kazさんの日々彩々2

どうして花は咲くのだろう?どうして小鳥はさえずるの?
やさしい想いや言葉にふれて、どうして人は泣くのかな?

サザンカ

2006年12月06日 | 「秋」の彩り
今年も咲いた、真っ白なサザンカの花。



この花が咲くたびに、思い出される顔がある。
もう20年も前。
デザイン修行時代にお世話になった、童顔で坊主頭のNさんの、
にっこり笑ったその顔だ。
顔だけではなく、どこか少年のようなハートを持った方で、
そのためか、皆にとても愛されていた。

僕がデザイン会社に入社して、わずか2週間目に「やめたい」と
社長に言い出したのを聞きつけて「コーヒー飲みに行こ!」と
笑って誘ってくれたのも、社長の友人のこのNさんだった。

入った喫茶店で、僕はてっきり「やめるな!頑張ろう!」と言われるのかと思っていたが、Nさんは、その時そんな事は一言も言わなかった。
買ってきたばかりだというイラストレーター達の絵を集めた画集を開いて見せ、
「わあ!この絵、面白いね~~!ほらほら!」
「う~ん、こういうのは嫌いだな~、どう思う?」などと笑って言うばかり。
つられて一緒に楽しく話してるうちに、「やめたい」という気持ちが
いつの間にか「やめたくない」という気持ちに変わってしまっていた。
そしてその後3年間、自分がミスやドジを踏んで落ち込む度に、
Nさんは、にこやかに笑って「コーヒー飲みに行こ!」と誘ってくれたのだ。

そのNさんが、ある日「サザンカの木、持っている家知らないかな~?」と聞いてきた。
「サザンカなら祖母の家の庭に何本か有りますよ。けど、どうして?」と訪ねると、なんだかとっても恥ずかしそうに坊主頭をかきながら、
「実は結婚してね。庭付きの家も見つけたんだけど、
その庭にどうしてもサザンカの木を植えたいんだ」と言った。

おつき合いしている方がいるのは知っていたが、
結婚したという話は全く知らなかった。
両家の親族以外には誰にも知らせず、式や披露宴なども一切無しの、
籍を入れただけの結婚だったようで、それもまた
「Nさんらしいな」と僕は思った。

祖母に早速この件を話したら、「そんなことなら・・・」と
承諾してくれたので、翌日その事をNさんに知らせた。
Nさんはビックリしたような顔を見せ、そしてそのあと
クシャクシャの笑顔になって喜んだ。

日曜日、トラックに乗ってNさんご夫婦がやって来た。
サザンカは結婚祝いとして差し上げると言っていたのに、
わざわざ祖母のために、菓子折りを差し出して、
頭をかきかき恥ずかしそうに手渡した。

2メートルほどの高さのサザンカは、僕とNさんとで慎重に掘り上げられた。
トラックの荷台へと積まれたそれを見て、Nさんは急に申し訳ないような、
そして気恥ずかしいような気がしてきたようで、もう一度丁寧に祖母に礼を言うと、まるで“いたずらっ子が”他人の庭先の柿の実をもぎ取って逃げ出すみたいに、いそいそと、それでもにこにこ嬉しそうに笑いながら、トラックに乗り込み帰って行った。

それからしばらくして、僕は事情が有って3年間いたその会社を辞め、
Nさんと会うことも、その後次第に無くなった・・・。

Nさんも、今ではもう、いいお歳になってるはずだ。
知人に尋ね、手がかりを探っていけば、
今どこで何をされているのか知る事は簡単だろうが、
なんだかそんな事はしたくない。

毎年、祖母の家の庭に咲くサザンカの花を眺めては
「Nさんはお元気だろうか?」
「サザンカの花は今年も庭に咲いただろうか?」と、思いを馳せる。

それでいいと思うのだ。

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