遊心逍遙記その2

ブログ「遊心逍遙記」から心機一転して、「遊心逍遙記その2」を開設します。主に読後印象記をまとめていきます。

『遺恨 鬼役四』  坂岡 真   光文社文庫

2024-12-21 15:46:39 | 諸作家作品
 鬼役第4弾! 2006年に文庫で刊行されていたものに、大幅加筆修正し改題されて、2012年7月に文庫本が刊行された。
 本所には、短編連作として、「月盗人」「懸崖の老松」「暗闇天女」「末期の酒」の4編が収録されている。

 御小姓組番頭橘右近から、蔵人介の裏の役目を指示される状況が発生するが、本書でも蔵人介は橘右近との信頼関係になんとか距離を保ち、組み込まれてしまうことを回避できている。橘右近に呼びつけられれば、面前に出向かねばならないのだが、暗殺役については、その遂行について微妙なバランスを維持しているところがこの
シリーズの方向性として興味をそそる。

 文庫 新装版表紙

 さて、収録の短編それぞれについて、読後印象を織り交ぜながら、簡略にご紹介したい。

< 月盗人(ツキヌスット)>
 目安箱が盗まれた。橘右近に呼び出された矢背蔵人介はそのことを聞く。右近は己の失脚を狙った者の仕業だと激高する。蔵人介は橘の配下ではないと抗弁するも、「不逞の輩を見つけだし、斬罪するのじゃ」と告げられる。探索は公人朝夕人(くにんちょうじゃくにん)である例の男がする。悪者を見過ごすような男ではないと見込んで期待していると述べるにとどめるという老練さ。目安箱を盗むという行為に、蔵人介の好奇心、厄介な虫が疼きだす。公人朝夕人の土田伝右衛門が蔵人介に不埒者は強敵だと言い、路銀を用意してきていた。盗難の前日にあった直訴には、塩竃にある神社の神官の直訴が含まれていて、仙台藩の黒脛巾組の残党が絡んでいるらしく、既に御庭番が斬られているとも言う。
 伊達家仙台藩の内奥に巣くう闇の勢力に蔵人介は串部六郎太とともに挑んでいく羽目になる。
 このストーリー、蔵人介の家庭内で、息子の鐵太郎の教育について嫁と姑間での意見の相違問題がパラレルに進展していくところがおもしろい。
 斬られた御庭番には妹がいた。妹も隠密とはいえ、兄の遺恨を内奥に潜めながらの働きをする。タイトルの「月」が重要な意味をもっていた。


< 懸崖の老松 >
元鬼役で役を退いて十年になる磯貝新兵衛が矢背家を訪ねてくる。七年前に息子が城中で起こした事件の真相を知り、敵討ちの助力を蔵人介の義母志乃に頼ってきたのである。志乃は長刀の達人だ。
 一方、西ノ丸恒例の鷹狩りが駒場野にて行われる際の弓競べに蔵人介の妻幸恵が出ることになる。幸恵は弓では小笠原流の免許皆伝なのだ。この弓競べで二年連続で頂点に立った名人が今回も出る。西の丸書院番二番組組頭、塚越弥十郎である。幸恵が出るのには裏があった。
 塚越弥十郎は、磯貝の話では息子の死の元凶となる相手だった。
 弓競べの当日、蔵人介は駒場野にて鬼役の務めをすることになる。蔵人介は碩翁を介してこの弓競べに巻き込まれていく。
 このストーリーのおもしろい点は、志乃と橘が旧知の仲だったということである。
 磯貝の頼みが志乃を動かし、その結果、巡り巡って蔵人介が最後に関わっていく羽目になる。
 このストーリー、息子の死に関わる磯貝新兵衛の遺恨が根源にある。


< 暗闇天女 >
勘定方亀山喜平の死体が発見された。義弟の綾辻市之進は亀山の行状を調べていた。亀山は近江税所藩を強請っていたようだ。市之進は心中に見せかけた殺しだと言う。死んだ女は亀山とは無関係。亀山は辰巳芸者に金を注ぎ込んでいた。亀山の探索をしている間に、市之進はその辰巳芸者初吉、本名お初に岡惚れしてしまったと言う。
 蔵人介はお初に会ってみようと、お茶屋『万作』に出向く。万作で、蔵人介は同朋衆の道阿弥に出くわし、税所藩留守居役の接待だと聞き出す。万作の亭主は蔵人介に、これ以上深入りすれば命を縮めるもとになりますぞと告げられる。それが逆に蔵人介の心に火をつけた。是が非でもこの一件を暴くと。
 心中の形で殺された女は蝋燭問屋『日野屋』の娘お幸。なぜお幸が巻き込まれたのか。その真因も明らかになっていく。
 お初は蔵人介に言った。自分と付き合った男は皆金がたまらない。私は貧乏神の生まれ変わり。貧乏神を暗闇天女とのいうのだと。タイトルはここに由来する。
 この短編は、日野屋庄左衛門と辰巳芸者お初のそれぞれの遺恨が根底にある。
 義弟に協力する形ではあるが、主体的に蔵人介の正義が発露される顛末譚の好編だ。
 

< 末期の酒 >
 魚問屋『駿河屋』主人の接待を受けた帰路、蔵人介と串部六郎太は、月代頭の侍が刺客に遭う現場に出くわした。刺客に対峙し蔵人介が来国次を抜き放つことになる。刺客は阿田福面をつけていた。串部はその男が富田流の小太刀を使う手練と見抜く。尋常の勝負では負けていたと蔵人介が思ったほどの手練だった。
 殺された男は「七つ屋に諮られた」と言い残す。蔵人介はその顔を見て、御台所組頭の佐川又三郎だと気づいた。これが始まりとなる。
 義母の志乃は佐川の末期の言葉から、御家人株の売買と御家人株の流しを推測する。
 蔵人介は息子鐵太郎と共に溜池の馬場に行く。城勤めを辞めた潮田藤左衛門が凧揚げをしていた。そこで鐵太郎は凧揚げのコツを潮田から教えてもらうことに。蔵人介は城で、潮田と過去に多少の縁があった。二人の会話から賄吟味役だった潮田が城務めを辞めた経緯が明らかになっていく。
 蔵人介は、佐川の死の原因を究明するために、自ら七つ屋こと門前屋重五郎の所に金を借りたいと仕掛けていく。
 佐川の遺恨と阿多福面の男の腕が蔵人介が己の意志で動く原因となっている。この短編もまた、蔵人介の裏の顔とはリンクしてない。ただの人斬りに対する怒りである。

 本書は、短編連作の根底で、「遺恨」が共通項になっている。それが本書のタイトルには反映していると言える。

 ご一読ありがとうございます。

こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『乱心 鬼役参』   光文社文庫
『刺客 鬼役弐』    光文社文庫
『鬼役 壱』      光文社文庫
『太閤暗殺 秀吉と本因坊』   幻冬舎
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『乱心 鬼役参』  坂岡 真   光文社文庫

2024-12-03 12:33:13 | 諸作家作品
 鬼役シリーズの第3弾! 他社文庫刊から改題の上、2012年6月に文庫本刊行。(奥書は前作同様の経緯を経たシリーズなので、以降煩雑さを避けて略記する)

 新装版文庫の表紙

 今回は短編連作風時代小説と言うべきか。本書には「鬼役受難」「蘭陵乱舞」「不空羂索」「乾闥婆城」の4編が収録されている。

 このシリーズの主人公は矢背蔵人介であり、表の顔は毒味役。裏の顔はグレーゾーン状態にある。蔵人介には用人として串部六郎太が付き従い、強力な協力者となる。
 今回は、主な登場人物として、しばしば登場する矢背蔵人介の家族・親族について、ここに記しておこう。
 矢背志乃 蔵人介の義母。蔵人介は矢背家の養子となった。志乃は長刀の達人。
      前作で当事者として関りを深めたが、茶道においても師匠格の技量を持つ。
 矢背幸恵 蔵人介の妻。徒歩目付の綾辻家から嫁いできて、鐵太郎という一子を産む。
      弓の達人でもある。

 綾辻市之進 幸恵の弟。不正を嫌悪するごく真面目な徒歩目付として任務に精励する。
      三十路になっているが独り者。蔵人介の所によく出向いてきて情報提供者
      の役割を果たすとともに、蔵人介の活動に協力することしばしばである。
      剣の腕はそこそこレベルにとどまるが、柔術と捕縛術には長けている。

 もう一人、第2作から表に登場してきた人物に触れておこう。
 橘 右近 御小姓組盤頭。蔵人介の裏の役目が暗殺役であると知っている人物。
      若年寄の長久保加賀守、蔵人介の裏の役目だった指令役の立場になる意図
      を見せ始めている。
 つまり、第2作以降、橘右近と蔵人介との関係がどうなるかは、読者にとっても重要な関心事とならざるを得ない。それだけ、ストーリー展開がおもしろくなると言える。

 各編ごとに、読後印象を含めて、少しご紹介していこう。
 第2作で天保2年の蔵人介の活躍が描かれた。本書は、天保3年の事件譚である。

< 鬼役受難 >
 このタイトルにまず惹きつけられる。これは天保3年卯月のストーリー。
 田宮流抜刀術の達人ということはわかっているから、第3作に入って受難って何? 
 ストーリーの冒頭で、公人朝夕人(クニンチョウジャクニン)の土田伝右衛門から、明後日の灌仏会の夕餉において二の膳の鱚(キス)の塩焼きには毒が盛られるという噂があると密かに伝えられる場面から始まる。本来の役目で危地に立つ?! のっけから興味津々に・・・。
 蔵人介が警告を承知の上で毒味をする。毒と知りつつ毒を喰らい、己の体で実証し、役目を全うする。このストーリーはそこからが本当の始まりなのだ。
 だれが毒をもった犯人なのか? 
 九死に一生を得た蔵人介は串部に言う。「毒を盛られて平気でいられるはずがあるまい。相手がどのような難敵でも、かならずや仕留めてみせる」(p41)と。
 勿論、橘右近は蔵人介を呼びつけ面談する。読ませどころとなる山場をいくつも盛り込んでいて、読者を惹きつけること間違いなし。毒味に到る過程。家斉謁見の場面。犯人追求プロセスでは大奥の政争に止まらず禁裏にまで裏事情の蠢きが及んでいく。
 スケールの広がりと一種のどんでん返しを楽しめる。一方、私は完結する短編という印象を持てなかった。この編で蔵人介が黒幕を仕留めるまでに至らないから。

< 蘭陵乱舞 >
 冒頭文は「茫種(ボウシュ)」という語句から始まる。稲を植える時分のころをいう。
 茶壷道中の前を横切った過度で妊婦が斬殺されることから始まる。江戸城内で茶を点てる役目の数寄屋衆の横柄な振る舞いで、常陸下妻藩主の井上正健が困惑している場に出くわした蔵人介が手助けをした。それが因となり、蔵人介は碩翁に譴責部屋に呼び出される。腹を切りたくなければ、採茶師の横内恵俊を斬れと言われる。この悪辣坊主を斬ろうとしたことが因となり、禁裏と南都奈良のたくらみの渦中に、蔵人介は投げ込まれて行く。土田伝右衛門は、奈良の当尾にある岩船寺の笑い仏が絡んでいると、蔵人介に教えた。彼らの狙いは、将軍家斉の御首級を取ることだという。
 小大名を助けたことが思わぬ方向へ蔵人介を引き込んでいく。一方、宇治の茶師、神林香四郎が義母の志乃のところに来訪してきていた。
 なかなか巧妙なストーリー構成になっている。そこがおもしろい。
 この一編、最後は江戸城内、大広間前の表舞台が山場となる。舞楽の演目は蘭陵王と納曽利である。タイトルはここに由来する。
 この短編は、ひとまず一件落着する。蔵人介が一局面において、いわば生きがいを感じる機会となっただろうと、読者は共感でき楽しめると思う。

< 不空羂索 >
 時季は暦が夏至に変わった頃に移る。吉原の廓で、夕霧のもとに入り浸っている宗次郎を連れ戻すために、蔵人介は串部を伴い、吉原に乗り込む。夕霧、宗次郎に会い、話し合っている時に、厠で首を縊ったと思われる遊客が発見される。夕霧も馴染みにしていた伊勢屋徳兵衛という札差だった。
 宗次郎が花魁の佐保川と会っているのを目撃された夜、佐保川が足抜きしたという。
 蔵人介は吉原での佐保川事件に関わらざるを得なくなる。宗次郎の行方がわからなくなったのだ。佐保川のことを探るために、蔵人介は、橘右近を介して大奥表使の村瀬に会う。だがそこで、村瀬の抱える問題にも巻き込まれていく。伊勢屋の死と、村瀬の抱える問題とに接点が出て来る。加えて、佐保川の素性の一端がわかる。大奥の政争に宗次郎がからみとられているようなのだ。
 「そは観音菩薩の羂索(ケンジャク)、人界の鋼にて断つことあたはず。無駄なことはおやめなされ」(p210)と蔵人介が告げられる場面が出て来る。不空羂索観音菩薩という名称。短編のタイトルはここに由来するようだ。

< 乾闥婆城 >
 冒頭は「鬱陶しい梅雨は明けた」という一文。蔵人介と家族は、夜店を楽しんだ後、涼み舟に乗り大川の花火見物を楽しむが、その時、祇園祭の鉾の形をした屋形船がすれ違っていく。その舳先に「金青色の能面に唐人装束、異様な風体の二人が置物のごとく舳先に立っている」(p251)のを蔵人介らは目撃する。志乃は南都興福寺の天龍八部衆に乾闥婆なる神がいることを思い出す。乾闥婆城とは蜃気楼のことなのという。
 南都最強の敵が、蔵人介の前に遂に姿を見せ始めたのだ。
 義弟の綾辻市之進が、蔵人介を訪ねてきて、漆奉行の不正について探索している内容を語る。そんな矢先に、蔵人介は御前試合に出るようにとの命を受ける。蔵人介は橘右近から呼び出されて、背景事情推測の一端を聞かされる。蔵人介は真の問題事象の渦中に投げ込まれていく。
 このストーリー、御前試合が大きな山場になって行く。
 別次元と思われる事象が互いに錯綜し、陰の部分で繋がっており、その一方で、異なる企みが併存することを蔵人介は己の身を挺して認識していく。
 そして、遂に乾闥婆が姿を現す・・・・・。
 この短編、フィクションの面白さを遺憾なく発揮している。

 この第3作、蔵人介は橘右近との間に未だ距離を保つことができたと言える。

 最後に本書のタイトルは「乱心」。乱心とは、「正常な精神状態ではなくなること」(『新明解国語辞典』三省堂)という意味だから、このストーリーの大半の登城人物はこの語彙に該当する。なぜ、この語彙をタイトルに。
 この第3作の4編の繋がりを踏まえ直して、ふと視点を変えて思ったこと。この「乱心」は将軍家斉を表象しているのではないか。それがオチにもなっていると。そこがフィクションのおもしろさかもしれない。なぜ、そう思ったのかは、本書をお読みいただき、ご判断いただきたい。

 さて、次作ではどう進展していくのか。楽しみである。

 ご一読ありがとうございます。


補遺
灌仏会   :ウィキペディア
蘭陵王 (雅楽)  :ウィキペディア
納曾利 雅楽 作品と鑑賞 :「文化デジタルライブラリー」
蘭奢待   :「コトバンク」
例幣使街道 :「栃木市観光協会」
亀戸天神社 ホームページ
川崎大師  ホームページ
御茶壷道中の栄誉、そして挑戦の時代へ  :「綾鷹」
東大寺不空羂索観音立像    :ウィキペディア
乾漆八部衆立像    :「法相宗大本山 興福寺」
乾闥婆【八部衆】   :「法相宗大本山 興福寺」
祇園祭  ホームページ (祇園祭山鉾連合会)
天下祭   :ウィキペディア
山王祭山王山車のゆくえ   :「皇城の鎮 日枝神社」

ネットに情報を掲載された皆様に感謝!

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)

こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『刺客 鬼役弐』 坂岡 真   光文社文庫
『鬼役 壱』    坂岡真    光文社文庫
『太閤暗殺 秀吉と本因坊』  坂岡真  幻冬舎
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『刺客 鬼役弐』 坂岡 真   光文社文庫

2024-12-01 21:57:33 | 諸作家作品
 鬼役シリーズ第2弾! 奥書を読むと、2005年8月に『鬼役 矢背蔵人介 炎天の刺客』(学研M文庫)として刊行された作品に大幅加筆修正、改題して、2012年5月に刊行されている。このシリーズ、最新刊に到るまで長丁場で楽しめそうである。

  新装版の文庫表紙

 この第2弾も短編連作集といえる。本書には「対決鉢屋衆」「黄白の鯖」「三念坂閻魔斬り」「流転茄子」の4編が収録されている。

 主人公の矢背蔵人介は将軍家斉の毒味役で御膳奉行の役目を担う。魚の小骨が公方(将軍家斉)の咽喉に刺さっただけでも断罪となる役目。それにもかかわらず役料はたかだか二百俵。家禄と合わせても五百俵に足りぬ貧乏旗本である。その蔵人介は、毒味役を表の顔とすると、裏の顔を持つ。それは田宮流抜刀術の達人という技量を活かし、指令役から指令を受けて、幕臣の不正を断つという暗殺役である。暗殺役という裏の顔を蔵人介の家族や親族は誰も知らない。指令役は若年寄長久保加賀守であり、蔵人介はこの人物を信頼してきたのだが、第1作において、長久保加賀守に裏切られるという展開になった。つまり、蔵人介の裏の役目は断絶した。毒味役に専心する立場になったという段階から、この第2弾が始まる。読者にとっては、表の顔の毒味役だけで、ストーリーが続くのか、という興味津々としたセカンド・ステージがここから始まる。

 蔵人介には、用人として串部六郎太が仕えている。彼は悪党どもの臑を刈るという得意技を持つ柳剛流の達人である。元は長久保加賀守の家来で、蔵人介の裏の仕事を見届けるような立場を担い、蔵人介の用人になった。だが、主人長久保加賀守のやり口に嫌気がさし、蔵人介に忠誠を誓い、行動を共にする立場に変容していく。蔵人介の強力な協力者に徹する。このストーリーは、いわばこの二人が何をするかである。
 
 セカンド・ステージではもう一つ大きな変化要因が加わる。望月宗次郎の面倒を蔵人介が見なければならない羽目になったのだ。その顛末は第1作で語られている。宗次郎は矢背家の隣人・望月家の次男坊であるが、望月左門が政争に巻き込まれ殺される前に、その面倒を託されたのだ。なぜか。宗次郎は西ノ丸に依拠する徳川家慶のご落胤であると左門から伝えられた。宗次郎は己の出生を知らずに育ち、甲源一刀流の遣い手になっているが、吉原の廓に入り浸り、放蕩が続いている。蔵人介はそれを承知で見守る立場となってしまった。蔵人介は誰にも相談できない極秘の火種を抱える立場になる。ストーリーの底流となる宗次郎の存在と行動は、読者にとっては、見守り続ける興味深い要素となる。

 さて、暗殺指令を発する者がいなくなり、毒味役に専心する蔵人介が、何に巻き込まれていくのか。そして、蔵人介はどういう行動に出るのか。それがこのストーリー。

 短編連作集の基本構造は、主に2つの流れが織り交ぜられながら進展する。
 一つは、蔵人介の本来の役目・毒味役の仕事に関わって起こってくる様々な状況の変化とハプニングに蔵人介がどう対処していくかのストーリーの流れである。
 大奥を含み、幕府内の上層部には世継ぎ問題を含め常に政争状況が密かに蠢いている。そこに蔵人介も人間関係のしがらみにより投げ込まれていく立場になる。
 もう一つは、毒味役の役割を離れた場において、蔵人介が好むと好まざるとに関わらず、関係していく羽目になる状況への対応である。この第二の側面において、公的な暗殺指令を受けるという裏の役目は今時点では消滅している。ならば、何が起こるか。それこそが、読書にとっての楽しみどころになる。
 

 収録短編ごとに、読後印象を交え、簡略なご紹介をしてみたい。

< 対決鉢屋衆 >
 天保2年水無月(6月)から文月(7月)にかけての出来事。不作続きの年のこと。
 蔵人介が毒味の役目を終えて下城の途次、登城する長州藩の行列に出会う。その場に襤褸を着た百姓が駕籠訴の行動に出る場面を目撃する。駕籠訴に成功する前に斬られそうになり蔵人介の傍に百姓が逃げて来る。長州藩という大大名に対し、貧乏旗本の蔵人介が、堂々と正論を吐き、その場から一旦百姓を庇い助けた。百姓を追ってきたのは、長州藩馬廻り役支配、鉢屋又五郎と名乗る。勿論「本丸御膳奉行、矢背蔵人介」と返答する。これが発端となるストーリー。
 この事件、江戸城内で噂になる。長州藩の内情と一方で面目が関わってくる。鉢屋衆が動きだす。鉢屋衆とは長州の忍である。蔵人介は鉢屋衆と対峙する羽目になる。
 文月26日、長州藩では、江戸開闢以降で最大の一揆が勃発した。
 飢饉下での政治政策の失敗を糊塗し、武士の面子にすり替える意識と行動が描かれている。駕籠訴の実態もわかる短編である。

< 黄白の鯖 > 
 蔵人介は文月に柳橋から屋形船を仕立てて、家族や居候の宗次郎ほかとともに宵涼みと洒落込んだ。ところが、天保鶺鴒組と名乗る旗本の次男・三男坊たちが乗る船が、川を行く施餓鬼船にちょっかいを出す。その船は江戸随一の「吉野丸」である。蔵人介の乗る船がその場に居合わせた。
 翌日、夕餉の毒味を済ませた蔵人介は、中野碩翁に呼び出される。天保鶺鴒組の連中が狼藉を働いた相手が智泉院の旦那衆であったので、この出来事を忘れよと、同席していた本丸留守居役の稲垣に告げられる。三日後、黄白の鯖と目録に記される鯖代が尾張藩で盗まれ、家老が切腹する事件が発生する。この件で天保鶺鴒組に疑いが向けられる。これが発端となる。尾張柳生が動き出したという。
 蔵人介もまた、動き出さざるを得なくなる。宗次郎が関係しているかもしれないという話が持ちあがったのだ。
 このストーリー、公人朝夕人(クニンチョウジャクニン)黒田伝右衛門が登場するところがおもしろい。
 この短編は、今後の展望に繋がっていく布石でもある。蔵人介の裏の役目が、将来への岐路に入るからだ。読者には、興味と期待を抱かせる要因になる。

< 三念坂閻魔斬り >
 牛込の筑土八幡宮門前から南にきつい登り坂が続く三念坂で、閻魔の顔を象った武悪面をつけた男が、坂道を下りてきた二人の侍を待ちうける。一人は勘定奉行有田主馬、従者は野太刀自顕流を修めた高見沢源八。武悪面の男は「わしは公儀鬼役よ」と有田に告げた。武士二人はあっけなく惨殺された。文月十六日、閻魔の斎日である。大工見習いの亀吉がこの闇討ちを目撃していた。
 蔵人介に疑惑が向けられることになる。これがストーリーの始まりとなる。
 蔵人介は、裏の役目を果たすことが契機で、狂言面を打つことを心の浄化を兼ねた趣味にしていた。蔵人介は武悪面を打っていた。それがない。持ち出すとすれば、居候の宗次郎と推測される。
 虎穴に入らずんば虎児を得ずという格言があるが、そんな進展になるところが、興味深い。自ら疑惑の解明に立ち向かうという筋立て。どのように・・・が読ませどころ。
 もう一点、おもしろいのは、勘定奉行有田主馬の後釜に昇進するのが、遠山景元である。俗にいえば遠山の金さん。ストーリーの落としどころがおもしろい。

< 流転茄子 >
 神無月の朔日、『遊楽亭』の庭にある草庵で口切の茶会が催される場面から始まる。遊楽亭の亭主は万蔵。この茶会で茶を点てるのは蔵人介の義母・志乃である。蔵人介はその茶会に加わるように義母から指示されていた。万蔵は口切の一番茶を賞味する立場になれることに幸福感を味わっている。そんな茶席の場面から始まり、茶道具をネタにストーリーが進展していく。茶会では松永久秀所蔵「平蜘蛛」の釜が話題となる。
 5日には、志乃に呼ばれた蔵人介は、志乃から「つくも茄子」を話題にされる。志乃が宗次郎から預かっていた茶入が関係していた。
 茶道具の茄子の転売に対して、それを取り戻そうとする志乃・蔵人介の行動顛末譚。
 そこに、矢背家の過去と、志乃の若き時代の逸話が絡んでいる。そこに大奥の政争が絡んでいるのだからおもしろい。楽しめるフィクションである。

 蔵人介が天保2年に関わった事件を扱った短編連作集である。

 ご一読ありがとうございます。

こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『鬼役 壱』    坂岡真    光文社文庫
『太閤暗殺 秀吉と本因坊』  坂岡真  幻冬舎
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『まいまいつぶろ 御庭番耳目抄』    村木 嵐    幻冬舎

2024-11-09 14:10:37 | 諸作家作品
 出版社の広告メッセージによれば、『まいまいつぶろ』の完結編。
 『まいまいつぶろ』は第九代将軍家重とその小姓大岡忠光を中心にした小説。徳川吉宗の嫡男・長福丸が母親の難産のゆえに身体障碍者として生まれた。身体の右側は麻痺し、左の手も震えがあり文字を書くことができない。長福丸の話す言葉を誰も聞き取れない。頭脳は明晰だった。ただ一人、小姓として仕え始めた大岡兵庫だけがその言葉を解し、長福丸の通辞を務める。元服し、長福丸は家重と名乗り、兵庫は忠光と名乗る。長期間にわたる廃嫡問題の揺れ動きの果てに、遂に家重は、父吉宗の決断で第九代将軍を継承する。その苦しみの渦中の姿と、父吉宗の改革を引き継いでいく過程を描いた小説だった。
 それに対して、本書は家重が第九代将軍を継承できるまでのプロセスと、将軍職を継承し全うするまでの過程を、異なる視点からエピソード風にとらえた短編連作集である。いわば、舞台裏を多面的に描き出していく。『まいまいつぶろ』のストーリーでは語られなかった側面を描き出すことで、ストーリーの奥行きを広げ、また、『まいまいつぶろ』のその後を明らかにする続編であり、完結編となる。
 「小説幻冬」(vol.85~vol.89)に連載されたのち、今年、2024年5月に単行本が刊行された。

 本書は紀州藩主時代の徳川吉宗に見いだされ、青名半四郎と名乗り、表向きは御徒頭として仕え、実は御庭番として吉宗の密命を遂行する別名万里が、この短編連作の黒子的役割を担う。最後に万里自身が主人公になる短編も含まれる。
 ここに描き出された側面は、隠密の万里が耳にし目にした内容という位置づけである。それ故に耳目抄。『まいまいつぶろ』との併読で相乗効果を発揮する短編連作集となっている。
 本書には5つの短編が収録されている。各短編について、簡単なご紹介と読後印象を記したい。

< 将軍の母 >
 吉宗の母、浄円院は紀州・和歌山城から江戸城に移ってきて、初めて長福丸はじめ孫たちと対面する。浄円院を迎えに行き、道中を付き添うのが青名半四郎。半四郎は吉宗から密命を受けていた。
 浄円院が孫の長福丸(家重)を思う心と浄円院の行動が描き出されていく。家重の心を理解して支えたおばあちゃん!

< 背信の士 >
 吉宗の片腕となり、吉宗の改革を推進した老中松平左近将監乗邑の行動を描く。改革には邁進したが、彼は最後まで家重廃嫡の立場を崩さなかった。その松平乗邑の顛末譚。
 「乗邑はたとえ明日のことは疑っても、忠光が伝えた家重の言葉を否定したことはなかった」(p108) この一文に乗邑のスタンスが凝縮されているように感じる。

< 次の将軍 >
 家重の嫡男竹千代は元服して家治と改名する。後の第十代将軍である。吉宗は幼少の孫竹千代を可愛がり、彼の聡明さを見抜く。そして竹千代に父家重の聡明さに気づき、その姿から学ぶように導いていく。一方、家重は家治に祖父吉宗から学ぶようにという。
 家重の将軍職継承において、家治の果たした役割がこの短編の眼目といえる。
 また、家重と家治の間で、家治の母、幸のことに関して気まずさが生まれる経緯が、もう一つ、ここで家重の心理に一歩踏み込む描写となる。
 日本史の年表を確認しての余談だが、家治が第十代将軍になるのは1760年。1765年から田沼時代が始まる。吉宗が改革に着手し、家重がそれを継承・推進した。だが、家治は祖父・父の推し進めた改革とは方向を異にした政策を選択したことがわかる。

< 寵臣の妻 >
 奥小姓として家重のもとに出仕し、家重の口となり通辞に専心してきた大岡忠光。忠光は、通辞一筋で、はた目から見れば、小姓頭、側衆、御用取次と出世を重ね、禄高五千石に至る寵臣となる。その忠光自身の家庭はどうだったのかを描く。
 夫忠光が禄高五千石に出世した翌年、志乃と嫡男で13歳の兵庫の母子二人は、大岡越前守忠相の役宅に初めて招かれる。この時初めて、志乃と兵庫は、忠光が江戸城内でどのような働きをしているかを知る。
 忠光から何も知られされないままで、厳しい不文律を課された家において、妻志乃と嫡男兵庫がそのような思いで生きてきたかをこの短編は描き込んでいく。
 ふと、志乃の立場に耐えられ女性がどれほどいるだろうかと思ってしまう。
 元服し改名した忠喜が単独で将軍家重に拝謁できるという場面が描かれる。この拝謁の場で、忠喜は父が家重に仕える真の姿に出会う。この場面がいい。
 この拝謁の場への先導・案内を務めるのが万里である。
 
< 勝手隠密 >
 3つのテーマが扱われている。1つは、田沼意次の登場とその手腕。宝暦8年(1758)4月、目安箱に二度にわたり同じ内容の訴状が投じられていた。これに端を発して、問題事象の解明と解決に意次が手腕を発揮する様を描く。
 2つ目は、忠光が家重の通辞役を退隠する決意をしたとき、将来への伏線として為した最後の行動。
 3つ目は、吉宗の隠密として生きてきた万里自身の晩年。吉宗の死後も、勝手隠密と自称して、事の成り行きを見つめてきた万里自身が描かれる。
 宝暦10年(1760)に退隠した忠光が亡くなる。この年、家重は嫡男家治に将軍職を譲る。それから10ヵ月ほど後、宝暦11年6月に家重がみまかる。『まいまいつぶろ』の時代が終わる。
 つまり、この短編が『まいまいつぶろ』の時代の完結を告げる一編となる。
 浅草箕輪の寺社町の一隅に仕舞屋を借りて晩年を過ごす万里の姿でエンディング。この終わり方に家重と忠光の生きた時代が無事に終わったという余韻が残っていい。

 『まいまいつぶろ』と本書をセットで読まれることをお勧めしたい。
これら二書は、第九代将軍徳川家重と大岡忠光いう人物像をフィクションとして見事に造形している。
 一方で、徳川家重の実像はどうだったのだろうか・・・。そんな思いが湧いてくる。

 ご一読あありがとうございます。


補遺
徳川家重  :「コトバンク」
大岡忠光  :「コトバンク」
徳川家重  :ウィキペディア
第9代将軍徳川家重    :「刀剣ワールド」
徳川家重の家系図・年表  :「刀剣ワールド」

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『まいまいつぶろ』  幻冬舎
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『法廷占拠  爆弾2』   呉 勝浩   講談社

2024-11-06 20:30:03 | 諸作家作品
 新聞広告を見たとき、タイトルに引き寄せられた。『爆弾』が初読の作家であり、その第二弾だから。サブタイトルの「爆弾2」がそれを示している。そして、タイトルの「法廷占拠」という言葉に興味をそそられた。

 この第2弾、プロローグという表記はないが、それに相当する導入場面がある。そこに登場するのは、新井啓一と<おれ>。二人は幼馴染の友人関係で20歳。この導入パートは、「いっそ、悪に徹してみないか?」という<おれ>の発言で終わる。

 霞ケ関にある東京地方裁判所。東京地裁のもっとも大きい法廷、104号法廷。10月26日火曜日、午前10時開廷の第5回公判。その時刻の少し前の描写から始まる。
 爆弾事件の犯人、自称スズキタゴサク。住所不定、無職、本籍地不明。彼に対する裁判である。この第5回公判には、野方署の倖田沙良と伊勢勇気の二人が証言のために出席している。証言の出番は午後なのだが、法廷の空気に慣れておきたいと無理に希望し、倖田は伊勢とともに開廷時点から法廷内に入ることにした。だが、その結果、事件の渦中に投げ込まれる羽目になる。

 公判が始まり、しばらく経った時点で、男が「異議あり」と傍聴席の最後尾、被害者遺族が座る位置から声を発する。手に黒い拳銃を握り、もう一度「異議あり」と発し、天井に向けて撃った。その行動が法廷占拠の始まりとなる。
 その男は父親を爆弾事件で殺された遺族の一人と名乗る。骨壺を持って法廷に入っていたのだ。拳銃の他に、手製の爆弾を持ち込んでいた。
 その男は1発の銃弾を天井に向けて撃ち、もう一方の手にもつ警棒を使うことで、法廷内をコントロールし始めた。その男は、骨壺の中から、爆弾の装置、スマホと二台のタブレットPCを取り出す。
 自分の身許を明らかにする。被害者遺族の会に在籍している柴咲奏多だと述べ、アパートの住所も語る。アパートの自室には爆弾が仕掛けてあるとも。捕まることを前提に行動していることを公言する。自分なりの理由と必要があり、この挙に出ているが、できれば人殺しはしたくないとも言う。

 午前11時過ぎに東京地裁に着いた警視庁の高東柊作が現場の指揮を執り始める。高東は刑事部捜査第一課特殊捜査第一係。柴咲に対する交渉人の役割を担っていく。
 柴咲は、警視庁に命令書を送信していた。
 1.柴咲が現住所に設置した爆弾の速やかな確認。
 2.104号法廷への踏み入り厳禁。無用なコンタクトはなし。館内を無人に。
 3.104号法廷の弁護人席側出入口を封鎖してはならない。
 4.指定URLの配信サイトの維持・死守。配信サイトは制限なしで公開。
   同時視聴者数は1万人を超えること。
 5.指示はビデオ通信によってのみ行う。担当者一人を指定のURLにアクセスさせ
   常時待機させること。
等がその内容だった。法廷が占拠された中での高東と柴咲との間の交渉プロセスが公開された状態で進行することになる。

 柴咲は、高東に己の計画シナリオに沿って、順次要求を突き付けていく。
 高東に課せられた最優先任務は人質の救出である。速やかに救出するために、どのように柴咲と交渉していくか。一番の気がかりは柴咲の手許にある爆弾が本物なのかどうか。
 つまり、ネット配信という衆人環視のもとで、困難な交渉ゲームが進展していく。
メイン・ストーリーは、この交渉プロセスの描写ということになる。そこが読ませどころとなる。複数のサブ・ストーリーは、高東の指示を受けて、パラレルに捜査活動に従事する刑事たちの行動となる。

 捕まることを前提にしたうえで、周到な計画とシナリオを持つ柴咲の行動。だがその意図と目的が何なのかは全くわからない。そんな中で、高東と柴咲の交渉が始まる。読者はいわばネット配信の内容を見守る視聴者と同じ立ち位置に置かれる。相違点は、警視庁側が事件解決を目指す状況について高東をキーパーソンとして知ることができることである。混迷する警察側の状況を知ることはできる。それは、このストーリーに引き込まれていく周辺情報をふんだんに知りうることを意味する。
 勿論、柴咲はこの法廷内で己が逮捕される気はない。では、どうするのか・・・・。読者にとっては、興味津々となる課題である。

 ここで一人、特異な男が高東の交渉に関わってくる。爆弾(スズキ)事件以降事実上の謹慎処分として、特殊班係の遊軍となっている五係の類家である。彼は、プロファイリングを命じられたということで、高東が拠点とする指揮車に乗り込んできた。高東は、後輩の類家に反発を抱き邪魔者意識を持つ。だが、類家の思考と分析、その推論と見解を、徐々に考慮に入れる形に意識を変化させていく。類家のキャラクターがおもしろい。
 
 大きな骨壺を被害者遺族が法廷内に持ち込めたということが、この法廷占拠の大前提になっている。この持ち込みが成立しないなら、この法廷占拠のストーリーは全くの絵空事になる。だが、そういうケースがありうるなら・・・・このストーリーは単なるフィクションですまされない側面が可能性として残る。

 大前提をひとまず受け入れると、このフィクションのストーリー展開、引き込まれていくこと間違いなしである。
 読み終えてから、各所に巧妙な伏線が敷かれていたことに気づいた。後知恵に終わったことが残念である。

 少なくとも、爆弾シリーズの第3弾はいずれ刊行されると推測する。期待したい。
 これ以上は、ネタバレに連なっていくので、やめておこう。

 ご一読ありがとうございます。
 
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『白い衝動』  講談社
『爆弾』   講談社
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