日本が「これからの中国と対等以上に付き合う」ためのカギは「アメリカとカナダの関係」
幻冬舎ゴールドライフオンライン より 221018
早稲田大学名誉教授・浅川基男氏の著書『日本のものづくりはもう勝てないのか!?』より一部を抜粋・再編集し、AI時代に求められる「個の活躍」について見ていきます。
⚫︎アナログとデジタルものづくり
AI時代に必須なのは大企業の変革“社内特区”である。
大企業の特徴は“慎重審議、各部署への稟議書配布、会議の前の綿密な根回し、膨大な技術蓄積、事業の慎重な事前審査、過剰な品質重視、完全自前主義、大量生産設備の保有、大きな販売流通網”などが挙げられる。
一方、世界の潮流は“スピードと即断即決、トライ&エラー、先端技術の適用、走りながらの対応、オープン戦略、製造アウトソース、ネット活用”などが主流になりつつある。
この流れに乗れない大企業を、優秀な若者が見限りスピンアウトしつつある。大変もったいない話である。
そこで、すぐに舵を切れない捕鯨船の大企業は、自在に動けるキャッチャーボートである“社内特区”を設け、ベンチャー企業に発展するインキュベータを設ける方法もある。
TOYOTAは、東富士工場(静岡県裾野市)の跡地に「実験都市」を2021年2月に着工し、将来的には面積が約71万平方メートルの街になるという。
自動運転やロボット、スマートホームなど先端技術が満載の未来の都市構想である。
TOYOTAが未来都市を建設するとなると奇異に聞こえる。しかし、そもそも「トヨタグループ」で見れば、TOYOTAを中心に、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を核とした金融・住宅・教育など様々な業種・業界の企業集合体である。
もはや、自動車だけではじり貧である。TOYOTAは自動車製造会社から、「未来プロジェクト会社」と言ってもよいほどの変身に舵を切っている。
一言で言えば、“ものづくり”と“ことづくり”の融合である。素材産業も機械・電気・電子産業も、これからどう変身するかが問われ、かつ若いエンジニアにとっては新たなチャンス到来とも言えるだろう。
月尾嘉男氏が指摘しているように、今の中国は他国にとっては迷惑千万であるが、用意周到で、岩盤のような国家目標があり、それを着実に実行する優秀な官僚と組織がある。大国に隣接する小国が生きていく唯一の方策が「クオリティー国家」であると大前研一が提言している。
⚫︎「中国と敵対」している場合ではないワケ
例えば、米国とカナダの関係である。人口比で8.8倍、GDP比で11.9倍もある米国に、隣国カナダが対等に付き合っている。それは、カナダに質の高い文化・教育をベースとしたものづくりが息づいているからである。
同じように人口比で日本の12.5倍、GDP比で2.3倍の中国ではあるが、クオリティー国家としての日本は中国と対等、あるいは対等以上に付き合うことができるはずだ。
TOYOTAが未来都市を建設するとなると奇異に聞こえる。しかし、そもそも「トヨタグループ」で見れば、TOYOTAを中心に、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を核とした金融・住宅・教育など様々な業種・業界の企業集合体である。
もはや、自動車だけではじり貧である。TOYOTAは自動車製造会社から、「未来プロジェクト会社」と言ってもよいほどの変身に舵を切っている。
一言で言えば、“ものづくり”と“ことづくり”の融合である。素材産業も機械・電気・電子産業も、これからどう変身するかが問われ、かつ若いエンジニアにとっては新たなチャンス到来とも言えるだろう。
月尾嘉男氏が指摘しているように、今の中国は他国にとっては迷惑千万であるが、用意周到で、岩盤のような国家目標があり、それを着実に実行する優秀な官僚と組織がある。大国に隣接する小国が生きていく唯一の方策が「クオリティー国家」であると大前研一が提言している。
⚫︎「中国と敵対」している場合ではないワケ
例えば、米国とカナダの関係である。人口比で8.8倍、GDP比で11.9倍もある米国に、隣国カナダが対等に付き合っている。それは、カナダに質の高い文化・教育をベースとしたものづくりが息づいているからである。
同じように人口比で日本の12.5倍、GDP比で2.3倍の中国ではあるが、クオリティー国家としての日本は中国と対等、あるいは対等以上に付き合うことができるはずだ。
敵対していては相互に不利益しか生まれない。中国は数千年前には「ものづくり大国」であったことを忘れてはならない。
さらに研究開発のハードは日本が優れているとはいうものの、弱点は情報・ソフト関連である。欧米との協力はもちろんであるが、若い研究者の多いインドとの協力推進が不可欠である。
⚫︎個人が思いを主張する社会
日本および日本のものづくりの再興において、最も大切なことは幕末・明治および戦後の偉人に見られたように、個人が自分の樽作りをする点にある。
日本という樽作りに没頭する個人が少なくなってしまった今、再度個人の活躍に焦点を当てるシステムを日本に作りたい。
根本的には、画一的な価値観・既存知識の塊で構成されたカリキュラム・協調と普通を強いる今の教育から、自己の「思い」を語り、ほしいもの、好きなものを見分け、自分で方向を決める自己責任型、個の確立型人間を育てる方向に転換することが急務である。
堀場製作所創業者の故堀場雅夫氏は
「21世紀の最大の変化は集団の時代から個の時代への移り変わりである。個、すなわち人間一人一人がそれぞれ独自の特質を活かし、独創的な発想と自分の価値観に忠実に生きる社会こそが日本の活力の根源となる」
と訴えている。そのためにはまず、大学入試方法の改革が必要となる。
初等・中等教育および大学教育・社会人研修の「受け身学習」から「個人の思いを自ら主張できる」人間教育への抜本的転換である。
要するに、幕末・明治の時代に多く輩出した個人をもった人材を目指す人材教育に切り替えることである。
「みんな一緒」から「クオリティーの高い個人の考え」を引き出し、大切にする風土づくりである。小・中・高の時から個としての自分の意見を醸成し、それを表現し、相手にそれを説得する表現力を教育する方法に、大きく転換しなければならない。
⚫︎入試「ドラえもんはなぜ生物として認められない?」
例えばある中学入試問題で、
「図は、99年後に誕生する予定のネコ型ロボット、『ドラえもん』です。この『ドラえもん』がすぐれた技術で作られていても、生物として認められることはありません。それはなぜですか。理由を答えなさい。」
とある。解答は一つではなく、各個人の数だけある。今後の教育が楽しみである。
大学入試でも、SAT(米国大学入学時に考慮する大学能力評価試験で英語・歴史・社会学・数学・自然科学・語学などの20科目の中から、最高3つまでを受験)のような試験とし、最終的にはおのおのの大学の多様性に応じた個別試験・面談を行い、「自分をいかに語れるか、自分は何に興味があり、それをどう活かすのか」を最重要視する試験法が望ましい。
面接官には現役のOB・OG、識者の活用が考えられる。
MITでは、良い学生を選べなかった面接官は、次回から交代させられる。
これからは、一部の国立大学の卒業生や一部の官僚・大企業人のような、全ての科目で高得点を取るようなバランス型人材、これと言った「思い」や突出した特徴の無い人材は、必要でなくなる。
学生が教師に「その説明ではよくわかりません」と繰り返し説明を求め、教師も何回でも根気良く答える、教室では真剣勝負であってほしい。
吉田松陰は『留魂録』の一文で「諸君、狂いたまえ」と言い残している。
とにかく思い切ってやってみる、間違ったらまた変えればいい、少なくとも江戸時代のように切腹までは強要されないのだから。
******************
浅川 基男
1943年9月 東京生まれ
1962年3月 都立小石川高校卒業
1968年3月 早稲田大学理工学研究科機械工学専攻修了
1968年4月 住友金属工業株式会社入社
1980年5月 工学博士
1981年5月 大河内記念技術賞
1996年4月 早稲田大学理工学部機械工学科教授
2000年4月 慶應義塾大学機械工学科非常勤講師
2002年4月 米国リーハイ大学・独アーヘン工科大学訪問研究員
2003年5月 日本塑性加工学会 フェロー
2004年5月 日本機械学会 フェロー
2014年3月 早稲田大学退職、名誉教授
著書:基礎機械材料(コロナ社)ほか
要するに、幕末・明治の時代に多く輩出した個人をもった人材を目指す人材教育に切り替えることである。
「みんな一緒」から「クオリティーの高い個人の考え」を引き出し、大切にする風土づくりである。小・中・高の時から個としての自分の意見を醸成し、それを表現し、相手にそれを説得する表現力を教育する方法に、大きく転換しなければならない。
⚫︎入試「ドラえもんはなぜ生物として認められない?」
例えばある中学入試問題で、
「図は、99年後に誕生する予定のネコ型ロボット、『ドラえもん』です。この『ドラえもん』がすぐれた技術で作られていても、生物として認められることはありません。それはなぜですか。理由を答えなさい。」
とある。解答は一つではなく、各個人の数だけある。今後の教育が楽しみである。
大学入試でも、SAT(米国大学入学時に考慮する大学能力評価試験で英語・歴史・社会学・数学・自然科学・語学などの20科目の中から、最高3つまでを受験)のような試験とし、最終的にはおのおのの大学の多様性に応じた個別試験・面談を行い、「自分をいかに語れるか、自分は何に興味があり、それをどう活かすのか」を最重要視する試験法が望ましい。
面接官には現役のOB・OG、識者の活用が考えられる。
MITでは、良い学生を選べなかった面接官は、次回から交代させられる。
これからは、一部の国立大学の卒業生や一部の官僚・大企業人のような、全ての科目で高得点を取るようなバランス型人材、これと言った「思い」や突出した特徴の無い人材は、必要でなくなる。
学生が教師に「その説明ではよくわかりません」と繰り返し説明を求め、教師も何回でも根気良く答える、教室では真剣勝負であってほしい。
吉田松陰は『留魂録』の一文で「諸君、狂いたまえ」と言い残している。
とにかく思い切ってやってみる、間違ったらまた変えればいい、少なくとも江戸時代のように切腹までは強要されないのだから。
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浅川 基男
1943年9月 東京生まれ
1962年3月 都立小石川高校卒業
1968年3月 早稲田大学理工学研究科機械工学専攻修了
1968年4月 住友金属工業株式会社入社
1980年5月 工学博士
1981年5月 大河内記念技術賞
1996年4月 早稲田大学理工学部機械工学科教授
2000年4月 慶應義塾大学機械工学科非常勤講師
2002年4月 米国リーハイ大学・独アーヘン工科大学訪問研究員
2003年5月 日本塑性加工学会 フェロー
2004年5月 日本機械学会 フェロー
2014年3月 早稲田大学退職、名誉教授
著書:基礎機械材料(コロナ社)ほか
💋教育は国家百年の計、という言葉が死語化した今を… そして相互の権利は対等に!
もう途上国ではないのだから。