映像の流出問題

例の中国漁船の尖閣地域で、日本海保船に衝突した事件の映像が、海保職員がYOU TUBEという映像投稿サイトに流した事件に関連していろいろな議論がある。この議論にちょっとばかり私も関わってみたいという気になった。

問題点を上げると、公務員の守秘義務違反という（刑事）責任、これを許した行政的責任の問題、国民の知る権利と情報公開原則、そして流出したことによる損害とは何か、などであろか。これらに続いて個人情報が脅かされる危険性、ネット社会の恐ろしさ、なども関連して言われる。

かつて食品会社が隠していたことを社員が内部告発した勇気を社会はたたえ、この社員を罰しようとした会社を攻撃した。だから、はびこる不正を許さない正義の内部告発を促すという正当な意見が大きい。今回は、どうなのだろうか。アメリカなどでは戦争政策の裏工作を内部告発させることで軍部の危険な行動を阻止することができるという。

海保職員の流出は「正義のための内部告発」になるのか、国民の知る権利に応えることになるといえるのか、といえば、私は少なくとも国民の行政行為に対する知る権利に応える仕事に近いことだったと言えるのではないか、と思う。もし彼の行為が「犯罪」であれば、その犯罪行為のために入手した映像を何度も何度も放映したテレビ会社は、盗んだ商品を犯罪と知りながら十分に活用したということにならないのか。またこれによって事の重要な部分を知ることができた国民は、彼の犯罪行為のおかげで知る権利を手に入れたことになる。

政府も野党も、さかんに結果責任とか責任追及とかを叫ぶ。守秘義務に違反して国家的秘密をばらすことによって（例えばスパイ行為がこれに当たる）外国に利する行為をしたことの責任を追及するというのか、理解に苦しむ。自分たちが、あの衝突事件の事実を国民に隠しておきながら、野党でいえば国民の知る権利を満足させることができなかった弱さをそのままにして、誰にどういう責任追及をしたいというのか。

戦前の戦争政策遂行は、どれだけ「守秘義務」の言葉のもとで進められたのか、今の映像流出問題と関連させてみたい。とはいうものの、日本の外交にマイナスになったという面もあったといわれるとそうかな、とも思う。これはしかし政府の姿勢があいまいだったことと関係があるだろう。

個人情報も、きわめて軽く流出する危険性が、今のネット社会にはある。
今回の流出事件は、多面的な問題点をあぶり出しつつある。