遊心逍遙記その2

ブログ「遊心逍遙記」から心機一転して、「遊心逍遙記その2」を開設します。主に読後印象記をまとめていきます。

『千里眼 美由紀の正体』 上・下   松岡圭祐   角川文庫

2024-12-28 18:48:30 | 松岡圭祐
 千里眼新シリーズの第7弾! 岬美由紀には出生後の幼少期の記憶がほとんどない。だが、特定のシーンが時折、脳裏にフラッシュバックし思い浮かぶことがある。それは美由紀が特定の要素が重なる窮地の状況に陥った人に遭遇し、その人を助けなければと美由紀が暴走する場合に発生する。それが何を意味するのか、美由紀自身にもわからなかった。
 美由紀が想起するシーンの持つ意味、その幼少期の哀しい事実が遂に明らかになる。美由紀自身が己の過去を探り出し、元凶となった根源に立ち向かう行動に邁進する。そのプロセスがこのストーリーである。読者も知りたい美由紀の過去が明らかになる。

 本書は文庫書下ろし作品で、平成19年(2007)9月に刊行された。

 北茨木市の五浦海岸の断崖絶壁から足を滑らせて転落した畔取直子は救助されたものの記憶をなくしていた。畔取直子と面談した茨城県警の廣瀬警部補は本庁からのファックス情報をもとに、臨床心理士の岬美由紀と連絡を取ろうとする。
 ストーカー被害に遭い、恐怖を感じているという雪村藍のアパートの部屋を訪れ、面談した美由紀は藍に自立訓練法の要領を教える。その時、携帯電話にメールを受信。これが畔取直子に関わり合う契機となる。美由紀は、藍の話の中でストーカーのことに思いが及ぶと、強い嫌悪感を感じ一瞬我を忘れる自分がいたと自己分析する。読了後に振り返ると、雪村藍への美由紀の助言のワンシーンに既にこのストーリーの伏線が敷かれていたことに気づいた。
 
 美由紀は、畔取夫妻の屋敷を訪ね、廣瀬警部補の立ち合いのもとで、夫と名乗る利夫から事情を聴き、直子に簡単なテストを行った。直子が記憶を失っているのは事実だった。直子は誰かから封筒と図面を渡されていたことを思い出す。「私はサインドだよ。ご存じと思いますが」(p29)と美由紀に語っていた利行は、図面が目の前に出て来るなり、それを持って立ち去った。直子に異変が起こる。夫と偽証し、その立場を悪用されたことを美由紀と廣瀬に告発したのだ。美由紀の内心にスイッチが入る。美由紀は利行と名乗った男・防衛省の防衛政策局調査課嵩原利行を追跡し、土浦駐屯地を巻き込む事件に拡大する。
 この小説の一つのスタイルになっているが、冒頭の小活劇がまず読者を惹きつける。

 これは美由紀には義憤に駆られ、歯止めが利かなくなる行動に及ぶ側面があるという事例でもある。それがなぜ起こるのか? その動因の究明がこのストーリーなのだ。
 さらに、警察では処理できない図面の問題。闇に紛れてしまうことを潔しとしない美由紀は、「どうせ警察は圧力で動けないでしょう。手をこまねいて待つくらいなら、一線を越えた方がましよ」(p65)と告げ、真実を追求する道を選択した。

 図面について、美由紀は伊吹直哉に電話連絡を入れる。そして、図面の入手経緯を説明した上で、その図面はそれらしくイラストレーターが仕上げた偽物の基地図面で、色校のコピーだと所見を告げた。伊吹に図面を持ち去った理由を尋ねられ、美由紀は「真実はさっさと暴かないと、被害者の女性がいつまでも苦悩を引きずることになる。理由はそれだけよ」(p80)と答える。これがきっかけで、伊吹は美由紀を心配し、彼女の事実究明に関わっていく。
 一方、臨床心理士の嵯峨敏也は、美由紀が人を救おうとして、突発的に暴力的な行為に及ぶとき、その状況を細分化すると一定の傾向があると分析し始めていた。先輩臨床心理士の舎利弗浩輔に己の所見を話してみる。解離性障害に近い症状がみられ、その原因は幼少のころに虐待を受けたのではないかと推論を進めていく。

 藍がストーカー行為に遭い恐怖を抱くようになった原因が解明され、そこからノウレッジ出版社に行き着く。美由紀はノウレッジ出版社を調べる過程で、偽の図面の究明とさらには、大きな陰謀の実行を阻止するための行動を迫られることになる。
 芋づる式に問題が連鎖的に関連していく。おもしろい構成になっていて、ストーリーが盛り上がっていく。

 人を救うために暴走的行動をとった美由紀は、検察官による公訴を受け、東京地裁で裁判を受ける被告人となる。裁判において嵯峨は弁護人側で美由紀の精神鑑定者の役割を担ていく。
 美由紀に時折起こる相模原団地のイメージのフラッシュバック。嵯峨による精神鑑定の一環として、その風景の謎を確かめる目的で、裁判所を通じて美由紀は許可を取り、相模原団地を見学に行く。通行証の許可は2人分。藍が相棒として会社が終わってから現地で加わる予定だった。ランボルギーニ・ガヤルドで出かけた美由紀は、意外と早く着いたのでとりあえず一人で見学することの許可を得た。
 米軍厚木基地の軍居住地区の一画に、基地施設の一部として相模原団地がある。そこは、米軍基地で働く日本人たちが住むエリアなのだ。
 相模原団地を目にした途端、美由紀は脳裏にフラッシュバックする光景がまぎれもなくこの相模原団地だと認識した。
 ここから第二幕が始まる。

 昭和三十年代の風景そのままの団地の佇まいを眺め、子供たちの様子を見、団地内を見て歩く内に、美由紀には消されていた記憶が徐々に蘇り始める。一方、団地内の見学中にボブと呼ばれる子供が本物の拳銃を持って美由紀の前に現れた。その子の後をつけた美由紀は、おぞましい情景を目にする。それが因となり、美由紀は窮地に落ち行っていく。
 雪村藍が相模原団地に着いた時には、美由紀は団地内の診療所のベッドの上に頭に包帯を巻かれて、横たわりびくりとも動かない状態だった。塚本紀久子という団地の薬剤師が、基地の医師の指示を受けて世話をしているという。美由紀が団地内で衝突事故を起こしたのだと。藍にはそれは到底信じられないことだった。今の事態に疑問を抱く。
 ここから藍の活躍が始まる。美由紀との意思疎通方法に気づいたのだ。さらに、窮地の美由紀が密かに書き残していたメッセージを見つける。そして、密かに伊吹に画像添付のメールを送信した。
 美由紀を事故に見せかけて抹殺しようとする得体の知れない一群の人々の存在。その連中との対決が始まっていく。

 藍の働きと伊吹らの活躍で救助された美由紀は、アメリカ大使館の職員、ジョージ・ドレイクから、相模原団地事件に関連して、舌紋(Tongue Print)をとることを要求される。これにより、美由紀の過去の一端が明瞭に跡付けられる。美由紀に起こる相模原団地の光景のフラッシュバックは、美由紀の過去と重要な関連性があったのだ。

 美由紀の脳に抑圧されていた記憶が徐々にリンクしていく。美由紀にフラッシュバックする他の光景もその意味がつながりを持ち始める。伊吹が美由紀の過去の記憶の一部を提示し、あのダビデも美由紀の前に現れてある事実を伝えることに・・・・。
 記憶の連鎖、記憶のピースがはまっていくと、美由紀は記憶をたどり、第二の客の居場所を究明する行動に乗り出していく。伊吹が協力し、舎利弗先生が情報収集の側面で協力する。
 これが、いわば第三幕といえようか。そプロセスで、現在時点で発生した事件が副次的に解決できるという付録まで織り込まれていく。この横道も面白い。
 大団円で幕を閉じる。
 
 勿論、この流れには最後に、被告人となっている美由紀の裁判の判決が残っている。
 伊吹直哉の結婚式という場面がそれに続く。
 ここで終わっても、このストーリー、なんら不自然ではない。

 だが、「二か月後」という最終章が付いている。これを付け加えてあるのは、新たな美由紀の行動が既に始まっているということを示すのだろう。岬美由紀らしいエンディングといえるかもしれない。次作はすぐに新たな行動のスタートから始まるのだから。

 ご一読ありがとうございます。

こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『千里眼 堕天使のメモリー』    角川文庫
『千里眼の教室』   角川文庫
『千里眼 ミッドタウンタワーの迷宮』    角川文庫
『千里眼の水晶体』   角川文庫
『千里眼 ファントム・クォーター』  角川文庫
『千里眼 The Start』 角川文庫
『千里眼 背徳のシンデレラ 完全版』 上・下  角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅸ 人の死なないミステリ』 角川文庫
『千里眼 ブラッドタイプ 完全版』   角川文庫
『千里眼とニアージュ 完全版』 上・下  角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅷ 太宰治にグッド・バイ』  角川文庫
『探偵の探偵 桐嶋颯太の鍵』    角川文庫
『千里眼 トオランス・オブ・ウォー完全版』上・下   角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅵ 見立て殺人は芥川』   角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅶ レッド・ヘリング』  角川文庫

「遊心逍遙記」に掲載した<松岡圭祐>作品の読後印象記一覧 最終版
                    2022年末現在 53冊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『千里眼 堕天使のメモリー』  松岡圭祐  角川文庫

2024-12-05 23:38:23 | 松岡圭祐
 千里眼新シリーズの第6弾! 文庫書下ろしである。とはいえ、はやかなりの歳月が過ぎた。平成19年、2007年7月の刊行。この新シリーズ、ゆっくりと読み継いでいる。このストーリーのスタイルでの面白さは、時を経た今も変わりはない。

 冒頭は、ハローワークで行う相談に派遣された臨床心理士牧野高雄が来談者の京城麗香と牧野幸太郎の二人に手を焼く場面からスタート。ハローワークを訪れていた京城が突如、株式会社レイカを設立登記して、ハローワークで知りあった幸太郎を社員にするという挙に出る。この二人、主な登場人物になっていく。
 一方で、ランボルギーニ・ガヤルドを運転する岬美由紀は、都内で黒のクライスラー300Cセダンに追跡され、それを振り切るためにとんでもないドライビングを行うという場面で登場する。追ってくる男は、メフィスト・コンサルティングの関係者とわかる。その男は、京城麗香に会わせないという意思を表明した。逆に、それは美由紀に火をつけることになる。のっけからおもしろい場面が進展する。こういうスタイルがこのシリーズの常套手段なのだが。

 ハローワーク通いだった京城麗香が会社を起業して何をしようとするのかに、読者はまず、関心を抱かざるを得ない。やる気が全くなかった幸太郎が麗香に引っ張られてどんな役回りを演じる羽目になるのか・・・・。起業した麗香は、次に車を口八丁手八丁のやり口で入手する。フロント部分がオロチという異形のクーペスタイルのスポーツカーである
 麗香の指示で、幸太郎は渋谷109の正面に仮設された舞台に車を乗り上げさせる。
 これもまた奇想といえる展開。

 会社の事務所に戻ると、会社に関わっているポアがいた。刑事が現れひと悶着。幸太郎はポアから彼女がメフィストに関係する工作員と告げられる。併せて、麗香はメフィストかどうかは不詳だとも。
 そんな矢先に、地震が発生した。この時、美由紀はレインボーブリッジの中央部にいた。勿論、美由紀は橋上での避難行動の対処に巻き込まれていく。これはいわば美由紀の行動を彷彿とさせるエピソードの織り込み。

 麗香はこの地震が人工地震で、メフィストが仕掛け、自分に接触してきたのだと解釈する。幸太郎には意味不明。勿論読者にとっても同じ。興味は高まる。

 美由紀は。雑居ビルの前でオロチを洗車する幸太郎に出くわす。二人が会話をしているところに麗香が現れる。麗香を見た美由紀は麗香のまなざしを見つめて、気づく。麗香は西之原夕子であるということに。
 その場に、ポアが現れて闘うことになり、美由紀はメフィストが絡んでいることを察知する。
 即座に、美由紀は西之原夕子をメフィストの魔手から救うという使命感をいだく。

 つまり、ここまでがいわば準備ステージ。ここからストーリーが本格的に進展する。
 西之原夕子にポアを付けることで、メフィストは何を目的としているのか?
 メフィストが人工地震を起こした意図は何か? それが夕子とどう関係するのか?
 今回、メフィスト・コンサルティングを、特別顧問ジェニファー・レインが指揮していることが、美由紀と夕子には明らかになった。
 美由紀が幸太郎を助けたことを承知の上で、夕子は幸太郎に、横浜みなとみらいの赤レンガ倉庫の駐車場に、オロチを運転してきてくれと電話連絡してくる。背景を何も知らない幸太郎は、徐々に関連情報を知るようになる。彼はどうするか、どうなるのか? 
 美由紀はこの状況にどう対応していくのか?
 ストーリーの後半に突き進んでいく。

 ストーリーにはいくつか枝葉になるエピソード風のサブ・ストーリーが織り込まれいく。それがこのストーリーの特徴にもなtっている。後半でのおもしろいシチュエーションに触れておこう。
 銀座の地下の幻の地下街の先の通路の床にある正方形の深い竪穴を使って、内部の水位が上下する中で、クイズ形式の一種のテストが夕子に課される。そのプロセスの描写スタイルがエピソード風だ。読者をも試しているように思えておもしろい。この竪穴に美由紀が巻き込まれていく。
 
 最後に、一項目触れておこう。このストーリー、自己愛性人格障害というのを中核のテーマに据えている。臨床心理士岬美由紀が扱うのにピッタリというところか。
 著者は、美由紀が夕子に対し、次のように語らせている。
「聞いて。治療するんじゃなく、その人格を自分のものとして理解し、長所も短所も受け入れることよ。もし怒りに我を忘れることがあったとき、その時点で自己愛性人格障害だからと自分をなだめることはできない。でも、自分に異常が起きそうな状況をあらかじめ察知して、避けることはできる。そうしているうちに、冷静さのなかから自分を再発見していくことが可能になるの。わかった? だから症状をありのままに受け入れて」と。(p240)


 ご一読ありがとうございます。


補遺
自己愛性パーソナリティ障害   :「MSDマニュアル 家庭版」
自己愛性パーソナリティ症(NPD) :「MSDマニュアル プロフェッショナル版」 
自己愛性パーソナリティ障害とは  :「大阪メンタルクリニック 梅田院」

ネットに情報を掲載された皆様に感謝!

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)

こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『千里眼の教室』   角川文庫
『千里眼 ミッドタウンタワーの迷宮』    角川文庫
『千里眼の水晶体』   角川文庫
『千里眼 ファントム・クォーター』  角川文庫
『千里眼 The Start』 角川文庫
『千里眼 背徳のシンデレラ 完全版』 上・下  角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅸ 人の死なないミステリ』 角川文庫
『千里眼 ブラッドタイプ 完全版』   角川文庫
『千里眼とニアージュ 完全版』 上・下  角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅷ 太宰治にグッド・バイ』  角川文庫
『探偵の探偵 桐嶋颯太の鍵』    角川文庫
『千里眼 トオランス・オブ・ウォー完全版』上・下   角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅵ 見立て殺人は芥川』   角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅶ レッド・ヘリング』  角川文庫

「遊心逍遙記」に掲載した<松岡圭祐>作品の読後印象記一覧 最終版
                    2022年末現在 53冊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『千里眼の教室』  松岡圭祐  角川文庫

2024-08-03 14:26:40 | 松岡圭祐
 千里眼新シリーズの第5弾。新シリーズを読み継いでいる。新シリーズと言っても、この第5弾は平成19年(2007)5月に文庫の初版が発行された。
 
 岐阜県立氏神工業高校は過疎化した地域の公立高校が合併し、普通科、工業科、農業科が混在する奇妙な学校で、学習指導要領で必須とされる世界史の未履修問題が是正されないままの学校である。落ちこぼれの生徒が集まる学校でもあった。この氏神工業高校の生徒たちが、学校長はじめ教師達全員が学校の敷地から出払ってしまったタイミングをとらえて、学校に籠城し、生徒の自治による独立国家、氏神高校国の建国を宣言した。日本国という領土内に、突然に独立国が宣言された。このストーリーは、この氏神高校国の建国から終焉までの顛末譚である。
 自衛隊の戦闘機が一機、雷鳴のような轟音を響かせながらかなりの低空飛行で飛び去って行った直後に学校の体育館の方向で青い光が瞬くという現象が生じた。それからしばらくの時間が過ぎて、校舎の屋外スピーカーが、氏神高校国建国宣言を告げた。これが事件の始まりだった。

 このストーリー、冒頭は、岬美由紀が津島循環器脳神経科病院の五十嵐哲治院長を見つけ、出頭を勧める場面から始まる。五十嵐には、台湾製の時限式爆発物を海外のブローカーから購入した容疑がかけられていた。五十嵐は酸素欠乏症が脳細胞のいくつかを破壊し人が暴力的になり、いじめの原因となるという持論を主張していた。その主張を実証するために、時限爆弾をどこかに仕掛けた。五十嵐は説得する美由紀の前から逃亡する。この逃亡と美由紀の追跡場面がまず奇想天外な活劇風であり、映画のイントロにしたら観客を惹きつける市街破壊場面になることだろう。だが、イントロ場面にそれほど金をかけられないか・・・・・。まずフィクションのおもしろさがぶつけられている。

 このストーリー、氏神高校国建国後の内部状況をまず描きあげていく。旧生徒会役員が氏神高校国行政庁となり、生徒自身による民主的な自治を国家として独立運営すると決定し、実行するという。独立運営するといっても、どのようにして・・・という疑問から、読者は興味津々とならざるを得ない。
 学校敷地内に集団籠城するとして、ライフラインをどうするのか。食料をどのように確保するのかなど、次々に疑問が出てくる。一方で、これは単なる一時的憂さ晴らしの茶番劇の一幕か・・・そんな疑念も芽生える。
 いやいや、なかなか筋立てに理屈が通り、整合性が築かれていくのだから、おもしろさが増す。
 建国と宣言されれば、マスコミレベルの好奇心だけでは済まされず、日本政府も対応を迫られるという側面が当然生まれてくる。学校に籠城する高校生の集団を相手に、国家権力を行使するところまで行くのかどうか・・・・。
 
 ここには、氏神高校国という建国による国家という組織構築のシミュレーションがある。想定外の状況に投げ込まれた高校生達の心理変化、集団社会への適応などが描き込まれていく。
 ストーリーの進展に沿う氏神高校国描写関連の章見出しを一部ご紹介しておこう。
 「貴族・平民・奴隷」「処刑の真実」「統治官・補佐・平民」「貨幣経済とは」「数値と漫画」「独立国と女たち」・・・・と進展する。運営機構の確立、秩序の確立、運営資金源の確保、食料入手ルートの確保、方針と行動目標の設定と、独立国のメカニズムが動き出すのだから、なかなかに興味深いストーリー展開となる。
 最もおもしろいのは、「習研ゼミのセンター試験向け大学模試を、全国民にて行うものとする」という目標設定がなされ、それが進展していくことである。

 岬美由紀がどう関与するのか?
 五十嵐哲治を追跡した美由紀は、五十嵐が爆弾を仕掛けたのは氏神工業高校と推測した。そして、岐阜に所在の高校に向かうのだが、爆弾は作動してしまった。学校は氏神高校国として建国宣言された。学校を取り巻く待機所で数日を状況監視に費やした後、美由紀は、日本国代表使節団に加わり、学校内に入る。そして、使節団の中でただ一人、氏神高校国に残留する。美由紀の目的は、五十嵐が仕掛けた爆弾の爆発の証拠確保とその結果の事実確認であった。それは氏神高校国の実態把握とも関連していた。そして、美由紀は事実を解明する。

 フィクションならではの要素がいくつか組み込まれているものの、ストーリーの流れには整合性があり、現代社会の問題に対する風刺性、特に学校教育についての問題点への切り込みが加えられている。一方エンターテインメント性も十分に織り込まれていておもしろい。

 本作の各所に書き込まれたメッセージのいくつかを引用して終わりたい。
*突然の変化が訪れ、従うべきものが変わっても、どうすることもできない。集団がそちらに向かえば、ひとりだけ流れに逆らって生きることはできない。きづけば、驚くほど柔軟な自分がいた。   p86
*修学旅行も、学徒が兵役に出るときの団体行動の予行のためにおこなわれたのが始まりだ。出陣という目的があったころは、まだ集団も統率がとれていた。しかし目的を失い、形式だけが残って、団体教育は行き詰まった。   p114
*アメリカの心理学者ゴールドスタインとローゼンフェルトによれば、心になんらかの弱みを持った人は、同じ境遇の人たちとの仲間に加わることで安心を得ることができるらしい。生徒たちを支えているものが同胞意識だとすると、そこまで生徒たちを追い込んだmんがなんなのか、はっきりさせる必要がある。  p159
*子供たちが自活できることを主張する。それはすなわち、親への対抗意識にほかならない。   p172
*誰もが生きて、よりよい生活を営むための競争に参加している。同一の目的を与えられた集団が、こんなにまとまるものとは思わなかった。共存と繁栄は、いつの世でも平和をもたらすものだ。  p198

 ストーリーの底流になっているキーワードは「酸素」である。この酸素がどのように作用するのか。例によって、最後はどんでん返しが仕組まれている。そこがおもしろいところ!!

 そして、次の箇所に、著者の問いかけが重ねられているように受け止めた。
 ”正しいのは生徒たちだ。十代の子供たちが、社会の大いなる矛盾に疑問を突きつけている。われわれは、真摯に耳を傾けるべきではないか。
 それに、氏神高校国は本当に平和や平等を乱しているのだろうか。
 平和、平等。われわれの社会に、そんなものはあるのだろうか。たしかにかつては存在していた。だが、いまはどうなのだろう。
 それらが存在するのは、むしろ氏神高校国のなかではないのか。”    p268

 本書のタイトルに「教室」が使われている。それは美由紀が氏神高校国に残留し、内部からこの氏神高校国を観察し、彼らの信頼を獲得するに至ること。独立国家の終焉において、美由紀が一働きすることになることに由来するのだろうと思う。

 ご一読ありがとうございます。

こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『千里眼 ミッドタウンタワーの迷宮』    角川文庫
『千里眼の水晶体』   角川文庫
『千里眼 ファントム・クォーター』  角川文庫
『千里眼 The Start』 角川文庫
『千里眼 背徳のシンデレラ 完全版』 上・下  角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅸ 人の死なないミステリ』 角川文庫
『千里眼 ブラッドタイプ 完全版』   角川文庫
『千里眼とニアージュ 完全版』 上・下  角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅷ 太宰治にグッド・バイ』  角川文庫
『探偵の探偵 桐嶋颯太の鍵』    角川文庫
『千里眼 トオランス・オブ・ウォー完全版』上・下   角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅵ 見立て殺人は芥川』   角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅶ レッド・ヘリング』  角川文庫

「遊心逍遙記」に掲載した<松岡圭祐>作品の読後印象記一覧 最終版
                    2022年末現在 53冊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『千里眼 ミッドタウンタワーの迷宮』  松岡圭祐  角川文庫

2024-06-22 12:12:50 | 松岡圭祐
 遅ればせながら千里眼新シリーズを読み継いでいる。本作は新シリーズの第4弾書き下ろし。平成19年(2007)3月に文庫版が刊行された。
 2007年1月にこの新シリーズの最初の3作が同時刊行されて、その後奇数月にこのシリーズが順次作品化されると公表されていたようだ。

 岬美由紀の友達である高遠由愛香が、東京ミッドタウンタワーの地上150mにあるオフィスフロアから巨大望遠鏡で2人の中国人に監視されている場面から始まる。この監視活動が、このストーリーに敷かれた伏線となる。
 場面は一転する。美由紀は雪村藍を伴って、百里基地で行われる航空祭に出かける。藍のリクエストでもあったが、美由紀は航空祭での講演依頼を受けていた。基地内で美由紀は偶然にも元上官の坂村久蔵元三等空佐を見かけて話しかけた。美由紀は坂村との会話中に、彼の表情に嫌悪や警戒心を働いた兆候を読み取った。会話はわずかの間だったが、坂村は知られたくない隠し事を抱いているように美由紀は感じた。坂村との出会い、ここにも伏線が敷かれていく。

 青空ではブルーインパルスのアクロバット飛行が行われ、航空祭の会場となった基地内には、無数の自衛隊機の展示とともに、ミグ25フォックスパットがデモンストレーション飛行のために待機していた。そこに、突然に警報ととも緊急事態発生の報せが伝わる。勿論、美由紀は条件反射的に指定場所に駆けつける。そこで見たのは段ボールの小箱に横たわる物体。外観は「パキスタン製小型戦略核爆弾、ヒジュラX5」。液晶タイマーが作動していて、7分後に爆発と分かる。容器は溶接されていて壊せない。本物かどうか、悠長な論議をしている暇はない。即決行動が要求されるのだ。この小型戦略核爆弾にどう対応するか? 集まった幹部自衛官らが戸惑う中で、美由紀が決然と行動に出る。その後を伊吹が追いかける。これがこのストーリーの最初の山場となる。のっけから読者をぎゅっと惹きつける展開。007シリーズで、最初に1つの見せ場が急速に進展して観客を惹きつけるアプローチに似ている。まずは読者があっけに取られる対処を美由紀が決断し実行するというダイナミックなプロセスが描き出されていく。
 その間に、地上では思わぬことが発生していた。フランス空軍がつい最近開発した通称カウアディス攻撃ヘリのプロトタイプが一機、航空祭で展示されていたのだが、それが核爆弾騒ぎの中で消えていた。坂村元三等空佐がその攻撃ヘリに乗り込み、発進させたという複数の証言があると菅谷三佐が語った。なぜ、彼が? これもまた布石となる。

 さて、メイン・ストーリーは? 東京ミッドタウンのガーデンテラス内に、由愛香が都内15番目の店、フランス料理の専門店「マルジョレーヌ」を開店する直前からストーリーが始まる。この店の開店準備と並行して、由愛香は賭博行為に手を染めていた。由愛香は元麻布に所在する中国大使館内で開かれるカジノに招待され、そこで賭博をしていた。その結果、破滅の瀬戸際まで来ていたのだ。
 ある日、美由紀は白金にある由愛香の店を訪れて、その店が閉店となっていることを知る。心配し、由愛香に会って事情を尋ねた美由紀は、由愛香が賭博行為に嵌まり、破産の瀬戸際に居ることを知る。
 美由紀は由愛香に同行し、このカジノでの賭博のカラクリを暴き、由愛香を破産から救出しようと決断する。そのために美由紀はそのカジノでの賭博資金として、己の預金を全額資金として持参する挙に出る。
 メイン・ストーリーのテーマは、友人由愛香を賭博癖と破産の苦境から立ち直らせることである。そこに構想の一ひねりが加わって行くところが楽しみどころなのだ。

 美由紀が由愛香に同行し、大使館内のカジノに行くには、前段のサブ・ストーリーがあった。
 東京ミッドタウン・メディカルセンターで、同僚の臨床心理士徳永良彦が担当しているクライアント又吉光春のカウンセリングに美由紀が関わることになる。それに起因する。徳永に又吉のカウンセリングを依頼しているのは、国税局査察部の小平隆だった。又吉の携わる仕事と彼の金の使い方、日常行動との間に大きなギャップがあり、その収入源について、マルサが疑問を抱いていたのだ。美由紀は又吉と対話し、彼の話を聞く中で又吉が嘘を語っていないと判断する。しかし、その話の内容自体は実に奇妙なのだ。そこで美由紀は独自の調査行動をとる。又吉に案内されて東京ミッドタウンタワーの31階オフィスフロアーを見てみる。そこであることに気づく。美由紀は警視庁捜査一課の岩国警部補とコンタクトをとる。その結果、1つの解釈に確信を持つ。それが由愛香の陥っている問題事象にリンクしていく。この謎解きが読者にとっては楽しみとなる。

 このストーリーのおもしろいところは、由愛香を賭博依存と破産の泥沼から救い出すつもりが、思わぬ裏切りから、状況が悪化し、美由紀が、大切な人の命と国家機密を賭けたカードゲームを行わねばならない苦境に突き進んでいくという進展にある。そこにはある罠が仕掛けられていた・・・・・。
 
 中国大使館内で、美由紀がリベンジのカードゲームを行うことと、美由紀の最後の闘いの場が、東京ミッドタウンタワーになることだけに触れておこう。

 最後に、本作の舞台になる東京ミッドタウンについて付記しておきたい。
 六本木交差点に程近く、かつては防衛庁の庁舎が存在していた場所。そこに緑豊かな複合施設が建設された。ミッドタウンタワーは高さ248m、地上54階、地下5階で、直線が主体の直方体の建物。東京ミッドタウンは、タワーを中心として複数のビルで構成されているという設定となっている。高級志向のエリアである。 p68~69
 
 さあ、この新シリーズ第4作をお楽しみいただきたい。
 
 ご一読ありがとうございます。


こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『千里眼の水晶体』   角川文庫
『千里眼 ファントム・クォーター』  角川文庫
『千里眼 The Start』 角川文庫
『千里眼 背徳のシンデレラ 完全版』 上・下  角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅸ 人の死なないミステリ』 角川文庫
『千里眼 ブラッドタイプ 完全版』   角川文庫
『千里眼とニアージュ 完全版』 上・下  角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅷ 太宰治にグッド・バイ』  角川文庫
『探偵の探偵 桐嶋颯太の鍵』    角川文庫
『千里眼 トオランス・オブ・ウォー完全版』上・下   角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅵ 見立て殺人は芥川』   角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅶ レッド・ヘリング』  角川文庫

「遊心逍遙記」に掲載した<松岡圭祐>作品の読後印象記一覧 最終版
                    2022年末現在 53冊

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『千里眼の水晶体』  松岡圭祐  角川文庫

2024-05-25 21:21:38 | 松岡圭祐
 千里眼新シリーズが始まった時、この第3弾までの3冊が一挙に刊行された。つまり、本書もまた平成19年(2007)1月の刊行である。

 今年、78歳になるジェフリー・E・マクガイアが回想する。それは終戦直後の1945年8月20日に、日本国内の夏場でも涼しげな気候の山村で行った軍事行動の記憶。日本軍が開発した生物兵器”冠摩”を秘匿する建物と兵器を確保せよという命令だった。冠摩は日本軍がインドネシアの蚊から抽出したウィルスを培養させたもので、このウィルスは亜熱帯性の気候と気温のなかでなければ生きられないという。
 実際の軍事行動は、呆れるほど小さな木造の小屋から、ミルクのビンくらいのサイズ、コルクの蓋で液体が入っていったビンを確保するだけで終わった。小屋の番人だった一人の日本兵は、ライフル銃と拳銃を乱射した後、日本刀で自決した。何とも不可解な記憶なのだ。この回想がいわばプロローグ。読者にはこれがどのように繋がるネタなのか予想もつかない。

 ストーリーは、国土交通省航空局の職員で羽田空港事務所に勤務する米本亮が、臨床心理士会事務局を訪れるところから始まる。着陸した飛行機から外に出たがらない乗客に対応するために臨床心理士に臨場を要請する依頼だった。応対した舎利弗浩輔は岬美由紀を推薦した。同僚と喫茶店に居て、山形県での大規模な山火事のニュース映像を見ていた岬美由紀は舎利弗から電話連絡を受け、羽田空港に急行する。
 美由紀は篠山里佳子という極端な不潔恐怖症の女性に対処し、飛行機から空港近くのホテルへの移動を納得させる。だが、部屋に入るなり、バスルームに駆け込み、シャワーを使いつづけるという状況。夫の篠山正平は、山形を本社とする古美術品買い取り業の会社の課長で、東京支社設立により転勤となり、妻と一緒に、東京で住む場所を探しに来たという。
 その状況の中に、山形県警の葦藻祐樹警部補が現れる。その葦藻の風姿は里佳子からすれば真っ先に不潔なイメージを誘発させるものだった。ここらあたり、読者を楽しませる設定になっている。葦藻は山形県の山火事は放火であり、実行犯と見られる容疑者は既に身柄を拘束されていて、その犯行に篠山里佳子の関わりがあるとみられている言う。
 篠山夫妻を観察している美由紀には、彼らが嘘をついていないと分かっている。葦藻は篠山里佳子を現地に同行し、任意で事情を聞きたいと主張する。美由紀は現状で里佳子を現地に同行することは土台無理な話と判断し、里佳子の話を聞いておき、美由紀が現地に代行として行こうと主張する。それが契機となり、美由紀は山形県の山火事事件の捜査に巻き込まれて行く。
 葦藻は目撃証言と入手証拠をもとに、里佳子の関与を裏付けようと試みていくが、美由紀が次々に反論を繰り出していく。さらに、放火の容疑者に美由紀は会わせてもらうことで、容疑者の竹原塗士の自白が嘘であると見抜く。このストーリーで、まずこの反論プロセスが読ませどころとなる。おもしろい。

 美由紀が山形県に居る間に、東京では緊急事態が発生していた。美由紀と篠山正平は、警視庁のヘリで来た米本に言われ、急遽東京に引き返す。千代田区立赤十字医療センターに直行する。美由紀たちは血液検査の後、予防接種をした上で、化学防護服を着こむという手順を踏まされる。篠山里佳子は顔中に赤い斑点を発症させていた。息はあるが、意識はほとんど不明という状態に陥っていたのだ。
 何と、その総合病院に、美由紀の友人雪村藍が緊急搬送されてきた。由愛香が付き添って来ていた。雪村藍の症状は里佳子の症状とうりふたつだった。

 千代田区立赤十字医療センターの20階の大会議室で防衛省の関係者と美由紀は会うことになる。そこで、防衛大学の授業でも触れられていた冠摩というウィルス兵器について極秘事項として聞かされた。現在の緊急事態がその冠摩を原因とする感染だという。
 不潔恐怖症の悩みをもつ人々が真っ先に感染する状況が急激に進行していた。
 山形県内でも同種の症状が続出しているという。葦藻が美由紀にその後の竹原の自供内容を連絡してきた。その時にこの症状に触れた。さらに竹原は西之原夕子という女のことを自供したという。その女がこの症状のことを口にしていたことも。

 これは生物兵器”冠摩”の成り立ちや効果を知る者の計画的犯行なのか。そうだとすれば犯人は? 冠摩の開発段階で症状を中和するワクチンの研究はなされていたのか? 
 葦藻が伝えてきた情報をきっかけに、美由紀の行動が始まっていく。
 そして、すべての事象が連関して行く事に・・・・。意外な事実が根源にあった。
 本作の読ませどころは、一筋の糸口が確かな解明への道筋に転換していくプロセスにある。次々に意外な連関が明らかになっていく。
 美由紀が戦闘機を自ら操縦し、手がかりを求めてハワイ・オハフ島に飛ぶことに!!
 冠摩を原因とする感染を阻止する治療法を解明するためのプロセスが読ませどころである。読者を一気読みへと突き進ませる。

 このストーリーの興味深い点は、美由紀が直面させられる
「本心を見抜けなかったわけではない。見抜いていたから真実に気づけなかったのだ」(p183)
という思いにある。

 この美由紀の思いの直前に、美由紀に投げつけられた揶揄がある。
「・・・・なんにも気づいていなかったの? ・・・・千里眼が本心を見抜けないなんて、どうなってんの? いっぺん眼科に診てもらえば? 角膜に異常がなければ、水晶体がおかしくなってるのかもよ」(p183)
タイトル「千里眼の水晶体」はこの揶揄に由来すると言える。

 読了後に振り返り、読者の思考を右往左往させるプロットの組み立て方が実に巧妙だと感じた次第。楽しめる作品である。

 ご一読ありがとうございます。

こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『千里眼 ファントム・クォーター』  角川文庫
『千里眼 The Start』 角川文庫
『千里眼 背徳のシンデレラ 完全版』 上・下  角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅸ 人の死なないミステリ』 角川文庫
『千里眼 ブラッドタイプ 完全版』   角川文庫
『千里眼とニアージュ 完全版』 上・下  角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅷ 太宰治にグッド・バイ』  角川文庫
『探偵の探偵 桐嶋颯太の鍵』    角川文庫
『千里眼 トオランス・オブ・ウォー完全版』上・下   角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅵ 見立て殺人は芥川』   角川文庫
『ecriture 新人作家・杉浦李奈の推論 Ⅶ レッド・ヘリング』  角川文庫

「遊心逍遙記」に掲載した<松岡圭祐>作品の読後印象記一覧 最終版
                    2022年末現在 53冊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする