイルス検査で陽性反応を示した。

 ビクトリア州の養鶏場では、この病気が発見された後、何十万羽もの鶏が安楽死させられている。

 同州西部のメレディス近郊の農場は検疫中だ。

 保健省は、ビクトリア州の子供と養鶏場での感染との関連はないと述べた。

 なお、オーストラリアで家禽類の鳥インフルエンザが最後に検出されたのは2020年だった。

編集者注:この記事は、オーストラリア保健省からの新たなアドバイスを反映するため、5月25日に更新された。

【補追】

2024.6.1 ABCnews 「鳥インフルエンザの発生が世界中に広がる中、専門家らは将来のパンデミックのリスクと世界がどう備えるべきかについて意見を述べている」から重複しない範囲で補足する。

1.オーストラリアの鳥インフルエンザの状況はどうなっているのか?

 まず、鳥インフルエンザのさまざまな発生がどのように分類されるかを理解しておくことが役立つ。

 鳥インフルエンザは、主に野鳥や家禽の間で広がる感染症である。人間のインフルエンザと同様に、鳥インフルエンザウイルスにはいくつかの種類があり、感染した鳥をどの程度病気にするかを示す高病原性または低病原性に大まかに分類される。

 COVID-19 のような他の感染症と同様に、鳥インフルエンザウイルスはサブタイプまたは「系統」に分けられ、さらに系統群に分けられる。これらの微妙な違いは、ウイルスが進化し、宿主細胞の防御を回避するために変異するにつれて生じる。一部の適応は「スピルオーバー」イベントにつながる可能性があり、ウイルスが 1 つの種から別の種に伝わり、他の動物に感染し、まれに人間にも感染する。

 オーストラリアは近年、病原性の高い鳥インフルエンザの発生を数件経験しているが、これまではいずれも人間に感染したことはない。

 先週、ビクトリア州農業省は、メレディス近郊の養鶏場で、病原性の高い鳥インフルエンザの系統である H7N3 の発生を明らかにした。

 その日の遅く、ビクトリア州の保健当局は、オーストラリアで初めて鳥インフルエンザに感染した人間が確認されたと発表した。感染したのはインドで感染した子どもで、H5N1型と呼ばれる別の系統だった。

 5月24日、ビクトリア州のテランにある別の養鶏場で2度目の鳥類感染が確認された。この養鶏場はメレディスの養鶏場と商業的につながっていた。検査の結果、この感染は別のH7系統であるH7N9であることが確認された。

 先週、西オーストラリア州の混合養鶏場で3度目の感染が確認された。これはビクトリア州での感染とは関係のない低病原性のH9N2系統である。

 州および連邦当局は、感染した養鶏場を検疫下に置き、制限区域内の放し飼いおよび裏庭で飼育されている鶏を一時的に収容するよう命じるなど、影響を受けた業界と協力して養鶏感染を抑え込んでいる。

 ヒト感染例は養鶏場での感染例とは関係がなく、接触者追跡調査では現時点でオーストラリア国内でこれ以上のヒト感染例は確認されていないことに留意する必要がある。

 感染症の進化を追跡する世界的データベースであるGISAIDは、ビクトリア州のヒト感染例をH5N1系統2.3.2.1aと特定している。ゲノム配列解析により、これが現在インドとバングラデシュで流行しているウイルスと関連していることがわかった。

 別の H5N1 系統である 2.3.4.4b は、北米、ヨーロッパ、アフリカと南米の一部で大混乱を引き起こしている。

 米国では、史上最長かつ最大の鳥インフルエンザ流行の中心となり、9,000万羽以上の鳥が死亡した。米国9州の乳牛群でもこのウイルスが検出され、感染拡大を食い止めるための一連の規制や管理命令が出された。米国の乳牛流行に関連して、3人のヒト感染例が報告されている。

 H5N1型およびその他の株は中国でも流行している。福建省の女性は、高病原性のH5N6型に感染し、4月に死亡した。世界保健機関(WHO)によると、この女性は発病前に裏庭で飼育していた家禽と接触していたという。

2.ヒトへの感染リスクは?

 鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染リスクは比較的低く、感染動物との濃厚接触があった場所で感染するのが一般的だ。世界中の保健当局は、養鶏や乳製品などの感染産業や野生動物を扱うその他の職業に従事する人々に注意を促しているが、全体として一般市民へのリスクは低いと考えられている。

 ニューサウスウェールズ大学カービー研究所で世界バイオセキュリティ プログラムを率いるマッキンタイア教授は、これはこのウイルスの作用の仕方によるものだと語る。

 「鳥インフルエンザ ウイルスは鳥に適応しており、鳥の上気道には人間にはない特定の受容体がある。これらのウイルスは鳥と一部の哺乳類の間でのみ容易に拡散し、人間には拡散しない」と同教授は語った。

 しかし、ウイルスが人間の呼吸器に侵入できる適応を獲得する機会があれば、状況は変わる可能性がある。

 マッキンタイア教授は、鳥インフルエンザは、従来このウイルスを運んできた動物(アヒル、ガチョウ、白鳥などの水鳥)からすでに他の野鳥や哺乳類にまで感染していると指摘する。

 「アシカやアザラシ、アカギツネ、コヨーテ、リスの大量死が見られ、これまでこのウイルスを拡散させたことのない野鳥130種にも感染が広がっている」と同教授は述べた。

 南米では、ペルーペリカンの40%以上を含む数十万羽の海鳥が死んでいる。南極大陸全域で多数のアデリーペンギンとトウゾクカモメが「大量死」し、H5N1が原因と疑われている。

 「南極は私たちにとって心配な場所である」とマッキンタイア教授は言う。「ウイルスが南極大陸にあるとすれば、他の鳥が飛来してオーストラリアに持ち込む可能性があるからである」。

 マッキンタイア教授によると、ウイルスが人間に感染しやすく適応する統計的確率は、H5N1系統2.3.4.4bが最も高いという。この種の変異が起きるとすれば、ヨーロッパかアメリカ大陸で起きるのではないかと同教授は考えている。

 米国では、食品医薬品局(FDA)が食料品店で販売されている牛乳やその他の乳製品のサンプルからH5N1ウイルスの断片を発見した。しかし、これらのサンプルから生きたウイルスの証拠は得られなかった。これはおそらく低温殺菌処理によるもので、マッキンタイア教授は「ウイルスは殺せる」と説明している。

**************************************************************************

(注1) 「IHR(International Health Regulations:国際保健規則)」とは、WHOが、WHO憲章第21条に基づき 2005 年に制定した国際規則。感染症を始めとした国際的な公衆衛生上の脅威となるあらゆる事象をWHOに報告することを加盟国に義務付け、国際交通に与える影響を最小限に抑えつつ、疾病の国際的伝播を最大限防止することを目的としている。(厚生労働省の解説から抜粋)

(注2) 厚生労働省「国際保健規則(IHR)(2005年)の改正の検討状況について           

(令和6年5月31日 最終更新記事)においてIHRの改正経緯や具体的内容が解説されている。

(注3) 第77回世界保健機構総会で合意された国際保健規則の改正(2005)の詳細仮訳

 WHOの歴史的な発展の中で、194加盟国の年次総会である世界保健機構総会は6月1日、国際保健規則(2005 International Health Regulations (2005) (IHR)6/1⑬に対する重要な改正のパッケージに合意し、また、遅くとも1年以内に世界的なパンデミック合意(pandemic agreement)に関する交渉を完了することを具体的に約束した。これらの重要な行動は、将来の集団発生やパンデミックのリスクからあらゆる場所のすべての人々の健康と安全を保護するために、すべての国で堅牢なシステムが導入されるなど包括的な対策を確実にするために取られた。

 これらの決定は、77回目の世界保健総会の最終日に互いに連携して行われた、国による2つの重要なステップを表している。すなわち、1) COVID-19パンデミックを含むいくつかの世界的な健康緊急事態から学んだ教訓に基づいて構築する。2)IHR規則の改正パッケージは、パンデミックを含む公衆衛生上の緊急事態への世界的な準備、監視、対応を強化する。

 WHO事務局長のTedros Adhanom Ghebreyesus博士は「国際保健規則の改正は、各国の能力を強化し、仲間の国家間の調整を行うことにより、疾病監視、情報共有および対応について将来の集団発生とパンデミックを検出して対応する国の能力を強化する。これは、平等への取り組み、健康の脅威は国境を認識していないこと、そして準備は集合的な取り組みであるという理解に基づいている」と述べた。

 さらにTedros博士は「来年中にパンデミック協定を締結するという決定は、次のパンデミックがいつ問題になるかではなく、いつそれを望むかを強く緊急に示している。今日のIHRの強化改正は、パンデミック協定を完了するための強力な勢いを提供する。これは、完成すると、COVID-19によって引き起こされる社会と経済、健康への荒廃の再発を防ぐのに役立つ」と付け加えた。

 IHRの新しい規則改正には以下が含まれる。

(1)パンデミック緊急事態の定義を導入するパンデミックになるリスクがある、またはパンデミックになったイベントに対応して、より効果的な国際協力を誘発する。パンデミック緊急事態の定義は、国際的な懸念のある公衆衛生緊急事態の決定を含む、IHRの既存のメカニズムに基づくより高いレベルの警報を表する。定義によれば、パンデミック緊急事態は、複数の国との間で地理的に広く広がっている、または感染するリスクが高い伝染病である。これらの国で対応する医療システムの能力を超える、または超えるリスクが高い。さらに実質的な社会的および/または経済的混乱を引き起こす、または引き起こすリスクが高い, 国際交通と貿易の混乱を含む。そして、政府全体と社会全体のアプローチ;迅速で公平かつ強化された調整された国際行動が必要である。

連帯と平等への取り組み 医療製品へのアクセスの強化と資金調達について、コア・キャパシティの強化と維持、”およびその他のパンデミック緊急予防、準備、対応関連のキャパシティの向上。これには、開発途上国のニーズと優先事項に公平に取り組むために必要な資金の特定とアクセスをサポートするための調整金融メカニズムの確立が含まれる。

さらに、今回、改正された規制の効果的な実施を促進するための締約締結国委員会の設立し、同委員会は、IHRの効果的な実施のための締約国間の協力を促進し、支援する。一方、加盟国は国家IHR当局の創設し、 国内および国間の規制の実施の調整を改善する。

(注4) ワンヘルス・アプローチ(“One Health”  approach)とは、人、動物、環境の衛生に関する分野横断的な課題に対し、関係者が連携してその解決に向けて取り組むという概念を表す言葉であり、国際的にも認識が高まっている。(わが国厚生労働省の解説)から一部抜粋。

 One Healthは、人、動物、生態系の健康を持続的にバランスさせ、最適化することを目的とした統合された統合アプローをいう。人間、家畜、野生動物、植物、およびより広い環境(生態系を含む)の健康は密接に関連し、相互依存していることを認識している。健康、食糧、水、エネルギー、環境はすべてセクター固有の懸念を持つ幅広いトピックであるが、セクターと分野にわたるコラボレーションは健康の保護に貢献する。また、 感染症の出現、抗菌薬耐性、食品の安全性などの健康問題に対処し、生態系の健康と完全性を促進させる。

 人間、動物、環境を結びつけることにより、One Healthは、予防から検出、準備まで、疾病管理–の全範囲に対処するのに役立つとともに, 対応と管理–、世界の健康安全に貢献する。

 さらに、このアプローチは、コミュニティ、地方、国、地域、世界レベルで適用でき、共有された効果的なガバナンス、コミュニケーション、コラボレーション、調整に依存している。One Healthアプローチを導入することで、人々がコベネフィット、リスク、トレードオフ、および公平で全体的なソリューションを進める機会をよりよく理解できるようになる。(WHOの解説から仮訳)

(注5) IHR に規定されている「コアキャパシティ」とは、地域・国家レベルにおける、サーベイランス・緊急事態発生時の対応、及び空海港・陸上の国境における日常衛生管理及び緊急事態発生時の対応に関して最低限備えておくべき能力のこと。(外務省の解説から抜粋)

(注6) 原材料の調達から消費者の手に届くまで」といった一連の流れを一括で管理するシステムのことをロジスティクスという。商品の生産過程から管理するため、不良在庫や欠品が発生する事態を防ぐことができ、コスト削減が期待できる。

ロジスティクスの仕組み:

ロジスティクスでは、顧客が必要としている商品を、必要なタイミングで、必要な場所に、必要な数だけ届けるための効率的な仕組みが構築される。商品の原材料を調達してから生産、保管、出荷・配送までの一連の流れをロジスティクスで管理することによって現場全体の業務効率化をはかると同時に、迅速かつ正確な出荷・配送を可能になる。

(注7) COVID-19ツールアクセラレータ(ACT-A)

ACTアクセラレーター (Access to COVID-19 Tools Accelerator : ACT-A) は、COVID-19パンデミックに対する効果的かつ公平な世界的対応を可能にするために、2020年 4月に発足した。

ACT-Aの当初の目的は、”新しい診断薬、医薬品、技術を開発、試験、上市、調達、配布するための迅速かつ野心的な作業プログラムを通じて、COVID-19との闘いに不可欠な健康製品を開発し、それらが公平に配布されるようにするとともに、保健システムがこれらのツールを必要としている人々に確実に提供できるよう支援策を講じる “もので、今回のACT-A外部評価は、ACT-A運用の経験からんだ将来のパンデミックへの備えと対応のための重要な教訓を明確にするため、2022年 7月11日から10月10日にかけて実施された。(日本WHO協会の解説から抜粋)

(注8) COVAX ファシリティ(COVID-19 Vaccine Global Access Facility)

Gaviワクチンアライアンス、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)(注9)及びWHOが主導する、ワクチンを共同購入する仕組み。(i)高・中所得国が自ら資金を拠出し、自国用にワクチンを購入する枠組みと、(ii)ドナー(国や団体等)からの拠出金により途上国へのワクチン供給を行う枠組み(Gavi COVAX AMC)を組み合わせている。

(2)国際的なワクチンの開発・製造を担うCEPI(感染症流行対策イノベーション連合)が開発支援する9種類のワクチン及び他のワクチンを検討対象とし、幅広いポートフォリオを予定。各国におけるワクチン確保の一手段となり得る。

(3)高・中所得国は、拠出金をCOVAX に支払い、拠出金は開発や製造設備整備に使われる。高・中所得国を含む国際的に公平なワクチンの普及に資する。

(注9) 感染症流行対策イノベーション連合(CEPI: Coalition for Epidemic Preparedness Innovations:セピ)について:

CEPIは、2017年1月にダボス会議で発足した、ワクチン開発を行う製薬企業・研究機関に資金を拠出する国際基金。日本(2022年から今後5年間で3億ドルの拠出を新たに行う)、ノルウェー王国、ドイツ連邦共和国、英国、欧州委員会、オーストラリア連邦、カナダ、ベルギー王国、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカム・トラスト等が拠出を行っている。平時には需要の少ないエボラ出血熱のような世界規模の流行を生じる恐れのある感染症に対するワクチンの開発を促進し、現在、新型コロナウイルスに対するワクチンの開発も支援している。(わが国厚生労働省の解説から抜粋)

(注10) A型インフルエンザ・ウイルス(H5N1亜型)

感染動物は鳥類(主に水禽類)。なお、2021年以降、鳥類における鳥インフルエンザ(H5N1)の世界的な感染拡大に伴い、海棲哺乳類を含む野生の哺乳類や農場のミンクなどでも感染が報告されている。

鳥類(家きん及び野鳥)の感染事例は、2024年5月現在、欧州、アジア、北米、南米において報告が続いている。

ヒトでの感染事例は、2003年から2024年5月3日時点までに東南アジアを中心に報告されている。(厚生労働省の解説から抜粋)

H5N1やH5N8とはどういう意味か?

A型インフルエンザウイルスの亜型のことである。A型インフルエンザウイルス表面にはヘマグルチニン(H)とノイラミニダーゼ(N)という2種類のタンパク質があり、その抗原性の違いによりA型インフルエンザウイルスを亜型に分類している。現在、ヘマグルチニンタンパク質には1から18まで、ノイラミニダーゼタンパク質には1から11までの亜型がある。例えば、H5N8とはH5亜型のヘマグルチニンとN8亜型のノイラミニダーゼをもつという意味です。これまでに報告された高病原性鳥インフルエンザウイルスは、ほとんどがH5亜型とH7亜型に限られている。(農研機構の解説から抜粋)

**************************************************************************

Copyright © 2006-2024 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

悪意あるインタフェース・デザイン・パターンの一種でエンドユーザーをだまし、本人の意図または期待とは異なる行動を取らせる「ダーク・パターン」の米国やEUの規制強化に向けた具体的活動内容を検証(その3完)

2024-04-19 08:29:50 | 違法なマーケテイング規制

2.欧州データ保護会議 (EDPB) 、ソーシャルメディアインターフェースにおける「ダークパターン」の使用に関するガイドライン草案を公開:解説blogの要約

 Covington & Burling LLPの解説blogを以下、仮訳する。筆者はNicholas Shepherd氏、Daniel P. Cooper 氏である。

Nicholas Shepherd 氏

Daniel P. Cooper 氏

 2022 年 12 月 9 日、欧州委員会の司法・消費者保護担当委員、ディディエ・レインダース(Didier Reynders)氏(ベルギー代表)は、欧州委員会が次の 2023 年の任務を、オンライン広告市場の透明性や Cookie 疲労と並行してダーク・パターンの規制に焦点を当てると発表した。この義務の一環として、EU の消費者保護協力 (EU’s Consumer Protection Cooperation :CPC) ネットワークは、399 の小売 Web サイトとアプリのダーク パターンの徹底的な調査を実施し、オンライン ショッピング Web サイトの 40% 近くが消費者の脆弱性を悪用かつ騙す操作的行為に依存していることを発見した。

Didier Reynders氏

 これらの問題を強制するために、EU にはダーク・パターンを規制する単一の法律は現状はないが、ダーク・パターンについて議論し、消費者をダーク・パターンから保護するツールとして使用される可能性のある複数の規制がある。 これには、「一般データ保護規則 (General Data Protection Regulation (GDPR)」デジタル・サービス法 (Digital Markets Act:DSA)、デジタル市場法 (Digital Markets Act:DMA)、不公正商行為指令 (Unfair Commercial Practices Directive「UCPD」(注16)、およびAI法(Artificial Intelligence Act)やデータ法(Data Act)(注17)など規制案が含まれる。

1.ダーク・パターンに関する法的枠組み

 EUで「ダーク・パターン」という用語には単一の定義はないが、特にマイナスの結果につながる場合、消費者に意図していないことややりたくないことをさせる操作的または欺瞞的な行為を指す。 例えば以下のとおり。

(1)欧州データ保護会議 (EDPB) は、「ダーク・ パターン」を「ユーザーの行動に影響を与えることを目的として、個人データに関して意図的ではない、望ましくない、潜在的に有害な決定をユーザーにさせるソーシャル メディア・ プラットフォームに実装されたインターフェイスおよびユーザー・ エクスペリエンス」と定義している。 EDPB は、ダーク・パターンを、(1) 過負荷(overloading)、(2) スキップ(skipping)、(3) 動揺させる(stirring)、(4) 妨害(hindering)、(5) 気まぐれ(fickle)、(6) 暗闇に放置(left in the dark,)の 6 つのカテゴリーも定義し、これらについては、ブログ記事「EDPB、ソーシャルメディアインターフェースにおける「ダーク・パターン」の使用に関するガイドライン草案を公開」で詳しく説明している。

(2)提案されているデータ法(Data Act)でも同様に、「ダーク・パターン」を「消費者にマイナスの結果をもたらす決定を押し付けたり欺いたりする設計手法またはメカニズム」と説明されている。 これらの操作手法は、ユーザー、特に弱い立場にある消費者を説得して望ましくない行動をとらせたり、データ開示取引に関する意思決定を誘導したり、サービスのユーザーの意思決定に不当にバイアスをかけたりすることでユーザーを欺くために使用される可能性があり、ユーザーの自主性、意思決定、選択を覆し、損なう方法である。

 さまざまな説明にもかかわらず、「ダーク・パターン」の共通の特徴は、(i) 操作的または欺瞞的な性質、および (ii) その結果消費者にマイナスまたは有害な結果をもたらすことである。

 この「ダーク・パターン」という表現は EU の法律全体に浸透しており、さまざまな規則、ガイドライン、原則の中に見られる。したがって、組織が「ダークパターン」とは何か、そしてこれが自社の業務にどのような影響を与えるかを検討しようとする場合、たとえば次のような多数の規制を考慮することが重要である。

(1)GDPR と eプライバシー指令。

 GDPR と eプライバシー指令(注18)はダーク・パターンについて明示的に言及していないが、ダーク・パターンを規制する現在の法的枠組みの一部を形成している。たとえば、組織が GDPR に基づいて個人データを処理する法的根拠として同意に依存している場合、または eプライバシー指令に基づいて Cookie やマーケティング コミュニケーションについて同意を取得している場合、そのような同意を収集する際にダーク パターンに関与している可能性がある。

 (A) ソーシャル メディア プラットフォーム・ インターフェイスのダーク・パターンに関する EDPB ガイドライン 03/2022 (「ガイドライン」) は、ソーシャル メディア・プラットフォームの「ダーク・パターン」を評価するための実践的な推奨事項を提供している。同ガイドラインでは、「ダーク・パターン」はユーザーが「自由に与えられた、具体的で十分な情報に基づいた明確な同意」を提供する能力を妨げる可能性があり、ひいてはデータ保護と消費者保護の観点からプライバシーの権利を侵害する可能性があると指摘している。 実際の例として、組織は次のような場合に「ダーク・パターン」に陥る可能性がある。 言葉やビジュアルの使用が、(a) 非常に前向きな見通しでユーザーに良い気分や安全を感じさせる、または (b) 非常に否定的な見通しのいずれかでユーザーに情報を伝える 1 つは、特にデフォルトのオプションとしてより多くのデータを共有するようにユーザーを誘導する方法で、ユーザーに不安や罪悪感を抱かせることである。ガイドラインの詳細については、本事務所のブログ投稿を参照されたい。

(B)CPC – EDPB の子供に対する公正な広告に関する共同原則(CPC – EDPB Joint Principles for Fair Advertising to Children)

 2022 年 6 月 14 日、EU の CPC ネットワーク(Consumer Protection Cooperation Network)4/3(91)の代表者は、EU 内のいくつかの国家データ保護当局および EDPB 事務局とともに、子供に対する公正な広告のための 5 つの主要原則を承認した(プレスリリースを参照)。 これらには、例えば、子供をターゲットにする可能性が高い広告やマーケティング手法を設計する際に、子供特有の脆弱性を考慮すること(特に、子供を騙したり不当に影響を与えてはならない)や、子供をターゲットにしたり、アプリ内またはゲーム内のコンテンツの購入を促したり、購入を促したりしないことが含まれる。 このため、組織は子供を対象としたオンライン・インターフェイスを作成する際に、ダーク パターンを避けるために十分な注意を払う必要がある。 これらの原則と子供のプライバシーの詳細については、以前のブログ投稿を参照されたい。

(C)UCPD(不公正商行為指令)。不公正商行為指令 (Unfair Commercial Practices Directive:UCPD」は、契約締結前、契約締結中、契約締結後に消費者の経済的利益に影響を与える不公正な商行為を禁止している。 2021 年 12 月 29 日、欧州委員会は UCPD に関するガイダンスを発表し、UCPD がダーク パターンをカバーしていることを確認し、UCPD の関連規定がデータ駆動型の企業間取引(BtoB)の消費者の商習慣にどのように適用できるかを説明するセクション (4.2.7) を割当てた。

 UCPD は、消費者の注意を引くなどの商行為を対象としている。これにより、サービスの使用を継続する (フィードをスクロールするなど)、広告コンテンツを表示する、またはリンクをクリックするなどの取引上の決定が行われる。これらの商慣行にダーク・ パターンが含まれており、誤解を招く限りにおいては、UCPD に違反することになる。 たとえば、ダーク・パターンは、オンライン広告に関連して平均的な消費者の経済行動を大きく歪める可能性があるため、UCPD に該当する可能性がある (ブログ投稿を参照)。

(D)DSA(デジタル・サービス法 (Digital Markets Act)

 DSA は、ユーザーの自由な選択を歪めたり損なったりする可能性のある、ダーク・パターンを含む欺瞞的または誘導的な手法 (同意のオプションを視覚的に目立つようにしたり、ユーザーに決定を繰り返すよう要求したり促したりするなど) を特に禁止している。 さらに、DSA に基づいて、欧州委員会には、ダーク・パターンの範囲に含まれる可能性のある追加の商慣行を定義するための委任法を採択する権限も与えられている。 DSA の詳細については、ブログ投稿を参照。

(E)DMA(デジタル市場法 (Digital Markets Act:DMA)

 DMA はダーク・パターンについては明示的に言及していないが、ダーク ・パターンと同様の方法で説明される義務をゲートキーパーに課している。 たとえば、ユーザーの自由な選択と同意の撤回に関して、ゲートキーパーは「エンドユーザーが自由に同意する能力を欺いたり、操作したり、その他の方法で実質的に歪めたり、損なったりするような方法で、オンラインインターフェイスを設計、編成、運用してはなりません」。 この目的を達成するために、DMA は、ユーザーが同意したときと同じように簡単に同意を撤回できる機能を提供し、追加の負担を回避させる。 同意を撤回するための簡単なメカニズムをユーザーに提供しない場合は、ダーク・パターンとみなされ、DMA に基づく違反とみなされる。 DMA の詳細については、ブログ投稿を参照。

2.規制立法法案

 ダーク パターンに関する規制は継続的に進化しており、特にダーク パターンが消費者に与える悪影響がより多くの研究や調査によって明らかになっているため、新しい法律に組み込まれている。 次の今後のルールでも、ダーク・ パターンの使用が規制される。

(1)提案されているAI法(The proposed AI Act)

  提案されている AI 法は、EU 全体での人工知能システム (「AI システム」という) の開発、市場投入、および使用に関する規則を定めている。 AI 法はまだ立法過程にあるが、現在の提案では AI システム内でのダーク パターンの使用が禁止されている。 すなわち、この提案は、「人の行動を、その人を引き起こす、またはその可能性のある方法で実質的に歪めるために、人の意識を超えた潜在意識技術を展開する AI システムの市場投入、運用、または他人の身体的または精神的危害を加える使用を明確に禁止している。 したがって、AI システムのメーカーは、ダーク パターンのような欺瞞的な手法の使用が禁止され、ダーク パターンの使用を避けるために、GDPR が推進する一般的なデータ保護原則、つまり透明性、説明責任、データの最小化などを考慮する必要があります。 AI システム内のパターン。 提案されている AI 法の詳細については、当事務所のブログ投稿を参照。(欧州委員会専門サイト「Shaping Europe’s digital future」でAI法など最新情報が入手可)

(2)提案されているデータ法(The proposed Data Act.)

 提案されているデータ法は、ユーザーが接続された製品やサービスの使用を通じて生成されたデータにアクセスし、第三者に移植できるようにするなど、データへのアクセスと使用を促進することを目的としている。

  この一環として、このデータを受け取る第三者は、「ユーザーとのデジタルインターフェースにおいてユーザーの自主性、意思決定、選択を破壊したり損なったりすることにより、いかなる方法でもユーザーを強制、欺瞞、操作しない義務を負う。Recital 34 では、これは、サードパーティがデジタル インターフェイスを設計する際に、特に消費者がより多くのデータを開示するように操作する方法でダーク パターンに依存すべきではないことを意味すると説明している。したがって、サードパーティは、GDPR で定義されているデータ最小化原則に準拠する必要がある。 インターフェイスでダーク・ パターンの実践を採用しないようにすべきである。( 提案されているデータ法の詳細については、ブログ投稿を参照)。

(3)デジタル公平性に関する公開協議(Digital Fairness Consultation)

 2022 年 11 月 28 日、欧州委員会はデジタル公平性に関する公開協議を発表しました。この協議は現在 2023 年 2 月 20 日まで開かれている。この協議の目的は、既存の消費者保護法(不公正商法など)を更新する必要があるかどうかを判断することである。 オンライン世界のデジタル変革に適応するために、慣行指令、消費者権利指令、不当な契約条件指令などを遵守する。 特に、欧州委員会は、既存の消費者保護法が、他の消費者保護上の懸念事項(パーソナライゼーションの実践、インフルエンサー・マーケティング、仮想アイテム消費者のマーケティングなど)の中でも、ダーク・パターンを含むオンラインの欺瞞的およびナッシング手法などの新たな消費者保護問題から消費者を保護するのに適切であるかどうかを検討する予定である。

 公開協議後、欧州委員会はスタッフ作業文書を公表する予定で、この文書はこれらの問題に対処し、ダーク・パターンをさらに規制する新たな立法提案を推奨する可能性がある。 その一方で、EU はすでに次のようなダーク パターンの施行を推進している。

(4)欧州委員会の新しい消費者アジェンダ(ダーク・ パターンの義務化を含む)の一環として、2022 年 4 月に欧州委員会は、デジタル環境における不当な商行為に関する行動調査を発表した。この調査では、ダーク・パターンの使用と操作的なパーソナライゼーションを調査し、 ダーク・パターンに関する懸念に対処するための既存の消費者保護法の潜在的なギャップ。 欧州委員会は、この調査で特定されたオンライントレーダーに連絡し、特定された問題を修正するよう依頼する予定である。

 前述したように、CPC ネットワークは Web サイトやアプリでの「ダーク ・パターン」の使用を特定するためにオンライン調査を実施した。欧州委員会のプレスリリースによると、調査対象となったオンライン ショッピング Web サイトのほぼ 40% (399 件中 148 件) がこのサイトに依存していると記載されている。 消費者の脆弱性を悪用したり、消費者を騙したりする操作的行為(例:偽のカウントダウンタイマー、隠された情報、消費者を購入、定期購入、またはその他の選択肢に誘導するように設計された Web インターフェース)。 関連する加盟国の消費者保護当局は今後、関連する業者に連絡してウェブサイトを修正し、必要に応じてさらなる措置を講じることになる。

 2022年11月21日に発表された、取引アプリや取引ポータルでのダーク・パターンを禁止するドイツ連邦金融監督庁(Bafin)の声明(注19)で証明されているように、金融セクターなど分野ベースでの施行も予想される可能性が高い。

結論

 EUは、特にデジタル分野におけるEU消費者の権利をさらに保護するために重要な措置を講じており、企業がそのような目標を達成するための追加の勧告を提供し続けている。 EUはデジタル市場法とデジタルサービス法の採択、および今後の立法提案の交渉により、欧州の各機関はデジタル市場における透明性と説明責任の強化に向けて 2023 年に向けた調子を整えている。 ダーク ・パターンの規制に重点を置くことは、EU の多数の法律との関連性が示すように、広範囲に影響を与える可能性がある。 さらに、ダーク・パターンの規制は単一の規制に拘束されないため、ダーク・パターンに対する施行の数は増加するであろう。 たとえば、EU データ保護当局はダーク・ パターンの使用や個人データの処理、デジタル マーケティングを調査するため、ダーク ・パターンも施行の議題となっている。

**************************************************************

(注16) 長島・大野・常松法律事務所パートナー 福原あゆみ氏のニュースレター「欧州におけるグリーン・ウォッシュ規制のアップデート」から一部抜粋する。なお、EUサイト(DIRECTIVE (EU) 2024/825 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 28 February 2024)とのリンクは本ブログの筆者が独自に行った。

福原あゆみ 氏

 (1)EU理事会は、2024年2月20日、従前の欧州の不公正商行為指令(Unfair Commercial Practices Directive: UCPD)と消費者権利指令(Consumer Rights Directive: CRD)を改正する形で、不公正な慣行に対するより良い保護と情報提供を通じてグリーン移行するための消費者の権限強化に関する指令(Directive on empowering consumers for the green transition through better protection against unfair practices and better information 以下「ECD」といいます。)を採択し、同指令は同年3月26日に発効した。今後、EU加盟国は採択から2年以内に国内法規制への置き換えを行い、30か月以内に適用することが求められる。

(2) 禁止される行為の概要

ECDに基づく禁止行為又は規制には以下のものが含まれる。

①一般的な環境主張の規制

②持続可能性ラベルの使用の規制

③カーボンオフセットのみに基づく主張の禁止

④将来の環境性能に関する主張の来の環境性能に関する主張の規制

(2)グリーン・クレーム指令(The green claims directive)

 グリーン・クレーム指令(The green claims directive 以下「GCD」という。)は、環境主張の広告を出す前に、環境マーケティングのクレームに関する証拠の提出を企業に義務付けるものであり、ECDに基づくグリーン・ウォッシュの規制を補完するものになる。同指令は、消費者が購入する製品の環境認証に関する信頼できる情報をアクセス可能にすることを目的として2023年3月に提案され、審議がなされていたが、2024年3月12日に欧州議会により採択がなされている。今後、2024年6月に実施される欧州選挙後の新議会で更に同指令案の審議が行われることが見込まれ、内容については変更がありうるものの、現時点で同指令で定められる項目には以下のものが含まれる。

①明示的な環境主張に関するアセスメントの実施と立証に関する要件

②環境主張の伝達に関する要件

③環境ラベル制度の要件

(注17) REGULATION (EU) 2023/2854 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 13 December 2023 on harmonised rules on fair access to and use of data and amending Regulation (EU) 2017/2394 and Directive (EU) 2020/1828 (Data Act)

(注18) GDPRとeプライバシー指令は相互に補完しあう関係にある。GDPR第95条によれば、eプライバシー指令(及び同指令を実施する国内法)が企業に義務を課している範囲において、GDPRがさらなる義務を課すことはないとされている。これは、原則として、eプライバシー指令の規定が、電気通信サービス(特に電子メールとインターネット)についての枠組みを定める、いわゆる特別法であり、より一般的なGDPRの規定に優先することを意味する。GDPRは、eプライバシー指令によって具体的に規律されていない事項についてのみ直接的に適用されることとなる。(長島・大野・常松法律事務所「GDPRとEU加盟国法との相互関係に関する最新動向 -eプライバシーに関する規律やドイツの事例を題材として-」から一部抜粋)

 この 2002 年の e プライバシー指令は、デジタル時代のプライバシー、より具体的には通信の機密性と追跡と監視に関する規則に関する重要な法的手段である。

 2011 年 5 月に発効した電子プライバシー指令 2009/136/EC は、電子通信分野における個人データの処理とプライバシーの保護に関するものである。 これは通常「電子プライバシー指令」と呼ばれ、第一次指令 2002/58/EC の修正指令である。(Wikipedia から抜粋、仮訳)

  一般データ保護規則(GDPR)の発効により、EU 立法者はこの文書を更新する必要があり、欧州委員会は 2017 年 1 月 10 日に提案を発表した。この新しい文書は、機械の機密性などの問題を伴い、急速に進化する技術情勢に取り組む必要があり、 マシン間の通信 (モノのインターネット)、または公的にアクセス可能なネットワーク (公衆 Wi-Fi など) 上の個人の通信の機密性等に言及している(EDPSサイト仮訳)。

(注19)Bafin声明(独文)および第63条第6項を筆者なりに仮訳する。

「また、BaFin は、取引アプリや取引ポータルにある関連性のある重要なボタン (取引をキャンセルするためなど) が完全に欠落していてはいけないことも明確にしている。 投資サービス会社が重要かつ関連性のある意思決定の選択肢のボタンを提供しない場合は、WpHG 第 63 条第 6 項 (§ 63 Abs. 6 Satz  WpHG.)に基づく誠実さの要件にも違反する。」

*連邦証券取引法 (有価証券取引法: Gesetz über den Wertpapierhandel: WpHG)第 63 条:一般的な行動規則; 規制を発行する権限:第6項  投資サービス会社が顧客に提供するマーケティング・コミュニケーションを含むすべての情報は、正直、明確で、誤解を招くものであってはならない。 マーケティング コミュニケーションは、それを明確に識別できる必要がある。 (資本投資法第 302 条(Kapitalanlagegesetzbuch (KAGB)§ 302 Werbung  広告)、規制 (EU) 2017/1129(Artikel 22 der Verordnung (EU) 2017/1129)( 2017 年 6 月 14 日の欧州議会および欧州理事会の規則 (EU) 2017/1129 は、有価証券が一般に提供される場合、または規制された市場での取引が認められる場合に発行される目論見書に関するものであり、指令 2003/71/ECText を繰り返している(Verordnung (EU) 2017/1129 des Europäischen Parlaments und des Rates vom 14. Juni 2017 über den Prospekt, der beim öffentlichen Angebot von Wertpapieren oder bei deren Zulassung zum Handel an einem geregelten Markt zu veröffentlichen ist und zur Aufhebung der Richtlinie 2003/71/EGText von Bedeutung für den EWR.)、証券目論見書法(Wertpapierprospektgesetz - WpPG)の第 7 条(§ 7 証券情報シートの発行が必要なオファーの広告)は影響を受けない。

 BaFin は、第 63 条以降に従って、2018年1月に施行された第2次金融商品市場指令(MiFID II )の行動規則に関する 2 つの新しい FAQ を公開した。 投資サービス会社は、オンラインでのプレゼンスを適宜確認することが求められる。 BaFinが独自の監査手続きを通じて取引アプリのダーク・パターンをすでに特定している場合、直ちに関係企業に対処する予定である。

*************************************************************

Copyright © 2006-2024 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

悪意あるインタフェース・デザイン・パターンの一種でエンドユーザーをだまし、本人の意図または期待とは異なる行動を取らせる「ダーク・パターン」の米国やEUの規制強化に向けた具体的活動内容を検証(その2)

2024-04-19 08:28:16 | 違法なマーケテイング規制

4.その他の消費者向けビジネスへの影響

 Amazon と PCH ヘの訴訟は、FTC が不公平、欺瞞的、またはその他の違法なダーク・パターンとみなしている特定のタイプのデザイン慣行について重要な明確さを提供し、自社のオンライン・デザインの健全性を調査しようとしている他の消費者向け企業にとってのガイドとして役立つ。

 電子商取引プラットフォームやサブスクリプション・ベースのモデルを展開している企業、あるいはオンライン・マーケティングに大きく依存している企業は、現在の規制環境においてデザイン関連のリスクを適切に特定して制御していることを確認するために、さまざまな措置を講じることができ、またそうすべきである。これらの手順には次のものが含まれる場合がある。

(1)登録/サインアップのフローを確認する: 企業は、この機会を利用して、Amazon の告訴で取り上げられている慣行の種類に目を向けて、既存のオンライン顧客フローと関連する設計原則を確認する必要がある。今日の簡単なチェックにより、製品フローやその他の設計上の決定を改善または合理化する機会が見つかる可能性がある。これにより、潜在的なダーク・ パターンに関連する規制リスクが軽減されるだけでなく、顧客とのコミュニケーションが改善され、収益も向上する。

(2)シンプルなキャンセル方法を検討する: 同様に、企業は既存のキャンセル フローを調査して、その結果を達成するための「シンプルなメカニズム」を提供していることを確認する必要があります。潜在的には、消費者がサービスを登録するのと少なくとも同じくらい簡単にサービスをキャンセルできるようにするべきである。FTC が提案したネガティブ・ オプション・ ルールと Amazon に対する強制措置に沿って、企業は見つけやすく使いやすいシンプルなキャンセル・プロセスを備え、消費者が登録に使用したのと同じ方法 (例: ウェブサイト、 電子メール アドレス、または他のアプリケーション)を提供すべきである。

  インターネット上の販売者は、サインアップに使用したのと同じ Web サイトまたは Web ベースのアプリケーション上で、アクセス可能なキャンセル メカニズムを提供する必要がある。販売者がユーザーに電話を使用したサインアップを許可する場合は、少なくとも電話番号を提供し、その番号へのすべての通話が通常の営業時間内に応答されるようにする必要がある。 簡単に言うと、企業は消費者にサブスクリプション・プランをキャンセルするために面倒な手続き・厳しい審査など〕複雑な[何段階もの]手順を踏むことを避けるべきである。

(3)サブスクリプション・プランに関する明確な開示: 最後に、送り付け商法(negative option)のサブスクリプション・プランを採用している企業は、すべての重要な条件が事前に明確かつ目立つように開示されていることを確認するために、少し時間をかける必要がある。 また、その開示には、告発を避けるために取るべき措置と、その措置が必要となるスケジュールを含める必要がある。

 まだ最終決定されていないが、FTC が提案している改正ネガティブ・オプション・ルールでは、消費者の請求情報を取得する前に次の情報が必要になる。 ① 該当する場合、消費者の支払いが定期的に行われること、② 消費者が停止するために行動しなければならない期限 、③ 消費者が負担する可能性のある費用の金額またはその範囲、④ 料金の支払いが提出される日付、⑤ 消費者が定期的な支払いをキャンセルするために使用できるメカニズムに関する情報。(注14)

 もちろん、ダーク・パターンは違法であり、サブスクリプションのキャンセルはサインアップと同じくらい簡単でなければならないというFTCの決定の実現可能性と範囲についてはなお未解決の疑問がある。

 FTC は、ダーク・ パターンの定義を満たす行為が、特定の事件の特定の事実に基づいて不当または欺瞞的であることを証明できるかもしれないが、事実のパターンが「強制されたアクション(Forced Action)」または「コンファーム・シェイミイング(羞恥心や罪悪感の植え付け)の定義を満たすことを示すには十分ではない。

 結局のところ、FTC 法は「ダーク・パターン」を禁止しているのではなく、数十年にわたる判例法を通じて発展してきたように、不公平と欺瞞を禁止している。欺瞞を証明するために、FTC は依然として、状況下で合理的に行動する消費者が重要な用語について誤解される可能性が高く、その責任を負うためにコピーテストまたはその他の外部証拠を使用する必要がある可能性があることを証明する必要がある。不公平を証明するには、FTC は、その行為が合理的に回避できない損害を引き起こし、またはその可能性があり、商業および競争上の利益を上回るものではないことを証明する必要がある。 たとえば、ワンクリック・キャンセルには利点があるかもしれないが、キャンセル・フロー中の「保存」オファーは、サブスクリプションを低価格で維持したいと考えている消費者に多大なメリットを提供する可能性がある。節約オファーも価格競争を促進する可能性がある。

 しかし、FTC は、広く使用されている取引慣行を含む、ダーク・パターンを考慮した慣行に対する強制を明確な優先事項とする。 競合他社の実践をベースラインとして見ることは、何の安心感もない。 規制上の不確実性とリスクを回避するために、企業は登録とキャンセルのフロープロセスについて慎重かつ現実的な視点を持つ必要がある。既存の(PCH の場合は長期的な)慣行を取り締まるという FTC の決定が何かを示唆しているからである。 FTCが積極的な法執法を続けるかどうかは、Amazonに対する苦情訴訟やネガティブオプション・オファーに関する「規則制定案告示 (Notice of Proposed Rulemaking :NPRM)」の経過を通じてより明らかになるであろう。

Ⅲ.FTCは、オンライン・サブスクリプションとキャンセル慣行に関する「ダークパターン」の苦情に3人のエグゼクティブを追加

 2023年10月9日のDuane Morris LLP.の解説「FTCは、オンライン・サブスクリプションとキャンセル慣行に関する「ダーク・パターン」の告訴状に3人の上級幹部を追加」仮訳する。(なお、公正取引委員会はFTCが6月21日に行ったリリース文「FTCは消費者を同意なくAmazon Prime に登録し、キャンセルの試みを妨害したとしてAmazonに対して裁判行動を起こすーFTCの告訴は、合意のない定期購入と解約の策略に対する会社の認識上の不履行の詳細を概説しているー」要旨を仮訳している)(注15)

 連邦取引委員会(FTC)によるAmazonに対する最近の独占禁止法訴訟は多くの注目を集めているが、同委員会が以前に提出したAmazonに対する消費者保護訴訟は、Amazon幹部に重要なポイントを提供している。

  2023年9月20日、FTCはAmazon.com Inc.に対する告訴状を修正し、3人のAmazon幹部を個々の被告として追加した。訴状では、Amazonが「ダーク・パターン」を使用して、消費者が無意識のうちに Amazon Prime のサブスクリプションに登録し、サブスクリプションのキャンセルを困難にしたと主張した。FTCは、これらの訴訟は、FTC法の第5条「Unfair or Deceptive Acts or Practices」および「オンラインショッパー信頼回復法(Restore Online Shoppers’ Confidence Act :ROSCA)」。 6月に提出された最初の告訴状は、Amazonのみを指名していた。

1.FTCの主な追加告訴事項

(1)修正された告訴状は、不正行為に直接関与している幹部の個人の説明責任に関してFTCでの焦点が高まっていることを示している可能性がある。

(2)幹部がFTC訴訟で指名されることの潜在的な結果には、民事罰、その他の形態の金銭的救済、および永久的差止命令が含まれる。

 2.FTCの追加告訴の主張内容と求められた救済策

 3人の幹部はすべてAmazon Prime を監督する上級副社長であり、そのうちの1人は現在Amazonのリーダーシップチームに所属している。修正された告訴状は、(1)3人の幹部全員が顧客が無意識のうちにAmazon Prime に登録していること、および(2)Amazonが加入者のキャンセルを防ぐために迷路 (labyrinthine) となるキャンセル手順を設計したことを知っていたと主張した。さらに、FTCは、(3)3人の幹部全員が登録およびキャンセル・プロセスを明確にするための内部の試みを遅らせるかあるいは拒否したと主張した。

 修正された告訴状は、内部の電子メール、メモ、プレゼンテーションでこれらの主張をサポートし、不明な登録と困難なキャンセルを既知の問題として識別した。これらの内部文書の一部は3人の幹部によって承認または受信されただけであったが、他の文書は幹部’自身の通信文であった。コミュニケーションには、Amazonの従業員から幹部へのメールが含まれており、Primeの登録とキャンセルのプロセスについて懸念が生じた。

 また、修正された告訴状は、Amazonと3人の幹部が特権の指定を誤用して文書を隠蔽したと主張し, たとえば、法的助言(legal advice)を要求しなかった大規模な通信において「弁護士に法的アドバイスを求めるべき(seeking counsel)」というフレーズを追加することによって、FTCは、この実務慣行は、被告らが調査される可能性が高いことを理解したことを示していると主張した。

3.FTCが告訴状で指名したAmazonの幹部の役割の重要性

 Amazonの幹部を主要なリーダーシップの役割に追加する修正された告訴状は、個人の説明責任に関する機関での焦点の増加を示している可能性がある。

 このような消費者保護問題裁判の場合、FTCが個人や企業を被告として指名することは珍しいことではない。ただし、そのような場合には通常、指名された幹部が被告事業の唯一の所有者または 別法人格(alter ego )である小企業が関係する。

 しかし、近年、FTCは大企業の幹部の名前を告訴状に付け始めた。

 2022年、FTCはDrizly LLCとそのCEOの両方をデータ侵害(データ侵害とは、社内の脅威や外部からの攻撃者が、医療記録、財務情報、個人識別情報(PI)などの機密データまたは機密情報に不正にアクセスするセキュリティインシデント)で訴えた。 この訴訟は同意命令(consent order)で終わったが、CEOは、25,000人以上の情報を収集する企業の過半数所有者、CEO、またはセキュリティ責任を持つ上級役員である場合、情報セキュリティトレーニングを実施する必要があるとされた。

4.セキュリティ責任を持つCEOまたは上級役員の指名

 この訴訟の被告としてCEOを指名することで、FTCは違法行為とされる行為に直接関与した個々の幹部の責任を追及するのではなく、抑止のメッセージを送っているように見えた。実際、元FTC委員のロヒット・チョプラ(Rohit Chopra)氏(現金融消費者保護局長)とレベッカ・スローター(Rebecca Slaughter)委員は、大企業の個人の名前を明らかにすることを支持し、それが抑止の手段であることを強調してきた。 また、ドライズリー事件(Drizly, LLC.) (注15-2)では、元FTC委員のクリスーティーン・ウィルソン(Christine S.Wilson)氏が、一般にCEOは問題のある慣行についての知識や関与がほとんどないため、CEOが個人的に責任を問われるべきではないと主張した。 FTC委員長のリナ・カーン氏はこれに反対し、「大企業を監督することは、他の優先事項を優先して法的義務を後回しにする言い訳にはならない」と述べた。

Rohit Chopra 氏

Christine S.Wilson 氏

 しかし、今回修正された訴状で名前が挙がったAmazon幹部らは、違法行為に積極的に参加していたと言われている。FTC によると、幹部 3 人は、問題のある実務慣行を阻止する権限を与えられた役職に就いている。 これらの実務慣行を止めるのではなく、継続することを許可した。そして証拠には、違法行為の疑いを助長するこれら幹部自身の通信も含まれていた。

結論

 Amazonのプライム・プログラムに責任を負った幹部3名を名指しすることで、FTCは、たとえ大企業であっても違法行為に積極的に参加する幹部はFTCの消費者保護訴訟の被告として指名されるリスクがあることを示唆した。FTC の訴訟で名前が挙げられると、経営幹部が受ける影響は重大になる可能性がある。 Amazonプライムの訴訟では、企業と個々の被告は各違反ごとに最大5万120ドル(約766万8360円)の民事罰金を科される可能性があり、場合によっては他の形式の金銭的救済も行われる可能性がある。さらに、幹部は永久差止命令の対象となる可能性もある。

 最後に、消費者と取引するすべての企業の経営者は、FTC が、企業による不当または欺瞞的な行為または慣行を促進する行為について、個人の責任を追及しようとする可能性があることを認識する必要がある。

Ⅳ.EUのダーク・パターン規制のあり方・スタンスおよび欧州データ保護会議 (EDPB) 、ソーシャルメディアインターフェースにおける「ダーク・パターン」の使用に関するガイドライン草案を公開の概要

1.Covington & Burling LLPの解説ブログ「2023.1.31The EU Stance on Dark Patterns」仮訳する。

 2022 年 3 月 21 日、欧州データ保護会議 (EDPB) は、3 月 14 日に開催された EDPB 本会議の後、

「ソーシャル メディア ・プラットフォーム・ インターフェイスのダーク・ パターンに関するガイドライン 3/2022 草案(Guidelines 3/2022 on Dark patterns in social media platform interfaces: How to recognise and avoid them Version 1.0) 」(以下、「ガイドライン」)という) を発表した。ガイドラインの明記された目的は、ソーシャル メディア ・プラットフォームのデザイナーとユーザーの両方に、EU の一般データ保護規則 (GDPR)で定められた要件に違反するソーシャル メディア・ インターフェイスのいわゆる「ダーク・ パターン」を特定し、回避する方法について実践的なガイダンスを提供することである。

  この意味で、ガイドラインは、GDPR に準拠した方法でプラットフォームとユーザー・インターフェイスを設計する方法を組織に指示するとともに、対象となる特定の慣行がどのように GDPR に反する可能性があるかをユーザーに教育する両方の役割を果たすものといえる。結果として、そのような行為に起因する GDPR の告訴の増加につながる可能性がある。 現在、このガイドラインは 6 週間の公開協議の対象となっており、関心のある方は、こちらから EDPB に直接フィードバックを送信するよう求められている (「フィードバックを提供する」ダウンロードボタンを参照)。

1.ダーク・ パターンの 6 つの定義された包括カテゴリーの分類の設定

 EDPBはガイドラインの冒頭で、「ダーク・パターン」を「ユーザーが個人データの処理に関して意図的ではない、望まない、潜在的に有害な決定を下すように導く、ソーシャルメディア・プラットフォームに実装されたインターフェースとユーザーエクスペリエンス」と定義している。 次に EDPB は、ダーク パターンの 6 つの定義されたカテゴリの分類を提供した。

①過負荷 – 大量のリクエスト、情報、オプション、またはより多くのデータを共有するよう促す可能性によってユーザーを圧倒すること。

②スキップ – ユーザーが意思決定のすべてまたは特定のデータ保護側面を忘れる (または考慮しない) ような方法でインターフェイスまたはユーザー エクスペリエンスを設計すること。

③撹拌 – ユーザーの感情に訴えたり、視覚的なナッジを使用したりすること。

④妨害 – ユーザーが自分のデータの使用について知らされること、または特定のアクションを達成するのが困難または不可能にすることによってデータを制御することを妨害またはブロックすること。

⑤気まぐれ – 一貫性がなく不明瞭な方法でインターフェイスを設計するため、ユーザー コントロールの操作や処理の目的の理解が困難になること。

➅闇に放置 – 情報やプライバシー制御を非表示にしたり、データがどのように処理され、データに対して実行できる制御についてユーザーに不確実性を与えたりする方法でインターフェイスを設計すること。

 上記で概説したダーク ・パターンの 6 つの包括的なカテゴリーの下で、EDPB は 15 の具体的なダーク パターンの行動を特定し、ソーシャル メディア ユーザー アカウントのライフサイクル中にそれぞれの行動がどのように現れるかを検討した。これは、EDPB が次の 5 つの段階の連続体である。

段階:(1)ソーシャルメディア・アカウントを開設する。 (2) ソーシャルメディアで最新情報を入手し続ける。 (3) ソーシャルメディア上で保護された状態を保つ。 (4) ソーシャルメディア上で個人データの権利を行使する。 (5) ソーシャルメディア・アカウントを離れる。

 EDPB は、ソーシャル メディア ユーザーのライフサイクルにおける 5 つのユース ケースを詳しく説明する前に、組織や個人がダーク パターンの使用を検討する (および回避しようとする) 際に念頭に置くべき、以下のいくつかの基本的な GDPR 原則を強調している。

(1)公平性と透明性 (GDPR 5 (1)(a)): EDPB は、GDPR の公平性原則が、データ主体の個人データが有害、差別的、誤解を招く、または予想外の方法で処理されることを防ぐ「包括的な機能を果たす」ことを強調している。 透明性に関しては、GDPR 第 12 条に従って、情報は「明確で平易な言葉を使用した、簡潔、透明、理解しやすく、簡単にアクセスできる形式」でデータ主体に提供されなければならない。これは、潜在的なダーク パターンを調査する際の重要な考慮事項である。

(2)説明責任 (GDPR 5 (2)): EDPB は、ソーシャル メディア プラットフォーム上のユーザー インターフェイス/ジャーニー自体が、ソーシャル メディア ユーザーに対して GDPR 要件への準拠を示す方法として使用できると述べている。 特に EDPB は、ソーシャル メディア プラットフォームの運営者に対し、GDPR の情報をどのように適切に満たしているかを示すために、インターフェイスのスクリーンショットを記録するだけでなく、定性的および定量的な調査 (A/B テスト、アイ トラッキング、ユーザー インタビューなど) を実施することを奨励している。

(3)設計およびデフォルトによるデータ保護 (GDPR 25 ): EDPB は、設計およびデフォルトで効果的なプライバシーを確保するには、ここで特定の要素を考慮する必要があると指摘している。特に、データ主体の自律性と合理的な期待を尊重し、データ主体のデータ主体のデータ保護を可能にすることである。 簡単な相互作用と権利行使、消費者の選択の促進と権力の不均衡の回避、データ主体を欺いたり、操作したり、誤解を与えたりしない客観的かつ中立的な方法での情報の提供である。

2.ソーシャルメディアユーザーのライフサイクルにおけるダーク・パターンを深く掘り下げる

 EDPB は、ソーシャル メディア・ ユーザーのアカウント・ ライフサイクルの 5 つの段階にわたるダーク パターンの詳細な分析を提供し、各セクションを次のように分けている。(a) 関連するコンテキストの説明。 (b) 関連する法規定の概要。 (c) 特定のダーク・ パターン (コンテンツ ・ベースかインターフェイス ベースかを問わず) をそれぞれ複数の例とともに調査する。 (d) ダーク パターンを回避するためのベスト プラクティスのリスト。

 以下に、ソーシャルメディアのライフサイクルのこれら 5 つの段階に関連した EDPB の注目すべき発言をいくつか挙げる。

(1)ソーシャルメディア・アカウントを開設するとき

同意: EDPB は、ソーシャル メディア プロバイダーは、サインアップ段階で要求された場合に同意が区別できるように特別な注意を払う必要があると述べている。 そうしないと、このオンボーディングのステップでユーザーがあまりにも多くの情報に圧倒され、すべてを読む気をなくしてしまうのにも関わらず、プライバシー ポリシーをすべて読んだことを確認する必要がある同意が必要な場合、[プライバシー ポリシーに] という名前が付けられるが、これは特別な条件への強制的な同意とみなされる可能性がある。 ソーシャルメディア・プラットフォームのユーザーは、サインアップ段階でプラットフォームがシングルクリックで同意を取得した場合、ワンクリックで同意を取り消すこともできなければならない。

データの最小化: EDPB はデータの最小化の原則にも焦点を当てており、ソーシャル メディア プラットフォームは追求される目的に客観的に必要な以上の個人情報を取得しようとするべきではないと明確に述べている。 ここで EDPB は、電子メール アドレスも同じ目的 (たとえば、特定のユーザーが電子メール アドレスを所有していることを証明するため) に使用できるにもかかわらず、アカウントの 2 要素セキュリティ認証のために電話番号を要求するプラットフォームの例を挙げている。例えば、 プラットフォームへのログインに使用されるデバイスの場合)。

ダーク・パターンの例: EDPB は、ライフ サイクルのこの段階でのさまざまなダーク パターンの使用に焦点を当てている。これには、「感情操作」の使用、つまり、次のいずれかの方法でユーザーに情報を伝えるための言葉やビジュアルの使用が含まれる。(a)非常に前向きな見通しで、ユーザーに良い気分や安全を感じさせる。 (b) 非常に否定的な見通しで、ユーザーに不安や罪悪感を感じさせる。また、デフォルトのオプションとしてより多くのデータを共有するようにユーザーを誘導する。

(2)ソーシャルメディアで最新情報を入手する

透明性(Transparency): EDPB は、GDPR には規範的な透明性要件があるものの (GDPR 第 12 条から第 14 条を参照)、「情報が多ければ多いほど良い情報になるとは限らず、無関係または混乱を招く情報が多すぎると、重要な内容がわかりにくくなったり、コンテンツの価値が低下したりする可能性がある」と強調している。

 したがって、EDPB は、包括的な情報と容易なアクセス性の間で適切なバランスをとる、多層的なプライバシー通知の使用を推奨している。 EDPB は、これを、矛盾する情報や論理的一貫性を欠く情報、曖昧な表現を提供する情報、特定の情報を見つけにくくすることでユーザーに過大な負担をかける情報などのダーク・パターンの使用と対比している。 ここでも EDPB は、フィードバックを取得し、関連情報を確実に理解できるようにするために、ユーザーに対して階層化されたプライバシー通知の使用をテストすることを推奨している。

共同管理者(Joint Controllership): EDPB は、共同管理者に共同管理者取り決めの本質をデータ主体に開示することを義務付ける。 GDPR 第 26 条の規定により、共同管理者に追加の透明性義務が課せられ、これには特定の状況ではソーシャル メディア プラットフォームが含まれる可能性があることに留意している。

データ侵害の伝達(Communication of Data Breaches:): EDPB は、データ侵害に関する不特定または無関係な情報をデータ主体に提供することに対して警告している。たとえば、処理者のデータ侵害が管理者のセキュリティ侵害ではないことを示すなどである。 侵害の重大性は、データ主体への影響ではなく、プラットフォームまたはそのプロセッサへの影響によって左右されることを示唆している。 また、どの特定の種類の特別なカテゴリーの個人データが侵害で流出したかを示すものではない。

(3)ソーシャルメディア上での保護を維持する

同意: ここでも EDPB は、ターゲットを絞った広告 (e-プライバシー指令に基づく Cookie およびトラッカーの使用に関する義務が適用される場合を含む) など、さまざまな処理目的でソーシャル メディア・ ユーザーが同意を付与または撤回するために提供される手段および同意の撤回を妨げるために使用できるダーク・パターン行動の種類に焦点を当てている。

②ユーザー・ コントロール: EDPB は、ユーザー・コントロールの表示におけるダーク・パターンについて懸念を提起している。特に、ユーザーが選択できるオプションやメニュー (またはサブメニュー) が多すぎる場合、それらは明確な機能を提供するのではなく、不明確または論理的に矛盾する可能性がある。 集中型とは、プライバシーの選択を管理することを意味する。 注目すべきは、EDPBが、「ソーシャル メディア ・プラットフォームのユーザーが設定を変更する際に必要な平均歩数に関しては、『すべてに適合する万能のアプローチ』はない。その数値は 必要な手順の数値は できるだけ少なくする必要がある」と述べていることである。

(4)ソーシャルメディア上での個人データの権利の行使

 ここで EDPB は、ユーザーを無関係なページにリダイレクトすることでユーザーを「行き止まり」に導く、不十分または曖昧な開示を提供する、個人データの権利を行使するためにユーザーを「プライバシーの迷路」に導く、ユーザーに情報を提供しないなどのダーク・パターンに関する懸念を提起している。 権利を行使するためのフレンドリーな方法 (例: データのコピーをダウンロードするための直接リンク)、および特定の手順を必要以上に長くすること (例: 特定のアクションを実行したいと「確信している」かどうかをユーザーに尋ねるなど)などをあげている。

(5)ソーシャルメディア・アカウントを離れるときの留意点

 EDPB は、正当な理由なく消去権の行使が困難になった場合、これは GDPR 違反となり、ソーシャル メディア アカウントの削除を求めるユーザーの要求は暗黙の同意の撤回として理解される必要があると述べている ( 信頼されている場合)、GDPR 第 7 条 (3) に基づいて処理される。

 またEDPBは、現段階でユーザーを「プライバシーの迷路」に誘導してアカウントを削除したり、ユーザーを感情的にアカウントを維持するよう誘導したり、あいまいな情報や混乱を招く選択肢を提供したり、削除プロセスが中断される「死」に導くダーク・パターンについても懸念を表明している。

結論

 これらのガイドラインは、ヨーロッパおよびその他の管轄区域全体における広範な傾向の一部であり、規制当局や裁判所は、消費者を欺いたり、操作したり、不当に影響を与えたりしていると解釈される可能性のある方法でウェブサイト、プラットフォーム、またはその他の消費者向けインターフェースを提供する組織の責任を追及している。 プライバシー保護の選択肢が少なくなる。 この点で、上で強調したように、これらのガイドライン (特に EDPB によって特定されたベスト プラクティス) は、欧州のプライバシー当局からの精査を受ける可能性のある慣行を避けたいソーシャル メディア分野以外の組織にとって有益となる可能性がある。 さらに、EDPB が指摘しているように、ダーク パターンは消費者保護法に違反する可能性もあり、これらの行為を行った当事者が二重の執行体制にさらされる可能性がある。

 

***************************************************************************

(注14)2023年4月24日 FTCが公表したNegative Option Ruleに関するFTCの「A Proposed Rule by the Federal Trade Commission」の改正案の要旨は以下のとおり。なお、詳細はFTC解説参照。

 連邦取引委員会は、「サブスクリプションおよびその他のネガティブ・オプション・プランに関する規則」(“ネガティブ・オプション規則”または“規則”)の改正を提案している。提案された変更は、消費者が望まない製品またはサービスの繰り返し料金を含み、過度の困難なしにキャンセルすることができない、不公正または欺罔的なビジネス慣行と戦うために計算される。

(注15) 公正取引委員会の仮訳は「過去のある報道では、アマゾンが解約手続を説明するために 「イリアス(Iliad)」 という言葉を使ったと指摘した上、この解約手続は、十年間にわたるトロイア戦争について書かれたホメロスの大叙事詩のようであると報じられている。」しかし、これでは読者はイリアス(Iliad)を正確に理解できまい。本文で述べたように「解約手続きが複雑な迷路である」というのが正しい訳語であろう。

(注5-2) 米連邦取引委員会は、オンラインアルコール市場のDrizlyと同社CEOのJames Cory Rellasに対し、同社のセキュリティ上の欠陥がデータ侵害につながり、約250万人の消費者の個人情報が流出したとの申し立てを巡り、訴訟を起こした。

*************************************************************

Copyright © 2006-2024 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

悪意あるインタフェース・デザイン・パターンの一種でエンドユーザーをだまし、本人の意図または期待とは異なる行動を取らせる「ダーク・パターン」の米国やEUの規制強化に向けた具体的活動内容を検証(その1)

2024-04-19 08:27:25 | 違法なマーケテイング規制

 読者は「ダーク・パターン」すなわち、悪意のあるインタフェース・デザイン・パターンの一種で、エンドユーザーをだまし、本人の意図または期待とは異なる行動を取らせ、インタフェースの提供者に利益を与えるものを十分理解されてあろうか。

  筆者は、最近のブログ(4)で簡単にこの問題を取り上げた。その趣旨は違法なマーケティング規制のあり方の実態およびわが国の法規制のあり方を論じたいと考えたからである。

 改めて考えると、この問題の重要性から見て問題を整理すべく、今回のブログは、(1)「ダーク・パターン」の実態と技術面からみた本質的な違法性問題、(2)米連邦取引委員会(FTC)のダーク・パターン・レポートの内容と法規制・執行機関の取組みの意義、(3)FTCのターゲットとするAmazonおよび出版社クリアリングハウスに対する告発におけるダーク・パターン問題、 (4) FTCAmazon.com Inc.に対する告訴状を修正し、3人のAmazon上級幹部を個々の被告として追加したダーク・パターンの幹部責任の裁判問題、(5)EUダーク・パターン」の取組みスタンスや欧州データ保護会議 (EDPB)の「ダーク・パターン」の使用に関するガイドライン草案等につき概観する。

  これら問題の背景には、サービスや商品を一定期間利用できる権利に対して料金を請求するビジネスモデルであるサブスクリプションの普及(例:電子書籍、音楽配信、動画配信、ゲーム、洋服、車等の普及と併せた違法なマーケテイングの急増)だけでなく、悪徳ダイレクトメールやテレビ広告、さらに実店舗の小売店のチラシ等あげれば、切りがない。

  翻って、これらの問題にわが国の規制監督機関や具体的規制の実態はどのようか。法執行機関として具体的に取り上げるとすれは「消費者庁」や「公正取引委員会」くらいであろうか。

 また、比較法レポートとしては内閣府経済社会総合研究所 加納克利「デジタル化と消費者政策(いわゆる「ダークパターン」)に関する研究のサーベイ」があるが、専門外の読者に極めて読みにくい。さらに言えば、筆者のP.20以下の③小括には「EU 及び米国においては、比較的汎用性のある規定に関し、その解釈・適用関係の詳細をガイダンスやガイドラインによって明らかにした上で活用しているように見受けられる。技術の進展等により対応しなければならない事案が日々変化することを踏まえると、一つの在り方として参考になる」とあるが、我が国の法規制強化にかかる研究レポートとしては、踏み込みが極めて弱い。

  今回は3回に分けて掲載する。

 Ⅰ.ダーク・パターンに関するわが国法律事務所の解説例

1.2023.10.12 西村あさひ法律事務所「ダーク・パターンに対する米英の規制動向及び日本の現況」の著者は角田 龍哉、上野 太資、小川 慶、原田 実侑の各氏である。

 わが国のダーク・パターンの法規制に関する数少ないレポ―トと言えよう。ただし、本レポートは米英の解説はあるがEUの取組みは言及していない。EUのEU欧州データ保護会議 (EDPB)の「ダーク・パターン」の使用に関するガイドライン草案などにつき筆者は独自に調査し、本ブログ第Ⅳ節で解説する。

2.2024年 2月 27日Internet Initiative Japan Inc.石村 卓也「欧米でのダークパターン規制の動向と日本企業に求められる対応」

 欧米を中心としたダーク・パターン規制の概要を解説した上で、各国のガイドライン等で示されている具体的なUI/UXのNGパターンを紹介し、消費者の信頼獲得のために日本企業に求められる対応について考察している。

FTC委員会が公開審議で承認したFTCスタッフ・レポート「消費者をだまして罠にかけることを目的とした巧妙に洗練されたダーク・パターンの増加」に関する解説および20229FTCスタッフ報告の概要

  以下のFTC解説文およびFTCスタッフ報告の概要について仮訳する。

1.米連邦取引委員会は2022年9月15日、消費者をだましてオンライン操作して製品やサービスを購入させたり、プライバシーを放棄させたりする「ダーク・パターン」として知られる巧妙につくられたデザイン慣行を企業がどのように利用しているかを示す報告書を発表した。

  この 報告書で詳述されているダーク・パターン戦術には、(1)広告を独立したコンテンツのように見せかけること、(2)消費者がサブスクリプション(注1)や料金をキャンセルすることを困難にすること、(3)重要な用語や追加料金を隠蔽すること、(4)消費者を騙してデータを共有させることなどが含まれる。この報告書は、市場でのダーク・パターンの使用と闘うためのFTCの取組みを強調し、消費者をだまして罠にはめることを目的とした企業の戦術に対して行動を起こすというFTCの取り組みを繰り返し述べた。

 FTCの消費者保護局局長サミュエル・レバイン(Samuel Levine, Director of the FTC’s Bureau of Consumer Protection)は,「我々のレポートは、ますます多くの企業がデジタル・ダークパターンを使用して人々をだまして製品を購入し、個人情報を提供していることを示しており、このレポートと私たちのケースは、これらの罠が許容されないという明確なメッセージを送信し続ける」と述べた。

 長年にわたり、悪徳ダイレクトメールや実店舗の小売店は、消費者に商品、お金やデータ等を諦めさせるために、(1)事前にチェック済のボックス、(2)見つけにくく読みにくい開示情報、(3)わかりにくいキャンセル・ポリシーなどのデザイン上のトリックや心理的戦術を使用してきた。 商取引のオンライン化が進むにつれ、ダーク・ パターンの規模と巧妙度が増し、企業は複雑な分析手法を開発し、より多くの個人データを収集し、ダーク・ パターンを実験して最も効果的なものを悪用できるようになってきた。 このFTCスタッフ報告書は、FTCが2021年4月に開催したワークショップの結果から派生したもので、ダーク・パターンが消費者の選択と意思決定をどのように曖昧にし、覆し、または損なう可能性があり、法律に違反する可能性があるかを調査した。

ダーク・パターンに光を与える(Bringing Dark Patterns to Light)」題するそのレポートは、 「eコマース(e-commerce)」(注2)、「Cookie同意バナー(cookie consent banners)(注3)、子供向けアプリ、サブスクリプションの販売など、さまざまな業界や状況で使用されているダーク・パターンを明らかにした。

 このレポートは、以下の4つの一般的なダーク・パターン戦術に焦点を当てている。

(1) 消費者に誤解を招く広告と偽装広告: これらの戦術には、独立した編集コンテンツのように見えるようにデザインされた広告が含まれる。 すなわち中立であると主張しているが、実際には報酬に基づいて企業をランク付けする比較ショッピング・ サイトがある。 また、カウントダウン・タイマー(countdown timers)は、申込に実際には期限がないにもかかわらず、消費者に製品やサービスを購入できる時間は限られていると思わせるように設計されている。 たとえば、FTCは在宅勤務制度の運営者に対し、CNNやFoxニュースなどの報道機関からのものであると偽る「差出人」の行を含む迷惑メールを消費者に送信した疑いで措置を講じた。 これらの電子メールの本文には、消費者をさらなる偽のオンライン・ ニュース記事に誘導し、最終的には同社の在宅勤務制度を宣伝する販売 Web サイトに消費者を誘導するリンクが含まれていた。

(2)サブスクリプションや料金のキャンセルを困難にする: もう 1 つのよくあるダーク・パターンには、誰かをだまして同意なしに商品やサービスの代金を支払わせるというものがある。 たとえば、欺瞞的なサブスクリプション販売者は、購入するつもりのなかった製品やサービス、または購入を継続したくない製品やサービスに対して、定期的な支払いを消費者に課す可能性がある。

  たとえば、FTCはオンライン児童教育サービス会社「ABCmouse.com」に対する訴訟では、オンライン学習サイトが「簡単なキャンセル」を約束していたにもかかわらず、無料トライアルやサブスクリプション・プランのキャンセルを非常に困難にしていると主張した。 サブスクリプションをキャンセルしたい消費者は、多くの場合、会社の Web サイト上で①見つけにくく、②長く、③わかりにくいキャンセル・ パスをたどり、④数ページにわたるプロモーションやリンクをクリックすることを強いられ、クリックすると消費者がかえってキャンセル・ パスから遠ざかってしまった。

(3)重要な契約条件と追加料金(junk fees)の隠蔽: 一部のダーク・パターンは、製品やサービスの主要な制限を、消費者が購入前に目にすることのない密なサービス条件文書の中に埋め込むなど、消費者から重要な情報を隠したりすることによって機能させる。この戦術には追加料金ジャンク料金を埋め込むことも含まれる。企業は消費者を惹きつけるために製品の総額の一部のみを宣伝し、購入プロセスの後半になるまで他の必須な料金には言及しない。

 LendingClubに対する訴訟で、FTCはオンライン金融業者が目立つ画像を使用してローン申込者に特定の融資金額を受け取り、「隠れた手数料なし(no hidden fees)」で支払うと虚偽の約束したが、手数料に関する言及をツールチップ・ボタン(tooltip buttons)(注4)の背後や目立つテキスト文書の間に隠したと主張した。

(4)消費者を騙してデータを共有させる: こうしたダーク・パターンは、消費者にプライバシー設定やデータ共有に関する選択肢を与えるものとして提示されることがよくあるが、最も個人情報を漏らすオプションにおいて消費者を意図的に誘導するように設計されている。

FTC は、スマート TV メーカー である“Vizio”がデフォルト設定を有効にし、同社が消費者の視聴活動を収集して第三者と共有できるようにし、一部の消費者には見逃されやすい短い通知のみを提供していたと主張した。

 このスタッフレポートで詳述されているように、FTCは市場で使用されている進化しつつあるタイプのダーク・パターンに歩調を合わせるために取り組んできた。FTCは企業に対し繰り返し発生するサブスクリプションをキャンセルし、不要な製品を知らないうちに消費者に忍び込む’オンライン・ショッピング・カート、および不正なマーケティング・デザインを試す等、ユーザーが画面の迷路を十分ナビゲートする必要がある等を理由に訴えた。

 FTCは、公開会議で5対0で投票し、このスタッフレポートのリリース公開を承認した。

Ⅲ.FTCはターゲットとする Amazon Prime ”およびパブリック・クリアリングハウスに対するアクションにおける違法なダーク・パターンを理由に告訴

 2023.8.14 付けローファームWilmer Cutler Pickering Hale and Dorr LLのレポート仮訳する。著者はFrank Gorman、Benjamin Chapin、Reade Jacob、Julia M. Mayの各氏である。

Frank Gorman氏

Benjamin Chapin 氏

Reade Jacob 氏

Julia M. May 氏

 近年の連邦取引委員会(FTC)は、いわゆるダーク・パターンに対してより積極的な法執行姿勢を採用する意図を明らかにしている。すなわち、FTCは違法なダーク・パターンを定義して、「ユーザーをだまして操作し、ユーザーが他の方法では行わなかった決定を行わせ、害を及ぼす可能性のあるオンラインサービスの設計慣行」を含めた。 以下述べる最近の2つの法執行措置において、既存の執行当局の下でのダーク・パターンの抑制にFTCが焦点を当てていることが確認され、規制当局による精査を引き出す可能性のあるデジタル設計手法の種類に関する有用な洞察が提供された。

(1)2023年6月21日、FTCは、Amazon Primeが操作的、強制的または欺罔的なユーザーインターフェイス(UI)設計を使用したと主張して、ワシントン西部地区連邦地方裁判所に訴状( 永久差止め、民事罰金、金銭的救済、衡平法上の救済)を提出した。つまり、ダーク・パターンは、消費者をだましてAmazon Prime のサブスクリプションサービスに登録させたとした。FTC委員長のリナ M.カーン(Lina M. Khan)(注5)(注6)、「 Amazonは人々を騙し、同意なしに定期購読に陥らせ、ユーザーをイライラさせただけでなく、多額の費用を費やした」と指摘した。

Lina M. Khan委員長

  具体的には、FTCの告訴状は、Amazonのダーク・パターンの使用は、(1)FTC法の第5条に違反する不公正な取引慣行であったと主張した。さらに (2) 「オンラインショッパー信頼回復法(Restore Online Shoppers’ Confidence Act :ROSCA)」(注7)違反、これは通常、消費者を保護するための開示、同意、キャンセルの特定の要件を満たさずに、ネガティブオプション・マーケティングを通じてインターネットでの商品またはサービスの販売を禁止する法律である。

 その1週間も経たない2023年6月27日、 FTCはさらなる法執行措置を発表し、「パブリッシャーズ・クリアリングハウス(Publishers Clearing House :PCH)」がダーク・パターンを使用して同社の有名な懸賞図面を入力上で消費者にどのように誤解を与えたかという申立てに関し、消費者に 1850万ドル(約28億3050万円)を支払うことを要求する同意命令(consent order)(注8)を提案した。

 具体的には、FTCは、PCHが消費者に勝利または勝利の可能性を高めるために購入が“必要であり、懸賞エントリーが不完全であると消費者に信じさせたと主張した。 FTCは、PCHがFTC法第5条および「2003年無承諾ポルノおよびマーケティング攻撃を規制する法律(Controlling the Assault of Non-Solicited Pornography and Marketing Act of 2003 :CAN-SPAM Act)」(注9)の詐欺禁止規定に違反したと主張した。

  本件については、本節の後半で詳しく解説する、

 これらの法執行活動は、FTCが不公平、欺罔的、またはその他の方法で違法であると見なしているダーク・パターンのタイプに重要な明確さを提供した。消費者に面した幅広い業界にわたる企業は、この機会に、独自のオンライン設計プラクティスと製品フローを、その他のFTCガイダンスや2つの法執行措置で問題となっている慣行のカテゴリーに照らして検討することを勧める。

 FTCの消費者保護局局長がPCH同意命令に付随する声明で述べたように、不正な設計手法を展開し続けている企業が通知されており、企業はFTCを真正面から受けとめるべきである。

 FTCは施行方針声明に続き、2022年9月にスタッフ報告書を発表し、欺瞞的なダーク・パターンとみなす特定の慣行を指摘した。 たとえば、スタッフレポートは、製品やサービスの主要な制限を、消費者が購入前に目にしないサービスの用語の中に埋め込むなど、消費者から重要な情報を曖昧にする慣行を非難した。 また、同レポートは、消費者が同社の Web サイト上で見つけにくく、長く、わかりにくいキャンセル・ パスを移動し、プロモーションやリンクの数ページをクリックして、クリックするなど消費者をキャンセル経路から遠ざけた。 FTCスタッフ報告書によると、こうした実務慣行は、電子商取引、Cookie同意バナー、子供向けアプリケーション、サブスクリプション販売など、幅広い業界や状況で発生していることが判明した。

 これら法執行と並行して、2023 年 4 月に FTC は、売り手がいわゆる「ネガティブ・ オプション・オファー(negative option offers)」(注10)を採用するための法的要件を大幅に拡大する「規則制定案告示 (Notice of Proposed Rulemaking NPRM) を公布した。ネガティブ ・オプション ・オファーとは、 売り手は、顧客の沈黙または行動の失敗をオファーの受諾と解釈する必要があるというもの。 通常、ネガティブ・ オプションの取り決めには、自動更新、継続プラン、無料から有料への変換、または有料から有料への金額変換、および事前通知プランが含まれるが、これらに限定されない。

 FTCは長い間、「オンラインショッパー信頼回復法(Restore Online Shoppers’ Confidence Act :ROSCA)」、「テレマーケティング販売規則(Telemarketing Sales Rule :TSR)「送り付け商法(ネガティブ・オプション)規制法 (39 U.S. Code § 3009 - Mailing of unordered merchandise)、電子資金移動法(Electronic Fund Transfers Act)などの法律の部分修正やFTC法の第5条に基づくその広範な権限に基づき、有害かつ否定的なオプションの慣行の廃止に取り組んできた。 FTCが推論した新しい提案されたルールは、“既存の法律と規制のパッチワークが業界と消費者にメディアとオファー全体で一貫した法的枠組みを提供しないため、絶対に必要であった。

 新たに提案された規則案は、既存のFTCが取り組んできたパッチワークの法的枠組みを拡張し、次のような特定の変更を行う。 (1)単純なキャンセル・メカニズム(サブスクリプションを開始するのと同じくらい簡単にキャンセルできる)、(2)キャンセル・プロセス中に追加のオファーを行う前の新しい要件, (3)自動更新のリマインダーと確認に関する新しい要件を追加する、(4) 規則の違反には、確定した場合、売り手は民事罰および損害賠償訴訟等を起こされることになる。

2 Amazonに対するFTCの法執行措置

 FTCはAmazonへの告訴で、同社が何百万もの消費者にさまざまなダーク・パターンを使用して無意識のうちにAmazon Primeサブスクリプション・サービスに登録させたと主張した。 また、サブスクライバーに迷路のようなキャンセル・プロセスを強制することにより、これらのサブスクリプションをキャンセルすることを困難にしていると主張した。Amazon Primeは、Amazonの有料サブスクリプションサービスである。 139ドル(約21000円)の年会費で、加入者は(1)製品の無料の迅速な配達、(2)無料動画のストリーミングコンテンツ、2)食料品の配達などの特典にアクセスできるとある。 FTCは現在、Amazon Primeの登録とキャンセルのプロセスが、FTC法の第5条とROSCAの双方に違反して、ダーク・パターンを活用したと主張している。

 まず、FTC は、Amazon が、モバイルデバイスを使用する消費者が「 ウェブページの下部までスクロールすることによってのみアクセスできる「細かい文字を精査せずに、目立つオプションを選択する可能性を高くした。こうした取引慣行を通じて、アマゾンは顧客が購入を完了する前にプライムの重要な条件について「明確かつ目立つ開示を提供できていない」と FTC は主張した。また、FTC 法および ROSCA に違反して請求情報を収集する前に、「一切開示しない」ことを規定していると主張した。

 具体的には、FTC は Amazon Prime に関連して使用されたと主張する 6 つの特定のダーク・パターンを特定した。

 FTC はさらに、Amazon がプライム加入者向けに迷路のような解約プロセスを意図的に作成したと告発しており、同社はこれをキャンセル手続の迷路「イリアス・ フロー(Iliad flow)」(注11)と呼んでいるとされている。FTC の訴状で主張されているように、プライムの解約フローでは、加入者は「4 ページ、6 ページの手順」をナビゲートする必要があった。  FTC によると、このキャンセル・フローは、消費者がメンバーシップをキャンセルしようとするのを遅らせたり阻止したりするダーク・ パターンに依存しており、その結果、顧客は同意なしに不当に追加料金を請求されることになる。これは FTC 法に違反し、ROSCA に違反して定期的な請求を終了するための簡単なメカニズムを消費者から剥奪するものである。

 具体的には、FTCは、Amazon Primeに関連して使用されたと主張する以下の6つの特定のダーク・パターンを特定した。

(1) 強制されたアクション(Forced Action): FTC は、「強制されたアクション」につき、特定の機能にアクセスするためにユーザーに特定のアクションまたはプロセスの実行を強制するあらゆる設計と定義する。 FTCは、Amazonがプライムの登録フローで消費者に購入を完了させる前にプライムに登録するかどうかの選択を強制するという強制措置を利用していると主張した。さらにFTCは、Amazonが消費者に定期購入をキャンセルするために複数の画面を通過させることにより、イリアス・フロー(Iliad flow)といえる強制的アクションを使用したと主張した。

(2) インターフェイス干渉(Interface Interference): FTC は、「インターフェイス干渉」を、ユーザー インターフェイスを操作して、他の情報と比較して特定の情報に特権を与えるあらゆる設計と定義した。 FTCは、AmazonがPrimeの登録フローにおいて、購入手続き中に一度だけ利用規約を表示し、その後は見落としやすい小さなフォントで利用規約を明らかにすることにより、インターフェース干渉を使用したと主張した。FTCによると、アマゾンはまた、消費者の注意を「送料無料」という言葉に誘導し、プライムの価格から遠ざけるために、文言の繰り返しや色彩を使用しており、それが一部の消費者がインフォームド・コンセントを提供せずに登録することにつながったとFTCは考えた。

(3) 解約手続のゴキブリホイホイ的妨害 (ローチ モーテル(Roach Motel): FTC は、「妨害」を、ユーザーが特定の行動をとるのを妨げる手順を追加することで、意図的にプロセスを複雑にするあらゆるデザイン(注12)と定義した。 妨害行為は、その名を冠したモーテルにゴキブリが侵入するように、「(消費者は)チェックインするのにチェックアウトしない」ことから、「ゴキブリのモーテル」としても知られている。 FTCは、Amazonが登録を拒否するオプションを見つけにくくし、Iliadフローで消費者がプライム会員をキャンセルできる機能を見つけにくくすることで、ローチ・モーテリングを導入したと主張している。

(4) 故意に誤つた指示を行わせる(Misdirection): FTC は、“Misdirection”を、別のことからユーザーの注意をそらすために、あるものにユーザーの注意を引き付けるデザインと定義している。 FTCは、AmazonがPrimeチェックアウトの登録フローに“Misdirection”を使用し、非対称の選択肢を提示することで、Primeへの登録をしやすくするものだと主張した。さらに、FTC によると、Amazon のチェックアウト登録フローの特定のバージョンでは、消費者にプライムを拒否するためのあまり目立たない青色のリンクしか提供していない。

 さらにFTCは、Iliadフローが“Misdirection”を利用して、プライムをキャンセルする試みを完了するよりも簡単にキャンセルできるようにしていると主張している。 FTCによると、「Amazonは、アニメーション、対照的な色の青、テキストなどの誘引要素を使用して、消費者の注意を『キャンセルを続ける』ではなく『後で通知する』や『特典を維持する』オプションに引いている。

(5) 関連情報を隠したり、その開示を遅らせたりする「こそこそ“Sneaking”行為」: FTC は、“Sneaking”を、関連情報を隠したり、その開示を遅らせたりするあらゆるデザインと定義する。 FTCの訴状によると、「Amazonは、価格や自動更新属性を含むプライムの登録チェックアウトフロー中に、プライムの利用規約を明確かつ目立つように開示しない」こと、および消費者のカートに「プライムの価格や自動更新機能を表示しないことによって、“Sneaking”を利用している」としている。

(6)コンファーム・シェイミイング(羞恥心や罪悪感の植え付け)(Confirmshaming)(注13):最後に、FTC は「コンファーム・シェイミイング」を、消費者に好意的な選択肢を選ばせるよう、好意的でない選択肢を中心に感情的な文言を使用するデザインと定義しているが、このカテゴリーのダーク・パターンに関連する申立てでは完全に編集されている。

 FTC は以前、法執行措置はダーク・パターンの取締まりであると説明していたが、Amazon の告発は、FTC が欺瞞的なダーク・パターンとみなす特定の慣行についてこれほど詳細なレベルを提示したのは初めてである。

. PCH に対する FTC の法的強制措置

 Amazonの発表からわずか数日後に出された「パブリッシャーズ・クリアリングハウス(PCH)に対するFTCの法執行措置は、PCHがダーク・パターンを利用して消費者を騙し、懸賞に参加したり当選の可能性を高めるために製品を購入する必要があると信じ込ませたと主張している。 告訴状によると、欺瞞は PCH のホームページから始まり、そこで消費者は実際に懸賞に参加できないボタンであるWIN IT!」または「一生勝ちます!」をクリックしてフォームに記入するが、その代わりに、消費者はエントリーを提出する機会が与えられる前に、数ページの広告を読み進めなければならない。また、顧客が懸賞に応募した後、PCH はあたかも追加の措置を講じなければ失格の危険があるかのように装う電子メールを送信する。これらの電子メールは消費者を PCH の電子商取引サイトに送るだけであり、消費者はそこで懸賞の応募に影響を及ぼさない追加の広告に遭遇する。懸賞の応募後に送信される誤解を招く電子メールは CAN-SPAM Act違反である。

 FTC の訴状では、PCH が展開する 3 つの具体的なダーク・パターンを挙げている。

(1)トリックな言葉遣いや視覚的干渉を使用して、商品の「注文」と懸賞への「応募」を結び付けて消費者を混同させる。

(2) 開示内容を小さくて軽いフォントで、あえて消費者が目にしにくい場所に配置する。消費者に電子メールを大量に送信し、電子メールをクリックしてすぐに行動を起こすよう心理的圧力をかけたり、懸賞に参加したり当選したりする機会を失う危険を冒すこと等を誘う。

(3)消費者は注文なしで懸賞に参加することが困難になる。

 FTのカーン委員長とスローター(Rebecca Kelly Slaughter)委員およびベドヤ(Alvaro Bedoya)委員は、この裁判行動に伴う声明の中で、PCHの行動を「デジタル詐欺を煽り、消費者に損害を与えるために違法なダーク・パターンを使用する企業を取り締まるこれまでの取組みを基礎とするものである」と述べた。 これら委員は、ダーク・パターンの結果として消費者が苦しむのは直接的な経済的損失だけではないと説明した。 むしろ、PCHの訴訟は、消費者の無駄な時間に対する補償を獲得するというFTCの勝利を意味すると彼らは説明した。

Rebecca Kelly Slaughter 氏

Alvaro Bedoya 氏

 提案された裁判所命令は、PCH に対し、ウェブサイト上での顧客の混乱を防ぐための措置を講じることを要求している。たとえば、顧客に注文につながるボタンが表示された場合、PCH は次の文を表示する必要がある。「懸賞に参加するために何も購入する必要はなく、購入したからといって当選するわけではない」ことを理解させる。また、消費者を PCH の電子商取引プラットフォームに誘導する可能性のある電子メールでは、企業は次のように述べなければならない。「 購入しても当選確率は向上しない」

 

***************************************************************:::

(注1) サービスや商品を一定期間利用できる権利に対して料金を請求するビジネスモデルのこと。例:電子書籍、音楽配信、動画配信、ゲーム、洋服、車等

 サブスクリプションとは、商品やサービスを購入することなく、一定の期間、サービスや商品を利用できるビジネスモデルである。一般的に料金を支払っている間は、自由に商品やサービスを利用できるが、契約が終了するとそれらは利用できなくなる。

 ソフトウェアをサブスクリプション形態で提供するサービスも増えている。月単位、あるいは年単位で契約して料金を支払うと、その期間は対象のソフトウェアを利用できるという内容である。永続的にソフトウェアを利用できるライセンスを購入する従来の形式に比べ、安価にソフトウェアを使い始められ、短期間だけ利用する場合であればライセンスを購入するよりも安価であること、さらに企業で利用する場合にはライセンスを資産として計上する必要がないがメリットとなる。

 多くの企業が参入するサブスクリプションであるが、メリットばかりではなく、以下のデメリットもある。

①複数登録するとコストがかさみやすい

②利用しなくても毎月支払いが発生する

③解約すると手元にものが残らない

(注2) e-commerceとは、WEBサイト上で物品を販売するオンラインショップや、ソフトウェアなどデジタルコンテンツのオンライン販売、金融商品の売買取引をWEB上で行うオンライントレード、ネットオークションなども、eコマースの一つの形態である。

(注3) Cookieは、一般に、GDPRにおいては、「オンライン識別子」(GDPR 4条1項)として「個人データ」に該当するとされる。したがって、EU域外適用を含め、GDPRが適用される場合には、Cookieの取得には、原則として明示の同意が要求される。日本における規制について述べたところと同様、GDPRは個人情報保護法制の観点からの規制であり、電気通信にかかる法制の観点からは別の規制が適用されることとなる。それが、EUのe-privacy指令4/3(54)である(通称として「Cookie指令」と呼ばれることもある)。

 なお、e-privacy指令は2002年に制定されたものであり、2009年改正および2018年5月のGDPRの全面施行を経て、なお現在も有効なものである。(Business & Law LLPの解説から一部抜粋) 

(注4) ツールチップは、ユーザーがグラフィカル ユーザー インターフェイス (GUI) 内の要素を操作するときに表示される短い情報メッセージをいう。(解説仮訳、なお、その使用につきガイドラインがある。)

 Tooltipコンポーネントは、UI上のスペースが限られている場合に、以下のような補足テキストを一時的に表示するために使う。

・補足的な説明テキストを表示する場合

・アイコンだけのボタンにラベルを表示する場合

・省略されたテキストを全文表示する場合

 Tooltip内の情報は隠れるため、操作に必要な情報の表示への使用は避けるべきである。ユーザーが把握しておかないと操作が進められないような重要な情報は、常に明確に表示することを検討すべきである。

 また、重要な情報とは、フォームの入力に必要な情報などが該当する。具体例は次の通り。

・パスワードに使用できる文字や、エラーになる入力値などの入力要件

・入力エラーとなった際のエラーメッセージ

・操作補助になる情報(ショートカットなど)

(注5) リナ・M・カーン委員長(1989年3月3日生まれ、35歳)は英国生まれの米国法学者で、2021年から連邦取引委員会(FTC)の委員長を務めている。同時に彼女はコロンビア・ロー・スクールの法学准教授(常勤)でもある。

イェール大学ロー・スクール在学中に、法曹、実務界に大いなる影響力を与えた学生論文「Amazon独占禁止のパラドックス(Amazon's Antitrust Paradox)(注6)を発表した後、米国における独占禁止法と競争法の研究で知られるようになった。

 バイデン大統領は2021年3月にカーン氏をFTC委員に指名し、彼女の承認を受けて2021年6月に同委員長に就任させた。FTCは彼女の任期中、非競争協定の禁止を推進し、反競争的行為に従事するヘルスケア企業等に対して訴訟を起こし、非競争慣行を批判し、Amazonに対して注目を集める訴訟を起こした。 2022 年、FTC と連邦司法省の独占禁止部門は、独占禁止を理由に記録的な数の合併を阻止した。(Wikipedia から抜粋、仮訳)

(注6) カーン委員長の有名な論文「Amazon's Antitrust Paradox」(Yale Law Journal)は無料でダウンロード可。

(注7) 米国では2010 年 12 月、オンラインに関連するデータパスマーケティングを禁止するオンラインショッパー信頼回復法(Restore Online Shoppers’ Confidence Act:「ROSCA」)が施行された。ROSCAは第三者である売手に対し、当初の販売事業者と関係がないことを含め、明確な事前宣伝販売情報の開示を消費者に提供することを義務付けている。さらにROSCAは、この種の売手が、消費者から、請求金額全額、消費者の連絡先及び消費者による「追加的確認行為」を含む明白な同意を消費者から直接得ることを求めている。

(注7-2) わが国では、Restore Online Shoppers' Confidence Actを「復元オンライン購入者信頼法」と100%訳している。

しかし、これは明らかに誤訳である。以下、同法の内容を仮訳、引用する。

(1)この法律は、取引後の第三者販売者(消費者が最初の販売者と取引を開始した後、最初の販売者を通じて商品やサービスをオンラインで販売する販売者)が、すべての資料を明確に開示していない限り、インターネット取引で金融口座に請求することを禁止している。 取引条件を遵守し、料金に対する消費者の明示的な同意を得たものとします。 販売者は、請求される口座の番号を消費者から直接取得する必要がある。(FTCの解説の訳)

(2)「オンラインショッパー信頼回復法」では、企業はネガティブオプション・マーケティング(オプトアウト・サブスクリプション・サービス)を使用して、以下の条件を満たさない限り、製品またはサービスをWeb経由でアメリカの消費者に販売することはできない。

【3つの法的要件】

①合理的な顧客が購入しているものを正確に理解する公正な機会を持つことができるように、購入の完全な条件は販売時に明確にされなければならない。

②販売者は、進行中のオプトアウト・サブスクリプション・プログラムに参加したいことを示す消費者からの明示的な同意を得る必要がある。もう一度、請求情報が取得される前に、販売者の特定の条件を明確にする必要がある。

③販売者は、いつでもサブスクリプションサービスをオプトアウトするための明確で明白なメカニズムを消費者に提供する必要がある。さらに、このオプトアウトは、不適切な面倒や過度の遅延なしに許可する必要がある。

 販売者が上記の3つのことのいずれかを実行しなかった場合, そもそも、サブスクリプションサービスを販売していたという事実を隠していたか、販売者が製品やサービスをキャンセルすることをほぼ不可能にしたため, その後、そのビジネスは連邦消費者保護法に違反している。あなたが偽のインターネット広告のためにかなりの金額を失った消費者であるなら、あなたは行動を起こす必要がある。(Pike&Lustig、LLPの解説4/3(80)から引用、仮訳)

(注8) 連邦取引委員会(FTC)の同意命令(consent order):公正取引委員会資料「世界の競争法:米国」から一部抜粋した。

(2) FTCの事件処理手続

 ア 審査手続

 FTCは、特定事件について審査を開始するときには、職員の中から審査官を指定し、これに審査を行わせる。審査官は、連邦取引委員会法第9条に基づく罰則付き命令(Subpoena)による書証提出命令、出頭命令等及び同法第20条に基づく民事審査請求(Civil Investigation Demand :CID)による文書提出命令、口頭供述命令等を行うことができる。

イ 同意命令

 FTCは、違反事件の審査の結果、法的措置を採ることが相当であると判断したときは、まず、関係人にFTCの申立てを記載した文書(Complaint)及び排除措置命令案(Orders to Cease and Desist)を送付し、これらの内容につき交渉し、合意に達した場合には、合意内容を踏まえた同意命令案を作成し、委員会の議決を経て、通常30日間のパブリック・コメントを行う。その後、再度委員会の議決を経て、同意命令(Consent Order)を発出する。

 また、下記ウの審判開始決定後であっても、同意命令の手続を行うことができる。審判開始決定後、被審人との間で同意された同意命令案が審判官を通じてFTCに付託される。この場合も、同案を官報に掲載し、一般からの意見を求めることとなる。FTCは、当該意見等を考慮して、再審査を行い、同意命令を発出する。

 同意命令は、審判手続を経た命令ではない。したがって、同一の事案について後に損害賠償請求訴訟が提起されても、同意命令による事実や違法性についての推定といった効果は発生しない。

【補足説明】

・いわゆる裁判上の和解。効率的な紛争解決手段として多用されている。

・ 同意判決・同意命令に対しては上訴できない。

・ その後の民事の損害賠償請求訴訟において証拠価値をもたない。

・ 第三者意見聴取あり。

(注9) 2003年のCAN-SPAM法(Controlling the Assault of Non-Solicited Pornography and Marketing Act of 2003)は、PCによる商業メールを送信する者の要件を定め、スパマーやスパムで製品を宣伝している企業が法律に違反した場合の罰則を明記し、消費者にスパムメールの停止を求める権利を与えた。

2004年1月1日から施行されたこの法律は、ウェブサイト上のコンテンツを含め、商業的な製品やサービスの広告や宣伝を主な目的とするPC向け電子メールを対象としている。 取引や関係のあるメッセージ. 合意された取引を促進する、または既存のビジネス関係における顧客を更新する電子メールは、虚偽または誤解を招くような経路情報を含まないが、それ以外はCAN-SPAM法のほとんどの条項から免除される。

CAN-SPAM法の施行は、米国の消費者保護機関である連邦取引委員会(FTC)が権限を有する。 CAN-SPAMはまた、司法省(DOJ)にその刑事制裁を執行する権限を与えている。 また、他の連邦政府機関や州政府機関は、その管轄下にある組織に対して同法を執行することができ、インターネットアクセスを提供する企業も同様に違反者を訴えることができる。

 一方、連邦通信委員会(FCC)は,携帯電話やポケットベルにユーザーの承諾がない商用電子メール(スパム・メール)の送信を禁じる規制法案4/3(108)を可決したことを, 8月4日に発表した。米国議会は2003年、スパム対策法「Controlling the Assault of Non-Solicited Pornography and Marketing(CAN-SPAM)」を可決した際に,携帯電話に送られるスパム・メールを規制する権限をFCCに与えていた。今回の法規制は,その流れを受けてのもの。

FCCの法規制によれば,携帯電話ユーザーがあらかじめ承諾しない限り(オプトイン),いかなる無線サービス加入者のアドレスにも商用電子メールを送信してはならない。ユーザーがオプトアウト(受信拒否手続き)するまで送信が認められているコンピュータの電子メール・アドレス宛て商用メールと比べ,より厳しい条件となっている。

以下で、CAN-SPAM同法の概要を引用する。

1.迷惑メール規制法:

 ・「CAN-SPAM法」(2003年)により、PC向けメールを規制

・「CAN-SPAM法」に基づき、連邦通信委員会(FCC)規則により、2004年より携帯電話向けメールを規制(Rules and Regulations Implementing the Controlling the Assault of Non-Solicited Pornography and Marketing Act of 2003

Rules and Regulations Implementing the Telephone Consumer Protection Act of 1991)

2.迷惑メールの範囲 :商業電子メール

3.送信者等に対する規制

【PC向けメール】

・オプトアウト規制

・表示義務

・許可なくアクセスしたPCからの送信禁止

・偽ヘッダー情報による送信禁止

・欺瞞的表題を付した送信禁止 等

【携帯電話向けメール】

・オプトイン規制

・表示義務

・オプトアウトを受けた時は、10日以内に送信終了する義務 等

4.制裁措置 ・行政処分(停止命令)

・拘禁刑最高5年又は罰金(違反行為により被告が得た利益若しくは他者が被った損害の2倍の額、又は25万ドル(個人)、50万ドル(法人)のうち、いずれか高額な方が上限)等

5.執行状況 :FTCが扱ったスパム関連事案の80%はオプトアウト義務違反

6.国際連携施策:(日本等との連携等)

「US SAFE WEB ACT」の制定(2006年)

(注10) 「ネガティブ・オプション」とは、注文していない商品を、勝手に送り付け、その人が断らなければ買ったものとみなして、代金を一方的に請求する商法をいう。

特定商取引法が改正され、令和3年7月6日以降売買契約に基づかないで、一方的に送り付けられた商品は直ちに処分することができることとなった。

例示:①売買契約に基づかないで送付された商品を受け取ったときは商品を直ちに処分することができる。

②事業者から金銭を請求されたときは金銭を支払う必要はない。

③商品を開封や処分しても、金銭の支払いは不要であり、事業者から金銭の支払を請求されても応じないようにしましょう。

④商品の代金を誤って支払ってしまったときは代金について返還を請求することができる。(警視庁サイトから抜粋)

(注11) “Iliad Flow”とは、オンラインの迷路のようなキャンセル・フローをいう。

具体的手順については解説例参照。

(注12) ローチ・モーテル((Roach Motel)とは、簡単に登録できるが、キャンセルや退会方法が複雑で難しいものをいう。数回のステップで簡単に登録できるが、いざ退会・解約する際にはその何倍もの労力が必要。故意に解約方法をわかりにくくしたり、電話だけで解約を受け付ける企業が多く存在する。

(注13) ユーザーがオファーを断ろうとすると、羞恥心や罪悪感を与えて、あたかも断ることに罪があるように思わせること。海外サイトで多く見られるダーク・パターンの一種。感情的なコピーを用いて「この選択肢を選ばないのは愚かである」と、暗にプレッシャーをかける。

 海外サイトで多く見られるダーク・パターンの一種。感情的なコピーを用いて「この選択肢を選ばないのは愚かである」と、暗にプレッシャーをかける。

(注14)2023年4月24日 FTCが公表したNegative Option Ruleに関するFTCの「A Proposed Rule by the Federal Trade Commission」の改正案の要旨は以下のとおり。なお、詳細はFTC解説参照。

 連邦取引委員会は、「サブスクリプションおよびその他のネガティブ・オプション・プランに関する規則」(“ネガティブ・オプション規則”または“規則”)の改正を提案している。提案された変更は、消費者が望まない製品またはサービスの繰り返し料金を含み、過度の困難なしにキャンセルすることができない、不公正または欺罔的なビジネス慣行と戦うために計算される。

*************************************************************************

Copyright © 2006-2024 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

メジャーリーグベースボール(MLB)プレーヤー大谷翔平氏の通訳水原一平が「銀行詐欺」で告訴、起訴状などに基づき法的に見た事実関係の正確な再現を試みる

2024-04-13 15:30:26 | 金融犯罪と阻止策

 我が国のメデイアも詳しく報じているとおり、2018年以来、起訴状が明らかとしているように、被告である元通訳 水原一平はMLBスタープレーヤ 大谷翔平氏を信頼を極めて裏切ることを意図しており、スポーツ賭けでなくとも通訳の特性を悪用しようと考えて聞いたことは間違いない。

 一部メデイアは、被告が司法取引(注1)により刑の減軽を交渉するとあるが、はたしてこのような事実を踏まえるとそう簡単なものではないと考えるのが筆者の見解である。

  今回のブログは、4月11日の連邦検事局のリリース文や起訴状を詳細に読むうえでのポイント解説を試みる。

 なお、後述するとおり、今回の捜査の中心となったのは内国歳入庁(IRS)と国土安全保障調査局(Homeland Security Investigations:HSI)であり、特に従来わが国ではなじみがない後者につき詳しく解説を加えた。

■カリフォルニア州中央部連邦検事局リリース「Japanese-Language Translator Charged in Complaint with Illegally Transferring More Than $16 Million from Baseball Player’s Account」の仮訳

 4月11日、日本語の通訳者 水原被告がカリフォルニア州中央区連邦地方裁判所への連邦刑事告訴により起訴された。起訴状によると、大谷翔平氏の銀行口座から本人が知らないまま、または本人の許可なしに違法なスポーツ賭博の賭け業者(bookmaking)で発生した彼自身の相当なギャンブルの借金を返済するために総額1600万ドル(約21億1200万円)を超える金額を不正.に電信送金(wire transfer)等した 。

 アメリカ合衆国のカリフォルニア州のオレンジ郡ニューポートビーチ(注2)住の39歳の被告たる水原一平は、連邦刑務所で法定刑たる最高30年の拘禁刑を宣告される重罪である銀行詐欺(bank fraud)(注3)で起訴された。

 被告 水原一平は、ロサンゼルスにある米国連邦地方裁判所に初めて出廷する予定である。

 訴状とともに提出された宣誓供述書(affidavit)によると、2021年11月から2024年1月まで, 水原被告は、当座預金口座からの本人たる大谷氏の無許可の電信送金(wire transfer)で 1600万ドル以上も送金し、宣誓供述書で“ Victim A、”として識別されたMLBスタープレーヤー実際にはMLBスターの大谷翔平氏である。この銀行口座からの送金は、大谷氏の通訳および事実上のマネージャーを務めた水原被告に関連するデバイスとIPアドレスから行われたとされている。

 2018年、水原被告は英語をほとんど話せない大谷氏をアリゾナ州の銀行支店に連れて行き、大谷氏が口座を開設するのを支援し、口座の詳細を設定するときにも大谷氏の通訳を担った。宣誓供述書によると、大谷氏のプロ野球球団の給与はこの口座に入金されることになっていたが、水原被告はこれまたは他の財務口座の制御権を第三者に決して与えなかった。かつ水原容疑者は、大谷氏本人が銀行のアカウントへのアクセスすることを拒否し、さらに大谷担当の米国を拠点とする金融専門家は、いずれも日本語を話せなかった。

 2021年9月、水原被告は違法なスポーツ賭博の本でギャンブルを始め、数か月後、かなりの金額を失い始めた。この間、大谷氏の銀行口座の連絡先情報は、アカウントを水原容疑者の電話番号と水原に接続された匿名の電子メールアドレスにリンクするように変更されたとされている。

 また被告水原は、銀行に電話をかけ、銀行の従業員を騙して大谷氏の銀行口座から違法なギャンブル業務の従業員への電信送金を承認するように騙して偽の本人識別を行わせた。

 さらに水原被告は2024年1月から2024年3月まで,この同じアカウントを使用して、“eBay” (注4)“Whatnot”(注5)を介して約1,000の野球カードを約 325,000 ドル(約4290万円)のコストで購入し、偽名Jay Minを使って水原被告に郵送するとともに大谷氏の現在のMLBチームのクラブハウスに郵送したとされている。

 先週の法執行機関へのインタビューで、大谷氏は水原被告の電信送金の承認の事実を拒否した。また、大谷氏は彼の携帯電話を法執行機関に提供した。これにより法執行機関は、大谷氏が水原被告の違法なギャンブル活動またはそれらの借金の支払いを認識したり、関与していることを示唆する証拠はないと判断した。

 今回の刑事告訴はあくまで検察側の主張であり、被告は、法廷で合理的な疑いを超えて有罪が証明されない限り、無実であると推定される。

 本件は、連邦内国歳入庁・犯罪捜査局(注6)と国土安全保障調査局(Homeland Security Investigations:HSI)(注7)がこの問題を調査している。

****************************************************************

(注1) 米国の司法取引については、宇川 春彦(前京都地検検事正)「米国における司法取引」が詳しい。

(注2) Newport Beachの市内の4分の1の世帯の平均年収は3000万円といわれ、全米有数の水準にある。

(注3) U.S. Code Title 18 U.S.C. 1344.「銀行詐欺(Bank fraud)」条文を仮訳するとともに、具体的な詐欺手口を例示する。

【条文】

故意に計画や策略を実行する、または実行しようとするいかなる者は—

(1) 金融機関を騙すこと。 または

(2) 金融機関が所有する、または金融機関の管理または管理下にある金銭、資金、債権、資産、有価証券、またはその他の財産を、虚偽または詐欺的な見せかけ、表明、または約束によって取得すること。

を行った場合、最高100 万ドル(約1億5300万円)以下の罰金または最高 30 年以下の拘禁刑、またはその両方が科せられる。

【手口例】Law Offices of Seth Kretzerの解説を仮訳.

粉飾会計詐欺(Accounting fraud))

 粉飾会計詐欺は主に企業向け融資に影響を与える。 粉飾会計詐欺を行う企業は「帳簿を捏造」するため、紙の上では実際よりも儲かっているように見せる。 これらの不正な声明に基づいて、銀行はこれらの企業に融資を許可する。 それでも最終的には、企業は主張していたよりも収益が低いため、あるいは場合によっては破産することもあり、融資を返済することができないし、中には破産を宣告して銀行を窮地に追い込む者もいる。

ローン詐欺

 会計不正と似たものに融資詐欺がある。 この詐欺は企業と個人の両方によって行われる可能性があり、どちらも返済不可能な金額を受け取るために信用申請書に嘘をつく可能性がある。別のタイプのローン詐欺には、誰かの身元を盗んでローンを組み、その金融情報が詐欺師の情報であるかのように手続きを進めることが含まれる。

電信送金詐欺

 電信送金詐欺には、電信送金またはインターネットに関連するすべての詐欺事件が含まれる。 場合によっては、詐欺師が銀行顧客のユーザー名とパスワードを盗み、自分自身に送金することがある。より一般的な手口では、詐欺師が被害者を説得して、困っている人であると主張し、個人的またはビジネス上の必要のためにお金を要求する場合がある。

 極端な例では、他国出身だと主張する人物が米国内の誰かを説得して自分と恋に落ち、その人物が待ちに待った対面としてアメリカに遊びに来るのに十分なお金を貯められるよう、暗号通貨の支払いという形で金銭を要求し続けた。 残念なことに、その愛は報われないままで、米国の被害者には詐欺師を追跡して返済を要求する手段が残されていなかった。

フィッシング詐欺

 フィッシングとは、詐欺師が電子メール、電話、テキストメッセージ、またはその他の方法を使用して、被害者の銀行口座の詳細を入手することである。たとえば、直接尋ねたり、間接的に情報を収集することを目的とした継続的な通信を通じて被害者に「通話状態」を維持したりすることによって行われる。 個人情報を提供した場合に何らかの利益や利益を約束するコミュニケーションには常に注意されたい。

現金自動預け払い機(ATM) 詐欺

 ATM詐欺には、ATM機械そのものの再プログラミング作動を始め、カード自体のの詳細を盗むためのスキマーの設置まで、あらゆるものが含まれる。これは、特に交通量の多い場所のATMで頻繁に発生する。

(注4) “eBay Inc.”は、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼに本社を置くアメリカ合衆国のグローバル電子商取引(EC)企業で、世界中で1.6億人、Sellerは2,500万人(個人・法人含む)とインターネットオークションでは世界最多の利用者を持つ。事業内容は自社ウェブサイト上で消費者間取引](C2C)および企業間取引(B2B)など個々間での取引を可能にするグローバルマーケットプレイスの運営である。(Wikipedia から抜粋)

(注5)“Whatnot” は、ライブストリーム・ ショッピング ・・・プラットフォームおよびマーケットプレイスで、人々が売買したり、コレクターや他の志を同じくする人々とライブをしたりすることができる。 Whatnot は、スポーツ カード、ポケモン カード、NFT、スニーカーなど、コレクターや愛好家向けの製品カテゴリーに焦点を当てている。(Wikipedia から抜粋)

(注6)内国歳入庁のうち脱税、金融に関する犯罪を主に取り締まる組織がCriminal Investigation(犯罪捜査局)であり、IRS-CIと呼ばれる。CIの本部はワシントンDCにあり、全米にある6つのリージョナルオフィス及びリージョナルオフィス内にある35のフィールドオフィスの管轄内の脱税、金融関係の犯罪、マネーロンダリングにかかわる犯罪捜査の指針を決定し、また大規模な場合には指揮を取ることもある。(Wikipedia から抜粋)

(注7) HSIは国土安全保障省の主要な捜査部門で、国境を越えた犯罪と脅威、特に国際取引、旅行、金融が移動するグローバル・インフラストラクチャを利用する犯罪組織の調査を担当する。HSIの使命は、米国の税関および移民法を脅かしたり、悪用したりしようとするテロリスト、多国籍およびその他の犯罪組織を調査、混乱させ、解体させることである。

 HSI の特別捜査官は、米国内および海外の戦略的パートナーと協力して、多国籍犯罪組織 (Transnational Criminal Organizations (TCOs))、テロネットワークとその助長者、および米国を脅かすその他の犯罪分子に対する刑事事件を特定し、立件するための証拠を収集する。 HSI は検察と協力して、違反者の起訴と逮捕、刑事捜査令状の執行、犯罪に由来する金銭や資産の押収など、世界中で活動する犯罪組織の混乱と解体を目的としたその他の措置を講じる。 これらの取り組みは、米国の国家、国境、経済の安全を守り、国民とコミュニティの安全を確保する。

【組織の概要】

 HSI の従業員は 8,700 名を超える従業員で構成されており、その中には特別捜査官、犯罪分析官、任務支援要員、米国および世界中のオフィスに配属されている契約職員も含まれる。

 HSI の 6,000 人の特別捜査官のほとんどは、全米国内にある HSI の 237 か所の特別捜査官 (Special Agent in Charge (SAC)) オフィスまたは支署のいずれかに配属されている。 HSI の国内拠点は、国境を越えた犯罪組織との戦いにおける主要な戦略的パートナーである連邦、州、地方自治体を代表する 2,800 名を超える特別部隊職員によって補完されている。

 また、HSI の国際部隊は、DHS の海外における最大の捜査拠点であり、世界中の米国大使館、領事館、および国防総省 (DOD) 戦闘部隊に割り当てられた特別捜査官が中心となっている。 HSI は、米国の法執行機関において最大規模の国際的な足跡を持っている。

**********************************************************

Copyright © 2006-2024 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フランスの競争委員会の超巨大IT企業Googleへの著作隣接権を中心とする法的チャレンジの経緯

2024-03-24 11:25:17 | 海外の独占禁止法

 筆者はフランス競争委員会(以下、「委員会」という)のGoogleの市場支配的活動やフランスのAFP等報道機関等から出されていた著作隣接権(droits voisins))に基づく厳しい制裁措置につき本ブログで紹介した。

 そこで引用されている202049日の委員会決定2021 7 12 日の委員会決定が大きなキーになっていることは言うまでもない。

 しかし、後述する競争委員会(注1)のリリース文は、必ずしもフランス以外かつ法律専門外の人には説明内容が十分でない。本ブログでは単なる生成AI翻訳に頼るのではなく、筆者なりに補足説明を加えた。(フランスの著作隣接権については(注2)参照)。

1.2020年4月9日著作隣接権(droits voisins):フランス競争委員会は、フランス報道関係者およびフランス大手メディアAFPから提出された同権利保護のための予防措置の要求を許可した

 委員会のリリース仮訳する。

 委員会は、保護されたコンテンツの回復に関する「著作隣接権に関する法律」に基づき出版社や通信社に費用負担につき交渉するようGoogleに要請した。(長塚真琴「フランスの 2019 年 7 月 24 日プレス隣接権法と対 Google 競争法事件」が詳しく論じているが、執筆時点でやむなしといえるが差止命令(injunction; injonction )の意義も含め全く言及されていない。本ブロブでは(注5)であえて補足した)。

1.基本的重要事項

 2019年11月、報道や出版社を代表する多くの組織・機関の同盟である“l’Alliance de la presse d’general information”(APIG)(注3)、および2019年7月24日の法律(LOI n° 2019-775 du 24 juillet 2019)( 報道機関および報道機関の利益のために関連する権利の創設に関する法律)の発効の際にGoogleが実施した慣行のフランスの大手メデイアである「Agence France-Presse(AFP)」(注4)による 著作隣接権の権利保護請求につき競争委員会は、法が定める予防措置の手続きの枠組みの中で4月9日に緊急措置を命じた。

 委員会は、著作隣接権に関する法律が施行された際のGoogleの実務慣行は、1)支配的地位の濫用、2)報道部門への深刻かつ即時の攻撃となる可能性が高いと考えた。

 委員会はGoogleに対し3か月以内に保護されたコンテンツの回復にかかる費用について、出版社や報道機関と誠実に交渉を行うことを命じた。また、この交渉は遡及的に2019年10月24日に法律が施行された時点での権利をカバーする必要がある旨併せ命じた。

2.出版社や報道機関たるAFPが問題視、挑戦するGoogleの実務内容

 2019年7月24日の法律(LOI n° 2019-775 du 24 juillet 2019)は、2019年4月17日の「EUの著作権および関連する権利に関する指令(Directive (EU) 2019/790 of the European Parliament and of the Council of 17 April 2019 on copyright and related rights in the Digital Single Market and amending Directives 96/9/EC and 2001/29/EC (Text with EEA relevance.)」をフランスの国内法に置き換えたものである。すなわち、出版社と報道機関に有利に再定義するために、出版社、報道機関、デジタル・プラットフォーム間のバランスの取れた交渉の条件を設定することを目的とし, これらのアクター間で価値を共有することを目指している。

3.委員会は、Googleが出版社や報道機関に不当な取引条件を課すことにより、一般的な検索サービスの市場における支配的地位を乱用した可能性が高いと考えた

 委員会は命令のこの段階で、委員会はGoogleが一般検索エンジンサービスのフランス市場で支配的な地位を占める可能性が高いと考えた。実際、2019年末のGoogleの市場シェアは90%程度である。さらに、この市場には参入と拡大に対する強い障壁があり、検索エンジン技術の開発に必要な重要な投資に関連している, また、ネットワークの影響と経験により、開発を希望する競合するエンジンによってGoogleの立場に異議を唱えることがさらに困難になる可能性がある。

 すなわち、以下のとおり、いくつかの方法で支配的地位として認められる可能性が高いと考えた。

(1)不当な取引条件を課すこと

 調査の現段階で、Google は著作隣接権に基づく保護されたコンテンツの再開と表示に関するあらゆる形式の交渉や報酬を回避できる不当な取引条件を出版社や報道機関に課した可能性がある。

(2) 法適用を回避

 Google は、法律で定められている可能性を利用して、保護されたコンテンツの表示に対しては原則としていかなる報酬も支払わないと決定し、場合によっては特定のコンテンツに対して無料ライセンスを付与した。 委員会は、調査の状況からすると、この選択は、報道機関と出版者に有利な価値の共有を再定義することを目的とした法律の目的と範囲と調和するのが難しいように思われると指摘している。プラットフォームは、正確な基準に従って、報酬を生じさせる著作隣接権の帰属によって決定される。 さらに、Googleは報酬を決定するために必要な情報を出版社に伝えることを拒否し、出版社からの同意を求めずに記事のタイトルをすべて完全に含めることができると考えた。

(3)差別的慣行

 著作隣接権に関する法律で定められた正確な基準に照らして、Google はそれぞれの状況とそれに対応する保護コンテンツの調査を行わずに、すべての出版社に報酬ゼロの原則を課すことにより、経済主体を同等に扱った可能性がある。すなわち、客観的な正当性を超えてさまざまな状況に置かれ、したがって差別的慣行を実施したとみなされる。

 これらのさまざまな慣行は、Google 側の優越的地位の濫用となる可能性がある。

4. Googleの実務慣行は報道部門に深刻かつ即時の攻撃を引き起こしているが、出版社や報道機関の経済状況も脆弱である。 法律はその代わりにジャーナリストによって作成されたコンテンツから派生する報酬の条件を改善することを目的としている

 これらの実務慣行は、一般検索サービスエンジン市場でGoogleが占める可能性が高い支配的な地位によって可能になる。この立場により、Googleは出版社や報道機関のサイトにかなりのトラフィックをもたらすようになった。したがって、32のプレスタイトルで押収者によって提供され、Googleによって論争されていないデータによると、検索エンジン-したがって、大部分はGoogle-は, サイトによると、トラフィックの26%から90%がページにリダイレクトされている。このトラフィックは、経済的困難のためにデジタル読者の一部を失うわけにはいかない出版社や報道機関にとっても非常に重要かつ重要であることが証明されている。

 これらの状況下では、出版社や報道機関は、金銭的補償なしにGoogleの表示ポリシーに準拠せざるを得ない状況に置かれている。実際、ディスプレイの劣化の脅威は、各報道機関のトラフィック損失、したがって収益を失うことと同義語である。

 これが、近隣の権利に関する法律が施行された後、ほとんどの出版社が彼らにとってさらに不利な条件を受け入れるようになった理由である。

 これらの要素をすべて考慮に入れて、委員会はGoogleの行動に起因するプレス部門への深刻かつ即時の損害の存在に注目し, セクターの主要な危機の文脈において、出版社や報道機関は、立法者が彼らの活動の持続可能性に不可欠であると考えているリソースを奪うと見た。結果、委員会は、法の発効の重要な時期に。その結果、当局は緊急の問題としていくつかの差止命令(injunction; injonction )(注5)を発出した。

5.委員会が宣言した緊急対策

 委員会が宣言した暫定措置の目的は、そうしたい出版社や報道機関を許可することであり、 Googleと誠実な交渉を行い、再開の方法とその内容の表示、およびそれに関連する可能性のある報酬の両方について話し合うことである。

 この交渉期間中、Googleは、関連する出版社または通信社が選択した方法に従って、テキストの抜粋、写真、ビデオの表示を維持する必要があった。さらに、バランスの取れた交渉を確実にするために、予防措置は、それらが索引付けされる方法で中立の原則を提供し、 Googleのサービスに関係する出版社や機関の保護されたコンテンツが分類され、より一般的に提示されることとした。

 最後に、これらの予防措置は、オーソライトがメリットに関する決定を採択するまで有効です。この期間中、これらの予防措置の効果的な実施を確実にするために, Googleは、決定の実施方法に関するオーソライトの月次レポートを送信する必要があつた。

緊急措置に関連してGoogleに対して行われた差止命令とは

 Googleは、それを要求する出版社や報道機関と誠実に交渉し、保護されたコンテンツの再開に対する後者による報酬に関し、透明で客観的で差別のない基準に従って交渉する必要があった。

 また、この交渉は近隣の権利に関する法律の発効から始まる期間、つまり2019年10月24日を遡及的にカバーする必要があった。

この差止命令は、交渉が実際にGoogleからの以下の保証提案をもたらすことを要求した。

 ① Googleは、報道編集者または報道機関からの交渉の開始の要求から3か月以内に交渉を実施する必要がある。

② Googleがそのサービスに引き継いだ保護されたコンテンツの索引付けも分類も表示も、特に交渉の影響を受けることはない。

③ Googleは、当局の決定にどのように準拠しているかに関する月次レポートを当局に提供する必要がある。

Ⅱ.著作隣接権に対する報酬:フランス競争委員会は、いくつかの差止命令に違反したとして Google 5 億ユーロの制裁金を科す

 2021 年 7 月 13 日の委員会リリース仮訳する。

 出版社や報道機関の著作隣接権に対する罰金命令:当局は、2020年4月に同社に対して発行されたいくつかの差止命令の不遵守を理由に、Googleに5億ユーロ(約825億円)の罰金を科した。

 また、Googleに対し、当初の決定で出された差止命令No.1と同No.2に従うよう命じ、併せて同時に日割りの罰金を科した。

1.基本的な重要事項

 2021年7月13日発布した決定の中で、委員会は、雑誌出版社協会(le Syndicat des. Editeurs de la Presse Magazine: SEPMS)、APIG、その他およびAFP社が提出した予防措置の要請に応じ、2020年4月の予防措置に関する決定の一環として発行されたいくつかの委員会の差止命令を無視したとして、Googleに対して5億ユーロ(約825億円)の制裁を課した(2020年4月9日の決定番号20-MC-01と関連する)

 また、委員会はGoogleに対し、当局に連絡した出版社や報道機関に対し、保護されたコンテンツの現在の使用に対する報酬の申し出を提示し、その申し出を評価するために必要な情報を伝達するよう命じた。また、 Google が 2 か月以内にこれらを行わなかった場合、1 日あたり最大 90 万ユーロ(約1億4,800万円)の遅延罰金を発生させることとした。

 委員会の委員長のイザベル・デ・シルバ(Isabelle de Silva)氏は、今日の決定について次のように述べた。

「委員会が企業に差止命令を課す場合、企業はその文言と精神を尊重して、その命令を慎重に適用することが求められる。 今回の場合、Googleは残念ながらそうではなかった。」

Isabelle de Silva氏

1.いくつかの報道機関や報道機関は、Google20204月に委員会が出した暫定措置を遵守していないとして、この訴訟を委員会に付託

 雑誌出版連合(SEPMS)、一般情報報道同盟(APIG)、およびフランス通信社(AFP)は、それぞれ2020年8月末と9月初めに、 2020 年 4 月 9 日の決定 20-MC-01 で競争当局が Google に対して発行した差止命令の遵守(2020 年 4 月 9 日のプレスリリースを参照)を求めた。

 念のため、暫定措置決定 20-MC-01 の中で、委員会は、報道機関および出版社の利益のために関連権利を創設することを目的とした 2019 年 7 月 24 日の法律第 2019-775 号(LOI n° 2019-775 du 24 juillet 2019)( 報道機関および報道機関の利益のために関連する権利の創設に関する法律)の採択を受けて、EUの著作権および関連する権利に関する指令(Directive (EU) 2019/790 of the European Parliament and of the Council of 17 April 2019 on copyright and related rights in the Digital Single Market and amending Directives 96/9/EC and 2001/29/EC (Text with EEA relevance.)」を置き換えることに留意した。

 Googleは、編集者が無償で許可を与えない限り、同社のさまざまなサービス内で記事、写真、ビデオからの抜粋を表示しないと一方的に決定した。当局は、この行為は優越的地位の濫用に当たる可能性があり、報道部門に深刻かつ即時的な損害を引き起こすと考えた。 同社は、本案に関する判決が出るまでの間、Googleに対して7件の差止命令を出していた。 本案に関する判決が出るまでの間、委員会はGoogleに対して7件の差止命令を出していた。この2019年4月17日の決定は、2020 年 10 月 8 日のパリ控訴院判決によって確認され、最終的となった(Google は最高裁判所たる破棄院(Cour de cassation)に上告しなかった)。

 特に、Google は次の差止命令(Injunction:injonction )を命じられた。

① 出版社または報道機関の要請から 3 か月の期間、希望する報道機関および報道機関(差止命令No.1)と誠意を持って交渉を開始する (差止命令 No. 4)

②知的財産法典(知的所有権法典(Code de la Propriété Intellectuelle, 以下 「CPI」という)の第 L. 218-4 条に規定されている報酬の透明性のある評価に必要な情報を伝達する(差止命令 No. 2)。

③ Google がこれらのサービス上で取り上げる保護されたコンテンツのインデックス作成、分類、表示に影響を与えないよう、交渉中に厳格な中立性の原則を遵守することを保証する(差止命令 No.5)。 この決定は、この点に関して次のように述べている「これは、現在の交渉に起因して、またはそれに関連して、出版社が Google でのコンテンツの表示、インデックス付け、分類の通常の条件で不利な結果を被ることを防ぐためである。 パリ控訴院は、2020 年 10 月 8 日の判決の中で、差止命令 No.5 の範囲を明確にし、次のように示した。「この差止命令は、Google LLC、Google Ireland Ltd、および Google France の企業が提供するサービスの改善と革新を妨げるものではない。ただし、直接的または間接的に、本決定の第 1 条および第 2 条に規定されている交渉に関係する関連権利保有者の利益に有害な結果をもたらさないことを条件とする。

④  Google と出版社および報道機関との間に存在する可能性のあるその他の経済関係に関する交渉において、厳格な中立原則の遵守を確保すること(差止命令No.6)。 この決定は、この点に関して次のように明記されている。「これは、Google が他の活動に関する関連権利に対して出版社に支払った報酬を相殺することで関連権利に関する交渉を無効にすることを防ぐためである。 また、Google が一般検索サービス市場における支配的な地位を利用して、出版社や報道機関との交渉中に、一部のサービスの使用を強制するのを防ぐという問題でもある」

⑤ 決定の実施方法に関する定期的な報告書を当局に送付する(差止命令No.7)。

2.Google が遵守しなかった委員会の差止命令

 決定を下すために、当局は徹底的な矛盾した調査に依存し、その結果、交渉の進行状況に関して当事者が作成した多数の文書(電子メール、会議の議事録など)を考慮することになった。 予防措置の順守に関して当局の前で行われた手続き中に生じた所見、第三者の出版社や報道機関から収集した宣言と文書、そして最終的には2021年5月5日の会期中に大学の前で行われた議論が当局を導いた。 Google は、いくつかの理由で、この決定のいくつかの差止命令、特に、誠実に交渉する義務に関する最も重要な差止命令 No.1 を無視したとみなされた。

差止命令 No.1: CPI の第 L. 218-4 条で定められた条件に従い、客観的、透明性のある非差別的な基準に従って誠意を持って交渉する義務

3.Googleは取引を新しいショーケース サービスに移行する

 Googleは、出版社およびAFPとの協議は、主に出版社による新サービスの提供に特化したShowcaseと呼ばれるグローバルパートナーシップに関するものであり、保護されたコンテンツの現在の使用に基づく関連権利は付随的な要素のみを構成し、明確な金銭的評価を欠いていると一方的に押し付けた。

 したがって委員会は、申立人らは一貫して、著作隣接権で保護されているコンテンツの現在の使用に対して支払われるべき報酬に関連した交渉を具体的かつ透明性を持って行うよう要求してきたが、Googleは主に出版社と報道機関の癒着に焦点を当てた世界的な議論を組織的に課していると指摘した。 Publisher Curated News (PCN) と呼ばれる新しいグローバル パートナーシップ、特に Showcaseと呼ばれる新しいサービスに関係している。

 Google はまた、保護されたコンテンツの表示から得られる収益の範囲に関する交渉の範囲を不当に縮小した。Google によると、コンテンツを表示する Google 検索ページからの広告収益のみが、報酬額の修正に考慮されるべきであるとした。 委員会は、他の Google サービスからの収益およびこのコンテンツに関連するすべての間接収益の除外につながるこの立場は、法律および決定に反すると考えた。 この決定では、Google にとって報道コンテンツの重要性が指摘されており、報道コンテンツはインターネット ユーザーの訪問を促し、相談時間を延長する役割を果たし、Google の立場を強化し、Google が保有する可能性のあるデータの重要性を指摘しているため、このことはなおさらである。

4.Political and General Information(PGI) Information Politique et Générale (IPG)一般情報(「IPG」)認定を持たない報道機関との交渉を拒否

 Googleは、政治情報および一般情報の認定を取得していない報道機関からの報道コンテンツに対する報酬の原則を除外することにより、関連する権利に関する法律の適用範囲を自主的に制限し、これを行うのは法条文の不誠実な解釈に依存している。これは、知的財産権法典の L. 218-4に準拠しているが、曖昧さはない。この交渉上の立場は、パリ控訴院によって確認された競争当局の決定に反する。 Google 自身の評価によると、Google が「非 IPG」コンテンツから得る直接収益の方が「IPG」コンテンツから得られる直接収益よりも大きいため、この違反はさらに深刻である。

5.Google、報道機関との著作隣接権補償交渉を拒否

 さらに、GoogleはAFPとフランス通信社に対し、報道機関として、自社のコンテンツが第三者出版社によって出版物に引き継がれても報酬を得ることはできないと何度も通告した。

 委員会は、この交渉姿勢は、報道機関が関連する権利を主張できるとみなすという、法律の条項に基づいた2020年4月9日の決定に反していると解した。 委員会は、2020年4月の決定と同様、この決定でも、議会が質の高い報道コンテンツの制作に対する投資に報いるために、ジャーナリズム・コンテンツの制作者に財産権を付与する意図を明確に表明していたことに留意した。報道コンテンツの制作者と一般向けのオンライン通信サービスの間で価値をより良く共有できるようになる。 フランスの議員は、報道部門のダイナミズムに積極的に貢献する報道機関をこのメカニズムに含める必要性について非常に明確に述べている。

〇差止命令No.2:「支払われるべき報酬の透明性のある評価のために」必要な情報を報道機関および委員会に伝達する義務

 関連権利法では、プラットフォーム(一般向けのオンライン通信サービス)に対し、「ユーザーによる報道出版物の使用に関するすべての情報と、報酬の透明性のある評価に必要なすべての情報を報道機関および委員会に提供する」ことが求められていた [関連権利の期限] とその割り当て」(CPI の第 L. 218-4 条)。

 差止命令No.2では、Google に対し、この条項で必要とされる情報を報道機関に開示することが求められていた。

 調査中に収集された要素は、この情報に以下の問題があった。

部分的である:これは、Google 検索サービスによって生成される直接的な広告収益のみに限定されており、このコンテンツの使用に関連するすべての収益、特に間接的な収益は含まれない。

遅れた:Discover および Google News サービスに関連する情報が差止命令によって設定された期限が終了する数日前に提供されたため、課せられた期限を考えると遅れた。

不十分:初心者レベルの企業が、Google による保護されたコンテンツの使用、そこから得られる収益、および全体的な財務提案を結び付けることを許可するには不十分であった。

 この点に関して、フランス発時事系週刊誌の代表L’Express は特に「Google は、その提案を裏付ける公式やデータを当社に提供していません。 一方、Google は、フランスレベルの Publisher Curated News の一環として、パブリッシャー向けのグローバルな封筒を用意していると主張した。

〇差止命令 No. 5: 関連する権利に関する交渉中、Google サービス上で出版社および報道機関からの保護されたコンテンツのインデックス付け、分類、提示の条件に対する中立義務

 Googleは、関連権利によって保護されているコンテンツの現在の使用に対する報酬に関する交渉を、Googleからのコンテンツの表示とインデックス作成に影響を与える可能性のある他のパートナーシップの締結に結び付けることで、暫定措置決定によって課せられた報道出版社および委員会との交渉中立性の義務に違反した。

 委員会は、Googleが自社サービスにおけるパブリッシャーの認知度を向上させるための新たなプログラムを立ち上げることを妨げるものは何もないが、事件の状況においては、この新たなプログラムへの条件付きアクセスが報酬総額に含まれていないという事実を指摘した。保護されたコンテンツの現在の使用に基づく関連権利の具体的な評価と、契約が拒否された場合にそのサービスにおけるパブリッシャーの可視性が低下する危険性があり、差止命令第 5 号の侵害と特徴付けた。

 したがって、Google が実施した戦略は、パブリッシャーに対し、Showcase サービスの契約条件を受け入れ、特に差し止め命令の対象となった保護されたコンテンツの現在の使用に関連する交渉を放棄することを強く奨励した。提案された条件を受け入れたであろう競合他社と比較して報酬が低下した。 したがって、Google は、その交渉がサービス内での保護されたコンテンツの表示に影響を与えることを防ぐために必要な措置を講じたと主張することはできない。

〇差止命令 No. 6: Google が報道出版社および委員会と結ぶその他の経済関係に関する関連権利に関する交渉の中立義務

 この差止命令は、Googleが「他の活動の関連権に対して出版社に支払われる報酬を相殺することで、その効果の関連権に関する交渉を無効にする」ことを防ぐことを目的としていた。 また、「Googleが一般検索サービス市場における支配的な地位を利用して、報道機関や代理店との交渉中に一部のサービスの使用を強制することを防ぐため」でもあった。

 Googleは交渉期間のほとんどにおいて、著作権で保護されたコンテンツの現在の使用に対する補償金の可能性に関する議論を、新しいShowcaseプログラムに関する議論に関連付けた。 しかし、Google の主張に反して、Showcase は保護されたコンテンツの新しい表示形式に限定されるものではなく、暫定措置が採用された時点では存在しなかった新しいサービスであり、報道編集者に課せられる新たな義務にも基づいていた。 実際、Googleは、ショーケースに掲載する記事を選択するための特定の編集作業を提供するだけでなく、大規模な抜粋を含むコンテンツ、あるいは報道機関が作成したすべての報道記事をインターネット ユーザーに提供することにも同意する必要がある。

 さらに、Google は、Showcase プログラムへの参加を Subscribe with Google (SwG) サービスのサブスクリプションにリンクすることもできた。 したがって、Google は、関連権利の交渉と新しいサービスの加入とを結び付けており、これらによって Google は新しい利点やサービスの恩恵を受けることにもなり、特に SwG サービスでは、Google の利益のために、次のような購読契約に対してパブリッシャーが受け取るすべての財務フロー徴収金が発生する。

6.Googleの非常に深刻な実践内容

 差止命令に従わないこと自体、非常に重大な違反行為である。

 Google の各行動は、差止命令 No. 1 の不遵守という意図的で精緻かつ組織的な戦略の結果であり、著作隣接権の原則そのものに反対するために数年間にわたって実施された Google の反対戦略の継続であるように見える。関連する権利に関する指令の議論を行った上で、その具体的な範囲を可能な限り最小限に抑えるべきである。

 したがって、決定の枠組み内で行われた交渉に関して Google が実施した交渉戦略は、より世界的な戦略の一部であり、より世界的なレベルで実施され、報酬の支払いを可能な限り回避または制限することを目的としていたと考えられる。出版者に対して、プレス コンテンツの複製に関する出版者および委員会への特定の権利の割り当てに関する基本的な議論を解決するために①showcaseサービスを使用すること、そして最後に、②関連権利に関する交渉を利用して、新しいコンテンツの制作を取得することを命じた。これにより、Google は報道タイトルの購読から追加収入を得ることができる。

 Google の提案を透明にするための情報伝達の欠如は、特に Google のページとサービスの協議に関する数値に関して、Google と報道出版社および委員会との間で情報の非対称性が顕著であるため、誠実に交渉を行う上での大きな障害となっている。

 法律で保護されているコンテンツがどのコンテンツに掲載されるか、および保護されたコンテンツの現在の使用から Google が得ている収入について。 同様に、報道機関の保護されたコンテンツをインデックス化し、そのサービスに表示する方法について、交渉の中立性を確保するために Google が講じた措置が講じられていないことにより、報道機関が制約された状況に置かれる可能性が高く、それが次の目標、差止命令で言及されている誠意を持って交渉を実施するという目的の達成を妨げる。

 さらに、保護されたコンテンツの現在の使用に対する関連権利の報酬と、新しいサービスへの参加および/または Google サービスの使用との間にリンクを確立することは、差止命令の目的を Google に有利に転用することになり、ゼネラリスト検索サービス市場における地位によりGoogle の利益がさらに増大する可能性がある。

 APIG が他の個々の出版社と同様に、差止命令によって設定された期限を過ぎて契約に署名したという事実だけでは、差止命令の不遵守の認定を排除することはできない。

 実際、それは暫定措置に関する決定の条件と主題に照らして評価されなければならない。 交渉が適用される差止命令に従って誠実に行われていなかったと当局が判断した場合、特に署名した出版社が劣勢で非対称な状況に陥っていることが判明したため、協定が署名されたという事実自体がそのようなこの交渉の遵守を証明することはできない。 さらに、この決定自体は署名された契約を無効にするものではない。

7.罰金と定期的な罰金支払いに関する差止命令に従う義務

 事件の状況を考慮して、当局は Google に対して 5 億ユーロの罰金を課し、さらに次のように命令した。

 差止命令 No. 1 の執行のために、Google のサービスにおける保護されたコンテンツの現在の使用に関する法律および委員会決定の要件を満たす報酬オファーを、請求を行った参入当事者に提案する。

 差止命令第 2 号の執行について、フランス知的財産法典第 L. 218-4 条に規定されている情報を用いてこの提案を補足するものである。 この情報には、そのサービス上で保護されたコンテンツを表示することによってフランスで生み出される総収入の推定値が含まれなければならない。これは、要求された報酬提供元の報道機関または委員会が生み出す収入の割合を示している。 この推定には、この委員会決定で詳述されているいくつかの収入項目が詳しく記載されているはずである。

 最後に、前段落で言及した差止命令の効果的な執行を確実にするために、委員会は、差止命令に対する正式な要請の日から起算して 2 か月の期間の終わりに、遅延罰金として 1 日あたり 30 万ユーロ(約4,950万円)の罰金を課すとともに、必要に応じて、各申立人による交渉を再開する。

 したがって、この罰金は、この決定の通知後に各申立人によって再開される交渉プロセスごとに個別に評価される。 またGoogle は、差止命令No.7の適用において送信される月次監視報告書の文脈において、この決定への遵守を正当化する必要がある。したがって、2 か月の期限に違反した場合、Google は遅延の場合は 1 日あたり最大 90万ユーロ(約1億4,800万円)の最高額の罰金にさらされることになる。

****************************************************************

(注1)  競争委員会「反競争的行為」及び「経済集中」の規制に係る行政上のエンフォースメント)は、基本的に、フランスの競争当局である競争委員会が行う。競争委員会は独立行政機関(autorité administrative indépendante)である(L. 461-1 条 1項)。独立行政機関は、国の中央官庁であるが、省とは異なり、内閣(gouvernement)の指揮監督(rapport hièrarchique ou de tutelle)に服さない)。「独立行政機関及び独立公共機関の一般規程を定める2017年1月20日法律第55号」)は、独立行政機関の構成員は在任中に罷免されないこと(6条1項)、職権行使の際はいかなる機関の指示(instruction)も受けないこと及び係る指示を求めないこと(9条2項)と規定する一方で、独立行政機関に対し、内閣及び国会へ年次報告書を提出する義務を課している(21条)。競争委員会の構成員(以下、「委員」という)は、命令(デクレ)によって任命される(L. 461-1条2項)。委員の員数は、委員長(président)を含めた17名であり105)、競争委員会の権限はこれらの委員からなる合議(collège)によって行使される(同項)。議事の開催形式は3つに分かれており(L. 461-3条1項)、当該区分に応じて議決定足数が定められている(競争委員会の内部規則106)45条)。すなわち、全員出席の形式で議事が行われる場合の議決定足数は8名、委員長及び4名の副委員長から構成される常設委員会(commission permanente)の形式で議事が行われる場合の議決定足数は3名、その数・構成を委員長が定める課(section)の形式(R. 461-6条)で議事が行われる場合の議決定足数は3名である。議決は多数決によるが(L. 461-3条2項)、可否同数の場合は委員長が裁決権を有する(同3項)。

競争委員会は、審査を経て)、合議により、行政罰としての金銭制裁のほか、差止命令(injonction)を行いうる(L. 464-2条1項前段)。(杉崎 弘「フランス競争法の基本構造」(一橋法学 第 21 巻 第 1 号 2022 年 3 月)から一部抜粋)

(注2) 長塚真琴「フランスの 2019 年 7 月 24 日プレス隣接権法と対 Google 競争法事件」(一橋法学第 20 巻 第 1 号2021 年 3 月)参照。なお。本解説は2021年3月までであり、その後の委員会の動きを踏まえた新たな解説を期待したい。

(注3) “️Alliance de la Presse d'Information Générale (APIG)“ は、フランスの全国紙、地方紙、部門別日刊紙、地域週刊紙といった日刊紙および類似の新聞社の歴史ある 4 つの組合が連合して誕生したもの。2018年に設立されたこの同盟は、国、地域、地方レベルでの民主主義の議論や表現の多元化において主要な役割を果たしており、300近くの政治および一般ニュースの報道機関をまとめ、代表している。

(注4)フランス通信社(Agence France-Presse、AFP)“は、フランス、パリに拠点を置く国際通信社。世界最古の報道機関。AP通信、ロイターにならぶ世界三大通信社の一つ。 日本においては、戦後、時事通信社が特約販売代理店として稼働。クリエイティヴ・リンクが、2007年よりAFP日本語版サイト、AFPBB Newsを運営している。(Wikipedia から抜粋)

(注5) フランスの差止命令(Injonction)の意義(Définition)

一般的な意味で解釈される「差止め」という言葉は、裁判の当事者に宛てて、何かをするか控えるように裁判官から命令することを指す。 したがって(民事訴訟法(Code de procédure civile:CPC)第 11 条第 2 項第 133 条第 135 条第 138 条以下)、裁判官は、一方当事者の請求に応じて、他方当事者または第三者に対し、その者が保有する文書を提出するよう命令することができる。また、裁判官はその差止命令の権限を利用して審問を取り締まる「審問警察権(Police de l'audience)を行使できる。これは審問を主宰する責任を負う判事に与えられた権限を指す用語であり、裁判を尊重するために必要なあらゆる措置を講じることができるという意味である(CPC 第24 条および 第438条)。(民法辞典(DICTIONNAIRE DU DROIT PRIVÉ)から抜粋、仮訳)

***************************************************************************

Copyright © 2006-2024 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

欧州委員会のApple に音楽アプリ市場における支配的地位を濫用につき18 億ユーロ、フランス競争委員会がEUのメディア規制とAI利用をめぐる規制違反につきGoogleに2億5000万ユーロの罰金

2024-03-22 09:45:23 | 海外の独占禁止法

 Last Updated :March 23,2024

 これらについては、わが国メディでも紹介されているが、いずれの内容も巨大IT企業の独占的企業活動の法的規制策の効果的行動を論じるには不十分であるといえる。例えば、フランス独立行政機関である競争委員会(Autorité de la concurrence:わが国の公正取引委員会と解説しているのみで巨大 ITの活動実態や手法に応じた専門性を持ったメデイアやユーザーに対し意図的に透明性や自由にOSの選択肢を得られないようにしている点ならびにこれまでの交渉経緯等についての言及は皆無である。

 そこで、本ブログは処罰根拠法や具体的な不遵守課題の内容 より具体的には1)EUにおける「顧客誘導禁止条項の意義」と役割、2)EUのデジタル分野の市場をより公平で競争力のあるものにするための EU の法律である「EUデジタル市場法(DMA)」の内容に関し、「ゲートキーパー」の義務と禁止事項に関する一連の客観的な基準を確立している点など、さらに3)フランス競争委員会(Autorité de la concurrence)が、Google が委員会の度重なる著作隣接権の遵守約束に違反するとともに、4)人工知能サービスツール(Gemini)を無断で構築する行為を行うなどの報道機関や出版社、または競争委員会にこれらの用途変更を通知しない等具体的な違法根拠をもとに責任追及を行ったかを解明・解説する。

 なお、3月21日、米国連邦司法省は他の16人の州および地方の司法長官とともに、米国の独占禁止法(注1)の1つであるシャーマン法第2条に違反してスマートフォン市場の独占または独占未遂を理由にAppleを相手に民事独占禁止法訴訟を提起した。(起訴状原本はここ)本件とも関連する点があるが、本ブログで別途まとめたい。

Ⅰ.欧州委員会のApple storeの契約条件や音楽ストリーミング・アプリを配布する際に市場における支配的地位を濫用したとしてEU競争法違反に関する約束とその違反経緯

 1.20216月公正取引委員会の解説「欧州委員会は,Appleに対し,音楽ストリーミングサービス提供事業者に対するApp Storeの契約条件について,異議告知書を送付」から引用する。重要な内容なのであえて引用した。

 以下の原文は、公正取引委員会の2021年4月30日欧州委員会の公表資料から引用および仮訳で構成(なお、この仮訳部は欧州委員会の原文の構成を一部変更しているため、筆者の判断で追加した)。

【概要】

 2020年4月30日,欧州委員会は,Appleに対し,音楽ストリーミングサービス提供事業者に対するApp Store(訳注:Appleのアプリストア)のルールに関して,異議告知書を送付した。本異議告知書は,欧州経済領域内におけるAppleの音楽ストリーミングアプリであるApple Musicと競合するあらゆる音楽ストリーミングアプリに対するAppleのルールに関するものであり,2019年3月の「Spotify」からの申告に対応するものである。

 欧州委員会のVestager上級副委員長(競争政策担当)は,次のとおり述べた。

 「アプリストアは,今日のデジタル経済において中心的役割を果たしている。我々の予備的見解では,Appleは,App Storeを通じてiPhoneユーザー及びiPadユーザーに対するアプリのゲートキーパーとなっている。Appleは,Apple Musicにより音楽ストリーミングサービス提供事業者と競合しているところ,App Storeにおいて,競合他社に不利に働く厳格なルールを課し,ユーザーからより低価格な音楽ストリーミングサービスの選択肢を奪うことによって,競争を阻害した。」

 欧州委員会の予備的見解によると,Appleは,App Storeを通じた音楽ストリーミングアプリの配信市場において,支配的地位を有している。音楽ストリーミングアプリ開発事業者(以下「アプリ開発事業者」という。)にとって,App Storeは,Appleのスマート携帯OSであるiOS上で機能するAppleの携帯端末のユーザーに対する唯一のゲートウェイである。Appleの端末とアプリは閉鎖されたエコシステムを形成しており,そこでは,iPhone及びiPadに関するユーザーについてのあらゆる側面をAppleが支配している。

 App Storeはこのエコシステムの一部であり,Apple端末(iPhone及びiPad)のユーザーが携帯端末へアプリをダウンロードできる唯一のアプリストアである。Apple端末のユーザーはAppleブランドに対してかなり忠実であり,簡単には他のブランドには切り替えない。結果として,iOSユーザーにサービスを提供するために,アプリ開発事業者はAppleが設定する強制的かつ交渉余地のないルールに従うことを条件として,App Storeを通じてアプリを配信せざるを得ない。

 欧州委員会の懸念は,Appleがアプリ開発事業者との契約において課している次の2つのルールの組み合わせ(combination)に関するものである。

① 有料デジタルコンテンツの配信における,Appleのアプリ内購入システム(in-app purchase system(IAP))の利用の強制。

  Appleは,強制的なIAPを通じて購入されるあらゆる定期契約に関して,アプリ開発事業者に対し30%の手数料を課している。欧州委員会の調査によれば,多くの音楽ストリーミングサービス提供事業者は価格を引き上げることでこの手数料をエンドユーザーに転嫁している。

② アプリ開発事業者がユーザーに対してアプリ外での代替的購入手段を通知することを制限する顧客誘導禁止条項(anti-steering provisions)による非通知の強制。

 Appleはユーザーに対し他の手段で購入した音楽の定期契約の利用を許容しているが,本条項によりアプリ開発事業者は,一般的により安価であるそのような他の購入手段をユーザーに通知することができない。欧州委員会の懸念は,Apple端末のユーザーが音楽定期契約サービスに対して著しく高い価格を支払っている,又は一定の定期契約をアプリ内で直接購入することが妨げられているということである。

 欧州委員会の予備的見解は,Appleのルールは,競合するアプリ開発事業者のコストを上昇させることにより音楽ストリーミングサービス市場の競争を阻害しているというものである。これは,消費者にとってiOS端末におけるアプリ内音楽定期契約の価格を引き上げるものである。また,Appleは,あらゆるIAP取引の仲介者となり,料金請求手続や関連する連絡を競合他社から引き受けている。

 これらAppleの行為は,市場支配的地位の濫用を禁ずるEU機能条約(Treaty on the Functioning of the European Union)第102条の規定に違反するおそれがある。

以下は、ブログ筆者の追加仮訳部。

 これらの規定の実施は独占禁止法(欧州連合理事会規則 No 1/2003 )で定義されており、EU加盟国国内の競争当局も適用することができる。

 同委員会は2020年6月16日にAppleのApp Storeルールに関する徹底した調査を開始した。異議申し立ては、EUの独占禁止法違反の疑いに対する欧州委員会の調査における正式なステップである。 委員会は関係当事者に対して提起された異議を書面で当事者に通知する。 受取人は、委員会の調査ファイル内の文書を調べ、書面で返答し、委員会および国内競争当局の代表の前で事件についてのコメントを発表するための口頭審理を要求することができる。 異議申し立ての送付と正式な独占禁止法調査の開始は、調査の結果を予断するものではない。

2.欧州委員会は、34日、Apple App Store を通じて iPhone および iPad ユーザー (iOS ユーザー) に音楽ストリーミング アプリを配布するという市場における支配的地位を濫用したとして、Apple 18 億ユーロ(2970億円)を超える罰金を科す命令を発布

 欧州委員会サイトの解説を以下、仮訳する。

 欧州委員会は、Apple がアプリ開発者に対して、アプリ外で利用できる代替の安価な音楽サブスクリプション サービスについて iOS ユーザーに通知することを妨げる制限を適用したと認定した (以下、「顧客誘導禁止条項(anti-steering provisions):アンチステアリング条項」ともいう)。 これは EU の反トラスト規則(欧州連合機能条約 (以下、「TFEU」という) の第 102 (a))の下では違法である。

(1)Appleの法侵害違法行為の内容

 Apple は現在、開発者が欧州経済領域(European Economic Area )(以下、「EEA」という) 全体の iOS ユーザーにアプリを配布できる App Store の唯一のプロバイダーである。 Apple は、iOS ユーザー エクスペリエンス(注2)のあらゆる側面を管理し、開発者が App Store に存在し、EEA 内の iOS ユーザーにリーチできるようにするために遵守する必要がある利用規約を設定する。

 同委員会の調査によると、Appleは、音楽ストリーミングアプリ開発者に対し、1)アプリ外で利用できる代替の安価な音楽購読サービスについてiOSユーザーに十分に通知すること、および2)そのようなオファーの購読方法に関する指示を提供することを禁止していることが判明した。

 特に、顧客誘導禁止条項(アンチステアリング条項)に関し、アプリ開発者は次のことを禁止させた。

①アプリ内で iOS ユーザーに、アプリ外のインターネットで利用できるサブスクリプション・ファー(注3)の価格を通知する。

②Apple のアプリ内購入メカニズムを通じて販売されるアプリ内サブスクリプションと、他の場所で購入できるアプリ内サブスクリプションとの価格差について、アプリ内で iOS ユーザーに通知する。

③iOS ユーザーをアプリ開発者の Web サイトに誘導し、代替サブスクリプションを購入できるリンクをアプリに含める。 また、アプリ開発者は、アカウントを設定した後に、新たに獲得したユーザーに電子メールなどで連絡して、別の価格オプションについて知らせることもできなかった。

 3月4日の欧州委員会決定は、Apple の顧客誘導禁止条項は欧州連合機能条約 (TFEU) の第 102 (a) に違反する不公平な取引条件に当たると結論付けている。 これらの顧客誘導禁止条項は、Apple のスマート モバイル デバイス上の App Store に関連した Apple の商業的利益の保護に必要でも不釣り合いでもあり、自分のデバイスで使用できる音楽ストリーミング サブスクリプションにつき、どこでどのように購入するかについて十分な情報に基づいた効果的な決定を下すことができない iOS ユーザーの利益に悪影響を及ぼしていた。

(2)罰金額の算定

 罰金は、罰金に関する欧州委員会の 2006 年ガイドラインに基づいて設定した (プレスリリースと MEMO を参照)。

 欧州委員会は、罰金の水準を設定する際に、Appleの総売上高と時価総額だけでなく、侵害の期間と重大性も考慮した。 Appleが行政手続きの枠組みで誤った情報を提出したことも織り込み済みである。

 さらに欧州委員会は、Appleに科せられる罰金全体が十分な抑止力となるよう、罰金の基本額に一時金18億ユーロ(約2,970億円)を追加することを決定した。この事件でこのような一括罰金が必要となったのは、侵害によって引き起こされる損害のかなりの部分が非金銭的損害であり、欧州委員会の2006年の罰金ガイドラインに定められた収益ベースの方法論では適切に説明できないためである。 さらに、罰金額は Apple が現在の侵害または同様の侵害を繰り返すのを阻止するのに十分なものでなければならない。 また、同様の規模で同様のリソースを有する他の企業が、同じまたは同様の侵害を行うことを阻止するためである。同委員会は、罰金総額18億ユーロ以上はアップルの世界的な収益に比例しており、抑止力を達成するために必要であると結論づけた。

(3) 欧州委員会の調査の経緯と背景

 2020年6月、欧州委員会は、App Storeを介したアプリの配布に関するアプリ開発者向けのAppleの規則に関する正式な調査手続きを開始した。 2021年4月、欧州委員会はAppleに異議声明を送り、Appleは2021年9月にこれに応じた。

 2023年2月、欧州委員会は2021年の反対声明を、同委員会の異議を明確にした別の反対声明に置き換え、Appleは2023年5月にこれに返答した。

(4)告発手続きの背景

 TFEU 102 および欧州経済地域協定第 54 は、優越的地位の濫用を禁止している。

第54条につきESAサイト解説(注3-2)から引用

 市場支配自体は、EU の独占禁止法の下では違法ではない。 しかし、支配的な企業には、支配的な市場または別の市場のいずれにおいても、競争を制限することによってその強力な市場での地位を濫用しないという特別な責任がある。

(5)個別の損害賠償訴訟提起の権利

 この訴訟で説明されているような反競争的行為の影響を受けた個人または企業は、加盟国の裁判所に問題を提起し、損害賠償を求めることができる。 欧州司法裁判所の判例法と欧州連合理事会規則 1/2003はいずれも、国内裁判所での訴訟において、委員会の決定がその行為が行われ違法であったことを示す拘束力のある証拠となることを確認している。 欧州委員会が当該企業に罰金を科したとしても、欧州委員会の罰金を理由に減額されることなく損害賠償が国内裁判所によって認められる場合がある。

 EUの独占禁止規則に違反した企業に課せられる罰金は、EUの一般予算から支払われる。 これらの収益は特定の経費には充当されないが、翌年の EU 予算に対する加盟国の拠出金はそれに応じて減額される。したがって、罰金はEUの資金調達に役立ち、納税者の負担を軽減する。

 EUの反トラスト損害賠償指令(Antitrust Damages Directive)(注4)は、反競争行為の被害者が損害賠償を受けやすくするものである。EUの 独占禁止法による損害を定量化する方法に関する実践的なガイドを含む、独占禁止法による損害賠償措置の詳細については、こちらを参照。

Ⅱ.フランス競争委員会(Autorité de la concurrence) EUのメディア規制とAI利用をめぐる一部の約束の不遵守について、Google25,000万ユーロの罰金制裁を宣言

 フランス競争委員会(Autorité de la concurrence)のリリース仮訳する。なお、各リンクは筆者が独自に行った。

【要旨】

 関連する権利:フランス独立行政機関である競争委員会(Autorité de la concurrence:以下、「委員会」という )(注5)、2022年6月に行われた一部の約束の不遵守について、Googleに対して2億5,000万ユーロ(約412億5,000万円)の罰金制裁を宣言した。

(1)背景と経緯

 委員会は、2022 年 6 月 21 日の決定 22-D-13 によって義務付けられた特定の約束を遵守しなかったとして、Alphabet Inc、Google LLC、Google Ireland Ltd、Google France (以下「Google」という) の各企業に 2 億 5,000 万ユーロ(約412億5,000万円)の罰金を科した。

 記録上、この決定は、この問題に関して競争当局によって下されるこの 4 年間で 4 回目の決定となる。 これらの決定は、2019 年 7 月 24 日の著作隣接権に関する法律の採択 (2019 年 4 月 17 日の著作権および関連権利に関する欧州指令の置き換え) によって特徴づけられた文脈の一部であり、出版社、報道機関、デジタル プラットフォーム間のバランスの取れた交渉条件を確立することを目的としている。

 この法的枠組みは、報道関係者に有利に、これらの関係者間の価値の共有を再定義し、報道部門がここ数年経験している深刻な変化、特に「紙」の配布が減少し、広告価値のかなりの部分が大規模なデジタルプラットフォームによって獲得されることから、デジタル視聴者の増加に対応することを目的としていた。

(2024.3.23補追部)青色部

 2020年4月に委員会は差し止め命令の形で緊急措置を発行した後(2020年4月9日の決定20-MC-01プレスリリース参照)、委員会はこれらが尊重されていなかったと指摘し、Googleに5億ユーロ(約825億円)の制裁を科した( 2021 年 7 月 12 日の決定 21-D-17プレスリリースを参照)。

 この2つの委員会の決定および後述する22-D-13付け決定は今回の委員会決定の重要な経緯に関する事実である。また、フランスの著作権保護法特に隣接著作権(droits voisins)等保護:に関する解説も必要であることから、別途本ブログで取り上げる。

 その後、この訴訟の本案についての判決を下し、当局は、2022 年 6 月 21 日の決定( 22-D-13プレスリリースを参照) により、Google が提案した以下の約束を 5 年間、1 回更新可能で受け入れ、表明された競争上の懸念に終止符を打つこととした。 これに関連して、委員会はアキュラシー社(Accuracy)を、Google による約束の履行の監視と管理を担当する代理人として承認した。

 この決定(22-D-13)の中で、委員会は、Googleが委員会との協力の約束を無視し、以下の原則を保証することを目的とした7つの約束のうち4つを尊重しなかったとして、今般、Googleを制裁した。

①および② 透明かつ客観的かつ非差別的な基準に基づいて、3 か月以内に誠実に交渉を行うこと(約束 No. 1 およびNo. 4)。

③ 関連する権利に基づく報酬の透明性のある評価に必要な情報を出版社または報道機関に送信すること(約束No. 2 )。

④交渉が Google と出版社または報道機関との間に存在する他の経済関係に影響を与えないよう、必要な措置を講じる (約束 No. 6)。

 さらに、Googleが2023年7月に開始した人工知能サービス「Bard」(注6)に関して、委員会は特に、出版社や報道機関からのコンテンツを、出版社や報道機関に通知することなく、創設モデルのトレーニングを目的として使用していたことを指摘した。 その後、Google は、出版社や報道機関が Bard によるコンテンツの使用に異議を唱えることを可能にする技術的ソリューションを提供しないことで、当該コンテンツの人工知能サービスによる使用を保護されたコンテンツの表示と関連付けた(「オプトアウト」) )。他の Google サービスでの関連権利で保護されているコンテンツの表示に影響を与えず、出版社や報道機関が報酬を交渉する能力を妨げることはない。

 これらすべての違反を考慮して、委員会は Alphabet Inc、Google LLC、Google Ireland Ltd、および Google France の企業に対して 2 億 5,000 万ユーロの罰金を課した。 Google はこの事実に異議を唱えないと約束したため、和解手続きの恩恵を受けることができた。 また、Google は、委員会によって特定された特定の欠点に対応するための一連の是正措置を提案した。

(2)委員会 によって特定され違法侵害

(A) 監視受託者との連携

 委員会は、Googleが監視受託者と協力するという約束を遵守できず、特に監視受託者が約束を監視するために必要なすべての情報を共有できなかったと指摘している。また 委員会は、監視管財人が侵害の可能性について疑念を抱いた場合に、Googleが委員会に通知するタイミングを遅らせようとしたことも指摘している。

(B) 透明性、客観的かつ非差別的な基準に基づいた誠実な報酬交渉の不履行

 透明性に関して、委員会はまず、複数の当事者が交渉後にこの文書にアクセスできたため、報酬の提示と同時に交渉当事者に方法論文書を送付するというモニタリング受託者との約束をGoogleが遵守していないと指摘した。 また、委員会 は、この方法論のメモが特に不透明Google が配分する収益の「帰属」額を決定するために使用されるパーセンテージをめぐる不透明さ、Google が報酬オファーで使用する期間と一致しない基準期間など)であることも明らかにしている。

 また、委員会は は、Google が方法論のメモの中で、交渉当事者に収益をもたらす可能性のあるすべてのサービスについて言及しておらず、その一部は考慮されておらず正当化されていないため、客観性の基準が満たされていないとも指摘している。

 最後に、委員会 は、Google が開発した方法論により、異なる状況にある出版者が同様に扱われる限り、非差別基準も満たされていないと指摘している。 委員会 によると、コンテンツ間の魅力の違いを考慮しないと、Google の収益に対する各報道機関や出版社の貢献を正確に反映できなくなる。 さらに、委員会は、Googleが報酬の「最低基準」という概念を導入し、それを下回ると出版物には報酬を支払わないと指摘している。 この選択は、まさに原則として、出版社間の差別を導入するものであり、一定の閾値を下回ると、それぞれの状況に関係なく、すべての出版社に恣意的にゼロ報酬が割り当てられる。

 間接収益に関して、委員会 は、Google が方法論メモのさまざまなバージョンで提案した「一時金」が、以前の判決や 2020 年 10 月 8 日のパリ控訴院の判決と一致していないと認定した。 この点に関して、Googleは財務上のオファーの計算において間接収益を限界シェアに限定したが、前述の判決では、間接収益がサービス上で保護されたコンテンツの表示から得られる収益の最大のシェアを占めていることが判明した。

 また委員会は、Googleが、以下のとおり、約束の発効以降、出版社と締結した契約の大部分において、報酬を更新し、必要に応じて正規化するという約束を契約上明示していないか、あるいは部分的にしか行っていないとも指摘している。

①Googleは、透明性、客観的かつ非差別的な基準に基づいて誠意を持って交渉することを義務付ける約束1を遵守しなかった。

②間接収益に関して、Google が提案した「一時金」は、この件で以前に出され、Google が従うことを約束した決定と一致していない。

③Google は、約束 No1 を遵守できなかったことにより、交渉完了リクエストの受領から 3 か月以内に「最初の約束に規定された条件に従って」報酬の提示を行うことを義務付ける約束 4 に違反した。

(C)Google が提供する不完全な情報、保護されたコンテンツの使用から得られるすべての収益、特に間接的な収益をカバーしていない。

 約束の仕組みは、提供された情報とGoogleが提示した報酬との間の一貫性の必要性に基づいているが、委員会は、交渉の基礎となる文書と報酬提示との間に関連性を発見できなかった。

 どの計算コンポーネントについても、方法論ノート、データ レポート、および説明付録の間にリンクがない。 さらに、委員会の調査中に、Google が約束に定められた期限内に報道機関のサブドメインに関するデータ レポートを提出していなかったことを発見した。

 さらに、委員会は、Googleが、保護されたコンテンツの表示によって引き起こされるデータ検索によって生成された収益に関するデータ通信を、たとえそのようなデータが間接収益の評価にあたり有用であるように見えるにもかかわらず、厳しく制限していたことを指摘した。

 Google が提供する情報では、当事者が報酬を透明に評価することはできない。 したがって、Google は約束 2 に違反したことになる。

(D)人工知能ツールの開発における著作隣接権の問題

 2023年7月、Googleはユーザーの質問に答えるチャットボット「Bard」(2024年2月8日から「Gemini」に改名)と呼ばれる新しい人工知能サービスをフランスで開始した。

 委員会は調査中に、Google が人工知能サービスの基礎モデルをトレーニングする際と、グラウンディング (人工知能サービスによる Google 検索へのデータ検索の送信) に、報道機関や通信社のドメインのコンテンツを使用していたことを発見した。 ユーザーが提起した質問に対する回答を提供するため)および表示(ユーザーへの回答を表示する)段階で、報道機関や出版社、または委員会にこれらの用途が通知されることはなかった。

 人工知能サービスの一環としての報道出版物の使用が関連著作権規制に基づく保護の対象となるかどうかという問題は、まだ解決されていない。 少なくとも、委員会 は、Google が自社のコンテンツが Bard ソフトウェアに使用されることを報道者等に通知しなかったことにより、約束 1 に違反したと考えられている。

 さらに、Googleは、少なくとも2023年9月28日とそのツール「Google Extended」の開始まで、報道機関や出版社が、このコンテンツの表示に影響を与えずに他のGoogleサービスでBardによるコンテンツの使用に異議を唱えるための技術的解決策を提案しなかった。 この日まで、この使用をオプトアウトしたい報道機関や出版社は、検索、ディスカバー、Google ニュース サービスを含む Google によるコンテンツのクロールに反対する指示を挿入する必要があり、これらのサービスは報酬の交渉の対象となっていた。 関連する権利。 今後、委員会は、Google が導入したオプトアウト・システムの有効性に関して特に注意を払うことになる。

 委員会は、Google が自社サービス Bard によるコンテンツの使用について編集者や報道機関に通知しなかったという事実は、約束No. 1 に基づく透明性義務違反であるとみなしている。

 Google は、自社の人工知能サービスによる報道機関や出版社のコンテンツの使用を、検索、ディスカバー、ニュースなどのサービスでの保護されたコンテンツの表示と結び付けることで、約束No. 6 に違反した。

(E) 委員会は25000万ユーロの罰金を課した

 Google は申し立てられた慣行には異議を唱えず、事実に異議を唱えない企業は、総報告者が提案した範囲内で罰金の上限と下限を設定し、罰金を科せられるという和解手続きの恩恵を求めた。Googleは交渉手続きの文脈で、委員会は Alphabet Inc.、Google LLC、Google Ireland Ltd、および Google France に 総額 2 億 5,000 万ユーロの罰金を課した。

 またGoogle は、特定された侵害に対処するために設計された一連の是正措置を提示しており、委員会はこれに注目している。

*********************************************

(注1) 米国の独占禁止法(反トラスト法)は、単一の法律ではなく、幾つかの法律の総称である。反トラスト法は、主に以下の三つの法律及びこれらの修正法から構成されている。

  ① シャーマン法(1890年制定)

  ② クレイトン法(1914年制定)

  ③ 連邦取引委員会法(1914年制定)

 シャーマン法は、カルテルなどの取引制限(Restraint of Trade)及び独占化行為(Monopolization)を禁止し、その違反に対する差止め、刑事罰等を規定している。

 クレイトン法は、シャーマン法違反の予防的規制を目的とし、競争を阻害する価格差別の禁止、不当な排他的条件付取引の禁止、企業結合の規制、3倍額損害賠償制度等について定めている。

 連邦取引委員会法は、不公正な競争方法(Unfair Methods of Competition)及び不公正又は欺瞞的な行為又は慣行(Unfair or Deceptive Acts or Practices)を禁止しているほか、連邦取引委員会の権限、手続等を規定している。

 なお、反トラスト3法と違反行為類型の関係については下表のとおりである。

イ このほか、ほとんどの州が、独自の反トラスト州法を制定している。(以下、略す)

(公正取引委員会サイトから一部抜粋、引用)

(注2) ユーザー・エクスペリエンス(user experience、UX)はシステムとの出会いに由来してユーザーが得る経験である。ユーザー経験、ユーザー体験ともいう。

(注3)サブスクリプションオファー:利用にあたってのお試し利用推薦

(注3-2) EFTA 監視庁 (ESA) は、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー (EEA EFTA[1] 加盟国) における欧州経済領域 (EEA) 協定の遵守を監視している。 ESA は国家から独立して運営され、EEA 協定に基づいて個人と事業の権利を保護し、自由な移動、公正な競争、国家援助の管理を保証する。

(注4) 同指令の正式名「Directive 2014/104/EU of the European Parliament and of the Council of 26 November 2014 on certain rules governing actions for damages under national law for infringements of the competition law provisions of the Member States and of the European Union Text with EEA relevance」

(注5)フランス競争委員会(L’Autorité de la concurrence)は、独立した行政機関であり、自由な競争を確保し、欧州及び国際レベルでの市場の競争的機能に貢献する(L.461-1条I項)。また、競争委員会は、反競争的行為の審査(L.462-5条)、企業結合規制(L.430-5条~430-7条)、競争政策に関する意見及び勧告の公表(L.462-4条)等を行う。(公正取引委員会サイトから抜粋、引用) なお、リンクは筆者が行った。

ウ 権限(L.462-1条からL.462-10条まで)

 競争委員会の権限は、①個別の事案について審査を行い、排除措置命令、制裁金賦課命令等を行う法執行機関的側面と、②議会、政府等から諮問を受けて意見を述べる諮問機関的側面とに大別される。

 フランスの競争法は、商法典第4部「価格の自由及び競争」(Livre IV : De la liberté de prix et de la concurrence, Code de Commerce)(L.410-1条)からL.490-14条まで。ウ 権限(L.462-1条からL.462-10条まで)

(注6)「Google Bard」とは、Googleが開発した対話型AIサービス。人間との会話のような自然なやり取りが可能な対話型AIに、Googleが誇る検索サービスを連携しており、チャットで質問をするだけで、AIがビッグデータから自然かつ正確な回答を出力してくれる。ちなみに「Bard」という単語は、日本語の「吟遊詩人」「歌人」という意味があり、その名の通り人間が使うような自然な文章で回答することを見込んで名付けられている。

 Chat GPTを含む他の対話型AIモデルと同様に、ユーザーの質問への回答や文章の自動生成、言語翻訳、ソースコードの生成、要約といった対応が可能となっている。Google Bardでは、世界中の幅広い知識を大規模言語モデルの知能やクリエイティビティと組み合わせることを目的としている。(Smileyの解説から抜粋)

**********************************************************************************:

Copyright © 2006-2024 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

米国FCCの生成AI等の音声通話(AI-Generated Voice Calls)につき「電話消費者保護法」の解釈を巡る宣言的判断とFTCのAIなりすまし等の脅威に対抗する補足的規則制定告示の意義

2024-03-20 16:19:40 | AI

 筆者は米国やEUにおける生成AIの普及に伴う利用範囲の厳格化等につき本ブログで論じてきた。特にEUについては、筆者ブログ「わが国のAI立法の在り方を見据える観点からEUのAI規則案(AI法案:Artificial Intelligence Act)の最終段階を改めて探る(その1)」同(その2完)米国については、筆者ブログ「AI立法 のトレンド: 米国の州法案の発展を概観」「米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容」で詳しく取り上げた。

 その中で2月8日、生成AIまたは事前に録音された音声通話(AI-Generated Voice Calls)についての米国連邦通信委員会(FCC)(注1)の管轄規制法である「電話消費者保護法( TCPA: Telephone Consumer Protection Act of 1991, Pub. L. No. 102-243, 105 Stat. 2394 (1991)」の解釈を巡る宣言的判断の情報を入手した。

  また米国連邦取引委員会(FTC)は、2月15日、AIなりすましの脅威(個人、政府機関、ビジネスになりすますための AI の使用を禁止する規則案)に対抗するFTCの補足的NPR案を提案した。

今回は、2月8日のFCC の宣言的判断(Declaratory rulings)および2月15日のFTCの補足規則制定告示(supplemental Notice of Proposed Rulemaking :SNPR)の概要と意義を述べる。

1.FCC の生成Iによる音声通話(AI-Generated Voice Calls)についてのFCCの管轄規制法である「電話消費者保護法( TCPA: Telephone Consumer Protection Act of 1991)」の解釈を巡る宣言的判断(Declaratory rulings)

(1)Lexblog(AI-Generated Voice Calls: New Tech, Old Rules)の解説

 Lexblogの「生成AIまたは事前に録音された音声通話(AI-Generated Voice Calls)についてのFCCの宣言的判断 (古くて新しい問題解決ルール)について」要約文仮訳する。

 FCCは2024年2月、「人工音声または事前に録音された音声」を含む通話はTCPAによって規制されていると企業に注意を喚起した。そして、FCC は AI が生成した音声は TCPA の規制に該当する一種の「人工」にすぎないと考えていることを明示した。 この発表は、2024年2月初めにFCCが発行した宣言的判断(Declaratory rulings) (注2)の中で行われた。

 留意すべき点は、TCPA( Telephone Consumer Protection Act of 1991, Pub. L. No. 102-243, 105 Stat. 2394 (1991) に基づき、企業は特に次のことを行う必要があるとした点である (特定の例外が適用される場合を除く)。

①人工音声を含む住宅電話や携帯電話への通話については、事前に明示的な同意を得る。

②人工音声を含む住宅電話や携帯電話にマーケティング通話を行う場合は、事前に書面による明示的な同意を得る。

 これらの要件の例外には、通話が緊急通話である場合などが含まれる。

実践すべき点: この宣言的判断はかなりの注目を集めたが、この判断自体は驚くべきことではない。 人工知能によって作成された音声は、その言葉が示すとおり「人工的」であるため、FCC が TCPA の下で音声をそのように考慮することを含めることは理にかなっている。

(2)2月8日のFCCの宣言的判断(全8頁)の要旨部の仮訳

1.人工知能 (AI) テクノロジーが出現し、消費者を望ましくない違法なロボ・コール(robocall)から保護する既存の規制環境に影響を与える中、FCCは本日、消費者は「電話消費者保護法 (TCPA)」に基づいて提供される保護を引き続き受けられることを明らかとする。

  人工音声通信などのコンテンツを生成できる AI テクノロジーは有益であるが、一方、消費者に新たな課題をもたらすこともある(2023.10.23 AIに関する大統領令Executive Order No. 14110, Safe, Secure, and Trustworthy Development and Use of Artificial Intelligence, 88 Fed. Reg. 75191 (Oct. 30, 2023))(詳細は筆者ブログ参照)

  この機会を利用して、FCCはこれらのテクノロジーへの TCPA の適用を明確にする。

2.この宣言的判断において、FCCは、「人工音声または事前に録音された音声」の使用に対する TCPA の制限 (47 CFR § 64.1200 - Delivery restrictions. :47 U.S.C. § 227(b); 47 CFR § 64.1200(a)(1), (3)参照) が、人間の音声を生成する現在の AI テクノロジーを包含していることを確認した。

  その結果として、そのようなテクノロジーを使用する通話は TCPA およびFCCの実施規則に該当するため、緊急目的または免除の場合を除き。そのような通話を開始するには着信側の事前の明示的な同意が必要である。

3.FTC、AIなりすましの脅威に対抗する対策として補足規則制定告示を提案

(1)Lexblog blog 「 FTC、AIなりすましの脅威に対抗する対策規則案を提案の要旨

 2024 年 2 月 15 日、連邦取引委員会は、個人になりすますための AI の使用を禁止する規則案を提案した。これにより、政府および企業のなりすましに対する最近最終化された FTC 規則の保護が拡大される。 FTCは、規則の改正案について意見を求める補足規則制定告示(Notice of Proposed Rulemaking:NPR)(注3)に関するパブリックコメント期間を、連邦官報に掲載されてから60日後に終了すると発表した。

 このFTCの迅速な措置は、ニューハンプシャー州の大統領予備選で投票しないよう有権者に促したバイデン大統領を模倣したAI生成のロボ・コール等への対応である。 FTC委員長のリナ・カーン(Lina M.Khan)氏は、FTCの補足NPRは「AIを利用した個人になりすました詐欺に対処するためのFTCのツールキットを強化する」ための重要なステップであると述べ、悪意のある者が「AIツールを利用して不気味な精度で、より広範な規模と範囲で個人になりすましている」と述べた。

Lina M.Khan 氏

 今回のSNPR は、「州際通商における政府、企業、およびその職員または代理人のなりすましを禁止する」という FTC の新しい規則の保護を拡大する。 (16 CFR Part 461)。 FTCは、この新しい規則により、現在既存の規則が存在しない連邦裁判所にFTC ACT第19条による救済(注4)を申し立てるFTCの能力が促進され、消費者が救済されるまでの時間が短縮されると主張した。

(2)FTCのリリース要旨の仮訳

(A)「FTCがAIによる個人のなりすましに対抗するための新たな消費者保護策を提案」

 連邦取引委員会は、個人のなりすましを禁止する規則制定案の補足通知(SNPR)についてパブリックコメントを求めている。 提案されている規則変更は、本日委員会によって最終決定されている政府および企業のなりすましに関する新しい規則の保護を拡大するものである。

 FTCは、なりすまし詐欺に関する苦情の急増と、消費者やなりすまし個人への被害に対する国民の抗議を考慮してこの措置を講じた。AI 生成のディープフェイク(注5)を含む新興テクノロジーは、この惨状をさらに加速させる恐れがあり、FTC はなりすまし詐欺の検出、阻止、阻止にあらゆるツールを活用することに取り組んでいる。

(Wikipedia:2023年に出回った、元アメリカ大統領のドナルド・トランプが逮捕される様子を描いたディープフェイク画像から引用)

 またFTCは、画像、ビデオ、テキストを作成するAIプラットフォームなどの企業が、使用されていることがわかっている、または知る理由がある商品やサービスを提供することでなりすましを通じて消費者に損害を与えることにつき、改正規則案が違法と宣言すべきかどうかについてコメントを求めている。

 この補足的規則制定告示(SNPR)は、政府および企業のなりすまし規則に関してパブリックコメント期間中に受け取った、個人のなりすましによってもたらされるさらなる脅威と被害を指摘したコメントに応えて発行された。

(B)政府および企業のなりすまし禁止に関する最終規則

FTCサイトから抜粋、仮訳する。

 補足的規則制定告示に加えて、FTC は政府および企業等のなりすまし規制規則を最終決定した。これにより、FTC は企業や政府機関になりすました詐欺師に対抗するための強力なツールを得ることができ、詐欺師に政府や企業のなりすまし詐欺で儲けたお金の法的返還を強制することを目的として連邦裁判所に直接訴訟を起こすことが可能になる。これは、AMGキャピタル・マネジメントLLC対FTC事件における最高裁判所の2021年4月の判決を考慮すると特に重要であり、この判決は、被害を受けた消費者への金銭の返還を被告に要求する政府機関の能力を大幅に制限したものである。

〇規則改正案制定の背景と追加説明

 政府および企業のなりすまし詐欺は近年、消費者に数十億ドルの損害を与えており、2023 年にはどちらのカテゴリーでも FTC への報告が大幅に増加した。今回の規則により、FTC はこれらの詐欺とより効果的に戦うことが認められる。

 たとえば、この規則により、FTC は次のような詐欺師に対して連邦裁判所に直接金銭的救済を求めることが可能になる。

①郵便やオンラインで消費者とコミュニケーションをとる場合、政府の標章(government seals)(注6)や企業のロゴを使用する。

②「.gov」電子メール アドレスのなりすましや、企業名のスペルミスに依存する類似の電子メール アドレスや Web サイトの使用など、政府機関および企業の電子メールおよび Web アドレスのなりすまし。

③政府機関または企業と関係があることがわかっている用語を使用して、政府または企業との関係を誤ってほのめかすこと(例: 裁判所との関係を誤ってほのめかすために「書記官室から電話しています」と述べるなど)。

 最終規則の公表は、2021年12月に発行された規則案の事前告知、2022年9月に発行された規則案の告知、そして2023年5月の非公式公聴会に応じた2回のパブリックコメントを経て行われた。

(3) FTCなりすまし禁止規則案の内容と実務への影響に関する JD SUPRAの解説の要旨を仮訳

 2024 年 2 月 15 日、連邦取引委員会 (FTC) は、政府、企業およびその役員に対する不正ななりすましを禁止する政府および企業のなりすまし規則 (以下「なりすまし禁止規則(Impersonation Rule)」という、こちらから入手可能) を最終決定した。 このなりすまし禁止規則は、連邦最高裁判所がFTC法第13条(b)が同委員会に公平な金銭的救済を与える権限を与えていないという判決を下した前述のAMGキャピタル事件を受けて、FTCが積極的な規則制定政策を継続することを示す最新の指標である。

(A)なりすまし禁止規則は、次の不公平または欺瞞的な行為または慣行として分類される。

①「直接的または暗示的に、実質的かつ虚偽的に政府機関または企業を装う」。

②「直接的または暗示的に、政府機関または企業との提携(支持または後援を含む)を重大に虚偽表示すること」。

 注目すべきことに、なりすまし禁止規則では、禁止されている行為は「重大」かつ「商取引において、または商取引に影響を与える」ものでなければならないと規定していることである。 FTCは、規則案の文言には含まれていないこれらの制限につき、「最終的な規制文書の範囲がFTC法に基づくFTCの権限の範囲と同一であることを十分に明確にしている」と説明し、「 純粋に芸術的または娯楽的な衣装でのなりすましなど、商取引に重要ではない虚偽のなりすましまたは虚偽表示にあたらず、最終規則の対象外である」

(B) 規則案の補足告知(SNPR)の概要と注目すべき事項

〇2月15日、FTC は、なりすまし禁止規則の改正案に対するパブリックコメントを求める規則制定案の補足通知 (SNPR) を発行した。 この改正案は、政府機関や企業だけでなく個人のなりすましを禁止し、なりすましを通じて消費者を欺くために自社の技術が使用されていることを知っている、または知る理由がある企業に第三者責任を課すことになる。

〇SNPRを発表したプレスリリースの中でFTCは、人工知能(AI)が生成するディープフェイクなどの新興テクノロジーがなりすまし詐欺を「加速させる恐れがある」と述べた。 同じプレスリリースの中で、FTC委員長のリナ・カーン氏は、「詐欺師たちはAIツールを利用して、不気味な精度で、より広範囲にわたって個人になりすましている。音声クローンやその他の AI を利用した詐欺が増加しているため、なりすまし詐欺からアメリカ国民を守ることがこれまで以上に重要になっている」 と述べた。政府機関や企業以外の個人へのなりすましを禁止するためになりすまし禁止規則を拡大すれば、FTCはロマンスやその他の家族詐欺を永続させる詐欺師をターゲットにすることが可能になる。

 さらに、規則改正案が条文通りに採択された場合、なりすまし詐欺の「手段と手段」を提供する企業に第三者責任を課すことになる。 カーン氏は、レベッカ・K.スローター(Rebecca Kelly Slaughter)委員とアルバロ・ベドヤ(Alvaro Bedoya)委員とともに、修正案に関する声明を発表し、次のように説明した。

Rebecca Kelly Slaughter 氏

Alvaro Bedoya 氏

 「注目すべきことに、補足的提案では、なりすまし詐欺を実行するための「手段と手段」を提供するあらゆる行為者に責任を拡大することも推奨している。このアプローチでは、たとえば、IRS職員のディープフェイクを生成するように設計されたAIソフトウェアツールが、税金を支払ったかどうかについて人々を騙すために詐欺師によって使用されることを知っていた、または知っていたはずだった開発者は責任が適用されることになる。ツールの違法な使用を阻止するのに最適な立場にある上位の関係者が責任を逃れないようにすることは、責任と能力と制御を一致させるのに役立つ。」

〇さらに詐欺行為を行った個人ではなく、欺瞞的なコンテンツの生成に使用されたプラットフォームを対象とする責任を拡大することは、重大な影響を与えることになる。 FTC は AI に重点を置いているように見えるが、SNPRの文言は、その手段の合法的で合法的な使用にもかかわらず、詐欺行為を行うために使用される可能性のある手段の開発者に対しても第三者責任を負わせることになる。 悪意のある者が携帯電話を使用して被害者に連絡し、AI ソフトウェアを使用して家族になりすまし、被害者に送金やギフトカードの送信を誘導した場合、電話サービスプロバイダー、AI 開発者、および送金サービスがその行為に対して責任を負う必要があるであろうか。 詐FTC によれば、そのような悪用の可能性を知っていれば、その可能性があるという。 事実上、SNPR は、第三者の不正行為に対する保険会社への詐欺行為を促進するために使用される可能性のある製品またはサービスの開発者またはプロバイダーを対象とする。

〇FTCは、改正案は「誠実な個人や企業に新たな負担を課すものではない」と主張しているが、大手小売業者に対して最近提出した訴状の中で、FTCが電話勧誘販売規則(Telemarketing Sales Rule:TSR)における同等の「実質的援助」責任をどのように解釈しているかに注目している。 FTCは、同社が「詐欺や詐欺において送金サービスが果たす役割を知っていた」ため、同社が電話勧誘詐欺に関与した人物に送金サービスを提供することで、電話勧誘詐欺に関連して「実質的な支援」を行ったと主張している。それでも「見て見ぬふりをした」 つまり、FTCは、詐欺師に顧客を騙し取らせた責任を[会社]に負わせているのだ」

〇なりすまし詐欺を行う「手段と手段」を提供する第三者に対する FTC の責任理論が、TSR に基づく第三者責任の理論と同じくらい広範である場合、AI プラットフォームとソフトウェア開発者が自社製品を使用する詐欺師の数に応じその訴訟のツケを負わされる可能性がある。

〇FTC の SNPR には、パブリック コメンターが検討する一連の対象を絞った質問が含まれている。その中には、なりすまし規則に、「商品やサービスが不法になりすますために使用されるという知識や理由を持って商品やサービスを提供することの禁止が含まれるかどうか」が含まれる。「 政府および企業のなりすましに関する取引規制規則の修正案」と題された FTC の SNPR の本文は、ここで見つけることができる。コメントの提出期限は、連邦官報での公表日から 60 日後である。

****************************************************************:

(注1) Declaratory rulings: § 1.2 宣言的判断(コーネル大学ロースクールの解説から、抜粋、仮訳する)

(a) 連邦通信委員会(FCC)は、連邦行政手続法(Administrative Procedure Act)第 5 条 (d) に従って、申し立てまたは自らの申し立てに基づいて、論争を終了するか不確実性を除去する宣言的判断を発行することができる。

(b) 宣言的判断の発行請願が提出された、またはFCCによって割り当てられた局または事務所は、請願内で提起された問題が既存の訴訟に実質的に関連しているかどうかに応じて、そのような請願を既存のまたは現在の訴訟手続きの中で記録すべきである。 その後、局または事務所は、公告を通じて請願書に対するコメントを求める必要がある。局または事務所によって別段の指定がない限り、宣言的判断を求める文書化された請願に対する答弁書(responsive pleadings)(注2)の提出期限は、公告の発表日から 30 日目であり、応答のデフォルトの提出期限はその後 15 日目となる。

(注2)答弁書-回答

コーネル大学ロースクールから引用、仮訳する。

28行政規則集 § 76.9 答弁書- 回答(28 CFR § 76.9 - Responsive pleading—answer)

(a) 回答の提出期限: 被告は、訴状の送達後 30 日以内に回答を提出し、当該問題を管轄する連邦検事に送達しなければならない。

(b) デフォルト。 被申立人が所定の期間内に回答を提出し送達しなかった場合は、申立の申し立てに対して出頭して異議を唱える権利を放棄したものとみなされます。 このような場合、裁判官はデフォルトで判決を下すことができる。

(c) 答えます。 訴状で主張されている重大な事実に異議を唱える被告、または法律問題として判決を受ける権利があると主張する被告は、書面で回答を提出しなければならない。

(1) 答弁書には、それぞれの積極的抗弁を裏付ける事実の陳述が含まれるものとする。

(2) 答弁書には、被告が各申し立てを認める、否認する、認めるか否認するための十分な情報を持っていない、または得ることができない、あるいは申し立てに対する答弁は特権によって保護されているという陳述が含まれるものとする。 自己有罪。

(3) 情報が欠如しているという陳述、または申し立てに対する答弁が特権的であるという陳述は、否認の効力を有するものとする。

(4) 否定されなかった申し立ては認められたものとみなされる。

(d) 返信します。 告訴人は、28 CFR 76.10 に従って裁判官がそのように規定した場合には、逮捕された各肯定的弁護に応じた答弁書を提出することができる。

(注3) 規則制定告示 (NPR) は、米国連邦政府機関が規則制定プロセスの一環として規則や規制を追加、削除、または変更したい場合に法律によって発行される公告である。 この告示は米国行政法の重要な部分であり、通常、パブリックコメントを募集するプロセスを作成することで政府を促進する。 この用語は、米国の州レベルでも使用される。(Wikipediaから抜粋、仮訳)

(注4) 3. FTCの行政命令発動後の救済規定仮訳する。

さらに(命令に対するすべての司法審査が完了した後)、FTCは、行政手続きで問題となった行為によって生じた消費者被害について、連邦地方裁判所で被申立人に対して消費者救済を求めることができる。 FTC 法第 19 条に基づくこのような訴訟では、15 U.S.C. 第 57b 条により、FTCは「合理的な人なら、その状況下で[行為が]不正または詐欺的であることを知っていたであろう」ことを証明しなければならない。

(注5)ディープフェイク: 「深層学習(deep learning)」と「偽物(fake)」を組み合わせた混成語。人工知能に基づく画像・映像合成技術を指す。「敵対的生成ネットワーク(GANs)」と呼ばれる機械学習技術を使用して、既存の画像や映像を、ある意図に沿った別の画像または映像に重ね合わせて(スーパーインポーズ)、結合することで生成する。この意図的な映像の結合により、実際には起こっていない出来事に関する偽の映像が生み出されることとなる。

 ディープフェイクは、児童性的虐待コンテンツ(CSAM)、有名人のフェイクポルノ、リベンジポルノ、プロパガンダ、フェイクニュース、デマ、いじめ、詐欺に悪用される可能性があり、広い注目を集めている。(Wikipedia から抜粋)

(注6) FTCの標章

************************************************************************

Copyright © 2006-2024 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする