ガリレオシリーズ第10弾! 最近、2024年9月の文庫版刊行の新聞広告で知った。冒頭の表紙カバーは2021年9月に刊行された単行本。単行本の出版を見過ごしていたことになる。
こちらが文庫本の表紙カバー
ガリレオ先生こと物理学者の湯川学は、前作『沈黙のパレード』までは帝都大学の准教授だったと記憶する。本書では、湯川が帝都大学教授に昇進した以降に、横須賀にある両親のマンションにて、ある事情で同居生活を送っている設定になっている。このシリーズもまた、歳月をへてきている。
プロローグは、ある女性が、かつて働いていた千葉にある紡績工場の近くの児童養護施設の小さな門前に、赤ん坊を捨て子にするまでの経緯が描かれる。東京オリンピックを経た後の華やかな時代に・・・、である。
第1章は、島内千鶴子と娘・園香の母娘の話に転じる。千鶴子はシングルマザー。母は園香を生んだ経緯をちゃんと娘に伝えていた。千鶴子には心から信頼し慕っている女性がいた。子供の頃から園香はその人をスエさんと呼んでいた。母の千鶴子は過労からクモ膜下出血になり急逝。園香は上野の生花店で働きながら、デザインの専門学校に通う。
生花店にやってきて、仕事の関係で花を探しているというスーツ姿の男性客の相談に園香は応じた。その後、その男性との交際が始まる。上辻亮太と言い、映像関係の仕事をしているという。二人の関係は同居生活に進展していく。千鶴子・園香の母娘が住んでいたアパートに上辻が移ってくるという形で・・・・。
10月6日、南房総沖で漂流している遺体が発見される。捜査の結果、その遺体が上辻亮太と判明する。9月29日に、東京都足立区で上辻亮太の行方不明届が出されていた。同居の園香が提出していた。園香は友人と9月27・28日の二日間、京都旅行に出かけていた。帰宅後に上辻との連絡が全くとれないことから行方不明届を警察署に出していたのだ。
上辻亮太の死は殺人及び死体遺棄事件として、千葉県警と警視庁捜査一課との合同捜査本部が開設される。草薙がこの事件を担当することになる。
上辻亮太は、9月27日にレンタカーを借りていて、返却の28日を過ぎても返却がないことから、レンタカー会社は10月5日に被害届を提出していた。
園香は10月2日朝、勤務先の生花店に突然休職を願い出ていて、その後行方が分からない状況となる。
捜査の結果、園香の京都旅行は、東京で美容師として働く、高校時代からの友人・岡谷真紀との旅行であり、岡谷の証言から、園香のアリバイは判明し、上辻亮太の殺人に直接関与していないことは明らかになる。では、なぜ園香が行方をくらましているのか。
殺人事件の捜査と園香の行方の追跡捜査が始まっていく。
今回も、草薙は殺人事件と園香の失踪の究明のために、横須賀に居る湯川を訪ねていき協力を求めることになる。このシリーズの展開パターンに入るわけだが、今までとは異なり異色な要素が織り込まれていく。
大学時代以来、草薙は湯川との友人関係を深め、捜査への協力依頼を通じて草薙は信頼関係を一層築いてきている。だが、その草薙は湯川の私生活面をほとんど知らないままできた。今回の事件における協力関係では、湯川の私生活面に一歩踏み込んでいく形になる。
このシリーズを愛読している読者にとっては、ガリレオ先生・湯川の生い立ちにまで関わっていく側面が一つのインパクトになる。物理学者湯川学の人間的側面が色濃く出てくるのだから・・・・。
このストーリーの特徴を挙げておこう。
1.草薙は警視庁捜査一課の一係長として、部下を率いてこの殺人及び死体遺棄事件を担当する。部下の内海薫が捜査活動で大きな役割を担っていく。湯川教授とのパイプ役も内海薫の担当となる。
2.島内園香が通っていた高校と亡くなった島内千鶴子がかつて働いていた児童養護施設での聞き込み捜査が、園香の周辺状況を解明していく糸口になる。
3.園香の友人岡谷真紀からの聞き取りで、絵本作家ナエさんの存在が浮かびあがる。ナエさんは亡くなった母千鶴子さんが慕っていた人と真紀は聞いていた。
4.失踪した園香が住んでいた部屋には同じ作者の絵本3冊が見つかった。作者の名前は「アサヒ・ナエ」。本名は松永奈江とわかる。
5.アサヒ・ナエ作の一冊の絵本の最終ページに参考文献が記載されている。そこに、『もしもモノポールと出会えたなら』湯川学(帝都大学)と!
草薙は湯川が滞在している両親のマンションを訪ねる。協力を依頼する。
5.「母子家庭」がストーリー全体の構造を二重三重に織りなしていくキーワードとなる。母と子のつながり。
本作でガリレオ先生・湯川が草薙の持ち込んだ殺人及び死体遺棄事件に関わりを深めて行くスタンスは、これまでの関わり方とは異質な側面を含む。事件の解明のための研究室での実験は全く出てこない。それよりも捜査に対する協力のしかたに人間的側面が大きくかかわっていく。もちろんそこに湯川の信念が大きく反映していく。ここが本作の読ませどころになる。物理学者湯川学という人物像に厚みが加わる一作といえる。
プロローグは捨て子の場面だった。エピローグは湯川の母の葬儀に草薙が出向いた場面で終わる。草薙は、スマートフォンに内海薫より事件発生の連絡を受け、斎場から中座せざるを得なくなる。文末の二人の会話がよい!
「すまん、線香ぐらいは上げたいんだが」
「気にするな。君は君の戦場を優先すべきだ。僕も研究室という戦場に戻る」
ガリレオシリーズ、この後は再び湯川の研究室場面がストーリーに登場してくることだろう。教授となった湯川の研究室がどのように描きこまれるのか。楽しみに待ちたい。
ご一読ありがとうございます。
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『希望の糸』 講談社
『あなたが誰かを殺した』 講談社
『さいえんす?』 角川文庫
『虚ろな十字架』 光文社
『マスカレード・ゲーム』 集英社
「遊心逍遙記」に掲載した<東野圭吾>作品の読後印象記一覧 最終版
2022年12月現在 35冊
こちらが文庫本の表紙カバー
ガリレオ先生こと物理学者の湯川学は、前作『沈黙のパレード』までは帝都大学の准教授だったと記憶する。本書では、湯川が帝都大学教授に昇進した以降に、横須賀にある両親のマンションにて、ある事情で同居生活を送っている設定になっている。このシリーズもまた、歳月をへてきている。
プロローグは、ある女性が、かつて働いていた千葉にある紡績工場の近くの児童養護施設の小さな門前に、赤ん坊を捨て子にするまでの経緯が描かれる。東京オリンピックを経た後の華やかな時代に・・・、である。
第1章は、島内千鶴子と娘・園香の母娘の話に転じる。千鶴子はシングルマザー。母は園香を生んだ経緯をちゃんと娘に伝えていた。千鶴子には心から信頼し慕っている女性がいた。子供の頃から園香はその人をスエさんと呼んでいた。母の千鶴子は過労からクモ膜下出血になり急逝。園香は上野の生花店で働きながら、デザインの専門学校に通う。
生花店にやってきて、仕事の関係で花を探しているというスーツ姿の男性客の相談に園香は応じた。その後、その男性との交際が始まる。上辻亮太と言い、映像関係の仕事をしているという。二人の関係は同居生活に進展していく。千鶴子・園香の母娘が住んでいたアパートに上辻が移ってくるという形で・・・・。
10月6日、南房総沖で漂流している遺体が発見される。捜査の結果、その遺体が上辻亮太と判明する。9月29日に、東京都足立区で上辻亮太の行方不明届が出されていた。同居の園香が提出していた。園香は友人と9月27・28日の二日間、京都旅行に出かけていた。帰宅後に上辻との連絡が全くとれないことから行方不明届を警察署に出していたのだ。
上辻亮太の死は殺人及び死体遺棄事件として、千葉県警と警視庁捜査一課との合同捜査本部が開設される。草薙がこの事件を担当することになる。
上辻亮太は、9月27日にレンタカーを借りていて、返却の28日を過ぎても返却がないことから、レンタカー会社は10月5日に被害届を提出していた。
園香は10月2日朝、勤務先の生花店に突然休職を願い出ていて、その後行方が分からない状況となる。
捜査の結果、園香の京都旅行は、東京で美容師として働く、高校時代からの友人・岡谷真紀との旅行であり、岡谷の証言から、園香のアリバイは判明し、上辻亮太の殺人に直接関与していないことは明らかになる。では、なぜ園香が行方をくらましているのか。
殺人事件の捜査と園香の行方の追跡捜査が始まっていく。
今回も、草薙は殺人事件と園香の失踪の究明のために、横須賀に居る湯川を訪ねていき協力を求めることになる。このシリーズの展開パターンに入るわけだが、今までとは異なり異色な要素が織り込まれていく。
大学時代以来、草薙は湯川との友人関係を深め、捜査への協力依頼を通じて草薙は信頼関係を一層築いてきている。だが、その草薙は湯川の私生活面をほとんど知らないままできた。今回の事件における協力関係では、湯川の私生活面に一歩踏み込んでいく形になる。
このシリーズを愛読している読者にとっては、ガリレオ先生・湯川の生い立ちにまで関わっていく側面が一つのインパクトになる。物理学者湯川学の人間的側面が色濃く出てくるのだから・・・・。
このストーリーの特徴を挙げておこう。
1.草薙は警視庁捜査一課の一係長として、部下を率いてこの殺人及び死体遺棄事件を担当する。部下の内海薫が捜査活動で大きな役割を担っていく。湯川教授とのパイプ役も内海薫の担当となる。
2.島内園香が通っていた高校と亡くなった島内千鶴子がかつて働いていた児童養護施設での聞き込み捜査が、園香の周辺状況を解明していく糸口になる。
3.園香の友人岡谷真紀からの聞き取りで、絵本作家ナエさんの存在が浮かびあがる。ナエさんは亡くなった母千鶴子さんが慕っていた人と真紀は聞いていた。
4.失踪した園香が住んでいた部屋には同じ作者の絵本3冊が見つかった。作者の名前は「アサヒ・ナエ」。本名は松永奈江とわかる。
5.アサヒ・ナエ作の一冊の絵本の最終ページに参考文献が記載されている。そこに、『もしもモノポールと出会えたなら』湯川学(帝都大学)と!
草薙は湯川が滞在している両親のマンションを訪ねる。協力を依頼する。
5.「母子家庭」がストーリー全体の構造を二重三重に織りなしていくキーワードとなる。母と子のつながり。
本作でガリレオ先生・湯川が草薙の持ち込んだ殺人及び死体遺棄事件に関わりを深めて行くスタンスは、これまでの関わり方とは異質な側面を含む。事件の解明のための研究室での実験は全く出てこない。それよりも捜査に対する協力のしかたに人間的側面が大きくかかわっていく。もちろんそこに湯川の信念が大きく反映していく。ここが本作の読ませどころになる。物理学者湯川学という人物像に厚みが加わる一作といえる。
プロローグは捨て子の場面だった。エピローグは湯川の母の葬儀に草薙が出向いた場面で終わる。草薙は、スマートフォンに内海薫より事件発生の連絡を受け、斎場から中座せざるを得なくなる。文末の二人の会話がよい!
「すまん、線香ぐらいは上げたいんだが」
「気にするな。君は君の戦場を優先すべきだ。僕も研究室という戦場に戻る」
ガリレオシリーズ、この後は再び湯川の研究室場面がストーリーに登場してくることだろう。教授となった湯川の研究室がどのように描きこまれるのか。楽しみに待ちたい。
ご一読ありがとうございます。
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『希望の糸』 講談社
『あなたが誰かを殺した』 講談社
『さいえんす?』 角川文庫
『虚ろな十字架』 光文社
『マスカレード・ゲーム』 集英社
「遊心逍遙記」に掲載した<東野圭吾>作品の読後印象記一覧 最終版
2022年12月現在 35冊