2月17日、筆者の手元にData Guidance記事 「France: Senate definitively adopts whistleblowing bill」が届いた。
その内容は、フランス議会上院(senat)は、2022年2月16日に、「内部告発者の保護を改善するための法案(Proposition de Loi)第4398号(Proposition de loi nº 4398 visant à améliorer la protection des lanceurs d’alerte)(全11条)」を最終的に採択し、EUの内部違反を報告する者の保護に関する指令(指令(EU)2019/1937):「EU内部告発指令」という)を国内法化するため、2022年2月1日に合同議会委員会(以下、「CMP」という)によって合意された最終法案の文言により、フランスの法律に置き換えることを目指していると発表したというものである。
簡単に言うと、フランスにおけるEU指令の国内法化の事例として内部告発者の保護強化法が可決されたというものである。
これだけの内容を筆者は正確に理解するのに1時間かかった。つまり、(1)EU指令(EU)2019/1937)はどんな内容、(2)フランス議会の合同委員会(CMP)とはいかなる機能や権限を持つのか、(3)フランスのこの法案の正確な内容は何を見ればよいのか、(4)法案可決の経緯等である。
時間が限られているが、簡単にまとめたので参考に供する。なお、筆者はかつて院生時代にフランス法についてもかなり専門的な勉強したが、その記憶は時間とともに薄れた感がある。今回改めて、調べ直した。
1.EU指令(EU)2019/1937)はどんな内容
デロイトト-マツ(DTTL)の「EUの公益通報者保護指令」を一部、抜粋する。なお、筆者の責任でリンクを張った。
EUでは、加盟各国に内部通報者を保護する国内法の制定を義務付けるEU指令(Directive (EU) 2019/1937: the protection of persons who report breaches of Union law)が2019年4月に公開され成立しました。加盟各国は2020年内にもEU指令の理念を踏襲した公益通報者を保護する法令を制定する必要があります。EU指令の概要は以下のようなものです。
① ハラスメント等の通報者個人の被害軽減を要望するような事案は対象とされていない。
② 民間および公共部門の法人に体制整備を義務付ける内容となっているが、必要に応じた労働組合などの「社会的パートナー」との協議が前提となっている。
③ 民間企業の場合は、従業員50人以上、もしくは年間事業売上高または年間貸借対照表の合計が1,000万ユーロ以上の企業が対象となる。
④ 通報者の個人を特定する情報の守秘性について厳格な管理を求めている。
⑤ 不利益取扱があったと通報者が主張した場合は、それが不利益取扱ではないと立証しなければならないのは企業側としている。
⑥ 被通報者に対する不利益取扱についても禁止の条項がある。
⑦ 通報から3か月以内に通報対応の結果を通報者にフィードバックすることが求められている。
⑧ 所管当局への通報の方法および条件といった情報を労働者が容易に入手できるようにすることを求めている 等
EU圏に事業所等が存在する企業では、グローバル内部通報制度を敷設するにあたって、日本の改正公益通報者保護法とEU指令の両方をにらみつつ、自組織の内部通報制度に不備がないかを確認する必要があります。(以下略す)。
2.フランス議会の合同委員会(CMP)とはいかなる組織や機能や権限を持つのか
(1)議会上院サイト「フランス議会の合同委員会」を一部抜粋、説明を加えたうえで仮訳する。なお、リンクは筆者の責任で行った。
フランス議会の合同委員会(La commission mixte paritaire :CMP)は、7人の下院議員(députés)と7人の上院議員(sénateurs)で構成される委員会であり、政府法案 (projet)または議員法案(proposition de loi)に関する上下院間の永続的な不一致の場合、首相の主導または2008年以降、法案の提案のために2つの議会の議長が共同で召集することができる。その使命は、共通の法案につき上下院2つの議会の調停を達成することである。
各議会が「独自の側で」立法する手続きの文脈では、第五共和政の革新である合同委員会は、一見矛盾しているように見える2つの目的を調整することができるという点で次のとおり非常に効果的であることが証明されている。
①一方では、バランスの取れた二院制の通常のゲームを可能にするために、各院はその視点を主張できなければならない。
②一方、両院間で法案につき意見の不一致が生じた場合に、各々の立場の和解を促進するため。
CMPは、第五共和国憲法第45条、および国民議会と上院の規則に準拠している。手順を実施するための実際的な取り決めは、1959年5月に議会と政府の事務総長によって開催された会議の議事録に部分的に示された。その一部の要素は議会の規則に記載されている。なお、憲法評議会(Conseil constitutionnel)は、これまでCMPに関する規則を制定するように何度か求められている。
(2)上院プレスリリース内容
MP Sylvain WASERMAN 国民議会議員と彼の同僚議員の何人(注1)かによって提案された、内部告発者の保護を改善することを目的とした同法案は、内部告発者のための明確で保護的な環境を構築する傾向があり、以下の規定が含まれる。
MP Sylvain WASERMAN 議員
① 内部告発者の定義と彼/ 彼女の警告によって影響を受ける可能性のある分野を指定する(第1条)。
② 内部告発者に関連する自然人および法人の保護の内容を改善する(第2条)。
③ 内部告発者を報復および閉鎖する手続きから内部告発者より適切に保護し(第4条)、内部告発者を対象とした報復に対する制裁を強化することを可能にする(第8条)。
④ 公務員が内部告発者保護措置の恩恵を受ける可能性を認める(第10条)。
また、Sylvain WASERMAN議員と彼の同僚議員の何人かによって提案された、アラート報告の観点から権利擁護者の役割を強化することを目的とした提案された法案は、内部の違法状況のアラートおよびレポートを投げた人に対する権利擁護者の役割を指定する傾向がある。それは、告発のフォローアップを確実にするために取ることができる行動と同様に、その保護される権利を受け取る。
(3) 上院のプレスリリースを読み、採択された法案を以前のバージョンと比較することができる。ただし、いずれもフランス語である。
3.フランスのこの法案の正確な内容
国民議会サイトで法案(Proposition de loi nº 4398 visant à améliorer la protection des lanceurs d’alerte)の内容は確認できる。(注2)
(注1)共同提案議員は、Patrick MIGNOLA、Christophe CASTANER、Olivier BECHT、RaphaëlGAUVAIN、であるが、法案の賛成議員は極め多く、政党別で見ると「民主運動(Mouvement Démocrate,)党」、および関連する民主運動党)、リベラル政党である「La Républiqueen Marche(共和国前進)」、および近い議員、Agir ensembleである。
(注2)フランス国民議会の政党名をあげる。
・Groupe Agir ensemble (23名で構成)
・Groupe Mouvement Démocrate (MoDem) et Démocrates apparentés
・Groupe La République en Marche
・Groupe Les Républicains
・Groupe Socialistes et apparentés
・Groupe UDI & Indépendants
・Groupe La France insoumise
・Groupe de la Gauche démocrate et républicaine
・Groupe Libertés et Territoires
・Députés non inscrits
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