白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

封じ手予想?

2016年09月20日 20時54分44秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日、第41期名人戦挑戦手合七番勝負第3局の1日目が行われました。
早速振り返っていきましょう。



黒番の高尾挑戦者が白△を攻めて主導権を握ろうとした場面です。
対する井山名人の白1が凄い!
逆に黒を攻めようとしています。
井山名人の気迫が表れた一手でしょう。





当然黒も怒って分断します。
序盤から乱戦が始まりました。





ここでの白1にもびっくりです。
白の弱い石が2つあるにも関わらず、離れた所に打つとは・・・
碁盤の見え方が違うとしか思えません。





対する黒の打ち方はプロなら第一感、白の形を崩して攻めています。





その後白1に対する黒2が、高尾挑戦者らしい重厚な一手です。
足が遅いようですが、白Aと受ければ黒BかCで下辺の白に襲いかかろうという事でしょう。





そこで白は1と下辺を備え、黒は中央を連打する事になりました。
そして黒6が強手です。
黒はシチョウが悪いのですが・・・





白1、3と逃げた時に黒4が「王手飛車」です。
黒AとB、どちらが成立しても終わりです。
白困ったようですが・・・





白1、3が必死の凌ぎです。
上下両方を守って頑張りました。
しかし話はここで終わりません。





黒1が再び2つの狙いを見ています。
これに対して白は・・・





白1とまたしても必死の頑張り!
黒は白3に対してAと切りたいのですが、白Bからの反撃があります。
そこで黒は・・・





黒△が手筋です。
白Aと受けさせれば、白Bと出られてもシチョウで取られない形になります。
この黒△の次の白の手が封じ手となりました。
今どんな状況かというと・・・





黒には2つ狙いがあります。
黒1、3が1つ目で、次に白Aと打つと黒Bでまとめて取られるのでいけません。
白Bと逃げる事になりますが、白△が取られてしまいます。





もう1つが黒1、3で、白△を取る事ができます。
この両方を防ぐ手は・・・無いように見えます。





という事で封じ手は、仕方無く白△でしょうか。
中央は譲って長期戦を目指します。


並のプロの目には、白がかなり厳しい状況に見えますね。
井山名人が常人には見えない凄い作戦を用意しているかどうか?
2日目の展開に注目です!

チャンス

2016年09月19日 21時31分29秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
今回のテーマはチャンスです。
1局の中では、大きなポイントを挙げるチャンスが何度かやって来ます。
特に置碁ではそれが顕著です。
置碁で黒を持つとひたすら守って勝とうとする方が多いですが、良い作戦とは言えません。
しっかり守るのは良いのですが、どこかで大きなポイントを挙げなければ上手に勝つのは難しいでしょう。



5子局の黒番です。
ここがまさにチャンスなのですが、どう打ちますか?





実戦は黒1と上下を繋がりました。
安全な手ですが、この局面ではチャンスを逃しています。
白2と守られ、天元の石がぼやけてきました。





石の強弱を確認しておく事がヒントになります。
左下の黒△は非常に強い石で、白にこのぐらい取り囲まれても死にません。
この石に気を使って打つ必要が無い事が分かります。





正解は黒1の打ち込み、左右を分断する強烈な一撃です。
周囲は真っ黒ですから、ここは攻めでポイントを挙げるチャンスです。





白1なら黒2で白△が弱くなります。
白3、5には黒4、8と繋がっておいて黒は万全です。
白5子は未だに弱い石ですし、白△は自然消滅となる可能性大です。





白1なら黒2です。
左側の黒が強くなったので、今度は安心して黒4、6と攻める事ができます。
自然に外側に黒石が増えていき、後に黒Cに回れば大模様が完成します。
なお白Aの切りには黒Bから捨てて問題ありません。
左上の白が生きているので、黒△はかなり価値の低い石なのです。





白1はサバキの常套手段で、曲者です。
しかし周囲が真っ黒なので遠慮する必要はありません。





黒1とハネ出し、黒9まで連絡する事ができます(白Aには黒B)。
根拠を奪われた白は逃げ惑う羽目になるでしょう。
黒はさらにポイントを挙げていく事ができます。


こういったチャンスを逃さず打てるようになると、勝率はぐんと上がります。
もし1回もチャンスが来なかったら?
・・・それは手合い違いなので、置石を増やしましょう

解説について

2016年09月18日 23時57分04秒 | 囲碁について(文章中心)
皆様こんばんは。
本日は世界アマ日本代表決定戦が行われ、優勝した坂本修作さんが日本代表となりました。
最近の全国大会は若手が優勝するのが当たり前になりましたが、その中で今回はベテラン同士の決勝戦でした。
圧倒的最年長、90歳の平田博則さんが1勝を挙げているのも凄い
囲碁は本当に奥の深いゲームですね。


さて、本日は「解説」について語ってみようと思います。
プロの仕事の一つに対局の解説があります。
題材はアマの皆さん同士の対局、プロとアマの指導碁等々ありますが、今回はプロの対局の解説に絞ったお話です。

プロも色々で、私のような石ころが転がっている一方、常にタイトル争いをしているようなトッププロもいます。
しかしそれぞれ目の前の対局に全力を尽くす事には変わりません。
ですから他人の対局を解説するのには非常に気を使います。
対局者が必死に考えた手を、気楽な第三者が簡単に否定したりするのは失礼という意識がありますからね。
趙治勲名誉名人の若い頃は、1局解説するのに3日がかりだったと聞きます。
またお気付きの方もいらっしゃるでしょうが、当ブログでは棋譜の「紹介」はしても「解説」という言葉は使っていません。
それも理由は同じです。

しかしこの対局者を尊重する文化、行き過ぎると外に向けて情報を発信する際に足枷になります。
対局者に失礼にならないよう、当たり障りのない解説になってしまいがちなのです。
ですが囲碁を楽しんでいるのは一般の囲碁ファンです。
面白い解説のためには、間違える可能性が高くても踏み込んで行かなければいけないと思います。
対局者が間違える事を恐れて無難な手だけ打っていては碁が面白くありません。
同様に解説者も自分の考えを前面に出して行くべきで、その結果間違いがあっても仕方ないでしょう。
対局者としてもそういった間違いには寛容でなければいけません。

しかしアマがプロに間違った解説をされたら怒る権利があります。
そういう訳で、基本的に当ブログでは強すぎるアマの碁の解説はしません(笑)

解説についてもう一つ思うのは、事実を伝えれば良いというものではない、という事です。
よく見る解説の流れは「この分かれで黒がリードした→黒のこの手が悪くて逆転した、ああ打っておけば良かった→ヨセのこの手が悪く敗着になった、あちらに打っておけば白が勝っていた」・・・などといったものです。
しかし多くの場合プロの好手、悪手は僅かの差です。
その違いを知って楽しんだり、上達に役立てられるアマがどれだけいるでしょうか?
囲碁ファンの大半はプロから遠いレベルにある事を忘れてはいけません。

囲碁は概ね強い方の方が熱心で、囲碁界としてもそういった方々を非常に大事にしてきました。
その流れがずっと続いているのですが、しかし今は楽しみ方も多様化してきました。
ネットの普及もあり、囲碁は気楽に楽しむ事ができるゲームになっています。
そうした状況でいかに万人が楽しめるコンテンツを増やしていけるかで囲碁界の将来は変わって来るでしょう。
プロの対局の解説もその一つです。
初級者が見てもプロの碁の面白さ、凄さが伝わるのが理想です。
そんな解説ならルールを知らない方が見ても、碁に興味を持ってくれるかもしれません。

長くなりました
机上の空論かもしれませんが、そんな所を目指して勉強中です。
自分はまだまだですね。

石の価値

2016年09月17日 21時15分01秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
本日は石の価値についてお話ししてみましょう。

将棋と違って碁で打つのは全て同じ石です。
しかし一つ一つの石の価値はそれぞれ大きく異なります。
それを意識していないと価値の低い石を助けてしまったり、大事な石を捨ててしまったりします。
幽玄の間で中継された小林覚九段(黒)と許家元四段の対局が良いお手本なので、皆様にご紹介しましょう。



白△と打った場面です。
序盤の難解な戦いな結果は、お互いに4子を取り込む分かれになりました。
さらに黒にはこれから取られそうな石がありますね。
それを助けるかどうかは、石の価値で判断します。





黒1、3のように逃げてしまう方が多いですね。
しかしこの石は実は価値が低いのです。
石の価値の判断基準として取られた時に地が何目出来るかというのは二の次、大事なのは助ける事によって役割が生じるかどうかです。

ではこの場合どうかというと、周辺の白は非常に強いので黒から狙いがありません。
一方助ける事によって弱い石という大きな負債を抱えてしまいます。
この負債によって少なくとも左辺は黒地にならなくなってしまうでしょう。





という訳で捨てる事を考えるのですが、実戦の黒1とはうまい着点でした。
白Aなどと取ってくれれば、小さく捨てて左辺黒模様を広げられた事になります。
黒Bの大きなヨセも先手で打てるので、白地はさほど増えていません。





実戦は白が他に回りましたが、一転黒1、3と助けていきました。
石の価値は周囲の状況によって変わります。
今度は下辺白を封鎖して攻める形になるので、黒△は白を切り離す大事な石になっているのです。





白が生きている間に黒に強力な厚みが出来、隅も確定地になりました。
これなら助けた甲斐がありますね。





その後白△と打ち、黒4子を攻めて来た場面です。
黒は助けるべきでしょうか、捨てるべきでしょうか?





周囲の白が強いため、助けても狙いがありません。
一方白2から攻められる大きなマイナスがあります。
逃げている間に白8までとなると、大きな黒地が出来そうだった左辺が台無しになってしまいます。





という訳で実戦は4子を捨て、黒1、3と白△を飲み込みにいきました。
左辺の黒の方が遥かに大きいのですから、わざわざ価値の低い石を助ける必要はありません。
白も当然取らず、Aとハネ出して戦いになりました。





手順が進んで白△と打った場面です。
ここで黒△の価値をどう考えるかですが・・・





白2と取られると白が全部繋がってしまいます。
そして逆に黒△が危険になります。





という訳で実戦は黒1と助けました。
これによって黒△が強くなりますし、白△間の連絡の薄みを狙う事が出来ます。
黒4子は価値の高い石になっているのでした。





さらに手順が進み、ここで黒1と△の石を助けました。
先ほど助けた中央が取られてしまうのは勿体無いようですが・・・





黒1から左上の白全体を攻めるのが狙いでした。
こうなると黒△を助けておかなければいけなかったという事が分かりますね。





そして実は捨てた形の中央の黒にもまだ脈がありました。
当然計算に入っていたでしょう。
黒1から逃げ出して捕まえる事ができません。
これが決め手となり、ほどなく白投了となりました。


方針を決める際に石の価値を考える事は重要です。
いらない石を助けて延々攻められたり、要石を捨てて攻めのチャンスを逃してしまう方はしばしば見受けられますが、石の価値を正しく理解できていない事が原因です。
しっかり石の価値を判断できれば、捨てるべき石と助けるべき石を間違える事は無くなってくるでしょう。

反発

2016年09月16日 20時50分02秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
本日は幽玄の間で中継された対局をご紹介します。
張瑞傑二段対(黒)村川大介八段戦です。
テーマは反発です。



白△まではじっくりとした展開でした。
定石通り黒Aなどと開けばその流れが継続したでしょう。





しかし黒1と手を抜いたので白2と攻撃、戦いが始まりました。
最近はアルファ碁の影響か、手抜きを試みるプロが増えていますね。
碁の基本に反しているので、こういう打ち方は私の本では勧めません(笑)





白は黒にAと繋がせようとしましたが黒は1と反発、逆に白にBと受けろと言っています。
それに対する白も2と反発、あくまでも黒Aと繋がせる事に拘りました。





その後黒△の押しも白に受けさせようという手です。
白Aなら黒B、白C、黒Dと中央のラインを制圧する狙いです。
しかしそこで言いなりにはならないのがプロの習性です。





白1と反発して中央のラインを奪還していきました。
黒2と切られてしまいますが、白3の急所に構えて戦えるとみています。
また白Aの切りも厳しい狙いです。
黒はどう守るかですが、素直に傷を守るようでは白の注文通りなので・・・





白の注文に反発、黒1から白を封鎖して目一杯に頑張りました。
頑張った手だけに反動が怖いですが、そこは力でカバーする予定でしょう。





その後右上に白△とツケたのは黒に受けさせようという手です。
黒Aなら白B、黒C、白Dとなって右辺でしっかり生きる事が出来ます。
となれば黒は・・・





ここでも黒1、3と反発!
隅を荒らされてしまいますが、代わりに白△を大きく飲み込む作戦に出ました。





白△もやはり黒に受けさせようという手です。
黒Aと2子を取れば白Bと引き上げて、黒模様を小さくした事に満足します。
これが白の注文なので・・・





またしても黒1と反発!
白△まで取ってしまおうという強手です。
それに対して白も2と技を飛ばして左右の白2子の逃げ出しを狙いました。

この後は難解な戦いになりましたが、最近さらに腕力を付けたと言われる村川八段に一日の長があったでしょうか。
最後は白中押し勝ちとなりました。

さて、今回私は何回反発という言葉を使ったでしょうか?(笑)
プロの碁は厳しく、ちょっとした利かしにもまず反発を考えます。
相手に都合良く利かされると、それが僅かなものであっても勝負に影響してしまうからです。
その反発から思いもよらない戦いに発展したりするのですが、そういった変化の多さもプロの碁の魅力なのです。