わが国でも監査法人の責任をめぐる問題は最近でも折に触れて大きな社会的問題となるが、米国では、金融監督機関である「連邦預金保険公社(FDIC)」等が2005年5月10日、連名で外部監査の客観性を弱めるような監査人の責任制限規定を盛り込んだ監査契約書を問題視し、警告書草案を起草のうえ2005年6月9日を期限としたコメント聴取を行った。その要旨は次のような内容であるが、各種コメント内容を受けて見直しのうえ2006年2月3日付けでFDIC等連邦監督機関が連名で最終的な警告通達を発した。わが国の今後の論議の参考になろう。
〔2005年5月10日の勧告草案の要旨〕
1.今回提案する省庁間(interagency)勧告書草案は、金融機関の取締役会、監査委員会、外部監査人等に対し、財務報告書において外部監査人の責任を制限する規定自体の適用をいかに安全かつ健全なものに変えるかという観点からとりまとめたものである。
2.草案は、すべての金融機関について、①規模、②公的金融機関であるか否か、また③外部監査が求められた場合か自発的なものか否かを問わず適用されるものである。
3.責任制限条項自体は、外部監査の客観性、公平性、実効性を弱めることにつながり、その結果、金融監督機関の外部監査依存能力をも弱めることになる。
4.責任制限条項そのものは、米国証券取引委員会(SEC)や公開企業会計監視委員会(PCAOB) (注1)、公認会計士協会が定める「監査人の独立性に関する基準」に適合しないものである。
〔2006年2月3日の最終勧告書の要旨〕
1.勧告書(正式名は「監査契約書における外部監査人の責任制限条項の非安全性・非健全性に対する勧告書について:The Interagency Advisory on the Unsafe and Unsound Use of Limitation of Liability Provisions of Liability Provision in External Audit Engagement Letters 」)
2.責任制限条項の具体的な内容は以下の通りである。
①金融機関が外部監査人に対して行われた第三者による請求行為(懲罰的損害賠償(筆者注2)を含む)を金融機関が補償(indemnify)する条項。
②監査人の顧客である金融機関にとてって可能である請求や潜在的な請求権を免除するという条項。
③顧客である金融機関が援用可能な法的救済(賠償)(remedies)を制限する条項。
本勧告は、まもなく行われる「連邦官報」公布後に締結された監査契約書について適用される。したがって、公布以前に施行された契約書については適用されない。しかしながら、なお、金融監督機関は複数年度にわたる監査契約書を締結していた場合でも2007年以降を含む場合は安全性や健全性を欠く責任制限条項についてはその修正を勧告するとともに、適切な監督的行動をとる。
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(注1)米国「Sarbanes-Oxley Act(サーベインズ・オクスレー法)」(企業改革法、SOX法)(2002年7月末に成立)では、公開会社を監査する会計事務所の監査業務の品質を監視する機関として、公開企業会計監視委員会(PCAOB: Public Company Accounting Oversight Board)を新たに設置した。
このPCAOBは、米国政府機関ではなく非営利のD.C.会社(District of Columbia Nonprofit Corporation Act)であり、運営財源は主に、米国公開会社によって賄われています。PCAOBを構成する常勤の5人のメンバーは米国SEC(Securities and Exchange Commission)により任命(任期は5年間)され、この5人のメンバーのうち2人は公認会計士であることが要求されていル。(KPMGサイトの解説から引用)
(注2) 主に不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において、加害者の行為が強い非難に値すると認められる場合に、裁判所または陪審の裁量により、加害者に制裁を加えて将来の同様の行為を抑止する目的で、実際の損害の補填としての賠償に加えて上乗せして支払うことを命じられる賠償のことをいう。英米法系諸国を中心に認められている制度である。(Wikipediaから引用)
なお、最近のタンカー沈没による汚染問題の筆者ブログ(筆者注3)でもわが国での消費者庁の関係検討委員会での検討状況が伝えられている。
〔参照URL〕
1.2005年5月10日の勧告草案通達(FDICの通達)
”External Audit Engagement Letters Unsafe and Unsound Use of Limitation of Liability Provisions and Certain Alternative Dispute Resolution Provisions FIL-41-2005 May 10, 2005 ”
(本通達はあくまで草案のためFDIC通達では”inactive”(機能停止)扱いとなっている。
2.2006年2月3日の連邦準備準備制度理事会等最終勧告通達(連名)
”Federal Financial Regulatory Agencies Issue Interagency Advisory On External Auditor Limitation of Liability Provisions ”
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(今回のブログは2006年2月5日登録分の改訂版である)
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