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ほとんどの人が自覚していない。兵庫県知事選から考える「ネットで正しい情報」を取得するための最低限の心得

2024-11-22 02:02:00 | 気になる モノ・コト

ほとんどの人が自覚していない。兵庫県知事選から考える「ネットで正しい情報」を取得するための最低限の心得
  Rocket News  P.K.サンジュン


 先日の「兵庫県知事選」の結果が多くの人に衝撃を与えている。
斎藤元彦知事が再選した理由が様々な角度で分析されているが「インターネット」が相当な力を発揮したと言われている。

 今後はより「ネットリテラシー」が求められる時代になることは確実だが、みなさんは「正しい情報」を取得する自信があるだろうか?

⚫︎そもそも「正しい情報」とは何だろう?
 兵庫県知事選ではテレビや新聞などの「オールドメディア」が偏向報道とされ、SNS等の「ネットメディア」に真実があるかのような雰囲気が形成されていた。
 確かに斎藤知事在任中のテレビ報道は目に余るものが多く、私自身「偏向報道と言われても仕方ないのでは?」と感じている。
 一方で「ネットに真実があったか?」と言われたら「わからない」としか言いようがなく、テレビに関しては見てないので何とも言えない。

・テレビ新聞とネットの違い
 さて、大切なことなのであえて説明するが、情報を取得するツールとして考えた場合「テレビ・新聞」と「インターネット」には大きな差がある。
 ユーザーから見てテレビや新聞が “受け身” であることに対し、インターネットは “自発的” に情報を取得する点が大きく違う。
 当然、テレビなら時間、新聞なら紙面に限りがある一方で、インターネットはある意味で無限大。同じ情報取得ツールであっても、その特性は大きく異なる。
 もし今回の知事選が “インターネットのない時代” に行われていたら、斎藤知事の再選は無かっただろう。有権者が一方的に流れてくる情報だけでしか判断が出来ないからだ。

 では、インターネットに真実があるかと言えば、それもまた違う。
仮に真実を見つけたとしても、それは「自分にとっての真実」にしか過ぎないことに気付いていない人は多い。
 これはテレビやネットに関係なく「信じたいものと信じる」「見たいものを見る」という人間の性(さが)に基づくもので、良し悪しの話ではない。
 インターネットは関係なく、人間とはそういう生き物なのだ。

・人間の性(さが)
 さらに言えば人間は哲学や真理、思想ですら自分の都合の良いように解釈する。例えばこんなことがあった。
 私は幼い頃から父に「因果応報」を基本精神として育てられてきた。カルマでも業でもいい。特に悪行は自分、もしくは近しい人に必ずかえってくるから絶対にやめろ、と。
 父もそれを実践しているようだったし、気付けば「因果応報」は私自身の基本精神になっていた。ところが、である。
 数年前に故・安倍元首相が銃撃された際、父の口からは出た言葉は「あんなに立派な人がなんで……」であった。
 因果応報の教えに従うならば「業がかえってきた」と言わねばならないし、父が毛嫌いする鳩山元首相が同じ目に遭ったら、父は「因果応報だ」とこぼしていたに違いない。
 このように人間は、哲学・真理・思想でさえも自分の都合の良いように解釈する生き物なのである。
 基本精神ですら、自分なりの真実を見つける方便に過ぎないのだ。

・客観性というワナ
 そんな都合のいい生き物「人間」が、自分なりの真実を見つけるのは実にチョロい。
特にインターネットが登場してからは “自分なりの真実” に圧倒的に辿り着きやすくなった。
 記事でもいいし、動画でもいい。なんならたった一言のコメントでもいい。
自分が信じたい内容であれば、それが即座に真実になってしまう。
 さらに「自分以外にも同じ考えの人がいる」という事実が、か弱き生き物・人間にとってはとても心地が良い。
 自分だけじゃない、独りよがりじゃない、客観的な意見なんだと。
この “客観性” ほど曖昧なものはなく、極論すれば客観性は “幻想” である。
 なぜなら客観性をキープし続けるには、同じ量の反対意見を同じ熱量で取得する必要があるからだ。
 ただでさえ人間は自分が信じたい情報しか追いかけないのに、インターネットはジャンジャン自分好みの情報をプッシュしてくる。
 その状況下で客観性を保てる人間などそういないだろう。
昨今の「客観的に見て」という口上は、多くのケースで自分を正当化するための枕詞に過ぎない。
 正しい情報を取得するためには、まず “客観性という幻” から脱却する必要がある。
客観性という保険を捨て「自分の考え」と認識することで、ようやく「自分は偏っていないか?」「独りよがりではないか?」と冷静になれるのではないだろうか?
 また「自分の意見」だと思えば譲れるものも「客観的な意見」だと思うと、妙な正義感を生んでしまうのが客観性の厄介なところ。

 民主主義において “民意” は何にも勝る絶対的原理である。その民意にすらケチをつける著名人が多いことが、客観性の危うさを現しているのではあるまいか。
 きっと彼ら「自分だけではない客観的な意見」と見誤っているため、妙な正義感に振り回されているのだろう。
「自分だけの意見」と認識できれば、矛を収めることも意外と容易だ。

・人間の特性を理解する
 選挙に限らず、今後は「テレビで言っていたから」「新聞に載っていたから」という時代は確実に終わる。
 と同時に「自分なりの真実」をあたかも真実だと思い込む人も激増するだろう。

「正しい情報」に近づくためには人間の特性を理解し「全ては自分の考え」と認識することが第一歩。客観性という甘えを捨てることで、自分の考えにも責任感が出てくる。
 そして苦業であるが、自分と反対の意見にも耳を傾けることが「正しい情報」への道のりなのだろう。インターネットがオススメしてくる情報は、あなたにとって心地いいものしかない。
 難易度で言えば、テレビから垂れ流される情報だけで判断していた時代の方が楽ではあった。ただ前向きに見れば、これは人間の進化である。

インターネットが誕生して数十年、情報との向き合い方が本格的に問われている。

執筆:P.K.サンジュン
Photo:RocketNews24.
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NHKスペシャルで「ジャニーズ性加害問題」を語ったら…テレ東OBにかかった「一本の電話」が示すテレビ局の体質 2024/11

2024-11-19 03:17:34 | 気になる モノ・コト

NHKスペシャルで「ジャニーズ性加害問題」を語ったら…テレ東OBにかかった「一本の電話」が示すテレビ局の体質
プレジデントOnline より 241119 田淵 俊彦


 なぜジャニー喜多川氏による性加害問題は長年放置されてきたのか。
元テレビ東京社員で、桜美林大学教授の田淵俊彦さんは「事務所との対立を恐れ、タレントを起用し続けたテレビ局の罪は大きい。
 いまも『他人事』のようで、責任意識が低い。
その事実が、NHKスペシャル『ジャニー喜多川 “アイドル帝国”の実像』に出演して改めてわかった」という――。

⚫︎Nスぺ放送翌日にかかってきた「横槍電話」
 私は、NHKスペシャル「ジャニー喜多川 “アイドル帝国”の実像」(初回放送日10月20日)への出演を経て、前回のプレジデントオンラインで番組の検証、考察をおこなった。そのなかで、「メディア側が変わらないと、また同じような問題が起こる」と指摘した。

 そして、テレビが同じような「モンスター」を創ってしまう可能性を挙げながら、テレビを含むメディア人、一人ひとりの「質」を上げることが急務であると提言した。そんなタイミングの放送翌日に、「横槍」のような電話が思いもしないところから入った。
 それは、私の前職のテレビ東京(以下、「テレ東」と省略)からだった。

 そしてその内容は、私の主張すべてをひっくり返すような驚くべきものだった。
正直言って、許せない“ファシズム的な”行為だと感じている。
 この場を借りて事の次第をつまびらかにし、厳重な抗議をおこなうとともに、この「横槍電話」とジャニーズ性加害問題の関わりについて述べてゆきたい。

 電話をかけてきたのは、テレ東の広報担当の幹部だ。仮にA氏としておく。私の後輩にあたるA氏は「ご無沙汰しております」という言葉を皮切りに以下のような話を始めた。

 一度会いに行きたい。相談事がある。私は「何かある」と察知した。そして、時間がないことを告げて、言いたいことがあればこの電話で話してほしいと告げた。するとA氏は耳を疑うようなことを言い出した。

「元テレ東という肩書を使わないでほしい」
要約すると、以下の4点がその内容である。

1.昨日の放送で多くの視聴者から交換台に電話がかかってきて困っている
2.制作局(著者注:番組を作る部署)のなかでも動揺が走っている
3.だから、今後「元テレ東」という肩書を使わないでほしい
4.加えて、テレ東時代に経験したことは話したり書いたりしないでほしい

私は話を聞いている途中で、ふと思った。

「待てよ、これって基本的人権の侵害じゃないのか?」
しかも、テレ東はHPで堂々と人権デューデリジェンス(人権DD)の遵守を謳っている。 
 せっかく定期的におこなっている「人権セミナー」もまったく用を成していないことを露見させてしまった。

1.と2.は状況説明である。だが、3.や4.は完全なる要望だ。
そしてその理由として、A氏ははっきりと「テレ東の発言だと思われると迷惑だ」と述べた。
「元テレ東」という番組内の私の肩書を見て、誰が「現在のテレ東の総意」だと思うのか。普通は、「辞めたOBがしゃべっていること」ととらえるのではないか。

 しかも、「元テレビ局社員」や「元テレ東」という番組内の肩書の編集権はNHKにあり、私が口出しできるようなことではない。そんなことも理解していないで広報をやっているのか。
 そうあきれたが、「文句があるならNHKさんに言ったほうがよい」とアドバイスをした。「広報」という役職や「幹部」という地位にいる人の言葉とは思えなかった。

⚫︎背中を押してくれなかった
 私は自著『弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える“テレ東流”逆転発想の秘密』(方丈社刊)や『混沌時代の新・テレビ論』(ポプラ新書)で、テレ東の応援をしてきた。
 ときには厳しくも、愛するがゆえのエールや応援歌を送ってきたつもりである。テレ東は私を育ててくれた「親」のような存在だと感じているからである。そこには感謝しかなかった。

 しかし、今回のおこないは、私の「テレ東愛」をすべてぶち壊すようなものだ。
「親の心子知らず」ならぬ「子の心親知らず」である。親に見放され捨てられた子どものような気持になった。大好きなテレ東に裏切られたような思いすらしてきた。
 なぜ、古巣・テレ東は背中を押してくれなかったのか、なぜ「頑張れ、田淵。応援しているよ」と言ってくれる度量がなかったのか。怒りを通り越して、悲しい気持ちになった。

 私は、今回の4つの要望には、以下の2つの問題が潜んでいると考えている。

1.憲法が定める「基本的人権の尊重」を主導するべきメディアが、自らそれを侵害している可能性がある
2.退職者の言論活動妨害をおこない、権利を侵害しようとしている恐れがある

まず1.の「基本的人権の尊重」を侵害しているのではないかということだが、番組のなかで私はテレ東の名誉や利益を損なうようなことは何も述べていない。そんな人間の発言や情報発信に制限をかけたり、注文をつけたりすることは、メディアが個人に「検閲」をおこなっていることに他ならない。

こんな人権感覚だから…
2.「退職者の言論活動妨害、権利の侵害」だが、例えば会社を移籍するような人は、前職の経験を踏まえてキャリアアップをしてゆく。私の場合は、テレ東で身につけたスキルや経験を駆使して大学で映像教育をおこない、同時に映像メディアの研究をして情報発信をしている。

それはいわゆる「生業」である。「昔のことを話したり書いたりするな」と要求したり、「授業でスキルや経験を伝えるな」と強制したりすることは、生活基盤を脅かす行為も同然だ。極めて“ファシズム的”であると言わざるを得ない。

 そして今回、最も深刻な問題だと感じたのが、「テレ東の発言だと思われると迷惑」という発想だ。
 この言葉は、今回私が番組内で発言した「テレビを中心としたメディア全体が考えるべきだ」という問題提起にテレ東は賛同できないということを示している。

「迷惑」の言葉の裏側には「自分はそうは思わない」という考え方が隠されているからだ。
「他人事」のようなその考え方は、隠蔽に加担したメディアの一員としてあまりにも責任意識が低すぎないか。
 しかし、逆に言えば、このようなことをやるような「人権感覚」だからこそ、ジャニーズ性加害問題を隠蔽し、長年放置しても平気だったのかもしれない。

⚫︎記者の質問にテレ東は…
 この横槍電話にはサイドストーリーがある。私がブログに書いたこの件を読んで、ある新聞社の記者から「ぜひ記事にしたいので、一度会って話がしたい」と申し出があった。
会って話をして、その記者は「これなら上司は『やっていい』と言うと思います」と帰って行った。
 しかし、取材は実現しなかった。その後「上司と相談したが、田淵さんの精神的負担を考慮し、インタビューはなしにします」という一方的な打ち切りの連絡が、メールで入ったのだ。「精神的負担? 何だ、それ」。怖気づいたのか、それともどんな忖度が働いたのか。そう思いながら、この問題に切り込むことのハードルの高さを改めて感じた。

 10月31日におこなわれたテレ東の定例社長会見で、A氏からの電話について新聞社の記者から質問がされたと聞いていた。そのため、テレ東の公式発表を待っていた。
だが、HPの議事録にはこの電話に関する質疑応答が記載されていなかった。

 もちろん、紙幅の都合もあるだろうが、ほかの問答が丁寧に書かれているだけに、意図的に感じてしまった。もしこれが“意図的”だとすれば、“しら~っと”このまま無視する気なのだろうか。
 それでは私の人権を蹂躙するだけでなく、私のブログや論考でこの成り行きに注目している読者をも冒涜する行為だと言えるのではないか。

⚫︎「“テレビ東京として”そのような電話はしていない」
 公式に明らかにされないのであれば仕方がない。会見に参加した複数の記者に取材をおこなうことにした。
 するとある事実が判明した。「田淵氏のブログによると、放送後にテレ東の方から『今後は元テレ東と名乗らないでほしい』と連絡が入ったというが、これについての事実関係はどうか?」という記者の問いに、広報担当役員は「お答えする必要はない」と言ったという。
「お答えできない」という言葉であれば、「まだしっかり調べられていないので、お答えできない」というようなニュアンスになろうが、「必要はない」という言葉には強気の姿勢が見え隠れする。
 そもそも、本件に関してテレ東は「当事者」の可能性があるのだから、ちゃんと答える必要も義務もあるのではないか。

 また、広報担当役員の話を補足するかたちで、石川社長自らが「“テレビ東京として”そのような電話はしていない」と釈明したという。
 もしその主張が正しければ、「テレ東の発言だと思われると迷惑」というA氏の言葉はどう説明するのか。A氏は広報幹部である。そんな地位の人物がわざわざ電話してきたのは、テレ東上層部から何らかの指示があったからではないのか。

⚫︎「なぜジャニーズ性加害問題が長年放置されたのか」を解くヒント
 では、もしテレ東上層部が広報幹部にそのような指示を出していたとすれば、なぜ、わざわざそんなことをしたのか。
 その答えに、「ジャニーズ性加害問題は、なぜ長年放置されてきたのか」という根本的な謎を解くヒントがある。
 まず考えられるのは、旧ジャニーズ(以下、「旧J」と省略)のタレントを今後は積極的に使っていきたいテレ東としては、OBである私のNHKスペシャル出演は旧Jからクレームを言われる危険性をはらんでいるため、「迷惑だ」と感じたのではないかということだ。

 在京民放キー局はすべて営利を追求する株式会社である。しかも一部上場している。
最優先するのは「視聴者」ではない。カネを出してくれる「スポンサー」だ。
 だが、テレビ局はいまだに「視聴率」という指標しかスポンサーには示すことができていない。
 そんななか、“手堅く”視聴率を稼げて、番組を配信に回したときにも一定数の再生回数を見込める旧Jのタレントは貴重な存在だ。旧Jを切って、「視聴率」を捨てるという選択肢はない。だから、事務所やタレントの不祥事には目をつぶり、見てみないふりをするのだ。

 また、テレビ局には「横並び主義」という変な性癖がある。「ほかの局が非難してないのに、“最初に”うちが声をあげるのはどうか」といった遠慮や忖度が働き、わかっていても「だんまり」を決め込む。
 そして、このような「忖度」や「迎合」が、タレント事務所をモンスター化させてゆくのである。

 このように、番組の出演者や事務所内の不祥事に関しては事務所に管理義務があるとして番組を放送するテレビ局は踏み込まないというのが、業界ルールになっている。
 いわば「他人事」を決め込んで、「監督責任」を逃れようとしているわけだ。その証拠となる事例を挙げたい。テレ東には、いまだ解決されていない「疑惑」がある。

⚫︎放置される「おはスタ」疑惑
 2023年8月、テレ東系列の子ども向けバラエティ番組「おはスタ」に出演していたお笑いタレントのアイクぬわら氏が、共演者で未成年の「おはガール」複数名を自宅に連れ込んだり誘ったりしたことが局内で問題視されていたことを『週刊文春』が報じた。
その後、28日に突然番組を降板。9月には、ぬわら氏本人が『週刊文春』の取材に答えて釈明をしている。
▶︎おはスタ公式ポストより
「これが事実なら、ぬわら氏は未成年者略取や誘拐罪に問われる恐れがある」と一部メディアが報じている。テレ東としては、第三者委員会を設立して、事実を調査するべきだ。
だが、1年以上経ったいま、その気配はまったくない。「番組制作上の都合」と説明しただけで、放置されたままである。

 この「おはスタ」疑惑に関して、私は関係者への取材を試みた。しかし、誰一人として取材に応えてくれる人はいなかった。おそらく緘口令が敷かれているのだろう。
 そしてその実状がこの問題を複雑化している。もし、週刊誌が言うような行為がおこなわれていなかったのであれば、堂々とそう釈明すればいいではないか。

 社内調査や第三者委員会設立などに関しては、どこからの強制力もない。あくまでもテレビ局が自発的に「やるべき」と決断する必要がある。
しかし、いまのテレ東にはそういった対応は無理なのかもしれない。

 ジャニーズ性加害と同様の子どもに対する行為が番組を通じておこなわれていたのであれば、言語道断、「悪質」としか言いようがなく、いまだに番組が続いていること自体が不思議だ。
 コンプライアンスの観点からもテレ東の監督責任は免れないはずである。それにもかかわらず、なぜテレ東はこの事件に対して無頓着でいられるのか。

 そんなふうに一般常識とは大きくかけ離れているのがテレビ業界であり、そんな現実を自ら暴露してしまったのが、今回の「横槍電話」なのである。

⚫︎テレ東はなぜ変わってしまったのか
 では、テレ東の企業ガバナンスの機能不全はどこから来ているのか。「諸悪の根源」と言うべき原因は2つある。

 まずひとつめは、一部の勘違いした役員の存在である。テレ東は常に「最小最弱」と言われてきた。視聴率やすべての面で「振り返ればテレビ東京」とも揶揄されてきた。そんなテレ東が株式上場し、いつのまにか「一流企業」の仲間入りをした。
 このことによって、何が起こったか。「社員意識の変化」である。“ビリっけつ”のテレビ局で偉くなっても何も誇れるものがなかったが、「一流企業になった」ことで出世欲が出てきたのである。
 そして、一部の人間のなかには、上に行けば行くほど自分が現場にいたときの苦労を忘れ、役員になったとたんに「自分は現場上がりだから現場のことをよくわかっている」という勘違いのもと、現場への締めつけや無理難題といったパワハラもどきのことを始める者が出てきた。それは年を追うごとに酷くなっているとテレ東内部から報告を受けている。

 もうひとつの「諸悪の根源」は、「日経(日本経済新聞)支配」とそのことで生じる「二重構造」である。テレ東がほかの在京民放キー局と決定的に違うのはこの点だ。
 日本テレビは読売新聞、テレビ朝日は朝日新聞、TBSは毎日新聞、フジテレビは産経新聞、テレ東は日本経済新聞(以降、「日経」と省略)と提携関係にある。

⚫︎自由闊達な雰囲気で上下関係はフラットだった
 しかし、ほかのテレビ局が新聞社から派生する形で誕生したのに対して、テレ東(当時は「(株)東京十二チャンネルプロダクション」)には、日経が経営難を救うかたちで資本参加したという事情がある。また、新聞社側のほうが売上高が大きいのは「テレ東―日経」のみで、創立以来、歴代の社長は日経からの天下りである。
このような場合に、どういったことが起こるか。日経の発言力が極めて強くなる。
 そしてさらなる「歪み」は、文化の違いである。「活字」と「映像」という違いはほかのテレビ局も同じだが、日経は軍隊的な組織で上下関係が厳しく、上の命令は絶対。
 それに反して、テレ東は自由闊達な雰囲気で上下の関係もフラットだ。この差は大きい。これら両者間の歪みが、コンプライアンスやレピュテーションリスクという外圧もあって近年、ひどくなっているのだ。

⚫︎「日経支配」の代償
 私も「日経支配」という泥をかぶらされた経験がある。いまも続いている経済ドキュメンタリー「ガイアの夜明け」が始まる2002年、私は会社から命じられ、俳優の役所広司氏になんとかお願いして「番組の顔」になってもらい、そのMC部分の撮影を担当していた。
 口説いた手前、役所氏の演出には責任を持たなければならないと思ったからだ。だが、放送が始まってほどなく、日経本体から物言いが入った。

「経済番組に俳優を連れてきて、変な芝居をさせているのは誰だ。やめさせろ」
そのとき、テレ東プロパーの幹部は誰一人として私を庇ってくれなかった。
もちろん、私がひとりで撮影内容や構成を決められるわけがない。放送内容は皆で合意して決めている。しかし、「ガイア」は、そのころはまだ認知度が低く、視聴率も振るわなかった。

 そんな状況なので、日経に口答えできる者はいなかった。いや、どんな状況であっても、日経本体や日経から天下りをしている役員に進言をできる者などいるはずはない。
すべてに関してそうだ。それがテレビ東京の「黒歴史」なのである。

⚫︎ジャニーズ問題にも、おはスタ問題にも後ろ向き
 そんな「触らぬ神に祟りなし」のような状態なので、テレ東内は日経天下りの上層部や役員とテレ東プロパーの「二重構造」となっている。
 また、日経組に媚びを売る者たちがいるので、二重構造は極端化し、しわ寄せはすべて現場にやって来る。現場の都合を聞きもしないで、その時の気分で無理難題を強制する。
 気に食わないと怒り出す。まるで「駄々っ子」と同じだ。現場や下々の人間はその度に右往左往することになる。

 そういった二重構造や社内環境が、ジャニーズ性加害や先述した「おはスタ」をめぐる重要な問題に進言することを躊躇させていると指摘したい。「おはスタ」問題を放置し、ジャニーズ性加害問題に関しては第三者委員会を立てるなどの検証をおこなわなかった。
 私も2023年10月当時、テレ東の社内聞き取り調査を受けた当人として、その検証結果を報告書にまとめて開示したことや特別番組で見解を発信したことは評価している。
 だが、それでは不十分だ。
民放では唯一、新規の旧Jタレントの新規オファーを避けてきたことに対して好意的な意見も見られるが、これにはれっきとした理由がある。

 もともと旧Jに相手にされることが少なく、メインのタレントが出演する可能性も皆無に等しいテレ東は、旧Jのタレントに依存する度合いが少なかった。
だから、特に急いで解禁する必要がなかったということに過ぎない。
決して“積極的に”距離を置いたわけではないのだ。

⚫︎ジャニーズ問題対応で明らかになったテレビ局内部の構造的欠陥
 このような現象はテレ東だけではないだろう。
事実、先日放送されたNHKスペシャル「ジャニー喜多川 “アイドル帝国”の実像」においても、「上層部のインタビューを撮りたい」現場と「撮らせたくないし、放送もしてほしくない」NHK上層部の間で解離や意思の断絶が見られた。
「メディア側が変わらないと、また同じような問題が起こる」と私は述べた。
無論、「変わらなければならない」のは、組織全体や個々人の意識もあるだろう。

 だが、それだけではない。以上に述べてきたような、テレビ局内部の「構造的欠陥」がそこに関わるすべての者のこころを蝕み、正常な思考をできなくさせている可能性がある。
 そして、メディア全体、社会全体が一丸となって取り組まなければならない問題の本質を見えなくさせているかもしれないのだ。

⚫︎クリエイターが自信をもってバッターボックスに立てるように…
 本論の最後に、大好きなテレ東の現場の頑張っているクリエイターたちにエールを送りたい。いまの現場は、最高にいい人材が揃っている。制作局は「伊藤P」で著名な伊藤隆行氏、報道局はテレビ東京アメリカの社長として活躍した小松澤恭子氏といった両局長のもと、利益を最優先する経営陣から日々番組制作費を削られながらも、奮闘している。

 昔よりだいぶましにはなったが、いまだにテレ東の番組制作費は他局に比べて見劣りする。だが、それを感じさせないほどのクオリティの番組を“効率よく”“工夫して”作ることができるのが、テレ東の「強み」であったし、そのDNAはしっかりと受け継がれている。

「カネがなければ知恵を出せ」と私もAD時代に言われ続けてきたが、いまもその努力を惜しんでいない。そんなクリエイターたちには、信念を持って自分が「おもしろい」と思える番組を送り出していってほしい。
 そしてメディア人の一人として、「それでいいのか?」と社会や社内のものごとに問題意識を持ってほしい。会社は、クリエイターが自信をもってバッターボックスに立てるような環境作りをしてほしい。

 さらなる提言は、私が「勘違いしている」と苦言を呈したプロパーの役員に対しておこないたい。頑張っている現場のために、上層部や経営陣との「パイプ役」となってほしい。
言いにくいことを進言し、間違っていると思うことは「違う」と声をあげてほしい。
そうすることで、必ず会社はよくなるはずだ。

あるテレ東の仲間がメールに書いてきた。
「この件で記事が出るたびに怒られるのはプロパーです」
そんな会社であってほしくはない。そう思うのは、私だけではないだろう。


▶︎田淵 俊彦(たぶち・としひこ) 元テレビ東京社員、
桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授
1964年兵庫県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、テレビ東京に入社。世界各地の秘境を訪ねるドキュメンタリーを手掛けて、訪れた国は100カ国以上。「連合赤軍」「高齢初犯」「ストーカー加害者」をテーマにした社会派ドキュメンタリーのほか、ドラマのプロデュースも手掛ける。2023年3月にテレビ東京を退社し、現在は桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授。著書に『 混沌時代の新・テレビ論』(ポプラ新書)、『 弱者の勝利学 不利な条件を強みに変える“テレ東流”逆転発想の秘密』(方丈社)、『 発達障害と少年犯罪』(新潮新書)、『 ストーカー加害者 私から、逃げてください』(河出書房新社)、『 秘境に学ぶ幸せのかたち』(講談社)など。日本文藝家協会正会員、日本映像学会正会員、芸術科学会正会員、日本フードサービス学会正会員。映像を通じてさまざまな情報発信をする、株式会社 35プロデュースを設立した。
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鳥居で懸垂、放火容疑……日本文化を踏みにじる「傲慢インバウンド」 観光公害の末路? 他国軽視の背景とは 2024/11

2024-11-18 01:30:07 | 気になる モノ・コト

鳥居で懸垂、放火容疑……日本文化を踏みにじる「傲慢インバウンド」 観光公害の末路? 他国軽視の背景とは
 MerkMal より241118  キャリコット美由紀(観光経済ライター)


 訪日観光客急増も、文化無視の問題浮上

 日本の観光地で、異様な光景が増えてきている。
神社の鳥居で懸垂をする外国人、電車内でダンスを始める外国人集団、さらには放火事件まで――。
円安の影響もあって訪日観光客は急増中で、2024年9月には287万2200人に達し、前年同月比で31.5%増加している。
 しかし、それにともなって、「日本の文化や習慣を軽んじる」

 悪質な訪日観光客の問題も浮かび上がってきた。こうした問題の背景には、マナーを超えた根本的な課題がある。それは

・消費者としての特権意識
・経済的な優位性に基づく文化的傲慢さ

だ。一部の横柄な訪日観光客にとって、日本は入場料を払えば自由に楽しめる
「観光の舞台装置」
にすぎない。そこには文化を理解し、敬意を払おうとする姿勢はほとんど見られない。

 訪日観光客は入場料を払った消費者として振る舞い、文化体験を購入可能な商品と捉えている。こうなると、そこに一方的な権力関係が生まれる。見落としてはならないのは、相手の
・文化
・国民性
を軽視、または蔑視する訪日観光客が少なくないということだ。
普通は、好意的でない国への旅行は避けるものだと考えるかもしれないが、実際には、その国や文化に対する偏見や差別意識を抱えつつ、金を払って楽しむ権利だけを主張する訪日観光客もいる。彼らにとってその国はただの

「サービス提供者」

にすぎず、文化的な理解や尊重は必要ない。
 そして、自国の常識を押し付ける傲慢な態度に拍車をかける結果となっている。

 漫画家のヤマザキマリさんは「婦人公論.jp」に先日、「地元へのリスペクトを欠いた横柄な外国人に<観光客>という言葉で済まされない憤りを覚えて。メンタリティというものは、時にそうした非文明的で野蛮な側面を見せることを忘れてはならない」(2024年10月16日配信)という記事を寄稿した。参考までに、記事の要旨を次に記す。

・ヤマザキさんは京都を訪れた息子から、訪日観光客が路上で騒いでいる様子を聞いた。
・ヤマザキさんはフィレンツェに住んでいた際、観光客による街の被害を目の当たりにした。
・ベネチアでは観光客数抑制策として入域税を導入したが、効果がなかったとの声がある。
・観光収入が重要であるため、観光客減少を望む地元民と観光業で生計を立てている人々の意見が食い違う。
・フィレンツェでは観光客による文化財損傷が問題となり、街がテーマパーク化した。
・日本でも、訪日観光客のなかには地元へのリスペクトが欠けた行動をする人が増えており、京都や東京でそのような例が見られる。
・シチリアでは観光客が古代遺跡を壊した事件があり、地元民はそれを「蛮族の来襲」と表現した。
・観光客の行動には時に非文明的な面があり、観光地での問題は解決が難しい。
・観光公害対策としての二重価格や治安強化策も一定の効果はあるが、根本的な解決は容易ではない。

 記事は大きな反響を呼び、次のようなコメントが寄せられた。

・昔、京都を訪れる外国人の多くは学者や文化に興味を持つ人々だったが、最近ではマナーを守らず騒がしい訪日観光客が増えている。
・訪日観光客の態度が地元住民に迷惑をかけることが増えており、観光地ではインスタ映えを求める姿勢が目立つようになっている。
・観光公害を防ぐためには、公務員や警察官の増員、そして罰金の徹底が必要だ。
・マナーを守らせることは難しく、特に「奥ゆかしさ」の欠如が問題となっている。
・観光公害の間接的な影響として、物価高や消費不足が懸念されている。
・観光地での無銭乗車や迷惑行為が増えており、観光公害が深刻な問題となっている。
・観光業は経済貢献度が高くなく、観光業よりも自国の産業育成を優先すべきだ。
・入域税の導入を議論し、観光地での美観維持や住民税負担の軽減を目指したほうがいい。
・犯罪行為があれば適切に対処し、マナー違反には警告や誘導を行うべきだ。

⚫︎日本人観光客の過去と今
 先日、X(旧ツイッター)でブラジルの景勝地・ボイペバ島で起きた事件が話題になった。
 イスラエル人の男が黒人の荷物運搬係を「猿」と呼び、攻撃したとして人種差別的侮辱および憎悪犯罪の容疑で現行犯逮捕された。この事件は、観光地における権力関係の歪みや、自国の経済的優位性や文化的優越意識が影響している。

 この事件は観光地での差別や暴力の本質を浮き彫りにしており、私たち日本人にとっても他人事ではない。かつて、高度経済成長期において、日本人観光客は東南アジアを「後進国」と見なして侮辱し、

「買春観光」

の目的地として扱った。経済大国としての傲慢さが、アジアの人々の尊厳を踏みにじったのである。その結果、日本人観光客は「エコノミック・アニマル」と揶揄され、アジア諸国から強い反発を受けた。

 そして今、歴史は皮肉にも逆転している。戦後、進駐軍に「ギブミーチョコレート」と駆け寄った時代があったが、現在では、日本が見下され、訪日観光客がサービスを「買う側」の特権として振る舞う時代になってしまった。

 繰り返される外国人による迷惑行為は、日本がそうした国だと見られている証拠といえるだろう。

⚫︎富裕層観光戦略の限界
 この歴史の教訓を踏まえ、私たちはどのような解決策を選ぶべきか――。
 ひとつの選択肢は、「観光立国」として成長を目指しつつ、その質的な転換を図ることだ。観光地としての付加価値を高め、文化的理解と敬意を持つ訪日観光客を選んで受け入れる戦略である。代表的な例として、富裕層をターゲットにした「プレミアム観光」が挙げられる。

 北海道ニセコは、その成功事例としてよく知られている。スキーリゾートとして世界的に評価され、オーストラリアや欧米からの富裕層を引きつけることに成功した。質の高いサービスと適切な価格設定により、文化的摩擦も最小限に抑えられている。この成功を受けて、全国各地で富裕層向け観光戦略が広がりつつある。
 しかし、この戦略には根本的な疑問も残る。経済力の有無が、

・文化的理解
・敬意の深さ

に比例するのだろうか。
 富裕層だからこそ持つ「何でも金で買える」という特権意識が、新たな形の文化的支配を生む可能性もある。富裕層が文化的素養に優れているとは限らない。
 結局、彼らの財布を当てにして「猿」として扱われる状況を招くかもしれない。
こうした富裕層戦略には限界があるため、もうひとつの選択肢として

「観光地からの撤退」

が浮上してくる。この考え方を最もよく示しているのが京都市だ
 京都は現在、世界中から訪れる観光客で混雑し、マナー問題も後を絶たない。
しかし、注目すべきなのは、観光産業が京都経済に占める割合だ。

 京都は世界的に有名な観光地であるが、実際には観光産業が地域経済の主役にはなっていない。具体的な数字を見てみよう。

⚫︎観光収入増加も地域に届かず
 2023年、京都市の税収総額は3200億6000万円と過去最高を記録し、宿泊税収も前年度比で21億5300万円増加した。しかし、この増加額は意外にも小さい。
 京都市の税務統計によると、2023年の産業構造では製造業が6割以上を占め、旅館料理店は全体のわずか
  「1.4%」 に過ぎない。
観光関連産業のサービス業を加えても、その割合は8.3%程度にとどまっている。
 これに対して、
n機械工業は18.3%、
金融保険業は6.7%、
不動産業は5.5%と、
  観光関連産業の占める割合は著しく低い。
 一方、京都市の「京都観光総合調査」によると、
2023年の観光消費額は1兆5366億円、経済波及効果は1兆7014億円にも達している。
訪日観光客のひとり当たりの消費額は平均7万1661円と非常に高い水準にある。このギャップは、観光がもたらす経済効果が
「地域全体に均等に分配されていない」 ことを示している。
膨大な経済波及効果が生まれているにもかかわらず、それが地域の税収や産業構造には十分に反映されていないのだ。
 特に注目すべきは、観光消費額や経済波及効果に対する税収の少なさである。その一因として、利益の大部分が

「地域外に流出している」ことが考えられる。

 例えば、多くの訪日観光客が海外のオンライン予約サイトを利用しており、これらのサイトは予約額の8~15%を手数料として徴収する。
 つまり、1泊2万円の宿泊料金のうち、最大で3000円が海外企業の収入となる。また、大手チェーンホテルや旅行会社では、利益のほとんどが東京などの本社所在地に移転されるため、地域に留まる利益が限られてしまう。
このような仕組みにより、観光消費額の増加が

「地域の税収増加には直結しない」

という現実が存在しているのだ。

⚫︎観光地としての限界と転換
 この状況を直視すると、ひとつの大胆な解決策が浮かび上がる。それは、

「観光地としての京都」
  という従来の路線から意図的に転換することだ。
 具体的には、訪日観光客の誘致に向けた予算や施策を段階的に削減していく。

・多言語対応
・観光案内所の整備
・Wi-Fi環境の充実

といった「おもてなし」のためのインフラ投資を見直す。

 この方針転換は、表面的には訪日観光客への不親切に見えるかもしれない。
しかし、これは「消費される場所」としての京都から、

「文化を継承する場所」
  としての京都へと変わることを意味する。

利便性を意図的に低下させることで、「金を払えば何でもできる」と考える傲慢な訪日観光客の数を自然に抑制できるだろう。
 その結果、京都の文化や歴史に真摯な関心を持つ訪日観光客だけが訪れるようになり、京都本来の姿を取り戻すことができる。
 一見すると極端な提案に思えるかもしれない。
 しかし、経済効果のほとんどが地域外に流出し、文化的な摩擦や環境負荷だけが地域に残る現状を考えれば、これは合理的な選択といえる。
 むしろ、表面的な経済効果に囚われて、無限に訪日観光客を誘致し続けることこそが非合理的ではないだろうか。

 富裕層をターゲットにするのか、それとも観光地としての機能を縮小するのか、その選択は各地域の状況によって異なるだろう。しかし、もっと本質的な問いがある。それは、

「観光業に本当に未来があるのか」

ということだ。

⚫︎観光業の成長戦略に潜む危機
 そもそも、迷惑な訪日観光客が出てくるのも「観光業がそういうものだから仕方ない」と諦めざるを得ない現状に、果たして未来はあるのだろうか。

 政府は『観光立国推進基本計画』で観光業を
「今後とも成長戦略の柱、地域活性化の切り札である」
として高く評価している。
確かに、人口減少に直面する地方では、宿泊業が重要な雇用を支えている地域も多い。
しかし、この観光による「地域活性化」という物語には、大きな問題が潜んでいる。

 観光業の中核をなす宿泊業は、需要の季節変動が激しく、その調整弁として非正規雇用が常態化している。
さらに深刻なのは賃金の低さだ。
2022年時点で、他の産業と比べて賃金差は150.3万円にも達している。

 確かに、一部の高級旅館やリゾート施設では、これらの問題を乗り越えて成功している事例もある。
しかし、それは例外的な成功に過ぎない。観光業が抱える構造的な問題はむしろ深刻化している。

・低賃金
・不安定な雇用
・過酷な労働条件
・不明確なキャリアパス

これらは一時的な問題ではなく、観光業の持続可能性を脅かす本質的な問題だ。

 特に注目すべきは、観光業が「安価な労働力」に依存せざるを得ないという現実だ。
政府は観光を「成長戦略の柱」と位置付けているが、その「成長」とは一体何を指すのだろうか。
賃金差が150万円以上もある業界を、どうして未来の基幹産業として位置づけることができるのか。この矛盾をどう解消するのかが問われている。

⚫︎観光業の未来と向き合うとき
 これまでの分析から、厳しい現実が浮かび上がっている。
訪日観光客は、自然と
「帝国主義的な態度」(強い経済的立場や権力を背景とした支配的・優越的態度)
を持つことになる。それは個人の善意や理解では隠せない、観光という行為に内在する
「権力構造」 だ。

 かつて日本人がアジアで見せた傲慢さ、そして今私たちが直面している状況は、この構造の表裏に過ぎない。

 最終的に、迷惑な訪日観光客への対策で最も重要なのは、

「これからも観光業でご飯を食べていくのか」

という問いに真摯に向き合うことだ。
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知らないことを「ググる人」は時代遅れ…東大教授が毎日使っている「無料で高性能の検索サービス」 202411

2024-11-16 10:54:00 | 気になる モノ・コト

知らないことを「ググる人」は時代遅れ…東大教授が毎日使っている「無料で高性能の検索サービス」
  プレジデントOnline より 241115  池谷 裕二


 生成AIの開発競争が激化し、高性能なサービスが次々と登場している。
東京大学薬学部の池谷裕二教授は「私が毎日のように利用しているのはAI回答エンジンだ。 
 従来型のインターネット検索では、表示されたホームページのリストから自分が求める情報を探さなくてはいけないが、回答エンジンならたった一回の検索で欲しい情報にたどり着くことができる」という――。
※本稿は、池谷裕二『生成AIと脳 この二つのコラボで人生が変わる』(扶桑社)の一部を再編集したものです――。

⚫︎仕事以外でも役立つ「回答エンジン」
「Perplexity」や「Genspark」や「Felo」を使っているでしょうか。
私は使わない日はないというほど、よく利用しています。
これらは「回答エンジン」と呼ばれます。質問を投げかけると、生成AIがインターネット上のコンテンツを効率よく要約してくれます。
便利で、仕事はもちろん、勉強や趣味にも大いに役立っています。
 とくにGensparkは高性能なだけでなく、全サービスが無料で利用できます(いずれ有料化される可能性は十分にあります)。
 また,和製の回答エンジンであるFeloも高性能で,この2つが二大巨頭になるかと思います。

 2024年10月末には、「ChatGPT search」という回答エンジンが実装されました。
これに対抗するように、同日にはGoogleも「Grounding」という名称で、新たな回答エンジンを出してきて、熾烈な争いをしています。エンドユーザーである私は急に便利になって喜んでいます。

 回答エンジンには、回答の正しさを確保するために、偽情報かどうかを確認しやすいように、根拠となる文献を提示してくれるという特徴があります。
 また、最近では、AI側でも自動でダブルチェックする機構を備えていることもあります。

⚫︎ネット検索と違い、最短で情報にたどり着く
 結果的に、従来型のインターネット検索を使う機会が減り、一部では「ググるのは時代遅れ」と言われるようにもなりました。
 インターネット検索で表示される結果は、関連のあるホームページのリストです。
利用者は、そのリストのうちから「これぞ」と思ったURLをクリックして、該当するホームページを読み、また検索結果のリストに戻っては、別のホームページに飛ぶ、といった作業を繰り返します。
 つまり、検索したとしても、その後に、何度もクリックする必要があり、それ自体が面倒なわけです。
 一方、回答エンジンは、そのリストの先のホームページの内容をまとめてくれるため、欲しい情報に一回の検索でたどり着くことが多いのです。
 この簡便さに慣れてしまうと、もはや古典的な検索エンジンに戻ることはできなくなります。私はまさにこれです。

⚫︎Googleはオリジナルサービスで対抗
 ただ、回答エンジンの利用が広がれば、困るのは企業です。
要約で事足りてしまえば、自社サイトへの訪問者が減少するのは目に見える話。
そのため、現在、世界のトップ企業の約35%が、回答エンジンによる自動検索(スクレイピング)をブロックしているそうです。
こうなると、回答エンジンの万能性は下がってしまいます。
 もちろん、当のGoogleにとっても、回答エンジンの登場は大問題です。
自社の主力サービスである「インターネット検索」が脅かされることになります。
 危機感を抱いたのか、同社が2024年に発表したのが、自社オリジナルの回答エンジン「Search Labs」です。これも無料で利用できるサービスです。

 Search Labsの設定をオンにしておくと、いつも通りGoogle検索をするだけで、画面上部にコンテンツの要約が表示されるため、便利です。
 要約部だけで必要な情報が得られるため、わざわざオリジナルのウェブサイトを閲覧する機会が少なくなりました。

⚫︎企業のインターネット戦略は転換期にある
 Googleが回答エンジンに参入したことは、ちょっとした事件です。
なぜなら、企業側としては回答エンジンをブロックし続けるのは得策ではなくなるからです。
 多くの企業はGoogle検索で上位表示されることを目指してSEO(Search Engine Optimization、検索エンジン最適化)対策を行っています。
 しかし、もしGoogleの回答エンジンによる利用をブロックすれば、当然ながら、グーグル検索の結果にも表示されなくなるリスクがあります。

 Search Labsの登場によって、企業はインターネット戦略を大きく変える必要性に迫られています。
 インターネット検索の上位表示ではなく、回答エンジンに効果的に要約されるように、自社コンテンツの作成を工夫する必要が出てくるかもしれません。

⚫︎「どの生成AIを選ぶか」が求められる時代
 生成AIは、開発企業のポリシーが反映され、それぞれに個性があり、特徴があります。「GPT-4o」、
「GPT-o1」、
「Gemini 1.5 Pro」、
「Claude 3.5」、
「Grok-2」
などの優れた生成AIが並ぶ中で、自分が何を生成AIに求めるかが大きなカギとなります。
 加えて、フランスの「Mistral AI」のように、コード生成に強みを持つAIもあります。
また、Meta社が提供する「Llama」のように、研究者が独自のAIを開発するうえで転用しやすいものもあり、幅広い選択肢があります。
 自分がどのような仕事をしているのか、どのような用途で生成AIを使いたいのか。
場面に応じて、どのAIを使うべきかを判断することは、今後の我々が求められるスキルの1つになるでしょう。

 どのAIがリアルタイムで性能が良いのか。
それを比較するために、私の場合、1つの質問に対して、
  ChatGPT、Gemini、Claude、Meta
 が提供するLlamaの4つのモデルが同時に回答してくれる独自のシステムを開発し、研究室のメンバーに提供しています。
 私自身も日々利用しています。

⚫︎長い文章の要約はGeminiが優れている
 どのAIが一番適した答えを返してくれるかがわからなくても、4つ同時に共通の質問を投げかけて、4つの回答を比較しながら、自分が求める最適な答えを探すことができます。
 同時に入力すると、どのモデルの回答速度が一番速いか、どのモデルが最も精度の高い回答を提供するかも見えてきます。
 たとえば、「あなたは大学の薬学部の教授です。このテーマで薬理学の期末テストの問題を作ってください」と入力すると、それぞれがテスト問題を作成してくれます。

 個人的には、問題文の作成はClaudeが最も得意だと感じています。
一方、長い文章の要約はGeminiが最も優れていると感じます。
また、論理的な思考や、数学的な思考は、o-1が圧倒的に優れているようです。

⚫︎小学生レベルの算数が正しく解けないことも
 たとえば、次の質問を読んでみてください。
「マラソンで4位の人を追い抜いた。今何位になったか?」

📗池谷裕二『生成AIと脳 この二つのコラボで人生が変わる』(扶桑社)

 皆さんの答えはどうでしたか? 以前、この質問を投げかけた際、
 Gemini、Claude、Llamaは「3位になりました」と回答したが、
唯一「4位になりました」と回答したのがChatGPTです。
正解は、ChatGPTが回答した「4位」です。
 人間でも「3位」と答えそうになるかもしれませんが、前に4位の人が走っているということは、あなたは現在5位にいるわけで、目の前にいる人を抜いたということは、現在は4位に上がったことになります。
 一般的に、この問題では文系の人ほど「3位」と答える傾向があることが知られています。生成AIは文系的な性質を持っているといわれ、このような小学生レベルの算数を正しく解くことも、ときに難しいのです。
 ただし、生成AIの精度は日々向上していて、2024年9月の時点では、Gemini、Claudeでも、この問題を解決できるようになっていることを確認しています。

⚫︎生成AIそれぞれに「個性」がある
mほかにも生成AIには回答が難しいとされる問題は、
「strawberryという単語にrはいくつあるか(正解:3つ)」
「6頭の馬のうちどの馬が一番早いかを調べたい。どうしたらよいか(正解:6頭で一斉に競争させればよい)」などがあります。
 このように生成AIが間違いやすい問題を調査した論文があるほどです。

 いずれにしても、ある問題を解決したい場合、「どの生成AIに質問すべきか」を事前に知っていると作業効率は大きく向上することは言うまでもありません。

 私が研究室のメンバーに提供している「生成AI比較システム」のようなサービスを、有料で提供している会社もあります。
 そのなかでも「チャットハブ(ChatHub)」は性能が高く、安心して推薦できます。
検索画面の一例を示します。
ChatHubを用いてOpenAI(左)、Claude(中)、Gemini(右)に当時質問をしたときの回答(出所=『 生成AIと脳』)


 ここでは「日本で一番有名な観光地はどこですか?」と質問したときの、ChatGPT4o、Claude 3.5、Gemini 1.5 Proの回答を比較した画像を載せておきます。
 それぞれに個性があります。皆さんはどの回答が好きでしょうか。



▶︎池谷 裕二(いけがや・ゆうじ) 東京大学薬学部教授 1970年生:静岡県藤枝市出身。
薬学博士。2002~2005年にコロンビア大学(米ニューヨーク)に留学をはさみ、2014年より現職。専門分野は神経生理学で、脳の健康について探究している。
主な著書はに『 海馬』(糸井重里氏との共著 朝日出版社/新潮文庫)、『 進化しすぎた脳』(朝日出版社/講談社ブルーバックス)、『 ゆらぐ脳』(木村俊介氏との共著 文藝春秋)、『 脳はなにかと言い訳する』(祥伝社/新潮文庫)、『 のうだま』『 のうだま2』(上大岡トメ氏との共著 幻冬舎)、『 単純な脳、複雑な「私」』(朝日出版社)、『 脳には妙なクセがある』(扶桑社新書/新潮文庫)、『 脳はみんな病んでいる』(中村うさぎ氏との共著 新潮社)、『 メンタルローテーション』(扶桑社)、『 脳は意外とタフである』(扶桑社新書)などがある。
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⚠️ 「6メートル以上の揺れ」が「10分以上」続くかもしれない…近畿圏を襲う「巨大地震」のすさまじさ 2024/10

2024-10-31 22:43:00 | 気になる モノ・コト

「6メートル以上の揺れ」が「10分以上」続くかもしれない…近畿圏を襲う「巨大地震」のすさまじさ
 現代ビジネス より 241031 
 山村 武彦(防災システム研究所 所長・防災・危機管理アドバイザー)


⚫︎タワマンや高層オフィスに「飛ばされ防止手すり」
 東日本大震災の時、震源から約700km離れた大阪府咲洲庁舎(愛称:さきしまコスモタワー)を周期6~7秒の長周期地震動が襲った。咲州庁舎は大阪湾に面した大阪市住之江区南港北(咲洲)の人工島にある。高さ256m、地上55階・地下3階建ての超高層ビル。
 大阪府の調査によると、地上の最大震度は「震度3」だったにもかかわらず、咲州庁舎の大揺れは約10分間続き、最上階の52階では短辺方向片側に最大1.37m、長辺方向に0.86mの揺れ幅だった。
 咲州庁舎・咲州コスモタワーの主な被害は、内装材や防火戸等の一部で破損が合計360ヶ所。内訳は「中央廊下の防火戸のゆがみ49ヵ所」「消火栓上部鉄板のへこみ33ヵ所」「事務所・テナントの天井の落下・床の浮き59ヵ所」「階段室の壁面ボードのゆがみ・亀裂・落下72ヵ所」「階段室床面の浮き・亀裂・はがれ8ヵ所」「中央廊下・居室内の壁面ボード亀裂・パネル落下110ヵ所」「電気室吹き付け材の落下4ヵ所」「トイレ洗面台の排水トラップの損傷・その他25ヵ所」。また、エレベーター全32基が停止。うち25基は地震時管制運転装置が正常に作動したものだったが、4基でロープの絡まりにより男性5人が閉じこめられ、全員救助まで5時間近くかかった。24時間以上過ぎた12日夜になっても、エレベーター8基がすぐに復旧しなかったという。
 咲州庁舎に近い天保山では約60cmの津波が到達している。これが、南海トラフ巨大地震だったら……。

 令和6年能登半島地震の約8か月前、23年5月5日14時42分、石川県能登地方で地震が発生。震源は能登地方で震源の深さは10km、マグニチュードは6.3で、石川県珠洲市で最大震度6強が観測された。
 私は何度が珠洲市に調査に行っているが、この地方では数年前から群発地震が発生していたが、今回はいつもより少し大きな地震だった。この地震による被害は、死者1人、重軽傷者34人、建物被害は354棟、土砂災害も数十件発生している。

 驚いたのはその後である。震源地石川県能登地方から約300km離れた大阪の「あべのハルカス(地上60階、高さ300m)」で、エレベーター4基のうち3基が地震発生4分後に緊急停止した。そのうち60階展望台までのエレベーター2基も緊急停止している。あべのハルカスのある大阪市阿倍野区は震度1だったのに……。
 ビル管理者によると、エレベーターは地震時管制運転装置が揺れを感知して、最寄り階に緊急停止し扉を開いて利用客を下し利用客に大きな影響はなかったという。つまり、エレベーターの安全装置が正常に働いたことになる。エレベーターの感震装置が捉えた揺れは長周期地震動であろう。短周期の揺れは距離に反比例して地震波が減衰し弱くなっていく。

 一方で東日本大震災の咲州庁舎の時と同じように、長周期地震動は減衰することなく、地震波が遠くまで伝播するのが特徴だ。ただ、この日の地震では、大阪市内のほかの高層ビルでエレベーター緊急停止は起きていない。
 通常、エレベーターは短周期地震動で震度4~5程度で緊急停止するように地震時管制運転装置が設定されている。あべのハルカスだけが緊急停止したということは、あべのハルカスビルの固有周期と、伝播してきた長周期地震動がたまたま共振して緊急停止したか、長周期地震動に関する感震停止装置の設定が過敏だったものと思われる。
 いずれにしても、長周期地震動のすごさを再確認した事例だった。

 国のモデル検討会では、近畿圏の一部では揺れ幅6m以上の長周期地震動が10分以上続く可能性があると推計している。とくに00年以前に建てられ、長周期地震動対策ができていない超高層建物では、激しい揺れが襲うと思われる。
 超高層ビルの上層階が6m以上揺れるとすると、高層オフィスやタワーマンションの上層階でも、揺れ幅4~5m以上の揺れになる可能性がある。固定していない家具類が吹っ飛んだり、倒れたり、大きく移動する可能性がある。人が立っていられない揺れで、何かにつかまらなければ飛ばされる危険性がある。
 こうした過去に経験したことのない大揺れに備えるために今やることは、当然、事前にすべての家具や電化製品をしっかり固定すること。そして、人が大揺れで飛ばされないように安全ゾーンを設定し、そこの堅固な壁や床などに「飛ばされ防止手すり」を複数個所設置する必要がある。
 長周期地震動対策については、前述した<じつは「南海トラフ巨大地震」では「東京」も大きな被害…その具体的な想定の数値>、<名古屋を「とてつもない揺れ」が襲う…「南海トラフ巨大地震」発生時の「愛知県の凄すぎる被害想定」>の項を参照。

 さらに関連記事<「南海トラフ巨大地震」は必ず起きる…そのとき「日本中」を襲う「衝撃的な事態」>では、内閣府が出している情報をもとに、広範に及ぶ地震の影響を解説する。
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