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SEC投資家向け告示:イニシャル・コイン投資への立法措置と詐欺対策(日米の比較)(その1)

2017-08-30 14:18:42 | 海外の通貨・決済システム動向

 筆者の手元に7月25日付けの米国証券取引委員会のIB(投資家向け公示:Investor Bulletin:Initial Coin Offerings(ICO))が届いた。筆者としては、”Bitcoin”や”Ripple”など決済の国家による最終的な保証がないものを「仮想通貨」と訳すこと自体誤解を招くし(注1)他方、これまで金融当局や中央銀行が法制度や決済制度問題としてまともに取り上げてこなかったこと自体、怠慢であったとしか言いようがない。 (注2)

  その背景を解析すると、わが国の金融・決済システムと特殊性、すなわち、(1) 比率が下がってるとはいえ、ATMを中心とする現金決済システムの充実度、(2) ほぼ100%セントの成人が金融機関に口座を有していること(送金手段が確保されている)、(3) 円の国際通貨としての強さ、(4) 海外送金のニーズが個人では限られる点、(5) テロ資金・マネロン資金供与にかかるリスク感覚の弱さなどから、この新しい通貨・決済制度は、新しい投資手段というという点を除けばあまり問題とならなかったというのも一面うなずける。 

 しかし、米国をはじめ諸外国の通貨・決済事情は大きく異なる。ここでいちいち詳しく論じないが、いよいよ米国などでも本格的に監督機関等が法的な意味で位置づけを明確化するとともに、投資上のリスクの明確化や詐欺被害阻止に向けた取り組みを始め(注3)なお、IBの最後の部分でSECは詐欺師の被害阻止の留意事項を丁寧に説明している。

 すなわち、「イノベーションと新技術を使用して不正な投資スキームを生む。詐欺師は、この最先端の空間に乗り出す方法としてICO投資の「機会」を宣伝し、高い投資利益を保証または保証することによって投資家を誘惑する可能性がある。投資家は、業界用語が盛り込まれた口上、強引なセールスおよび超過剰なリターン(もうけ)の約束等は常に疑うべきである。また、実際には詐欺にもかかわらず、ブロックチェーン技術を使用して誰かが印象的なICOを作成するのは比較的簡単であるということも疑うべきである。さらに、バーチャル・カレンシー、バーチャル・トークンまたはコインを保有する他の事業体は、詐欺、技術的な不具合、ハッキングまたはマルウェアの影響を受けやすいリスクがある」という問題指摘は、わが国でもまさにあてはまる問題といえる。 

 今回のブログは、(1) SECのIBの内容を仮訳する (注4) 、(2)わが国の仮想通貨に対する最近時の法規制立法の内容、(3) 税制度等の残された課題等につき、簡単にまとめるものである。 

 今回は、2回に分けて掲載する。 

1.7月25日付け米国証券取引委員会のIB(Investor Bulletin)仮訳

 以下、仮訳するが、前述のとおり筆者は「仮想通貨」という訳語は実体を表しておらず極めて問題があると考える。したがって、あえて「バャーチャル・コイン」、「トークン」等という原語のまま表示する。

  なお、2017.7.26付けのブログ「Anti-Scam-Blog」が本ブログで引用したSECのIBに基づき「SEC(米国証券取引員会)」がThe DAOトークンを「有価証券」だと認定」という翻訳を行っている。一部誤訳や、ややつまみ食い的な記事の内容が気になるが、参考にされたい。

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 バーチャル・コインの開発者、企業および個人は、資本調達のために、「ICO(Initial Coin Offering)」(注5) または「トークン・セール(token sale)」とも呼ばれるイニシャル・コイン投資の公募がますます増えている。これらの活動は公正かつ合法的な投資機会を提供する可能性がある。しかし、一方でICOに関連するような新技術や金融商品は、新しい投資分野で高いリターンを約束する投資家を誘惑するために不適切に使用される可能性がある。SECの投資家教育・擁護局(Office of Investor Education and Advocacy)は、ICOへの参加の潜在的なリスクを投資家に知らせるために本公示を行う。 

(1) イニシャル・コイン投資の公募

 バーチャル・コインまたはトークンは、「分散型台帳」(distributed ledger(注6)またはブロックチェーン・テクノロジ― を使用して作成および配分を行う。最近、プロモーター(ICOの発起人/主催者:promoter))ICOでバーチャル・コインやトークンを販売している。購入者は、これらのバーチャル・コインまたはトークンを購入するために、許可された権威ある通貨(例えば、米ドル)またはバーチャル・コインを使用することができる。 

 ICOのプロモーターは、買い手に対し、販売から調達した資金はデジタル・プラットフォーム、ソフトウェア、またはその他のプロジェクトの開発資金として使用され、仮想トークンまたは通貨がプラットフォームにアクセスしたり、ソフトウェアを使用したり、他の方法でプロジェクトに参加すると説明する。発起人や初期売り手の中には、バーチャル・コインやトークンの購入者が投資収益を期待したり、プロジェクトによって提供された利益の一部に参加することがある。バーチャル・コインまたはトークンが発行された後、バーチャルコインまたはトークンは、バーチャル・コイン交換業 (注7)または他のプラットフォーム上のセカンダリ市場で他の人に再販される可能性がある。 

 個々のICOの事実や状況に応じて、投資または売却されるバーチャルコインまたはトークンは「有価証券化」が可能である。もし、それらが有価証券であるならば、これらのバーチャル・コインまたはトークンのICOへの投資および販売は、1933年連邦証券法( Securities Act of 1933)の対象となる。 

 2017年7月25日、SECはバーチャル組織であるDAO (注8) (注9)のSEC調査と、資本調達のためのDAOトークンの提供と販売を円滑に進めるための「分散型元帳」または「ブロックチェーン」技術の使用について説明するため、1934年証券取引法第21条(a)に基づく「DAO調査報告書」 を発行した。また、 欧州委員会は、既存の米国連邦証券法をこの新しいパラダイムに適用し、DAOトークンが「有価証券」であると判断した。その結果、 欧州委員会は、米国で証券を提供し売却する者は、仮想通貨で購入されたものであるか、またはブロックチェーン技術で販売されたものであろうと、米国の連邦証券法を遵守する必要があると強調した。

  この新しい複雑な領域の理解を促進するために、SECは投資家がバーチャル・コインまたはトークンに投資する前に理解しておくべき基本的な概念を以下のとおり、いくつか示すこととする。

(1) ブロックチェーンとは何か?

 ブロックチェーン (注10)は、コンピュータのネットワークのさまざまな参加者によって管理されている電子的に分配された元帳またはエントリのリストである(在庫元帳によく似ている)。 ブロックチェーンは、暗号化を使用して元帳上のトランザクションを処理および検証し、ユーザーおよびブロックチェーンの潜在的なユーザーによるエントリが安全であることを安心させる。 ブロックチェーンの例としては”Bitcoin blockchains”と”Ethereum(イーサレム)blockchainsがあり、個々にBitcoinEtherでの取引の作成と追跡に使用される。 

(2) バーチャル・カレンシーまたはバーチャル・トークンまたはコインとは何か? 

 バーチャル・カレンシーは、デジタル的に取引され、取引所、口座単位、または価値の記憶媒体として機能する価値のデジタル表示である。バーチャル・カレンシーまたはトークンは、同様に他の権利も表すことができる。したがって、特定のケースでは、トークンまたはバーチャル・カレンシーは「有価証券」となり、SEC登録するか、または登録免除によらない限り、適法に売却できない可能性がある。 

(3) バーチャル・カレンシー交換とは何か?

 「バーチャル・カレンシー交換」は、通貨、ファンドまたは他の形態のバーチャル・カレンシーのために同通貨を交換する自然人または事業体である。 バーチャル・カレンシー交換は通常、これらのサービス手数料を請求する。 バーチャル・トークンまたはバーチャル・カレンシーの二次的な市場取引は、取引においても起こり得る。 これらの取引は、証券取引所または連邦証券法に基づいて規制されている代替取引システムに登録することはできない。したがって、バーチャル・カレンシーとトークンの購入や販売において、取引所に上場されている株式の場合に適用されるのと同じ保護を受けることはできない。 

(4) バーチャル・トークンやコインの発行者は誰か?

 バーチャル・トークンまたはコインは、バーチャルな組織(virtual organization)または他の資金調達事業体によって発行される。バーチャル組織とは、コンピュータコードに組み込まれ、分散元帳またはブロックチェーン上で実行される組織である。「スマート契約(smart contract)」と呼ばれることが多いこのコードは、特定のバーチャル・コインまたはトークンの発行を含む、組織の特定の機能を自動化する役割を果たす。分散型の自治組織であったDAOは、バーチャル組織の一例である。

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(注1) 「 通貨」の定義を引用する。

一般には貨幣と同義に用いられているが,厳密には貨幣の諸機能,(1) 価値尺度,(2) 商品流通の媒介物としての流通手段,(3) 商品交換の最終的決済としての支払手段などのうち,(2) の機能を果す貨幣のことをいう。通貨は本位貨幣のほかに手形,銀行券,小切手,預金通貨などのすべての信用貨幣をも含む。

 なお、「信用貨幣」とは、手形,小切手,銀行券など,信用に基づき本位貨幣の代用物として流通する貨幣。本位貨幣 (金貨) に対する用語で,信用通貨ともいう。貨幣の支払手段としての機能を代用するものとして商業手形に始り,その後銀行を中心とする近代的信用制度の発達とともに銀行券や小切手など銀行信用が主たる信用貨幣となり,貨幣の流通手段としての機能をもつにいたった。(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典~引用)

 「バャーチャル・コイン」、「トークン」がこれらに該当しないことは明らかである。しかし、金融審議会などは改正資金決済法で堂々と「仮想通貨」を使った。そのセンスのなさだけでなく法的な厳格さに欠ける立法例といえる。 

  これに関し、弁護士 坂本有毅氏が指摘されているとおり「仮想通貨:改正資金決済法第2条第5項においても現状から帰納した内容の定義にとどまっているが、あえて表現すれば、物理的実体がなく、かつ現金を裏づけとしない固有の経済的価値を有することから、「サイバー金(銀)地金」が最も近いのではないかと考えられる。」という指摘は一面、参考になる。また、筆者は「暗号通貨(Encryption Currency)」という呼称も実体をある程度表していると思う。 

 また、海外のバーチャルコインの海外の立法例を見てみよう。

(1) 2015年6月24日に米国ニューヨーク州金融サービス局(DFS)は、バーチャル・カレンシー法において仮想通貨を「換金できる媒介物又は値(数量)をデジタル化し使用されるすべてのデジタル情報(unit)を意味する」との包括基準の定義した州法を告示した。

 すなわち、同州は州行政規則集第23編第1章第200部「VIRTUAL CURRENCY」を追加した。

以下、200.2条(Definition)のうち”Virtual Currencies”の部分を仮訳する。 

(p)バーチャル・カレンシーとは、価値の交換手段またはデジタル形式で保存された価値の形式として使用しうるあらゆる種類のデジタル情報を意味する。バーチャル・カレンシーは、(i)集中管理されたリポジトリまたは管理者を有するもの、(ii)分散化されており、集中化されたリポジトリまたは管理者がいないもの、または(iii)コンピューティングまたは製造者の努力によって作成または取得することができるデジタル交換情報を含むように広く解釈されるものとする。

 バーチャル・カレンシーとは、以下を含むものと解釈してはならない。

(1)(ⅰ)オンラインゲーム・プラットフォーム内でのみ使用されるデジタル情報、(ⅱ)これらのゲームプラットフォームの外に市場またはアプリケーションがないもの、(ⅲ)法定不換紙幣(Fiat Currency)またはバーチャル・カレンシーに変換または償還することができないもの、(iv)現実世界の商品、サービス、割引または購入のために交換可能であるか否かを問わない。

(2)発券者および/またはその他の指定した商人との顧客親和性または報酬プログラムの一部として商品、サービス、割引、または購入のために交換することができるデジタル情報、またはデジタル別の顧客親和性または報酬プログラムのユニットであるが、法定不換紙幣(Fiat Currency)またはバーチャル・カレンシーに変換または償還することができないもの。

(3)プリペイドカードの一部として使用されるデジタル情報。 

(注2) 平成29年5月22日政府広報オンラインは「「仮想通貨」を利用する前に知ってほしいこと。:平成29年4月から、「仮想通貨交換業(仮想通貨交換サービス)」に関する新しい制度が開始されました。」を用意し、また、金融庁は利用者向けリーフレット「平成29年4月から、『仮想通貨』に関する新しい制度が開始されます。」について」を公表している。ただし、これらの内容はバーチャル通貨の決済通貨システムの本来のリスク(投資リスク、システムリスクなど)を明らかとするものではなく、あくまで一般消費者や投資家に対する相談窓口の対応等に限定されたものである。 

(注3) 2015年12月2日付けで筆者は警告の意味で「SECは、米国ビットコイン採掘会社を投資家をだますねずみ講ビジネスとして告発」ブログで取り上げた。わが国でも同様の詐欺行為のリスクは大いにあると考えられる。

(注4) 2017.8.23 大和総研ライブラリー:町井克至「ICOは最新の投資手法?」はSECのIBを具体的に紹介している。以下のとおり、一部抜粋する。

「他国に先駆けて一部のICOを有価証券に該当するとした米国においてさえ、投資家に対してICOへの注意喚起を促す文書を公表した。同文書では、トークンが有価証券に該当するか否か、ICO実施事業者のSEC登録有無、関連する連邦法の適用可能性などを確認してICOへの投資を判断する必要があるとしている。つまり、投資アドバイザーによく相談すべきということだろう。どのような投資にも当てはまることだが、判断するに足る情報を集めて投資先を評価するとともに、投資にあたって保護される内容を確認することが欠かせない。ICOはグレーな部分があり、仮想通貨の活用という新規性や値動きのみに着目して投資するのは、推奨されないだろう。 

(注5) ICO(Initial Coin Offering)は、資金調達等の目的からサービス提供等を開始する前に、そのサービスで利用されるトークン(硬貨の代わりに用いられる代用通貨)の事前販売を行うもの(クラウドセールなどとも言われる)である。 

(注6) わが国で「分散型台帳」(distributed ledger)についての解説で金融制度面から精度の高いものは少ない。その中で、2017年3月柳川範之・山岡浩巳「ブロックチェーン・分散型台帳技術の法と経済学」が参考になる。なお、同論文は要旨において「・・・・・『デジタル化と分散型』という新しい技術特性を踏まえた法律・制度・経済理論面からの考察が重要であり、学界と実務家の密接な連携が望まれる」というコメントは中央銀行の認識の基本となる指摘であろう。また、技術面からの解説としては、青木 崇(政策投資銀行)「ブロックチェーン(分散型台帳)最新事情:第4次産業革命を牽引する革新的な技術への期待と課題」がよくまとめている。 

(注7) ”virtual currency exchange”とは、わが国の改正資金決済法2条7項では、 1.仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換、2.上記(1)行為の媒介、 取次ぎ又は代理、3.上記(1)(2)に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすること、と定められている。

「仮想通貨交換業」は、内閣総理大臣の登録を受けた者(仮想通貨交換業者)でなければ、行うことは許されません(改正資金決済法63条の2)。

 無登録で「仮想通貨交換業」を行った者や、不正の手段により登録を受けた者に対しては、「3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する」ことになる(改正資金決済法107条2号、5号)。 

(注8) ”DAO”は、デジタル自立分散型組織(Digital Decentralized Autonomous Organization)の略語で、投資家向けベンチャーキャピタルファンドの一形態である。

DAOは、営利企業と非営利企業の両方を組織するための新しい分散型ビジネスモデルを提供するという目標を持っていた。 Ethereumブロックチェーンでインスタンス化され、従来の企業としての管理構造や取締役会はなかった。 DAOのコードはオープンソースである。

DAOは無国籍国であり、特定の国家に拘束されていない。その結果、政府規制当局が無国籍基金をどのように扱うかについての多くの疑問は、まだ対処されていない点が多い。

DAOは、2016年5月にトークンセールを通じてクラウド・ファンディングファンドを行ったが、群集を逃した。トークンの歴史の中で最大規模のクラウド・ファンディングファンドであった。

2016年6月、ユーザーはDAOコードの脆弱性を利用して、DAOの資金の1/3を子会社の口座に吸い上げることができた。 2016年7月20日、Ethereumのコミュニティは、実質的にすべての資金を元の契約に戻すために、Ethereumブロックチェーンをハードフォーク (注9) することに決めた。これは議論の余地があり、Ethereumのフォークに導かれました。そこでは、最初の未熟なブロックチェーンがEthereum Classicとして維持され、Ethereumを2つの別々のアクティブなブロックチェーンに分割し、それぞれ独自の暗号通貨化を行った。

DAOは、2016年後半にPoloniexやKrakenなどの主要仮想通貨取引所での取引から上場廃止された。(Wikipediaを仮訳した)

(注9) フォークはもともとソフトウェア開発関係の用語として使われており、ハードフォークは後方互換性・前方互換性のないアップデートのことを指します。ブロックチェーンにおけるハードフォークは、旧バージョンで有効だったルールを新バージョンで無効とし、旧バージョンで無効だったルールを新バージョンで有効とすることです。

 ハードフォークの際は、旧バージョンと新バージョンとでルールが異なるため、ブロックチェーンが再び合流することがなく、永続的な分岐となります。旧バージョンでのルールが新バージョンで無効になってしまうので、この変更は慎重に行う必要があります。

「ハードフォーク・ソフトフォーク」から一部抜粋

(注10) たまたま筆者はMediumサイトでblockchainの仕組みの平易な解説例を読んだ。著者はLauri Hartikkaである。

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