ぶんやさんち

ぶんやさんの記録

『バナナは皮を食う』(暮らしの手帖社)

2008-12-14 20:23:02 | ぶんやんち
わたしたちが結婚したのは、1963年4月で、その頃、わたしは大学2年であった。もっとも、大学2年といっても、満洲からの引き揚げで1年、高校を卒業した年に1年浪人し、その後東京聖書学院で3年間過ごして、さらに聖書学院から関学神学部に入るために1年準備期間を過ごしていたので、歳だけはかなり喰っていたので、27歳にちょっと足らない年齢になっていた。
新婚家庭では、女子栄養大学出版部発行の「栄養と料理」と「暮らしの手帖」がいわば指導書であった。「栄養と料理」からは毎月一品は新しい料理に挑戦すること、新しい何かの家財道具を買うときには、「暮らしの手帖」を参照にすること、というのが一種のルールになっていた。
「暮しの手帖」が創刊されたのは1948年で、当時にファーストクラスの編集者花森安治氏を得て、日本の家庭向け総合生活雑誌としては、かなり質の高い雑誌として群を抜いていた。この雑誌の特徴は一般の広告を一切掲載しないという編集方針で、一般の広告を一切掲載しないということで一貫しているということが気に入っていた。特に、当時次々と開発された家庭電化製品や日用品を中心とした商品テストは、その条件の厳格さで製品のメーカーに大きな影響力を持つということは若いカップルにとって非常に魅力的であった。
当時、「暮らしの手帖は」隔月発行で、わたしたちが、購読しはじめたのは創刊15年目ごろで、それから数年は購読したと思う。わたしたちのその後の家庭生活の上で、この雑誌から受けた影響は決して少なくない。
さて、今年は「暮らし手帖」創刊60周年とのことで、その記念特別作品として、「昭和の『食』ベストエッセイ集」が出版された。本屋で偶然見つけ、旧友に会った思いで衝動買いをしてしまった。1948年創刊以来1957年にかけて、「暮らしの手帖」に掲載されたエッセイ620編の中から、壇ふみさんが選んだ「食」に関する文章43編が収録されている。いずれも、「永久保存」にするべき貴重な作品である。おそらく、取り上げられなかった作品の中にも、これらの遜色のない者も沢山含まれてると思われる。
本書の表題には、「日本植物学の父」と呼ばれた植物分類学者、牧野富太郎氏の「バナナは皮を食う」が選ばれている。さすがに、このエッセイは秀逸である。わたしの個人的趣味としては吉川英治氏の「母の掌の味」で、読んでいて「お袋のおにぎりの味」を思い出す。ちなみに「掌」という字は「たなごころ」と読む。すごくいい字である。
扇谷正造氏の「奥さまにヒゲのないわけ」は、さすがにメイジャーナリスと、名編集者と呼ばれた人の文章で、これほどのエッセイには滅多に出会うことはない。特に、軍隊での食事当番の苦労ということからわたしの父親の経験を重ねて、味わい深い。
木下順二氏の「味覚と人格との関係について」という大論文は、何かすごく思わせぶりで、すごいことをいっているような気もするし、ただ原稿用紙のマスを埋めているだけのような気もする。まさに「人を食った」話である。

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