白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

日本勢、大健闘!

2016年09月25日 19時03分08秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は2016ジャステック杯国際新鋭囲碁対抗戦の最終日でした。
日本チームの中国チームとの対戦結果は、なんと4対4の引き分け!
近年日本の若手のレベルアップが著しいですが、ここまでやるとは思いませんでした。
3連勝を果たした余正麒七段をはじめとして、内容の良い碁も多かったと思います。
それでは本日はその中の一局、上野愛咲美初段(黒)対宋容慧五段戦をご紹介しましょう。



序盤、右上でややこしいやり取りがありました。
最近はあまり見かけませんが、何十年も前からある型です。





ここまで進み、次に白Aと切られると黒4子が危ないので何か手当てしなければいけません。
その方法は・・・





黒1のカケツギが形で、これで右辺白の動きを完全に封じています。
ただし白Aが先手になる関係で黒はダメ詰まりであり、白2に対して受けなければいけません。
その間に中の白が強くなり、上辺の黒を一方的に攻められてしまいます。
黒はこれを嫌ったのでしょう。実戦は・・・





黒1の並び!
この部分だけ見るとありえない手です。
白△を取れていないどころかこの石を急所に来させており、白AやBの狙いも残っています。
しかし中央に対する発言力が強いという利点があり、上野初段はそこを重視しました。





白1に対して黒4を利かして間に合わせ、黒6と上辺に先行する事ができました。
こちらの戦いの方が本線という判断です。
部分の形より大局を重視した、実戦的な打ち方でした。





危険な手を打つわけですから、当然読みも必要です。
右辺の黒は白5と切られても、黒10まで簡単に生きられるという読みがありました。
この後白5子を動き出すのは、黒石の多い下辺での戦いになるので黒有利です。





という事で白は5子を捨てて先手を取り、白5と上辺の黒に攻めかかりました。
有利な戦場で主導権を握ろうという作戦です。





白の攻めが続いており、白△とボウシした場面です。
ここで黒はまず頭を出す事を考えるのですが・・・





黒1のコスミなら簡単に出られますが、両側の白に対する響きが全くありません。
プロはこういう打ち方を嫌います。
実際問題、両側の白が楽なので白6以下一方的に攻められる展開になるでしょう。





という事で黒1と力強く曲がったのですが、白2から4と切られてしまいました。
黒ピンチ?





しかし上野初段は守る事だけ考えていた訳ではありませんでした。
黒1が狙いの一撃!
黒5まで切断し、逆に白の大石に攻めかかりました。





黒2、4と進出し、白の大石は意外と息苦しい姿です。
また黒△に切りが入った形なので、白5子も弱くなっています。
どうやら黒のパンチが入った気配です。
この後白が上辺の黒を取りに来ましたが・・・





最後は逆に白の大石が全滅!
14歳の上野初段、世界戦で数々の実績を誇る宋五段を相手に見事な戦いぶりでした。

なお韓国チームが台湾チームに5対3で勝ったため、日本は3位となりました。
中国、韓国と引き分けて3位というのは勿体無い気もしますが、仕方ないですね
新鋭戦ですから結果よりも内容が大事です。
世界の強豪相手に堂々と戦えた事は自信になるでしょう。
今後も世界の頂点を目指して頑張って貰いたいと思います。

日台戦

2016年09月24日 21時04分28秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は四谷大塚で開催されていた、全4回の子供囲碁入門教室の最終日でした。
面白い事もあったのですが、後日改めてレポートします。
本の原稿の締め切りが明後日なので現在大ピンチです

しかし時事ネタは外す訳にはいきません。
本日は2016ジャステック杯国際新鋭囲碁対抗戦の2日目が行われました。
日本チーム対台湾チームの対戦結果は4対4の引き分けでした。
実力通りなら勝ち越せると思っていましたが、勝負はなかなか予定通りにはいきませんね。

さて、本日ご紹介するのは余正麒七段と林立祥七段の対局です。
先日王座挑戦を決めた余七段は安定した強さを発揮しており、本局も勝って2連勝となりました。



途中から白番の余七段が主導権を握り、良い流れが続いています。
黒△と打たれた場面、白1と黒2の交換をしましたが本線は右上の戦いです。
次に白Aと打つ手がまず目に付きます。





白1に黒2と受けてくれれば、一本道で黒8までとなります。
黒を団子にする一方で白は鉄壁を築き、理想的な結果です。
しかしこれは期待できません。





白1には黒2から、白の薄みを衝いて反撃して来ます。
黒4の後・・・





白1と押さえる一手ですが、黒2のコウ取りが先手で黒4と切られます。
白Aと繋げば黒Bで4子を取られてしまいます。
しかしもしも予めBに白石があったら・・・という発想が実戦の進行に繋がります。





実戦は白1のツケ!
素晴らしい一手で、手筋の見本と言って良いでしょう。
黒Aと遮りたくなりますが、白はそれを誘っています。





黒1と打ってくれれば、自然に白2に石を持ってくる事ができます。
そしてここで白4を決行!





すると先に出した図と同じように進みます。
次に黒Aから白を取りに行くのも同じです。
しかし白△が加わっているのが大きな違いです。





黒1、3と取りに行きますが、白△の働きでアタリになっていないのがポイントです。
攻め合いで一手違うのは大変で、この後・・・





白1から3でコウを仕掛ける手段が生じます!
コウ材は白5、もし黒が受ければコウを取り返し、黒からのコウ材はありません。
左下隅で白△を打っているのがポイントで、黒からのコウ材を予め消しています。
もちろん白の予定通りでしょう。





黒1とコウを解消するのは止むを得ず、振り替わりの結果は白勝勢でしょう。
余七段らしい深い読みでした。
・・・という事で合っているでしょうか?
余七段と違って私の読みは穴だらけなので、本人が見たら違うと怒られるかもしれませんね





白1に対して黒2なら、先述のシメツケを決めて十分です。
後はヨセに回って白楽勝でしょう。





という事で実戦は白△のツケに対して、黒1、3とシメツケを嫌って変化しました。
しかし白は隅へ大きく食い込み、これも大きな戦果です。
この後黒が玉砕に出ましたが、間違い無く対応して勝ちを決めました。
余七段の充実ぶりが表れた一局だったと思います。

なお、中国チームは韓国チームを5対3で下し、2連勝となって早くも優勝が決まりました。
一般の世界戦でも活躍する実力者を揃えた中国チーム、流石の強さです。
もはや優勝は無いとはいえ、最強チームに挑む事は大いに意義があります。
明日の日本チームの奮闘を期待しましょう!

ジャステック杯新鋭対抗戦

2016年09月23日 19時17分35秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日、2016ジャステック杯国際新鋭囲碁対抗戦が始まりました。
1チーム8名の総当たりの団体戦で、4ヶ国が3日間に渡って優勝を争います。

初日は日本対韓国、中国対台湾の組み合わせでした。
結果はそれぞれ4対4、8対0となりました。
それでは日本チームの対局をご紹介しましょう。



牛栄子初段(黒)と呉侑珍三段の対局です。
牛さんは昨年入段したばかりの17歳、大人しそうな外見ですが碁は相当な剛腕だと思います。
本局でもその剛腕を披露してくれました。

布石感覚も独特です。
右上の黒一団がまだ弱いので、黒Aと打って上辺への打ち込みを牽制するのが常識的な感覚かと思いますが・・・





黒1に向かって白2の打ち込みを許しました。
これは誘いの隙とみて良いでしょう。
戦いの碁にしようという意図が感じられます。
牛初段の棋風が表れた構想だと思います。





白△に対しても迷わず黒1と反撃!
牛さんの腕力が試される展開になってきました。
流石にこの白を取る事はできませんが・・・





白が上辺につながる間に、しっかりした形で外を止める事ができました。
牛さんの力を発揮する準備が整ったと言えます。
そして中央の黒模様が大きくなったので白1と制限しに来ましたが、ここで黒2がまた良い調子です。





白1と受けさせれば黒4まで、下辺が大きな黒地になります。
これは白いけません。





という事で白1と侵入、お互いが相手の地を荒らす展開になりました。
しかし黒はただ地を荒らす事だけ考えていた訳ではありません。
黒4、6はある狙いのための準備です。
それは何でしょうか?





黒3が先手で、黒7となるとAとBが見合いで中央の白2子が切れています。
これが狙いで、白を取りに行きました!





右下付近では難解な事になりました。
結果は白が隅を取り、黒が右辺を取る振り替わりになっています。
この結果は地だけ見れば白が得をしましたが、しかし大した問題ではありません。
重要なのは、この後中央の白がどうなるかです。





白は必死に凌ぎを図ります。
白5までなんとか形を作ろうとしますが・・・





黒1、3でスペースを狭めておいて、黒7と急所に一撃!
これで白は生きる見込みが無くなりました。





その後白が技を繰り出して左辺を破りましたが、大勢には影響しません。
白20子を全滅させた牛初段の快勝となりました。


なお全ての対局は幽玄の間で中継されます。
新鋭達の戦いぶりを、ぜひご覧ください!

新人王戦第1局感想

2016年09月22日 18時48分10秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日、第41期新人王戦決勝三番勝負第1局が行われました。
早速振り返っていきましょう。



黒は谷口徹二段、白は大西竜平二段です。
2人とも正面から戦う碁という印象です。

序盤から双方が工夫を凝らし、見た事の無い局面になりました。
右下黒Aと切れば白Bと取ってコウです。
しかし「初コウにコウ材無し」というように、並のコウ立てでは迷わず解消されて黒がいけません。
そこで黒△はコウ立て作り、白の対応によってはコウを仕掛けようとしています。





白1が真っ先に浮かぶ対応ですが、白5まで交換してから黒6とコウを仕掛けるつもりでしょう。
黒8が強烈なコウ材になります。





コウを解消するしかなく、勢い派手な振り替わりへと進みます。
この分かれは黒が良いでしょう。





そこで実戦は白1とコウを取って黒2の連打を許しました。
その代わり白5と挟み、こちらで主導権を握る作戦です。





黒の右辺の打ち方には、何か誤算があったのではないでしょうか?
黒△が無駄になっており、白が打ちやすい局面になったと思います。
黒も形勢に危機感を感じていたのでしょう。
次に黒Aと「三目の頭」を伸びるのが自然ですが・・・





黒1とハネて、あえて白2の急所を切らせました。
黒3子がダメ詰まりになり、白Aの「三目の真ん中」の強烈な手筋が生じています。
黒はそれは承知の上で、局面を複雑にしなければ勝機が生じないとみたのでしょう。





しかし白の対応は的確で、左辺黒2子を大きく飲み込んでははっきり優勢となりました。
黒△の切りに対しては・・・





当然白1と繋いで全体の連絡を図るだろうと思っていました。
黒2で白△を取られますが、白5の大場に回って形勢ははっきりリードしているでしょう。





ところが実戦は2子を助けて頑張りました
中央黒への攻めを狙っていますが、右辺の白も切られています。
周辺には黒石が多く、黒Aの利き筋もあります。
ほとんどのプロはこの展開を望まないはずです。
しかし善悪はともかく、正面から戦っていくのが大西二段の信条なのでしょう。
16歳の新鋭は、元気が有り余っているようです。





その後黒△と切り、またしてもコウ争いが始まりました。
しかしこの場面では白のコウ材が足りず・・・





白1と後退、黒2を許しました。
白Aのハザマを狙われていた所だけに、白2子を取り込んだのは大きな戦果です。
また白の眼形を奪ってもいます。
黒に風が吹き始めました。





黒は着実にポイントを挙げ、黒△と出た場面でははっきり地合リードです。
ここで左辺を受けず、白1と踏み込んだのが渾身の勝負手!
黒Aと進出されると左辺の白地がガタガタになるのですが、白Bで黒5子が危ないぞと言っています。
黒はその戦いを受けて立つ選択もありましたが・・・





黒1と安全策を採ったのは、自信か震えか?
真相は分かりませんが、白△を先手で打てては白大きく得をしました。
これで急激に細かくなりました。

この時点はまだ少し黒が良かったのでしょう。
しかしヨセでミスが出たのか、結果は大西二段の白番半目勝ちとなりました。


両者打ち過ぎや悪手もあったでしょうが、正面から戦っているのは新鋭らしくて良いですね。
9月30日(金)に行われる第2局も楽しみです。

高尾挑戦者、3連勝!

2016年09月21日 23時24分44秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は名人戦第3局の2日目が行われました。
結果は高尾挑戦者が黒番中押し勝ちを収め、開幕3連勝となりました。
井山名人が番碁で3連敗するのは初めてでしょう。
驚きです。
それでは2日目の模様を振り返っていきましょう。
なお対局の模様は幽玄の間にて、仲邑信也九段の解説付きで中継されています。



封じ手は白△の引きでした。
打たれてみれば当然の一手です。
当てなければいけません





白△が全部取られるので盲点に入ってしまいました
黒の利益は30目を軽く超えますが、外側の厚みの方が大事なのです。
そして地の損は右上へ侵入して取り返しに行きました。
ここで黒は白を攻めたくなるのですが・・・




果たして利益が上がるかどうか?
白△が良い所にあり、隅の黒地はあまり大きくなりません。
それより白8に回られると白模様が大きくなりそうです。





という事で中央を動いて右下から伸びた白の大石を狙う、という作戦が思い浮かびます。
しかし黒1、3とは軽やか!
高尾挑戦者の名手ではないでしょうか?
私には思い付きそうもありません。





黒1と繋ぐ手が真っ先に思い浮かびます。
しかしこれは鈍足、白6まで大石が簡単に上辺に繋がってしまいました。
一方中央の黒はまだ心配ですし、裏側では黒△が心細くなっています。
これでは黒は何をやったか分かりませんね。
高尾挑戦者の手が名手たる所以です。





白は左辺を受けずに右上を打ちました。
黒が受けなかったのを咎めようとする、一つの気合です。
しかし黒2から6までが機敏で、所謂「内と外」の交換となりました。
内側に入った白石は今後の戦いに役立たないのに対し、黒は外側の弱い石を強化する事ができました。
黒にとって大いにプラスの交換です。
さて、ここで黒Aと白△を取りきるかと思いましたが・・・





実戦は黒△!
この手に擬音を付けるなら・・・ガツン!
高尾挑戦者渾身の一着でしょう。
ツケは強制力の強い手で、相手はここを続けて打たなければいけません。
黒の狙いは何でしょうか?





一気呵成に黒14まで進み、黒の狙いが明らかになりました。
そう、右下から伸びた白の大石です!
黒の豪快なモタレ攻め作戦でした。





白は必死に凌ぎを図ります。
白9の後黒Aと取りに行きたい所ですが、Bに傷があるのが気がかりです。
下手をすると逆襲されてしまうかもしれません。





そこで黒1、3が高尾挑戦者らしい我慢の一着です。
いきなり取りに行かず、Aの弱点を消して白に脅しをかけています。
白が脅しに屈して大石を生きるなら、黒Bに回って形勢黒良しとみています。
高尾挑戦者の形勢判断は正確です。





井山名人も同じ判断だったのでしょう。
白1と右上を打って地で頑張りました。
黒Aと打たれて死んだら仕方ない、でも簡単には死なないぞと言っています。
これは第2局で凌ぎ勝負に出た高尾挑戦者と同じ心境でしょう。
そして高尾挑戦者の選択は・・・





黒1とさらに我慢!
取りに行くのではなく、黒△の一団を強化して、「次は取りに行くぞ」と最後通牒を突き付けました。
白Aと大石を逃げるなら黒Bからヨセに入って十分という事でしょう。
やはり正確な形勢判断が基にある打ち方です。





形勢不利の白は最後通牒を無視して白1と地を稼ぎました。
対する黒はとうとう黒2と実力行使!
生きるか死ぬかの決戦か!?





・・・と思われましたが、高尾挑戦者は最後まで冷静でした。
まず中央で白4子を抜いて儲け・・・





上辺でも白2子を取って儲けました。
黒4子を取られて白の大石が生きてしまいますが、もう十分と判断しました。
その判断は正しく、ここから白が逆転するチャンスは全くありません。
この碁は絶対に逃さないという、高尾挑戦者の決意が表れた勝ち方でした。


終わってみれば高尾挑戦者の完勝と感じました。
黒49、黒87といった重厚な手を放つ一方、黒77のような軽快な手も見せました。
名局としか言いようがありません。

さて、井山名人はとうとう追い詰められました。
いくら高尾挑戦者が強いとはいえ、この展開は誰も予想できなかったのではないでしょうか?
高尾挑戦者の圧倒的有利となりましたが、しかし七番勝負は最後まで分かりません。
3連敗後の4連勝は過去に何度も起こっています。
ましてや相手が井山名人ですから、これで五分という高尾挑戦者の言葉は半ば本気でしょう。

このまま高尾挑戦者が押し切るのか、井山名人が奇跡の大逆転への第一歩を踏み出すのか!?
七番勝負の決着まで、どちらが勝つにしても歴史的な戦いになるでしょう。
第4局は第4局は10月4日(火)、5日(水)に兵庫県宝塚市「宝塚ホテル」で行わます。
お楽しみに!