日本のロボット開発の“根本的課題”、最新ロボットが普及する未来はくるか
ビジネス+IT より 210412米国在住ジャーナリスト 土方 細秩子
マイクロモビリティは都市生活にどのような影響をもたらすのか。その実証実験が京都市内で行われた。主催したのは福岡に本社を持つテムザックで、3月17、18日の両日、京都市上京区の公道で同社の「ロデム」という電動式ミニ車両の走行を実施。高齢者のモビリティとして、観光の足として、さらには通勤や通学のラストマイルソリューションとしてなど、さまざまな用途が模索されている。だがその普及には、ロボット業界全体が抱えるさまざまな障壁が存在する。
⚫︎小型モビリティロボットの公道走行実験
京都のメインの大通りである堀川通りから西にある大宮通り。片側一車線と狭めながら、車も人もそれなりに通る道路に、丸い小型のロボット車両が登場した。最高時速12キロながら、細い通りでは車よりも早く目的地まで到達することができる。小回りも効いて、危なげなく予定のルートを完走した。
ロデムはこの走行実験の前に、東映太秦映画村で5Gによる遠隔操作走行のデモンストレーションも行っている。公道走行ではドライバーによる運転という方法が採られたが、認可さえ降りれば遠隔走行も自動運転も可能だという。
⚫︎中小企業を手厚く支援する京都府
テムザックは現在福岡に本社を持つが、研究所は京都市西陣地区にある。京の町家を改装した伝統とモダンが共存する施設で、ゆくゆくは京都への本社移転も考えているという。その理由に挙げられるのが、京都の中小企業支援体制の充実にある。実際に、今回の実証実験にも京都市役所、京都府警の管轄警察署、実証実験の現場となった上京区区長などの立ち会いがあった。
「京都には最先端企業を呼び込み、ここで育てて世界的な企業にしようという気概がある」と語るのは、テムザックの代表取締役議長で創設者でもある高本 陽一氏だ。
テムザック 代表取締役議長 高本 陽一氏
ロデムは、学術都市である「けいはんな学研都市」(正式名称:関西文化学術研究都市)の公道で、信号機や横断歩道と連携させた自動運転の走行実験もすでに行っている。信号機の情報を読み取り、赤なら停止し、また横断歩道の模様をAIが読み取り、的確なルートを選定する。
自動運転機能が必要なのは、たとえば観光やラストマイルソリューションとして使用された場合、目的地で乗り捨ててもロデム自身が充電ステーションまで自律走行で戻るというシステムを確立させたいためだ。これが可能になると、実際の交通インフラにこうしたマイクロモビリティを無理なく組み込むことが可能となる。
⚫︎日本での普及を阻む、規制の壁と“もう1つ”の障壁
「人間の力に」テムザックが開発するロボットたち
テムザックが手掛けるロボットはロデムだけではない。たとえば「KIYOMORI」と名付けられた二足歩行型ロボットは、20年も前にフランスのワインの産地で当地の市長とワイングラスで乾杯という高度な技を見せた。
二足歩行ロボット「KIYOMORI」
高本氏によると、KIYOMORIには骨盤にあたる部位が存在するため、膝を伸ばして歩行が可能。たとえば、ホンダのアシモは膝を曲げたまま歩行するが、KIYOMORIはアシモの27個に対し39個のモーターを搭載しているため、よりスムーズな動きとなる。
また、名古屋の高山商事と共同開発した介護ロボット「SOWAN」は、介護施設内を自動走行する巡回見守りの他、異常時の駆けつけ、情報通知を行うことができる。このSOWANは、実際に名古屋の介護施設で運用されている。
SOWANの特徴は、医療従事者や介護職員のウェアラブルデバイスとの通信機能があり、病室などで異常を感知した場合、直ちにその画像や音声を飛ばすことができる点だ。また、カメラに搭載された顔認識機能で、高齢者が施設内を徘徊(はいかい)している場合にそれを素早くキャッチするといった介護の現場に役立つ機能も用意されている。
2021年の7~8月から量産体制に入るというSOWANだが、月々のリース料金は7万円、SOWAN1体の他にウェアラブルデバイス、ドアを自動で開くためのセンサー10個がつく。またコロナ禍の折、次亜塩素酸の消毒液を噴霧する機能を追加することも可能だという。
自動走行で見回りを行い、消毒液の噴射も行うという点では、韓国LG電子が今年のCESで発表したロボットとほぼ同機能となる。LGのロボットは空港やホテルのような施設での利用を前提としたものだが、国産で現場作業従事者不足が指摘される介護用として、こうしたロボットが開発されていることは特筆すべきことだろう。
また、テムザックにはフィールド作業用の四足走行ロボットもある。こちらは不整地での地表検査、地図作製などが主な目的だ。このロボットも現在ある大企業の敷地内で実装実験が行われている。四足走行のロボットといえば、ボストン・ダイナミクス社の犬型ロボットが有名だが、高本氏は「資金さえあれば同程度のロボットを作れる技術はある」と言い切る。
たとえば、積水ハウスと共同で開発を進めてきた建築施工ロボット「Carry」と「Shot」は、天井石こうボードの位置決定、運搬を担当するCarryと、天井石こうボードをビス打ちし、固定するShotが相互にコミュニケーションを取り、自動運転・自律行動で作業を進めるという高度なワークロイドである。
⚫︎日本での普及を阻む、規制の壁
こうした技術により、日本で唯一の災害支援ロボットの開発にも着手しているテムザックだが、普及を阻むいくつもの壁に直面しているという。介護支援、地表作業などは民間の敷地内、プライベートスペースで行うため規制に縛られないが、それを公共の場に出すことが現状では難しい。
たとえば、ロデムの自動運転も、技術的には可能であるし実証実験も行っている。しかし、公道で走行するための認可を取るのが現状では非常に困難である。そもそもロデムは三輪トライクなどと同様の「ミニカー」というカテゴリーで、水色のナンバープレートを取得する必要がある。運転するには普通免許が必要だ。
しかし、欧州ではこのような車両が無免許で運転できる国も多く、英国では電動車椅子でも最高時速12.8キロが認められる。高本氏は「英国では時速6キロ以下なら歩道の走行も可能で、それ以上の速度になると車道を走るという規制があり、日本も将来そうなってくれればロデムが活躍できる場も広がる」と語る。そのため、現在ロデムには速度切り替えスイッチが搭載されており、最高時速をそれぞれ6キロと12キロに設定している。
⚫︎ロボット開発を減速させる“もう1つ”の障壁
また、規制の問題と同じく乗り越えることが難しいのが業界団体の存在だ。たとえば、ロデム(屋内型)を馬乗り型の電動車いすとして販売する計画もあるが、ロデムそのものは2017年に発表されたものの、経済産業省によるJIS規格の安全要求事項として制定、公示されたのは2020年9月である。
馬乗り、つまり後方から乗り込める車いすは、介護者の負担を減らし乗降しやすいのが特徴だが、これを発表するにあたり、既存の車いす業界団体からの反発が大きかったという。車いすは前から乗り込むもので、後方から乗り込むことが認められないという声があった。
こうした規制や既存団体の障壁が、日本のロボット開発の遅れにつながるとして、ユーザー団体を設立する動きもある。早稲田大学の高西 敦夫教授を中心とする「働くロボット(ワークロイド)の普及をユーザーから考える会」の設立もその1つだ。
設立の趣旨は、日本は産業用ロボットの出荷額では世界一だが、今後は少子高齢化社会でもあることから、屋外で移動しながら人と協働するロボットの開発が必至であり、その普及と開発に向けてユーザー側の視点から考えていこうというものだ。
⚫︎ロボット技術の普及に必要なこととは
従来のロボット開発は、課題を抱える企業が開発メーカーと個別に機密保持契約を結び、企業ごとに特許などを取得して進める手法のため、「ロボット技術の利用が発注元に限られる」「大量生産を前提としない個別受注である」などが特徴となる。そのため開発費は高額となり、ロボット利用が経済力のある大企業に限られてきた。
しかし、ロボット技術を広く普及させるためには、ユーザーのニーズを吸い上げ、共通ニーズにまとめ、共同開発を行うユーザー主体の組織が必要となる。そして、開発された技術は共同利用できるような開発環境を整えることも必要となる。
そのためには、用語・企画・安全認証基準などの統一化、ロボット仕様プラットホームの提供、ロボット保険の開発促進、ロボット相談窓口、関連技術の教育・啓蒙(けいもう)、法律改正に関する政府との相談窓口、ワークロイド全般に対する支援制度拡充の促進、などさまざまな手続きも必要となる。
しかし、こうしたいわばオープンソース化を推進していかなければ、日本のロボット技術に関するイノベーションは欧米や中国などにいずれ遅れを取ることになるだろう。テムザックのような挑戦する企業、そして同社が開発するユーザー重視のロボット技術が広く普及することが、今後の日本の社会にとって必要なことではないだろうか。
💋テムザック KBS京都の「原日出子の京さんぽ」でも紹介あり いい雰囲気の企業
ほんわかはんなり
💋何か新規、革新なものはまず不許可、検討中と称して長期間放置!
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