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Financial and Social System of Information Security

インターネットに代表されるIT社会の影の部分に光をあて、金融詐欺・サイバー犯罪予防等に関する海外の最新情報を提供

トランプ裁判ワシントンDC 下書き

2024-03-09 07:04:19 | クラウド・コンピューティング

Ⅱ.米国のD.C.連邦巡回区控訴裁判所は、26日、トランプ氏が2020年の連邦選挙干渉事件で起訴から免除されないことを決定 2/6

US appeals court rules Trump not immune from prosecution in federal 2020 election interference case

JURISTスタッフ

2024年2月7日08:30:13 AM

米国ワシントンD.C.の連邦巡回区控訴裁判所(以下、巡回控訴裁判所という)の3人の裁判官からなる合議体は、2月6日、2020年の連邦選挙干渉事件2/6⑧でドナルド・トランプ前大統領には訴追の免除権がないと判示(No. 23-3228)2/6⑦した。

 

 

 

A three-judge panel of the US Court of Appeals for the DC Circuit ruled Tuesday that former President Donald Trump does not have immunity from prosecution in his federal 2020 election interference case.

裁判所は全会一致の判決で、トランプ氏が米国大統領としての公務中に行ったと主張する行為について「絶対的な」大統領訴追免責を受ける権利はないとの判断を下した。 この裁判所の判決は、「元大統領は連邦刑事責任に関して特別な条件を享受していない」としたコロンビア地区タニヤ・チュトカン連邦地方裁判所判事の2023.12.2判決2/6⑨を支持した。

n a unanimous ruling, the court found that Trump is not entitled to “absolute” presidential immunity for actions he alleges he took in course of his official duties as president of the US. The court’s ruling affirmed District Judge Tanya Chutkan’s prior ruling, which found that “[f]ormer Presidents enjoy no special conditions on their federal criminal liability.”

 

さらに巡回控訴裁判所は以下の点を明らかとした。

「この刑事事件の目的のために、トランプ前大統領は他の刑事被告の弁護をすべて引き受けてすなわちトランプは一市民となった。 しかし、大統領在任中に彼を守っていたかもしれない行政特権は、もはや今回の訴追から彼を守ってくれない。」

 

巡回控訴裁判所の3人の裁判官の合議体での控訴の訴えにおいて、トランプ氏は彼の免責主張を支持して次の3つの主要な論点を主張した。

In his appeal to the three-judge panel of the DC Circuit, Trump asserted three main arguments in support of his immunity claim:

①三三権分立の原則により、裁判所は大統領が行った公式行為を審査することができない。

The doctrine of separation of powers prevents courts from reviewing official acts undertaken by the president;

②三権分立の原則に根ざした機能政策の考慮事項では、行政府の機能への侵入を防ぐために免責が必要である。

Functional policy considerations rooted in the separation of powers doctrine require immunity to prevent intrusion upon executive branch functions; and

③元大統領は、弾劾判決条項に基づいて連邦議会によって最初に弾劾され、有罪判決を受けた場合にのみ起訴される可能性がある。

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多様化する暗号資産を巡る米英やEUの法制整備と裁判法制の最新動向

2024-02-25 11:32:44 | 暗号資産

(Last Update :Febuary 24, 2024)

 筆者の手元に国際的ローファームCleary Gottlieb Steen & Hamilton LLP のレポートが届いた。その要旨は、以下の内容である。

 暗号資産業界では2023年中、大きな活動が見られ、2024 年以降も新たな訴訟リスクが生じ続けると予想されている。その背景には、(1)暗号通貨の価値の急激な変動性、(2)テクノロジーの複雑な性質、(3)徹底した法規制の欠如、(4)規制当局の理解の欠如等がすべてこの傾向に寄与している。

  暗号資産関連の訴訟は、個人またはクラス・アクションとして提起された申し立てには、法規制上の問題を含め、広範囲に及んでいる。

  今回のブログは、同レポートの要旨を仮訳するとともに、英国法務委員会等の取組みにつき、筆者なりに法的観点から補足説明を加えた。この問題につき、わが国の解説は金融庁の審議会資料が詳しいし、有益である。併読されたい。

  なお、解説文中の判決文原本や裁判官の写真等必要なリンクは独自に筆者が行った。

1.米国や英国の暗号資産の法規制強化への取組み

米国では暗号資産の価値の変動に対応して、規制当局、法執行機関、さらには個人が2023年に暗号資産取扱企業に対してさまざまな訴訟を起こした。包括的な法規制がないため、これらの申し立ては多くの場合、SEC等が証券法等の法律違反、投資家を誤解させたこと、詐欺、窃盗などの従来の訴訟原因に依存している。(注1)

 一方、英国の裁判所は、暗号資産ベースの訴訟に対して、管轄権や準拠法に関し、ますますオープンなアプローチを採用している。 たとえば、2022 年 10 月に、「ゲートウェイ 25」として知られる新しい管轄ゲートウェイが発効し、英国の管轄外にある潜在的な被告に関連する情報命令を求めている原告の請求を容易にした。この措置は、潜在的な暗号通貨詐欺の被害者に実行力を与えることを目的としていた。

 同月、英国の法務委員会(Law Commission)は、管轄権や準拠法など、暗号資産ベースの訴訟から生じる法の抵触問題に対処するための協議プロセスを開始した。 英国の高等法院(English High Court)(注2)2023年1月13日判決、被告への送達の代替手段として、非代替性トークン(NFTによる送達を認めた。暗号資産裁判の場合、被告の身元が請求者に知られていない可能性が高いため、クレームの内容 (注3)において被告を特定し、通知できる可能性が高い。

 英国は、暗号資産に関連する裁判請求の急増により、進化し続ける技術環境の中で新たな法的問題が生じている(注4)。 これらの裁判での主張は、(i) NFT の盗難(注5)、 (ii) 暗号資産ネットワークを監督するソフトウェア開発者の受託者義務(注6)、(iii) 暗号交換(注7)に対する責任など、さまざまな問題を扱っている。

 一方、米国では一部の州裁判所が分散型自律組織(Decentralised Autonomous Organizations :DAO」)(注8)に対する訴訟請求を認め始めている。DAOは中央のリーダーシップや階層を持たずに機能し、スマート・コントラクト(注9)または同様のソフトウェア・プロトコルを通じてメンバーに依存している。 DAO には投資目的を含むさまざまな用途がある。

 英国は、今後どのようにDAOを規制するかを決定することを目的として、関連する利害関係者とともにDAOの性質を依然として調査中である(注10)。 我々は、これらの複雑な問題と、それらに直面した裁判所がとった斬新なアプローチが、今後の暗号資産訴訟でも引き続き取り上げられると予想している。

2.英国の具体的法規制強化に向けた取組み

 2022.10.18英国法務委員会のリリース「Digital assets: which court, which law?」によると、法務委員会はデジタル資産やその他の新興テクノロジーに国際私法がどのように適用されるかにつき検討を開始した。

 英国法務委員会のデジタル資産専門サイト「Digital assets: which court, which law?」

 適用される法律と管轄区域の規制が、ますますデジタル化が進む世界に対応できるようにすることが目的である。

 2023 年 6 月、英国法務委員会は、暗号資産を含むデジタル資産の規制に関する政府に対するいくつかの勧告を発表した。(注11) 英国では、暗号資産に関連する多くの法規制の進展も見られる。 「2000年金融サービス・市場法(Financial Services and Market Act of 2000:以下、「FSMA」)という」(注12)は「デジタル決済資産」規制の基礎を築き、政府と金融行為規制機構(以下、「 FCA」という)は2024年に英国内外での法定通貨担保型ステーブル・コインの発行と保管を規制する法律と規則を制定することを目指している 。

 このような体制下で、 2023年8月17日、FCAは世界的な金融活動作業部会(FATF)と協力して「トラベル・ルール」(注13)採択した。 この規則は、国境を越えた暗号資産移転の透明性を高めることを目的としており、英国の暗号資産ビジネスは英国内外の暗号資産移転に関する情報を収集、検証、共有することが義務付けられている。 2023年10月、財務省は暗号資産に対する将来の金融サービス規制体制に関する協議回答を公表し(2024年に関連法の制定を目指すと表明)、さらにFCAは、2023年6月FSMAを改正「適格暗号資産(qualifying cryptoassets)」のマーケティング・プロモーションの制限を金融規制の対象とした。

 一方、EUでは段階的なアプローチを採用するのではなく、2023年5月16日の「暗号資産市場規則(Markets in Crypto-Assets Regulation :MiCAR)」(筆者ブログ(その1)同(その2完)の採択・制定により、暗号資産関連の金融サービスを規制するための単一の統一された新しい枠組みが導入された。この分野における規制の枠組みも規制当局の監督アプローチもまだ発展途上であるが、たとえば FCA はすでに暗号資産の金融プロモーションの特定の側面について不満を表明している。したがって、米国SECなどで見られるように、英国でも 2024 年に暗号資産分野での取締まり活動が強化される可能性がある。(注13)

**************************************************************:

 (注1) たとえば米国では、証券取引委員会サイトは、2024年2月7日の時点で、投資家を誤解させるなど多数の証券法違反容疑で「バイナンス(Binance)」のような大手暗号資産取引所に対する訴訟を含む、少なくとも317件の暗号資産およびサイバー法執行訴訟を起こしている。(裁判件数は筆者がSECサイトに基づき修正した)。

(注2) 英国の高等法院(The High Court of Justice in London)

 高等法院(High Court of Justice)は、刑事法院(Crown Court)および控訴院(Court of Appeal))とともに、イングランド・ウェールズ高等裁判所(Senior Courts of England and Wales)の一部門をなす裁判所である。High Court of England and Wales、あるいはそれを略してEWHCとも呼ぶ。(英国司法制度図参照)。

(注3) ダロイア対パーソンズ・アンノウン(D’ALOIA V PERSONS UNKNOWN)事件 [2022] EWHC 1723 (Ch) およびオズボーン対パーソンズ・アンノウン(OSBOURNE V PERSONS UNKNOWN)事件 [2023] EWHC 39 (KB)参照。 米国を含む他の法域でも同様の傾向が見られた。(例: LCX AG 対 John Doe Nos 1 ~ 25、原因証明命令および一時的接近禁止命令 (インデックス番号 154644/2022ニューヨーク州最高裁判所 2022 年 6 月 2 日)。

(注4) 「Thought Leaders 4主宰の暗号資産紛争カンファレンス」(2023 年 6 月 28 日)での講演:暗号通貨詐欺の申し立ての問題最新情報

マーク・ペリング(Mark Pelling KC(King's Counsel)判事:英国の高位判事

Mark Pelling 判事

マーク・ペリング判事は、2019年にロンドン巡回商事裁判所の担当判事に任命された。

彼は、商事裁判所および巡回商事裁判所だけでなく、Chancery Division、国王法廷部門、行政裁判所、技術および建設裁判所で判事着席する権限を与えられている。

(注5) Tulip Trading Ltd 対 van der Laan 事件他 [2023] EWCA Civ 83 (2023.2.3 控訴裁判所は、ソフトウェア開発者がネットワーク上の暗号資産の所有者に対して受託者責任を負う可能性があり、これらの義務により、例えば 所有者の秘密鍵が紛失または盗難された場合、特定の状況では所有者の資産が安全に移されるという効果をもたらすソフトウェアパッチの導入を開発者に要求する可能性があることは正当に議論の余地があると認定した。

 詳細は、 Cleary Gottlieb LLP著「英国控訴裁判所: Cryptoasset Network Software Developers May Owe Fiduciary Duties to Token Holders (2023 年 2 月 21 日)」を参照。

(注6) 2023 年 2 月 3 日、イングランドおよびウェールズ控訴院民事部は、4 ビットコイン・ネットワークに関する Tulip Trading Limited (「TTL」) とソフトウェアの中核開発会社数社との間の訴訟で判決(Tulip Trading Ltd 対 van der Laan and others [2023] EWCA Civ 83)を言い渡した。

(注7) Piroozzadeh 対 Peoples Unknown [2023] EWHC 1024 (Ch) (2023.5.4 )高等法院大法官部(High Court:Chancery Division)は、当初、Binance が請求者に対する詐欺行為で追跡可能な収益を受け取ったという根拠で認められていた、暗号資産会社 Binance に対する差し止め命令を取り消した。

(注8) DAO(Decentralized Autonomous Organization、分散型自律組織)とは、中央集権的な管理を必要とせず、ブロックチェーンを基盤にして、世界中の人々が協力しながら管理・運営をおこなう組織のことである。DAOは独自のガバナンス・トークンを発行しており、参加者はそれを保有することで、意思決定のための投票権を得られる仕組みであり、コミュニティに貢献したインセンティブも、ガバナンス・トークンを含むさまざまなトークンで支払われる。(INSIGHT
powered サイト解説
から抜粋)

(注9) 「スマート・コントラクト」とは、ブロックチェーン・システム上の概念であり、あらかじめ設定されたルールに従って、ブロックチェーン上のトランザクション(取引)、もしくはブロックチェーン外から取り込まれた情報をトリガーにして実行されるプログラムを指す。ここでの「スマート」とは「賢い」ではなく、「自動的に実行される」という意味で用いられている。(https://www.sbbit.jp/article/fj/40394から抜粋)。

(注10)英国法務委員会のDAO専門サイト

 法務委員会は、2022 年 11 月 16 日に証拠の公開募集を開始しました。証拠の募集では、ユーザーや他の専門家に、DAO をどのように特徴付けることができる (またそうすべきである) か、またイングランドとウェールズの法律が現在および将来どのように DAO に対応できるかについての情報を求めている。

 英国政府は法務委員会に対し、ブロックチェーン、スマート・コントラクト(注9)、または同様のテクノロジーをよく使用する新しいタイプの集団組織構造である DAO の説明と法的地位を調査するスコープペーパーを作成するよう依頼した。

  Evident paper Call for Evidenceを求める法務委員会の文書(全96頁)を参照されたい。

*Evident paper Call for Evidenceとは、政府のモデル分析などについて、その根拠となる仮定やデータが適当であり、利用可能な最善の根拠に基づくものあるかを検証するため、広く国民各位、専門家、事業者、NGOなどに対して、質問票の照会事項に沿った、根拠に基づく情報の提供を照会するもの。(内閣官房の解説参照)。

(注11)2023.6.27 英国法務委員会報告「Digital assets: Final report」(Law Com No 412:全304頁) (1965 年法務委員会法第 3 条(2) に従って英国議会に提出:議会下院により 2023 年 6 月 27 日に印刷するよう命令あり)

(注12)「 2000 年金融サービスおよび市場法」はその後、更新が行われており、2024 年 2 月 19 日までに発効されている。

(注13) トラベル・ルールとは、「利用者の依頼を受けて暗号資産の送付を行う暗号資産交換業者は、送付依頼人と受取人に関する一定の事項を、送付先となる受取人側の暗号資産交換業者に通知しなければならない」というルールである。このルールは、FATF(金融活動作業部会)が、マネーロンダリング及びテロ資金供与対策についての国際基準(FATF 基準)において、各国の規制当局に対して導入を求めているものである。

トラベル・ルールの目的は?

テロリストその他の犯罪者が自由に電子的な資金移転システムを利用することを防ぎ、

不正利用があった場合にその追跡を可能とすることを目的とするものである。

トラベル・ルールはどのように日本に導入されるか?

FATF 第4次対日相互審査において、我が国は、電信送金(為替取引)だけでなく暗号資産の移転についても、トラベル・ルールの対象とすべきと指摘されており、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)の改正が行われることが想定される。ただし、トラベル・ルールは世界的に見ても全く新しい規制であり、その実施に向けて技術的にも課題が多いので、協会は、金融庁からの要請を踏まえ、法改正に先立ち協会の自主規制規則においてトラベル・ルールを導入し、その課題を解決していくこととした。(日本暗号資産取引業協会サイトから抜粋)

(注13)ロシア連邦は2023年7月ロシア連邦民法典第1部第128条および第140条、第2部、ならびに第3部第1128条および第1174条の改正を採決、本連邦法第3条第1項をのぞき、2023年8月1日をもって発効した。

その内容は、以下のサイト「ロシア進出企業情報提供ポータル」2/7(72)を参照されたい。なお、一読されて気が付くと思うが、ロシアでは暗号資産(仮想通貨)はまさにこれからと言えよう。(Last Update :Febuary 24, 2024)

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わが国の確定申告上の暗号資産の扱いの明確化が重要(日米比較)

2024-02-18 10:20:43 | 暗号資産

 わが国の2024年提出分の所得税に関する確定申告と納税の期間は、2024216日(金)から2024315日(金)である。

 一方、筆者の手元に米国歳入庁の2023年の連邦所得税申告書提出の際に留意すべき「デジタル資産」の扱いに関する注意喚起通知が届いた。

 筆者は、新ためてそこにいう「デジタル資産」と具体的に何を指すのかを確認してみるとともに、わが国の国税庁の確定申告における暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)(平成 30 年 11 月(令和5年 12 月最終改訂)を比較してみた。

 そこで明らかとなったのは、わが国の暗号資産等に関する税務上の取扱いの曖昧性である。すなわち、暗号資産、暗号通貨、電子マネー等、その定義を国税庁サイトでみると、例えば「暗号資産」は、資金決済に関する法律第2条第14項に規定する暗号資産 (注1)をいい、また、「電子決済手段」とは同条第5項第1号から第3号までに規定する電子決済手段をいう(注2)等、法律上、かならずしも十分明確化されておらず巷には暗号資産交換事業者による不正確な説明に基づく情報戦略が横行している。

  税務上の扱いにとどまらず、ビットコイン(BTC)を筆頭とする暗号資産(仮想通貨)は、急速に普及したことや次々と新しい技術が生まれていることから、わが国の暗号資産を規制する法制は「資金決済法」、「金融商品取引法」「金融商品販売法」等を中心に現物暗号資産、暗号資産デリバティブ、ICO(投資型(STO(Security Token Offering))や投資型以外のICO(Initial Coin Offering)、 ステーブルコイン(安定した価格を実現するよう設計された通貨)(注3)、CBDC(中央銀行デジタル通貨)(注4)、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)(注5)の法的位置や暗号資産上の位置づけ、電子マネーとの比較等の規制法を体系的に理解するのは、消費者や事業者にかなりの負担となっている。

 また、暗号資産交換業者の倒産時の対応や暗号資産の流出リスクへの対応等消費者保護、犯罪防止マネローダリング、暗号資産交換業にかかる取引に際しての情報提供義務、利用者の保護措置、暗号資産交換業者の広告規制等法律以下の資金決済に関する法律施行令(平成22年政令第19号)、暗号資産交換業者に関する内閣府令(平成29年内閣府令第7号)、金融庁事務ガイドライン等極めて多岐にわたる。

 これまで筆者は海外の動向につき「英国の暗号資産にかかる『金融サービスおよび市場法』の改正法案を巡る最新動向」を取り上げた。

 今回のブログは、(1)暗号資産にかかる法制につき理解をすすめるうえで参考となる解説サイトの評価をまとめて紹介, (2)わが国の暗号資産関係法の体系と改正経緯、(3)  英国や米国における暗号資産の法的解釈とのわが国の法整備との基本的相違点、最後に(4)税申告上の暗号資産の扱いの比較を試みる。

1.わが国の暗号資産にかかる法制につき理解をすすめるうえで参考となる解説サイトの評価

 関係法を一覧にするサイトは以下のとおりである。簡単にコメントする。

(1)法改正経緯

「暗号資産(仮想通貨)の法律を解説!規制整備の流れを把握しよう」

2017年の法改正で暗号資産(仮想通貨)に法的根拠~2023年6月1日施行の改正資金決済法

2023-10-11 更新 関係法の改正経緯を解説が詳しい。

NRI「ステーブルコインを規制する初めての法律が成立」(2022.6.6)

(2)個別法の改正内容

 金融庁の審議会資料「金融庁「暗号資産(仮想通貨)に関連する制度整備について」から引用。ただし2016年(平成28年)から2019年(平成31年)の法改正のみ解説している。なお、個別法の内容については、筆者が補筆した。

A.暗号資産に係る法制度の整備

 平成29年(2017年)4月1日施行された「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」(平成28年(2016年)3月4日提出、平成28年5月25日成立)その中に含まれている「資金決済に関する法律(以下、「資金決済法」という)」(第11条関係)において、「第三章の二 仮想通貨」という箇所が付け加えられたのが、暗号資産(仮想通貨)に関する法律の始まりである。(注6)

暗号資産の交換業者に登録制を導入

・ 口座開設時における本人確認等を義務付け

・ 利用者保護の観点から、一定の制度的枠組みを整備

(最低資本金、顧客に対する情報提供、顧客財産と業者財産の分別管理、システムの安全管理 など)

B.資金決済法一部改正法および金融商品取引法等の一部改正(令和元年(2019)67日公布、令和2(2020)5月1日施行)

「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28,以下「改正法」という)

 利用者保護の確保やルールの明確化のための制度整備が中心である。

 国際的な動向等を踏まえ、法令上の呼称を「仮想通貨」から「暗号資産」に変更

③2019年法改正(赤字で記載)及び今般の政府令改正等(青字で記載)の概要①

ⅰ暗号資産の流出リスクへの対応 ⅱ過剰な広告・勧誘への対応、ⅲ暗号資産の管理のみを行う業者への対応

④2019年法改正(赤字で記載)及び今般の政府令改正等(青字で記載)の概要②

(暗号資産の取引の適正化等に向けた対応)

ⅰ問題がある暗号資産への対応、ⅱ暗号資産を用いた不公正な行為への対応、ⅲ暗号資産に関するその他の対応

⑤2019年法改正(赤字で記載)及び今般の政府令改正等(青字で記載)の概要③

(暗号資産を用いた証拠金取引への対応)

➅2019年法改正(赤字で記載)及び今般の政府令改正等(青字で記載)の概要④(ICO(STO)への対応①)

⑦2019年法改正(赤字で記載)及び今般の政府令改正等(青字で記載)の概要⑤(ICO(STO)への対応②)

「暗号資産」の定義に関して、金融商品取引法では、資金決済法に規定される暗号資産の定義と同様とすると規定されている(金融商品取引法第2条第24項第3号の2)。

C.2023(令和5)61日施行の改正資金決済法

 2022年(令和4年)6月3日、「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律(以下「改正資金決済法」という)が成立し、2023年6月1日に同法が施行された。

【令和4年(2022年)改正資金決済法等内容】

 改正法の範囲は、資金決済法や銀行法などの多岐にわたっているが、主要な改正内容としては、一般に、以下の三本柱があるといわれている。

①高額電子移転可能型前払式支払手段への対応

②電子決済手段等(いわゆるステーブルコイン)への対応

③銀行等による取引モニタリング等の共同化への対応

 この改正法で、注目されたのは「電子決済手段」が新設されたことであり、それまで規制としてはグレーゾーンとなっていたステーブルコインに関する規制が盛り込まれた点である。

D.消費者保護の観点から資金決済法の改正の解説例

【知っておきたい資金決済法】第6回 暗号資産(1)暗号資産(現物)取引に関する資金決済法の規律の解説

【知っておきたい資金決済法】最終回 暗号資産(2)最終回 ICOは電子的なトークン(証票)を発行して行う事業資金の調達をいう。

2.わが国の資金決済法の改正経緯とその背景(概要)

(1)金融庁の説明資料(図解で詳しい。専門家向け)

2022年3月「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」

 「資金決済法の一度目の改正案は2017年4月1日に、二度目は2020年5月1日、三度目は2023年6月1日にそれぞれ施行されてきた。

 また、もう1つの規制法「金融商品取引法」も電子的なトークン(証票)を発行して行う事業資金の調達を ICO(投資型(STO))につき規制している。なお、投資型ICOは暗号資産の規制法である「資金決済法」により規制される。

 また、消費者保護、犯罪防止マネローダリング、暗号資産交換業にかかる取引に際しての情報提供義務、利用者保護措置、暗号資産交換業者の広告規制等法律以下の資金決済に関する法律施行令(平成22年政令第19号)、暗号資産交換業者に関する内閣府令(平成29年内閣府令第7号)(注7)、金融庁事務ガイドライン等極めて多岐にわたる。

(2)グローバルな暗号資産時価総額の見方と比較

 一例としてCoin Market Cop(日本語版)をあげる。

 

3.英国や米国における暗号資産の法的解釈とのわが国の法整備との基本的相違点

 以下の解説が詳しい。

(1)金融庁「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(第12回)資料

日時:令和5年11月13日(月曜日)10時00分~12時00分「事務局説明資料2(国際的な規制動向)2023年11月13日

1.国際組織における動向

2.各法域における動向

(2) 野村資本市場クォータリー2020年春号「ステーブルコインと中央銀行デジタル通貨を巡って」

4.日米の税申告における暗号資産の扱いの比較

1)米国の暗号資産の申告の扱い

① 2024.1.22 内国歳入庁( IRS)「Taxpayers should continue to report all cryptocurrency, digital asset income」を以下、仮訳する。

 納税者は引き続きすべての暗号通貨、デジタル資産収入を報告する必要がある。

 内国歳入庁は1月22日、納税者に対し、2023年の連邦所得税申告書を提出する際には、2022年の連邦税申告書と同様に、デジタル資産の質問に答え、すべてのデジタル資産関連の収入を報告する必要があることを再度注意喚起した。

 納税者は引き続きすべての暗号通貨、デジタル資産収入を報告する必要がある。

 質問は様式上部に表示される。

(ⅰ) 個人所得税申告(U.S. Individual Income Tax Return) 様式1040;(ⅱ)高齢者への納税申告(U.S. Tax Return for Seniors) 様式 1040-SR 、(ⅲ) 非居住者外国人所得税申告(U.S. Nonresident Alien Income Tax Return) 様式1040-NR

  そして表現を更新するために今年改訂した。

 質問項目は、これらの追加の様式にも以下のとおり、追加した。

(ⅳ)不動産および信託の所得税申告(U.S. Income Tax Return for Estates and Trusts)様式 1041、; (ⅴ)パートナーシップ所得の収益(U.S. Return of Partnership Income)様式1065 ;(ⅵ)法人所得税申告(U.S. Corporation Income Tax Return U.S. Income Tax Return for an S Corporation)様式1120; そして S Corporationの所得税申告 様式1120s(U.S. Income Tax Return for an S Corporation)

 様式に応じて、以下のとおりデジタル資産に関する質問はこの基本的な質問を行う。適切なバリエーションは、企業、パートナーシップ、または不動産と信託の納税者に合わせて調整される。

 「申告において、2023年中のいつでも、次のことを行ったことが対象になる。(a)(報酬、賞、または財産またはサービスの支払いとして受け取った)。または(b)販売、交換, または、デジタル資産(またはデジタル資産の金銭的利益)を処分したことが対象となる」

デジタル資産とは何か?

 デジタル資産とは、暗号で保護された分散型台帳または類似のテクノロジーに記録される価値のデジタル表現である。一般的なデジタル資産は次のとおりである。

①コンバーチブル仮想通貨(Convertible virtual currency)(注8)(注9)と暗号通貨(cryptocurrency)。

②ステーブルコイン

③非代替性トークン(NFT)。

 申告者は誰もが書式により各質問に答えなければならない

様式1040、1040-SR、1040-NR、1041、1065、1120、1120、および1120Sを提出するすべての納税者は、デジタルアセットの質問に「はい」または「いいえ」のいずれかに答える1つのボックスをチェックする必要がある。質問は、2023年にデジタル資産を含む取引に従事した人々だけでなく、すべての納税者が回答する必要がある。

いつ“はい”をチェックするのか?

 通常、納税者は次の場合に「はい」ボックスをチェックする必要がある。

 従業員がデジタル資産で支払われた場合、賃金として受け取った資産の価値を報告する必要がある。 同様に、独立した請負業者として働いており、デジタル資産で支払われている場合は、その収入をスケジュール C (フォーム 1040) の事業損益 (個人事業主) に報告する必要がある。 スケジュール C は、取引またはビジネスに関連して顧客にデジタル資産を販売、交換、または譲渡する人にも使用される。

“いいえ”をいつチェックするのか?

 通常、2023年にデジタル資産を所有しただけの納税者は、年間を通じてデジタル資産に関連する取引に従事していない限り、「いいえ」ボックスをチェックできる。アクティビティが次の1つ以上に制限されている場合は、「いいえ」ボックスをチェックすることもできる。

財布または口座にデジタル資産を保持する場合;

所有または管理する1つのウォレットまたはアカウントから、所有または管理する別のウォレットまたはアカウントにデジタル資産を転送する。または電子プラットフォームを含む、米国またはその他の実質通貨を使用したデジタル資産の購入があたる。

(2)わが国の暗号資産の確定申告時の扱い

 わが国の解説は以下のとおり、実態に合わせた解説ガイドやFAQはない。

暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)から抜粋する。

平成 30 年 11 月 (令和5年 12 月最終改訂)国税庁

  「暗号資産」とは、資金決済に関する法律第2条第14項に規定する暗号資産をいいます。また、「電子決済手段」とは同条第5項第1号から第3号までに規定する電子決済手段をいいます。

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(注1) 資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)第2条第14項:

 この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法第29条の2第1項第8号に規定する権利を表示するものを除く。

1号 物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

2号 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

(注2) 資金決済に関する法律第2条第5項 

この法律において「電子決済手段」とは、次に掲げるものをいう。

一 物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されている通貨建資産に限り、有価証券、電子記録債権法(平成19年法律第102号)第二条第一項に規定する電子記録債権、第三条第一項に規定する前払式支払手段その他これらに類するものとして内閣府令で定めるもの(流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定めるものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(第三号に掲げるもの(特定信託受益権)に該当するものを除く。)

金融商品取引法第29条の2第1項第8号

 第2条第2項の規定により有価証券とみなされる権利(当該権利に係る記録又は移転の方法その他の事情を勘案し、公益又は投資者保護のため特に必要なものとして内閣府令で定めるものに限る。)又は当該権利若しくは金融指標(当該権利の価格及び利率等並びにこれらに基づいて算出した数値に限る。)に係るデリバティブ取引についての次に掲げる行為を業として行う場合にあつては、その旨

イ 当該権利についての第2条第8項第1号から第10号までに掲げる行為又は当該デリバティブ取引についての同項第1号から第5号までに掲げる行為

ロ 第二条第8項第12号、第14号又は第15号に掲げる行為

金融商品取引法第2条2項

 前項第1号から第15号までに掲げる有価証券、同項第17号に掲げる有価証券(同項第16号に掲げる有価証券の性質を有するものを除く。)及び同項第18号に掲げる有価証券に表示されるべき権利(同項第14号に掲げる有価証券及び同項第17号に掲げる有価証券(同項第14号に掲げる有価証券の性質を有するものに限る。)に表示されるべき権利にあつては、資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)第2条第5項第3号又は第4号に掲げるものに該当するもので有価証券とみなさなくても公益又は投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるものを除く。)並びに前項第16号に掲げる有価証券、同項第17号に掲げる有価証券(同項第16号に掲げる有価証券の性質を有するものに限る。)及び同項第19号から第21号までに掲げる有価証券であつて内閣府令で定めるものに表示されるべき権利(以下この項及び次項において「有価証券表示権利」と総称する。)は、有価証券表示権利について当該権利を表示する当該有価証券が発行されていない場合においても、当該権利を当該有価証券とみなし、電子記録債権(電子記録債権法(平成19年法律第102号)第二条第一項に規定する電子記録債権をいう。以下この項において同じ。)のうち、流通性その他の事情を勘案し、社債券その他の前項各号に掲げる有価証券とみなすことが必要と認められるものとして政令で定めるもの(第7号及び次項において「特定電子記録債権」という。)は、当該電子記録債権を当該有価証券とみなし、次に掲げる権利は、証券又は証書に表示されるべき権利以外の権利であつても有価証券とみなして、この法律の規定を適用する。

一号 信託の受益権(前項第10号に規定する投資信託の受益証券に表示されるべきもの及び同項第12号から第14号までに掲げる有価証券に表示されるべきもの並びに資金決済に関する法律第2条第5項第3号又は第4号に掲げるものに該当するもので有価証券とみなさなくても公益又は投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるものを除く。)

二号 外国の者に対する権利で前号に掲げる権利の性質を有するもの(前項第10号に規定する外国投資信託の受益証券に表示されるべきもの並びに同項第17号及び第18号に掲げる有価証券に表示されるべきものに該当するものを除く。)

三号 合名会社若しくは合資会社の社員権(政令で定めるものに限る。)又は合同会社の社員権

四号 外国法人の社員権で前号に掲げる権利の性質を有するもの

五号 民法(明治29年法律第89号)第667条第1項に規定する組合契約、商法(明治32年法律第48号)第535条に規定する匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号)第3条第1項に規定する投資事業有限責任組合契約又は有限責任事業組合契約に関する法律(平成17年法律第40号)第三条第一項に規定する有限責任事業組合契約に基づく権利、社団法人の社員権その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)のうち、当該権利を有する者(以下この号において「出資者」という。)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)を充てて行う事業(以下この号において「出資対象事業」という。)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であつて、次のいずれにも該当しないもの(前項各号に掲げる有価証券に表示される権利及びこの項(この号を除く。)の規定により有価証券とみなされる権利を除く。)

イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利

ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利(イに掲げる権利を除く。)

ハ 保険業法(平成7年法律第105号)第2条第1項に規定する保険業を行う者が保険者となる保険契約、農業協同組合法(昭和22年法律第132号)第十条第一項第十号に規定する事業を行う同法第四条に規定する組合と締結した共済契約、消費生活協同組合法(昭和23年法律第200号)第十条第二項に規定する共済事業を行う同法第四条に規定する組合と締結した共済契約、水産業協同組合法(昭和23年法律第242号)第11条第1項第12号、第93条第1項第6号の二若しくは第100条の2第1項第1号に規定する事業を行う同法第2条に規定する組合と締結した共済契約、中小企業等協同組合法(昭和24年法律第181号)第9条の2第7項に規定する共済事業を行う同法第3条に規定する組合と締結した共済契約又は不動産特定共同事業法(平成6年法律第77号)第2条第3項に規定する不動産特定共同事業契約(同条第9項に規定する特例事業者と締結したものを除く。)に基づく権利(イ及びロに掲げる権利を除く。)

ニ イからハまでに掲げるもののほか、当該権利を有価証券とみなさなくても公益又は出資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定める権利

六号 外国の法令に基づく権利であつて、前号に掲げる権利に類するもの

七号 特定電子記録債権及び前各号に掲げるもののほか、前項に規定する有価証券及び前各号に掲げる権利と同様の経済的性質を有することその他の事情を勘案し、有価証券とみなすことにより公益又は投資者の保護を確保することが必要かつ適当と認められるものとして政令で定める権利

(注3) 価格の安定性を実現するように設計された暗号資産(仮想通貨)のこと。裏付け資産がないため価格変動が激しく、決済手段としての活用が進んでいない暗号資産の普及を促し、実用性を高めるために設計された。英語表記はStablecoin。

 価格を安定させる仕組みの違いから、ステーブルコインは主に4つの種類に分けられる。米ドルなどの法定通貨を担保にコインを発行し、その法定通貨との交換比率を固定する「法定通貨担保型」、特定の暗号資産を担保にコインを発行し、価格を連動させる「暗号資産担保型(仮想通貨担保型)」、金や原油などの商品(コモディティ)価格の値動きに連動させる「コモディティ型」、アルゴリズムによってコインの流通量を調整する「無担保型」がある。(野村証券:証券用語解説集から抜粋)

(注4)ステーブルコインとは別に、中央銀行が発行するデジタル通貨のCBDC(Central Bank Digital Currency)がある。ステーブルコインとCBDCの違いは、ステーブルコインが民間により開発、発行される金融サービスであるのに対し、CBDCは政府が法定通貨としての価値を保証して発行される点にある。(NTT DATA の解説(前編), 解説(後編)から一部抜粋)

 なお、令和5年12月13日 財務省「CBDC(中央銀行デジタル通貨)に関する有識者会議 取りまとめ参照。

(注5) NFTとは「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」の略称で、ブロックチェーン技術を使ってデジタルデータの所有権を明確にできる技術。

 なお、解説では, ステーブルコインには法定通貨や別の仮想通貨などを担保にした「担保型」と、アルゴリズムによって価格を安定させる「無担保型」がある。

PWC 「NFTに関連する法規制と私法的な法律関係──ビジネスの発展に向けた検討」は (1)NFTに関連する法規制(2)私法的な法律関係(3)の概要解説がわが国では詳しい解説と思う。以下、一部、抜粋する。

NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)と呼ばれるものがある。NFTはデジタルデータではあるものの、複製や改ざんが事実上不可能であり、かつ、他のデジタルデータと区別される固有の特徴を有するものである。従来のデジタルデータは技術的には複製が容易であったため唯一性(オリジナルであること)の確保が非常に困難であったが、NFT自体は唯一性の確保が可能ある。

(注6) 資金決済に関する法律の一部改正(第11条関係)のうち「2.仮想通貨交換業に係る制度整備」を以下、抜粋、引用する。

 2.仮想通貨交換業に係る制度整備

(1)定義   「仮想通貨」の定義を定めることとする。 (資金決済に関する法律第2条関係)

(2)登録制の導入 ① 仮想通貨交換業(仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換等を業として行うことをいう。)は、登録を受けた法人でなければ行ってはならないこととする。  (資金決済に関する法律第63条の2関係) ② 仮想通貨交換業者の登録手続、登録拒否要件等を定めることとする。(資金決済に関する法律第63条の3~第63条の7関係)

(3)業務に関する規定の整備 ①  仮想通貨交換業者は、情報の安全管理のために必要な措置を講じなければならないこととする。 (資金決済に関する法律第63条の8関係) ②  仮想通貨交換業者は、利用者への情報提供など利用者の保護を図り、業務の適正かつ確実な遂行を確保するために必要な措置を講じなければならないこととする。(資金決済に関する法律第63条の10関係) ③  仮想通貨交換業者は、利用者の財産を自己の財産と分別して管理し、その管理の状況について、定期に公認会計士又は監査法人の監査を受けなければならないこととする。 (資金決済に関する法律第63条の11関係) ④  仮想通貨交換業者に関し、金融分野における裁判外紛争解決制度(いわ ゆる金融ADR制度)を設けることとし、紛争解決機関との間で契約を締結する措置等を講じなければならないこととする。資金決済に関する法律第63条の12、第99条~第101条関係)

(4)監督規定の整備 仮想通貨交換業者に関し、帳簿書類及び報告書の作成、公認会計士又は監査法人の監査報告書等を添付した当該報告書の提出、立入検査、業務改善命令等の監督規定を設けることとする。 (資金決済に関する法律第63条の13~第63条の19関係) (5)認定資金決済事業者協会に関する規定の整備 仮想通貨交換業者が設立した一般社団法人であって、仮想通貨交換業の適切な実施の確保を目的とすること等の要件に該当すると認められるものを、法令遵守のための会員に対する指導等を行う者として認定することができることとするなど、認定資金決済事業者協会に関する規定を設けることとする。 (資金決済に関する法律第87条、第88条、第90条~第92条、第97条関係)

 (6)罰則 仮想通貨交換業者に関し、所要の罰則規定の整備を行うこととする。(資金決済に関する法律第107条~第109条、第112条~第117条関係)

(注7) 暗号資産にかかる法令等の金融庁の暗号資産交換事業者への解説サイト

(注8) コンバーチブル仮想通貨は、取引所で法定通貨と交換できる、または正当な形態の商取引と支払いに直接使用される暗号通貨である。これらの通貨は、物理的な存在がなく、政府によって発行されないという点で、ドルやユーロなどの国が支援する通貨とは主に異なる。むしろ、分散型ブロックチェーンネットワークで実行される。ビットコイン、エーテル(注9)、リップル(Ripple/XRP)は、変換可能な仮想通貨の例である。(Investopediaから抜粋、仮訳 )

(注9) エーテルは トランザクショントークン Ethereumネットワークでの運用を容易にする。Ethereumネットワークにリンクされているすべてのプログラムとサービスには、計算能力、機器、インターネット接続、およびメンテナンスが必要である。Ethereumは、ユーザーがネットワーク上で要求された操作を実行するためにネットワーク参加者に与える支払手段である。(Investopediaから抜粋、仮訳 )

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米国の金融監督機関の暗号資産市場の急速な拡大とそのリスクに対する規制強化にかかる共同声明の内容

2024-02-12 15:34:03 | 暗号資産

 筆者は暗号資産の SECやCFTCの規制強化について1月28日付け本ブログで取り上げたが、連邦準備制度理事会 (Federal Reserve)、連邦預金保険公社 (FDIC)および通貨監督庁 (OCC) (総称して各監督省庁) は、去る1月 3日、銀行組織における暗号資産のリスクについて共同声明を発表した。

 この声明は、暗号資産業界にとって1年間の紆余曲折を経て発表された。 これら監督機関は同声明で「暗号資産セクターにおける大幅な価格変動(significant volatility)と脆弱性リスクにさらされる(exposure of vulnerabilities)」を強調している。この内容を読むとステーブルコインも含め暗号資産に対する規制強化を強く訴えている、その背景には業界全体の不安定性や詐欺事件が多発していることは間違いない。

 以下、声明文(原文)を仮訳する。

  軽減または制御できない暗号資産セクターに関連するリスクが銀行システムに移行しないことが重要である。 これらの監督機関は、以下のような銀行組織を監督している。

 暗号資産セクターに起因するリスクにさらされる可能性があり、暗号資産を含む活動に従事する銀行組織からの提案を慎重に検討している。 これまでの各政府機関のケース・バイ・ケースのアプローチを通じて、各政府機関は、暗号資産が銀行組織、その顧客およびより広範な米国の金融システムにもたらす可能性のあるリスクについての知識、専門知識、理解を構築し続けており、これによって浮き彫りになった重大なリスクを考慮すると、大手暗号資産企業数社の最近の経営破綻を受けて、当局は各銀行組織における現在または計画されている暗号資産関連の活動やリスクにさらされる可能性に関して慎重かつ慎重なアプローチを続けている。

 銀行組織は、法律または規則で許可されている限り、特定の階級またはタイプの顧客に銀行サービスを提供することを禁止または抑制されていない。 政府機関は、銀行組織による現在および提案されている暗号資産関連活動が、安全性と健全性確保、消費者保護、マネーローンダリング(筆者ブログ)および違法な金融に関する法令および規則等法的許容性、および適用される法律および規制の遵守に適切に対処する方法で実施できるかどうか、またはその方法を引き続き評価している。

  これまでの政府機関の現在の理解と経験に基づき、政府機関は、オープン、パブリック、および/または分散型ネットワーク、あるいは同様のシステム上で発行、保管、転送される暗号資産を主要な暗号資産として発行または保有することは、安全で健全な銀行業務の慣行と矛盾すること可能性が非常に高いと考えている。 さらに、これらの政府機関は、暗号資産関連の活動に集中しているビジネスモデル、または暗号資産セクターへのエクスポージャーが集中しているビジネスモデルに関して、安全性と健全性について重大な懸念を抱いている。

 各政府機関は、銀行組織が提案されているおよび既存の暗号資産関連活動に関して強力な監督上の議論を行うプロセス(注1)  を開発した。

   銀行組織は、暗号資産関連の活動が安全かつ健全な方法で実行でき、法的に許容され、適用される法律や規制を遵守することを保証する必要がある。

 これには、消費者を保護するために設計されたものも含まれる(公正な融資に関する法律や規則(Fair Lending Laws and Regulations ) (注2)や、不当、欺瞞的、または虐待的な行為や慣行に対する禁止などがある。 銀行組織は、リスクを効果的に特定し管理するために、取締役会の監督、ポリシー、手順、リスク評価、制御、ゲートとガードレール、モニタリングを含む適切なリスク管理を確保する必要がある。(注3)

 これら当局は、「暗号資産」(通常、暗号技術を使用して実装されたデジタル資産を指す)および暗号資産セクターに関連する8つの主要なリスクを特定した。 銀行組織が認識すべき主なリスクには、以下が含まれるが、これらに限定されない。

 なお、今回のブログは、共同声明原文の8つの主要なリスクの仮訳に加え、2024.1.13 Morrison & Foerster LLPの解説に基づき内容を補完した。

①暗号資産セクターの参加者間での詐欺(fraud)類型詐欺(scams)のリスク。(注4)(注5)

②保管の実務慣行、償還、および所有権に関連する法的不確実性。その一部は現在、法的手続きおよび手続きの対象となっている。

③暗号資産会社による不正確または誤解を招く表現および開示(連邦預金保険布施に関する虚偽表示、およびその他の不公平、欺瞞的、または濫用の可能性のある行為を含む)は、個人投資家、機関投資家、顧客、取引相手に重大な損害を与える原因となる。

④暗号資産市場の大幅な乱高下。その影響には、暗号資産企業に関連する預金の流れへの潜在的な影響が含まれる。

⑤ステーブルコインの感染に対する脆弱性はリスクにさらされやすく、さらにステーブルコインの準備金を保有する銀行組織に潜在的な預金流出を引き起こす。

➅不透明な融資、投資、資金調達、サービス、運営上の取り決めなど、特定の暗号資産参加者間の相互接続に起因する暗号資産セクター内の連鎖倒産リスク(contagion risk)がある。 これらの相互連鎖は、暗号資産セクターにリスクに直さらされる銀行組織に集中的リスクをもたらす可能性もある。

⑦暗号資産業界セクターにおけるリスク管理とガバナンスの実践内容は、成熟度と堅牢性の欠如を示している。

⑧暗号資産システムの監視を確立するガバナンス機構の欠如を含むがこれに限定されない、オープン、パブリック、および/または分散型ネットワーク、または同様のシステムに関連するリスクの増大問題である。すなわち、 (1)役割、責任や責任を明確に確立するための契約や基準がないこと, (2) サイバー攻撃、機能停止、資産の紛失または機能の閉じ込め、違法な金融に関連する脆弱性等である。

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(注1) (1)OCC Interpretive Letter 1179“Chief Counsel’s Interpretation Clarifying: (1) Authority of a Bank to Engage in Certain Cryptocurrency Activities; and (2) Authority of the OCC to Charter a National Trust Bank,” (November 18,2021)

(2)FRB: 連邦準備制度の監督下にある銀行機関による暗号資産関連活動への関与の在り方

(3)FDIC: 連邦行政規則集パート 364 - 安全性と健全性の基準(PART 364—Standards for Safety and Soundness)

(注2) “Fair Lending Laws and Regulations” とは、具体的には以下の法律や関連規則をいう。

① Equal Credit Opportunity Act (ECOA)

② Equal Credit Opportunity Act (Regulation B)

③ Fair Housing Act (FHAct)

(注3) 安全性と健全性の基準を確立する省庁間のガイドライン 12 CFR 30 付則 A (OCC)12 CFR 208付則 D-1 (連邦準備制度)および 12 CFR 364(STANDARDS FOR SAFETY AND SOUNDNESS)付則A (FDIC)

(注4) 筆者なりに「fraud(詐欺)」と「Scam(類型詐欺)」につき関係サイトを参考に厳格な法解釈を試みる。

fraud(詐欺)

  他人の金銭、財産、または法的権利を奪うために、欺瞞、トリック、または何らかの不正な手段を意図的に使用すること。

 詐欺により物を失った当事者は、不正行為を行った当事者に対して損害賠償訴訟を起こす権利があり、その損害賠償には、詐欺の悪質性による懲罰または公判として懲罰的損害賠償が含まれる場合がある。 多くの場合、詐欺計画には複数の人物が関与しており、全員が損害総額の責任を負う可能性がある。詐欺行為には、その個人や団体に損害を与える、他人に対する不当な利益が内在している。 これには、契約書やその他の文書(証書など)における既知の間違いを指摘しないこと、または土地が当初理解されていた20エーカーではではなく 10 エーカーしかないことを示す調査など、伝達する義務がある事実を明らかにしないことも含まれる。 建設的な詐欺は、詐欺の意図を直接証明しなくても、法的義務違反(他人のために保有している信託資金を自分のビジネスへの投資に使用するなど)を示すことで証明できる。

 外部的詐欺は、証拠を隠したり訴訟の相手方を誤解させたりすることによって、誰かが公正な裁判などの権利を行使するのを妨げるために欺瞞が使用される場合にも発生する。 詐欺は、不正行為を行って他人から金銭、財産、または権利を奪うことを目的としているため、詐欺行為を行った者が告発され、裁判を受け、有罪判決を受ける可能性がある犯罪でもある。例えば、 境界線を越えた行為や、少額の他人の純朴さを利用した行為は法執行機関によって見逃されることが多く、被害者が「民事救済」(つまり、訴訟)を求めることを示唆している。 しかし、大部分の国民が(個人的には少額であっても)被害に遭う詐欺がますます増えており、地方検事局や司法長官事務所の消費者詐欺部門の的となっている。

(Law.com のLegal Dictionaryから抜粋、仮訳)

Scam(類型詐欺)

 誰かを欺いたり詐欺したりするように設計された詐欺的なスキームまたはトリックを指し、被害者にまず 策略、欺瞞、または虚偽の約束を伴う不正または違法な活動について話したうえで、時として金銭や財産や個人情報等につき人々をだましたりすることを目的として詐欺的な内容につき事業者または企業に説明すること。具体的には、以下の例が挙げられる。

 scamの類型区分についてはFBIサイト(注5)参照。

 なお、法律の規定文言でwire fraudやmail fraudなどはあるがscamはない。ただし、法律名では“Fraud and Scam Reduction Act”の例はある。なお、オーストラリアの「オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)」サイト解説では“Types of scams”で以下の詐欺類型をも解説している。(FTCサイトから抜粋, 仮訳する)

①自動車保証更新詐欺(Auto Warranty Scam)

 詐欺師から、自動車保証や保険契約の更新に関するセールストークの電話がかかって来る。 詐欺師は、オファーの信頼性を高めるために、あらかじめあなたの車とその既存の保証に関する情報を入手した可能性がある。

②慈善詐欺(Charity Scams)

 詐欺師は、大規模な災害の後に慈善寄付を求める電話をかけてくることがよくある。 彼らは偽の慈善団体をでっち上げたり、本物の慈善団体になりすましてお金を騙し取ったりする可能性がある。

③中国領事館員なりすまし詐欺(Chinese Consulate Scam)

 詐欺師たちは北京語を話し、中国領事館の職員を装う。 困っているという家族のためにお金を要求したり、宅配便の配達のために個人情報を要求したりすることもある。 場合によっては、その電話が犯罪捜査や刑事連絡部門に関連していると主張することもある。連邦取引委員会(FTC) 内の事務所で、他の法執行機関と協力してこれら刑事詐欺事件を訴追する。

④災害救助寄付金詐欺(筆者ブログ,参照)

 大災害の後、詐欺師が慈善団体を装い、災害支援のための寄付を求める電話をかけることがある。 寄付する前に、その慈善活動が正当なものであることを確認してください。

⑤無料試用製品トライアル詐欺

 電話で受け取った無料試用製品のオファーは、あまりにもお得すぎて真実ではない可能性がある。 クレジットカードによる少額の手数料が必要な場合があり、これによりその他の望ましくない不正請求が発生したり、試用期間が終了した後にキャンセルできなくなり、問題の製品の支払いを余儀なくされたりする可能性がある。

➅雇用/在宅勤務詐欺

 偽の求人情報、電話、求人メール、オンライン広告は、多くの場合、正規の会社名を違法に使用しているが、これらはすべて、詐欺師が求職者をだますために使用するツールである。 高額な給与を伴う即時オファーしたり、コーチング、トレーニング、認定資格の前払いの要求には常に疑いを持ち、求人情報が正当なものであると確信するまで個人情報を決して共有しないでください。 雇用詐欺の多くは、物品の前払いも提供している。 これらの小切手は頻繁に不渡りとなり、費用がかかる。

ギフトカード詐欺

 電話詐欺の明らかな兆候は、発信者がギフトカードでの支払いを要求する場合である。 多くの詐欺師は、この返金不可で追跡が難しい支払い方法を好む。

⑧祖父母詐欺(いわゆるオレオレ詐欺)

 詐欺師が困っている家族を装って電話をかけ、保釈金や病院代などをすぐに送金するよう圧力をかける詐欺の一種。

⑨助成金詐欺

 詐欺師は、あなたには政府の補助金や還付金を受け取る資格があると主張し、口座情報を提供するとすぐに当座預金口座にその補助金を転送すると持ちかけ、その情報を販売したり、あなたのお金を盗むために使用したりする。詐欺師は、政府助成金詐欺で、自分が代表していると主張する政府機関の番号を偽装する可能性がある。

⑩健康保険詐欺

 詐欺師は、偽の医療保険を割引料金で売りつける。 電話をかけてきた人は、政府関係者や保険会社になりすますために、なりすまし電話を使用することがある。 多くの場合、彼らが販売する商品は保険ではなく、医療提供者が受け付けていない医療割引カードである。 詐欺的な勧誘は一年中発生しているが、一般入学の時期には特に注意されたい。

 オーストラリアのSCAM WATCHサイトの詐欺類型も参照されたい。

Text or SMS scams

 メッセージ/SNS詐欺は、あなたの関心を捕捉しようとして、政府、あなたが取引している企業、さらにはあなた自身の家族や友人からのものであるかのように見せる。

 2023年中、最も報告された詐欺師からの連絡方法はテキストまたは SMS であった。その詐欺メッセージは、すぐに行動するよう緊急性を求めているように聞こえる。 また、多くの場合、詐欺 Web サイトに誘導するリンクが含まれている。 詐欺師は、これらの詐欺 Web サイトに入力された個人情報を盗み、それを使用してお金を奪ったり、あなたの名前で詐欺を働いたりする可能性がある。

 これらのメッセージを本物のように見せかけるために、詐欺師は企業や知り合いの電話番号と送信者 ID を偽装 (コピー) する。 この詐欺メッセージは、組織からの実際のメッセージと同じメッセージ文で表示されることもあるため、見分けるのがさらに困難になる。

電話による詐欺  (筆者ブログ参照)

  詐欺電話は迷惑なだけではない。2023年、オーストラリア国民は詐欺電話により 1 億 4,100 万ドル(約136億7,700万円)の損失を被つた。

 報告されている詐欺の 3 件に 1 件は電話によるものである。 詐欺師が、有名組織からの電話をかけてくる。 これには、政府機関、法執行機関、投資および法律事務所、銀行、通信プロバイダーが含まれる。

 彼らは、あなたにすぐに連絡して行動することを緊急性を感じさせる。 彼らは、あなたの個人口座や銀行口座の詳細、あるいはあなたのコンピュータへのリモート アクセス手段を提供するようあなたを説得しようとするかもしれない。 発信者は、あなたの名前や住所など、あなたに関する詳細をすでに知っている可能性もある。

電子メール詐欺

 詐欺メールは本物のように見えるが、お金や情報を盗むことを目的としたリンクや添付ファイルに注意されたい。

 オーストラリア人は2023年、電子メール詐欺により 7,700 万ドル(約74億6,900万円)を失った。 詐欺師は、政府、警察、企業からのメールを装って「緊急」メールを送信する。

 彼らは実際の組織と同じロゴと同様の電子メールアドレスを使用する。 詐欺師は、組織や企業の電子メールアドレスをコピーまたは「なりすまし」させ、詐欺メールをより本物に見せることもできる。

ソーシャルメディア詐欺

 ソーシャル メディアで突然連絡してくる人物を疑うべきである。ここでは詐欺による被害が増加している。

 オーストラリア人は2023年、ソーシャルメディア詐欺による被害額が8,020万ドル(約77億7940万円)だったと報告しており、前年比43%増となった。

 詐欺師はソーシャル メディア、メッセージング プラットフォーム、アプリに偽のプロファイルを設定する。 彼らは、政府、実在の企業、雇用主、投資会社、あるいは友人、家族、恋人の関係者のふりをする。

ウェブサイト詐欺

 詐欺師は、オンラインで誰かになりすまして、ユーザーを騙して信頼させることができる。

 オーストラリア人は2023年、オンライン詐欺により 7,400 万ドル(約71億7,800万円)を失った。

 詐欺師は、有名ブランドに見せかけた偽の Web サイトを作成する。 また有名人になりすまして、商品やサービスを推奨しているかのように見せかけ、 彼らはあなたを信頼させるために偽のレビューを使用する。

 偽の警告やエラー メッセージを含む広告バナーやポップアップ ウィンドウにより、行動を迫られる可能性もある。

訪問・対面詐欺(In-person scams)

 詐欺師はあなたの家のドアをノックしたり、公共の場であなたに近づき、何かを行うようう要求することがある。 彼らは次のようなことをするかもしれない。

(ⅰ)商品やサービスの前払いを要求する。

(ⅱ)個人情報を入手するためのアンケートへの回答を強要する。

(ⅲ)訪問販売の中には詐欺ではない場合もある。 正しい訪問販売員等からの問い合わせを行うことで、あなたの権利と保護について詳しく知ることができる。

脅迫と恐喝詐欺

  詐欺師はお金を払えと脅迫する。

 あなたを脅迫する人にお金を渡す前に、声を上げて報告してください。

 詐欺師は組織の一員であるふりをして、お金を支払う必要があると主張する。 すぐに支払うことに同意しない場合、逮捕、国外追放、さらには身体的危害を与えると脅迫される可能性がある。

 また、お金を送らない限り、あなたが送った裸の写真やビデオを共有すると脅迫することもある。

 脅しによって圧力をかけられないでください。 立ち止まってそれが本当かどうか確認してください。

予想外のお金の入手詐欺

 権利、リベート、賞金にアクセスしようとしてお金を失わないようにしてください。 無料のお金のオファーには多額の費用がかかる。

 詐欺師は、あなたが受け取ることを予期していなかったお金や賞金を受け取る義務がある、または受け取る権利があるとあなたに信じ込ませようとする。

 詐欺師は、お金や賞金を受け取るために、料金を支払うか、財務情報や身元情報を提供するよう求める。 無料のお金はなく、それを手に入れようとするとさらに多くのお金を失うことになる。

(注5)FBIのscam 類型解説を以下、引用する。

Common Scams and Crimes

Adoption Fraud
②Business and Investment Fraud

③Business Email Compromise

Charity and Disaster Fraud 

Consumer Fraud Schemes

➅Elder Fraud

⑦Election Crimes and Security

⑧Holiday Scams

*****************************************************:

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米国SECは17億ドルの暗号資産ピラミッド計画「ハイパーファンド」創設者とトッププロモーターを詐欺容疑で起訴 詐欺的な暗号資産スキームに対する厳しい警告

2024-02-06 14:53:59 | サイバー犯罪

 米国の証券取引委員会(SEC)は1月30日、世界中の投資家から17億ドル(約2,499億円)以上を調達したハイパーファンド(HyperFund)として知られる詐欺的な暗号資産ねずみ講(pyramid scheme)に関与したとして、シュエ・サムエル・リー(Xue Samuel Lee a/k/a Sam Lee )別名サム・リー)(35歳)ブレンダ・インダ・チュンガ(Brenda Indah Chunga Brenda Chunga)別名ビットコイン・ボーティ)(43歳)を起訴した。

 今回のブログはSECのリリースの解説を中心に置きつつ、法執行機関がゆえに説明内容が限定されていることから、読者をロースクールの学生レベルを確保すべく、米国のJURIST等ロースクールの解説に準じつつ、補完的説明を試みた。

 なお、筆者は2020年7月9日付けブログで、FBIの証券詐欺の詳しい解説を行うとともに、2021年9月6日ブログで今回と同様の暗号資産のねずみ講詐欺事件につき解説している。

1.SEC起訴リリースの詳細

 SECの訴状によると、リー氏とチュンガ氏は2020年6月から2022年初めにかけて、ハイパーファンド(Hyper Fund)の「会員制」パッケージを宣伝し、ハイパーファンドの想定される暗号資産マイニング事業やフォーチュン500企業との提携などから投資家に高い収益を保証すると主張した。しかし、訴状が主張しているように、リー氏とチュンガ氏は、ハイパーファンドがねずみ講(pyramid scheme)(注1)であり、投資家から受け取った資金以外に本当の収入源がないことを知っていたか、あるいは知らなかったという無謀な行為であった。結果、 2022年、ハイパーファンド計画は崩壊し、投資家は出資額の引き出しができなくなった。

 メリーランド州地区の連邦地方裁判所に提出されたSECの訴状は、リー氏とチュンガ氏を連邦証券法の詐欺防止および登録規定に違反した罪で告発している。訴状は、①被告がマルチ商法や暗号資産の提供に参加することを妨げる行為に基づく恒久的な差止めによる救済(permanent injunctive relief)、②不正に得た利益の剥奪(disgorgement of ill-gotten gains)および判決前の利益(prejudgment interest)(注2)、および③民事罰(civil penalties)を求めている。

  チュンガ氏は告訴に対し和解し、今後の告発条項違反やその他の特定の行為を永久に禁止され、将来裁判所が決定する額の不正に得た利益の剥奪(disgorgement of ill-gotten gains)および判決前の利益(prejudgment interest)および民事罰を支払うことに同意した。この和解には裁判所の承認が必要となる。なお、 リー氏に対する告訴は今後訴訟される予定である。

 これと並行して、メリーランド州連邦検事局は1月30日、リー氏とチュンガ氏に対する刑事告訴を発表した。 チュンガ氏は証券詐欺電信詐欺(注3)(注4)(注5)の共謀について有罪を認めた。

2.SEC 起訴の根拠法と条文

 SEC起訴状にもとづき以下で補完的に解説する。

1933年証券法第20(b)条, 20(d), and 22(a) of the Securities Act, 15 U.S.C. §§ 77t(b)、 77t(d), and 77v(a)

1934年証券取引所法Sections 21(d) and 27(a) of the Exchange Act, 15 U.S.C. §§ 78u(d) and 78aa(a).

3.米国の証券詐欺規定の概観

 証券詐欺:法律と罰則についてローファームEisner Gorin LLPの解説等から抜粋、仮訳する。

(1)証券詐欺とは何か?

 「セキュリティ(security)」という用語は、地方債、企業株、紙幣、投資契約など、さまざまな種類の投資を含む幅広い用語である。証券詐欺は、これらの投資の1つに関与している誰かが、金銭的な優位性を得るために嘘をついたり、騙したり、盗んだりしたときに発生する。証券詐欺はホワイトカラー犯罪と見なされ、個人だけでなく、専門の金融アナリスト、証券ブローカー、企業、さらには政府機関による活動も含まれる。

(2)証券詐欺に関する州法および連邦法

 連邦政府は、証券取引委員会(SEC)を通じて、証券詐欺の起訴を担当する主要な政府機関である。ただし、各州には、証券詐欺に関する独自の法律と独自の州証券委員会もある。証券詐欺犯罪は州または連邦法にもとづきどちらかで罰せられるかもしれないが、 彼らはしばしば 連邦犯罪として起訴される。

2つの主要な連邦法—「 1933年証券法」と「1934年証券取引法」は、証券詐欺事件が起訴される主要な連邦法である,

(3)主な証券詐欺の種類

株式と証券に関する不実表示(Misrepresentation)

 最も単純なレベルでは、証券で利益を上げることは、証券の現在の価値を知り、その価値が将来どうなるかを判断することにかかっている。証券の価値がどうなるかを知っているトレーダーは、その将来の価値から利益を得るように設計された投資を行うことができる。状況によっては、人は虚偽の記述や不実表示を行うことによってセキュリティの価値を操作しようとすることができる。たとえば、ソーシャルメディアで会社について故意に虚偽の 記述を行うブローカーは、株式への予想される影響から利益を得るために、証券詐欺を犯す。

インサイダー取引

 会社に関連付けられており、一般には公開されていない情報を知っていて、証券を売買して利益を上げようとする人は 多くの状況でインサイダー取引を行う。たとえば、企業の人物が会社の株式を売買し、その活動を証券規制当局に適切に報告する場合など一部のインサイダー取引は合法であるが、 他の形のインサイダー取引は違法である。

 たとえば、会社で働いていて、いったん明らかになると会社の株価が変わる秘密を知った場合、その情報を合法的に使用して証券を取引することはできない。その情報を使用して取引を選択した場合、あなたは証券詐欺の罪を犯したことになる。友人にその情報について話し、友人が取引を行った場合、当該友人も証券詐欺の罪を犯したことになる。

チャーニング(過剰な取引) Churning

 チャーニングは、ブローカーにより多くの手数料または手数料を生み出すことを意図して、クライアントに過度の取引に従事するよう説得する証券ブローカーの取引慣行をいう。ブローカーは受託者であり、ブローカーはクライアントの最善の利益になることを行う法的義務があり、ブローカーの利益のみに行動してはならないということである。ブローカーがチャーニングに従事するときは、彼または彼女はクライアントの最善の利益を念頭に置くことに失敗し、代わりにブローカーまたはブローカーに利益をもたらすためだけに取引を行うものである。

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(注1) 米国の証券詐欺とは何か? FBIの解説等をもとに、仮訳する。

 証券詐欺には、株や商品の売買、取引における虚偽の表示が含まれる。証券詐欺とは、株式、取引、または投資における窃盗、横領、または偽りのふりによる窃盗を含む広範な用語である。 米国の有価証券には、株式、企業の金銭的利益、手形や利息証書などが含まれる。 証券詐欺事件の種類には次のようなものがある。なお、筆者独自に補筆する。

インサイダー取引(Insider trading)

ねずみ講(Ponzi schemes) :基本的に、ポンジスキームは投資詐欺で新しい投資家から集めた資金を昔から投資をしていた投資家に支払うようになっている。このようなスキームの問題は、最後の方の投資家にはまったく支払いがなされないことである。

ポンプアンドダンプ方式(Pump-and-dump schemes):安く購入した株式をより高い価格 (ダンプ) で販売するために、虚偽の誤解を招く肯定的な記述 (ポンプ) によって所有する株式の価格を人為的につり上げる証券詐欺をいう。スキームの運営者が過大評価された株式を「処分」(売却)すると、価格が下落し、投資家は損失を被る。

前払い手数料詐欺(Advance processing fee scams):通常、少額の前払いと引き換えに被害者に多額の金銭のかなりの部分を約束し、詐欺師らはその支払いが多額の支払いに使用されると主張する。被害者がお金を支払った場合、詐欺師は被害者に支払わせるために一連の追加料金をでっち上げるか、そのまま姿を消す。

株価操作(Stock manipulation)

有価証券報告書詐欺(Financial report fraud)

証券会社による横領(Embezzlement by stockbrokers)

不正会計詐欺(Accounting fraud)

インターネット詐欺(Internet fraud)

高利回り投資詐欺(High-yield investment fraud)

ねずみ講(Pyramid schemes):そのスキームに参加するメンバーに対して報酬や支払いを約束するだけでなく、そのメンバーが新しいメンバーを誘うことに対しても報酬や支払いを約束するビジネス形態をいう。

前払い金詐欺(Advance fee schemes):貸付、契約、投資、ギフトなど、より価値の高いものを受け取ることを見越して被害者がお金を払い、その見返りはほとんどない、または、まったくないという時に発生する詐欺。

外国為替詐欺(Foreign currency fraud):外国為替市場での取引で高い利益が期待できるとトレーダーを騙すために使用される取引スキーム。外国為替市場はよく言ってもゼロサムゲームである。 言い換えれば、あるトレーダーが勝てば、別のトレーダーは負けとなる。ただし、FXはすべてのトレーダーのパフォーマンスから仲介手数料やその他の取引コストが差し引かれるため、マイナスサムゲームである。

 Late Day Trading:時間外に取引を実行し、その日の市場取引の終了前に実行されたかのように記録する方法をいう。レイトデイ・トレーディングでは、他の市場参加者がトレーディング時間中に利用できなかった可能性のある市場情報をトレーダーが使用できる。

 深夜の取引に従事することは重罪であり、そうすることは証券詐欺の民事上および刑事上の告発につながる可能性がある。

(注2) ”prejudgment interest”につき、筆者ブログ参照。

(注3) 18 U.S.C§ 1343-連邦電信詐欺法Fraud by wire, radio, or television

解説文及びDOJ解説文を抜粋、仮訳する。

 電信詐欺とは、あらゆる種類の電子通信を使用して犯罪を犯すことと定義される。通信が州の境界線または国境を越えた場合、電信詐欺は連邦犯罪として起訴される。この法律は、被告が州間通商で電信通信を送信することにより、偽装を使用して金銭または財産を詐欺または取得するスキームを考案したことで有罪判決を受けた場合、厳しい罰則を科す。

 しばしば Wire Fraud やMail Fraudは同じ事件で起訴される。(注4)特に、加害者は有罪判決を受けるために意図された犯罪を完了する必要はない。つまり、“試みられた“Wire Faud”詐欺は、完了したものと同じペナルティが科される。

1.Wire Fraud成立の要素

(1)詐欺のスキームまたは巧妙さ、 (2)被告が自発的かつ意図的に別の金銭を詐欺する計画を考案または参加したこと。 (3)被告が詐欺の意図(mens rea)(注5)で実際に行ったことたこと、 (3)州間電信通信が使用されることが合理的に予見可能であったこと。 (4)州間電信通信が実際に使用されたこと。

2.Wire Fraudの具体的手口例

Work-at-home schemes:インターネットで宣伝した在宅勤務高収入スキーム

Fraudulent online:偽の投資機会を提供する詐欺オンライン

Phishing scamsフィッシング詐欺: 不正な電子メールを送信して、パスワード、クレジットカード番号, および社会保障番号などの個人情報を開示するように人々を欺くなど、アカウントへの不正アクセス権を取得する。

Telemarketing fraudテレマーケティング詐欺: クレジットカード情報を放棄するよう説得するために隠匿している人々に電話をかけるなど,

False radio or TV ads:虚偽のラジオまたはテレビ広告:メデイアを利用して 存在しない、または著しく誇張された製品を販売する。

3.Wire Fraudの罰則

18 U.S. Code § 1343 - Fraud by wire, radio, or televisionの条文を仮訳する。

 高額な罰金や連邦刑務所での最長20年の拘禁刑が科せられる。また、被告は銀行のような金融機関に関係している場合、被告は最高30年の拘禁刑または罰金最高100万ドル(約1億4700万円)が科せられ、またはこれらの併科もある。

 特に、上記の文はWire Fraudの各訴因(カウント)に適用され、すべての個別のカウントは刑務所でかなりの時間を追加する可能性があり,たとえば、複数の被害者との10件の個別のWire Fraudで有罪判決を受けた場合、被告は最大200年の拘禁刑が科せられる。

(注4) Mail FraudとWire Fraudの明確な法的区別についてはサイトを参照されたい。

(注5)ラテン語“mens rea”とは「犯罪の意図」(故意)を指す。 ラテン語からの直訳は「罪深い心」である。 メンズレア(“mens rea”)とは、特定の犯罪で特定の被告に有罪判決を下すために法的に必要とされる精神状態をいう。 刑事裁判で有罪を証明するには、通常、犯罪行為(犯罪の身体的要素)に加えて、犯罪者の“mens rea”)領域を確立することが必要である。 検察は通常、被告が有罪の精神状態で犯罪を犯したことを合理的な疑いを超えて証明しなければならない。 かつて連邦最高裁ホームズ判事が「犬でも、つまずくことと蹴られることの違いは知っている」と意図の概念を説明したのは有名である。

 “mens rea”の要件は、人は罪の意識を持ち、自分の違法行為を認識していなければならないという考えを前提としている。ただし、被告は、犯罪を犯すために自分の行為が違法であることを知る必要はない。むしろ、被告は「自分の行為が犯罪の定義に適合する事実」を認識していなければならない。(Cornell Law Schoolの解説から抜粋、仮訳)

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AI立法 のトレンド: 米国の州法案の発展を概観

2024-02-03 06:35:40 | AI

 筆者は本ブログでAIへの取組につき以下のテーマを取り上げた。

①2023.12.16 「NISTからこのほど公開された『NIST SP 800-226 草案』および『差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案』に対するパブリックコメントの背景と意義」、 ②2023.12.22 「米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST『情報提供依頼文書』の具体的内容」、③2023.12.24 「米国国立科学財団 (NSF) 工学局 (ENG)の人工知能(AI)に関連する研究および教育提案の提出を積極的に奨励する具体的ガイダンスの発出」である。

 ところで、アトランダムであるが、本ブログにおいて今後、筆者がAI関連で取り上げたいと考えるテーマを以下で挙げる。

(1)米国連邦ベースでのAI規制法案の立法動向、(2) FTC(連邦取引委員会)のAI企業にプライバシーと機密保持の約束を守るよう警告ならびに商品先物取引委員会(CFTC)の顧客宛て勧告:人工知能詐欺に注意するよう警告、(3)EUの取組み(A European approach to excellence in AI; A European approach to trust in AI; European proposal for a legal framework on AI; Important milestonesの概観や欧州委員会独自の取組み(3)英国の取組みとして2023 年 3 月 29 日付け英国情報コミッショナー局 (ICO)のAI と個人データ保護に関する最新のガイダンスを発表、等である。

〇グローバルな法律事務所: Covington & Burling LLPの律情報プラットフォームLexblog21日付けblogを以下、仮訳する。なお、個別州法案の具体的内容についてはリンク先で直接確認されたい。

 本ブログの著者はYaron Dori、August Gweon、Jayne Ponderである。

Yaron Dori 氏

Jayne Ponder 氏

 米国の政策立案者は、特に州レベルで人工知能(AI)を規制する法案に関心を示し続けている。 連邦議会における包括的な AI 法案と枠組みは大きな注目を集めているが、州議会も AI を規制する独自の取り組みを進めている。

 このブログ投稿では、過去 1 年間に導入された州の AI 法案の主要テーマをまとめている。 新しい州議会が始まり、今後数か月間でさらに活発な活動が見られることが予想される。

(1)通知義務要件(Notice Requirements:): 州の AI 法案の多くは、個人への通知に重点を置いている。 一部の法案では、雇用におけるAIの使用など、個人の権利や機会に影響を与える意思決定のために自動化された意思決定ツールを使用する場合、対象となる事業体に個人に通知するよう義務付けることになる。

 たとえば、コロンビア特別区の「アルゴリズムによる差別停止法」(B 114) では、情報源に関する情報の提供を含め、対象事業体がアルゴリズムによる適格性の決定において個人情報をどのように使用するかについての通知が必要となり、また、「有害な行為」をもたらすアルゴリズムによる適格性の決定の影響を受ける個人に通知する等別途通知が必要となる。

 同様に、マサチューセッツ州の「陰惨な労働環境を防止法」(HB 1873) も同様に、自動意思決定システムを使用する雇用主またはベンダーに対し、システムを導入する前に労働者に通知することを義務付けており、「重大な更新または変更がある場合システムに加えられた変更」には追加の通知を必要とさせる。さらに、他の AI 法案は、AI エコシステム内の事業体間の開示要件に焦点を当てている。たとえば、ワシントン州議会は、自動意思決定ツールの開発者に対し、ツールの「既知の制限」、ツールのプログラムやトレーニングに使用されるデータの種類、およびツールの使用方法やいかにツールの導入者に対する有効性が評価されるか等に関する文書の提供を義務付ける法案 (HB 1951) を検討している。

 (2) AI ツール開発における影響評価(Impact Assessments): 州の AI 法案のもう 1 つの重要なテーマは、AI ツール開発における影響評価の要件に焦点を当てている。 これらの評価の要求規定は、潜在的な差別、プライバシー、正確性への損害を軽減することを目的としている。

 たとえば、バーモント州法案 (HB 114) では、自動化された意思決定ツールを使用する雇用主に対し、雇用関連の意思決定にツールを使用する前にアルゴリズムによる影響評価を実施することが求められている。

 さらに、ワシントン議会で審議中の前記の法案 (HB 1951) では、AI導入者に対し、アルゴリズムによる意思決定の合理的に予見可能なリスクの評価や実施される安全措置等、自動化された意思決定ツールの影響評価を完了することが求めている。

(3)個人の権利保護(Individual Rights): 州議会は、消費者が特定の個人の権利を行使するための要件を AI 法案に盛り込むことも求めている。 たとえば、いくつかの州の AI 法案では、自動化された意思決定に基づく決定を「オプトアウト」したり、そのような決定について「人間による再評価を要求」することで個人の権利を確立する予定である。

 例えば、カリフォルニア州 (AB 331)ニューヨーク州 (AB 7859) は、自動化された意思決定ツールが結果的な問題を解決するために使用されている、またはその制御要因となっている場合に、個人が「代替選択プロセス」を要求できるように AI 導入業者に義務付ける法案を検討している。

  同様に、ニューヨークの AI 権利章典 (S 8209)は、人間による代替を支持して自動システムの使用を「オプトアウトする権利」を個人に与えることにmなっている。

(4)ライセンスと登録制度(Licensing & Registration Regimes): 少数の州議会が AI のライセンスと登録の要件を提案している。 たとえば、ニューヨーク州の高度 AI ライセンス法 (A 8195) では、特定の「高リスクの高度 AI システム」のすべての開発者および運用者に対し、使用前に州にライセンスを申請することが義務付けられている。 他の法案では、AI システムの特定の用途に登録が必要である。 たとえば、イリノイ州議会で導入された修正案 (HB 1002) では、病院が使用する診断アルゴリズムの州による認証が必要になる。

(5)  生成 AI とコンテンツのラベル付け(Generative AI & Content Labeling): 州の AI 法におけるもう 1 つの顕著なテーマは、生成 AI システムによって生成されたコンテンツのラベル付けに焦点を当てていることである。

 たとえば、ロードアイランド州は、生成 AI コンテンツを認証するために「独特の透かし(distinctive watermark)」を要求する法案 (H 6286) を検討している。

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米国のデジタル資産のSECやCFTCの規制状況

2024-01-28 14:07:58 | 暗号資産

 Green Growth CPAs Inc.のレポートCrypto and the Law: SEC, CFTC, and State Jurisdictions Explainedを抜粋、仮訳する。

 このレポートはローファームやロースクールでないことから必ずも読者向け補足説明は十分でない。筆者の判断で注書き等補足した。

 なお、商品先物取引委員会(CFTC)のデジタル資産規制に関する説明は筆者ブログを参照されたい。

 米国における規制監督機関や大統領府等の具体的動きの中で暗号資産関係の出来事(事件、米国規制等)については、SBI金融経済研究所の解説を参照されたい。

(1)証券取引委員会(SEC)および米国の証券規制法

 暗号資産は、従来の資産カテゴリに正確かつ明確に適合しない独自の資産である。それらを規制するために、SECは既存の法的枠組みを利用している。このアプローチの中心は ハウエイテスト(Howey Test) (注1)、 1946年の連邦最高裁判所の訴訟判決 (注2) (注3)から派生した基準で、証券の販売を他の取引と区別するために使用された法理である。

 資産が一般的な企業へ“の投資である場合, 他の人の努力から得られる利益を合理的に期待する”それは証券と見なされ、証券取引委員会(SEC)の管轄下にあり、連邦証券規制法に準拠する必要がある。

 このため、SECの法規制のスタンスは、暗号通貨の性質によって異なる。たとえば、ビットコイン、エーテル、ライトコインは証券ではなく商品と見なされるが、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)で販売されたトークンなどの他の商品では, ハウエイテストの基準を満たしている場合、証券と見なされる場合がある。

 SECは、規制監督機関として暗号資産業界の証券法の遵守を確保するうえで断定的である。これにより、提供物を証券として登録できなかった暗号資産作成者およびプラットフォームに対して、多数の訴訟(2023年には23件)が提起された。これらの訴訟は、暗号業界の他のプレーヤーへの警告として機能し、将来の執行措置の先例を設定するものである。

(2) 商品先物取引委員会の暗号資産の監視

 商品先物取引委員会(CFTC)は、 米国の商品デリバティブ市場の監督を担当する主要な規制当局である。CFTCは、“商品”を含む州間取引、および先物、スワップ、特定のタイプのオプションを含む商品デリバティブ市場に対する独占的な規制当局に幅広い管轄権を持っている。

 CEAの下では、CFTCは、誰がデリバティブを取引できるか、どこでどのように取引が行われるか、およびそれらが実施される条件を規制する権限を持っている。CFTCは、市場仲介業者を登録および規制する自主規制組織である“National Futures Association(NFA)とも連携して機能している。

 米国の抜本的な金融制度改革法である「2010年ドッド・フランク・ウォール街改革および消費者保護に関する法律(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)」(注4)は、「1936年商品取引所法Commodity Exchange Act (CEA)」を改正し、CEAはスワップおよびオプションの店頭(OTC)市場を規制するCFTCの権限を拡大した。これらの規制は、デジタル資産を含むOTCデリバティブ取引にも同様に適用される。ただし、適格な契約参加者(ECP)のみが暗号通貨でスワップを取引できる。

 CFTCの管轄は、取引所市場を超えて小売商品市場を含むように拡大している。レバレッジド、マージン、またはファイナンスされた商品取引に従事する非ECPを含む小売商品取引は、CEAの特定の規定の対象となる。ただし、28日以内に商品が実際に配達される、または商品を配達する強制可能な義務を生み出す特定の契約は、ほとんどのCFTC規制から免除される。

 デジタル資産と暗号通貨は、CEAでは“商品”として明示的に定義されていないが、 CFTCは、ビットコインと他の仮想通貨が商品であり、その執行権限に該当するという2015年の和解命令で表明した。この立場は2018年の地方裁判所の決定によって支持された。CFTCは、デジタル資産のスポット市場に対する規制当局を引き続き主張し、現金デジタル資産商品市場の規制フレームワークを開発する立法当局の擁護者と述べている。

(3)暗号資産の連邦金融監督機関の評価

 連邦準備制度(FRB)、連邦預金保険公社(FDIC)、財務省・通貨監督庁(OCC)などの金融監督規制当局も、暗号資産によってもたらされるリスクに対処する必要性を認識している。2023年1月3日に発表された共同声明とガイダンスで、これらの規制当局は、暗号資産業界から銀行部門への各種リスクの伝染を防ぐことの重要性を強調した。

 これらの規制当局が提供するガイダンスでは、銀行組織が適切なリスク管理を実証し、暗号資産関連の活動に従事する前に事前に通知する必要がある。規制当局は、銀行がこれらの活動に安全かつ健全に参加する能力を評価する。この共同声明は、以前の規制ガイダンスに基づいており、一般に暗号セクター、その参加者、および暗号企業に関連するリスクに関する懸念を反映している。

 これら連邦の健全性規制当局によって提供されたガイダンスは、暗号関連の活動を規制の範囲外に留めることを好むことを示している。このアプローチは、安全性と健全性に対する認識されたリスクが銀行システムに入るのを防ぐことを目的としているが、このスタンスは、シャドウ暗号バンキングシステムをさらに発展させる可能性がある。

 2023年1月の共同声明は、規制された金融機関と暗号セクターの間の関係に負担をかける可能性がある。暗号業界に関連する認識されたリスクは、銀行’暗号パートナーおよび顧客のリスクを軽減し、フィンテック・バンキングモデルを採用している従来の銀行に影響を与える可能性がある。

 さらに、暗号関連の活動を連邦規制の境界の外に押し出すことにより、前記共同声明は州の規制当局が暗号規制をリードするための扉を開いた。ワイオミング州やニューヨーク州(注5)、カリフォルニア州 (注6)等は、管轄区域内で活動する暗号企業向けの包括的な法規制フレームワークをすでに開発している。

20231月の共同声明の主な要点

銀行等のバランスシートのリスクの制限:規制当局は、オープンでパブリックな分散型ネットワーク上で暗号資産を保有または発行することは、安全で健全な銀行業務の慣行に矛盾すると主張しています。 この立場は、そのようなネットワーク上で転送される暗号資産にも拡大し、従来の資産のトークン化された表現を含む可能性があります。

システミックリスクと伝染リスク: 規制当局は、規制された金融システム内の伝染リスクを軽減することの重要性を強調しています。 彼らは、仮想通貨セクターのリスクが銀行システムに移されるべきではないと警告している。

③安全性と健全性における集中リスク:暗号資産に関わる企業へのサービス提供に重点を置いている銀行組織は、安全性と健全性に関する重大な懸念に直面しています。 規制監督当局は、暗号資産セクターへのエクスポージャーが集中するビジネスモデルに懸念を表明している。

④市場リスク:共同声明では、暗号通貨セクターに関連する個人投資家、機関投資家、顧客、取引相手に対するリスクを強調している。 これらのリスクは伝統的に市場規制当局の範囲内にあったが、現在では健全性にかかる規制当局にも関連するものとして認識されている。

⑤分散型金融のリスク:規制当局は、集中型暗号資産取引所に代わるリスクの低い代替手段と見なされていることが多い分散型金融について懸念を表明している。 分散型金融において単一の第三者に依存していないからといって、これらの活動に関連するリスクが排除されるわけではない。

(4) State Regulations

(5) Congressional Initiatives

の仮訳は略す。

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(注1) DMM Bitcoin「暗号資産(仮想通貨)が証券に該当するかを判断するハウェイテストとは」から引用する。(リンクは筆者が行った)なお、法律的な解説としてはFind Law の“What Is the Howey Test?”を参照されたい。

 「ハウェイテスト(Howey Test)」は、特定の取引が「投資契約」という有価証券取引の定義の一つに該当するかどうかを判定するアメリカにおけるテストの一つである。また、金融資産が有価証券に該当するかを判断する規定の一つにもなっている。

 ハウェイテストは、ある取引がアメリカの「1933年証券法(Securities Act of 1933)(15 U.S. Code Chapter 2A - SECURITIES AND TRUST INDENTURES)」および「1934年証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934)(15 U.S. Code Chapter 2B - SECURITIES EXCHANGES)」に基づく開示・登録義務のある証券とみなされるかどうかを判断するためのアメリカ連邦最高裁判所の判例法理に基づいた判定テストである。

 ハウェイテストでは、特定の取引が「他人の努力から得られる利益を合理的に期待して、共通の事業に資金を投資する」場合、それは投資契約とみなし、有価証券取引であると判定される。

 アメリカでは、金融資産が有価証券に該当する場合は、SECの規制の対象になる。

(注2) ハウイーテストは、1946年に連邦最高裁判所に達したSEC対W.J.ハウイー社(W.J. Howey Co.)( 328 U.S. 293 (1946))の判決に基づいている。ハウイー社は柑橘類の果樹園の区画をフロリダの購入者に売却し、購入者はその土地をハウイーにリースバック(注3)することになった。 会社のスタッフが果樹園の手入れをし、所有者に代わって果物を販売していた。 両当事者は収益を共有した。 ほとんどの購入者は農業の経験がなく、自分で土地の手入れをする必要もなかった。

 ハウイー氏はリースバック取引の登録を怠っていたため、米国証券取引委員会(SEC)が介入した。 裁判所の最終判決は、リースバック契約が投資契約として適格であると判断した。

 最高裁判所の見解では、「証券法の目的における投資契約とは、個人が自分の資金を一般の事業に投資し、その努力のみから利益を期待させる契約、取引、またはスキームを意味する」と述べられている。

  この裁判所の判決ステートメントでは、現在 ハウイーテストとして使用されている 4 つの基準を明らかとした。

①お金の投資であること

②一般的な企業であること

③利益を期待できること

④他人の努力から得られるものであること

(Investopedia 解説「Howey Test Definition: What It Means and Implications for Cryptocurrency」から抜粋、仮訳)

(注3) リースバック( Leaseback)とは、セール・アンド・リースバック( sale-and-leaseback)とも呼ばれ、現在所有している物品(主に固定資産など)に相当するものを他に売って、そこからリースするという金融取引をいう。こうした取引の対象になるものは不動産などの固定資産や、飛行機や列車などの資本財などである。

リースバックを行なう際の当事者の理由は、これにより金融上、会計上、税務上の利点があるからである。大きな利点は二つあり、「まとまった現金を得ることが出来ること」、「維持管理などの手間を省くことが出来る」ことである。(Wikipediaから抜粋 )

(注4) 筆者ブログの(注1)にこれまでの筆者の「Dodd Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act:ウォール街改革および消費者保護に関する法律」に関するブログを引用している。

(注5) ニューヨーク州 ワイオミング州の暗号資産の法規制については「海外(米国)のステーブルコインのユースケース及び関連規制分析に関する調査 報告書」参照。

(注6) カルフォルニア州については、金融庁「海外(米国)のステーブルコインのユースケース及び関連規制分析に関する調査 報告書」参照。

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米商品先物取引委員会(CFTC)の顧客宛て勧告:人工知能(AI)詐欺に注意するよう広く国民に警告

2024-01-28 07:42:47 | AI

 米国の証券取引の監督機関であるSECや商品先物取引委員会(CFTC)の顧客教育・支援局 (OCEO)などからAI利用を謳う詐欺行為に対する消費者宛て注意勧告が頻繁に出ている。

 今回のブログは、まず(1)AI詐欺被害に遭わないためには消費者は如何なる点に留意すべきかCFTC勧告の内容を概観し、(2)規制監督機関の設置経緯や法規制、消費者教育の実態を見る、(3) AI詐欺被害に遭わないための具体的手段、方法等(4)わが国ではあまり論じられていないCFTC 顧客保護基金や内部通報に基づく報奨金制度の実態等につき言及する。

1.商品先物取引委員会(CFTC)および同委員会の顧客教育・支援局(OCEO)AI利用を謳う詐欺行為に対する消費者宛て注意勧告

 商品先物取引委員会(CFTC)の顧客教育・支援局(Commodity Futures Trading Commission’s Office of Customer Education and Outreach) (注1)は1月25日、人工知能 (AI) 詐欺について一般の人々に警告する顧客宛て勧告を発行した。 顧客向け情報支援: 今回、AI は取引BOTをマネーマシンに変えない、詐欺師たちがどのように AI テクノロジーの可能性を利用して虚偽の主張で投資家を騙し、資金を不正利用して投資家を騙す詐欺師に資金やその他の資産を引き渡すように誘惑するのかについて説明すべく以下の注意勧告を行った。

 日常生活における AI の使用が増えるにつれ、詐欺師は、ボット(BOT) (注2)(注3)(注4) 、トレード・シグナル(trade signal) (注5)アルゴリズム、暗号資産裁定取引(crypto-asset arbitrage) (注6)アルゴリズム、およびその他の AI 支援テクノロジーを使用して莫大な利益を生み出すことができると主張する。さらにソーシャル・メディア・プラットフォームと「インフルエンサー」の普及により、詐欺師が虚偽の情報を拡散することがますます容易になっている。 今回のCFTC勧告は投資家に対し、詐欺師の高額または収益保証の主張は詐欺の危険信号であり、これらの主張をオンラインで宣伝する見知らぬ人からの勧誘は無視すべきであると警告している。

 OCEO局長のメラニー・T・デヴォー(Melanie T. Devoe)氏は、「AIに関しては、この勧告は投資家に『誇大宣伝に気をつけろ』と告げている。残念なことに、AI は、悪意のある者が疑いを持たない投資家をだますための新たな手段となっている」と述べた。

Melanie T. Devoe氏

 この勧告は、投資家が潜在的な詐欺を特定して回避するのに役立ち、AI テクノロジーは未来を予測できないという注意喚起も含まれている。 また、投資家がトレーディング・ボット(Trading Bot) やトレード・シグナル・プロバイダーに資金を預ける前に、企業やトレーダーの背景を調査するなど、投資家が考慮すべき4つの重要な項目もリストアップしている。

2.商品先物取引委員会(CFTC)の顧客教育・支援局 (OCEO) について

 CTFCサイトの関連箇所を抜粋、以下、仮訳する。

(1)CFTCの概要

 CFTC は、1975 年に先物市場を規制・監督する独立行政機関として活動を開始し、以後 30年以上にわたって、急速に拡大、技術革新を続ける米国の先物市場を規制してきた。CFTC は、不公正取引や不適切な販売・勧誘行為などの違法行為に対して、強力な法執行(enforcement)権限が認められている。

CFTC は、先物業界の自主規制を尊重する立場をとりながらも、市場の効率性や公平性を害し、先物市場の経済的機能を損なうような行為に対しては、厳しい処分を行ってきた。規制と自由のバランスをとりながらの CFTC の活動については、時として規制の緩さを批判される場面があったものの、おおむね肯定的に評価されてきたといえる。

(2)OCEO

 OCEO は、CFTC の顧客保護基金 (Customer Protection Fund:CPF) を創設した金融改革法たる「ドッド・フランク・ウォール街改革および消費者保護法(Dodd Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)」の施行の一環として設立された。 CPFは、内部告発者への報奨金(award)の支払いと、商品取引所法の「顧客が詐欺やその他の違反から身を守ることを目的とした顧客教育活動」の費用を支払うために、CFTCが追加の充当や会計年度の制限なしで利用できる回転基金である。 CFTC は毎年、OCEO の顧客教育活動、内部告発プログラム、CPF に関する年次報告書を連邦議会に提出している。

  OCEO は、効果的な金融教育資料や取り組みの研究開発を通じて、顧客が詐欺や商品取引法違反から身を守るよう支援することに専念している。 OCEO は、個人投資家、トレーダー、業界団体、農業コミュニティへの支援と教育に取り組んでいる また。OCEDは、連邦および州の規制当局、消費者保護団体とも頻繁に提携している。 CFTC の顧客教育資料の完全なリポジトリ(収納物)は、https://www.cftc.gov/LearnAndProtect で閲覧できる。

 顧客およびその他の個人は、www.cftc.gov/complaint に内部告発または苦情を提出することにより、商品取引法規および規制の違反の可能性など、疑わしい活動または情報を法執行部門に報告できる。 内部告発者(whistle blower)は、法執行措置が成功した場合に徴収された金銭制裁の 10 ~ 30 パーセントを受け取る資格がある場合がある。すべての内部告発者に対する報奨金は、CFTC に支払われる金銭制裁によって資金提供される CFTC 顧客保護基金から支払われる。CFTC の内部告発者プログラムの詳細については、www.whistleblower.gov を参照されたい。

3.AI詐欺被害に遭わないためには

 詐欺師は、人工知能 (AI) に対する世間の関心を利用して、不当に高額または保証された収益を約束する自動取引アルゴリズム、取引シグナル戦略、暗号資産取引スキームを一方的に宣伝している。 詐欺師を信じないでほしい。 AI テクノロジーでは、将来や市場の突然の変化を予測することはできない。

 詐欺師らは、AI が作成したアルゴリズムが巨額の利益 (場合によっては数万パーセント) を生み出す、または 100 パーセントの「勝率」を生み出すことができると主張する。 これらの疑わしい主張は、とりわけ、「Bot」として知られる自動的に取引を行うアルゴリズムや、加入者に売買のタイミングにシグナルを提供するアルゴリズムに関して行われている。

 近年、CFTCは、AIを利用して定期的に平均を上回る収益を約束する商品プール、デジタル資産、または「投資プログラム」を運営またはマーケティングすることで、複数の被告が顧客をだまし取ったと主張している。 しかし、これらの約束は虚偽であり、顧客は自動収益機を手に入れる代わりに、数千万ドルを失い、場合によっては、当時約 17 億ドルに相当する 30,000 ビットコイン近くを失った。(注7)

 AI が作成したアルゴリズムが巨額の利益を生み出す可能性があると主張する取引プラットフォームに顧客はその資金を預ける前に、次のことを必ず行う必要がある。

   ① 当該会社やトレーダーの活動実態、背景を精査する。主要人物に対しては、逆画像検索(reverse image search) (注8)を実施し、正確な身元を確認する。

   ②  ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers) (注9)のlookup.icann.orgでドメイン登録時期を確認して、取引 Web サイトのこれまでの履歴を調べる。詐欺ドメイン・チェックにはCTFCの「暗号資産詐欺や外国為替取引ウェブサイト詐欺の 10 の兆候」を参照する。

   ③ 投資前に必ずセカンドオピニオンを受ける。 投資については財務アドバイザー、信頼できる友人、家族に相談されたい。

   ④ 原資産に関連するリスクを理解する。 また、手数料、スプレッド、先物取引にかかるサブスクリプション・コストが利益に与える影響も考慮されたい。

 AI に関する誇大宣伝には、特にソーシャルメディアのインフルエンサーやオンラインで出会った見知らぬ人によって宣伝される場合には注意されたい。 詐欺行為は CFTC および FBI に報告できる。

4.CFTCサイトにおけるAI詐欺ケース・スタディ: ミラー トレーディング インターナショナルのケースの仮訳

(1) CFTCの2023.4.27付けリリースの仮訳

商品先物取引委員会は4月27日、テキサス州西部地区連邦地方裁判所のリー・イェーケル判事が、南アフリカ共和国西ケープ州ステレンボッシュ住民のコーネリアス・ヨハネス・スタインバーグ(Cornelius Johannes Steynberg)に対し、不履行判決と永久差し止め命令を出したと発表した。 この命令は、スタインバーグに対し、詐欺被害者への賠償金として173,3838,372ドル(2566807万円)と、CFTC訴訟で命じられた民事罰金としては最高額となる173,3838,372ドルの民事罰金を支払うよう求めている。 この訴訟は、CFTCの訴訟で告発されたビットコインに関わる最大の詐欺計画でもある。

Cornelius Johannes Steynberg氏

 さらに、この裁判所命令に基づき、スタインバーグ氏は告訴されている商品取引法(Commodity Exchange Act :CEA)に違反する行為への従事、CFTCへの登録、およびCFTC規制の市場での取引を永久に禁止された。

 この命令では、南アフリカ共和国で現在清算中のミラー・トレーディング・インターナショナル・プロプライエタリー・リミテッド(MTI)の創設者兼最高経営責任者(CEO)であるスタインバーグ氏が、①小売外国為替取引に関連した詐欺、コモディティ・プール・オペレーター(CPO)の関連金融業者による詐欺の責任、登録違反、および CPO 規制の不遵守の責任を負うと認定された。

 一方、CFTCは、被害者への資金の支払いを求める裁判所命令は、被告が十分な資金や資産を持っていない可能性があるため、損失を取り戻せない可能性があると警告している。

(2)CFTCの補足解説

 南アフリカ共和国国民のコーネリアス・ヨハネス・スタインバーグ(Cornelius Johannes Steynberg)氏は、約3年間にわたって、いくつかのWebサイトとFacebook、Instagram、YouTubeのアカウントを使用して、少なくとも23,000人から17億ドル(約2516億円)以上のビットコインを盗んだ。

 顧客は、わずか 100 ドルのビットコインで、「暗号資産取引経験は不要」で、少なくとも月間 10 パーセント(または年間 200 パーセント以上)の配当を保証する独自のボット取引プログラムを使用する彼の商品先物基金(commodity pool) (注10)(注11)に購入することができた。  顧客は友人を紹介したり、アフィリエイトマーケティング担当者として働いたりして、紹介ボーナスを受け取ることができた。 また、スタインバーグ氏は、MetaTrader デモ口座を使用して偽の顧客口座と残高を作成した。

 実際には、実際に取引された資金はほとんどなかった。 その代わりに、新しい投資家からの資金の一部を古い投資家への支払いに使用し、残りをスタインバーグが流用するというポンジスキーム-=ねずみ講として運営された。 [CFTC プレスリリース 8549-22および 8696-23を参照。

*************************************************

(注1)下図のCFTCの中核機能図やOCEO等事務局の全体については各参照されたい。

(注2) ボット (ロボット) は、特定のタスクを自動的、または最小限の監視で実行するコンピュータープログラムである。 これらは、通常は人間によって実行される反復的なタスクを自動化するためによく使用される。 取引を自動化するために設計されたボットは、取引ボット(trading Bot)として知られている。 暗号通貨の取引ボットは、デジタル資産の売買を自動化するソフトウェア・プログラムである。 トレーダーに代わって取引戦略を実行し、 市場を24時間365日監視したくないトレーダーにとって役立つ。

 たとえば、特定の暗号通貨資産を監視している暗号資産トレーダーは、最適なエントリーポイント(entry point) (注3)またはエグジット・ポイント(exit point) (注4)を監視している可能性がある。 しかし、仮想通貨市場は年中無休で開かれているため、トレーダーは収益性の高い機会を逃さないようにモニターに釘付けになる必要がある 。 暗号通貨取引ではタイミングがすべてであり、わずかな遅れが重大な損失を引き起こす可能性がある。トレーダーは、市場を常に監視することなく、あらかじめ決められた戦略に基づいて暗号通貨資産を売買するため取引ボットを実装する。

取引ボットは、指定された機能の実行を支援するアルゴリズムを使用してトレーニングされたプログラムである。 これらは、市場データを収集し、取引シグナルを分析し、起こり得るリスクを計算し、投資家の戦略に基づいて取引を実行するように事前にプログラムされている。 彼らのプログラミングにより、資産が過大評価されているか過小評価されているかを判断し、市場にいつ参入または撤退するかを決定することができる。 トレーダーは、取引戦略に基づいて取引ボットをカスタマイズし、すべての作業を任せることができる。

 たとえば、個人は、ビットコインの価格が特定のレベルを下回ったり上回ったりしたときに、ビットコインを売ったり買ったりするように取引ボットを事前にプログラムできる。 ボットは、価格がしきい値を超えて上昇した場合に BTC を売り、事前設定されたレベルを下回った場合に購入する。(Ledger社サイト解説から仮訳

* BOTとは、robotの短縮形・略称で、一定のタスクや処理を自動化するためのアプリケーションやプログラムのこと。次のとおり業界によって意味が異なる。

①利用されるシーン・課題解決型BOT

 インターネット上では様々なシーンでBOTが活用されている。いずれも人間の操作を必要とせず、処理が自動化されている。たとえば、Webサイトでユーザーが入力した質問に対する回答を返してくれる「チャットボット」、インターネットを巡回しWebサイトの情報を収集する検索エンジンの「クローラー」、Twitterで自動ツイートする「Twitter Bot」、仮想通貨の送金や受け取りができる「TipBot」、Appleの「Siri」やGoogleの「Googleアシスタント」などの音声認識と組み合わせたBOTなどがある。

②セキュリティ業界のBOT

 セキュリティ業界では、マルウェア(悪意のあるソフトウェアやコードの総称)の一種をBOTと呼んでおり、特にコンピューターを外部から遠隔操作するコンピューターウイルスを指すことが多い。この場合のBOTはボットウイルスとも言う。(ITreview から抜粋)

(注3) エントリー・ポイントとは、「新規に注文を入れてポジションを保有するタイミング」を指す。

(注4) 「エグジット」は、保有しているポジションを決済して、取引を終了すること。

(注5) トレード・シグナルは、トレーダーに利益を最大化するために売買注文を行うための手掛かりを提供する分析ツールである。さまざまな形のトレード・シグナルが存在し、目標や潜在的な利益は異なる。トレーダーは長い間、取引のリスクを減らすために技術指標としてトレード・シグナルを使用してきた。(CFA InstituteのWallStreetMojoから抜粋、仮訳)

 暗号通貨のトレード・シグナルは、デジタル資産を正確な時点および特定の価格で売買するかどうかの方向性を与える重要なガイドとなる。これらの取引警告、または「シグナル」は、ファンダメンタル分析およびテクニカル分析を使用する経験豊富な取引専門家によって手動で作成されることも、人工知能ベースのボットと数学的アルゴリズムを使用した完全に自動化された方法論を通じて作成されることもできる。(Medium blogから抜粋)

(注6) アービトラージ(Arbitrage)は日本語では「裁定取引」と呼ばれるもので、暗号資産取引所ごとの価格差を利用して、利益をあげる投資手法である。

 暗号資産の場合、各取引所の価格差が大きいほど利益が出やすいので、複数の取引所に口座を開設するケースが多い。複数の取引所のリアルタイムの価格をチェックし、価格差が発生していないかをこまめに確認することが大事であり、取引所ごとの現在価格を一覧表で示してくれるWebサイトもあるが、正確な価格は暗号資産取引所の公式サイトで確認すべきである。(BitTrade blogから抜粋)

(注7) 最近の事例の例については、CFTC プレス リリース 8803-23、8697-23、8621-22、8549-22、8510-22、8493-22、8438-21、8115-20、および 8047-19 を参照されたい ( CFTCのプレスリリースサイト(https://www.cftc.gov/PressRoom/PressReleases 参照。

(注8)筆者は実際に逆画像検索(reverse image search)を実行してみた。以下の手順で成功した。

①逆画像検索サイト(https://ettvi.com/ja/reverse-image-search)を開く

②筆者の画像リストの中から米国 Merrick Garland 連邦司法⾧官を選ぶ

③Result Generated Successfully 表示が出る

④検索結果のうち Google Lens で検索した結果

(注9) ICCANは 1998年10月、ドメイン名、IPアドレスなどのインターネット基盤資源を、世界規模で管理・調整するために設立された非営利公益法人である。主な業務は、ドメイン名、IPアドレス、プロトコル・ポート番号、ルート・サーバなどインターネットの基盤資源の世界規模での調整と、これらの技術的業務に関連する方針策定の調整である。(総務省:世界情報通信事情から抜粋)

(注10) コモディティ・プール(commodity  pool)は、先物市場と商品市場を取引するための投資家の拠出を組み合わせた民間の投資構造である。 コモディティ・プール、つまりファンドは、利益の可能性を最大化することを期待して、取引でレバレッジを得る単一の実在物として使用される。 「コモディティ・プール」というタイトルは、全米先物協会 (National Futures Association :NFA)(注11) によって定められた法律用語で「管理先物ファンド」とも呼ばれる。

コモディティ・プール運営者(Commodity Pool Operators)

 企業またはファンドの主要出資者またはパートナーは、コモディティ・プール内の金銭的利益につき責任を負う。 コモディティ・プール運営者は、コモディティ・プール、シンジケート、投資信託、または特に先物取引のための同様のファンドの運営に使用する資金を受け取る。 コモディティ・プールの運営者は、投資家に対し、コモディティ・プールに新たな資金や資本を持ち込むよう勧誘することがよくある。

コモディティ・プール規制当局

 米国のコモディティ・プールは、他の市場活動を規制する証券取引委員会 (SEC) ではなく、商品先物取引委員会 (CFTC) と全米先物協会によって規制されている。

(注11) 全米先物協会は、米国のデリバティブ業界を監督し、革新的で効果的な規制プログラムを提供する業界ベースの独立した自主規制組織である。 NFAはCFTCによって指定された登録先物協会であり、デリバティブ市場の完全性を維持し、投資家を保護し、メンバーが監督義務を果たすことを保証することにコミットしている。

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米国国立科学財団 (NSF) 工学局 (ENG)の人工知能(AI)に関連する研究および教育提案の提出を積極的に奨励する具体的ガイダンスの発出

2023-12-24 17:49:36 | AI

 筆者は先般2回のブログで、10月30日の大統領令(EO14110)及びNIST等の取組みにつき言及した。特に12月22日ブログ「米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST『情報提供依頼文書』の具体的内容」の中で、EOセクション「5.イノベーションと競争の促進」の箇所でFSAの役割について詳しく言及した。

 これに関し、筆者の手元に12月22日付けでFSAから届いたメール「人工知能の工学研究への資金提供の機会について」は、米国国立科学財団 (NSF) 工学局 (ENG) は、新興産業としての人工知能に関連する研究および教育提案の提出を積極的に奨励するというものであった。

文部科学省科学技術要覧「各国の科学技術の概要」から抜粋

 今回のブログは、FSA工学局のリリースを解説付きで紹介するものである。

 特に、この分野は極めて多岐にあたるもので単なる訳文では真の取組課題は見えない点に留意されたい。

1.NSFの通知文書の内容

  筆者なりに補足説明しながら仮訳する。

「親愛なる研究者各位へ

 この親愛なる研究者への手紙により、米国国立科学財団 (NSF) 工学局 (ENG) は、新興産業としての人工知能に関連する研究および教育提案の提出を奨励する。

 人工知能 (AI) は急速に進歩しており、我われの生活を大きく変える可能性がますます実証されている。 NSF と工学局には、これまでAI 研究をサポートしてきた長く豊かな歴史があり、商業から医療、運輸に至るまで、さまざまな分野で今日の AI テクノロジーの広範な使用の基盤を整えている。 NSF の AI ポートフォリオは、AI 理論、アルゴリズム、ロボット工学、人間と AI の相互交流、AI 用の高度なサイバーインフラストラクチャに及ぶほか、神経科学における使用にインスピレーションを得た研究、工学的土木インフラ システム、電力網、インテリジェント統合製造システムの設計とパフォーマンス、 インテリジェント輸送、ロボット工学、その他多くの分野にわたる。

 NSF 工学局は、(ⅰ)国家のニーズに合致した AI 関連の研究と教育活動に投資し、(ⅱ)「2020年国家AIイニチアチブ法(National Artificial Intelligence Initiative Act of 2020:NAIIA))、「2022 年のCHIPS および科学法(CHIPS and Science Act of 2022)」、ホワイトハウスの全体で信頼できる人工知能の開発と使用およびその他の政策指令 (大統領令:EO14110)をサポートしている。 AI 研究に対する連邦政府の主要な資金提供者として、NSF は知識の最前線を押し広げ、人々に利益をもたらし、社会のニーズを満たす AI の画期的な進歩を推進している。(注1)

1.NSF工学局の重要関心事項

 工学局は、次の分野の提案を含む、AI に関連するあらゆる種類の研究および教育提案の提出を奨励している。

①基礎工学分野でのAI 研究: 従来の工学の主題 (動的モデリング(dynamic modeling)、制御システム、材料力学挙動(material behavior)、最適化、情報理論、通信システム、信号処理など) のツールと手法を、理論的なコンピュータ科学、数学、統計学のツールと手法と組み合わせて使用する。その結果、アルゴリズムのパフォーマンス、複雑さ、安全性、セキュリティ、説明可能性、安定性についての理解を深めることができる。

②AI の工学的システムへの応用: 物理ベースのモデルと、複雑な動的環境およびシステム (送電網、化学処理プラント、接続された製造システム、サプライ・ チェーン、ロボット工学、接続された輸送システム、土木など) のデータベースのモデルとの統合 サービス中のインフラストラクチャや極端な危険なイベントなど)をリアルタイムで学習し、意思決定できるようにする。

③スマート・センシング(注2)と分析: (ⅰ)学習と意思決定のためのセンサー、センサーネットワーク、通信を介した分散ソースからのデータの使用、(ⅱ) リアルタイムの意思決定のための新しいハードウェアとソフトウェアを介した新しいエッジ・ コンピューティング機能(注3)の解析である。 考慮すべき事項には、セキュリティ、プライバシー、通信コスト、異種データの処理、異種システム、ネットワーク通信アーキテクチャ、および学習アルゴリズムとアーキテクチャが含まれる。

④電子、磁気、光学ハードウェアへの AI テクノロジーの実装: (ⅰ)バイオからインスピレーションを得たニューラル・アーキテクチャの電子回路実装、(ⅱ) データを処理するための、より高速でエネルギー効率の高いプロセッサー (電子、磁気、光学)の開発、(ⅲ) データの処理と学習のためのハードウェアとソフトウェアの共同設計である。

⑤データのタイプ 別の 音声、画像、およびビデオ データのAI活用: AI を活用した、音声、画像、およびビデオ データの処理、認識、送信のための信号処理および通信テクノロジーの進歩。

➅自律システム(Autonomous systems )(注4)とロボット: 制御システム、機械システム、またはその他のエンジニアリング分野と AI および機械学習との統合である。 アプリケーションには以下の自動輸送が含まれる。 製造、医療、その他のアプリケーション用のロボット開発。 安全で信頼できる人間とロボットの相互作用。

⑦エンジニアリング AI 用のトレーニング・ データの量・質の深化: 安全な操作が主な関心事である、エンジニアリングされたシステムに AI ツールを確実に導入するために必要なトレーニング データの量と質についての理解を深めるための研究が含まれる。

⑧人工材料および生物学的材料の行動理解: AI と機械学習により、複数のスケールおよびモダリティ(注5) (実験、計算、イメージング) からの大規模またはまばらなデータセットを含む、人工材料、生物学的材料、および生体材料の挙動の理解を可能にし、強化する。

⑨輸送現象(transport phenomena)(注6)のモデリング化: AI を活用した流体、微粒子、熱、燃焼、山火事管理のモデリングにより、理解を深め、より正確な新しい物理モデルと解法(solvers)を開発できる可能性がある。

⑩人間と AI のコラボレーション: 機械学習モデルに認知、行動、生理学の原理を組み込んで、AI 対応エージェントと人間が相互作用し、お互いについての知識や期待を生み出す方法を改善する (たとえば、意図の検出、信頼性の構築、または社会的関等)。

⑪医療:身体能力支援およびリハビリテーション技術: リハビリテーション用ロボット工学、スマート義肢および装具、ブレインコンピューターインターフェイス、および高度な AI を活用するその他の技術など、人間の機能的能力または認知のサポート、回復、リハビリテーション、および/または代替のための AI 対応技術 そして機械学習等。

⑫生理学的システムの計算モデルと AI モデル: (ⅰ)AI と機械学習を活用して生理学的システムの検証済みモデルを開発する高度な計算戦略、(ⅱ) 精密な監視と制御のための生物製造プロセスの計算によるコンピュータ化された表現。

⑬AI を活用したバイオイメージング・ テクノロジー: 光学、エレクトロニクス、磁気、化学、AI、および量子テクノロジーの進歩を活用することで、さまざまな規模の生物学的イメージングとモニタリングのパフォーマンスを向上させる革新的な進歩。

⑭製造業における AI アプリケーションのスケーリング: (ⅰ)メーカーのネットワークからデータを調達し、アルゴリズムを構築し、追加データが利用可能になったときにアルゴリズムを更新するための、製造業務に適した AI メソッド、実装ソフトウェア、データ収集とプロトコル開発、 (ⅱ)ネットワーク規模での製造ソリューション向けのデータソーシング、集約、分類、およびサービス配信インフラストラクチャを有効にして展開するための研究。

⑮AIによる民間インフラとインフラ システムの復元力と持続可能性を実現する : (ⅰ)材料、構造、およびシステムのデータ収集、(ⅱ) 構造健全性モニタリングとリアルタイム損傷検出のための AI アルゴリズム、(ⅲ)。最適な持続可能で回復力のあるインフラストラクチャ材料の設計のための AI アプローチ。(ⅳ) 構造物の修理と改修のための AI と自動化。

2.ENG コア・プログラムとその連絡先

 工学局Engineering Directorate: ENG )は、以下にリストされている ENG コア・ プログラムおよび NSF 横断プログラム、およびその他の関連プログラムに AI 関連の提案を提出することを奨励している。 どのプログラムがプロジェクトのアイデアに最も適しているかを判断するために、主任研究者はプログラムの説明を読み、プログラムの担当者に質問することを勧める。

(以下のリストの訳は略す)。

**************************************

(注1) 総務省世界情報通信事情:アメリカ編(5)人工知能(AI)にかかる政策動向から抜粋  

 米国では2016年10月、NSTCとOSTPが中心となって取りまとめた報告書「AIの未来に備えて」が公表され、AIにかかる規制・制度、研究開発、経済・雇用、公正性・安全性、安全保障等について、連邦政府機関等に対する23の提言を行った。また、同月、「米国AI研究開発計画」が公表された。

 2018年5月にはホワイトハウスで「AIサミット」が開催され、①「研究開発」「人材育成」「規制緩和・撤廃」「業界別AI応用の実現」をそれぞれ分科会で議論し、②NSTCの下に、連邦政府全体のAI研究開発における優先事項の勧告等を行う省庁間委員会「AI特別委員会(Select Committee on AI:SCAI)」を設置した。トランプ大統領(当時)は、2019年2月、AIにおける米国のリーダーシップの継続が、米国の経済及び国家安全保障の維持に極めて重要と位置付け、AIの研究開発等を促進する大統領命令(第13859号)に署名。この中で「AIイニシアチブ」を策定した。また、同年6月には「国家AI研究開発戦略計画」を改定し、新たな戦略を策定した。

 NDAA 2019では、国家安全保障・AIについて大統領や議会に助言する独立の連邦機関となる人工知能国家安全保障委員会(National Security Commission on Artificial Intelligence:NSCAI)が新設された。NSCAIは、2020年4月、43の勧告をまとめた第1四半期勧告を公表。議会に対して、非防衛分野におけるAIの研究開発予算増額のほか、AIや5Gにおける米国の優位性を追求し、華為技術に対抗するための方策を提言した。2021年3月には最終報告書を発表し、「AI時代において米国を守る」ことと「テクノロジー競争に勝つ」ことの両面から、60以上の提言を行った。NSCAIは、2021年10月に活動を終了した。

 2020年12月には、連邦政府内での信頼できるAI利用の促進に関する大統領命令(第13960号)が署名され、政府内でのAI利用の更なる原則を規定した。

 2021年1月には、NDAA 2021に盛り込まれる形で、「国家AIイニチアチブ法(National Artificial Intelligence Initiative Act of 2020:NAIIA)」が成立。米国の経済的繁栄と国家安全保障のためにAIの研究と応用を加速させる、連邦政府全体で協調的なプログラムを規定、「国家AIイニシアチブ(National AI Initiative:NAII)」の下、政権内のAIに関する様々な取組みがまとめられた。

 NAIIは、学術界、産業界、非営利団体、市民社会組織と協力し、米国のすべての省庁にまたがるAIの研究、開発、実証、教育活動を強化・調整するための包括的な枠組みを提供する。同法は、大統領に対して、AI研究開発への一貫した支援、AI教育及び人材育成プログラムの支援、学際的AI研究・教育プログラムの支援、連邦省庁間のAI活動の計画・調整、多様なステークホルダーへの働きかけ、既存の連邦投資のイニシアチブ目標推進への活用、学際的AI研究所のネットワーク支援、信頼できるAIシステムのための研究開発や評価、リソースに関する戦略的同盟国との国際協力機会の支援を行うよう指示。NAIIの下での活動は、イノベーション、信頼できるAIの推進、教育・トレーニング、インフラ、アプリケーション、国際協力という六つの戦略的柱で構成される。NAIIの調整は、OSTPの下に設置されるNAII室によって行われ、NAIIの監督は、NSTCの下に設置されているSCAIと、NISTの下に設置される国家AIイニシアチブ諮問委員会(National AI Initiative Advisory Committee:NAIAC)が担当する。NAIACは、AIに関する諸問題について大統領やNAII室等に助言を行う。

 2022年10月、OSTPは、AIの設計・利用の管理に向けた新たな国家的枠組「AI権利章典(AI Bill of Rights)」の青写真を発表した。これは、AIの説明責任を拡大し、公民権の保護を目指す連邦政府の取組みの一環。AI権利章典は、AI技術を開発する際に考慮すべき指針的原則として、①安全で効果的なシステムの作成、②データ・プライバシー、③アルゴリズムによる差別からの保護、④ユーザへの通知と説明、⑤人間による代替手段、の五つを掲げている。

(総務省世界情報通信事情:アメリカ編から一部抜粋、リンクは筆者が行った)

(注2) スマート・センシング(Smart Sensing)とは、光、温度、衝撃の大きさといった情報を検出し数値化する処理機能が組み込まれたセンサ(スマートセンサ)によるセンシング技術の総称です。スマートセンサで計測できる情報の種類は幅広く、基本的に制限を受けないとされており、人間情報(脈拍、体温など)を検知して快適な環境を提供する、健康管理技術への応用が進められている。

 スマートセンシングによるデータ計測は、建築業界、交通機関、農業管理への利用も期待されており、これによりさまざまな分野の安全確保や効率化が進展するといわれている。

(IoT 用語辞典から抜粋)

(注3) エッジ・コンピューティングとは、IoT端末などのデバイスそのものや、その近くに設置されたサーバでデータ処理・分析を行う分散コンピューティングの概念である。クラウドにデータを送らず、エッジ側でデータのクレンジングや処理・分析を行うためリアルタイム性が高く、負荷が分散されることで通信の遅延も起こりにくいという特長を持つ。

 データを集中処理するクラウドに対し、データを分散処理するのがエッジコンピューティングだと言える(softBank「【解説】エッジコンピューティングとは?初心者編」から抜粋)

(注4) 「Autonomous System」の略で、「自律システム」とも呼ばれます。 ASは、 統一された運用ポリシーによって管理されたネットワークの集まりを意味し、 BGPというプロトコルにより接続される単位となります。 AS間で経路情報の交換を行うことにより、 インターネット上での効率的な経路制御を実現します。 通常、規模の大きいISPのネットワークは固有のASを形成しております。(日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)の用語解説「AS」から抜粋)

(注5) モダリティー(Modality)とは数値/画像/テキスト/音声など複数種類のデータの組み合わせをいう。

(注6) 輸送現象とは、分子自体の、あるいは分子の運動量・エネルギーの輸送によって生じると考えられる現象。拡散・電流・熱伝導・粘性など。(精選版 日本国語大辞典から抜粋)

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米大統領令(EO: Executive Order 14110)の具体的内容と意義およびそれに基づく責任の履行を支援するためNIST「情報提供依頼文書 」の具体的内容

2023-12-22 08:36:20 | AI

 筆者は、12月6日の本ブログで2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)(以下、「EO」という)を受けたNISTの具体的行動につき「 NISTからこのほど公開された「 NIST SP 800-226 草案」および「差分プライバシー保証を評価するためのガイドライン草案」に対するパブリックコメントの背景と意義」を取り上げた。

 しかし、執筆後もいまいち大統領令(EO)のファクトシートも含め真の目的や商務省の規則案のとりまとめ期限など疑問点が残されていた。その内容を補完する意味で今回のブログで補筆するとともに、後段でNISTが2024年2月2日を期限として発布した「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の概要について解説を試みる。

 また、本ブログでは、わが国では詳しく論じられていない米国「国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」の意義と最新動向にも言及した。

 なお、今回のブログの内容は12月6日の筆者ブログと重複する部分が一部あるが、Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの和文解説と併せ読まれたい。

Ⅰ.大統領令(EO: 14110)の具体的内容の解析

  JD Supra, LLCの「The highly-anticipated US Executive Order on artificial intelligence: Setting the agenda for responsible AI innovation」を要約しつつ仮訳する。

 このEOは、多くの点で AI に関するこれまでのバイデン政権の行動を超えている。 この広範囲かつ堅牢な大統領令は、AI を規制するために既存の当局を利用することを想定して、米国の行政部門および政府機関 (機関) に、①標準、②フレームワーク、③ガイドライン、④最善実践内容を開発するよう指示した (また、独立機関にも同様に奨励する)。 また政府機関は、AI の責任ある使用に関係するほぼすべての連邦法、規則、政策に対して具体的な措置を講じる必要があるとする。

 EOは、AI の使用から得られる利点を認識する一方で、国家安全保障、重要インフラ、プライバシーの被害から、詐欺、差別、偏見、偽情報への懸念、労働力の追放と競争の抑圧に至るまで、AI の潜在的な誤用に関連する多数の既知のリスクを強調している。

 さらにEOは、イノベーションを促進する必要性と、社会的危害から保護し、AI の安全で確実な開発と使用を確保するための効果的なガードレールを構築する必要性との間のバランスをとるように設計された一連の原則、基準、優先事項の推進を緊急に求めている。

 おそらく、短期的にこのEOの最も重要な要素は、連邦商務省が2024129日(つまり、20231030日の命令から90日以内)までに導入するという要件であり、民間部門の開発者に対する報告要件を拘束するものである。 AI レッドチーム・テスト(AI red-team testing)(注1)におけるモデルのパフォーマンスの結果を連邦商務省に報告するための最も強力な AI モデルの開発を求めるものである。

  また、連邦商務省は、悪意のある用途に使用される可能性のある潜在的な機能を備えた AI モデルに関して、サイバーを活用した活動につき外国人との特定の取引に関する規則案を発行する必要がある。

 重要な点は、このEOの中核原則の 1 つは、AI が世界的なテクノロジーであり、国際同盟国と協力して AI のリスクを管理し、その利点を最大限に発揮するための枠組みを開発する強い必要性があることを認識していることである。

 事実、米国は、時間をかけてより世界的な枠組みを構築する取り組みにおいて他国と協力しながら、独自の初期基準と保護措置を開拓することでリーダーシップの役割を果たそうとしている。ただし、よりグローバルなアプローチで牽引力を達成できるかどうかは不明である。

 現在、米国は特定の国内ルールと基準を採用することで、米国は世界的な AI ルールを奨励し、具体化しようとしている一方で、AI エコシステムの特定の関係者が米国の AI ガバナンスの影響を避けるために活動をオフショアに移そうとするリスクをある程度想定している。

1.安全で信頼性の高い AI の確保: デュアルユース基盤モデルとは

 このEOの最も注目すべき拘束力のある構成要素の 1 つは、「デュアルユース基盤モデル(dual-use foundation models)」を開発する民間企業に報告要件を課すことである。EOは一般に、このモデルを米国の国防と重要なインフラに重大なリスクをもたらす任務を遂行するため広範なデータで訓練された強力な自己監視型 AI と定義している。 (EOセクション 3(k)参照)

 より具体的には、このEOに基づき、連邦商務省は、2024 1 29 日までに、二重用途の基礎モデル(dual-use foundation models)(筆者ブログ(注5)参照)の開発を計画している企業に対し、連邦政府に以下の項目につき情報、報告書、または記録を継続的に提供することを義務付けなければならない。

① 高度な脅威に対するそのようなトレーニングの完全性を保証するために講じられる物理的およびサイバーやセキュリティ保護を含む、そのような二重用途の基礎モデルのトレーニング、開発、または生産に関連する進行中または計画中の活動内容。

② そのような二重用途の基礎モデルの重要性の所有権と保有、およびそれらのモデルの重要性を保護するために講じられた物理的およびサイバー・セキュリティ対策。

  NIST によって開発されたガイダンスに基づく、関連する AI レッドチーム ・テストにおけるかかるモデルの実績の結果、およびそのような NIST ガイダンスの開発前に、特定の種類の指定されたリスクに関して企業が実施したレッドチーム・ テストの結果 (例:非国家主体による生物兵器の開発、取得、使用への参入障壁の低下、ソフトウェアの脆弱性の発見、現実または仮想のイベントに影響を与えるソフトウェアまたはツールの使用、自己複製または伝播の可能性、および安全目標を達成するための関連措置)。 (セクション4.2(a)参照)

 また連邦商務省は、潜在的に大規模な「コンピューティング・クラスター」(注2)の取得、開発、または所有に関して、そのようなクラスターの存在と場所、各クラスターで利用可能なコンピューターの能力の量を含む、企業、個人またはその他の組織や団体による報告を義務付けなければならない。

 さらに、EOは連邦商務省に対し、米国のサービスとしてのインフラストラクチャー(IaaS(注3)プロバイダー(つまり、米国の大手クラウド・プロバイダー)の一部の取引に関して、外国人、特に IaaS 製品の外国再販業者との取引につき多数の報告義務と関連義務を課す規則案を2024129日までに提案することを求めている。 (セクション4.2(c)参照)

特に、提案されている規則案では、米国の IaaS プロバイダーに次のことを義務付ける。

(1) 外国人がそのようなプロバイダーと取引して、悪意のあるサイバー活動に使用される潜在的な機能を備えた大規模な AI モデルをトレーニングする場合は、商務省長官に報告書を提出する。

(2) 米国 IaaS プロバイダーに対し、米国 IaaS 製品の海外再販業者がその製品を提供することを禁止することを要求する。ただし、再販業者が米国 IaaS プロバイダーに報告書を提出し、そのプロバイダーが商務省に提出する必要がある場合は、この限りではない。 このような規則案がいつ拘束力を持つようになるかはまだ不明であるが、EOが規則案の提案を義務付けているという事実は、それらの規則が2024130日に発効しない可能性が高いことを示している。

 疑いもなく、留保中の商務省規則は本質的に画期的なものとなるであろう。 現時点で以下のいくつかの点に注意することが必要である。

(1) EOは、米国の「改正国防生産法(Defense Production Act of 1950 :DPA)」(注4) (注5)を発動し、大統領に国防と重要インフラの保護に関する一定の権限を与える。 DPA は歴史的に、防衛の優先順位と資源の配分を確立するために、戦時中および平時において散発的に発動されてきた。この制度は、最近の新型コロナウイルス感染症危機において、ワクチンや個人用保護具の開発契約に優先順位を与え、サプライチェーンの問題に対処するために、より広範囲に利用された。

 (2) AI の報告要件を作成するためにここで使用することは、DPA の下では本質的に新しいものであり、DPA は通常、政府の契約履行における優先順位を作成するために使用される。これと 対照的に、ここに関与している企業は主に政府による利用ではなく、民間部門向けに AI を開発している。 それにもかかわらず、DPA は範囲が広く、連邦裁判所は実際にはそのような国家安全保障法の範囲を狭く解釈することを好まない。さらに、他の連邦法もそのような報告要件をサポートする可能性があり、連邦議会は現在、AI に関する法的枠組みの再構築に取り組んでいる。

(3) 連邦商務省が報告要件を発行したら、企業等はその全範囲と適用について綿密に検討する必要がある。「企業」やさまざまな「外国法人」の対象範囲に関する多数の定義により、米国企業によるオフショア AI 開発に適用されるかどうか、米国で AI モデルの開発を請け負う外国企業が要件の対象となるかどうかなどが決められることになる。

(4) 重要な点は、今回のEOには、新しい報告要件(セクション4.2(b)参照)の対象となる AI モデルおよびクラスターの技術的条件の重要な初期定義がいくつか含まれており、連邦商務省が規則を定義して定期的に更新するまで、これらの初期の事実上のそのような独自のセット標準を使用するよう指示していることである。

(5) AI モデルの基準点としての指定された一定量のコンピューティング能力の定義は特に注目に値し、AI モデルが世界中で広く利用可能になり、より強力になるにつれて、時間の経過とともに進化することが予想される。この種の定量的基準は、コンピューターの輸出規制の導入のために商務省が長年採用してきた基準を彷彿とさせる。

(6) 最後に、広範なレッドチーム・テストの「結果」を企業に提出させるという要件は、間違いなくそのような材料を本質的に非常に独占的なものと見なす企業の敏感さを高めるであろう。 あきらかに商務省は、そのような情報の機密性を維持し、連邦政府内での送信を制限するための措置を講じることを検討する必要があろう。 (セクション4.2(a)(i)(C)参照)

 2.AI テクノロジーの安全性とセキュリティの確保

 米国人の安全とセキュリティを保護することを目的として、EOのこのセクションでは、以下のとおり、AI の使用と開発の保護に数十の省庁が関与する広範な要件を定めている。

① ガイドラインと基準の策定 : このEOは、安全、安心、信頼できる AI システムのためのガイドラインと最良実践を確立するよう、NIST を通じて行動すべく商務省長官に任務を与える。 また商務省は、サイバー・セキュリティやバイオ・セキュリティの分野など、AI が害を及ぼす可能性のある機能に焦点を当てて、AI の機能を監査および評価するためのガイダンスとベンチマークを開発する必要がある。 この取り組みの一環として、NIST は、ここで要約した AI リスク管理フレームワークと安全なソフトウェア開発フレームワークに付随するリソースを開発するよう指示されている。(注6) (セクシヨン1参照)

② 化学的、生物学的、放射線学的または核のリスク (Chemical, Biological, Radiological or Nuclear Risks :CBRN) :

 AI が生物兵器などの CBRN の脅威を促進するために悪用されるリスクをより深く理解し、軽減するために、エネルギー省は連邦政府内の幅広い専門家と協議するよう指示されている。 政府および民間の AI 研究所、学界、第三者は、CBRN 脅威の開発に AI が悪用される可能性を評価し、これらの脅威に対抗するための AI の適用を検討し、EO発令の180 日以内に大統領に報告書を提出せねばならない。 (セクション 4.4参照)

③ サイバー・セキュリティと重要インフラ: このEOは、重要インフラに対する権限を持つ各機関の長に対し、AI の使用により重要インフラがより脆弱になるかどうかなど、重要インフラでの AI の使用に関連する潜在的なリスクすなわち障害、物理的攻撃、サイバー攻撃等の評価を 国土安全保障省(DHS) に提供するよう指示している。 また独立機関もこの取り組みに貢献することが奨励されている。

 またDHS は、インフラストラクチャの所有者および運用者が使用するためのセキュリティ・ガイドラインを開発する必要があり、DHS は関連機関の長と協力して、必要に応じて規制またはその他の措置を通じてそのようなガイドラインを義務付ける措置を講じる必要がある。 さらに、国防総省と国土安全保障省(DHS)は、米国政府の重要なソフトウェア、システム、ネットワークの脆弱性を発見して修復するために、大規模な言語モデルなどの AI システムをテストする運用パイロット・プロジェクトを実施する必要がある。 (セクション 4.3参照)

④ AI によって作成または変更された合成コンテンツ(Synthetic Content Created or Modified by AI )(注7) AI システムによって生成された合成コンテンツに対する透明性を向上させ、社会の信頼を高めるため、またデジタル・ コンテンツの信頼性と出所を確立するために、EOは商務省に①コンテンツの認証、②その出所の追跡、および③透かしの使用などの合成コンテンツの検出とラベル付けの実践につき標準、ツール、手法を特定することを義務付けている。 (セクション5参照)

⑤ プライバシーの保護: AI によって潜在的に悪化するプライバシー・ リスクを軽減し、個人情報やデータの悪用を防ぐために、EOは 連邦予算管理局(OMB) 局長に対し、政府機関が入手する市販情報 (commercially available information :CAI) の種類、特にデータから入手した CAI を評価する任務を課している。 また、連邦機関等に潜在的なガイダンスを通知するために、CAI がどのように収集、使用、配布、廃棄されるかを評価する。 政府機関が 「2002 年電子政府法(E-Government Act of 2002)」におけるプライバシー条項をどのように実施するかに関する現在のガイダンスの改訂に関する意見を求める情報要求依頼文書 (RFI) を発行する必要がある。連邦政府機関はプライバシー強化テクノロジーの有効性を評価する必要があり、エネルギー省長官はプライバシー研究とプライバシー強化技術に取り組む研究調整ネットワークを創設するという指示を受ける必要がある。 (セクション9参照)

3.労働者のサポート

 AI の機能が進化するにつれ、AI 関連の労働力の混乱に対する懸念が高まっている。このEOは、大統領経済諮問委員会(Council of Economic Advisers)(注8)に対し、AIが労働市場に及ぼす影響についてEO発令後180日以内に大統領への報告書を作成するよう命じている。

 一方、労働省長官は、AI関連の労働力の混乱に対処するために連邦政府がとるべき必要な措置を評価し、AIの導入によって職を追われた労働者を支援する政府機関の能力を分析した報告書を大統領に提出するよう指示されている。この報告書は、失業保険など、雇用の混乱に直面している労働者を支援するために設計された現在および以前の連邦プログラムが、将来起こり得るAI関連の混乱に対処し、潜在的な法的措置に対処するためにどのように利用できるかを評価する必要がある。

 EOはさらに、労働省長官が労働組合や労働者と協議して、雇用主が従業員の健康に対するAIの潜在的な弊害を軽減するために使用できる諸原則と最良実践を開発し、公表することを求めている。

 この 諸原則と最良実践は、とりわけ、透明性、仕事への従事、管理、労働者保護法で保護される活動など、雇用主による労働者に関するデータの AI 関連収集と使用が労働者に及ぼす影響をカバーする必要がある。またEOは、労働省長官に対し、AIによって業務が監視または強化されている従業員に対し、労働時間に対する報酬を確実に支払うことを保証することを義務付けている。 (セクション6参照)

4.公平性と公民権の推進:

 AI の無責任な使用がいかに違法な差別やその他の危害につながる可能性があるかを示す強力な証拠があることを受けて、EOは司法省長官に対し、刑事司法制度における AI の使用に関する報告書を大統領に提出することを義務付けている。

 また、量刑(sentencing)、仮釈放(parole)、保釈(bail)、警察の監視(police surveillance)、刑務所の管理ツール(prison-management tools)、法医学分析(forensics)などの分野での AI の使用に関するベスト プラクティス、保護措置、および適切な制限を推奨している。

 政府機関は、アルゴリズムによる差別を含む、自動化システムの使用における差別を防止し、対処するために、公民権および自由人権局および当局を活用するよう指示されている。 EOは連邦保健福祉省 (HHS)に対し、不当な拒否を評価するため、(ⅰ)州や地方自治体による公共利益の分配におけるアルゴリズム・システムの使用、(ⅱ)人間の審査員に拒否を訴えるプロセス、そして(ⅲ)アルゴリズム・システムが公平かつ公正な結果を達成するかどうかに対処する計画を公表するよう求めている。 (セクション7参照)

5.イノベーションと競争の促進

 AI人材を米国に誘致するため、EOは国務省長官とDHSに対し、ビザ手続きを合理化し、海外で人材を見つけるプログラムを作成し、AIとその他の重要なテクノロジーや新興テクノロジーにより専門家の移民への経路を近代化する政策変更を開始するよう指示している。

  またEOは、国家科学財団(NSF) に対して、AI 関連の研究リソースとツールを作成および配布することにより、国家 AI 研究リソースを実装するパイロット プログラムを開始するよう指示している。 労働省長官は、資格のある候補者を必要とする AI および STEM(science, technology, engineering and math :STEM) の仕事に関する情報を要求する RFI を公開するよう指示している。 (セクション 5.2(a)(i)参照)

 その他の規定には以下が含まれる

① 国立AI研究機関と機能機関の創設: NSF は、AI 関連業務専用の NSF 地域イノベーション エンジンを 1 つと、少なくとも 4 つの新しい国立 AI 研究機関を設立し、エネルギー省と協力して科学者向けの訓練プログラムを強化し、2025 年までに 500 人の新しいAI研究者を訓練することを期待している。 (セクション2(a)(ii)-(iii)、(b)参照)(注9)

② 気候変動の緩和 : エネルギー省長官NISTリリース、AI が電力網の計画、投資、運用を改善する方法に関する報告書を発表するよう指示している (セクション2(g)参照)

③ 特許と商標 米国連邦特許商標庁(US Patent and Trademark Office)に、発明のプロセスにおける発明者の地位(inventorship)シップおよび生成 AI を含む AI の使用に対処する特許審査官および出願人向けのガイダンスを発行するよう指示する。 (セクション2(c)(i)参照)

④ 著作権 : 米国連邦著作権局(US Copyright Office)は、AI を使用して制作された作品の保護範囲と AI トレーニングにおける著作権で保護された作品の扱いに対処するため著作権と AI に関連する潜在的な行政措置について大統領へ勧告を作成するよう指示されている。 (セクション2(c)(iii)参照)

6.連邦政府による AI の利用の推進

  AI には、政府機関の成果を出す能力を向上させる可能性がある。 EOは、政府機関による AI の効果的かつ適切な使用を強化し、AI によるリスクを管理するためのガイダンスを作成するための省庁間評議会を組織するよう OMB 長官に指示することにより、連邦政府全体での AI の調整された使用を推進させようとしている。

 各政府機関は、自機関による AI の使用を調整し、人々の権利や安全に影響を与える AI の使用に必要なリスク管理慣行を実装するために、最高AI責任者(Chief Artificial Intelligence Officer)を任命する必要がある。

 また、「生成型 AI 」の責任ある安全な使用を推進するため、政府機関は、特定のリスク評価とガイドラインに基づく特定の生成型 AI サービスへのアクセスの制限、トレーニング、適切な利用規約の交渉など、適切な保護措置、ベンダー措置を講じる必要がある。 さらにEOは、連邦政府に対し、連邦機関の優秀な AI 人材を増やすよう指示している。 (セクション10参照)

7.消費者、医療患者、学生:

 EOは、効率的な方法でリソースへのアクセスと手頃な価格を強化し、詐欺や差別から国民を守る方法で、福祉サービス、医療、教育分野における AI の開発と使用させること義務付けている。独立規制機関は、その裁量により、詐欺や差別から消費者を保護するために追加の措置を講じることも奨励されている。(セクション8参照)

8.海外における米国のAIリーダーシップの強化

 AIの課題と可能性に対処する世界的な取り組みにおける米国のリーダーシップを強化するため、国務省長官は、国際同盟国やパートナー国を奨励するなど、リスクを管理しAIの利点を活用するための強力な国際枠組みを確立する取り組みや米国企業が行っているものと同様の自主的な取り組みをサポートするよう指示している。

 また、商務省長官は、AI 開発のための責任ある世界的な技術基準を推進し、世界的な関与の計画を確立するよう指示されている。 重要インフラに対する世界的な AI リスクに対処するため、DHS は、重要インフラ システムへの AI の組み込みや AI の悪意のある使用によって生じる潜在的な重要インフラの混乱に対応し、回復する能力を強化するため、国際同盟国やパートナー国との取り組みを主導するよう命じられている。

Ⅱ.米国商務省の国立標準技術研究所 (NIST) 20231030日の大統領令(EO: Executive Order 14110)に基づく責任の履行を支援するため発出された「情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) )」の意義と概要

 12月19日、筆者の手元に届いたNISTリリースは、米国商務省の国立標準技術研究所 (NIST) は、人工知能(AI)の安全、安心、信頼できる開発と使用に関する2023年10月30日の大統領令(EO: Executive Order 14110)に基づく責任の履行を支援するため情報提供依頼文書 (Request for Information (RFI) ) (注10) 202422日を期限として発布したという内容であった。

 以下で、補足しながら仮訳する。

 同大統領令(EO:14110)は、NIST に対し、①評価やレッドチーム演習(red-teaming)に関するガイドラインを作成すること、②コンセンサスに基づく標準の開発を促進すること、さらに③AIシステムを評価するためのテスト環境を提供するよう指示している。これらのNISTガイドラインとインフラストラクチャは、AI コミュニティが安全かつ信頼できる AI の開発と責任ある使用を支援するリソースとなる。

 米国商務省長官ジーナ・M・ライモンド(Gina M. Raimondo)は「バイデン大統領はAIは我々の世代を決定づけるテクノロジーであり、私たちはAIのリスクから人々を守りながら、AIの力を永久に活用する義務があると明確に述べている。今回の大統領令の一環として、商務省は産業界、学界、市民社会などからフィードバックを求めており、米国が責任ある分野で世界をリードし続けることを可能にするAIの安全性、セキュリティ、信頼性に関する業界標準を開発できるようにする。 この急速に進化する技術の開発と利用を目指している」と述べた。

Gina M. Raimondo 氏

 NIST情報提供依頼文書(RFI)への回答は、AI テクノロジーに関連する機能を評価し、大統領令で要求されているさまざまなガイドラインを開発する NIST の取り組みをサポートする。 RFI は特に、AI のレッドチームの組成、生成型 AI のリスク管理、合成コンテンツのリスクの軽減、AI 開発のための責任ある世界的な技術標準の推進に関連する情報を求めている。

 標準技術次官兼NIST所長のローリー・E・ロカシオ(Laurie E. Locascio)は、「大統領令に定められた目標に向けて取り組みを開始する中で、AIの測定と評価についての理解を進めるためにコミュニティとの関わりを強化することを楽しみにしている。私は、AI の安全性と信頼性の測定と実践を進めるために、この情報リクエストを通じて、より広範な AI コミュニティにNISTの有能で献身的なチームとの連携を呼びかけたいと考えている。 われわれの生活の非常に多くの分野に影響を与える可能性のある AI について、強力かつ公平な科学的理解を確立するためには、あらゆる視点を収集することが不可欠である」と述べた。

Laurie E. Locascio氏

 サイバー・セキュリティとプライバシー、合成核酸配列決定(synthetic nucleic acid sequencing) および最小限のリスク管理慣行の支援機関による実施に関連する大統領令における NIST へのその他の割り当ては、この RFI とは別に扱われる。 大統領令に基づく NIST の任務と計画に関する情報、および一般からの意見を求めるさらなる機会については、NIST の Web サイトを参照されたい。

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(注1) レッドチーム(red team)とは、ある組織・団体等のセキュリティの脆弱性を検証するためなどの目的で設置された、その組織とは独立したチームのことで、対象組織に敵対したり、攻撃したりといった役割を担う。主に、サイバー・セキュリティ、空港セキュリティ、軍隊、または諜報機関などにおいて使用される。レッドチームは、常に固定された方法で問題解決を図るような保守的な構造の組織に対して、特に有効である。(Wikipedia から抜粋)

(注2) 「大規模コンピューティング・クラスタ(large-scale computing cluster)」は、EOの下では定義されていない。しかし、EOのセクション4.2(b)では、「デュアル-ユース基盤モデル(dual-use foundation model)」および「大規模コンピューティング・クラスタ(large-scale computing cluster)」の技術的条件が、近日中に提示されることが明らかになっている。しかし、EOのセクション4.2(b)では、そのような技術的条件が定義されるまでは、商務長官(Secretary of Commerce)は、以下の報告要件の遵守を要求しなければいけないことも明確にしている。(i) 1026の整数演算または浮動小数点演算を超える計算能力を用いて学習されたモデル、または主に生物学的配列データを使用し、1023の整数演算または浮動小数点演算を超える計算能力を用いて学習されたモデル;および(ii) 単一のデータセンターに物理的に同居するマシンのセットを有し、100 Gbit/s以上のデータ・センター・ネットワーキングによって推移的に接続され、AIの学習用に毎秒1020の整数演算または浮動小数点演算を行う理論上の最大計算能力を有するコンピュータ・クラスターである。(Kilpatrick Townsend & Stockton LLPの解説から抜粋)

(注3) サービスとしてのインフラストラクチャ、または略してIaaSは、クラウドコンピューティング・ベンダーが顧客に代わってインフラストラクチャをホストする場合です。ベンダーは、インフラストラクチャを「クラウド」でホストします。–つまり、さまざまなデータセンターでホストします。顧客はインターネット経由でこのクラウドインフラストラクチャにアクセスします。Webアプリケーションの構築とホスト、データの保存、ビジネスロジックの実行、または従来のオンプレミスインフラストラクチャで実行できる他のすべての操作に使用できます。しかし、多くの場合、より柔軟性があります。

クラウドコンピューティングの主要なモデルとは?

クラウドコンピューティングの3つの主要なサービスモデルは次のとおり。

①サービスとしてのインフラストラクチャ(IaaS

②サービスとしてのプラットフォーム(PaaS

③サービスとしてのソフトウェア(SaaS

(CLOUDFRARE解説から抜粋)

(注4) 「国防生産法」は、国防に必要な資材やサービスの供給に関して、大統領に国内産業界を統制できる権限を与えている。最近でも、トランプ前政権が新型コロナウイルス感染拡大を受けて、国内自動車メーカーなどに人工呼吸器の生産を要請するなどの活用例がある。バイデン大統領は3月31日に石油戦略備蓄の追加放出(2022年4月1日記事参照)を発表した会見で、国防生産法の活用にも触れた。大統領は「電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの貯蓄をする蓄電池に使われるリチウムやグラファイト、ニッケルなど重要鉱物の国内サプライチェーンを確保するため、国防生産法を使う。未来の力の源泉を中国やその他の国に長く依存していた時代を終わらせる必要がある」と発言している。

 米国のジョー・バイデン大統領は2022年3月31日、1950年国防生産法に基づいて、国防長官に、大容量蓄電池などに使用するリチウムなど「重要鉱物の国内生産増に向けた取り組みを指示する覚書」に署名した。(JETRO解説から抜粋)

  一方、わが国で「国防生産法」の考えにつき国会議員はどう考えているのか。衆議院議員 高市早苗氏コラム「日本版『国防生産法』検討の必要性」更新日:2021年05月5日)が参考になろう。

(注5) 国防生産法(50 USC Ch. 55: DEFENSE PRODUCTION From Title 50—WAR AND NATIONAL DEFENSE)の原文

(注6) NIST, Secure Software Development Framework, NIST, https://csrc.nist.gov/Projects/ssdf参照。

(注7) Synthetic Content Created or Modified by AI参照。

(注8) アメリカ合衆国大統領に経済政策の助言をする大統領府の機関。第2次世界大戦後の平時における完全雇用の実現を目指し 1946年に制定された雇用法に基づいて設立された。主としてマクロ経済運営,経済情勢について大統領に助言し,予算編成の基礎となる経済見通しを作成する。また毎年,大統領経済報告とともに提出される大統領経済諮問委員会年次報告を作成する。委員長を含めて 3人の委員で構成され,アシスタント・スタッフとして 20人程度の気鋭のエコノミストが起用される。委員長は閣議,経済政策委員会 EPC,国内政策委員会 DPCなどの主要な会議に大統領経済諮問委員会代表として出席する。(「コトバンク」から抜粋)

(注9) 筆者の手元にあるNSFからAIに関するfunding サイト参照。

(注10) RFIはRequest For Informationの略で、日本語では「情報提供依頼」または「情報提供依頼書」と訳されます。 候補となりそうなシステム開発会社に対して、技術情報や製品情報の提供を依頼するための文書 のことを指します。(IT調達ナビ・サイトから抜粋)

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