ウソだろ,「井戸の影」だけからこんな大発見を…?古代人が「地球は丸い」と知っていたワケ
現代ビジネス より 241230 鎌田 浩毅、蜷川 雅晴
【写真】なぜ日本には地震が多いのか…地球科学で見る「列島の異変」と「次の大地震」
地球46億年の歴史、地震のメカニズム、気候変動のからくり、日本列島の特徴、宇宙の成り立ちと進化……誰もが知っておくべき地球科学の教養。そのエッセンスが凝縮されているのが、「高校地学」だ。
本連載では、「最高の教養」である高校地学の中身を、わかりやすくご紹介する。地質学、古生物学、自然地理学、気象学、天文学、宇宙論など、幅広い学問分野の最新成果がまとまったその魅力を、存分にお楽しみいただければと思う。
本記事は、『みんなの高校地学 おもしろくて役に立つ、地球と宇宙の全常識』(鎌田浩毅/蜷川雅晴・著)を一部抜粋・再編集したものです。
⚫︎古代人が「地球は丸い」と知っていた理由
私たちは地球儀を見たり、宇宙からの写真を見たりして、地球の形が丸いことを知っていますが、地球の形はいつごろどのようにしてわかったのでしょうか。
紀元前330年ごろに、古代ギリシャの哲学者であるアリストテレス(前384~前322)は、月食のときに月に映る地球の影の形が円形であることから、地球が球形であると考えました。月食とは、地球から見て月が太陽と反対側にあるときに、地球の影によって月が欠けて見える現象です。
また、沖から陸に近づいてくる船を海岸から眺めると、船の全体が見えるのではなく、帆の高い部分から見えます。やがて船が近くにくると、船の低いところも見えるようになります。これは地球が球形であるために起こる現象です。このように、身近な現象を観察すると、地球についてわかることがたくさんあるのです。
アレクサンドリア(エジプト)の図書館長だった古代ギリシャ人のエラトステネス(前275~前194)は、紀元前230年ごろ、次のような方法で地球の周囲の長さを測定しました。
私たちは地球儀を見たり、宇宙からの写真を見たりして、地球の形が丸いことを知っていますが、地球の形はいつごろどのようにしてわかったのでしょうか。
紀元前330年ごろに、古代ギリシャの哲学者であるアリストテレス(前384~前322)は、月食のときに月に映る地球の影の形が円形であることから、地球が球形であると考えました。月食とは、地球から見て月が太陽と反対側にあるときに、地球の影によって月が欠けて見える現象です。
また、沖から陸に近づいてくる船を海岸から眺めると、船の全体が見えるのではなく、帆の高い部分から見えます。やがて船が近くにくると、船の低いところも見えるようになります。これは地球が球形であるために起こる現象です。このように、身近な現象を観察すると、地球についてわかることがたくさんあるのです。
アレクサンドリア(エジプト)の図書館長だった古代ギリシャ人のエラトステネス(前275~前194)は、紀元前230年ごろ、次のような方法で地球の周囲の長さを測定しました。
エラトステネスによる地球全周の計算
エラトステネスは、夏至の日の正午に、エジプトの北側にあるアレクサンドリアと南側にあるシエネ(現在のアスワン)で、太陽の南中高度を測定しました。「南中」とは、天体が真南にくる瞬間のことです。
シエネでは井戸の底を太陽光が照らすことから、太陽の南中高度は90度であることがわかり、アレクサンドリアでは地面に垂直に立てた棒の影の長さから、太陽の南中高度は82.8度であることがわかりました。地球を球形と考えると、2地点の南中高度の差(90−82.8=7.2度)は、「緯度の差」と考えられます。
⚫︎じつは、地球は「回転楕円体」だった
また、アレクサンドリアとシエネは、南北に約900キロメートル離れています。緯度差7.2度に対する距離が900キロメートルであり、円弧の長さは中心角に比例することから、地球の周囲の長さは約4万5000キロメートルと求められます。
⚫︎じつは、地球は「回転楕円体」だった
また、アレクサンドリアとシエネは、南北に約900キロメートル離れています。緯度差7.2度に対する距離が900キロメートルであり、円弧の長さは中心角に比例することから、地球の周囲の長さは約4万5000キロメートルと求められます。
ただし、アレクサンドリアとシエネは、正確には南北方向に並んでいないため、エラトステネスの計算には誤差がありました。実際には、地球の周囲の長さは約4万キロメートルです。
実際の地球の形は、完全な球形ではなく、北極と南極を通る軸のまわりに楕円を回転させてできる回転楕円体に近い形をしています。この回転楕円体の中心から赤道までの距離(赤道半径)は約6378キロメートル、中心から北極までの距離(極半径)は約6357キロメートルになります。
回転楕円体は球をある方向につぶしたものとみなすこともできます。
実際の地球の形は、完全な球形ではなく、北極と南極を通る軸のまわりに楕円を回転させてできる回転楕円体に近い形をしています。この回転楕円体の中心から赤道までの距離(赤道半径)は約6378キロメートル、中心から北極までの距離(極半径)は約6357キロメートルになります。
回転楕円体は球をある方向につぶしたものとみなすこともできます。
球に対する回転楕円体のつぶれ度合いを偏平率といいます。偏平率は、回転楕円体の長半径(赤道半径)と短半径(極半径)を用いて表されます。
惑星の形が完全な球形であると、赤道半径と極半径が等しいため、偏平率は0となります。一方、惑星が南北方向につぶれて、極半径が0に近い値になると、偏平率は1に近い値となります。すなわち、偏平率は0に近いほど球形に近く、1に近いほど大きくつぶれた形となります。
地球の偏平率は約0.0034です。
惑星の形が完全な球形であると、赤道半径と極半径が等しいため、偏平率は0となります。一方、惑星が南北方向につぶれて、極半径が0に近い値になると、偏平率は1に近い値となります。すなわち、偏平率は0に近いほど球形に近く、1に近いほど大きくつぶれた形となります。
地球の偏平率は約0.0034です。
地球は完全な球形ではありませんが、球に近い回転楕円体といえます。
ちなみに、太陽系の惑星のうち、偏平率が最も大きいのは土星です。土星の偏平率は約0.0980です。土星は地球よりも南北方向につぶれた形をしているのです。
⚫︎伊能忠敬が遺した、地学的にも驚異の仕事
物をつり下げた糸のように、重力の方向を示す線を「鉛直線」といいます。地球上のある地点における鉛直線と赤道面のなす角度が緯度です。
ちなみに、太陽系の惑星のうち、偏平率が最も大きいのは土星です。土星の偏平率は約0.0980です。土星は地球よりも南北方向につぶれた形をしているのです。
⚫︎伊能忠敬が遺した、地学的にも驚異の仕事
物をつり下げた糸のように、重力の方向を示す線を「鉛直線」といいます。地球上のある地点における鉛直線と赤道面のなす角度が緯度です。
地球の形が回転楕円体であるため、赤道と両極を除いて、鉛直線は地球の中心を通りません。
地球の周囲の長さを約4万キロメートルとして、これを360で割ると、平均的な緯度差1度あたりの南北方向の距離は約111.1キロメートルと求めることができます。
江戸時代に天体の観測や測量を行った伊能忠敬(1745~1818)は、緯度差1度あたりの南北方向の距離が28.2里であることを、1801年の奥州街道の測量によって明らかにしました。1里の長さは時代によって異なりますが、1里を明治時代以降に定められた約3.93キロメートルとすると、28.2里は約110.8キロメートルになります。
また、緯度差1度あたりの南北方向の距離は、地球の形が完全な球形であれば、どこでも等しくなりますが、地球の形は赤道方向に膨らんでいるため、場所によって異なっています。18世紀にフランス学士院(フランスの学術団体)が、エクアドル(南緯1.5度)とラップランド(スカンジナビア半島北部・北緯66.3度)で緯度差1度あたりの南北方向の距離を測定したところ、エクアドルでは110.6キロメートル、ラップランドでは111.9キロメートルとなりました。
このように、赤道方向に膨らんだ地球では、緯度差1度あたりの南北方向の距離は、高緯度ほど長くなります。
⚫︎場所によって、重力の大きさは違う
質量をもつ物体にはお互いに引き合う力がはたらきます。この力を万有引力といいます。地球上の物体には、地球の質量による万有引力がはたらいています。
⚫︎地球上の物体にはたらく重力
万有引力の大きさは物体の質量の積に比例し、物体間の距離の2乗に反比例します。地球の形は赤道方向に膨らんでいるため、地球上の物体と地球の中心との距離は、北極よりも赤道のほうが大きくなります。そのため、地球上の物体にはたらく万有引力の大きさは、北極よりも赤道のほうが小さくなります。
地球上の物体には遠心力もはたらいています。遠心力は、回転運動している物体に、回転軸に対して外向きにはたらく力です。地球はおよそ24時間で1回転のペースで自転していますので、地球上の物体は自転軸のまわりを回転運動しています。つまり、地球上の物体には、地球の自転による遠心力がはたらいているのです。
地球の周囲の長さを約4万キロメートルとして、これを360で割ると、平均的な緯度差1度あたりの南北方向の距離は約111.1キロメートルと求めることができます。
江戸時代に天体の観測や測量を行った伊能忠敬(1745~1818)は、緯度差1度あたりの南北方向の距離が28.2里であることを、1801年の奥州街道の測量によって明らかにしました。1里の長さは時代によって異なりますが、1里を明治時代以降に定められた約3.93キロメートルとすると、28.2里は約110.8キロメートルになります。
また、緯度差1度あたりの南北方向の距離は、地球の形が完全な球形であれば、どこでも等しくなりますが、地球の形は赤道方向に膨らんでいるため、場所によって異なっています。18世紀にフランス学士院(フランスの学術団体)が、エクアドル(南緯1.5度)とラップランド(スカンジナビア半島北部・北緯66.3度)で緯度差1度あたりの南北方向の距離を測定したところ、エクアドルでは110.6キロメートル、ラップランドでは111.9キロメートルとなりました。
このように、赤道方向に膨らんだ地球では、緯度差1度あたりの南北方向の距離は、高緯度ほど長くなります。
⚫︎場所によって、重力の大きさは違う
質量をもつ物体にはお互いに引き合う力がはたらきます。この力を万有引力といいます。地球上の物体には、地球の質量による万有引力がはたらいています。
⚫︎地球上の物体にはたらく重力
万有引力の大きさは物体の質量の積に比例し、物体間の距離の2乗に反比例します。地球の形は赤道方向に膨らんでいるため、地球上の物体と地球の中心との距離は、北極よりも赤道のほうが大きくなります。そのため、地球上の物体にはたらく万有引力の大きさは、北極よりも赤道のほうが小さくなります。
地球上の物体には遠心力もはたらいています。遠心力は、回転運動している物体に、回転軸に対して外向きにはたらく力です。地球はおよそ24時間で1回転のペースで自転していますので、地球上の物体は自転軸のまわりを回転運動しています。つまり、地球上の物体には、地球の自転による遠心力がはたらいているのです。
遠心力の大きさは、回転半径(自転軸との距離)と回転の角速度(単位時間あたりに回転した角度)の2乗との積に比例します。地球上の物体はどこでも1日に自転軸のまわりを1周しますので、回転の角速度は一定とみなすことができます。
したがって、地球上の物体にはたらく遠心力は、自転軸との距離に比例します。地球上の物体にはたらく遠心力の大きさは、自転軸との距離が大きい赤道で最も大きくなり、自転軸との距離が小さい高緯度で小さくなります。自転軸上にある極では、遠心力ははたらきません。
地球上の物体には、地球の質量による万有引力と地球の自転による遠心力がはたらいています。これらの合力を重力といいます。赤道上では、万有引力と遠心力が逆向きにはたらくため、重力が最も小さくなります。一方、極では、遠心力がはたらかないため、重力は最も強くなります。
重力の大きさは、重力加速度で表すことがあります。
重力加速度とは、物体が重力によって落下するときの速度の増加率です。
地球上で落下する物体の速度は、およそ9.8m/s増加します。したがって、重力加速度は約9.8m/s2となります。重力の大きさが緯度によって異なるため、重力加速度の大きさも緯度によって異なり、赤道では約9.78m/s2、北極では約9.83m/s2となっています。
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本連載では、人気の地球科学者と地学講師が、「高校地学」の内容と魅力をわかりやすくお伝えしていく。
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