遊心逍遙記その2

ブログ「遊心逍遙記」から心機一転して、「遊心逍遙記その2」を開設します。主に読後印象記をまとめていきます。

『城郭考古学の冒険』  千田嘉博  幻冬舎新書

2023-02-13 10:52:17 | 建物・建築
 この本は、U1さんのブログ「透明タペストリー」の記事で知った。著者については、朝日新聞の連載「千田先生のお城探訪」を愛読していて、時折テレビのお城番組で見ているけれど、著書についてはほとんど知らなかった。本書は2021年1月に刊行されている。

 改めて新聞の連載を確認してみると、「千田嘉博・城郭考古学者」と文末に記載がある。連載記事の本文を読んでも、この末尾の一行をほとんど意識していなかったのだろう。
 一時期、滋賀県下にある様々な城・城跡を史跡探訪したことがある。その時には城の縄張りと位置関係、城の戦略的な立地、重要性などに関心が向いていた。また、その時の入手資料も縄張り図や城の構造、立地条件と城主等の背景の説明が主体だったように思う。城、あるいは判りづらくなっている山城跡を訪れた経験から、本書のタイトルにある「城郭考古学」という言葉に、遅ればせながら惹きつけられた次第。

 著者は「第一章 城へのいざない」において、まず「城郭考古学」という新しい研究視角をわかりやすく説明している。姫路城、彦根城、熊本城など各地に現存する近世城郭がある。しかし、殆どの近世城郭建築は失われ、中世城郭の建築は一棟も現存しない。「考古学」という言葉からは、文献史料の存在しない古墳時代以前の発掘調査研究をまず連想してしまう。城跡の発掘調査で城郭建築遺構が次々に発見され、城郭建築の手がかりが累積されているという。著者はこれらを「物質資料」と位置づける。しかし、部分的な発掘による考古学的調査だけでは、城を物質資料として把握するのに十分ではないと言う。一方、城郭については、絵図や文書などの史料が現存する部分もある。「従来の考古学、歴史地理学、建築史、史跡整備などの文理にまたがる多様な学問」(p25)、それぞれの個別研究領域の手法と成果を援用し、「城を中心において総合して学融合分野として研究していく新しい研究視角が、城郭考古学である」(p25)と説く。
 「城の立地や全体像については、測量調査はもちろん、歴史地理学が研究方法として深めてきた絵図の読み取りや地籍図(略)を駆使してとらえ、城の堀や土塁・石垣の配置については地表面観察によって理解し、曲輪内の空間構成や個々の建物、使用した武器や生活用品については発掘調査でつかむという、重層的な研究方法の総体が城郭考古学なのである」(p24)とも説明している。
 そして、歴史を考えるには「とりわけ考古学の資料操作方法や資料批判方法は、城跡を史料/資料化して歴史研究を行うのに必須の知識である。この点が十分理解されていないことも多いのではないか」(p27)と論じる。学融合的な領域での研究分野として、城郭考古学というネーミングはこの認識があるからなのだろう。

 城の総体をとらえていくと、「地域の歴史と文化を物語る」ことになっていくと説く。本書では城の実例を挙げて、城が地域の歴史と文化の中枢になっていく様相を解説している。城の縄張りや構造の理解及び城の軍事的特徴と戦略的な立地などは、城の一側面と位置づける。著者は城の外形や構造次元だけで城を論じることに対して批判的な立場をとる。著者は城の総体を捉えていくことで、城が地域の歴史・文化と一体になってきた様相を把握し深化させる必要性を強調していると受けとめた。城の機能である軍事的側面の研究は、著者によれば基礎研究であり、「それを学融合的に検討した諸分野の研究と合わせて、社会や政治を分析するその先の研究展開ができると思う」(p30)と述べる。そこに城郭考古学の意味があるとする。

 第一章の後半では、城の歴史と変遷について、「原始・古代の城館、中世前期の城館、室町・戦国期の城館、近世の城」という4期に区分で解説していく。
 その上で、分立的・並立的だった戦国期拠点城郭から近世城郭体制への転換が日本の社会や政治のあり方を根源的に変えて行ったと言う。「階層的・求心的な城郭構造の成立」(p40)とそれが一斉に全国の大名に共有されて行った事実に着目する。
 近世城郭体制は、信長・秀吉・家康に引き継がれた城の理念、有り様である。「織豊系城郭」という用語は見聞していた。だが、この学術用語としての概念が、1986年に著者により提唱されたものだということを、本書で初めて知った。
 著者は、城郭考古学の目的と役割を明示している。(p46)
「戦いに関わる要素を含め、城を史料/資料として、歴史と政治、社会を明らかにする」
「今に残る城を保存し具体的に整備・活用して、より文化的で豊かな未来社会を生み出す」
以下の章はこの主張点の展開と言える。

 「第二章 城の探検から歴史を読む」では、戦いという機能から城を論じて行く。この点では、一般的な城好きの着目箇所がまず解説される事になる。ただし、著者は「防御施設本来の機能の把握」を重視せよと説く。城の鑑賞術として、櫓、門、石垣、堀について解説をしていく。例えば姫路城の美しさは戦いを前提にした機能美にあると論じている。

 「第三章 城から考える天下統一の時代」では、「階層的・求心的な城郭構造の成立」が具体的に例証されていく。著者の主張が明確に論じられ読み応えのある章である。
 信長は天下布武へのプロセスで次々に城を移って行った。小牧山城-岐阜城-安土城への変遷の中で、軍事性を基盤にした城郭に、信長自身を頂点とした階層性と求心性を貫徹させ敷衍していく状況を明らかにしていく。それは、城内における信長と家臣の屋敷との隔絶性が深まっていくプロセスだったという。秀吉、家康はそのコンセプトを継承・強化して行った。その城郭体制が、全国の大名に共有されて行ったという。なるほど・・・と思う。
 近世城郭体制とそこに組み込まれる城下町が近世の社会のあり方を規定していく。
 著者は、政治拠点の城と軍事拠点の城の両者を合わせて分析すべきと論じている。p69
 3人の天下人が16世紀後半から17世紀初頭のわずか60年間の活動で、現在の城のイメージを定めてしまったのだ。 p71
 具体的な例証として、「城から見た○○」という形で、織田信長・明智光秀・松永久秀・豊臣秀吉・徳川家康、それぞれを論じて行く。わかりやすい解説になっている。
 政治拠点の城という視点でみれば、天主/天守、石垣、瓦・金箔瓦などは、階層性と求心性を意図した表象なのだと著者は説明している。
 勿論、城の構造的な側面についても解説している。例えば石垣について、熊本城の実例を引き、算木積みと重ね積みについても説明し、従来の解釈の間違いを指摘している。p148-152

 「第四章 比較城郭考古学でひもとく日本と世界の城」では、日本の城と世界の城とを比較し、世界的な視野で捉えてみるという試みを展開している。日本の近世城郭が持つ特徴に普遍性と特質の両面があることを、世界の城との実証的な比較研究から明らかにしていこうとする。巨視的に捉えると、国や地域を超えた共通性や法則性があり、城から歴史を考えることができるのではないかと著者は言う。私にとっては今まで考えたことのない視点であり、実におもしろい。
 「一般法則を念頭にした研究は、1980年代以降に歴史研究の一分野としてはじまった城郭研究に欠けた視点であった」(p248)と著者は振り返る。世界の城の中での日本の城の相対化を試みようとしている点、城郭研究に広がりと夢があると感じる。
 著者が関わってきた事例を取り上げて論じてられていて、その意図することが具体的にわかる。

 「第五章 考古学の現場から見る城の復元」は最終章である。城の軍事性は、「堀や塁線といった遮断装置と出入口をポイントにした城道設定のバランスによって生み出された。だから城郭の整備・復元では、正しくそれを復元する必要がある」(p269)ことを主張する。その観点から、城跡の整備において疑念の残る整備が行われている事例を挙げている。さらに城の立体復元において、城郭考古学の視角から見て、適正な実例と不適切な実例を挙げ、不適切な事例を批判している。それは現存する城跡の今後の整備について警鐘を発する意図であろう。さらに不適切な整備には改善を示唆しているものと受けとめた。また、著者は未来社会に向けて城跡の復元・整備を行う上で、バリアフリーの導入を前提とすることを世界的視野から提唱している。最後に、城郭考古学の視角から、現状放置されている問題事象を例示して警鐘を発してもいる。
 この最終章では、城跡の整備・復元の現状レベルを知ることにもなる。

 今まで、いくつもの城や城跡探訪をしてきたが、城郭について冒頭に記したように、一側面でしか眺めていなかったことに気づく契機となった。城・城跡を捉え直す為の啓発書と言える。城郭考古学へいざなう入門書として、城好きにはお薦めしたい。

 ご一読ありがとうございます。

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『波紋 警視庁失踪課・高城賢吾』  堂場瞬一  中公文庫

2023-02-10 15:30:02 | 堂場瞬一
 警視庁失踪課・高城賢吾シリーズの書き下ろし長編第6弾。2011年2月に文庫本が刊行されている。創作が13年も前だったことを奥書で再認識した。
 余談だが、GOOブログに「遊心逍遙記」と称して読後印象記を書き始めたのが2011年8月。この最初の月の下旬に『雪虫 刑事・鳴沢了』の読後印象を載せた。そこに、警察小説を読み始めたのは2009年からで、今野敏、大沢在昌に次いで三人目の作家作品の読み始めと記していた。シリーズ物を発表順に読む以外は、かなりランダムに読んでいて、この高城賢吾シリーズを読み始めるのが遅くなった。その結果が第6弾を今頃読み継ぐことになった。

 さて、前作『裂壊』により、失踪人捜査三方面分室室長の阿比留真弓の警察官人生と家庭崩壊の実態が明らかになるという事態に立ち至った。それが逆に、今後この失踪課三方面分室はどうなるのか、という新たな展開ステージに入る契機となる。愛読者としては興味津々での第6弾。

 やはり、状況が大きく変化し始めている。
 今まで、捜査一課への返り咲きを狙い、庁内外交を熱心に行いつつ、三方面分室の捜査実績を上げることに熱心だった阿比留真弓は、ほぼ昇進の道を絶たれた形になる。「最近、彼女の動きは止まっている。ほんの数か月前までは、日中は本庁で愛想を振りまき、勤務時間が終わってからは宴席を設けて部内接待をしながら情報収集をしていたのだが、今は一日の大部分を室長室に閉じ籠って書類仕事に費やし、定時にはさっさと帰ってしまう」(p8)。高城と阿比留の関係は悪化の一途をたどる状況にある。
 さらに、心臓の持病持ちだが高城を一番サポートしてきた法月大智が渋谷中央署警務課に異動したのだ。阿比留室長はその異動を阻止する行動を取らなかった。警察のアリバイづくりのセクション。厄介者が集められた窓際部署とみなされている三方面分室。その中で、高城が頼りとしてきた法月が異動させられた。今や戦力として一番頼りになるのは明神愛美で、それに次ぐのは醍醐塁くらいである。高城の悩みが始まる。
 読者にとっては、この先どうなるのか・・・・逆に関心が高まるという次第。

 さて、こんな状況の中で、法月が高城にある失踪事件の記録資料を渡す。高城が三方面分室に異動してくる以前の事件。それはケース102cと分類されるものだった。法月がずっと引っかかっていて自分で調べようと思って資料を持ち歩いていたものと言う。法月なりに調べた情報が加えられていた。
 緊急性のある事件のない状態で、高城は法月から受け取ったケースを読み始める。5年前に首都高で車5台が絡む多重衝突事故が発生した。その事故現場から一人の男が手当も受けずに立ち去ったのだ。事故処理が重視され立ち去った男のことは無視された。その後失踪の届出が所轄に出されていたが、ほとんど捜査らしきことはなされないままだった。
 失踪届が出されていたのは野崎健生。ロボット工学者で、民間企業「ビートテク」で介護用ロボットの研究開発に従事している人物だった。歩行アシストシステムの開発のリーダーだった研究者である。失踪届は野崎の妻、詩織。その届出には、会社の同僚新井啄郎が同行していたと記録にある。それは一日姿を消しただけの時点での捜索願だった。野崎健生には、当時3歳になる息子がいて、母親との4人暮らしであり、歩行アシストシステムの開発は、彼にとって、交通事故に遭い車椅子生活になった母親の為でもあった。そんな目標を持つ男がなぜ失踪したのか。
 
 5年前の失踪事件。もはや状況・情報が風化しているのでは? それをどのように捜査しようとするのか。読者にとっては、そこからまず関心が高まって行く。勿論、高城と愛美は、多重衝突事故現場の確認、家族への事情聴取、失踪人の元勤務先への聞き込みなど捜査の定石を踏んでいく。一つの問題は、阿比留と断絶状態になっている高城が分室長阿比留の承認なしに、この古い事件の捜査に取り組み始めることにある。読者にとてはおもしろい。
 
 このストーリーの興味深いところは、5年前の失踪時点でほぼ時間が止まった野崎の家族・家庭と「ビートテク」とのコントラストにある。主任研究員野崎健生の開発コンセプトと技術で基礎ができ始まった歩行アシストシステムの開発、WAシリーズはこの5年間の間に開発が進んでいて、他社との競争の中で、時間が着々と動いていた。WAシリーズは最新モデルがWA4と称され、5月の国際福祉機器フェアで発表予定になっている。
 ビートテクへの聞き込み捜査では、総務部長の日向が対応窓口になる。彼は5年前の野崎失踪時点のことは、担当前でありほとんど知らなかった。また、野崎のことは触れたがらなかった。だが、ビートテクの技術三課に属する研究主任の新井が高城に接触して来た。ビートテクの内情について、高城にとっては新井がまず情報源となっていく。

 ビートテクと野崎健生の関係、周辺情報を地道に捜査していくと、様々なことが見え始める。そんな矢先に、一つの転換点が発生する。ビートテクは最新モデルWA4の新製品発表会をあるホテルで単独で実施すると公表した。だが、その発表会会場に爆弾を仕掛けたという脅迫が会社に入る。この脅迫事件に捜査一課の長野が関わって行く。ここから、高城と長野の連携が始まる。
 5年前の失踪事件とこの脅迫事件は密接に関係があるのか・・・・。野崎健生の名前が浮上することで、俄然事件は戸惑いを含めながらの捜査活動に踏み込んでいく。脅迫事件の犯人捜査を推進する長野と失踪人の捜査を推進する高城という捜査次元の違いが織り込まれながら、事態がさらに深刻さを加えて行くことになる。

 このストーリーのおもしろいところがいくつかある。
 *捜査一課の長野と失踪課の高城の視点の差異が含まれつつ事件が進展すること。
  野崎を名乗る者は何を狙っているのか? 
  なぜ野崎は失踪し、今この時点でカミングアウトしてきたのか?
 *高城の捜査活動に対して、阿比留分室長はどのような反応をするのか?
 *高城は戦力ダウンした三方面分室の室員をこの捜査でうまくまとめて行けるか?
 *法月が今頃になって、この古い事件を高城に引き渡した狙いは何なのか?

 もう一つ、このストーリーには、エピソード風の記述の中に、新たな伏線が敷かれることである。それは、警務課に異動した法月の後任の件である。ストーリーが後半に入るあたりで、三方面分室に現れる。阿比留分室長に挨拶に来たのだ。庶務担当の小杉公子が、高城に「田口秀樹さん」と小声で告げる。その田口は、高城の「今日はどうしたんですか? 来月からですよね」という問いかけに対しての返答がふるっている。
 「いやあ、ちょっと暇だったもんで、少し敵情視察を、と思ってね。今、室長にご挨拶してきたんですよ」「案外忙しくしてるわけ?」「驚いたね。暇な部署だって聞いてきたんだけど」「こっちはぼちぼち先が見えてきてる立場だから。しばらくのんびりさせてもらおうと思ってたんだが・・・・」(p305-307)
 田口は高城頸部より年上だが、階級は下の警部補。これまでは本庁の交通部に所属していた人物。醍醐は田口が交通部ではサボりの田口として有英有名な人ということを、噂として聞いているという。
 厄介者が集められたと称される失踪課は、田口が異動してきたらどうなるのか?
 読者にとっては、三方面分室内の人間関係と仕事に異分子要素が加わることで、どういう様相が現れるのか、楽しみができそうである。田口には本音と建て前があるのか? そうしようもない厄介者なのか?
 次作以降の楽しみができた。

 ご一読ありがとうございます。

補遺 本書からの波紋で、現時点での介護用ロボット情報を少し検索してみた。
開発機器一覧  :「介護ロボットポータルサイト」
介護ロボットの開発・普及の促進   :「厚生労働省」
介護ロボット  :「かながわ福祉サービス振興会」
ロボットスーツ HALR介護支援用(腰タイプ)  YouTube
介護ロボットってどんなもの? 種類やメリット・デメリットについて:「ケア資格ナビ」
介護ロボットとは?導入のメリット・デメリットや種類についても解説:「フランスベッド」

インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)

こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『裂壊 警視庁失踪課・高城賢吾』  中公文庫
「遊心逍遙記」に掲載した<堂場瞬一>作品の読後印象記一覧 最終版
                 2022年12月現在 26冊
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『ものと人間の文化史 100 瓦』 森 郁夫 法政大学出版局 

2023-02-08 18:26:15 | 建物・建築
 昨年の春頃に通読し、そのままになっていた。寺社探訪が趣味の一つなのだが、様々な寺社を訪れてきて、興味をいだいたのが建物の屋根の瓦である。特に鬼瓦・鬼板が好き。そこから鯱、鴟尾を含め各種屋根瓦に興味をいだくようになった。図書館で「ものと人間の文化史」という叢書の中にこの一冊があることを知り、手許で利用したくて購入した本である。瓦好きには、基本書の一冊と言えると思う。
 本書は2001年6月に初版が刊行されている。手許の本は2012年6月の第4刷。「ものと人間の文化史」という百科叢書は、末尾の簡略な各書紹介によるとこの時点で158冊が出版されている。現時点でどれだけ増えているかは未確認。

 本書は、瓦研究の領域の成果を基にした多分研究概説書レベルの本だと思う。一般的教養書より深掘りされている。全体は、「Ⅰ 瓦の効用と歴史」「Ⅱ 古代の瓦」という2部構成になっている。瓦好きにとって、本書の有難いところは、写真と図が沢山掲載されていることである。
 第Ⅰ部は概論的な説明であり、瓦について理解を深める導入部として役立つ。Ⅰ部の「第一章 瓦の効用」では、各種屋根の紹介写真とともに、「屋根瓦の名称」(屋根の写真に詳細な名称付記)、各種瓦の実例写真、軒丸瓦と軒平瓦の詳細な部分名称記載図が掲載されている。「第二章 瓦の歴史」では、中国の瓦・朝鮮三国の瓦・日本の瓦について、写真を豊富に掲載して実例での解説が行われている。「はじめに」に「第二章では、中国大陸・朝鮮半島での瓦の概略と、わが国の古代から近世までの瓦のおおよその流れを述べた」と記されている。
 第Ⅱ部は、「第一章 瓦の生産」「第二章 瓦当文様の創作」「第三章 文字や絵のある瓦」「第四章 技術の伝播」という四章構成である。「平瓦桶巻作りの実験」工程写真、「高井田廃寺の丸・平瓦に見られる各種の叩き圧痕」の各種図、古代の軒瓦の文様の変遷が詳細な図を主体に実物瓦の写真などを載せて、解説されていく。
 ここも、著者の言を引用してご紹介しよう。「第一章では古代の瓦生産はどのようにして行われたかという点を、最近の発掘調査の成果を取り入れながら述べた。第二章では寺院や宮殿の軒先を飾る軒瓦に関するいくつかの問題点、その文様や瓦当范に関わる問題点について述べた。瓦に文字を記すことは古今を通じて行われていることである。古代の瓦に記されている内容は、関係史料の少ない古代の瓦生産を考える上で一等史料とも言えるものである。そこで第三章では文字瓦を通じてのいくつかの事柄を述べた。第四章では瓦を通じての代寺院の造営の背景、また瓦生産そのものの状況を述べた。ここでは複数の寺の間での同范品のあり方を中心として、どのような背景のもとにそのような状況が生まれたかという面を、なるべく多くの資料をもとに述べた」そして、末尾を「いずれにせよ、わが国の瓦は飛鳥時代の初期に生産が開始された。瓦が建物にとって、いかに重要なものであり続けたか、という点をくみ取っていただきたい」と締めくくっている。

 上記に出てくる「瓦当(がとう)」とは、丸瓦の先端部の文様部のこと。この瓦当に飾られた文様構成が、2000年以上に及ぶ瓦の変遷を知る重要な手がかりになっている。日本の古代瓦に多く見られるのは蓮華文様であり、その文様が時代に応じて変化していく。博物館の考古セクションでこの瓦当の発掘品で変遷年代順に展示されているのを見ることができる。現在、丸瓦の瓦当で一般的によく目にするのは三つ巴文様だと思う。
 瓦を大量生産する為に、この瓦当の文様を陰刻したいわばハンコに相当する「瓦当范」が作られていく。日本では当初木製で製作し、陶製瓦当范になっていったそうだ。発掘で出土しているものは陶製のものという。詳しい解説が興味深い。

 中国の西周晩期に、丸瓦に「瓦当」を持つ瓦が作られ、その文様には様々なものがあり、瓦当は変遷を遂げてきた。その写真も掲載されている。その文様の中に、例えば瓦当面を四等分してそれぞれの区画に蕨手文を配置したものもある。そして、こんな説明が加えられている。
「一般に蕨手文と呼んでいるものは、他の吉祥の文字や瑞鳥を飾ったりするものの存在からみて、むしろ瑞雲・雲気をあらわしたものと見るべきであろう」(p82)
 現在、石灯籠やブロンズ製灯籠の笠の部分を見ると「蕨手」が先端部に付いている。祭礼で見る神輿の屋根にも蕨手が付いている。この文様は「蕨手文」と称されるので、どこか通じる側面があるのかもしれない。猶、本書からははずれるが、調べてみると、古墳内部の装飾に蕨手文様を使っているものがあるそうだ。文様ひとつも一歩踏み込めば奥が深そうである。

 私の好きな鬼瓦についていえば、p35に平城宮の鬼瓦三枚と新羅の鬼瓦(雁鴨池出土)が載っていて興味深い。

 瓦について、基本的知識を得るとともに、古代の瓦について、一歩踏み込んで知識を広げる上で、有益な書である。

 ご一読ありがとうございます。

補遺
秦漢時代の彫刻瓦、先人が軒先に託したロマン  :「AFP BB NEWS」
日本の古瓦 :ウィキペディア
  :ウィキペディア 
瓦当 :「科普中国・科学百科」
令和時代の瓦屋根~最新情報~  :「テイガク」
蕨手文 :「金銀錯嵌珠龍文鉄鏡」
[神社建築]灯籠  :「玄松子」

インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。

(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)


「遊心逍遙記」に載せた次の本もお読みいただけるとうれしいです。
『瓦に生きる 鬼瓦師・小林平一の世界』 小林平一 駒澤琛道[聞き手] 春秋社

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『いろあわせ 摺師安次郎人情暦』 梶よう子 時代小説文庫(角川春樹事務所)

2023-02-06 16:26:36 | 梶よう子
 浮世絵の摺師安次郎を主人公にした江戸人情噺の短編連作集である。2010年8月に単行本が刊行された後、2013年6月に文庫化されている。

 主人公は、浮世絵版画の通いの摺師安次郎。神田明神下にある五郎蔵店棟割長屋の一つに住み、御台所町にある長五郎の摺り場に通う。女房のお初に先立たれ、子の信太を押上村にあるお初の実家に預けて、一人暮らしをしている。通称「おまんまの安」。摺師の腕は一流。版元からは安次郎ご指名での摺りの注文が摺長(長五郎)に寄せられる位である。脇役に安次郎を尊敬する直助が登場する。安次郎の兄弟弟子で、自ら「こまんまの直」と名乗っている。正義感が強いが、少しがさつでお調子者。また直吉は、明神下を取り仕切る岡っ引き仙吉の手下の真似事もしている。直吉は様々な問題を安次郎のところに持ってくる。時に、安次郎は直吉を介して、仙吉親分の力を借りるという関係を持つ。これがストーリーの展開にも関わってくる。

 冒頭に記したが、この小説は、安次郎を主人公にした連作短編集であり、5つの短編の連作として構成されている。タイトル「いろあわせ」は、摺師の仕事、いろあわせを意味しているのだろう。そして5つ話のタイトルには、摺師が摺りに使う技法の名称が使われている。各タイトルの裏ページには、その技法がどのようなものであるかが簡潔に説明されている。
 摺師安次郎が主人公なので、勿論、摺長の工房である摺り場の情景や摺り場に勤める職人のシステム・分業体制、浮世絵版画の摺りの工程など、更には浮世絵出版業界の舞台裏などが、話のなかに描き込まれることになる。そこから、読者は摺師、摺師の技法、浮世絵の業界などについて、知識を広げていけるという副産物を得られる。これが一つの特徴といえる。5つの江戸人情話を楽しみながら、浮世絵の世界に一歩踏み込めるという次第。浮世絵愛好者はこの小説を一層楽しめるかもしれない。

 以下、収録された5話について、簡単に読後印象を含めご紹介しよう。各話の中で、*をつけた箇所は、印象に残る文の引用である。

<第一話 かけあわせ>
 時代は、水野忠邦の奢侈禁止、質素・倹約の改革が行われている渦中。まず、読者への導入として、長五郎と彼の摺り場並びに、安次郎、直吉のプロフィールが描き出される。、直吉が仙吉親分から頼まれて、同心の息子の塾通いの同行をせざるをえないという話を摺り場で安次郎に遅れた言い訳として語る。そんな話を聞いた安次郎が、その夕に昌平橋を渡ろうとしたとき、偶然にも川中の杭にしがみつく武家の少年を助けることに・・・・。この林太郎の塾通いの件に安次郎が多少の関わりを持っていくという顛末譚。
 安次郎は林太郎を摺り場に連れて行く。林太郎に安次郎は摺ってみせる。

*かけ合わせ、というんですよ。
 林太郎さまも一色じゃねえんです。これからいろんな色を好きに重ねられるんですよ。 p82

<第二話 ぼかしずり>
 安次郎は『艶姿紅都娘八剣士』の錦絵版画を摺る。曲亭馬琴の戯作『南総里見八犬伝』をもじったアイデアの浮世絵。像主となった若い娘達を男装させた姿絵である。版元の有英堂が「金八両の番付当て」と貼り紙して、八剣士のいわば人気投票を企画した。安次郎がよく食事で立ち寄るお利久の店で、時折出会う桜庭という武士から、そのことに絡んで、八剣士のうち人気トップとなった絵の像主を教えてほしいと頼まれる羽目になる。桜庭の抱えていた切ない事情に安次郎が関わって行くことになるという顛末譚。
 こんな人気投票企画、水野忠邦が認めるか・・・・やはり横槍が入る。その入り方もおもしろい。

<第三話 まききら>
 日本橋の室町一丁目に店を構える紙問屋小原屋は摺長とは先々代からの付き合いがある。小原屋の長男・専太郎は10年ほど前に、手代を供にしての掛け取りの後、行方がしれなくなった。本所の仙台堀に小原屋の集金袋と印半纏が浮いているのが発見されたことで、専太郎は死んだとみなされた。その後は父・信左衛門に従い次男の芳吉が懸命に勤めてきた。信左衛門は芳吉に家督を継がせる腹づもりだった。そんな矢先に、専太郎が妻と娘を伴って小原屋に現れたのだ。小原屋ではまさに青天の霹靂。専太郎と芳吉、それぞれに事情をかかえていた。
 そんな状況下、有英堂からの依頼として安次郎に小原屋の摺物依頼が入る。信左衛門のお内儀の七回忌のための特別誂えの錦絵版画である。どの紙を使うかの話合のために安次郎は直吉とともに小原屋に赴く。その結果、専太郎とは顔なじみである安次郎は、兄弟の確執話に捲き込まれていく羽目に・・・・。
 一方、この第三話では、安次郎の生家のことが明らかになる。21年前に幼友達だった大橋新吾郎が安次郎の住まいを訪れるのだ。安次郎は元武士の子だった。

*余計な思いが邪魔して、伝えることをあきらめてしまう。自分の気持ちに真っ正直になれなくなる。  p201
*まききらは、砕いた雲母を散らす、雲母摺りのひとつです。・・・・膠の載ったところに雲母を散らす・・・・ですが、余計な雲母は払ってしまいます。膠に付く分だけで十分ですから。膠がぼてぼてでもいけねぇし、雲母が散りすぎても美しくねえんです。互いの加減ってのが大切なんですよ。いらねえものは落とす。だからきれいに仕上がるんでさ。   p217-218

<第四話 からずり>
 大晦日、早仕舞いした後で、安次郎は直吉と神田明神社の茅の輪くぐりに行く。境内で安次郎らは、お利久と偶然に出会う。お利久の手には茅の輪がふたつ握られていた。さらに、お利久の様子が普段とは違っていることに、安次郎と直吉はともに気づいた。これがきっかけとなる。普段お利久は店で自分のことは話さないし、客のことも深くは穿鑿しない。独り者と思っていたお利久に何かがあったのか。
 元旦を押上村のお初の実家で信太と過ごした安次郎は、二日に、摺り場で直吉からそっと知らされる。師走の半ば頃、ご赦免船が着き、その中にお利久さんと関わりのある男がいたということを仙吉親分から聞いたという。
 仕事を終えて、直吉とお利久の店に立ち寄ろうとする。お利久の店から短躯で眼つきの暗い男が出てきたのを見る。縦縞の羽織の下に十手が覗いてみえた。これがきっかけで、安次郎は一歩踏み込んで、お利久の現状に関わりを深めることに・・・・。そこから思わぬ事実が浮かび上がってくる。お利久の哀しみが余韻に残る。

*色目がないから、白というわけではないのですよ。白という色があるんです。ただそれは、見えていても、見えないように思えるのかもしれませんね。  p280

<第五話 あてなぼかし>
 五郎蔵店の住人中の古株、早起きのおたきさんが起きてこないことで、一騒動が起こる。安次郎は障子戸を叩く音で起こされて、おたきさんの住まいに駆け込むことになる。卒中かと心配したが高熱が出ていたことが原因だった。店子たちは一安心。一人暮らしのおたきさんの家族関係の背景をこの時安次郎は知る。一日仕事を休み、いつも世話になっているおたきさんの看護をすることに。おたきさんからは娘のお福の墓への代参を頼まれる。安次郎はお福には父無し児の太一という子がいるとおたきさんから聞いた。
 本堂裏の墓地に入ろうとしたとき、着流し姿の若い男とすれ違った。お福の墓には線香があがり、白く細い煙が風に揺れていた。直吉に手伝わせ、安次郎は太一探しを始める。 一方、大橋新吾郎の妹、友恵が安次郎を訪ねてきた。兄の承諾を得て来たという。友恵は、おたきさんの世話をすると自主的に動き出す。
 太一探しが思わぬ形で動き出す。その結果、安次郎は事態の解決のために一橋家に仕える大橋新吾郎にも協力してもらうまでに事態が転がっていく・・・・。
 安次郎は太一の捻れた心の根っ子にあるものを引き出すことに。

*いまの太一に会えば、おたきがさらに自分を責めるであろうことは眼に見えている。それでもずっと澱んだ思いを抱えていることはない。太一に会って、がっかりすれば、また違う思いも湧いてくる。それはおたきにも太一にも必要なことだ。抱えたままでは、腐っていくだけだ。p340

 さて、この五話を読み、この後、安次郎と大橋友恵との関係はなんらかの形で進展していくことになるのだろうか。安次郎と信太との父子関係はどうなるのか。直吉は、心中で意識している長五郎の娘おちかとの関係を深めることができるのか。ちょっと気になることがいろいろ・・・。
 調べて見ると、第二弾『父と子』が単行本として刊行され、既に文庫化されて、シリーズになっている。続きを読む楽しみができた。

 ご一読ありがとうございます。

補遺
浮世絵版画の作り方  :「名古屋刀剣ワールド」
浮世絵版画の作り方を解説!あの北斎の名作の原画が一枚も残ってない理由って?
                :「warakuweb」(日本文化の入口マガジン)
伝統技術を極めた職人によるすべて手作業の制作工程  :「アダチ版画」
「浮世絵ができるまで ~摺りの工程~」  YouTube
  Ukiyo-e from A to Z: The Printing Process of Japanese Woodblock Prints
江戸の鮮やかさ今に 東京職人「浮世絵」  YouTube

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その点、ご寛恕ください。)


こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『お茶壺道中』   角川書店
『空を駆ける』   集英社
拙ブログ「遊心逍遙記」に記した読後印象記
『広重ぶるう』 新潮社
『我、鉄路を拓かん』 PHP
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『Curious George Builds a Home』 Houghton Mifflin Company

2023-02-05 17:13:07 | 英語学習教材
 冒頭の表紙の下辺には、Curious about design と記されている。お猿のジョージ・シリーズ英語絵本電子書籍版である。これはジョージがホーム(栖)を作るために、そのデザインに関心を向けるというお話。
 Universal Studios が Houghton Mifflin Company のライセンスのもとで、2006年に本書の著作権を所有する。これは、Joe Fallon の脚本でテレビ番組として制作されたジョージの冒険シリーズの一作。後に、Monica Perez が絵本化したものと内表紙に記されている。

 この絵本、最初のイラストは、バルコニーでジョージがジュースを飲み、かつブドウを食べながら、紙に何かを描いているものである。そこでのジョージの紹介は、
George was a good little monkey who was good at many things.
He was especially good at being curious.
過去形の文で紹介されているのは、ジョージの話を過去のある時点のエピソードを語るというスタイルだからか。昔話と同じ扱いということになる。この文で、ああ、good at が使われていると気づき、「(・・・が)上手で、得意で、うまくて」の意味の時に at が使われることを思い出した次第。

 この日、ジョージは鳥に関心を抱いていた。それまでに沢山の pigeons(ハト)を見てきていたから。それまでのハトは、足首に札を付けてはいなかった。ところが、この日、ジョージの前に、ankle tag を付けたハトが現れた。ハトの方も、今までに多くの動物を見てきているけれど、写生帳に絵を描く動物を見たことがなかった。朝、互いに珍しさで相手を見続けるということから始まる。ジョージはこのハトを描く。
 ジョージは絵を友達の黄色帽子の男に見せると、絵をほめた後、ジョージに ankle tagの意味を説明する。ここで、homing pigeon という語が使われていた。絵から伝書鳩ということはすぐわかるけれど、この言葉を知らなかった。homing は辞書によれば「帰巣性を有する」という意味。homing pigeon = carrier pigeon とも説明されている。
 黄色帽子の友達は、ジョージに伝書鳩は特別な栖を持っていること、自分たちのアパートメントは鳥にとっては良い栖とは言えないことを語る。

 その話から、ジョージは
 George saw that what his pigeon needed most was a place to roost.
この一文で、roost という単語を学ぶことに。「とまり木に止まる。ねぐらにつく」という意である。A tree would be perfect. とジョージは思いつく。
 ここからジョージの活動が始まる。バルコニーにハトのとまる木、つまり、ハトの栖を作ろうと試行錯誤を始めるということに・・・・・。
 ジョージは、アパートメントにある様々なものを木を作るために使う。それで部屋の中をめちゃめちゃにひっくりかえすことに。多分、絵本を読む子供たちには、想像しながら先へと読み進めるのが楽しくなることだろう。

 この絵本の裏表紙には、この絵本から何を学ぶかが明記されている。次の3点だとか。 
*simple design concept *Building materials *Pigeon habits and habitats

 ジョージがハトの栖としての木をつくる試行錯誤と完成した木の姿がおもしろい。
 このプロセス描写の中に、記憶から思いだした表現・単語とこの絵本で初めて知った単語がある。
 George came up with a great way to get a tree up his apartment.
この文で come up with [(解答など)を見つける] を久しぶりに目にした。
 It took him a long time to build, but finally George revealed his masterpiece.
この文のreveal [見せる、示す] も久しぶりに見る単語だった。masterpiece [傑作、名作、代表作] をこんなストーリーの文脈でも使えることも知った。
 この絵本で初めて出会った言葉は、frayed brown rope というフレーズの最初の単語。「すり切れた」という意味だそうである。ジョージがこのロープをどのように使うかは、絵本を開けてご覧いただきたい。
 もう一つが、bark という単語。「吠える」という意味で憶えていたが、別に「樹皮」という意味があることを知った。

 さて、このストーリー、伝書鳩の持ち主がドアマンだったことがわかり、その人を連れて黄色帽子の友達が午後に戻って来る。伝書鳩は持ち主の許に戻される。黄色帽子の友達は、ジョージのためにバルコニーに置く鉢植えの木を買ってきた。その後に、このストーリーのオチがちゃんとついている。

 ちょっと長い目の文が含まれているものの、過去形の文に少し過去完了形の文が混じる位なので、比較的年齢が低い層が直接の読者対象かもしれない。

 このお話では、the balcony が使われている。そこでふと、思ったことがある。
 バルコニー、ベランダ、テラスという言葉があるけれど、どう違うのか、その使い分けはどこにあるのか? 西洋での使い方と日本での使い方は同一か、違いがあるのか?
 絵本からの関心の波紋として、普段深く考えずに使っている言葉について、おもしろい再認識課題も現れてくる。

 この絵本からやはり学ぶことがあった。英語絵本は大人にとってもおもしろい。

 ご一読ありがとうございます。

補遺 こんなサイトを見つけました。
Magic Seeds :「Curious George」
トップページでCurious George のイラストとともに3種類のゲームが楽しめる。
 勿論、子供たち向けで、英語でのナレーションで楽しむゲーム
 Harper Collins Publisher のウエブサイト 
Curious About Gerorge? For Parents and Teachers   :「Curious George」
GAMES :「PBS KIDS Curious George」(ABC mouse.com)
 こちらのサイトにも、子供向けのゲームページがあり、英語でのナレーションです。
George's Busy Day ::「PBS KIDS Curious George」(ABC mouse.com)
 こちらも同様です。
balcony  :「Cambridge Dictionary」
veranda  :「Cambridge Dictionary」
terrace  :「Cambridge Dictionary」
porch   :「Cambridge Dictionary」
balcony  :「LONGMAN」
veranda  :「LONGMAN」
terrace  :「LONGMAN」
porch   :「LONGMAN」

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その点、ご寛恕ください。)

こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『MARGRET & H.E.REY'S Curious Grorge Feeds the Animals』
               Houghton Mifflin Harcourt
『HAPPY HALLOWEEN’ Curious George』
               HOUGHTON MIFFLIN HARCOURT PUBLISHING COMPANY
『Curious You On your way!』 ILLUSTRATED BY H. A. REY 
               HOUGHTON MIFFLIN COMPANY
「遊心逍遙記」に掲載した英語絵本シリーズの読後印象記一覧 最終版
                     2022年12月現在 20冊
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