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⚠️ 日本人は「出生率低下」の深刻さをわかっていない  202207

2022-07-10 18:18:00 | 気になる モノ・コト

日本人は「出生率低下」の深刻さをわかっていない
  東洋経済オンライン より 220710  野口 悠紀雄:一橋大学名誉教授


⚫︎出生率低下は日本の将来にどんな影響を与えるか? 
 日本の出生率が、政府がこれまで想定していたより大幅に低下し、歴史上最低値となった。世界で最も高齢化が進む日本は、さらに困難な問題に直面することとなる。
 これは、政府の将来推計に大幅な改定を迫るものなのか? そして、日本の将来の経済成長率に大きな影響を与えるのだろうか?
 昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第73回。

⚫︎世界で最も高齢化が進んだ日本よりも かつては英米のほうが高齢化国だった。

【グラフ・図表】「主要国と日本の高齢化率」「出生低位・中位の場合のシミュレーション」など
この連載の一覧はこちら

 65歳以上の人口が総人口に占める比率を「高齢化比率」と呼ぶことにしよう。
日本の値は、28.7%だ。

 ほかの国をみると、アメリカ17.3%、イギリス18.8%、ドイツ22.0%、フランス21.1%、スウェーデン20.5%、韓国16.6%などとなっている。

 日本は、これらの国に比べて、飛び抜けて高い。

 開発途上国ではこの値は低いので、日本は世界で最も高齢化が進んだ国だ。
日本経済から活力が奪われたとしばしば言われるが、その大きな原因が人口高齢化にあることは、間違いない。

 日本は、昔から高齢化率が高かったわけではない。

図表1に示すように、1980年代頃までは、アメリカやイギリスのほうが高かった。
(外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)

 とくに、イギリスが高かった。観光地にいくと、老人が多いのが印象的だった。
それに対して、日本の観光地には若い人たちが多い。大きな違いだと思った。

 当時は、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と賞賛されていた時代だ。そしてイギリスは、「イギリス病」で疲弊の極にあった。
 アメリカ経済もふるわず、アメリカ人は、「われわれの子どもたちは、われわれより貧しくなる」と真剣に心配していた。
 その当時の英米と日本との経済力の違いをもたらした大きな原因が,人口構造だったのだ。

 ところが、1990年代の中頃以降、日本の高齢化率が急速に高まり、英米を抜いた。そして、この頃から、日本経済の長期停滞が始まった。
なお、図表1には示していないが、多くのヨーロッパ諸国も、英米と同じような推移をたどっている。

 これまでも深刻であった日本の少子化が、さらに深刻化している。厚生労働省が6月3日に発表した人口動態統計によると、2021年の日本の出生数は81.1万人で、1899年以降で最少となった。

 国立社会保障・人口問題研究所が2017年に公表した将来推計は、出生数を3パターン想定している。このうち通常使われるのは「中位」だが、そこでは、2021年の出生数を86.9万人としている。そして、「低位」(悲観的なシナリオ)では75.6万人としていた。

 2021年の実際の出生数は、上記のように、これらの中間の数字になった。

 人口推計は、長期予測の基本となるものだ。これまでは、さまざまな政府見通しのほとんどが「中位推計」を用いていた。
 上記の結果を踏まえて、今後は、さまざまな長期推計の見直しが必要になるだろう。

⚫︎出生率低下でも、労働人口や高齢者人口は変わらない
 では、最近の出生率低下は、将来の日本にどのような影響を与えるだろうか?
とりわけ、人口高齢化との関係では、どうか?
 出生率が低下すれば、人口高齢化がますます深刻化することは間違いない。
では、いつ頃の時点において、いかなる影響を与えるだろうか?

 以下では、仮に「低位推計」が現実化した場合に、「中位推計」からどのような違いが生じるかを見ることとしよう。
 実は、推計の結果を見ると、高齢者の数は、2060年頃まで見ても、出生率中位推計の場合と変わらないのだ。
 これは意外なことと思われるかもしれないが、次のように考えれば、当然であるとわかるだろう。

 2060年において65歳以上の人とは、1995年以前に生まれた人だ。その人たちは、2020年時点においては、すでに45歳以上になっている。
 だから、2020年に出生率が低下しても、2060年の高齢者数は影響を受けないのである(ただし、死亡率がいまより低下すれば、総数が増えるなどの影響はある)。

 現役世代人口(労働年齢人口:15~64歳人口)も、同様の理由によって、2030年までを見る限りは、ほとんど変わらない。2040年になって100万人程度減るだけだ。
 このように、今回の調査でわかった出生率の低下は、2040年頃までの高齢者数や労働力人口には、ほとんど影響を与えない。

 しかし、以下で述べるように、これは、高齢化問題や労働力不足問題を楽観視してよいことを意味するものではない。

 出生率が中位推計のままでも、これらは深刻な問題だからである。
なお、出生率低下が、何の影響ももたらさないわけでない。影響はもちろんある。

 それは,0~14歳人口が,これまで想定されていたよりも,2040年で2割程度減ることだ。

 これは、教育関係の諸事項には大きな影響を与えるだろう。現在でもすでに、私立大学の定員割れが問題となっている。この問題は、今後さらに深刻さを増すだろう。

 上で注記したように、中位推計の場合でも、高齢化はきわめて深刻な問題だ。

 それは、高齢者と現役世代の人口比を見れば、明らかだ。図表2からわかるように、2020年には1人の高齢者を現役2人で支えていた。ところが、2040年には1.5人で支えることになるのだ。


 だから、仮に高齢者1人あたりの給付がB(という仮の数字)で変わらないとすれば、現役世代1人あたりの負担は、B/2からB/1.5になる。つまり、0.5Bから0.67Bへと33.3%増えることになる。

 これは、大変な負担増だ。しかも、賃金は今後もさしては伸びないと考えられるので、負担の痛みは、きわめて大きいだろう。
 だから、負担増だけで対処することはできず、給付を相当程度引き下げざるをえないだろう。

 医療給付を大幅にカットするのは難しいので、年金の支給開始年齢を、現在の65歳から70歳に引き上げるといった対策が必要になるだろう。

⚫︎2060年には現役世代人口と高齢者人口がほぼ同じに
 上で、「低位推計でも労働力は中位推計とあまり変わらない」と述べた。しかし、これは、2030年頃までのことである。これ以降になると、低位推計では労働力不足が中位推計の場合より深刻化する。

 現役世代の総人口に対する比率は、現在は約6割だが、2060年頃には、これが約5割にまで低下する。そして高齢者人口とほぼ同数になる。

 上と同じ計算を行うと、現役世代1人あたりの負担は、B/2からBになる。つまり、高齢者の給付を不変とすれば、負担は0.5BからBへと2倍に増えることになる。

 このような制度は、とうてい維持できないだろう。

 つまり、現在出生率が低下していることの結果は、40年後、50年後に、きわめて深刻な問題になるのだ。

 こうした条件の下で日本社会を維持し続けるための準備を、いまから行う必要がある。

 先に、「現時点で出生率が低下しても、高齢化比率や労働力比率が大幅に悪化するわけではない」と述べた。このことを逆に言えば、「仮に現時点において出生率を大幅に引き上げられたとしても、将来の高齢化問題や労働力不足問題が解決されるわけではない」ことを意味する。

 出生率を高めることは、さまざまな意味において、日本の重要な課題だ。しかし、それによって社会保障問題や労働力不足問題が緩和されると期待してはならない。

 近い将来においては、依存人口が増えるために、問題はむしろ悪化するのである。

 将来時点における労働力人口の減少に対処するのは重要な課題だが、そのためには、出生率を引き上げることよりも、高齢者や女性の労働力率を上げることのほうが、はるかに大きな効果を持つ。あるいは、外国からの移民を認めることだ。

 女性の就労についての問題は、労働化率の低さだけでない。日本の場合には、非正規労働(パートタイム労働者)が非常に多いことが問題だ。この状況を改善することが必要だ。

 また、新しい技術やビジネスモデルを採用して生産性を引き上げ、労働力不足を補うことは可能だ。

 超高齢化社会に対応するには、こうした施策を進める必要がある。

⚫︎雇用延長で対処できるか?
 高齢者の労働力率は、これまでも上昇しつつある。

 また、年金支給開始年齢を65歳まで引き上げたことに対応して、政府は、65歳までの雇用を企業に求めている。
 今後、年金支給開始年齢を70歳にまで引き上げれば、70歳までの雇用延長を企業に求めることとなる可能性がある。

しかし、ここには、大きな問題がある。

 それは、日本の賃金体系では、50歳代までは賃金が上昇するが、60歳代になると急激に減少することだ。
 組織から独立した形で高齢者が仕事をできるようなシステムを開発する必要もあるだろう。
単なる雇用延長だけでなく、こうした可能性をも含めた検討も求められるのである。



👄政治とマスコミの責任大


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