片側一車線であまり広くはないけれど、そこそこの交通量があるいわゆる生活道路。毎日のように通る道だ。
車一台がギリギリ通れるほどの狭い脇道があって、普段は気にもせず通り過ぎるその少し奥に、小さなお婆さんがうずくまるように座っていた。
脇道に入る角には、緑色のフェンスで囲まれた駐車場があり見通しがよく、車で通り過ぎるだけの私にもお婆さんの姿はすぐにわかった。
田舎なので時々、道路の脇などで座って休むお年寄りなどもいるけれど、なにか様相が違う。あんなに細くて歩道もないところに…?
私は、角の駐車場に車を止めさせてもらい、お婆さんの元へ駆け寄った。(休んでるだけなら挨拶でもして帰ればいい) そう自分にいい聞かせて。
「こんにちは。おばあちゃん、大丈夫ですか?」
「…」
返事がない。
「どうしました?大丈夫ですか?」
もう一度声をかけると
「あー、あー」「うー、うー」
と、言葉にならないような声を発するばかり。
意識ははっきりしているけれど、様子は明らかにおかしい。
「どちらから来ました?」
無駄だと思いながら、もう一度声をかけると
「あー、あー」
といいながら倒れるように私にもたれかかってきた。
強い日差しのおかげで、アスファルトも焼けるように暑い。
私は、背中側からお婆さんを支えるように座り…さて、どうしょうか?と。
鞄もスマホも車におきっぱなしで来てしまっていた!!
お婆さんは、どっぷり私に寄りかかっているので動くわけにもいかない。
車はひっきりなしに通っているのに…。
絶対ドライバーの視線に入っているのに…。
(スマホだけは持ってくるべきだったなぁ、動けないし助けも呼べやしないじゃん…)
自分の愚かさを悔やみつつ、すがるように道路を見つめていると、通り過ぎた一台の車が少し先で止まった。
(あぁ、やっぱり親切な人っているもんだなぁ!!)
「どうしました?大丈夫ですか?」
中年の女性が声をかけてくれ、車を路肩に止めたご主人も後を追ってすぐに駆けつけてくれた。
「痴呆のおばあちゃんみたいで、動けないんです。救急車を…、あれ?警察の方がいいのかな?スイマセン、電話も車に置いてきちゃったんで…」
その間もお婆さんは
「あー、うー」
と言いながら体をよじる。しっかり捕まえておかないと私ごと倒れてしまいそうな力。
「おばあちゃん、動くと危ないよ。寄りかかってて下さいね」
理解できてるのかもわからないけれど声をかける。
すると、背の高いご主人が思い出したかのように
「そこのケアセンターからきたのかも…」
と、生活道路の反対側を指さし
「ちょっと聞いてくるから待ってて。」
と、小走りで道路を渡っていった。
2~30M先にケアセンターらしき薄いベージュの建物がある。
「こんなに車が走ってるところを渡って来れたのかしら?」
奥さんも私と同じ事を思っていたらしい。
「…ですね。私が見つけたときはもう、うずくまってたんでわかりませんが。あそこが違ったらやはり警察を呼んだほうがよさそうですよね」
そんな会話をしていると、ご主人を先頭にケアセンターの職員らしき女性が二人、一人は車イスを押しながらこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「やはり、そこのお婆さんだったみたいです」
先に戻ったご主人の声を遮るように
「○○さん、何してるのっ!?ダメでしょ。」
年長の女性が大きな声でお婆さんに声をかけ、こちらに向き直ると
「スイマセン。知らない間に抜け出しちゃったみたいで…」
と。
「はぁ。」
(いやいや…知らない間にって。)
曖昧に返事をしている私に、車イスを押してきた若い女性が
「もう大丈夫ですから」
と苦笑いを向けながら、支えていた私を押し退けるようにお婆さんを後ろから抱え、年長の女性と二人がかりで車イスに乗せた。
「○○さん、ダメでしょ。帰ろうね。」
年長の女性の威圧的な声が、暑さを増長させる。
二人は、ふーっ、と小さな溜め息をはくと
「ありがとうございました」
打ってかわって、まるで文字で書いたかのように温度の感じられない言葉を告げ、そそくさと車イスを押し始めた。
そのあまりの早さとそっけなさに、私たち三人は呆然と車イスを見送った。
「あー、あー」
お婆さんは力なく何か話していた。
言い知れない脱力感だけが残る午後。車は何台も何台も通り過ぎていった。
「ちょっと間違ったら、死んでいたかも…」
つぶやくように言ったご主人の言葉が、胸の奥でこだました。
夏のように暑い日。
車一台がギリギリ通れるほどの狭い脇道があって、普段は気にもせず通り過ぎるその少し奥に、小さなお婆さんがうずくまるように座っていた。
脇道に入る角には、緑色のフェンスで囲まれた駐車場があり見通しがよく、車で通り過ぎるだけの私にもお婆さんの姿はすぐにわかった。
田舎なので時々、道路の脇などで座って休むお年寄りなどもいるけれど、なにか様相が違う。あんなに細くて歩道もないところに…?
私は、角の駐車場に車を止めさせてもらい、お婆さんの元へ駆け寄った。(休んでるだけなら挨拶でもして帰ればいい) そう自分にいい聞かせて。
「こんにちは。おばあちゃん、大丈夫ですか?」
「…」
返事がない。
「どうしました?大丈夫ですか?」
もう一度声をかけると
「あー、あー」「うー、うー」
と、言葉にならないような声を発するばかり。
意識ははっきりしているけれど、様子は明らかにおかしい。
「どちらから来ました?」
無駄だと思いながら、もう一度声をかけると
「あー、あー」
といいながら倒れるように私にもたれかかってきた。
強い日差しのおかげで、アスファルトも焼けるように暑い。
私は、背中側からお婆さんを支えるように座り…さて、どうしょうか?と。
鞄もスマホも車におきっぱなしで来てしまっていた!!
お婆さんは、どっぷり私に寄りかかっているので動くわけにもいかない。
車はひっきりなしに通っているのに…。
絶対ドライバーの視線に入っているのに…。
(スマホだけは持ってくるべきだったなぁ、動けないし助けも呼べやしないじゃん…)
自分の愚かさを悔やみつつ、すがるように道路を見つめていると、通り過ぎた一台の車が少し先で止まった。
(あぁ、やっぱり親切な人っているもんだなぁ!!)
「どうしました?大丈夫ですか?」
中年の女性が声をかけてくれ、車を路肩に止めたご主人も後を追ってすぐに駆けつけてくれた。
「痴呆のおばあちゃんみたいで、動けないんです。救急車を…、あれ?警察の方がいいのかな?スイマセン、電話も車に置いてきちゃったんで…」
その間もお婆さんは
「あー、うー」
と言いながら体をよじる。しっかり捕まえておかないと私ごと倒れてしまいそうな力。
「おばあちゃん、動くと危ないよ。寄りかかってて下さいね」
理解できてるのかもわからないけれど声をかける。
すると、背の高いご主人が思い出したかのように
「そこのケアセンターからきたのかも…」
と、生活道路の反対側を指さし
「ちょっと聞いてくるから待ってて。」
と、小走りで道路を渡っていった。
2~30M先にケアセンターらしき薄いベージュの建物がある。
「こんなに車が走ってるところを渡って来れたのかしら?」
奥さんも私と同じ事を思っていたらしい。
「…ですね。私が見つけたときはもう、うずくまってたんでわかりませんが。あそこが違ったらやはり警察を呼んだほうがよさそうですよね」
そんな会話をしていると、ご主人を先頭にケアセンターの職員らしき女性が二人、一人は車イスを押しながらこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「やはり、そこのお婆さんだったみたいです」
先に戻ったご主人の声を遮るように
「○○さん、何してるのっ!?ダメでしょ。」
年長の女性が大きな声でお婆さんに声をかけ、こちらに向き直ると
「スイマセン。知らない間に抜け出しちゃったみたいで…」
と。
「はぁ。」
(いやいや…知らない間にって。)
曖昧に返事をしている私に、車イスを押してきた若い女性が
「もう大丈夫ですから」
と苦笑いを向けながら、支えていた私を押し退けるようにお婆さんを後ろから抱え、年長の女性と二人がかりで車イスに乗せた。
「○○さん、ダメでしょ。帰ろうね。」
年長の女性の威圧的な声が、暑さを増長させる。
二人は、ふーっ、と小さな溜め息をはくと
「ありがとうございました」
打ってかわって、まるで文字で書いたかのように温度の感じられない言葉を告げ、そそくさと車イスを押し始めた。
そのあまりの早さとそっけなさに、私たち三人は呆然と車イスを見送った。
「あー、あー」
お婆さんは力なく何か話していた。
言い知れない脱力感だけが残る午後。車は何台も何台も通り過ぎていった。
「ちょっと間違ったら、死んでいたかも…」
つぶやくように言ったご主人の言葉が、胸の奥でこだました。
夏のように暑い日。