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イランのハメネイ師が語ったこと・アメリカ福音派・イスラエル

2019年06月16日 | 政治
イランのハメネイ師が語ったことは、日本の報道とは随分イメージが違う内容です。

「核兵器には反対する。そのような兵器を製造することは我々の宗教令がそれを禁じている」「しかし、一旦核兵器を製造するようになると米国はそれに反対しても何もできなくなる、そしてそれが禁止されても我々にとって障害にはならない」と述べてイランの断固たる姿勢を安倍首相の前に披露した。(参照:「El Pais」、「HispanTV」)

 一方、安倍首相は米国はイランの政治体制を変えようとする意向のないことをトランプ大統領のメッセージとしてハメネイ師に伝えた。しかし、同師はそのような米国の意向は「偽りだ」と指摘した。そして、「仮にそれをやったとしても、達成できないだろう。この40年米国政府はイスラム共和国を打倒しようと試みたが失敗に終わっている」と断言した。(参照:「HispanTV」)

といってハメネイ師の強気がそのまま本心とも言えないでしょう。しかし「製造しない。でも製造しようと思えばできる」と言ってるわけで、これは日本の報道とはかなり違ったイメージの発言です。

そもそもアメリカは何故前のめりになってイランと対立しているのか。それを私が語れるわけもないのですが、分かっているのは「イランとイスラエルが対立を深めている」ということ。そしてトランプ政権が「異常なほどにイスラエル寄り」だということです。

またイスラエルはかつてほど中東で孤立しているわけでもなく、アラブ諸国はイランの台頭を恐れてもいる。かつての孤立したユダヤ対全イスラムという構図はもはや通用しないとのことです。そもそもイランは特別な国です。シーア派であることに加え、言語もペルシャ語です。アラビア語ではないのです。かつては「大帝国」であったペルシャです。東アジアで言うなら中国。しかも石油も天然ガスも豊富です。かつての「大国」に戻る潜在力を十分に秘めた国です。したがってアラブ諸国からも警戒されています。特にサウジアラビアが警戒しており、そのサウジに大量の武器を売って儲けているのがアメリカです。

そもそもアメリカはイスラエル寄りの国ですが、トランプになって「異常にイスラエル寄り」になった理由は、一般には「アメリカ福音派」で説明されます。

この福音派というのが、どうにも分からないというか、今一歩分からない集団です。

以下高橋和夫氏のブログから引用します。

「キリスト教原理主義者と呼ばれる人々の存在である。しかも、そうした人々は熱烈にイスラエルを支持している。そのキリスト教原理主義者たちは、エルサレムをイスラエルの首都として承認するよう求めてきた。この人々は、キリスト教右派とか宗教保守派とか、あるいはクリスチャン・シオニストとか、さまざまな名称で言及される。
彼らはある意味、ユダヤ人以上にイスラエルを支持しており、占領地の入植をも認める。なぜなら特異な神学を信じているからだ。そこにあるのは、全パレスチナのユダヤ化がイエスの再臨の準備になるという世界観である。世論調査によれば、米国民の16%がこうした世界観を抱いている。実数にすると約5200万人である。そして、その8割以上が昨年の大統領選挙でトランプ氏に投票した。この層の支持がなければトランプ氏はホワイトハウスには入れなかっただろう。」

引用終わり。16%という数字がでましたが、25%という方もいます。ただ、特異な神学を本当に信じているのは16%なのかも知れません。世の終わり、最終戦争をむしろ待望している人々です。

さらに青木保憲氏によると

「米国の福音派はトランプ大統領に絶対的な支持を与えているわけではない。政治的関与に対して、幅広い意見を持つ福音派は、その定義すらつかみどころがない。自分たちの願うアクションを政策として掲げてくれるトランプ大統領を「熱烈に」支持する一部の福音派(宗教右派)もいれば、彼らのプレゼンにほだされて、トランプ支持に回る「浮遊層」も存在する。さらに、政治的な解決は自分たちの信じている聖書のやり方に反する、と主張する反トランプ派の福音派も存在する。」

そうです。

イエスの再臨、というのは最後の審判です。黙示録の世界です。キリストが復活してめでたしとかいう甘いものではありません。世の終わりです。そして信仰あつき者は天に行くか、神によって破壊され、再創造された世界に行くことになります。わたしなぞ絶対に行けません。信仰が薄いとかではなく、そもそもキリスト教徒ではないですから。

ここで不思議なのはイスラエルの建国が「イエス再臨」の前兆だという考え方です。クリスチャン・シオニストの立場ですね。

「この立場では、イスラエル(パレスチナ)を神がユダヤ人に与えた土地と認める。さらに、イスラエル国家の建設は聖書に預言された「イスラエルの回復」であるとし、ユダヤ人のイスラエルへの帰還を支援する。キリストの再臨と世界の終末が起こる前に、イスラエルの回復がなされている必要があると考え、イスラエルの建国と存続を支持する。」 Wikipedia

「シオニズムは、元来、ユダヤ人国家の建設を目指すユダヤ人たちの運動ですが、クリスチャンの中にも、イスラエル建国をメシア到来の重要なステップと見なし、イスラエルを特別視する人たちがいます。そうした人々のことを、クリスチャン・シオニストと言いますが、大半は米国在住の福音派クリスチャンたちです。福音派クリスチャンのすべてがクリスチャン・シオニストではありませんが、その核となっている宗教右派勢力の大部分は親イスラエル的傾向を持っています。
 これが宗教的な傾向性にとどまらず、アメリカの外交政策にまで影響を与えていると言われています。どの程度の影響力があるのかは定かではありませんが、少なくとも、その影響力はかなり大きいようです。」

「かなり大きい」どころかトランプ外交には決定的な影響力を持っています。トランプ自身は大統領になるまで福音派の存在にさほど興味はなかったようですが、今や岩盤支持層として彼らの意に沿う政策を推し進めています。

「イスラエルの回復の予言」はローマの信徒への手紙11章でなされているそうです。なるほど和訳を読むと、イエスを処刑したユダヤイスラエルが「それでもやがて救われる」とは書いてあります。
「こうして、イスラエル人は、すべて救われるであろう。」

しかし根拠はこの部分だけでなく、旧約聖書の言葉も多く根拠とされているようです。キリスト教は旧約聖書に対して排他的な立場はとらず、旧約も聖書であるという立場をとっていますが、旧約も含めて一字一句真実であるという立場だとすると、ちょっと想像を超えています。新約の4つの福音書ですら「互いに矛盾した記述」があるのです。旧約まで含めて新旧聖書を「統一的に理解すること」などまず無理というものです。

わたしは聖書に関しては「文献学的興味」を持っています。どの福音がいつ書かれ、どういう風に「対立関係にあるか」を文献学は明らかにします。4つの福音書すら立場が大きく違うのです。

もし本当に頑強なキリスト教原理主義者が16%、5000万人以上いるとするなら、われわれはアメリカについて「何も知らないに等しい」のかも知れません。