Dr. Jason's blog

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乳癌と牛乳の関係

2009-01-17 | Medicine
 この数ヶ月,あるきっかけがあって,乳癌について色々調べている.

 すでに,あちこちで,食生活と色々なガンについては多くの情報がでまわっているが,一つ,これまで私が見聞きしたことがあるものとは,とても違う内容を提起している本と出会った.


 結論を先に言えば,「乳癌(男性の場合には前立腺癌)が疑われる人,あるいは,治療中の人,親類に患者がいる人,その他発症リスクが高いと言われている人は,ただちに,牛乳および乳製品の摂取をやめるべきである」と,工学者として科学的な視点でみて,信じるに至る内容である.
 
 本書で,乳癌発生の原因として指摘されているのは,牛乳および乳製品に含まれている,「IGF-1(Insulin-like Growth Factor-1):インスリン様成長因子1」と呼ばれる,細胞成長を促進する物質である.牛乳の中には,乳牛の体内よりも多くの,あるいは人間の母乳よりも非常に多くのIGF-1が含まれている.(非常にやっかいなことに,通常の加熱,醗酵などのプロセスでは,その活性はほとんど失われないために,牛乳以外の乳製品にもそのまま含まれている.)
 IGF-1が乳癌のがん細胞の増殖を促すことは,1990年前後からすでにいくつかの研究ではっきりしていることを初めて知ったが,牛乳中のIGF-1の影響について,あまり大きく取り上げられていないのは非常に不思議である.
 
 動物性のタンパク質や脂肪とガンの相関,あるいは牛乳中のエストロジェンとガンの相関については,これまでも色々と指摘があった.しかし,総体としての乳製品と乳癌発生の関係,あるいは,牛乳中のIFG-1と乳癌と関係について,これほどはっきりと明言した例を知らなかった.
 化学,生物学があまり得意でない読者でも,本書の112ページ,153ぺージに示されたグラフとその前後の説明を読めば,「乳癌のリスクが高い人,乳癌の患者は,牛乳と乳製品の摂取はすぐにやめるべきである」という考察の背景が,非常にはっきりした状況証拠によるものであることが理解できると思う.
 特定の食物と,特定の癌の発生とのあいだで,これほどはっきりとした「正の相関」のある説明を見たのは初めてである.


 筆者のジェイン・プラント(Jane Plant)教授は,1945年生まれ,地球化学の専門家,その研究功績によって1997年に大英帝国勲章(CBE: Commander of the British Empire)を受け,現在,英国インペリアル大学(Imperial College of Science, Technology and Medicine) 教授,2005年より英国王立医学協会(Royal Society of Medicine)終身会員という科学者である.
 プラント博士は,1987年に42歳で最初の乳癌が発見され乳房切除手術をうけ,その後4度の乳癌再発を経験して,放射線や抗がん剤の治療を受けた.つまり,筆者自身が乳癌患者であったのだ.
 その再発と治療のなかで,乳癌の原因について研究,考察した成果をまとめたものが,本書である.
 研究,考察の結果,「乳癌は乳製品の摂取で起こる」という結論に達し,1993年以降「乳製品を一切避ける」食生活を実践して,抗がん剤治療でも効果のなかった鎖骨上リンパ節に転移した乳癌も完治し,以降15年間再発をみていないという.
 

 本書の原書は,2000年に出版され,その後2003年,2007年と改訂され,これまで,15カ国で,翻訳されているにもかかわらず,日本では,今回訳書がでるまで,8年間も翻訳されなかった.日本は科学分野の訳書が出るのは非常に早いので,おそらく,牛乳や乳製品に関わる企業から訳書の出版に関して何らかの圧力があったのではないかと疑わざるを得ない.
 
 訳者は,環境保健学が専門の山梨医科大学(現在は山梨大学と統合して山梨大学医学部)名誉教授の佐藤章夫先生.
 生活習慣病を予防する食生活というWebサイトで,食生活と生活習慣病やガンの関係について活発に情報発信されている.佐藤先生による「訳注」が非常に親切かつ詳細であり,本書の学術的な価値を非常に高いものにしていると思う.(原著をだけでは判らない貴重な情報がこの日本語版にはあちこちに含まれている.)


 ご自身や,家族,近親者に,乳癌(あるいは前立腺癌)の方がいる場合には,必読の書.乳癌の治療に当たっている医師や医療関係者の方にも是非一読をおすすめする.

乳がんと牛乳──がん細胞はなぜ消えたのか
ジェイン・プラント(著),佐藤章夫(訳)
径書房

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原著に興味のある方はこちらをもぞうぞ.
Your Life in Your Hands: Understand, Prevent and Overcome Breast Cancer and Ovarian Cancer

Jane PlantVirgin Books

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8 コメント

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更なる啓蒙を! (伊東彩子)
2013-02-13 13:57:07
初めまして!
医療系大学図書館で主に情報収集・検索を担当しております。
あるきっかけで20代~50代の乳がんの患者さんと関わることになり、数人の患者さんの病院に同行し、PubMed・コクランなどから収集した情報で医療者の治療決定時に立ち合わせて頂いております。患者さんの中には、医療関係者、栄養の専門家もいらっしゃいますが、驚くほど自ら情報を取得することなく医療者と対峙し、また代替医療に関しても知人の話を鵜呑みにし高額・かつ効能が?のものを口にして不安を解消する様子を歯がゆい思いで見守ってきました。ただ情報収集するにもネット情報(特に多くのブログ)も玉石混沌としており、何が信頼できるか見極めずらい状況があるため、「理解しやすい(誰にも)、信頼できる、そして簡潔で読みやすい」この3点を極めた鈴木先生のようなブログが多くの患者さん、患者予備軍の方の目に留るよう心より祈念しております。
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解答ありがとうございました (りくちゃん)
2012-11-30 21:29:50
トリプルネガティブの乳がんです、現在は転移は有りません。血液検査でマーカーが少しですが、高くなってます。PET検査では異常ありませんでした。ただいつも転移が気になっています。乳がんになる前にヨーグルトを500g2日で食べてました。ネットで初めて知り牛乳の入った食品を止めました。ただ、サプリや出しの素など乳糖が使用されてますので気になってました。40-50gと言う事で安心しました。
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専門医のいる病院で検査を (Jason)
2012-09-09 16:24:38
りくちゃんさま、
サプリメントについては、詳細がわからないのでコメントできません。ポイントは、一日あたりの乳製品の摂取量が、どれくらいになっているか?だとおもいます。色々なものの合計が、40-50g ぐらいであれば、乳製品に含まれる諸々の因子の乳がんへの影響は、他に比べて十分に低いと認識できるはずです。とにかく、「乳がんで現在腫瘍マーカーが基準値を超えました」ということだとすると、いずれにしても、乳腺外科の専門医のいる病院で、精密な検査を受けることをおすすめします。また、もし、すでに怪しいしこりがあるのであれば、必ず細胞をとって、病理検査しなければなりません、細い注射針での細胞診よりも、針生検、マンモトーム生検が有効です。お大事に。
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心配です (りくちゃん)
2012-04-04 11:52:54
乳がんで現在腫瘍マーカーが基準値を超えました 乳製品を止めようと思いますが サプリメントに乳糖水和物が入ってますが これもダメでしょうか?教えて下さいませ
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2つの重要な「即答」 (Dr.Jason)
2010-04-27 01:39:34
野母伊志穂さま

コメントありがとうございます.

> この本に反発している人も少なくないようですね。
原著者が,理学博士でも,医師ではないこと,記述が大雑把な部分があることなどが一つの原因かもしれません.

しかし,私は,工業的に牛乳を製造しているメーカーとその周辺の人たちは問題点について気がついていると認識しています.

食品と医薬品を扱うある有名な会社の医薬品の研究部門OBの知人たちに,工業的に生産されている牛乳中からのIGF-1やステロイド骨格のエストロジェン等の成分をフィルタリングするの方法について,コメントをもとめたところ,「工業的に効率的な方法」は知られていないという「即答」がありました.

また,国別の乳製品の消費量と乳がんの発生率との間の関係について「高い相関」があっても,「それだけでは,因果関係があるとは言えない」,より多角的な「前向きのコホート研究」が必要であろう,というコメントも「即答」されました.

私にとっては,この2つの「即答」があっただけでも,「状況証拠」としては,限りなく「黒」です.


トラックバックももちろんどうぞ.

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乳がん 牛乳検索で来ました (野母伊志穂)
2010-04-26 20:08:08
初めまして。『乳がんと牛乳』は日本語版は出ない、と諦めていましたが、佐藤先生が翻訳し、出版しました。
以前から佐藤先生のサイトで読んではいたので、出版と同時に購入しました。
しかしながら、この本に反発している人も少なくないようですね。
まあ、その人の立場などがいろいろでしょうから。
私は乳がんに関するブログを管理しています。
よろしかったらぜひお越し下さいませ。
トラバもさせて下さい。
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状況証拠だけでも十分に危険だと思います. (Dr. Jason)
2009-05-08 03:07:25
本書の訳者である佐藤章夫先生から,関連する研究論文をお送りいただき,さらに周辺の研究につういても勉強しました.
2001年ぐらいまでの時点で,「米国対がん協会」(American Cancer Society)の食事療法のガイドラインには,前立腺がんと肝臓がんに関しては,牛乳と乳製品の悪影響が示されていましたが,乳がんについてはまだなにも記述されていませんでした.
しかし,それは,1999年頃までの研究によるものです.本書の4章の中でも紹介されている,佐藤先生らの牛乳と乳製品とがんとの関連についての疫学的研究の論文は,2000年以降に発表されたものです.
私自身は,佐藤先生らの牛乳と乳製品と,乳がん,前立腺がんの研究の論文を読んでから,外食や加工食品以外は乳製品の摂取は極力さけて,一日あたりの乳製品の摂取量を50g以下(タイでの平均並み)にするように注意しています.ヨーグルトも豆乳由来のものにかえました.
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Unknown (むっち)
2009-03-21 16:25:28
▼o・_・o▼コンニチワン♪
ぼくもこの本読みました。
日本ではあまり読まれてないみたいですね。だからブログで紹介しましたよ。牛乳は悪魔の飲み物かもね。
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