知人の東京大学大学院新領域創成科学研究科自然環境学専攻教授のblog「Limnology 水から環境を考える」を久しぶりにみてみたところ、有機リン系農薬の記事が目についた。
有機リン農薬の影響-臨床と最新研究 2008/2/1
中国製食品だけではない、日本における有機リン農薬曝露源 2008/4/3
いまのところ、国内では、有機リン系農薬の毒性について力を入れて研究しているところは、まだ少ないようだが、群馬県では、すでに県として「散布自粛要請」を公式にアナウンスしていて、事実上禁止の方向であるようだ。
群馬県「有機リン系農薬の空中散布の自粛要請について」
群馬では、これまでも、県の研究プロジェクトとして、「有機リン系農薬等による化学物質過敏症の病態解明に関する研究」 という研究を行って報告書もまとめられている。
この報告書や、群馬県で長年、農薬と健康被害について研究してきた、青山美子医師のインタビューを読むと、有機リン系の農薬の危険性と慢性毒としてのメカニズムが解明されつつあると思う。
「心を蝕む有機リン農薬」 月刊誌記事から>青山美子先生インタビュー(No.209)
また、少し調べると、以下のような海外の論文の翻訳も紹介されていた。
「子どものからだの中の有機リン系農薬 通常野菜と有機野菜の比較」
このような動きの中で、有機リン系農薬とその空中散布の無人ヘリコプターから利益を得ている側の人々である農薬工業会からは、以下のような、コメントが出されていた。
「有機リン系農薬の群馬県による散布自粛要請に対する当会の見解」 平成18年6月2日
以下一部抜粋:
『新聞報道では、3月の参議院予算委員会において厚生労働省健康局長が、「有機リン剤が情動や精神活動などに対して慢性的な障害を引き起こすおそれを認めた」との記事内容となっています。しかしながら、当該予算委員会の議事録によれば、厚生労働省は慢性の障害を引き起こすおそれがあるとした研究報告の存在を認めたものであり、有機リン化合物による慢性障害のおそれを認めたものではありません。また、当該報告書に対する厚生労働省の見解は現在のところ公表されていません。なお、本件に関するテレビの取材に対して、厚生労働省は「有機リン系殺虫剤について適正に使用するかぎり安全性に問題のない」旨を口頭で回答しています。 』
という見解は、やりとりの事実関係としては正しいものであろう。
しかし、科学と環境行政の関係については、別の視点での見解があろう。
ここで、我々が問題とすべきことは、すでに「慢性の障害を引き起こすおそれがあるとした研究報告の存在」することに他ならない。
たとえ、国内では、まだ研究報告がそれほど多くなくとも、
『1950 年代以降、有機リン系農薬の毒性に関する医学論文は5,000 件以上も発表されていて、そのうち最新の約100 件の論文を検証したところ、ほとんどの論文が有機リン農薬に慢性毒性があると報告しており、特に近年では遅発性神経毒性と発達神経毒性があるという論文が多いそうです。
このため、EUでは有機リン農薬は使用不可、アメリカでも再評価が行われ、基本的に、有機リン系農薬の空中散布は米国でも認められなくなったそうです。』
という状態であることを、行政や会社の経営の責任ある立場にあるものがどのように考えるべきかということである。
広い意味での環境問題(薬品や食品も含む)に関する規制等の判断については「予防原則」を第一の方針としなければならない。
ここでは、通常の法理とはことなる「疑わしきは予防的回避」という、医学や公衆衛生ではよく知られたアプローチが必要である。
とりかえしのつかない大きな被害が誰の目にも明らかになってからでは「遅すぎる」のである。
この「有機リン系農薬」の問題に関わる、農業工業会各社、厚生労働省、農林水産省、その他の各関係者の皆さんには、是非、以下の「欧州環境庁」の失敗の教訓を学んでいただきたい。
有機リン農薬の影響-臨床と最新研究 2008/2/1
中国製食品だけではない、日本における有機リン農薬曝露源 2008/4/3
いまのところ、国内では、有機リン系農薬の毒性について力を入れて研究しているところは、まだ少ないようだが、群馬県では、すでに県として「散布自粛要請」を公式にアナウンスしていて、事実上禁止の方向であるようだ。
群馬県「有機リン系農薬の空中散布の自粛要請について」
群馬では、これまでも、県の研究プロジェクトとして、「有機リン系農薬等による化学物質過敏症の病態解明に関する研究」 という研究を行って報告書もまとめられている。
この報告書や、群馬県で長年、農薬と健康被害について研究してきた、青山美子医師のインタビューを読むと、有機リン系の農薬の危険性と慢性毒としてのメカニズムが解明されつつあると思う。
「心を蝕む有機リン農薬」 月刊誌記事から>青山美子先生インタビュー(No.209)
また、少し調べると、以下のような海外の論文の翻訳も紹介されていた。
「子どものからだの中の有機リン系農薬 通常野菜と有機野菜の比較」
このような動きの中で、有機リン系農薬とその空中散布の無人ヘリコプターから利益を得ている側の人々である農薬工業会からは、以下のような、コメントが出されていた。
「有機リン系農薬の群馬県による散布自粛要請に対する当会の見解」 平成18年6月2日
以下一部抜粋:
『新聞報道では、3月の参議院予算委員会において厚生労働省健康局長が、「有機リン剤が情動や精神活動などに対して慢性的な障害を引き起こすおそれを認めた」との記事内容となっています。しかしながら、当該予算委員会の議事録によれば、厚生労働省は慢性の障害を引き起こすおそれがあるとした研究報告の存在を認めたものであり、有機リン化合物による慢性障害のおそれを認めたものではありません。また、当該報告書に対する厚生労働省の見解は現在のところ公表されていません。なお、本件に関するテレビの取材に対して、厚生労働省は「有機リン系殺虫剤について適正に使用するかぎり安全性に問題のない」旨を口頭で回答しています。 』
という見解は、やりとりの事実関係としては正しいものであろう。
しかし、科学と環境行政の関係については、別の視点での見解があろう。
ここで、我々が問題とすべきことは、すでに「慢性の障害を引き起こすおそれがあるとした研究報告の存在」することに他ならない。
たとえ、国内では、まだ研究報告がそれほど多くなくとも、
『1950 年代以降、有機リン系農薬の毒性に関する医学論文は5,000 件以上も発表されていて、そのうち最新の約100 件の論文を検証したところ、ほとんどの論文が有機リン農薬に慢性毒性があると報告しており、特に近年では遅発性神経毒性と発達神経毒性があるという論文が多いそうです。
このため、EUでは有機リン農薬は使用不可、アメリカでも再評価が行われ、基本的に、有機リン系農薬の空中散布は米国でも認められなくなったそうです。』
という状態であることを、行政や会社の経営の責任ある立場にあるものがどのように考えるべきかということである。
広い意味での環境問題(薬品や食品も含む)に関する規制等の判断については「予防原則」を第一の方針としなければならない。
ここでは、通常の法理とはことなる「疑わしきは予防的回避」という、医学や公衆衛生ではよく知られたアプローチが必要である。
とりかえしのつかない大きな被害が誰の目にも明らかになってからでは「遅すぎる」のである。
この「有機リン系農薬」の問題に関わる、農業工業会各社、厚生労働省、農林水産省、その他の各関係者の皆さんには、是非、以下の「欧州環境庁」の失敗の教訓を学んでいただきたい。
レイト・レッスンズ―14の事例から学ぶ予防原則 七つ森書館 このアイテムの詳細を見る |